DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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 序節はここまで、次回から第一節へと移行します。


序節その③「空隙」Side:ユウキ

 

 知らぬ間にギルモンになってデジタルワールドにやってきて、はや二週間。

 未だにわからない事だらけで、ほぼ毎日のように働き詰めになっているが、ベアモンやエレキモン、そして優しい村の住民たちの援助もあってどうにか生きられている。

 思い返してみても、こうして生存出来ていること自体が奇跡のようにしか思えない。

 経緯は知らないが、ベアモンに釣り上げられるまで俺は海の中を漂流していたらしいし、デジモンになって二日目の時には野生のフライモンに襲われて、三日目にはモノクロモンにウッドモンにガルルモン……と、成長期のデジモンとして存在している俺じゃあとても太刀打ち出来そうに無い格上の相手ばかり強いられていた。

 ベアモンとエレキモンの二人とチーム『チャレンジャーズ』を結成することになってからも、身に及ぶ危険の度合いが変わることは無く、ほぼ毎日のように格上のデジモンと戦う羽目になっている。

 そんなことばかりだったから、気付けば進化だって出来るようになっていた。

 初めての時――フライモンに襲われた時――には意識なんて無かったし、今だってどこか頭の中がボーッとして何を考えてるのかわからなくなる時があるけど、それでもベアモンやエレキモンとみんなで無事に生き残るために必要な力であることぐらい、俺も解ってる。

 

 俺はどうして、よりにもよってギルモンになったのか。

 アグモンとかブイモンとか、他にもいろいろデジモンの種族はあるだろうに、どうしてよりにもよってこの種族なのか。

 俺を拉致したのだろう青コートが望んだからこうなったのだろうか――まさか俺がギルモンというデジモンのことを好いていたからこうなったわけでもあるまいし。

 不思議な感覚だった。

 デジモンという存在について、俺は少なくともフィクションの話としては凄く好きなものだ。

 特にギルモンの進化系、その到達点の一つであるネットワークの最高位『ロイヤルナイツ』所属するデュークモンって種族については、ゲームでもよく育てたり愛用したりしていた。

 だけど、実際になってみて喜びがあるかと考えてみると、複雑な気持ちになった。

 好きだからこそ、同時に知っているんだ。

 ギルモンにグラウモン、ひいてはデュークモンも含めてその進化の系譜に該当されるデジモン達には、デジタルハザードという刻印がきざまれていて、それは世界から「お前は危険だ」と宣告されている証に他ならないと。

 フィクションの話であれば、あるいはそれも調味料の一種として魅力的に受け取れただろう。

 そんな危険性を宿しながらも世界を守る側に立っているからこそ、デュークモンという種族が大好きになったのだと言えなくも無いんだから。

 だが、これは今の俺にとってリアルの話だ。

 場合によっては身近な存在の安否に直結する、まず魅力的には受け取れない話だ。

 もし、自分のせいでベアモンやエレキモンが、町のいいデジモン達が取り返しのつかないことになってしまったらと思うと、怖くて怖くて仕方がない。

 このまま進化していったら、自分はどうなるんだろう。

 アニメの主人公とそのパートナーのように、デュークモンに進化出来るのか。

 それとも、そうじゃない方に進化してしまうのか。

 別に、どちらの進化が正しいだとか間違ってるだとか、そんなくだらない議論に付き合う気は無いし、どっちも力の使い方次第だろと言えはするけれど。

 それでも、怖いという気持ちは無くならない。

 好きなものになれた嬉しさが微塵も無いわけではないが、それ以上に俺の心は不安ばかりだ。

 

 現実世界では今どうなっているのか。

 アニメのようにデジタルワールドと現実世界の間に経過時間の違いがあるのなら、現実世界ではどれだけの時間が経ってしまっているのか。

 雑賀や好夢ちゃん、母さん達は無事なのか。

 

 デジタルワールドで行動することになって、早2週間ちょい。

 結局、俺がデジモンになった理由も、デジタルワールドにやって来てしまう羽目になった詳しい経緯も何もかも、わからないことだらけのまま、いつも通りとさえ呼べるようになりつつある朝を迎えることになる。

 

「で」

「……う……」

 

 時刻は早朝、場所は発芽の町と呼ばれる町にあるベアモンの家の中。

 考えるべきことは山積みだが、それはそれとして居候の俺にとっての家主でありチームメンバーである(反省を示すように正座している)ベアモンに向けて、俺は両腕を組みながらこう言った。

 

「ベアモン、とりあえず離れて寝るようにしないか? 俺頑張って地べたでも寝てみせるからさ」

「うわー待ってー!! 僕が悪かったのは重々わかっているし反省もしているからそんな遠回しな『嫌いになりました』宣言はやめてー!!!!!」

「嫌いにはなってないよ。ただ熊の腕力で首を責められると人死にが出るというだけの話だよ」

「ごべんなざいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!! ユウキを硬い地面の上に寝かすなんてそんなことさせたくないよせっかく家の中だってこうして色々と整えたりもしたのにー!!」

「ちなみに俺を抱き枕にしやがった感想は?」

「そういう意図も意識も無かったけどそれはそれとして幸せ!!」

「そうか。エレキモン、今日からお前の家で寝させてもらっていいか?」

「俺に迷惑かけないなら別にいいが」

「ヴぁー!?」

 

 よくわからんが危機感を覚えたらしいベアモンから(何かえぐい)悲鳴が漏れる。

 出会ってから今に至るまでで初めて見たと思うマジの涙目の表情に、流石に罪悪感が湧き出てきたので、珍しい機会にはなったがベアモンいじりはここまでにしておくことにした。

 が、それはそれとして。

 

「あのなぁ、いったいどんな夢を見てたんだよ。オバケが出る夢でも見たのか?」

「ちーがーうーよー!! そもそも僕は別にオバケとか平気だしー!! 出会ったとしてもこの拳で一発だしー!!」

「じゃあ何見たんだよ。いくらなんでもあの腕の力は寝返りにしちゃ度を越してると思うし、よっぽど酷いの見たと思ってるんだが」

「ユ、ユウキには関係無いじゃないか……」

「いやチームなんだから関係大有りだろ。そもそも俺はお前の寝返りで窒息しかけてんだからな!?」

「うぐっ、それは……そうだけど……」

 

 問い詰められて、何かを隠すように口ごもるベアモン。

 やがて彼は右手で即頭部をくしゃくしゃと掻きながら、こんな回答をした。

 

「……あぁもうっ、フライモンに刺された時の夢を見てたんだよ。あの毒かなり苦しかったからさ……」

「うぐあっ」

「いやお前がダメージ受けてどうすんだよユウキ」

 

 予想外ながら、しかし言われてみて悪夢の最悪っぷりとしては納得の出来る内容に思わず俺は胸を痛ませた。

 そもそもの話としてベアモンがフライモンの毒針で刺されることになってしまった原因は俺にあるし、結果として俺自身が進化したことによって無事に生還出来たとはいえ、それはそれとして痛みの記憶が抜け落ちたわけではないのだ。

 そりゃあ、その時の痛みを夢の中でとはいえ掘り起こされてしまったのなら、今回のような寝返りを打ってしまうのも仕方のないことだろう。

 少なくとも俺はそう思い、ベアモンの言葉に納得した上でこう返した。

 

「……その、ごめんな。重ね重ね、あの時は……」

「――ぁ、いや、大丈夫だって。アレは僕が勝手にやったことだから……」

「もう足は引っ張らない。あの時みたいな間抜けは晒さないから。またアイツが襲ってきた時は、また俺が倒してやるからな」

「……う、うん。頼もしいね……ははは……」

 

 俺の言葉に、ベアモンは苦笑いしていた。

 解ってはいた。

 まだまだ俺はベアモンやエレキモンほど、上手に戦えているわけではない。

 進化出来るようになっているとはいえ、未熟者であることに変わりは無い俺の言葉に、信憑性なんてあるわけがないんだ。

 もちろん、嘘を言ったつもりも無いが。

 そんなことを考えていると、ふとしてエレキモンが退屈げにこんな事を言い出した。 

 

「……ユウキ、ベアモンも、とりあえず朝飯食べないか? お前ら絶対まだ何も食べてないだろ」

「「あ」」

 

 言われてみれば、だった。

 寝返りの一件があまりにも問題だったからそれを最優先にしていたが、そもそも今の俺達は『ギルド』に所属するチームであり、朝はさっさと拠点である建物の方へ向かって依頼を受けなければならない。

 働かざるもの食うべからず、という言葉があるように、この町では食料は働きの報酬として受け取るか、あるいは仕事で稼いだ通貨で購入するか、それが出来ないのなら町の外で直接確保するのが基本とのことだった。

 まぁ、言われているわりには頻繁に、町の住民は食料をおすそ分けしてくれる事もあって、飢え死ぬような状況に追い込まれることはまず無いらしいのだが――厚意だけをアテに生活するのは流石にどうかと思うわけで、ベアモンもエレキモンも俺も真面目に働いているわけだ。

 ここ最近の襲撃されっぷりを考えると、農作業とか手伝って稼いだほうがもっと安全だとは思うのだが、俺が人間に戻って現実世界にも帰れるようになるためには、デジタルワールドの色んな場所を巡ってみる必要があるのも変わらぬ事実であるわけで。

 そして、それが危険だと解っている以上、活力はしっかり養っておく必要があるわけだ。

 

「悪い、ちょっと軽く作るから待っててくれるか?」

「わーい!! ユウキの料理おいしいから大好きー!! 手間掛かるけどー!!」

「そりゃ生魚をダイレクトに食うのと手間を比べられたらな」

 

 相次ぐ襲撃、苦労の連続にうんざりしてはいるし、俺自身のことについて進歩らしい進歩は殆ど無いけれど。

 生活の一点に限っては、明確に進歩したことがある。

 

「というか、俺からすればフライパンとかの器具があんな格安な事実に驚きだよ。デジモンって料理しないのか?」

「それを仕事や趣味にしてるやつならしてると思うけど、フクザツだし素のままでもお腹は膨れるからねー。そもそも火を使うのが危ないわけだし」

「……つーか、ニンゲンってそんな手間かけないとメシにもありつけないんだな。不便なこった」

「別に何でもかんでも料理しないと無理ってわけじゃないけどな。リンゴとかの果実ならナマでもイケるし」

 

 あくまでもベアモンの家の備えという位置付けではあるが、依頼で向かった先の地域で料理道具を入手することに成功した。

 流石にガスコンロや電子レンジなどは売られているわけもなく、手に入ったのはまな板や鍋など基本的なものぐらいだったが、火は自前のものを用意すれば良かったし、食材についても既に十分なラインナップを手に入れられていたため、大きな問題は無かった。

 唯一、コンロもどきの設備を用意するのには少し手間が掛かったが。

 

 鍋は良い。

 どんな料理下手でも、材料をだいたいの大きさに切って好みの飲み物と一緒に沸騰させちまえば、雑でも美味い食い物になるんだから。

 そんなこんなで、備蓄していたキノコだの魚だのを水やトマトと一緒に鍋に入れて煮て、いわゆるブイヤベースとかミネストローネっぽく(そんな上品に言えた見栄えでも無いが)仕上げてみる。

 ベアモンもエレキモンも、料理などに手をつけるタイプでは無いらしかったので、いつもこの工程を興味深く見ていた。

 ふと、ベアモンがこんな事を聞いてくる。

 

「ユウキって、ニンゲンだった頃から料理してたの?」

「いや、自分一人ではそこまで。母さんが作るのを時々手伝ってたぐらいだな」

「カアサン?」

「? ああ、デジモンには父さんとか母さんとかないんだっけ? 家族のことなんだけど」

「うーん、知らないや。その、カゾクっていうのはニンゲンにとって大切なものなの?」

「俺どころか、殆どの人間にとって大事なものだよ。自分の事をずっと育ててくれた人なんだからな」

「……そっか。ニンゲンは自分を育ててくれた相手のことを大切にするんだね」

「? ベアモンはそうじゃないのか?」

 

 何か。

 少し、引っかかりを覚えて、ベアモンに今度は俺のほうから疑問を投げ掛けていた。

 問いに対して、ベアモンは俺に笑顔を向けながらこう返してくる。

 

「――ははは、もちろん大切だよ。大切に決まってるじゃないか……」

 

 ……思い返せば。

 その時の言葉が、心の中でどこか引っかかっていた。

 それはどこか、自分自身に言い聞かせているかのような口ぶりで。

 今にも溢れ出しそうな何かを、必死に抑えこんでいるように聞こえたから。

 

 でも、この時の俺は何も知らなかったし気付けなかった。

 ただ優しくて、ただ勇敢で、ただ強くて、ちょっとだけ間抜けなデジモン。

 俺はベアモンの事を、そんな風にしか思っていなかった。

 少しも、理解しようとしていなかった。

 

 出来上がった料理を食べて、さぁ今日も仕事だなと二人と一緒に『ギルド』の拠点に向かっていく俺には、自分のこれからのことを考えるだけで精一杯で。

 自分が何を言ってしまったのかなんて、ほんの少しも考えられなかった。

 ほんの、少しも。

 

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