DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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まさかここまで更新が遅れるとは当時の自分も考えてなかったですぜ(白目)。

そういうわけで約六ヶ月ぶりの更新です。エターなってなんか無いですよ!! ただ動画上げてたりポケモンしてたりで忙しかっただけで!! すいません許してください頑張りますから!!
しかし、初期の頃はアプモンがあそこまで凄まじい能力を持った存在になるなんて考えて無かったですね。地球規模での精密駆除とはたまげたなぁ……グローバルの力ってすげー!! アプモンもいずれ二次小説が書かれると考えると胸が熱くなりますが、デジモンよりも絶対世界観を描くのが難しいでしょうなぁ……。

では、久々のデジスト……お楽しみください。


七月十四日――『忌むべき芽の在り処は』

 表向きには防犯オリエンテーションが()()()終了したとされ、それぞれの学校に通う生徒達が各々自由に活動する中、縁芽好夢は家にも帰らず制服姿のまま街の中を徘徊していた。

 その表情からは喜びの感情が薄く浮き出ていて、第三者が顔を覗き見たら『イケメンのお金持ちからお茶会のお誘いでも受けたの?』だとか質問されてしまいそうである。

 つい数時間前、彼女は行事の関係で街の中を歩いている最中に遭遇したイカと人間を掛け合わせたかのような姿をしていた怪人と、人間の体に鳥類の要素を組み込んだ上で江戸時代の侍を想わせる衣装を着せたような姿をした怪人――それ等の非現実的な体を有した存在を目の当たりにしていた。

 街中を徘徊していれば何処かで話題に上がっていてもおかしく無いにも関わらず、実際には殆どの人物がその存在さえ認識していない存在。

 兄である縁芽苦郎が人知れず直面しているのかもしれない、そんな非現実との対面。

 正直に言って、縁芽好夢は刺激を求めていた。

 常識に縛られ、進んでいる道が正解か失敗かも判断出来ず、行き止まりに直面してしまっていた自分に新たな道を示してくれる、一種の光明とさえ言える刺激を。

 そういった意味では、例えあの場で鳥人の侍が文字通りの助太刀に来てくれなかったとしても、もしかしたらその後には喜びを感じてしまっていたかもしれない。

 そんな事を考えている自分自身が嫌になるが、もしもこのまま『進む』事も出来ないまま立ち往生し、何も出来ないまま安全圏でのびのびとしていたら。

 手を伸ばしても届かない場所に、数学的な距離など関係の無い『遠い』場所へと進んでしまう。

 その隣に立って、力になってあげたい――そんな願望を抱いているが故に、自らの現在の立ち位置に納得が出来ず、どうしても諦めきれなかった。

 

(……背中を追い駆けるための道順はわかった。後は、あたし自身が何かの切っ掛けで『覚醒』出来るように頑張ればいいだけ……)

 

 姿自体異質なものだったが、あの怪人達は人間の言葉で話す事ができ、実際に会話も出来ていた。

 自分を助けてくれたと思われる鳥人の侍の持ち物には、刀の他に市販の物と思われるカバンもあった。

 であれば、あのカバンも含めて非現実の産物で無い限り、あの怪人達は元々『普通の人間』だったと考えてもおかしくは無い。

 そして、件のイカ人間の言う事から推理しても、自分には『非現実の力』を得る資格がある。

 後は、それに『覚醒』するため何をするべきか。

 

(……あの変体イカ人間みたいな悪者もいれば、一方で鳥人間侍みたいに影ながら頑張るヒーローみたいな怪人だっている。もし苦郎にぃや雑賀も『力』を持っているのなら、間違い無く後者だとは思うんだけど……出会ったとしても誤魔化されるだろうし、やっぱりここは手当たり次第に『当たって』みるのが一番かな。悪い奴と対峙出来れば一発で『変身』出来るようになると思う。というか、思いたいんだけど……)

 

 つまるところ、危険を自ら冒しに向かう自傷行為。

 普段ならばまず通らないであろう道を選んでいるのも、その一環に過ぎない。

 故に、善人だろうが悪人だろうが、最低限『力』を行使出来るような人物と鉢合わせに出来れば良いと、縁芽好夢は不謹慎だと思いながらも考えていた。

 

 耳の中に、雑音混じりの絶叫のようなものが入り込んでくるまでは。

 思わず身をすくめると、頭の中が急速に冷静になっていく。

 自分がどれだけ都合の良い光明に頭を沸騰させていたのかを自覚する。

 

「……今のは、何……」

 

 音が何処から聞こえたものなのか、方向はすぐにわかった。

 音の発生源へ向かえば彼女の求める『何か』がある。そんな予感がする。行けば解る。行くための道がある。

 そんな、求めている要素を感じられる切っ掛けを認識出来たにも関わらず、好夢の心には少し前までの高揚感などは一切無く。

 心臓の鼓動が高鳴る一方で、得体の知れない緊張感と恐怖心が感情の大半を占めていた。

 

「…………」

 

 恐怖に従い、音のした方から離れる事こそが理性的な行動である事はわかっていた。

 だが、一方で。

 ここで逃げてしまうようならば、これから先このような機会に出くわす――いや、恵まれたとしても何の進展も有りはしないだろう。

 好夢からすれば、その結果に対する恐怖は未知の物と比べても強い。

 少なくとも、今は。

 

 故に、彼女は恐怖を押し殺して未知へと足を踏み入れる。

 感覚を頼りに人通りの少ない路地を進み、抜けた先で彼女が見たのは――

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

「……ぅ……」

 

 司弩蒼矢は口の中で小さく呻き声を発した。

 自分が何か硬く冷たいものの上でうつ伏せになって倒れている状態なのは理解出来たのだが、一方で前後の記憶が曖昧で、何故自分が倒れているのか、気絶してしまっているのか、そもそもここは何処なのか――そういった当然の疑問に対しての答えを得る事は出来ていない。

 朦朧とした意識の中、何処かから誰かの声が聞こえてきた。

 

「――終わってみればあっさりしてんなぁ。こんなクソ真面目そうなヤツが役に立つもんかねぇ?」

「――知らねぇよ。命令なんだから仕方無いだろ? 安易に断っても損するだけだぞ……っと」

 

 顔を見たわけでは無いが、声だけでも伝わる粗暴な印象には危険性を感じずにはいられない。

 何より、自分をこの状況に陥らせたのが声の張本人であるならば、まず間違い無く善人であるはずが無い。

 不幸中の幸いとでも言うべきか、危機感から思考能力が徐々に戻ってくる。

 

(……意識が、無い内に殺そうとしなかった、という事は……狙いは、僕自身……?)

 

 真っ先にそんな疑問を浮かべられたのは、気を失う直前に彼自身が自らに宿る怪物の事を考えていたからだろう。

 だが、その疑問から派生する形でもう一つ、忘れてはならない優先すべき疑問が浮上する。

 そう、

 

(……待て。それなら、あの子は……磯月波音さんは……!?)

 

 疑問から焦りが生まれ、薄かった呼吸が荒くなる。

 冷静に物事を見渡そうとする余裕など、一瞬で失われる。

 思わず腕に力を加えて起き上がろうとしたが、

 

「おっと」

「ぐっ!!」

 

 直後、背中に靴底を押し付けられ、地べたに縫い付けられてしまう。

 迂闊な行動だったと、後になって思い知らされた。

 呻き声を発する間も無いまま顔を上げさせられ、視界は地から正面の方へと向かされる。

 恐らくは声を出し、尚且つ蒼矢をこの場に引き摺り込んだ張本人であろう人物の姿が、瞳に映し出される。

 服装こそ黒と白の縞模様なポロシャツと灰色のズボン――と、一見すると普通な容姿をしているが、剥き出しの気配は対照的に異質なものとして認識された。

 つまり、

 

(……この男も、僕と同じような『力』を持っているのか……?)

「ようやくのお目覚めか。はじめまして……と言った方が良いんかね」

「……何者なんだ、お前達は……」

 

 簡単には答えてもらえないだろうと思いながら、それでも問いは出してみた。

 すると、意外な事に軽い調子で回答があった。

 

「ん……まぁ、アレだ。大体想像は出来てるんじゃないか? とある組織の構成員。んで、何か凄い力を持ってるらしいお前の事をボスが欲しがってて、まぁ仕事の流れでちょっと拉致らせてもらったってわけ。状況を少し理解したか?」

「……随分あっさり語るんだな」

「時間はあんまり取りたくないんでね。別の『組織』に先手を打たれる前にって話もあったし」

 

 組織という言葉に、蒼矢は警戒心を強めていた。

 背中に押し付けられる靴底の重さが、増した気がした。

 フレースヴェルグと名乗っていた男との会話を、ふと思い返す。

 

『……家族は、母さんや父さん、弟はどうなるんだ』

『それについては何とも言えんな。俺やお前と『同じ力』を持った奴等が何かをしでかして、ぽっくり死んじまう可能性もあれば、何事も無い状態に出来る可能性もある』

 

 家族の死。

 その言葉をなぞっただけでも、背筋に冷たい物が奔った。

 そんな蒼矢の心境などいざ知らずか、あるいは知った上でなのか、男はいきなり本題を切り出してくる。

 

「で、とりあえずだが……お前さんは『組織』に入るつもり、あるか?」

「…………」

 

 意思を汲み取らず強制するようなものではなく、意思を確かめる質問の形の言葉ではあったが、感じられる物は悪意以外に無かった。

 まず、間違い無く目前の男の背後にある『組織』は白では無いだろう。

 仮に『誰かの安全を守る』事を前提に据えた活動をするホワイトな枠組みであれば、まずこのような方法で目的の人物と接触を図ろうとはしないだろう、と蒼矢は思う。

 つまるところ、目的のために手段を選ばない類。

 返答次第では蒼矢と関係のある人物を人質に取る事も辞さないであろう事は、容易に想像出来る。

 

 質問にした理由も単純だろう。

 目の前の男、あるいはその背後にある『組織』は、蒼矢に自らの意思で『組織』に従う事を選ばせようとしているのだ。

 

「悩むのは事由だが、あんまり時間は掛けるなよ。仕事が滞るのは勘弁願いたいんだ」

「……答える前に、こちらからも質問をしていいかな……」

「?」

 

 恐らく、この状況で問う事が出来るのは一つだけだと思いながら、蒼矢は問いを出した。

 

「僕と一緒に居た、あの女の子はどうしたんだ……?」

「あぁ、その事か」

 

 さして気にしていなかったかのような、本当に適当な調子で相槌が打たれる。

 恐らく、無事に済ませてもらってはいないだろうと蒼矢は予想していた。

 

「おい、こっちに」

 

 男は視界の外に居るのであろう別の人物に対して声を掛けていた。

 やはり、事態に巻き込む形でこの場に磯月波音も連れ去って来たのだろう。

 場合によっては、家族以外の人質要員として利用される可能性も十分に考えられる。

 強引な伏せの状態に辛さを感じながらも、何とか首を動かし、男が声を掛けた人物の方へと振り向く。

 

 そこには、磯月波音がいた。

 目立った外傷などは見当たらず、まだ幸いにも乱暴な行為はされていないであろう事を理解した蒼矢は少しだけ安堵したが、

 

「…………」

 

 何か、猛烈な違和感があった。

 明るさというものを感じない表情に関してもそうだが、全体的な雰囲気が病院で会った優しい少女とは掛け離れているような気がする。

 姿勢を低くして蒼矢に要件を投げ掛けていた男は、ゆっくりと立ち位置を波音と入れ替える。

 会話の猶予を与えてくれた――そう認識した蒼矢は、疑念を浮かべながらも顔を上げて波音に声を掛ける。

 

「大丈夫? 乱暴な目に遭ったりしてない?」

「……この状況で、こちらの心配をしてくれてるんですね……」

「心配ぐらい……するに決まってるじゃないか。ほんの少しだろうと関わりがあるんだから」

「……そうですか」

「……ごめん。こんな事に巻き込んでしまって……」

 

 ただ、聞きたい事を聞いて、言いたい事だけを言う。

 ひょっとしなくとも、もっと掛けてあげるべき言葉はあったのではないかと思ったが、状況から考えてもこれが今の蒼矢にとっては限界だった。

 

「……蒼矢さんが謝るようなことじゃないですよ」

 

 波音は、首を横に振りながら平坦な声で返していた。

 気遣うようなその言葉を、蒼矢は否定しようとした。

 だが、その前にこんな言葉があった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 本当に、一瞬。

 自分が何を言われたのか、蒼矢は理解出来なかった。

 いいや、正確には信じられなかった――信じる事を拒んでしまっていた。

 視界がぐらつき、胸の中央に風穴でも空けられたような錯覚に陥る。

 そんな蒼矢の様子を気に留めてすらいないのか、少女は坦々と言葉を紡ぐ。

 

「ここまで簡単に誘導されてくれるとは思ってませんでしたよ。正直、最初に病院で会った時点で疑いを持たれて、そこで寸止めになるとも思ってたんですが……」

「…………」

「何と言っても病院ですからね。無許可で突然いなくなったりなんてしたら、間違い無く騒ぎになります。騒ぎになったら、別の『組織』……そうでなくとも物好きな人が出て来て邪魔してくる可能性も考えなければなりません。だから」

「……やめ、ろ……」

「何とかお医者さんの許可を得て、病院側にも『認知された上で』外出させる必要があったんです。後は、道案内をする流れの中で色々遣り繰りして、この通り。流れは飲み込めましたか?」

「もうやめろ!!」

 

 これ以上は聞きたくない。

 それ以上の言葉を紡いでほしくない。

 答えはもう解ってしまった。自分で考える間も無く。

 それでも、蒼矢は張り上げた声で反論する。

 

「君は……こんな事に加担するような人だったのか? いいや、そんなはずは無い。そんな事をする人間だとは思えない!! だって、だって……っ!!」

「そんなはずが無い、ですか……大して覚えてもいない相手なのに、不思議な事を言うんですね。わたしが、どういう人なのかも知らないのに」

「それは……」

 

 言われて、蒼矢自身も今になって気付かされた。

 自分自身、この磯月波音という人物の事を何も知らないという事を。

 最初に自分の事を覚えているかどうかを問われた事も、自身の視点から語った思い出も。

 全ては偽り。ほんの僅かでも親しみを得て、この状況に誘導するための疑似餌に過ぎなかった……っ!?

 

 そして、決定的な情報が蒼矢の視界に飛び込んで来る。

 裏切り者の少女は、懐から何か黒くて硬そうな物を取り出したのだ。

 テレビのリモコンのように平たく長い四角の先端に、数ミリ程度の短い電極がはみ出している『それ』の事を、世間では何と呼ばれていたか。

 

「これ、何なのか解りますよね?」

「……スタン、ガン……」

 

 様々な形で設計され、電極部を対象に押し当て電流を流す護身用の武器。

 少なくとも日常的に見られるような物ではなく、青少年による購入自体が基本的には制限されている代物なはずだが、やはり少し前まで蒼矢に声を掛けていた男の属する組織は法律も道徳もお構い無しなのだろう。

 もう、嫌でも事の成り行きに気付く事が気付く他になかった。

 気絶する前、蒼矢の意識を狩り取ったのは波音が持っているスタンガンで。

 そして、背後から突如として感じられた気配の発生源であり、振り向く暇さえ与えずに蒼矢の首筋を狙う事が出来た人物として挙げられるのは……

 

「……本当に、君なのか……」

「だから、言ったじゃないですか」

 

 そして、少女は笑顔を浮かべ、会話の最後をこう締めくくった。

 

「これがわたしの役目でしたから、と。信じていてくれて、本当にありがとうございました」

 

 善意を向けられる資格自体、とっくに失われていると思っていた。

 だから、例え自分が死ぬような事になったとしても、それ以上に酷い目に遭う事になったとしても、は当然の結末なのだろうと受け入れて納得する事が出来ると思えているつもりだった。

 向けられている善意が偽りのものであったとしても、平気でいられるのだとも。

 

 そんなわけがなかった。

 心に救いを与えていたはずの物が、失われるどころか鋭い痛みを与えるためのナニカへと変じ、それを頭で理解した瞬間に悲しみが心の中を埋め尽くす。

 そして、司弩蒼矢は絶叫した。

 嘆くようなその声を聞いても、少女は何の言葉も返さなかった。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 狼の獣人のような姿の牙絡雑賀は、現在進行形で焦っていた。

 率直に言って、嗅覚を頼りに探すのにも限界があったのだ。

 司弩蒼矢が拉致された現場と思われる場所から、明らかに人間のそれとは異なる臭いが『足跡』という形で察知出来はしたのだが、肝心の『足跡』が途中で途絶えてしまっていて、追跡に必要な情報が寸断されてしまっていた所為で。

 

(……くそっ……こうしている間にも、何か取り返すのつかない事になってるかもしれないってのに……!!)

 

 幸いにも、司弩蒼矢かその友達の携行品と思わしきミネラルウォーターのペットボトル(飲み残し)の表面に確かな臭いが残っていたため、足跡とは異なる捜索に必要な情報を一つは確保出来ている。

 だが、足りない。

 確かに同じ臭いを感知する事が出来れば確実に移動先を割り出す事が出来るだろうが、そもそも同じ臭いを殆ど感じ取る事が出来ていないのだから、どちらにせよ拉致した側との距離を道標も無しに詰められなければ意味が無い。

 

(……鼻は今のところ頼りに出来ない。だがそれ以外に関する情報が無い)

 

 こうなると、一度嗅覚に関する情報は頭の中から取り除いて考えてみる必要があるのかもしれない。

 運任せに都会を奔走してもどうにもならない事ぐらいは、流石に理解出来ていた。

 

(……拉致する側からすれば、司弩蒼矢が連れ去られたり危害を加えられたりする場面を、一般の人間に見られなければいいんだ。デジモンの力を使って、力場を発生させるだけで一般の人間から目撃される事はなくなる。だけど、これだけじゃ足りない。何かをして司弩蒼矢の身動きを封じられたとしても、徒歩での移動にするとどうやっても移動中を感知される。力場の存在は、同じ電脳力者に感知される可能性を増させるわけだからな)

 

 実際、牙絡雑賀は一度、裏路地から発生した力場を感知し、不良染みた風貌の電脳力者三人と対面している。

 無論、同じ電脳力者が現場に立ち会っていたとして、見ず知らずの司弩蒼矢を助けるため動き出すのかという疑問もあるのだが、デジモンの力を使った痕跡というものは臭いという形で残されていた。

 それが寸断されていたという事は、拉致を実行した電脳力者は途中からデジモンの力を使わずに司弩蒼矢を連れ去ったという事になる。

 デジモンの力を使っていない時には力場が発生しないため、一般人の目にも入る。

 状況を一目見て通報をする人間が居てもおかしくは無いが、事実として誰かが通報をしているようには見えない。

 普通の人間からも発見される状態の上で、自分達や司弩蒼矢の姿を都合良く隠し、短時間の間に大きな距離を離す事が出来る手段。

 シンプルに考えてみると、答えはとても単純な物でしかなかった。

 

(……車。単純だが、中の様子を外部から探られず、多人数で移動するのならこれしかない)

 

 ――次に、どのような車ならば目立たずに移動出来るかを考えてみた。

 

(……今は『消失』事件の対策で東京都の各地域で警戒態勢が敷かれていたはずだし、別の地域にまで移動している可能性は低いはず。スモークフィルムが張り付いた車なんて、規制が入った今の世の中じゃ逆に目立つ。運転席にでも貼り付けてたら、未成年の無免許運転を怪しんで警官が確認に乗り出す可能性だってある。フルスモークだったら尚更だ。拉致する側からしても運転者の視界は確保したいだろうし、スモークフィルムを使わずに車内を隠すとして、仮に逃走中に車そのものを力場で認識出来ないようにしたら間違い無く事故が起きるから論外。だとすれば、荷物という括りで『中身』を誤魔化せる大型のトラックか?)

 

 ――そして、移動出来たとしてそれがどのようなルートを辿るのかを考えてみた。

 

(大型のトラックなら人間を荷物扱いで乗せれば外部から視認される事も無くなるが、仕事に関係無いイレギュラーな道を進んでいたらやっぱり目立つ。だったら、移動区域はやっぱり街の中に絞られる。時間も関係無く、ルートが不規則でも目立たない、あるいは怪しく思われないもの。ネット通販なんて便利な物はあるが、運送業は無いな。決まった場所に決まった時間で向かう以上、ルートは絞られるから。だとすれば、エアコン絡みの専門業者か光ファイバーや高速無線回線を保守点検する電装業者業者。どちらも決まったルート自体が存在しないし、しっかりとした面目があるわけだから怪しまれない)

 

 後は、探すだけだった。

 広大な街の中で一つの車を探し当てる事自体が中々に難度の高いものだとは思うが、少なくとも探すべき目印を決められた事は捜索の進展の繋がるだろうと、思う。

 実際には、こうして深く考えてみれば自分は前に進めているのだと錯覚でき、不安を多少は打ち消せると思っての事に過ぎないのかもしれないが。

 

 と、当ての薄い捜索活動に再び走り出そうとした時だった。

 

「あ、いたいたー。ちょっとそこの人待ってくださーい」

 

 思いっきり棒読み染みた声が、雑賀の耳に入って来た。

 疑問を覚えながらも一応声のした方へ振り向いてみると、侍の容姿に似せた鳥人がいた。

 誰がどう見ても人外の類で、何らかのデジモンの力を行使している電脳力者なのだとすぐに理解した。

 

「……誰だ? その姿を見るに電脳力者みたいだが」

「あぁ、こちらからすると初対面ですよねー。僕、鳴風羽鷺って言います。縁芽苦郎さんのパシりって言えば、大体の立ち位置はわかると思うんですけどー」

 

 縁芽苦郎のパシり。

 言い方に疑問こそ浮かぶが、少なくとも敵同士の繋がりではない事は理解出来た。

 そして、この局面で接触を図ってきた以上、ただ挨拶に来たわけではないであろう事も。

 

「その苦郎のパシり君が何の用だ? 今かなり忙しいから要件は手短に済ませてほしいんだけど」

「その要件というのは、苦郎さんの言っていた司弩蒼矢という人物の事ですか?」

 

 コピー用紙を吐き出すような緊張感の無い口調だったが、発言自体は重要な意味を持つものだった。

 縁芽苦郎――ベルフェモンと呼ばれる『七大魔王』を宿す電脳力者が、司弩蒼矢について何か発言をしていた。

 彼が関心を持っているという事は、今回の事件には『シナリオライター』と呼ばれる組織が関わっている可能性が浮上する。

 

「……やっぱり、今回の件についてあいつも何か知っているのか?」

「その口ぶりからすると、既に状況が動いてしまってるみたいですねー」

「教えてくれ。何であいつが狙われたのか、あいつは何処へ連れて行かれたのか、知っている事を全体的に!!」

「うーん、まずは落ち着いてほしいんですけ……その顔で迫られると普通に怖いですってばぁ!?」

 

 よほど恐ろしい表情になっているのか、鳴風羽鷺と名乗る鳥人は一歩後ろに下がっていた。

 両手の掌を前に突き出し、落ち着くようジェスチャーで示しているようだ。

 それを理解した雑賀が何とか意識して表情を和らげなものにしてみると、多少はマシになったのか鳴風羽鷺は案件を喋りだした。

 

「まぁ、僕の方も苦郎さんからついさっき聞いたばかりなんですけど……まず、その司弩蒼矢って人を真っ先に狙うであろう組織の事です」

「……『シナリオライター』の事なら既に聞いてるんだが。まさか、ここに来て別の『組織』だなんて話じゃないだろうな」

「そのまさかなわけですけど。確か、苦郎さんは『グリード』って名称で呼んでましたよ。正直名称なんてどうでもいいですが、実際その組織は『シナリオライター』とは別の組織として扱うべきだって話らしいです」

「…………」

 

 正直なところ、疑問はいくつか浮かんでいた。

 確か、縁芽苦郎の話では『シナリオライター』という組織自体、どのような思惑でもって活動しているのか詳しく解っていないとの事だった。

 その言葉自体が嘘で本当は核心に迫っているという可能性も決して無いというわけでは無いが、それはそれで話さない理由があるのかという疑問が生じてしまうので、本当に知らないのだと雑賀は思う。

 一方で、鳴風羽鷺の口ぶりからすると、司弩蒼矢を狙っているのが『グリード』という組織であるという事に関しては、確信をもって言っているような気がする。

 更に言えば、わざわざ別の枠組みとして強調している辺り、むしろ『シナリオライター』以上に危険視さえしているような……?

 

「で、その『組織』の目的なんですけど、どうやら司弩蒼矢に宿っているデジモンの力を欲しているらしいです。苦郎さん曰く、何がなんでも『グリード』の手中に収められるのを避けたいんだとか」

「……それで、俺にあいつを助けに行けってか? それなら元からそのつもりだし、何というか取り越し苦労だな」

「あぁ、そういうわけじゃなくてですねー」

 

 率直に浮かんだ予想を否定され、思わず疑問符を浮かべる雑賀。

 そして、鳴風羽鷺は間延びした口調のままこう言った。

 

「どうせ『グリード』の手に渡るぐらいなら、殺して完全に無害化した方が確実。だから、今回の事件にあなたは首を突っ込まないでくれ、との事です」

 

 呼吸が、一瞬だが確実に止まった。

 言われた言葉の意味を、すぐには理解出来なかった。

 そして、理解が追い着いた途端に、急速に頭の中が沸騰し始めた。

 

「……おい、待ってくれ……」

「はい?」

「殺して、無害化……? それはつまり、そういう事なのか? 司弩蒼矢を、殺すって。あいつがそう言ったのか!?」

「確かに言ってましたよ。そうじゃなければ、別の案件だって抱えてるのにこうして伝言を伝えさせる理由が無いですし。多分、戦闘に巻き込みたくないとかじゃないですか?」

「そんな気遣いなんてどうでもいい!!」

 

 確かに、恐ろしくないと言えば嘘になるほどの力ではあったかもしれない。

 出会った当初は理性を失って本能に身を任せていたようだったし、視界に入った途端に攻撃を開始していた事を考えても危険性は否定出来ない。

 理性を取り戻した後も『失った四肢を取り戻す』という動機で戦闘を継続し、実際のところ死ぬか死なないかの寸前にまで追い詰められてはいた。

 だが、それにしたって。

 

「……何でだよ。その『グリード』って組織がどういう物で、どういう奴が仕切っているのかは知らないけど……何でその組織の利益になる力があるって『だけ』でアイツが殺されないといけない!? アイツには、殺されてもいい理由なんて……!! 何を考えてやがるんだあの野郎は!?」

 

 理由の納得など、出来るわけが無かった。

 人の命を奪うという事がそもそも容易に受け入れられるものでは無いのに、ましてや利益の阻止などという理由などで認める事など出来るわけが無い。

 狼狽する牙絡雑賀に鳴風羽鷺は困ったような表情こそ浮かべているが、そこから感情を読み取る事が出来ない。

 対岸の火事でも眺めているような、他人事の反応だった。

 だから、何の動揺も無く言葉を紡いでいた。

 

「うーん、何で殺されないといけないかって聞かれても、理由なら既に言ってますよ。宿っているデジモンの力を、『グリード』って組織の利益に繋がらせないため。要するに、司弩蒼矢という人自体が重要なんじゃなくて、宿っているデジモンの事が一番重要みたいですねー」

 

 宿っているデジモンの力が、敵である組織の利益に繋がるから。

 偶然宿ってしまったのであろう人間が誰かなど関係無く、ただ成り行きでそうなったから。

 思えば、病院で自身に宿るデジモンの事を雑賀に対して伝える際に、縁芽苦郎自身も言っていたではないか。

 これは、椅子取りゲームの結果だと。

 その言葉の意味が、ここに来て解ったような気がした。

 だが、そもそも。

 

「……それほどまでに、殺さないといけないような『力』じゃなかったはずだぞ。司弩蒼矢に宿っているのは、成熟期デジモンの『シードラモン』だったはずだ!! 確かに危険な力を持っているかもしれないが、苦郎の奴に宿っている『ベルフェモン』に比べればずっとマシなはずだろ……!!」

「それなんですけど、正確には現時点で『グリード』の利益になるデジモンの力を宿しているってわけじゃないみたいですね。いずれ危険視するようなデジモンの力を得る、あるいは力そのものが変質する可能性が高いから、未然に阻止する必要があるんだとか」

 

 確かに、本来デジモンとは『進化』というプロセスを経て、段階を繰り上げる形で個の更新を続ける存在だ。

 今でこそ宿している力は成熟期がベースの物だが、縁芽苦郎やフレースヴェルグのように究極体のデジモンの力を行使出来る電脳力者が実在する以上、雑賀自身も含めたあらゆる電脳力者の力には『進化』の可能性が存在するのは間違いない。

 そして、もし仮に宿しているデジモンの力が、ホビーミックスされ誇張表現すらされている『設定』とそう大差の無い物であれば、その脅威の度合いは確実に増す。

 つまりは、こういうことなのだろう。

 敵対する組織の益となり、脅威と考えるには十分な力をいずれ得る可能性があるから、その前に芽を摘んでしまおう、と。

 

「……ふざけんなよ。いったい何なんだ、その……危険視してるデジモンってのは」

 

 自分で問いを出しておきながら、話を聞いただけである程度の予測は出来てしまっていた。

 七大魔王という、悪性を担うデジモン達のトップランカーとさえ呼べるデジモンの力を持つ者からして、それでも脅威と呼べるようなデジモンなど、数が限られすぎたから。

 鳴風羽鷺は、あくまでも調子を崩さぬまま嘴を開いた。

 そして、最悪の答え合わせがやってきた。

 

「えっと、確か『リヴァイアモン』って苦郎さんは呼んでましたね。僕はそんなに詳しく知ってるわけじゃないんですけど、苦郎さんに宿っているのと同じ『七大魔王』って枠組みにあたるデジモンみたいです」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆




《後書き》

 ……というわけで久々すぎる最新話でしたが、いかがだったでしょうか?

 今回の話はいよいよ縁芽好夢が『事件』に首を突っ込む!! という寸前と、知らない天井と床と裏切りと、そして事実上の死の宣告、といった全体的に明るい部分が殆ど無く、重々しい雰囲気がダラダラと続いた話でした。
 そんでもって、今回の話を最後まで読んでくださった方々なら解る通り、司弩蒼矢に宿っているデジモン(の素養?)の正体が『リヴァイアモン』である事を早速バラしてみました。ええ、『第二章』って話の立ち位置的にも間違い無く前半・序盤なはずなのにいきなりのフルブーストでございます。

 とは言っても、ちょいちょい伏線は残していたはずなので、わかる人には既にバレていたかも……まぁバレたらバレたで嬉しいですし、驚いてくれたら驚いてくれたでおいしいところではあるのですが。
 でもって、鳴風羽鷺を経由しての縁芽苦郎からの『伝言』。正直同じキャラを都合良く使いまわしすぎじゃね? と思われそうですが、飛行能力を持っているという時点で伝言役だったり助太刀要員だったりにしやすいので、今回も抜擢する事にしました。
 
 そして、縁芽苦郎からの実質的な殺害宣言に関してですが、リヴァイアモンというデジモンの事を知っている方ならお察しの通り、実際のところマジで『可能性』が『現実』になって、その上で暴れられたらアレです。問答無用でバッドエンドルート突入間違いなしです。ヤツの近くに居たらみんな死ぬしかないじゃない!!(大マジ)。
 色々な二次創作小説で『リヴァイアモン』というデジモンのキャラを見てますが、皆さん色々なキャラ付けしてるんだなーと思いました。完全に他者を見下してないと気がすまない奴だったり、ただの大喰らいキャラだったり、そもそも言語とかを使わせず完全に『障害』として扱っていたり……そういうものを見ていると、やはりキャラ被りだけはさせたくないと思ってます。尤も、ぶっちゃけた話として、このまま蒼矢くんが死んでしまって『過去編にしか登場を許されない美化されまくりなヒロイン枠』とか確保しちゃうと、頭の中で構想しているキャラクターなんて出す機会も無いままで終わるわけですが。
 マジな話として『覚醒する前に殺す』のが一番の安全策ではあるわけです。
 尤も、それでハッピーエンドと言えるのかと聞かれると、難しいところですが。

 というか、七大魔王と聖騎士団の扱いというのはデジモンの二次創作作品における一つの課題ですよね。イグドラシルやっぱクソだわみたいな雰囲気にすると聖騎士団を敵扱いにして七大魔王の一部を味方化な流れになったり、単純に七大魔王が悪さしてるからそれを止めるためにうんぬんかんぬんだとか……オリンポス十二神という変化球もありますがね。
 
 現時点で現実世界サイドに七大魔王デジモンの名前が二名出ちゃってるので、さぁ残る五体はどういう扱いになるのかとか色々と想像してくれると嬉しいです。
 
 では、今回の後書きはここまで。本当に更新が遅れまくりで申し訳ありません……DFFACの動画を上げたりポケモンだったり色々忙しくなりすぎて……。
 でも、間違い無く『第二章』はクライマックスに差し掛かっているので、これからも読んでくれると嬉しいです。

 次回は縁芽好夢の回!! ……になればいいなぁ。
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