DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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前回で序章は終わりだと言いましたね。すまん、ありゃ嘘じゃ。




電子世界にて――『そして一日が終わる』

 もうじきに日が完全に落ち、昼型のデジモンは住処に戻り、夜行性のデジモンが行動を開始する、そんな夕方のデジタルワールド。

 

 海での釣りを終え、三匹のデジモン一行は自分達の暮らす発芽の村へ歩を進めている――

 

「あ~!! やっぱり美味しいなぁ」

 

「ま、釣り立てで新鮮な状態だしな。美味しくて当然だと思うぜ」

 

 ――はずなのだが、今は左右に林が見える獣道の上で食事中だった。

 

 食べている物はもちろん海で釣った魚で、バリボリと音を立てながらそれらを貪り食う姿はデジモン達からすれば普通の光景。

 

「………………」

 

 ニンゲンにとっては、動物園ぐらいでしか見る事の無い光景。

 

 うわぁ、とでも言わんばかりの表情で二匹を見ているのは、元は人間、現在は赤い恐竜のような姿をした爬虫類型デジモン――ギルモンのユウキ。

 

 人間だった頃から魚の生臭さに慣れていないのか、鼻をつまんで眉間(みけん)にしわを寄せている。

 

「ギルモ……ユウキ~? 魚食べたいなら、分けてあげるけど~?」

 

「い、いらない……」

 

 そんなギルモンの様子が視界に入ったベアモンが、自分のバケツにある魚を分けようと声を掛けるが、生魚を調理もせずにそのまま食べるという行為自体に、人間としての知性が拒絶反応を起こしてしまった。

 

 だが、デジモンとしての本能が口元からよだれを漏らすという形で出ている。

 

「口元からよだれが漏れてる奴の言う台詞では無いと思うぜ」

 

「こ、これはよだれじゃなくて……汗だ」

 

「へぇ~、お前は口から汗を出せるのか~、まぁ食いたくないなら仕方ないよな~」

 

 煽りも含めた棒読みの声でいじられ、ぐぎぎ、と歯軋りをする元一人の現一匹。

 

 実際の所、生魚をユウキが人間の理性の許容範囲で食べられる物に変える方法はあるし、その方法をユウキ自身も理解している。

 

 なら何故それをやらないのか、それもまた単純な理由で。

 

(元は人間だったのに、火の吐きかたなんで分かるわけないだろ……)

 

 火を吐けない竜などただのトカゲとは、まさにこの事だろう。

 

 自身の成っている種族の事をよく知っていてはするものの、それらを実際に行うにはどうすればいいのか、人間としてただ生きていただけのユウキには分からない。

 

 目の前で野菜スティックのように魚が処理されていく。

 

 必死に理性を振り絞ってガマンをしていたが。

 

「……ん?」

 

「おっ?」

 

「………………」

 

 二匹の視線がユウキに向けられる。

 

 より正確に言えば、空腹のサインを意味する音を鳴らした腹部へと。

 

 ただでさえ赤い体をしているのに、恥ずかしさでその顔を更に赤らめている辺り、空腹に対する自覚はあったようだ。

 

「腹、減ってんだろ?」

 

「………………」

 

「どういう暮らしをしていたかは知らないけどよ、空腹の時ぐらいそんな下らないプライドなんて捨てちまえ。ただ辛いだけだぞ?」

 

「……プライドとかそういう問題じゃねぇよ」

 

「? 何が」

 

 思わず問い返すエレキモン。そしてユウキは、その問いに対して自身の常識と言う名の答えを出す。

 

「……元は人間だったのに、簡単にデジモンの食習慣に馴染めるわけがないだろ。刺身でもないのに、生で魚を食べようとはとても思えない」

 

「要するに、食わず嫌いか? 味も知らないのに、そういう事を言うのは感心しねぇな」

 

「何とでも言えよ……とにかく、その状態の魚を食うつもりなんてないから放っておいてくれ……」

 

 思えば自分はデジモンに成る前、何をどのくらい食べてたのだろうか。

 

(……フライドチキンとか豚のしょうが焼きとか、もう食えないのかな……)

 

 自身の記憶を探っていくだけで、今まで食べた経験のある物のシルエットが脳裏に浮かび出てしまう。

 

 その度に、ユウキはただ深いため息をつく。

 

 すると。

 

「……むぐっ!?」

 

 突然ベアモンが自分のバケツから魚を一匹取り出し、ため息を吐いていたユウキの口に思いっきり突っ込ませる。

 

 そして、そのままベアモンはユウキの口を両手で閉じさせた。

 

「むぐぐ、ぐ~!?」

 

 ユウキは突然の行動に驚きながらも抵抗を見せる。

 

 それに対してベアモンは腕の力を強めながら、ただ一言だけ告げた。

 

「嚙んで」

 

「!!」

 

 やむを得ずベアモンの言う通り、口の中で魚を嚙み始める。

 

 味は海釣りの魚な事もあってかなり塩辛く、食感はあまり良い気分がしない生々しい感触。

 

 人間としての知性が、それら全てに対して不快感を表した。

 

 

 

 

 

 

 

(……あれ、旨い?)

 

 だが、実際は拒絶反応を起こすどころか不思議な事に、ユウキはそれらの要因を全て受け入れられていた。

 

 その理由をユウキ自身でも理解していなかったが、実際はデジモンに成った影響で味覚が変わっているのが原因だったりする。

 

 当のユウキはそれを理解する事も無く、ある程度嚙み解した魚を飲み込み終えた。

 

 それを確認したベアモンは、簡潔な質問をユウキに対して行う。

 

「どう? 美味しかったでしょ?」

 

「……あぁ」

 

「……お前、強引だなぁ。わざわざ直接食わせなくても良かったんじゃね?」

 

「結果オーライでしょ。喜んでもらえたみたいだしさ」

 

 予想に反して、それなりに満足感を得られたらしい。少し前のどこか苦しそうにしていた表情は、過去形のものとなって消し飛んでいた。

 

「……ベアモン」

 

「ん?」

 

 そして、今の気持ちを忘れない内に、ユウキはベアモンに知れた事を頼む。

 

「……もう少しだけ、貰ってもいいか?」

 

「……いいよ!!」

 

 バケツの中から、追加で二匹をユウキに手渡す。

 

 受け取ると共に、食欲のままダイレクトにかぶり付いた。

 

 バリッと骨を砕く音が聴覚に、肉を喰らうリアルな感覚が思考に伝わる。

 

 飲み込む度に、飢えていた食欲が満たされていく。

 

(……ここがデジタルワールドなんだとしたら、俺が元いた世界はいまどうなってるんだろう……)

 

 色々と考えるべき事は山ほどあるが、今はただ()える(うち)に食っておき、体力を(たくわ)えておくのが先決。

 

 二つのバケツにあった魚の量が最初の時から半分減った頃に、三匹は食事を終えたのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

「もう暗いね~……」

 

「見ればわかるだろ。食事で以外と時間を食っちまったしな」

 

「うまい事言ったつもりなのかそれ……」

 

 食事を終えた後、三匹のデジモンは特に何事も無く村へと到着していた。

 

 デジタルの太陽は既に月に置き換わり、空は神秘的な星の輝きと万物を覆い隠す闇に包まれている。

 

「そういや村に帰ってこれたのはいいけど、ユウキはどうすんだ?」

 

「どうするって……え? 何か考えがあって連れて来てくれたんだと思ってたんだが」

 

「いや、村に住むって点はいいんだ。問題なのは、何処で寝るかって事だよ」

 

「……あ」

 

 さて。

 

 村に何事も無く帰ってきたのは良かったものの、問題はそれなりに残っていた模様。

 

 早速三匹は、よそ者であるデジモンを何処に住まわせるかと言う問題に直面した。

 

「長老の所にでも行ってみるか? 頭いいし、助けになってくれると思うぞ」

 

「長老かぁ……う~ん、もう時間も遅いし今日はやめておかない?」

 

「だがよ……俺はまだ会ったばかりの訳分からん奴を家に入れたくない。見知らぬ奴を何も言わずに受け入れてくれる家は、まず無いと思うぞ」

 

 よっぽど納得出来るほどの理由が無い限り、怪しい人物(デジモン)を住んでいる場所に同居させようと思う者はいないだろう。

 

 それは人間だろうがデジモンだろうが同じ事なのだ。

 

「う~ん……それならさ」

 

 だが、何事にも例外というのは存在するものでもある。

 

「ギルモンは僕の家に住んだらどうかな?」

 

「……え?」

 

「もうお前が馬鹿なのか図太いのか、分からんくなってきたよ」

 

 ベアモンの発言にユウキは思わず気の抜けた声を出し、彼の性格をよく知っているエレキモンも思わず頭を痛める。

 

 実際の所、ベアモン自身がユウキと同居する事を拒んでいるわけでも無かったため、驚くほどに早く問題が解決してしまった。

 

「ハァ、色々呆れちまうぜ」

 

(……何か、このエレキモンって色々と苦労してそうな感じがするな)

 

「じゃあこんな時間だし、俺はもう帰るわ……」

 

「おやすみ~」

 

 エレキモンはもうベアモンを止めるつもりが無いのか、告げ口をした後に四つ足で自分の家に向かって駆けて行った。

 

 もう昼型のデジモンは眠る時間なのだろう、空がまだ明るい時間の時には見えたデジモン達の姿が少なくなっており、逆に明るい時間には見なかったデジモン達の姿が徐々に見え始める。

 

 無論、ベアモンもギルモンも昼型のデジモンだ。

 

「じゃあユウキ、僕らもそろそろ寝ようか」

 

「あ、あぁ……」

 

 ユウキはベアモンに付いて行く形で歩を進める。

 

 ある程度歩き、僅か二分程度の時間が経った頃には目の前に一軒の木造で扉の無い家があった。

 

 これだけオープンにしているというのに、誰にも荒らされたり物と盗まれた経歴などが見えない辺り、村の住人の中に悪いデジモンがいるわけでは無いようだ。

 

(人間の世界なら、物の見事に空き巣に入られていただろうなぁ……)

 

「おじゃましま~す……」

 

「いや、これ僕の家だからそんなに畏まる必要無いんだけど」

 

 そう内心で勇輝は呟きながら、ベアモンと共に家の中へと御邪魔(おじゃま)した。

 

 内部には特に目立った特長が無いが、逆に言えばとても住みやすい快適な環境とも呼べる印象を持てる。

 

 テレビや冷蔵庫といった電化製品の姿は無い。あるのは申し訳程度の本が並べられている本棚と、帽子やベルトを掛けるためのオブジェぐらい。

 

 まぁ、このように自然(ナチュラル)な空間の中に機械(マシン)があったらそれはそれで違和感を感じるのだが。

 

 ベアモンは持っていた釣り竿とバケツを壁の端に置くと、自身の腕と肩に巻いていたベルトを外し始めた。

 

「ふぅ~、今日も釣れたなぁ」

 

(……ベアモンのベルトって、取り外しが出来たんだ……)

 

 ユウキが内心で意外そうにしている間に、ベアモンは肩から腰にかけて巻いていた最後のベルトを取り外す。

 

 ベルトを外した事で目にする事になったベアモンの手はユウキから見て、小さい肉球のような物が見える熊らしい手で、その手に秘めた力が見ただけでは把握出来ないような印象があった。

 

「くるくるくる~……よっ、と!!」

 

(え、投げんのか?)

 

 ベルトを全て外し終えたベアモンは、次に頭に被っていた帽子を片手の指で器用に回すと、そこからスナップを効かせて帽子を投げた。

 

 投げられた帽子は見事に帽子掛けに帰還し、ベアモンは満足そうに頷いた。

 

「ふわぁ~……もう眠いや」

 

 全ての装備を外したベアモンは、部屋の奥に見える自然で作られたベッドの上で横になると、その体制のままユウキに対して言葉を発する。

 

「ユウキは……とりあえず、僕と同じベッドで寝てもいいから~」

 

「ハァ!?」

 

 警戒心を欠片も感じられないベアモンのあくび交じりの言葉に、ユウキは思わず芸人のようなオーバーリアクションを無意識の内に披露しつつ、驚きの声を上げた。

 

 と言うのも、ベアモンが眠るベッドに自分の体が入るスペースがあるにはあるのだが、ベアモンとの距離が僅か数センチの密着状態になってしまうほどの狭さなのだ。

 

「お、おい、流石にそれだと色々と危なくない……か……?」

 

「ぐぅ~……」

 

「ね、寝てるゥゥゥゥッ!? たった数秒間の間に夢の中へダイブしやがった!?」

 

 色々な問題点を指摘する前に、ベアモンは既に眠りの中へと入っていた。

 

 後に残るのは、静寂と状況に取り残された一匹の爬虫類型デジモンのみ。

 

「……どうしてこうなった」

 

 夜中の発芽の町にて、一匹の元一人がただ自問自答をするように呟いた。

 

 こうして、波乱の一日は終わりを告げたのだった。

 

 数多くの疑問や謎、そして明日への不安を確かに残しながら。




実を言えば、どこまでを『序章』にしようか迷ってたりするんですよね……とりあえず、この話で切っても良いのですが……

ひとまず、作者の思考次第で序章がどこで終わるかは変わりますとだけ言っておきます。

もっとも、流石にこれで序章は終わりだと思っていますが。
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