DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語   作:紅卵 由己

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 ようやっとの更新。
 今回で第二節はおしまい。どんどんストーリーを先に進めていきたいですね。


第二節「一日目:出発進行:始点に暗がり」②

 

「あー、やっぱこういう時は火を吐けるのって便利だな」

「だなぁ。いやー、火付け係ご苦労ユウキ君。後で肉リンゴとかも焼いてくれね?」

「いやあの、事情に納得はしてるけど、努力をそんな雑い扱いされると普通にムカつくんだが???」

 

 言葉を交えながらトンネルの中を進む一行の手には、紅い炎を先端に灯したたいまつが握られていた。

 薄暗く、日の光がろくに通っていない場所を通る都合、当然ながら灯りとなるものが必要となるため、トンネルの中に入る前に全員分の太めの木の枝を採取し、ギルモンであるユウキが火をつけて作成したものである。

 デジタルワールドにやってきて数週間、火加減を覚えられる程度にはギルモンとしての体の使い方にようやく慣れてきたユウキとしては努力の成果でもあるのだが、自らの固有の能力を扱えることが当たり前なデジモン達からすれば、特に評価に値する話ではないらしい。

 

(そりゃまぁ、戦い以外ではチャッカマン程度の価値しか無いのは事実だけども)

 

 雑に「便利」の一言で片付けられ、若干肩を落としつつもユウキはトンネルの壁を見る。

 衣食住に困らない現代、人間が作った現実の中に生まれた者であれば、好奇心以外の動機で行くことはまず無い野生の暗所。

 その景色とニオイには、多少覚える高揚感があったが、一方で疑念を抱かせるものもあった。

 入り口付近から現在の地点に至るまで、全ての壁に刻まれている傷跡。

 自然現象などではなく、何か人工的なもので掘り進められたような痕跡に、ふとしてユウキはレッサーにこう切り出した。

 

「レッサーさん、ここってドリモゲモンとかいるんですか?」

「ああ。そもそもこのトンネル自体、ドリモゲモンが闇雲にあれこれ掘り進んだ結果として形成されたものだからな。住処にしているやつはいる」

 

 ドリモゲモン。

 鼻先がドリルになったモグラのような姿の獣型デジモンであり、容姿通りとでも言うべきか、地中に穴を開けることに適した能力を有する種族だ。

 当然、鼻先のドリルは戦闘でも用いられるものであり、殺傷能力はまず楽観出来るレベルのものではないわけで、トンネルというある種閉所の環境においては脅威の筆頭として挙げられる。

 が、そんなことはこのルートを選んだレッサーも承知の上なのだろう、彼は間を置かずにこう返した。

 

「が、まぁ奇妙なことに、今までドリモゲモンの中に狂暴化した個体は確認されてない。そもそもそんなのがいたら辺りの環境がもっとドえらい事になってるだろうし、そうなってないって事は、いるとしても普通の……ちょいと恥ずかしがりやなやつぐらいだ。少なくとも殺意をもって襲ってくる可能性は低いさ」

「ふーん……そういうモンなんですか」

「警戒しておくに越したことは無いけどな。そもそもドリモゲモンだけがこの辺りを縄張りにしてるってわけでもねぇんだし……あ、そこは右な」

 

 レッサーの言葉を念頭に置きつつ、紅い炎を灯りにトンネルの中を進み続けていくと、先の道が三つに分かれているのが見えた。

 が、経路として選ぶだけあって道順を覚えているのか、あるいは穴を抜ける風音から望む道筋を導き出しているのか、特に迷う様子はなく、レッサーは分かれ道を前にする度に進む方向を口に出していく。

 そうして進み続けている内に、いつしか一行は少し開けた空間に足を踏み入れていた。

 その空間には、橙色や緑色といった色取り取りな鉱石が壁際にいくつも突き出ていて、松明の明かりに照らされたそれ等は宝石にも等しい煌めきを抱いていた。

 そうそう目にした覚えの無いキラキラした光景に、トールが素直に問いを口にする。

 

「あれは?」

「このトンネル……というかそれが形成されているこの山は、鉱石がよく生成されている場所でな。グリーンマカライトだのパープルクンツァーだの、まぁ色々と価値が高いモノが多くあるんだ。一応言っておくが、この手のヤツを採取すんのは今回の俺達の仕事じゃあない。採りたくても食べたくても、我慢しろよ?」

「いや、採るならまだしも食べる奴なんているのかよ。歯とかボロボロになるしそもそも飲み込めねぇだろ……」

「そう思うのが自然でござろうが……トール殿。ドラコモンやバブンガモン、あとはゴグマモンなど……石を主食とする種族は少なからず存在し、一部の恐竜型デジモンが小粒ながら飲み込んでいる所も確認されているのでござるよ」

(デジモンにも胃石の概念があるのな)

 

 ハヅキの回答に「マジで?」と驚いた様子のトールとは対照的に、そうしたデジモンの事を知りえているユウキは別の事に関心を寄せていた。

 やはり、実際に見るデジモン達の生態は現実世界で設定されている話に留まるものではないのだろう。

 今後のことを考えても、デジモンに関する知見は深めて損は無い――そんな風に思いつつ色とりどりな鉱石の数々を見回していると、ふとして奥のほうから音が聞こえだした。

 自分達以外の誰かの存在――それを示す足音が、隠す気も無い勢いで近付いてくるのを察知し、一行からそれまでの余裕ある雰囲気が消え去り、代わりに警戒心が浮上する。

 どすんどすん、と多少の重量を感じさせる音と共に、その主は姿を現した。

 

「――あん? 何だ、同業者か?」

「?」

 

 それは、知性ある言葉を介するデジモンだった。

 少なくとも、狂気に呑まれて視界に入ったもの全てを手当たり次第になぎ倒すような相手には見えない。

 ユウキ達と同じく松明を手にしたそのデジモンは、見れば背後に複数の子分と思わしきデジモンを侍らせている、集団のリーダーと思わしき者で。

 茶色の体色と機械化した左手を有し、頭部が闘牛のそれとなっている――ミノタルモンと呼ばれる種族だった。

 大柄な体格の成熟期デジモンである彼は、松明を手に立つ一行の姿を見るや否や、何かを吟味するように視線を動かし、

 

「まぁいい。とにかく色々持ってるのは間違いないっぽいし――おい、お前たち」

「……何だ?」

「身ぐるみ置いてけ。痛い目見たく無かったらな」

 

 一方的に要求を告げた。

 それを受け、すぐ後ろからレッサーが指示を飛ばしてくる。

 

「野盗か。お前等、とりあえずボコっちまうぞ」

「話し合いとかしないのな」

「いやまぁ、明らかに話し合いが通用するやつじゃねぇし、賊の要求なんざ飲めんし」

 

 言葉の通りであった。

 一行の表情から従う気が無いことを察したらしいミノタルモンは、手下らしいゴツモンやマッシュモンといった成長期のデジモン達に向けて号令を発する。

 

「――お利口さんでは無し、と。よぉし野朗共、全部奪っちまうぞ!!」

「「「「「やっはー!! 奪えー!!」」」」」

「ひぃっ」

 

 殺意や敵意を含んでいるというよりは、お祭りでも始まったかのような楽しげな声がトンネル内部の開けた空間に響き渡り、ハヅキの傍で縮こまるホークモンの怯えの声を押し潰す勢いで野盗の群れが襲い掛かってくる。

 一見すれば、体格においても数の利においても劣る構図。

 が、護衛役として最前線に立つユウキとベアモンとエレキモンは、大して怯む様子も無いまま野盗の群れを前に身構え、こう返していた。

 

「「「邪魔だよ」」」

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆

 

 デジモン達の喧騒がトンネル内に響き渡る。

 殴る蹴るの打撃音、放たれる飛び道具の衝突音。

 喚声に悲鳴、そして怒号などなど。

 戦闘種族と称されるデジモン達にとって、日常の一部とも呼べる状況の中。

 野盗を相手に数の利で劣るチーム・チャレンジャーズ達は、

 

「うわっ、何だこいつ等強くね!?」

「僕達と同じ成長期だよな!? くそっ、もっとどんどん攻撃だぁ!! アングリーロック!!」

「ポイズン・ス・マッシュ!!」

「パラボリックジャンク!!」

「攻めろ攻めろーっ!! やっつけろーっ!!」

 

 特に悲鳴などを上げることも無く、群れを成す成長期のデジモン達を圧倒していた。

 それもそのはずで、彼等は今日まで依頼をこなす中で格上である成熟期のデジモンと戦っていた。

 ほぼ毎日、望まぬ事ではあったが、その経験値は確実に蓄積されているわけで。

 くぐった修羅場の数の差か、あるいはもっと別の理由か、何にせよ。

 ただの成長期のデジモンを相手取ることなど、狂暴化した成熟期のデジモンを相手取ることに比べれば、造作も無かった。

 

「はい、次!! 泣かされたい奴から早く来なよ!!」

「言い方なんとかならねえのかなアルス君!?」

「どっちがワルなのかわかんねぇなこれ……っと!!」

 

 竜がその前爪で敵対者の頭を殴り、悶絶させたところを右脚で蹴り飛ばし。

 子熊が拳を振るい、体当たりで吹き飛ばし、時には自らに放たれた飛び道具の類を掴んで投げ返し。

 電撃獣が電撃を放ち、飛び道具を放つ後衛のデジモンを狙って無力化させる。

 

「トール、後詰めを!!」「おうよ!!」

「ユウキ、よろしくっ!!」「はいはいどいてろよ!!」

「アルス、寝てんなよっ!!」「僕の扱いっ!!」

 

 数の差など関係無い。

 単純な戦闘能力でもって、三匹は群れを圧倒していく。

 ユウキが前に出てきたゴツモンを群れに向かって蹴り飛ばせばトールが群れごと巻き込むように電撃で追撃し、アルスが殴り飛ばしたマッシュモン目掛けてユウキが口部に形成した炎の塊を噴き放って軽く爆破し、トールが電撃で痺れさせた相手をアルスが足元にあった石を眉間目掛けて投げ放って意識を刈り取っていく。

 圧倒されている野盗の側もタフなもので、倒れた者の中には気合たっぷりに声を上げて二度三度再起する者もいたが、当然何度でも殴られ蹴られ痺れてでノックアウトさせられる。

 

 そして、その一方で。

 野盗のリーダーであるミノタルモンの相手は、今回同じ成熟期のデジモンであるミケモンのレッサーが担当していた。

 ベアモンやエレキモンと大差無い程度の背丈しか無い彼は、されど倍以上の体格を有する闘牛を相手に、いっそ遊びにさえ見える動きでもって翻弄していた。

 

「チッ、ちょこざいな!!」

「やーい、こっちこっち――だぜッ!!」

 

 ミノタルモンがレッサーの姿を目で追い、右手で鷲掴みにしようとしたり、機械化した左手を振るって渾身の一撃を見舞おうとする度に。

 レッサーは跳ねる、跳ねる、とにかく跳ねる。

 地面を、壁を、トンネルの天井を。

 跳ねて跳ねて、そして視界の外からミノタルモンに肉薄し、その五体に爪や足を振るっていく。

 右膝に左肩に後頭部――と、関節部や急所となりえる部位を集中的に狙い、ヒット&アウェイで着実にダメージを与えていくレッサーの姿は、可愛げのある猫のそれではなく、むしろ熊に襲いかかる狼のようにも見えた。

 

「肉球パンチッ!!」

「んごっ!! この野朗!!」

 

 あるいは、子分達の援護があればレッサーの動きをある程度制限し、ミノタルモンがレッサーの動きを捉えられる可能性もあったかもしれないが、ユウキ達の相手で精一杯な子分たちにそんな余地は無い。

 ミノタルモンも、その子分も頑丈ではあるらしかったが、レッサーのスピードによって持ち前のパワーを思うように発揮出来ない実情、体力を削られ続けている事実に変わりは無かった。

 そうしてやがて、元気な子分達の頭数が半分以下に減り、ミノタルモンが自らの疲れを自覚した頃。

 ミノタルモンは強く舌打ちし、自らの子分達にこんな号令を飛ばした。

 

「お前等退け!! 一旦諦めるぞ!!」

「えー!!」「まだ頑張れるよー!?」「これで終わりとか悔しいってば!!」

「駄々捏ねんな!! さっさとのびた奴等を抱えて逃げろ!!」

 

 どうやら粗暴な印象に似合わず、損得を判断する程度の知性は宿していたらしい。

 ミノタルモンの号令を受けて、チーム・チャレンジャーズの一行の手で倒されていたゴツモンやマッシュモン、その他ジャンクモンやガジモンといった成長期のデジモン達はそれぞれ近い位置にいた仲間に担がれ、通ってきた道をそのまま引き返していく。

 そして、手下達の逃げる姿を横目にミノタルモンは機械化した左手を振り上げた。

 レッサーの目の色が変わる。

 

「おい待て、逃げるんなら別に追う気は

「味方じゃねぇ奴の言葉を鵜呑みにしてられる立場でもねぇんだよ――ダークサイドクエイク!!」

「!!」

 

 直後に、ミノタルモンの機械化した左手――デモンアームが地面に向かって打ち付けられた。

 凄まじい衝撃と振動がトンネルの空間を駆け巡り、咄嗟に自ら地に伏せたレッサーを除いた全員の姿勢が崩れる。

 振動は長く続き、揺れが静まった頃にはミノタルモンも、その子分達もその場からいなくなっていた。

 

「……何だったんだ? あいつ等……」

「レッサーの言った通り、野盗の類でしかないだろ」

「ユウキにとってどうかはともかく、珍しくはないよ。ああいうの」

「マジか。物騒だなオイ」

 

 戦闘の邪魔になるため足元に落としていた、ミノタルモンの子分が持っていた松明をユウキとベアモンとエレキモンは拾い上げる。

 どうあれ、厄介払いが済んで誰も怪我をしていないというのは喜ばしい結果だろう。

 そう思うチーム・チャレンジャーズの三名だったが、対照的にレッサーやハヅキの表情は曇っていた。

 

「ちっ、あんにゃろ余計な置き土産を……おい、走るぞ!!」

「……急ぐべきでござろうな」

「? 二人ともどうしたの……?」

 

 急かしの言葉を口にした二人に対しベアモンが疑問を投げ掛けた、その直後のことだった。

 ズズン……!! と、何かが揺れ動くような音が、周囲から聞こえ出したのだ。

 そこでユウキもエレキモンも事態に気がつき、表情を強張らせる。

 走り出すレッサーと(ホークモンを抱きかかえた)ハヅキの背中を追い、松明を手に同じく走り出す。

 

「おいおいおいおい、マジの話かこれ!!」

「……まさか、今のミノタルモンの一撃で山の地層がズレでもしたのか? オイオイ、あんな事出来るんなら何で戦いの中では使わなかったんだ!?」

「違う、この程度で崩落は起きない。というか、そんなレベルの振動を起こしたらあいつ等だってタダじゃ済まないだろうよ」

「じゃあこれは!?」

「大方、この辺りで大人しくしてたドリモゲモンがパニくって地層を掘り進んじまってんだろうよ!! ったく、逃げるだけならあんな事しなくてもいいだろうに!!」

 

 ただでさえ、山の中のトンネル――いわゆる地中にいる状況下の話なのだ。

 もしもこの地震が切っ掛けでトンネルが『崩落』してしまったら、最悪生き埋めになってしまってもおかしくはない。

 それを避けるためにも、一行は灯りを手に暗闇の向こうにどんどん身を乗り出していく。

 地鳴りの音が響き続ける中、いつしか行く道は下り坂のような形に変わっていて、駆ける足並みは自然と速くなっていった。

 何かしらの目印でも発見したのか、最前を駆けるレッサーが言葉を紡ごうとした。

 

「大丈夫だ、もう出口は近い。この先の道を右に――ッ!?」

「嘘でしょオイ!!」

 

 が、その言葉は最後まで続かない。

 一行の背後から、突如として激流が流れ込んできたことで、全員揃って足を取られてしまった事で。

 ドリモゲモンの掘り進んだ地層の近くに、水源でも混じっていたのだろう――結果的に形成された自然のウォータースライダーによって、一行の体は抵抗の余地もなく下り道を流されていく。

 頼りだった松明の灯りが次々と消え、暗さと共に混乱がやってくる。

 

「鉄砲水か……っ!?」

「ぎゃー!! オイラ泳げねぇんだよーっ!?」

「うわぁこんな時に知りたくなかった意外な弱点!?」

「ユウキそんな事言ってる場合じゃ……わぶっ!?」

「ちょ、お前ら手を――がぼぼぼ!!」

「わあああーっ!!」

 

 どうしようもなかった。

 アルスとレッサー、そしてハヅキとホークモンの四名が予定通りの右の道に流される一方で。

 ユウキとトールの二名は、予定とは異なる左の道に流されていってしまう。

 漏れ出る叫び声さえ泡となり、上下左右の方向感覚さえ掴めなくなっている内に一つの出口へと押し出され、二名のデジモンは陽の光の下に出る。

 ばしゃーっ!! という水の音を知覚した時、ユウキとトールの視界に入ったものはと言えば。

 

 見渡す限りの木々の群れと。

 野生の個体と思わしき炎を纏う巨鳥デジモンことバードラモンの群れからの、珍生物でも見るかのような視線と。

 いつもより大きく見える、白い雲。

 

((……くも?))

 

 瞬間、ユウキとトールは真顔で下方へ視線を送った。

 とてもとても遠い位置に森が見えていて、特に足を動かしてはいないのに森の景色が自分達に近くなっていく。

 なんか風が凄く強く感じられる。

 というか、どう考えても落ちてますわよこれ。 

 

「「――――」」

 

 現実を理解する。

 流れ流れにどういったルートを通ったのかは知りようもないが、ユウキとトールが流されたルートは、さながら間欠泉のように強く上方に向かって吹き上がるものだったらしい。

 へぇー、デジモンの体ってこんなに軽いんだー♪ 重力の概念どうなってんだこりゃー♪ と現実逃避するユウキ、約一秒で恐怖をぶちまけるの巻であった。

 

「キャーッ!! 待って助けておれ高所恐怖症なのーっ!!!!!」

「こんな時にクソどうでもいい弱点漏らすんじゃ……いやマジでたかーい!?」

 

 デジモンの体は人間のそれよりも頑丈なのだろうが、いくら何でも山の山頂を少し越える高さから地面に叩きつけられて生きていられる自信など無かった。

 というか、普段から落ち着いたイメージのあるトールですら慌てふためいてる辺り、ガチでヤバい状況であることに違い無いわけで。

 恐怖から絶叫しながら墜落することしか出来そうにないユウキとは異なり、全力で生還出来る方法を見い出そうとしていた。

 命の危機に陥ると、思考というものは恐ろしいほど加速度的に回るらしい――トールは少し考えて、声を上げた。

 

「クソッ!! こんなんで死んでたまるかっ!! おいユウキ俺に抱きつけ!!」

「何だどうした急に変な趣味に目覚めたのお前そういうキャラだっけ!?」

「真面目に見捨てるぞこの野朗!! うおおおっ、エレキモン進化ぁーっ!!!!!」

 

 叫びと共にトールの体が輝きを纏い、一時的に繭の形を取ったかと思えば即座に弾け、内側から白い羽毛に包まれた巨鳥型デジモン――コカトリモンが姿を現す。

 トールという個体の、成熟期の姿。

 言われるがままにその背にあたる部分に抱きついているユウキは、コカトリモンに進化したトールを見て思わず目を輝かせる。

 そう、コカトリモンは鳥のデジモンなのだ。

 鳥ということは翼があるわけで、たとえその背にお荷物があろうと、空を飛ぶことだって不可能では無いッ!!

 

「おおっ!! もしかして飛べるのお前!? 不思議パワーで完全体に進化するフラグかこれ!?」

「おうお望み通り飛んでやらぁ!! 見てろよ、俺は今ッ!! 鳥に成るッ!!!!!」

 

 ぶわさぁ!! と両翼を広げて気合の入った声を上げるコカトリモン。

 コカトリモン進化ーっ!! という叫び声が風の音に乗って響く。

 煌めく風に乗って、その姿は奇跡的に完全体の姿に、

 

 

 

 なるわけが無かった。

 

 

 

 コカトリモンの体はちっとも光らねえし、その翼が風を掴むことも無い。

 そもそもの話、生物学的にも退化しているニワトリの翼では羽ばたかせてみても飛べるわけがねぇ。

 非情な現実を知覚し、トールとユウキは走馬灯でも見ているような和やかな声で言う。

 

「――うん、まぁ。そんな都合の良いこと起きるわけないよなー」

「そっかー。俺って主人公じゃなかったかそっかー。デジヴァイスも無いもんなー」

「「あははははー!!」」

 

 もはや諦めの境地であった。

 二人揃って和やかに笑って、涙目になり。

 重力に引き摺り下ろされながら、そして最後に叫ぶ。

 

「「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああー!!!!!」」

 

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