DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
磯月波音の家族は、自分を含めて父親と母親と弟の四人で構成された家族だった。
母は幼い頃から優しく笑顔で接してくれて、おいしい料理を毎日作って食べさせてくれて。
父は毎日働いて、家に帰ってくる時にはいつも疲れた様子だったけど、それが当然といった顔で頑張ってくれて。
弟は気弱な自分とは対照的と言ってもいいぐらいに元気一杯で、大きくなったらサッカー選手になるんだと真っ直ぐな目で言っていて。
ありふれたそんな日々が、ある日突然に奪われるだなんて、考えた事も無かった。
結果から言えば、たった一日前――家族を奪われた。
とある『怪物の能力』を有した悪党に、家族全員の意識を乗っ取られた所為で。
異能によって齎された日常の変化は、少女にとって到底受け入れられないものでしかなかった。
いくら声を掛けても返事は無く、まるで映画に出るゾンビのような挙動で顔を向けてくる母に父に弟。
目の前にいるのは間違い無く自分の家族であるはずなのに、その眼差しも動作も――到底
何も言わず狂気染みた赤い光を宿した瞳のまま、じりじりと近寄って来る家族から逃げ出すように波音は家を飛び出した。
その後、波音は逃げるように彷徨っていた街の中で、物知り顔で近寄って来る怪しげな男と遭遇した。
『お前が磯月波音だな?』
『……なんで、わたしの名前を……いや、まさか……』
男は、波音の名前を知っているようだった。
その事実で、波音も事情を察した。
偶然ではない――この男は、恐らく波音が抱えている事情を知った上で接触してきている。
家族の事についても、自分自身に宿っている『力』についても。
そして、その予想は間違っていなくて。
『単刀直入に言おうか、俺達に協力してもらうぞ。家族の身の安全を保障してほしければな』
殆ど脅迫と言っても過言ではない言葉だった。
男が言うには、波音の家族は彼女自身が予想していた通り意識を乗っ取られている状態にあるらしい。
乗っ取りの能力を有した組織の一員がその気になれば、家族全員の体を操り自殺させる事も、実の家族である波音さえ襲わせる事が出来るという。
否定材料は無かった。
事実として、彼女自身家族が『操られている』光景を目の当たりにしていたのだから、そんな事が出来るわけが無いと突っぱねる事も出来ない。
『いったい、何を協力しろって言うんですか』
『お前と同じように、あるデジモンの力を宿した人間がいてな。そいつを仲間にするのを協力してほしいわけだ』
『……誰の事ですか』
『その沈黙の時点で察しはついてるんじゃないのか? お前が今日
『…………』
その情報は、少女にとって答えを言っているも当然のものだった。
男が言う片腕や片足を欠損している患者とは、少女自身が心配になって毎日のようにお見舞いに向かっている相手の事で間違いない。
事実として、後に男から伝えられた名前は、自分の知る人物と完全に一致していて。
ただ従うしかなかった。
嫌でも認めるしかなかった。
他に取れる方法なんて無かった。
家族を助ける事はおろか、悪者に抗えるだけの力なんて無かったから。
超常の力によって引き起こされた出来事を前に、頼れそうな相手なんて心当たりも無かったから。
そんな言い訳を重ねた所で、意味なんて無い。
どんな事情を含んだところで、自分の都合で一人の少年を騙して弄んだ時点で、被害者面をして責任転換する事なんて許されない。
他ならぬ少女自身が、そんな逃げを許したくないのだ。
だから、少女はいっそ嫌われてしまおうと思った。
死んでくれて清々したと思われるぐらいの悪党になりきる事で、後に自分がどうなろうと少年の心には傷が入らないようにしようと思った。
だって、波音は知っているのだ。
司弩蒼矢という人物が、とても優しい性格をしている事を。
少女は今でも覚えている。
まだ自分が小学生の頃、少女が同じクラスの子供からの無邪気な嫌がらせで傷ついていた時、ただ傍観するのではなく自分から助けに動いてくれた事を。
成績が良かったわけでもなく、未来の自分自身上手に歌えているとは到底思えなかった詩も何も無い歌を、何だか青い色が浮かんできそうな気持ちがいい歌だね、と褒めてくれた事を。
それっきり、あまり言葉を交わした事は無かったけれど、きっと見向きだってされなかったけれど。
それでも少女だけは、その少年に救われた事を覚えている。
傍から見れば大した事の無い出来事だとしても、少女にとっては大切な思い出だったから。
だから、病院で自分の事を覚えていないと言われた時、連れ出す切っ掛けを作るために知り合いである事を必死に主張していた一方で、むしろ安心を覚えていた。
裏切り者と関わっていた記憶なんて、少しでも残っていない方がいい。
その方が、与える傷はきっと深くならない。
ただでさえ、病室で見た時――傍から見るだけで胸が苦しくなるほどに、彼は傷ついていたのだから。
これ以上の負担は与えてしまいたくない。
あなたのためにわたしの家族が危ない目に遭っている――なんて絶対に言いたくない。
だから。
電話越しに悪党の指示を受け、スタンガンで少年を気絶させて、その体を悪党が車両に乗せる所を見ても。
あるいは、物好きでもない限り目の届かない場所まで連れ去って、そこで裏切っていたという事実を突き付けて――本当に、心の底から痛みを感じたかのような少年の声を聞いても。
どんなに苦しくても、どんなに間違っているとしても、絶対に被害者面して助けを請うような真似はしなかった。
そんな事をしたとしても余計に少年を傷つけてしまうし、悪党に家族の命運を握られている時点でそんな真似は出来ないし、そもそもこうして自分の都合で裏切った時点でそんな資格は無い。
救われようと思ってはいけないのだ。
なのに。
『……頼むよ。君を傷つけたくないんだ……』
どうして、あの少年はこの期に及んであんな言葉を漏らしたのだろう。
どうして、あの少年は心から苦しみながら少女の事を糾弾しようとしないのだろう。
どうして、救われない覚悟を決めていたはずなのに、その言葉で心がブレてしまったんだろう。
『確かにオレは君に酷い事をされた。でも、その一方でオレは君に少しだけ救われていた。許す許さないの問題じゃないんだ。例え全てが嘘だったとしても、
……悪党達に洗脳の技術がある事について、この場で男の話を耳にするまで波音は知らなかった。
だが、その話を耳にして、意志に関係無く大切な人の心が塗り潰されてしまう可能性を知っても、事実として少女はその行為を止めさせようと動く事さえしなかった。
悪党の意志に逆らった結果として生じるリスクを恐れたからか、それともそんな事を出来るわけが無いと思わず都合の良い話に歪曲してしまっていたからなのか。
家族を乗っ取られていた時点で、それが実現出来る可能性は示唆されていたのに。
結局、この期に及んで少女には選ぶことが出来なかったのだ。
自分の家族の安全のために大切な人を見捨てるか、あるいはその逆の選択をするか。
どちらも認められなかったから、無駄だと解っていても炎の魔人の前に立ち塞がろうとしただけの事。
だから、直後に生じた結果もまた、当然の報いだったのかもしれない。
人外の蹴りを受けて少女は吹き飛ばされ、地面を転がった。
「……ぐっ、はぁっ……」
口から鉄の臭いがする液体が漏れ、体の底から力が抜けるような感覚があった。
呼吸の調子がおかしくなって、喉の奥から更なる血の塊が吐き出される。
体に加わったダメージの所為か、血を口から吐き出した所為か、意識が明滅する。
死という一文字が、思考を過ぎる。
こうなる事は、解っていた。
こうなってほしくないと思いながらも、解りきっていた。
こうなって当たり前だと思っていたのなら、仕方無いと納得して然るべきだった。
だけど、
(……わたしのしていた事って、何だったんだろう……)
悪党に家族を奪われて、失う事が怖かったから仕方なく言いなりになって。
その中で、被害者面をするのが申し訳なくて、嫌われようとする事でせめて最終的な傷を減らそうと思って。
けれど、結果はどうだった? いったい何の意味があった?
状況を打開するための行動は何一つ思い浮かべる事すら出来ず、ただでさえ傷付いていたのであろう思い人の心を余計に傷付け、家族と思い人のどちらを見捨てるかどうか選択する事さえ出来ず、今はこうして地面に転がっているだけ。
出来た事なんて、それが一番良いと勝手に決め付けた傷付き方を相手に一方的に押し付けていただけの、下らない偽悪主義の茶番劇ぐらい。
それも、一人の無関係な女の子を巻き込む形で。
朦朧とする意識の中で、思い人の叫び声が聞こえた。
怒りや悲しみといった負の側面が練り混ざったかのような声だと思った。
まるで、司弩蒼矢という思い人だけではなく、別の『誰か』までもが叫んでいるような。
(……蒼矢、さん……)
彼は今、どんな顔をしているのだろう。
今の彼の姿は、悪党に抵抗しようとする過程で
体は全体的に青緑色の鱗に覆われ、下半身は魚や蛇の面影を想起させる尾鰭に変じ、首の下から尾の先端にかけては蛇腹が生じていて――骨格という形で人間の面影を感じられる顔の部分も、目の周りまでも覆う兜のような形の黄色い外殻に覆われている。
その姿は、きっと彼に宿る怪物の姿を模したものなのだろう。
炎の魔人と比較しても人とはかけ離れた姿をしていて、初めて見た時は理性の有無さえ疑ったほどに人らしさを感じられなかったけれど。
叫び声に込められた感情は、人間のそれと変わらない気がした。
内に宿る怪物と意志の疎通をする事が出来るのが、
今の彼に力を貸してあげられるのは、逆に言えばその怪物だけなのだろう。
(……ごめん、なさい……ただでさえ、苦しませているのに……こんな事になって……)
立ち上がろうとしても、手足にうまく力が入らない。
肺の調子が悪いのか、思い人に届くような声は出せない。
その瞼から、ボロボロと涙がこぼれていた。
殴られた痛みではなく、死に対する恐怖でもなく、自分自身の無力がただただ悔しくて。
(……助けて……)
少女はただ願う。
力なく、倒れたまま。
瞳に涙を浮かべて。
(……どうか、お願いします。わたしはどうなってもいいから……蒼矢さんと、あの女の子を、助けてください……)
◆ ◆ ◆ ◆
闇の中だった。
司弩蒼矢は、何も視えない暗闇の中に放り出されていた。
それが現実的、物理的なものではなく、目の前で起きた出来事によって内より生じた感情の濁流によって、意識が現実の広がる外界から
自分が真っ黒な闇の中に少しずつ『沈んでいる』事に気づくのに、数秒掛かった。
(……ここは)
見覚えがあるような、無いような――奇妙な疑視感があった。
睡眠中に見た光景がその後の未来で見た光景と被る、唐突に見る正夢にも似た何か。
それでいて、まるで『そこ』に自分が存在していたかのような、他人事では済ませられない景色。
(……どこだ? 波音さんは、あの女の子は何処に……?)
五感から伝わる冷たさは、水の中を想起させる。
だが、記憶が正しければ自分は寂びれた雰囲気を閉じ込めた建物の中に居たはずだ。
そして、そこには自分を連れ去った悪党を含め、自分以外の人間が何人か居たはずなのに。
記憶に連続性が無い。
どうしてこんな『海』の中に沈んでいるのか。
そもそも、こうしている今自分の体は今どうなっているのか……?
そういった当たり前の疑問が浮かんだ時だった。
「……よう。初めましてとでも言うべきか?」
誰かの声が聞こえた。
暗く何も見えないはずの『海』の中、遠鳴りのような音が響く。
蒼矢がその声を認識した途端、暗がりの中に何か巨大な生き物のものかと想われる黄色い瞳が浮かび上がってきた。
むしろ、何故この瞬間までその存在を認識出来なかったのか――そんな疑問が当たり前と言えるほどに、浮かび上がってきた『誰か』の存在感は圧倒的すぎた。
あまりにも巨大過ぎるが故に全身を一度に視界に入れる事は出来ず、蒼矢に『視る』事が出来たのは瞳とその周囲に僅かに見えた赤いの
瞳とその周囲のみが視界いっぱいに映るほどにその生き物が巨大なのか、あるいは自分自身がそう視えてしまうほど小さくなっているのか、真偽は定かではない。
だが少なくとも、たった今自分に向けて言葉を発してきたのがこの巨大な生き物である事ぐらいは、何となく想像がついた。
故に、咄嗟に思い浮かんだ言葉で返してみる。
「……お前は、誰だ」
「リヴァイアモン。
聞き覚えの無い名前なはずなのにも関わらず、聞き覚えがある名前だと感じた。
この暗闇に覆われた風景に対して抱いた奇妙な疑視感と同じ、曖昧なその感覚に蒼矢は困惑する事しか出来ない。
何となく、この怪物が自分に宿っているモノの正体が目の前の瞳の持ち主である事は予想していた。
だが、それがデジモンという名称で呼ばれる存在である事については何も知らなかったのだから、ただでさえ理解の追いつかない状況が更にややこしくなったとしか蒼矢には思えなかった。
リヴァイアモンと名乗るその
「で、今度は俺から聞きたいんだが……お前は、今自分の体がどんな状態にあるのか解っているのか?」
「僕が……?」
言われて初めて視界を動かし、蒼矢はまず自分の手のひらを確認する。
たったそれだけの事で、誰でも異様さを理解出来るような変化が生じている事に気付かされた。
視界に入った手のひらには見慣れた人間らしい肌色の皮膚も、人外の力を引き出した結果として変化していた青緑色の鱗肌さえも無く――何か、青色の線のようなものだけで構築された、生き物の体とさえ表現し難い何もかもが『剥き出し』の状態になっている奇怪な体表だけが見えていた。
皮膚も爪も見えない手から続けて腕に肩、腹に足――となぞるように続けて確認してみても、見えたものは同じ。
この分だと、顔も含めた全身が同じような状態になっているのだろう。
自らの体を怪物の姿へと変化させた時、思えば自分の体の変化の過程を蒼矢自身目で見て確認した事は無かったのだが――変化の最中、体の構造を書き換える仮定でこのような姿になっていたのだろうか?
驚きを隠せない蒼矢に対し、リヴァイアモンはいっそ呆れた様子で、
「……お前、マジで気付いてなかったのか。まぁ俺もその体がどういう意味を示すのか詳しくは知らないんだが、少なくとも言える事は今お前が『進化』の真っ最中だって事ぐらいだな。多分、その姿はまだ『成りかけ』のものなんだろう」
「進化……成りかけ……?」
「要はまた『変わる』って事だ。流石に意味が伝わらないほど鈍くはないよな?」
「…………」
その言葉に蒼矢は最初、異形と化した自らの姿を思い浮かべた。
人間に蛇や魚の部位を混ぜ込んだかのようなあの異形から、また変わる。
ただでさえ怪物としか言い様の無かった姿から、どんな姿に変わってしまうのか。
想像するだけで、恐怖を覚えた。
一日前の自分が、理由があったとはいえ何故こんな『力』を求めてしまったのか解らなくなるほどに――今では自らに宿っている異形の『力』が、怖い。
「……僕は、これからどうなるんだ」
「…………」
「変わった後の僕は、本当に僕のままでいられるのか。自我を失って、また誰かを傷付けてしまうんじゃないのか。もう、誰かを傷付けてまで得たいものなんて、僕には無いのに」
こんな事を言っても、仕方の無い事だという事はわかっている。
だけど、一度自分の思いを口にし始めたら、もう止まらなかった。
「ああそうだよ、自分の都合で自分の手足を取り戻そうと『力』を使って関係の無い人を傷付けた時点で、僕には被害者面をする権利なんて無いさ。だから罰を与えられたって文句は言えないし、糾弾されたってそれが当然の事だって言えるよ」
「…………」
「だけど、何で僕に対して向けられるはずの矛先が、あの子に向けられないといけないんだ!! あんな、まるで使い捨ての道具のような扱いを受けないといけないんだ!! あんな目に遭ったのが僕の所為だとしたら、あの子は僕を糾弾して見捨ててしまっても良かったのに、どうして身を挺してまでして守ろうとしたんだ!? 途中で乱入してきた女の子だって、身の危険を感じたのならすぐにでも逃げればいいのに、どうして見捨てようとしない!? あのプールで戦った牙絡雑賀って人もそうだった。一方的に傷付けようとしていたのは僕なのに、糾弾するどころか僕が『人間』だからって。誰かを助けようとするだけの善意を持った奴が自分から墜ちて行く光景なんて黙って見ていられないって。そんな事を言って、本当に命を賭けて僕の凶行を止めてくれた……」
「…………」
「けれど、僕の心にそんな善性があるなんて考えられない!! 腕と足を失うことになったあの事故の時だって、別に助けたかったから助けたわけじゃないんだ。ただ、あの幼い女の子が危ない目に遭う所を見たくなかったから。自分のためだったんだ。もしもあの時の行動の結果が先に解っていたとしたら、もしかしたら見捨てていたかもしれない。助けようと動く事にさえ躊躇したかもしれない!! 僕はそんな自分勝手な奴なんだよ。テレビや漫画の中にいるような憧れの対象とは違う!! 得意の水泳とは違って好きでも無い勉強を頑張っていた事だって、別に将来をより良くしたかったからとか、そんな立派な理由じゃない。ただ、褒められたかっただけ。自分はよくやっているんだって、頑張っているんだって……自分の事を認めてもらいたかったんだ。そうしないと、何か満たされない感覚があったから。僕なんかよりも才能がある弟の方ばかりを見ていた事が、どうしても気に掛かって……いつの間にか嫉妬していたんだ」
「…………」
「あの子が死ぬような目に遭うぐらいなら、自分勝手で醜い心を持った僕の方こそが死ぬべきだったんだ。咎を受けるべきだったんだ……なのに、なんで。どうしてあの子は笑っていたんだ。ああなる事が解っていて、自分がこうなるのも当然だって顔をして……あの子は何も悪くないのに。あの子は悪党に何かをされたから、仕方なく従うしか無かっただけで……そうとも知らず、僕はあの子を知らず知らずの内に追い詰めていた。本当はやりたくなかった事を強制されながらも耐えて、何かを守ろうとしたあの子の心を傷付けた!! 結局、僕は傷付けていただけじゃないか。自分で作った疑心暗鬼の檻に閉じ篭って、勝手に妬んで勝手に追い詰められて……多分、そんなどうしようもない心が引き金になって、僕は化け物になったんだ。そして、自我の有無に関わらず他人を傷付けた。自分勝手な理由で、暴力を使って!! ……もう、誰かを傷付けるだけの『力』なんて持ちたくない。傷付けるだけで、あの子の死を止められない『力』なんていらない。僕に出来る事なんて、もう答えは出てしまっているんだから。ここから僕の何かが変わったとして!! 傷付ける事しか出来なかった僕に!! いったい何が出来るって言うんだッ!!!!!」
胸の中に溜め込んでいたものを噴き出すような言葉があった。
リヴァイアモンと名乗るその存在は、それを黙って聞いていた。
きっと、良い気持ちになる言葉ではなかっただろう。
きっと、とても不快な気持ちになる言葉だっただろう。
言葉の中には彼の事を遠回しに糾弾するような内容だって含まれていたのだ。
彼もまた望んで司弩蒼矢という人間に宿っていたわけではないかもしれないのに。
化け物だと、誰かを傷付ける事しか出来ない『力』だと、そう言って。
なのに。
「……そうだな」
肯定の言葉があった。
他ならぬ、司弩蒼矢に宿る異形の『力』の源たる存在の声だった。
「お前の言う通り、俺の力は誰かを傷付ける事にしか使えない……いや、使えなかった。生きていた頃だってそうだった。誰かを助けようと動いても、むしろ助けた相手を怯えさせてしまった。誰かの役に立ちたいと思っても、むしろ何もしないでくれと頼まれるぐらいだった」
「……それって……」
「諦めたくないという気持ち自体はあった。誰かの役に立つ事が出来たら、自分の居場所はそこにあるんだと信じたかったから。地上で生きるデジモン達が羨ましかった。空を自由に飛べるデジモン達が羨ましかった。願いが叶うのなら、太陽の光に当たりながら生きているそんなデジモン達と同じ場所にいられる姿に進化したかった。『悪魔獣』や『七大魔王』なんて肩書きなんて、知らない誰かにまで恐れられるような名前なんて、欲しくも無かった」
その言葉の裏に、蒼矢は自分では想像もつかないほどに暗いものを感じた。
日の光も届かない、ただただ暗闇が広がる深海の世界。
そこに独りで存在し、誰からも恐れられ、必要とされない日々。
「俺も、お前と同じだよ。誰かに必要とされたかった。自分の居場所が欲しかった。その想いがいつの間にか光を浴びて生きているデジモン達に対する妬みに変わっていたからか、いつしか俺はこの姿に成った。どうしようも無かった。何もしない事が最善だと自分でも理解出来てしまうぐらいに、俺の体は暴力に特化してしまった。誰かの所為じゃなくて、自分自身の心の所為で……」
似ている、と蒼矢は素直に思った。
怪物の口から語られる言葉の内容が、他人事だとは思えなかった。
そして終いに、リヴァイアモンはこう言ってきた。
「……悪かった。お前がそんな嫌な気持ちになっているのも、あの人間が酷い目に遭わされたのも、全部俺がお前の中に宿っていた所為だ」
その言葉を聞いて、蒼矢は咄嗟に首を振った。
確かに、不幸の一因ではあったのかもしれないけれど。
他人の不幸を望むような心を持っていたら、そんな言葉は出てこないはずだから。
「……望んでこうなったわけじゃないんだろ」
「…………」
「声を聞くだけでもそのぐらいは察するよ。悪気があって僕の中に宿ったんじゃない。ただ、偶然こうなってしまっただけ。そもそもお前の力を『使っていた』のは僕で、お前自身はただ『使われていた』だけなんだから、僕が嫌な気持ちになっている事についてお前に非があるわけが無い。……責められないよ。例えお前の力が僕に宿ってさえいなければ、今の状況に繋がる事も無くもっとマシな日々を過ごせていたかもしれないと思っても……それでも、僕には責められない。むしろ、謝るべきなのは僕の方だ。……ごめん。お前の事を何も知らずに、酷いことを言って。お前の力を、お前が望まない形で使ってしまって……」
「……そうか」
リヴァイアモンはそれだけ言った。
少なくとも、気休めぐらいにはなったのだろうか。
しばし置いて。
彼は、蒼矢に向けて言葉を発する。
「……俺にも、友達と呼べるデジモンが居た。歌を歌う事が上手くて、こんな俺とも繋がりを持ち続けてくれた変わり者なデジモンが」
「デジモンも、歌を歌うのか?」
「ああ、今でもあの
「…………」
「だから、思うんだ。俺に、この憧れを捨てさせないでくれって。あの輝きに対する思いが間違いなんかじゃなかったと信じさせてくれって。……俺だって、認めたくない。あの人間がこれから死ぬなんて未来は、絶対に。だから、頼む。もし許してくれるのなら、俺の力であの人間を救ってくれないか。傷付ける事にしか役立てなかったこの力を、誰かを救うために使ってくれないか……」
それは、紛れも無くリヴァイアモンというデジモンの願いなのだろう。
望まざる境遇に置かれながら、望みを封じ込めねばならなかった怪物の善性を支える、一本の柱なのだろう。
蒼矢は、その言葉を聞いた。
その上で、こう返した。
「……いいや、駄目だ」
「…………」
「さっきも言ったはずだ。僕には、傷付ける事しか出来なかった。その上、あの子を助けようと動いても、あの悪党には到底敵わなかった。ただでさえ対抗する事が出来ない状態で、救う事なんて出来るわけが無い。傷付けるだけの力だけでも、足りないんだよ。あの子を救うには足りないものがあるんだ」
だから、と一泊置いて。
蒼矢は、一つの言葉をリヴァイアモンに向けて力強く言い放った。
「使うのでもない。使われるのでもない。
リヴァイアモンはしばし、その言葉を静かに噛み締めていた。
自分に向けて浴びせ掛けられた言葉の意味を、考えているようだった。
そして。
やがて。
彼は、いっそ『らしい』とさえ称する事が出来る獰猛な笑みを浮かべて、こう返してきた。
「お安い御用だ。そんな眩し過ぎる願い、断るわけが無いだろう……!!」
今度こそ。
分かれていた二つの心と力は、同じ望みを得て重なる。
暗闇に閉ざされた深海の景色に蒼く輝く光が
◆ ◆ ◆ ◆
(く、そ……)
縁芽好夢は現状に対して歯噛みしていた。
彼女にはこの状況に至るまでの仮定や事情はおろか、自分や目の前の悪党の体を変化させているモノの正体さえも見えてはいないが、それでも一つだけ確信出来る事があった。
悪党の企みを阻止出来ていない――そう思わざるも得ない何かが目の前で起きている事だ。
(あの……繭みたいな物は何なの……クソ野郎が一切動揺していないって事は、アレは悪党の目論見の範疇にある変化って事だろうけど……それにしたって、アレはいったい……)
彼女の視線の先には、三つの無視出来ない要素が存在している。
一つ目は言うまでも無く、行いからも態度からも悪党と確信出来る炎の魔人の姿。
二つ目は、炎の魔人の前に立ち塞がった結果、魔人の脚力でもって蹴り飛ばされ致命傷を負ったと思わしき女の姿。
そして三つ目は、そんな女の姿を見て絶叫した青緑色の半魚人が絶叫した直後、その体を覆う形で発生した赤黒い繭のような
どれもこれも、好夢の理解の外にある情報だ。
変化の恩恵として得たウサギの耳で会話を聞く事が出来たとはいえ、事情の全てを理解する事は出来ない。
それでも、解った事があるとすれば。
(……あの女の人には事情があって、悪党の企みに加担せざるも得なかった。だけどあの半魚人が傷付けられる姿を見て、耐えられなくなった結果行動した。そして、ああなった。それを見た半漁人に『何か』が起きた。そしてそれは、きっと悪党の企みの中の『想定内』にある変化……)
総評して、思う。
(……くそっ、こんな話が現実にあるっていうの!? どう考えたって、あの女の人は半魚人の事が好きなんじゃない。それなのに、悪党の企みに加担するしか無くなるような事情を背負わされて……この分だと家族辺りが人質に取られているんでしょ。こんなの、救われなさすぎる!!)
それほどまでの状況に追いやられながら、誰にも助けてはもらえなかった。
悪党の思惑の外から助けに来てくれる、都合の良いヒーローは現れなかった。
そして、あるいは悪党の『想定外』から来た自分自身こそがこの状況を打破出来る可能性を有していたのかもしれないが、明らかに自分の力は悪党を打倒するに足りていない。
むしろ、助けるつもりが足を引っ張ってしまっている可能性すら頭に過ぎる。
(……どうすればいいの……あの野朗の体に、あたしの攻撃は通用しない。単に殴ったり蹴ったりするだけじゃ足りない。関節技を狙おうにも、あんな体に少しでも触れ続けたらそれだけで手や足を失いかねない。そうなったら嬲り殺しはほぼ確定。せめて、体の頑丈さに関係無くダメージを与える方法があれば……)
この建物が廃棄された建物である事ぐらいは、彼女も予想出来ていた。
構造だけ見てもどんな目的で造られた建物だったのか確信を持つ事は出来ないが、空間そのものは広く作られているらしい。
やはりと言うべきか、廃棄されているだけあって何か武器として使えそうなものは落ちていない。
せめて、脳天にぶつけて気絶を狙えるような何かでも落ちていないか――そう考えていたのだが、
(……あれは……)
見過ごせないものがあった。
それは、蹴り飛ばされて死んだように倒れこんでいる女の体の近くに落ちていた。
遠くからではよく見えないが、黒くて硬そうな――リモコンに似た平たく長い四角の物体が。
廃棄されているためテレビはもちろん机や椅子も無い部屋に、エアコンやテレビを操作するために使うリモコンが置き去りにされているとは少し考えにくい。
もし、可能性があるとすれば……。
(……スタンガン?)
位置の関係からか電極部分が見えていないが、だとすればこれは打開に繋がる重要なピースだ。
拳と大差無いリーチの武器ではあるが、スタンガンであれば体の頑丈さに関係無く相手の意識を刈り取る事が出来る。
誰が、何の目的でこの場に持ち込んだのかは知らないが、あるいは倒れている女が持ち込んでいた武器だったのかもしれない。
(……だとしたら、さっきの場面で不意討ちしなかった事が疑問ではあるけれど……家族を人質に取られている状況で、明確に『攻撃』する事は出来なかったと考えれば納得出来る。何にしても、アレは使える!!)
炎の魔人の視線は今、赤黒い繭の方へと向けられている。
今ならば、スタンガンを回収出来るはずだけのチャンスが残されている。
そう考えた好夢は、建物の壁に背を寄せている体勢のまま足の調子を確かめる。
ダメージの影響からか、想っていた以上に動作は重くなっている気がするが、それでもまだ動く事は出来るはずだ――そう信じる。
(……頼むから、見間違いなんてオチだけは勘弁してよね……)
駆け出す前に気付かれては阻止されかねないため、靴底が床を擦る音を立てないように意識しながら、静かに立ち上がる。
右脚に力を込めて、念のため一度だけ視線を炎の魔人に向けて、
(……なっ!?)
駆け出すその直前、好夢は見た。
炎の魔人の視線が、唐突に赤黒い繭から倒れている女の方へと向けられたのを。
そして、魔人は歩き始めた。
もう何も出来ないはずの女に向けて、まるでトドメでも刺しに向かおうとしているように。
(冗談じゃない……っ!?)
自分で立ち上がる事すら難しくなるほどのダメージを受けた生身の人間に、また人外の力によって底上げされた身体能力てもって暴力を振るわれたら、間違い無く倒れている女は死ぬ。
いやそもそも、既に死ぬ寸前なのかもしれない。
最早スタンガンの事も、内部でどのような『変化』が生じているのかどうかも定かでは無い赤黒い繭の事も、考えられる余裕は無かった。
……だとしても、直後の行動に突撃を選択したのは失敗だったかもしれない。
「あン?」
好夢の動きに気付いた炎の魔人が視線を向けて来る。
風が唸るような音と共に炎の魔人が左腕を振るわれ、その動きに応じた鎖が鞭の役を担って好夢の即頭部を打った。
鈍い音が炸裂し、衝撃に体勢を崩された好夢の体が汚い床に倒れ込む。
「……い……っあ……」
意識が朦朧とする。
打たれた部分に左手で振れてみると、やけに粘ついた触覚があった。
出血してしまったらしい。
「……ッたく、面倒事を増やすンじゃねェよ。お前の事は後回しダ」
鬱陶しそうな声と共に、炎の魔人が再び倒れた女の方へと歩み出す。
あくまでも、戦闘能力を失っていない好夢よりも悪党の意向に逆らったあの女の方を優先するつもりらしい。
「やめ、ろ……っ」
制止を呼び掛けても、聞く耳を持つような相手ではない。
炎の魔人は、蹴ろうと思えばその場から移動せずとも可能となる距離にまで足を運ぶ。
いったい、何をするつもりなのか。
何をするとしても、あれほどの悪意の持ち主が救いのある選択をするとは思えない。
そして、その悪意の進行を止められる者がこの場には存在しない。
(……お願い……)
それでも、好夢は思う。
(起きてよ、
頭から血を流し、汚い床に転がりながら、無様だと自覚しながらも。
縋るように、願って。
(……誰か、誰でもいいから、あの女の人と半魚人を……)
願いが届くはずはなかった。
炎の魔人の右足が、女の体を蹴り飛ばさんと振りかぶられ、
そして。
乾いた音が炸裂する。
だが、それは炎の魔人が自らに逆らった女を蹴り飛ばした音ではなく。
むしろ、炎の魔人の方こそが何らかの攻撃を受け、真横の方向へと吹っ飛ばされる音だった。
「うお……ッ!?」
初めて、炎の魔人から驚きの混じった声が漏れた。
その光景を眺めていた好夢でも、疑問符を浮かべざるも得ない出来事だった。
気付けば、裏切り者の女のすぐ傍に、まったく見覚えのない誰かがいた。
(……あれは……!?)
その瞳に宿す色は水の色。
体を主に占める鱗の色は、怒りの情や炎を想起させる鮮やかな赤。
背からは幾つかの
間接部を含んだ体の各部を黄色い鎧のような外殻が覆っていて、その頭から顔は人間のような平たいものではなく前方に突き出した爬虫類を想起させるものになっていて、全身各部を覆っているものと同じ黄色い外殻が後頭部から鼻先までを覆い兜のような形を成している。
極めつけに、右腕を覆う
その、人と同じ五指の両手と獣のような逆間接に三本指の両脚が、顎の部分から胸・腹・股間・尻尾の裏側までをなぞるように生じている白い蛇腹が、竜人という単語を好夢の脳裏に過ぎさせる。
だが、そもそもこいつは何処から現れた?
タイミングから見ても攻撃した相手からしても、好夢としては助けられたのだと信じたい一方で疑問を浮かべずにはいられなかった。
故に、彼女は状況を確認しようと視界を左右に振ってみた。
それだけで、全てを察する事が出来た。
気付けば、炎の魔人が『想定内』と判断していた赤黒い色の繭が消失していたのだ。
あの中には、悪党が身柄を狙っていると思わしき青緑色の鱗に覆われた半魚人が居たはずだ。
その二つがこの場に見えなくなった代わりに、未知の介入者としてあの赤い竜人が現れた。
だとすれば、どのような手段を用いたのかどうかはさておいて、炎の魔人を倒れている女から遠ざけるように吹っ飛ばした竜人の正体は――。
(あの半魚人の体が変化……いや、
我ながらトンでもない回答を出してるな、と好夢は思う。
だが、きっとそれが正解なのだ。
赤い竜人は自らが吹っ飛ばした(と思わしき)炎の魔人の事など気にも留めず、倒れている女に向けて口を開く。
そこから発せられる言葉を、好夢は兎の両耳で確かに聞いた。
「……ごめん。気付く事が出来なくて……」
謝罪の言葉があった。
何に対しての謝罪かは、解りきっていた。
好夢が倒れている位置からでは、女の表情も竜人の表情も見えない。
けれど、思う。
きっと、その一言だけで十分だったのだろう。
竜人は次に、同じく倒れている好夢の方へと視線を投げてきた。
「……ありがとう。そんなになるまで、戦ってくれて……」
想いもしなかった言葉だった。
特に感謝を求めて介入したわけではないため、こうして礼を貰うと反応に困った。
とりあえずの判断で立ち上がろうとした所で、竜人は改めて炎の魔人の方へと向き返り、
「
「……随分と、自信あリげな台詞ヲ吐きやガる」
直後に、応じるように苛立ちの篭った声が聞こえた。
一度は体勢を崩して横転していた炎の魔人は、体勢を戻して赤い竜人の姿を見据えている。
「レベルが上がったようだが、そこで『魔王』に至らなかったンじゃ話にならねェ。同じ完全体のデジモンの力を使ッていヨうが、地の利はこちラにアる。状況が不利だッて自覚はあルか?」
「…………」
「つくづく思い通リにならねェ野朗だ。飽きモせずその女を守ろウと動くとはな。……やッぱ、その女の死体で手ッ取り早く『後押し』してヤるべきか。どウやら想像してイた以上に効果ガあるようダからなァ」
ここまで、炎の魔人が自らの力を殆ど発揮していなかった事ぐらいは好夢も察していた。
ただでさえ近付くだけでも火傷してしまいそうな程に高まっていた体温が、更に高まっていくのが空気越しにも伝わってくる。
下手をすると、こうしている間に床さえも熱したフライパンのように加熱され続け、マトモに足踏みする事さえ出来なくなっていくのかもしれない。
だが、赤い竜人は怯みもしなかった。
悪意の全てを断ち切るように、その竜人は告げる。
「させないぞ」
宣戦布告でもするように、真っ向から。
右の手のひらを強く握り締め、拳の形を作り。
その瞳に、抗う意思を込めて。
「これ以上、もう何も奪わせはしない」
ここから先は、彼の出番。
一人の救われない少女を救うために。
閉じた心の扉を開き、赤き竜の戦士が立ち上がる。
……と、いうわけで最新話でしたが、いかがだったでしょうか?
苦節三年ぐらい……司弩蒼矢というキャラを登場させてから、ずっと書きたかった念願の覚醒回です。
まだ二章なのにもう完全体出すのかよ!? って疑問の声もあるのかもしれませんが、それ言うたらアドベンチャーと比べてテイマーズとかセイバーズは何話目に完全体出たよって話にもなり、何より想いのチカラさえあれば多少の無茶は道理として通るので何の問題もありません。
さて、見ての通り『メガシードラモン』の力が解禁されて二足で立てるようにもなって陸上戦闘解禁です。
彼の覚醒に一役買った今回初登場のリヴァイアモン……嫉妬っつっても色々あるわけで、劣等感がその中でも特筆してわかりやすい部類かもしれませんが、彼の場合は『憧れ』という形で様々な方向に羨ましさを感じてしまっている所為で色々と面倒くさい事になっています……それでも、醜さの象徴的な扱われ方をされる事が多い『嫉妬』という感情も、切り口を変えるとおもしろい見方が出来ると思っています。
ようやくこの『第二章』で自分が書きたかった話の一つを書き上げられて凄く嬉しいです。
それでは、次回の話をお楽しみに。
感想・指摘・質問などいつでも待っております。