DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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序節その②「牛歩」Side:エレキモン

 

 変わり者の、自分のことをニンゲンだと言うギルモンことコーエン・ユウキを町に連れ帰って、チームとして一緒に活動するようになってから、早いものでもう二週間ほどの時間が経った。

 最初は何もかもがぎこちない、進化した時以外は足を引っ張ることのほうが多かったアイツも、チームとしての活動――というか『ギルド』からの依頼をこなしていく内に随分とマシになってきている。

 元がニンゲンだったって話についても未だに疑う余地を残してこそいるが、まぁそんなことで嘘を吐いて何かしら得をするとも思えないし、少なくとも嘘を吐いているわけではないと俺も思う。

 多分だがお人好しのベアモンも同じ考えだろう。

 

 むしろ、疑うべきはアイツと一緒に行動するようになってから、以前にも増して狂暴化したデジモン達と遭遇するようになったという点だ。

 ユウキが何かをしたわけでも無いのに、まるでアイツの存在に引き付けられるように、何度も何度も厄介事が滑り込んできやがる。

 依頼を受けて外出する度に、一体ならまだしも複数体遭遇することさえあるそれを、俺は偶然だと思えない。

 ニンゲンという存在のことについては詳しく知らないが、少なくともデジモンを狂暴化させる力を持っているなんて話に覚えは無いし、現実的に考えるならユウキに原因があるわけでは無いんだろう。

 とはいえ、謎は残る。

 仮にデジモンを狂暴化させることが出来る『誰か』がいるとして、そいつがユウキやベアモン、そして俺に狂暴化デジモンをけしかける理由はなんなのか。

 殺すつもりだというのならもっと数多くのデジモンを狂暴化させて襲わせれば確実だろうに、遭遇する狂暴化デジモンは大抵決まって一体から三体までの成熟期の個体。

 いやまぁ、進化出来なかったら普通に死ぬやつだし、実際に以前死にかけた時もあったわけだが。

 それでも俺は、意図を感じずにはいられない。

 これじゃあ、殺させる事が目的なのではなく、戦わせることそのもの――戦いによって生じる成長そのものが目的みたいだ。

 事実、度重なる戦いによってユウキは着実に強くなっている。

 いろいろ不安定ではあるが、進化の力も短時間なら発揮出来るようになりつつあるし、出会った頃の貧弱っぷりは何処へやらといった調子だ。

 プライドの話として認めたくはないが、頼りには出来るようになっている。

 

 あぁ。

 恐らくこの成長を意図した野朗からすれば余分なことだろうが、当然戦いに巻き込まれてる俺やベアモンも成長はしている。

 今では短時間なら成熟期の姿に自分の意思で進化出来るようになっているし、もしかしたらそのうち成熟期の姿が一時的なものではなくなって、完全な意味でエレキモンからコカトリモンへと進化の階段を登ることになるのかもしれない。

 もちろん、それはベアモンやユウキにも当てはまる事になる話だ。

 どんな経緯があれデジモンである以上、いつまでも進化しないままではいられない。

 成長と進化は一方通行、望む形であれ望まない形であれ、それを止めることは基本できない。

 俺はエレキモンではなくなり、ベアモンはグリズモンになる。

 唯一、元はニンゲンだったというユウキの行き先が気にかかるところではあるが、進化が出来るという時点で例外だとは思えない。

 戦い続けていけば、いつかグラウモンとしての姿が当たり前になるはずだ。

 

 尤も、デジモンとしての姿はあいつにとって本来の姿ではないんだろう。

 進化した先の姿が当たり前になることを、あいつはどんな風に想っているのか。

 よりニンゲンの体に戻れなくなりつつある、なんて風に悪く考えてしまってるんだろうか。

 ニンゲンの世界に戻りたいと願っていたり、デジモンになっていた事に対してショックを受けていた辺り、デジモンとして進化していくことに良く思えているとは考えにくいが、実際どうなんだか。

 デジモンである俺には、ニンゲンの価値観なんてわからない。

 そうじゃないと生きていられない、というのなら理解も出来るが、ニンゲンの姿だろうがデジモンの姿だろうが生きていくのに不都合無い状態でいられるのなら、どっちの姿でも大差は無いんじゃないかと思う。

 仮に、ニンゲンという存在がデジモンよりも弱っちぃ体をしているとしたら、尚の事。

 ニンゲンだろうがデジモンだろうが、弱ければ簡単に死んでしまうんだから、強くなって死ににくくなるのならそれに越したことは無いはずだ。

 それでもニンゲンの姿と世界に固執するのなら、あいつにとってそれ等はただ生きていく事以上に大事なことを含むものである、ということになる、のか。

 

 まったく。

 狂暴化デジモンのことにしろユウキのことにしろ、何もかもわからない事だらけだ。

 ただ一つ解る事があるとすれば、俺たちは想像以上に面倒臭い事に巻き込まれている、ということぐらい。

 こちとらまだ成長期の身の上なんだから、もう少しぐらい物事は簡単にしてくれないもんだろうか。 

 

(ま、やるしか無いならやるだけだが)

 

 そんなこんなで。

 今朝もまたいつも通り、俺ことエレキモンはベアモンとユウキの住まいに向かう。

 発芽の町の朝は早いもので、畑仕事だの行商の荷運びだの、元気に活動しているデジモン達の姿が多く見られる。

 基本的にのどかな町だが、自分の仕事を持つやつに限ってはいつも朝は忙しげだ。

 まぁ、今となっては俺達もその枠組みに入っている身の上なわけだが。

 ぶらぶらと町の様子に目を見やりながらベアモン達の住まいに向かっていると、道中に声がかかる。

 

「おぉ、エレキモン。おはようさんだな」

「ん、ギリードゥモンのおっさん」

 

 森林の景色に擬態するカモフラージュ用の衣装に身を包んだ完全体デジモンことギリードゥモン。

 こいつは手先が器用なやつで、そこいらで集めた素材を用いて作った小道具や香などを、余所で商いとして売り捌いているデジモンだ。

 戦い――というか、狩猟の話になるとその背に携えた武器で標的を確実にしとめる、高い技量の持ち主でもある。

 究極体に進化出来るとも噂される長老のジュレイモン、そしてギルドのリーダーを勤めるレオモンことリュオンと並んで、この町で実力者と称されるデジモンの一体。

 仕事では確か、モーリモという個体名を用いていたっけか。

 売り物を載せていると思わしき屋根付きの荷車を引き摺る足をわざわざ止めたおっさんに対し、俺は適当な調子で言葉を返す。

 

「おっさんはこれから出発か?」

「そうだなー。最近はいろいろ物騒だが、出来ることはしっかりやっとかんと。お前さんは友達のベアモンとギルモンとでギルド仕事か?」

「ギルド仕事はそうだけど別にあいつ等とは友達なんて間柄じゃねぇよおっさん」

「そうなのか? あんないつも仲良くしてるのになぁ。素直じゃないのは得しないぞお?」

「うっせぇやい、別に俺はいつだって素直だっつの」

「ん~。まぁ、険悪になってないんならいいんだが。お前達はまだちょっとだけ成熟期になれるようになっただけなんだから、お互いに力を合わせてくことを意識しないと駄目だ。ケンカはほどほどにな?」

「ケンカも別にしてねぇってば。理由もねぇし」

「そうか~?」

 

 これもまた、いつもの事ではあるのだが。

 ギリードゥモンのおっさんは、俺やベアモンみたいな成長期のデジモンによく世話を焼くやつでもあり。

 毎度毎度、生き残るための知恵や、近辺地域の情報を教えてくれたりもしている。

 食料を安全に確保出来る場所――ユウキのやつを釣り上げたあの砂浜――を最初に俺やベアモンに教えてくれたのも、ギリードゥモンのおっさんだった。

 言い換えれば、それほどの知識を有するデジモンでもあるということ。

 少しだけ鬱陶しいのがたまに傷ってやつだが、その知識は参考に値するものだ。

 

「……というか、おっさんこそ大丈夫なのか? 最近物騒って、おっさんだって他人事じゃないんだが」

「急がば回れという名台詞に従えば大丈夫だったさ」

「狂暴化したデジモンに襲われたりはしてないってことか?」

「鼻がイイやつにはたまにバレるが、まぁ大事にはならんようにしてるさ。基本的には一度寝かしたりくたびれさせれば落ち着くやつ等だからなぁ」

「あぁ、そういえば俺達が戦ったのも大体そんな感じだったっけ……」

 

 ギリードゥモンの言う通り、狂暴化したデジモン達は一度気絶させたり戦う力を削いでやると元の平静さを取り戻す傾向にあった。

 相手が野生化デジモンであるため詳しい聞き取りはあまり出来なかったが、おそらく何かしらの原因で沸きたてられた衝動を発散し終えられたからだろうとギルドのリーダーのレオモンやミケモンは推測していた。

 本当のところはどうなのかわからないが、殺さずに済ませられるのならそれに越したことは無いから、俺もそれ以上の疑問は挟まないことにしている。

 今のところは、だが。

 

「……んじゃ、オレっちはそろそろ行くとするよ。お前達も無理はしないようにな」

「少なくとも俺は堅実なタイプだしアイツ等と一緒にされたら困るんだってば」

「ヤケクソになって頭突きとかしてる内は堅実とは言えないぞ~」

「いくらなんでもヤケクソにまではなったことねぇよ」

 

 言うだけ言って、ギリードゥモンは荷車を引きながら町の外に向かっていく。

 レオモンとミケモンの中間ぐらいの体躯しか無いのに、大量の売り物を載せた荷車を軽々と引いているところを見ていると、つくづく体の大きさなんて基準にならないことを思い知らされる。

 成熟期に進化したら、必然的に今度はあのおっさんや長老のジュレイモンと同じ領域を目指すことになるんだが、果たしてそれはいつになることやら。

 そして、進化するとして俺はコカトリモンから、ベアモンはグリズモンから、ユウキはグラウモンから――いったいどんなデジモンに進化することになるのか。

 

 基本的に、どんなデジモンであれ自分が進化する先を決めることは出来ない。

 順当に考えれば俺はより強い鳥のデジモンに、ベアモンはより強い獣のデジモンに、ユウキはより強い竜のデジモンに進化すると考えられはするが。

 そんな前提なんて、アテにはならない。

 獣のデジモンだったやつが何の前触れも無く竜のデジモンに進化する、なんてこともデジモンの進化にはよくある話なんだから。

 なりたい自分になれる、なんてのは夢物語に過ぎない。

 現に俺自身、別にコカトリモンに進化したいなんて特に思ってはいなかったのに、コカトリモンに進化してしまったわけだし。

 

 ぶっちゃけ同じ鳥のデジモンでも、せめて空を飛べるやつに進化したかったというか。

 バードラモンとかアクィラモンとかシーチューモンとか、そういうのが良かったというか。

 ガルルモンに襲われてたあの状況で空を飛べたところでどうにかなってた未来は想像できねぇけど、なんというかまぁ、微妙なのに進化しちまったなぁというか。

 空を飛べないならもっとこう、何か無かったのかというか。

 俺にだって選り好みぐらいあるし、ハヌモンとかバルクモンとか、そういうのが良かったというか。

 ベアモンとユウキが順当に強くなった姿に進化出来てる中で、俺だけ飛べない鳥ってどうなんだっていうか。

 

(電気も使えなくなってるしなぁ……)

 

 いくら戦いまくってるとはいえ、まだまだ先の話だとは思うが。

 完全体に進化する時は、せめてもっとマシなのに進化したいなと切に願う。

 そんな風に思いながら、ベアモンの家の前に辿り着いた俺の目に飛び込んできた光景はと言えば、

 

「――うぅ~ぐ~……」

「――!! ――!!」

 

 何やらうなされた様子のベアモンが、ユウキの首に両腕を回して思いっきり抱きついている光景であった。

 当然ユウキは窒息しかかって何かを訴えるように床をバンバンと叩いているが、寝ぼすけのベアモンに起きる兆しは見えない。

 そして、俺の存在に気付いたユウキが床を叩いていた右前足をこっちに向けてくる。

 その視線はこう語っているように見えた。

 

(エレキモーン!! 頼むからベアモンのやつを起こしてやってくれえええええ!! 死ぬ、これマジで死ぬーっ!!)

 

 まぁ、なんだ。

 戦いの時はたまに頼りになるのにそれ以外の時にはとことん頼りにならないやつだなぁとつくづく思う。

 仕方がない。

 もはや定番になりつつあるが、いつものやり方で馬鹿共を起こしてやるとしますか。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 直後に、空気の弾ける音と悲鳴が響く。

 チーム・チャレンジャーズの朝はいつも騒がしい。

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