DIGIMON STORY デジモンに成った人間の物語 作:紅卵 由己
ある意味、俺の小説の場合は『■話』とかではなく『■ページ』のような感じかもしれません。
それはともかく、10日近く執筆をサボっていてすいませんでした。
ベアモンの家から出て、早数分後。
二匹は発芽の町で最も大きな木造の家の前に来ていた。
誰でもここが町長の家だという事が解るようにするためなのか、入り口の左側には大きく『ちょうちょうのいえ』と書かれた看板が設置されている。
ひらがな表記なのは、まだ子供のデジモンにも解るようにするためなのか、それともこの町の町長の知能レベルがそういうレベルからなのか、ユウキには分からない。
と言うか元は人間だったのだから、デジモン達の常識にツッこみを入れるだけ無駄だろう。
内心で不安になりながら、エレキモンと共に町長の家らしき建物の中へ入り口から入る。
中はベアモンの家と比較するとかなり広く、机や本棚といった人間界にも存在する木造の生活用品が揃いに揃っている、住む事に不足している要素が見当たらない家のようだ。
二匹の視線の先には、大きな樹木のような外見に腕を生やしたような姿のデジモンが居た。
「町長」
エレキモンは早速、数歩前に出てそのデジモンに声を掛けた。
この発芽の町の町長と思われるデジモンはその声に反応すると、その手に持った木の杖を使って器用に体の向きを二匹の方へと向ける。
後ろ姿だけでは分からなかったが、黄色い瞳の目を持った不気味な人面がそのデジモンには存在していた。
「……っ」
ユウキにはそのデジモンの姿に覚えがあった。
(……ジュレイモン!?)
町の長と言うだけあって強いデジモンである事はユウキにも予想出来ていたが、実際そうだったらしい。
彼はベアモンやエレキモンといった『成長期』のデジモンより二段も上のランクに位置する『完全体』のデジモンだ。
その姿をユウキはアニメぐらいでしか見た事は無いが、実際に目にしてみると存在感が明らかに違っていた。
体の大きさもあるが何より、自分とは生きた時間のケタが違う事を、目にしただけで理解出来るほどの風格を放っていたからである。
もっとも、外見からしても老人くさいのだから当然なのかもしれないが。
ユウキは思わず息を呑むが、ジュレイモンはエレキモンの姿を見ると共に老人のような口を開いた。
「お主は……あぁ、ガレキモンじゃな」
「エレキモンです。ホントに居そうなのでその間違いはやめてください」
「……おぉ、そうじゃったな」
外見通りにお年なそのジュレイモンが言い放った天然染みたボケに対して、エレキモンは電撃の如き早さでツッコミを入れる。
そのツッコミで間違いに気付いたジュレイモンだったが、エレキモンはそのノリでコント染みた会話になってしまう前に自分の方から口を開く。
「今回はちょいと野暮用で来たんです。主に、俺の隣に居るコイツの事で」
「……む?」
エレキモンはそう言うと共に振り向き、自分の斜め後ろで緊張した目をしていたユウキを前足で指差す。
植物型デジモンは疑問の声を上げつつ、視線をエレキモンからギルモンのユウキへと向けた。
「そこのギルモンの事かの?」
「はい。
「ふむ……それで?」
「ちょいと事情があって、コイツをベアモンの家で住まわせてほしいんです」
「……何故じゃ?」
スラスラと並べられたエレキモンの言葉に、植物型デジモンは町長として当たり前の疑問を返す。
「コイツは昨日、俺達が海で釣りをしてた時に、溺死しかけの状態で偶然見つけたデジモンなんです。何とか救助したんですが、コイツは行く宛も帰る宛も無いらしく……一応怪しい奴では無いんで、ひとまずこの町で住まわせてやりたいんです」
「ふむ……それで、何故ベアモンの家を指定したのじゃ?」
「コイツを助ける事を真っ先に決めたのが、ベアモンだからですよ。アイツ自身もコイツを自分の家に迎え入れる事に異論は無いはずですし……」
エレキモンの証言を聞いたジュレイモンは、一度目を閉じて思考をするような仕草を見せると、返答が決まったように目を開き言葉を発する。
「……深くは聞かないでおこうかの。良かろう、そのギルモンがこの町で暮らす事を許可する」
「あざっす」
「……ふぅ」
ひとまず住む場所が確保出来たユウキは、安心したように胸を撫で下ろし、緊張感を吐き出すように深くため息を吐いた。
尤も、まだ問題は山積みなのだが。
「……町長さん」
「……む? 何じゃ?」
それ故に、ユウキは勇気を出してジュレイモンに声を掛ける。
少しでも手がかりを得るために。
「『人間』について何かご存知無いですか?」
◆ ◆ ◆ ◆
一方、ギルモンとエレキモンが町長と話をつけていた頃、新たに一匹を迎え入れる事となる予定の家の持ち主はと言うと。
「いない……?」
自分と一緒に眠っていたはずのデジモンが、家の中から消えている事に対して疑問形で呟いていた。
眠そうにたれ下がった目蓋のまま、理由を予想するために思考を働かせる。
(……もしかして、エレキモンが連れていったのかな。僕も起こしてくれたら付いて行ったのに)
眠っている間に物事は進んでいた事に気付いたベアモンは、不服そうにほっぺたを膨らませながら内心で呟く。
当の本人達が町長の家に向かった事をベアモンは野性の勘で予想出来ていたのだが、だからといって自分が今向かった所で後の祭りだろう。
ならば今の自分に出来る事とは何か。
それを考えようとしていた、その時だった。
「……おなかすいた……」
まるで思考を断ち切るように、ベアモンの腹から空腹を意味する効果音が鳴る。
それと共にベアモンの視線は、昨日帰ってから部屋の隅に置いて放置していたバケツの方へと向けられる。
「…………」
食欲のままにバケツの中を覗き込むと、眠そうにたれ下がっていた目蓋が一気に開かれた。
思わず無言になったベアモンは、右手を自身の額に押し付けてから一言。
「……お~まいがぁ~……」
釣っておいた魚が昨日の帰り道で、自分の分だけではなく赤色の大飯喰らいの分まで消費したおかげで、もうバケツの中には先日釣った魚の八割が
また海に向かい、釣りをすれば魚を手に入れる事は然程難しい事では無い。
だが、その海岸は発芽の町から一時間近くの時間を必要とする距離があり、現在ハングリーなお腹をしているベアモンには、そこまで向かおうと思える気力は存在していなかった。
ベアモンはひとまず、バケツの中に僅かに残っていた雑魚を一匹、また一匹つまみ取り、少しでも空になった腹を満たす事に専念する。
しかし、雑魚ではたった数匹食べた所で腹八分目にすら届くはずもなく、バケツの中に残っていた魚を全部食べたベアモンは自分のお腹に左手のひらを当てていた。
「……う~ん」
困ったように声を出しながら、この事態をどうやって解決するかを考える。
また空腹の脱力感が襲ってくる前に。
「……よし、昨日は海に行ったんだし、今日はそうしよう」
やがて、ベアモンは方針を決めたように頷くと右手の爪を一本だけ地面に突き立て、何かを画くようになぞり始めた。
気分をラクにするために、ポップなテンポの鼻歌を漏らしながら。
やがて土をなぞり終えると、ベアモンは普段通りにベルトを両腕と肩に巻き、五文字のアルファベットが書かれた愛用の帽子を後ろ向きに被り、一度体慣らしをした後に家を出た。
「……美味しいのがあればいいな~」
願望を呟きながら、腹ペコ子熊は食料を確保するために町の外へと出るのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「人間について、じゃと?」
「はい。何かご存知無いでしょうか?」
ジュレイモンはユウキの問いに対して、当然の反応を見せていた。
しかし、何か事情があるのだろうと察したジュレイモンは、特に考える事もなく即座に言葉を返す。
「存じているも何も、それはおとぎ話で活躍する伝説の勇者の種族の事じゃろう? それがどうしたのじゃ?」
ジュレイモンの返答を聞いたユウキは、特に素振りを見せずに内心で思考を練ると、自分の最も聞きたかった質問をぶつける。
「……それじゃあ、その人間がデジモンに成った話とか、記録とかは無いんですか?」
またもや意外な問いが来た事に大して、素直に疑問ばかりが脳裏に浮かぶジュレイモンだったが、返す言葉を選ぶとそれを淡々と告げ始める。
「……ふむ、面白い事を言うのう。じゃがワシは長生きした中でも、人間がデジモンに成ったという記録が記された書物を見た事も無ければ実際にそういう事があったと言う話も聞いた事が無い。仮にそのような事が出来る存在がおるとしても、それは神様ぐらいじゃろう」
「神様……?」
「そもそも、人間と言う生物自体が多くの謎に包まれておるのだから、ワシには理解しかねるのじゃよ。実際に会えるのならば、生きている内に一目見てみたいものじゃな」
「……そうですか」
「ワシから言える事はこれだけじゃ。ワシの家には色々なおとぎ話の書物が置いてあるから、気が向いたら読んでみるとよいじゃろう」
そこまで言った所で、ユウキとジュレイモンの会話は終わった。
エレキモンも家に来た時には町長であるジュレイモンに質問をしようと思っていたが、先に問いを出したユウキが自分の聞く予定だった事を大体聞いてしまっため、わざわざ自分も話題を出そうとは思えなかった。
兎も角、この家に来た当初の目的は全て終えたため、二匹はもうこの家に居る必要も無い。
「それじゃあ町長、今回はありがとうございました」
「うむ。また何時でも来るといい」
エレキモンは一度ジュレイモンに声を掛けた後に、ユウキは礼儀正しくおじぎをした後に、町長の家から外へと出た。
望みどおりの回答も得られず、自分が人間からデジモンに成ってしまった原因を知る手がかりは大して掴めなかったが、ユウキの表情はそこまで暗くなってはいなかった。
早々に手がかりが掴める事など無いと、薄々気付いていたからだ。
(……まぁ、生きている限り何か手がかりは掴めるだろ……生きている限りは)
内心でそう呟いたユウキだが、やはり多少は残念なようで深いため息を吐く。
そんなユウキに、同行者であるエレキモンは声を掛ける。
「なぁ、とりあえずベアモンの家に戻らないか? そろそろアイツも起きてるだろうし」
「……だな。用も済んだし、戻ろう」
そう返事を返し、ユウキはエレキモンと共にベアモンの家へと戻っていった。
そして、それから約五分が経ち。
「……なんだこりゃ」
ベアモンの家に戻ったユウキとエレキモンが目撃したのは、土の床に画かれた複数の記号だった。
細長い四角の上に大きめの三角を乗せただけの物が複数書かれた、その単純な印の意味は、元人間のユウキにすら理解出来るほどに簡単で、何より自分の向かった先の事を示しているのならば、それ以外に思いつく場所は存在しなかった。
『……森?』
本日のNG。
町長の家へと向かう途中、エレキモンはどうしてもユウキに聞きたかった事を聞いていた。
「そういやお前さ、夜中でベアモンと一緒でなんとも無かったのか?」
「え? 特に何も無かったはずだけど、何か問題があったのか?」
(アレ? アイツって、寝る時に何かを抱き枕代わりにするクセがあったはずなんだが……)
「えへへへ~……もう食べられないよぅ……」
自分の家の中で、何とも平和そうに夢を見ながら眠っているベアモンの口元から、意味深な言葉が漏れていたのはきっと気のせいだろう。
NGその2『ベアモンの寝相』