DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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第一節「積もる疑念、来訪の忍」①

 

 食事を終えたユウキは、ベアモンとエレキモンの二人と共に足早に『ギルド』の拠点へと向かっていく。

 朝の街並みも今ではすっかり見慣れたもので、わっせわっせと道の上を歩くデジモン達の顔ぶれも覚えてきた。

 必然、同時にそれはユウキという名の余所者の存在を町の住民にも既に広く知られているということでもあり。

 

「おぉ、おはよう。ギルモンにベアモンにエレキモン。今日もお仕事かい?」

「バブンガモンおはよう。ああ、今から『ギルド』に行くとこ」

「バブンガモンはこれから何しに行くの? そんなデカい木材を引いて」

「狂暴化したやつ等のあれこれで折れた橋があるらしくてね。みんなとその修繕をしないと」

 

 こんな会話は当たり前のものになり、

 

「よう、赤と青と赤の三匹。今日は何処に行くんだ?」

「あのさガジモン。二人が赤なのはとりあえずわかるけど僕そんなに青い???」

「エレキモンが黄色だったら見栄え的に完璧だったんだけどな」

「何の話だよオイ。ユウキお前が黄色になれ」

「データ種で橙色のにしかなれる可能性はねぇよ」

「それも何の話???」

 

 こうした与太話も既に日常のものとなっている。

 

「にいちゃんたちおはようー!!」

「おはよー!! がむっ!!」

「ん、おはようカプリモン。それにトコモンも」

「きょうはどこいくのー? ベアモンおにいちゃん」

「あはは、まだ決まってはいないよ。依頼をまだ受けてないからね」

「……もう慣れたからいちいち突っ込まないし我慢もするけどさ。なんでこのトコモン君ってば出会う度に俺の尻尾に嬉々としてかぶりつきに来るのかね」

「うまそうだからじゃね?」

「ユウキに懐いてるんでしょ」

「泣いていい?」

「「駄目」」

 

 最初の頃は、不安もあった。

 長老のジュレイモンや『ギルド』の主要メンバーらしいミケモンやレオモン、そしてベアモンやエレキモンこそ受け入れてくれているが、かと言って他の住民もそれ等と同じだとは限らない。

 住民の誰かしらは自分のことを怪しんだり、毛嫌いしたりするだろう。

 せめて問題は起こらないように、下手にケンカに発展したりはしないよう勤めよう――などと考えていた時期があった。

 

 が、実際はそんなことは一切無かった。

 町の住民たちは余所者のユウキのことを(少なくとも表面から窺い知れる限りでは)疎んじたりはしなかったし、それどころか気のいい隣人のような態度で接してくれていた。

 朝に顔を合わせれば当たり前におはようと言ってくるし、仕事を終えて帰ってくればお帰りと労ってもくれる。

 流石に家族ほどではないが、居心地の良さを覚えるには十分なほどに町のデジモン達は優しかった。

 

 無論。

 自分が元は人間である、という事までは流石に告白する気になれないし。

 人間として親に付けられた名前ではなく、デジモンの種族としての名前で呼ばれることについては、未だに心に引っかかりを覚えてはいるが。

 それはそれとして、今日までの生活に不満は無く、充実に近しいものがあるのもまた事実だった。

 

 そうして、道中に住民との会話がいろいろありながらも、ユウキとベアモンとエレキモンの三人は『ギルド』の拠点である建物に到着する。

 建物内に設備されたカウンターの上では、ここが俺の定位置だと言わんばかりにミケモンのレッサーが雑魚寝していた。

 彼はユウキ達の存在に気付くと、顔だけを向けながら気さくに話しかけてくる。

 

「おーっす、今日も来たなチーム・チャレンジャーズのチビ共」

「いつも思うけどミケモンの方と僕等の背の高さはそんなに変わらないじゃん。何でチビ呼ばわり?」

「だってお前らまだ成長期じゃん。俺は成熟期~」

「俺達も一時的にならなれるんだけどな」

「フッ、そんな風にすぐ反論している内はまだまだガキなのさ。ユウキ、アルス、トール。お前達が俺やリュオンの領域に立てるのはまだまだ先の話よぉ」

「無駄に威張る暇あるならカウンターの上で横になるのをやめろ、レッサー」

「痛てぇっ!?」 

 

 三毛猫のドヤ顔が一瞬にして崩れ消える。

 気付けば雑魚寝していたレッサーの、より厳密に言えばカウンターの向こう側から、この『ギルド』のリーダーであるレオモンのリュオンが姿を現していた。

 一応は『ギルド』の副リーダー的なポジションらしいミケモンことレッサー氏、獅子獣人のチョップで一撃必殺気味に悶絶させられるの巻である。

 脳天に出来たたんこぶをさすりながら抗議の視線を向けてくるレッサーのことなど放っておいて、リュオンはユウキ達三人に対して声をかけてくる。

 

「おはよう、チーム・チャレンジャーズ。此処での仕事にも慣れてはきたか?」

「うん。ユウキもエレキモンも、そして僕も強いからね。よく襲われてるけど大丈夫だよ」

「事実っちゃ事実なんだろうが、めっちゃ強調するなお前。さっきマジ泣きしていたくせに」

「ちょっ!! その話を今ここでするのエレキモン!?」

「ユウキはともかく俺に遠慮する理由は無いし。第一、強いんなら毎朝寝坊すんのやめろ。起こすのめんどい」

「あのなエレキモン、めんどいからって電撃で起こすのはやめてくんない? 朝のアレだってせめてベアモンだけを狙ってさぁ」

「そんな器用な真似が出来るか」

「というかしれっと見捨てられてるんだけど僕」

「ははは、まぁ自信を失ってはいないようで何よりだ」

 

 三人のやり取りを軽く笑い飛ばしていると、頭頂部の痛みに悶絶していたレッサーが口を挟んできた。

 

「つーか襲われてる時点で大丈夫ではないだろ。前に山で会った時から思ってたがお前ら何かと運が無いな? 日頃の行いが悪いんじゃねぇの?」

「レッサー?」

「すいません調子乗りました二撃目は勘弁しやがれください。……でも、運が悪いのは事実だろ。いくらなんでも依頼でどこかに行く度に狂暴化したデジモンに襲われるって、理由無しには片付けられねぇって。そりゃあ、狂暴化とか関係無く襲われる時は襲われるだろうがよ」

「……まぁ、そこはそうだな。他のチームの報告内容と比較しても、チャレンジャーズが狂暴化デジモンと交戦した回数はここ最近で明らかに多い。偶然だとは考えにくいな。君たちの方で何か心当たりはあるか?」

「「「…………」」」

 

 問われ、三人はそれぞれ暫し考え込む。

 当然と言えば当然だが、思考はそれぞれ異なっており、沈黙の理由もそれぞれ違っていた。

 

(……いきなり聞かれてもな……いくら何でも情報が足りなすぎるし……適当言うわけにも……)

(……うーん、ユウキが元は人間であることは流石に関係無い、のかな。ユウキと会うより前から狂暴化したデジモンは現れていたわけだし……)

(……流石にリュオンさんやレッサーさんも気付いてはいるか。それで尤も、コイツが元は人間だったってことにまでは気付くわけも無いし、関連性も付けられはしないだろうが……どう答えたもんかねこりゃ)

 

 誰も回答を口に出せないまま十秒ほどが経つと、三人より先にリュオンの方が言葉を紡いでくる。

 

「……まぁ、答えが出なくても仕方の無い事だ。レッサーの言う通り運が悪かっただけなのかもしれないし、そうじゃなかったとしても君たちに落ち度があったわけでは無いだろう」

「……実際のところ、リュオンさんやレッサーはどう思ってるんですか?」

「俺たちがどう思っているか、か……確かに、それは伝えておく必要があるな」

「つーかエレキモン、オイラだけ呼び捨てかよ。まぁいいが」

 

 どうやらチョップの痛みが和らいできたらしいレッサーが、リュオンと共に自らの見解を述べる。

 

「前にも言ったと思うが、狂暴化の原因はどこから出たのかもわからん『ウィルス』だ。自然発生したものか、それとも何処かの誰かさんが生み出したものか、出所は不明。狂暴化してたデジモンの体を軽く調べてみても、痕跡らしい痕跡は無し。黒幕がいるとオイラ達は踏んでいるが」

「結局のところ、その存在すると過程している黒幕は足取りさえ追えてはいないんだ。少なくとも、いるとすれば狂暴化させられたデジモンとそう遠くない位置にはいるはずなのだが……」

「多分、俺達みたいなのが狂暴化したやつに対応している間にどっかに逃げてるんだろうな。それも、姿を誰にも見られることなく、残す足跡だって他のデジモンのそれに重ねて特定されないようにして」

「……姿を消せるデジモンが犯人ってことですか? その、カメレモンみたいに透明になってるとか」

「断定は出来ない。単純に気配や足取りを隠すのが上手いだけ、という可能性もあるからな。そういうデジモン達に、俺は心当たりがある」

 

 レッサーとリュオンの回答に、ユウキとエレキモンは表情を曇らせる。

 自然発生したのか、誰かが作ったのかも不明な、詳細不明の『ウィルス』によって引き起こされるデジモンの狂暴化。

 その実態を、自分たちよりもよっぽど情報を獲得しているであろう二名も掴みきれていないという事実に、今後も狂暴化デジモンとの交戦は頻発するだろうと思うしか無かったためだ。

 が、ふとベアモンは回答の中に引っかかるものを感じたのか、リュオンに対してこんな問いを返していた。

 

「……あれ? ちょっと待って。その、リュオンさんが心当たりのあるデジモンが犯人って可能性は無いの?」

「やろうと思えば出来るだろうが、俺は可能性は低いものだと考えている」

「どうして?」

「そのデジモン達にはやる理由、やる必要性が存在しないからだ。むしろ、彼等こそこの狂暴化の件については調べている事だろう。遠出にはなるが、近い内に直接情報を共有しに向かおうとも思っていた」

「……そのデジモン達って? リュオンさんの友達?」

「友達、か……。私が彼等にそう呼ばれるほどの者だとは考えにくいが、そうでありたいな」

 

 ベアモンの問いに対し、リュオンは困ったように願望で返す。

 自分達の所属する組織のリーダーと、少なくとも信を含んだ繋がりを持つ相手――その存在に、ユウキもベアモンもエレキモンも、ある程度の興味を抱いていた。

 善悪や立場など知る由は無いが、少なくともリュオンがその技量を認めるデジモン達。

 それはいったい、どんなデジモンなのだろう、と。

 

「――そう言ってくださるとは、光栄でござる」

 

 しかし、その存在を口にしたリュオン自身も予想はしていなかったのだろう。

 ギルドの拠点である建物の入り口に、聞きなれぬ語尾と共に、そのデジモンが姿を現すことなど。

 声に、リュオンだけではなくレッサーやユウキ、ベアモンとエレキモンもまた建物の入り口の方へと視線を向けた。

 見れば、声の主は銀の体毛を有し二足で立つ狐の獣人――レナモンの、いわゆる亜種にあたる個体だった。

 その姿を見るや否や、リュオンは驚きの表情と共に言葉を発していた。

 

「――ハヅキ!?」

「リュオン殿、お久しぶりでござる。此度は突然の来訪、お許し頂きたい」

((((……ござる?))))

 

 どうやら、互いに個体名で呼び合うことが出来る程度には既知の仲らしい。

 ハヅキと呼ばれた銀のレナモンは、その独特な語尾に頭上に疑問符を浮かべる他の四名の視線など気にも留めぬ様子でカウンターに寄って来る。

 リュオンは目を細め、率直に疑問を口にした。

 

「……どうしたんだ? 君たちシノビが里の方からわざわざこの町に来るなんて」

「その件についての説明は、後ほど。今は私のことなどよりも、優先すべき事柄があるのでござる」

「聞こう」

 

 そして。

 銀のレナモンはその視線を後方へと移し、建物の入り口の端から警戒心マックスで顔だけを覗かせる赤い羽毛の鳥型デジモン――ホークモンのことを指さしながら、こんな要望を告げた。

 

「単刀直入に言うのでござる。ホークモン……あの子を、私と共に『ユニオン』のある都の方にまで安全に護衛していただきたい」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 同時刻。

 発芽の町より遠く離れた山脈地帯にて、一つのあくびが漏れた。

 

「……ふぁぁ~……」

 

 あくびを漏らすそのデジモンは、両前足の上に下顎を乗せたその姿勢から気だるげに立ち上がると、その銅の色に彩られた体をさながら猫のように伸ばす。

 眠たげなまま、一切の挙動も無しに眼前に一つのウインドウを出現させると、そこに表示された内容に表情を濁らせる。

 

「……げ!! もう時間過ぎてるや……」

 

 嫌々そうな言葉を漏らしつつ、右前足でウインドウに触れる。

 ポチポチポチ、と獣の前足ながら慣れた素振りで操作を続け、約十秒。

 彼にとっては予想通りの言葉が、窓枠の向こう側から轟いてくる。

 

『――遅いッ!!!!!』

「はいごめんなさいでしたッ!!」

 

 一喝。

 ウインドウ越しに発せられた大音響はその周囲の茂みに紛れていたデジモン達を驚きで散らし、怒られる対象である四つ足のデジモンから反抗の二文字を一瞬で取り上げた。

 声の主――ウインドウによって繋がっているそのデジモンは、怒り心頭といった様子で続けざまに言葉を放ってくる。

 

『本当に貴様は毎度毎度……朝の定時報告の時間は伝えているだろうが!! それともまさか手負いの状態なのか?』

「……あー、はい。別に手負いというわけじゃないんだけどただちょっと調べものに没頭してたというか」

『……まぁ貴様らしいと言えば貴様らしいか……で、成果は?』

「やっぱりこの山の肉リンゴは美味しい!! 野生デジモン達の気性もそう荒くないし、風も日差しも気持ちがいいし、平和そのもの~。そりゃあ思わず眠っちゃっても仕方無いですよねっ!!」

『――要するにサボっていたわけだな? のどかな環境に、自分の立場とかガン無視して。更に挙句の果てに熟睡していたわけだな?』

「サボりじゃないですサボってたとしてもそれは休憩と言う名の業務です」

『ようし了解した。次会ったら即殴る』

「……え、えぇと、右前足で? それとも後ろ足で?」

『ニフルヘイムで』

「死!!!!!」

 

 わりと本気の悲鳴を上げる四つ足のデジモン。

 その腰元から生えている白い翼も尻尾の丸いボンボンも震えている辺り、本気で声の主が恐ろしいのかもしれない。

 声の主はため息を漏らしつつ、更に言葉を重ねていく。

 

『……こちらの収穫も目ぼしくない。ここ最近確認されている次元の壁の痕跡、そして大陸各地の性質変化。その根本的な原因を解明するには至らずだ』

「僕の方でも色々調べましたけど、少なくともメモリアルステラに異常らしい異常は確認出来ませんでしたよ。闇の勢力――今代の七大魔王と関係を持つデジモンの姿も無い。基本的に世界の異変とまで言えるものは観測出来てないですよ」

『この手の問題は、目に見えて危険な場所よりも平和な所にこそ元凶が潜んでいる。そう踏んだからこそお前をその地域の担当にしたわけだが……ここまで何も無いとなると、そろそろ別の地域に飛ばすべきか悩ましいな……お前がサボっていなければ、という前提の話だが』

「だからサボりじゃないですってば!! 変な『ウイルス』が混じってないか食べ物を毒見して確認したりしてそのついでに平和を堪能してるだけ!!」

『モノは言い様だな、本当に。毒見と言えばただ食欲に負けただけの馬鹿野朗も忠臣扱いになるのだから』

「とことん信用が無い!!」

『信用を得たければ真面目に仕事しろ。いかに新入りであろうと、ロイヤルナイツとなった以上は手緩くは扱わん。……先代に顔向け出来る程度には、頑張ることだな』

 

 聞くべき事を聞いて、言いたい事を言うだけ言って。

 ウインドウからの音声は途絶え、通信を終えた事実を認識した彼の眼前でウインドウは消失する。

 告げられた言葉をしばらく頭の中で反芻していると、どんどん憂鬱になって、気付けば彼は横倒しの姿勢になってため息まで漏らしていた。

 

「……はぁ……」

 

 自分の立場。

 任された役割と受け続ける期待。

 自らを取り巻くそれら全てが重苦しいと言わんばかりの声色で、彼はこう呟いていた。

 

 

 

「……やっぱり、僕なんかが聖騎士であるべきじゃないよなぁ……」

 

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