量産型なのはの一ヶ月   作:シャケ@シャム猫亭

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息抜き作品。
こういう系が好きってだけ。

続き書くかは未定。


コーヒーとミルクは混ざったら分離出来ないのだ

 それを観たのは、本当にただの気まぐれだった。

 

 

 

『            』

 

 

 

 明日から三連休だから、何か映画でも見ようとレンタルショップに寄ったんだ。

 店に入ると、懐かしのアニメ特集と書かれたポップの下にアニメ映画が数作品置かれていた。

 特に借りるものが決まっていたわけではなかった俺は、そのコーナーに寄って行って眺める。

 半分くらいは十代の時に見たことある映画で、確かに懐かしいなと感じた。残りの半分は見たことがないが、名前くらいは知っている。

 どうせなら見たことないのを借りることにした俺は、適当に二作品選んでレジに行く。おすすめしているんだから、つまらない作品じゃないだろうと、選ぶのは適当だった。

 

 

 

『 き         』

 

 

 

 一人暮らしのアパートに帰って来て、夕飯は冷蔵庫に入っていた材料を適当に炒め物にして食べた。

 不味くはないが、店で出せるほど美味くもない、ほどほどの味。

 そのあとはシャワーを浴びる。

 浴槽にお湯を張ることはあまりない。一人暮らしをして分かったことだが、意外と風呂を洗うのは面倒なのだ。

 だからシャワーですませてしまう。

 

 

 

『  て        』

 

 

 

 シャワーを浴び終えれば、寝間着に着替える。

 冷蔵庫から缶チューハイを一本、それとつまみにスナックを用意して、ちゃぶ台に置いた。

 テレビを点けてから借りてきたDVDを再生機に放り込んで、座椅子にどかりと座り込む。

 アニメを見るのは、ずいぶんと久しぶりだ。

 缶チューハイのプルタブを立てれば、カシュッと炭酸が抜ける音がする。口を付けて傾ければ、甘い炭酸が喉に流れこんできた。

 よくチューハイは酒じゃなくてジュースなんて言われるが、別にいいじゃないか。ビールのような苦い酒は美味しいと思えないし、蒸留酒のような強い酒はまるで消毒液のような感じがして好きになれない。

 

 

 

『   く    マ   』

 

 

 

 ぼんやりと映画を見る。

 昔流行ったアニメで、それの映画版というやつだ。

 タイトルくらいは聞いたことあったが、内容はほとんど知らない。

 精々、主人公が魔法使いの女の子ってことくらいだ。

 

 

 

『     さ   ス  』

 

 

 

 タイトルにも名前が入っている女の子が出てきた。

 そうか、小学生か。

 イタチが出てきた。

 イタチじゃなくてフェレットだった。

 そうそう、確か弱っていて、慌てて医者に連れて行ったんだよな。

 夜に主人公は助けを呼ぶ声を聴いて、動物病院に行ったらフェレットが喋った。

 あと、変なスライムみたいのがいた。

 ああ、あればビビったな。ドラクエみたいに可愛ければよかったんだが、よくわからん変な奴だったし。

 ……………ん?

 あれ、俺、この作品見たことあったか?

 いや、ないはずだよな。

 でも…………どうしてこんなに懐かしいんだ?

 そんな風に首を捻っていたら、いつの間にか主人公が変身していて、ジュエルシードを封印していた。

 

 

 

『 き く  い    』

 

 

 

 映画はどんどん進んで、中盤になると敵の女の子が出てきた。

 フェイトちゃんだ。

 ……………え?

 なんで俺、名前知っているんだ?

 フェイトちゃん………フェイト=テスタロッサ。

 あ、名乗った。

 うん、フェイト=テスタロッサ、当たってる。

 

 

 

『 き   さ   スタ 』

 

 

 

 物語は終盤へと移る。

 ジュエルシードを賭けて、フェイトと一騎打ち。

 激しいバトルが繰り広げられるが、最後はなのはの全力全開砲撃で決まった。

 そして、そこで俺は映画を止めた。

 

 

 

『   く  い マ タ 』

 

 

 

 いい加減、違和感が無視できなくなった。

 俺は、俺はどうして………知っているんだ?

 この先の展開も知っている。

 時の庭園で、フェイトのお母さんと………。

 違う、違う。

 知ってるなんてものじゃない。

 違う………覚えている。

 

 

 

『  てくださ   スタ 』

 

 

 

 覚えている。

 覚えている!

 あの時の傷の痛みを、辛さを、心を!

 何のために戦ったのかを!!

 違う、違う違う違う!!

 そんなはずはない、そんなはずがない。

 だって、俺は男で、魔法なんてこの世にはなくて。

 それに「リリカルなのは」は初めて見る作品で。

 

 

 

『 き  ださい マ ター』

 

 

 

 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い。

 何だなんだナンだなんだこれ。

 そんなはずはない。

 違う違う違う。

 俺は男で、社会人で、今日だってパソコンに向かって仕事して!

 

 

 

『起き く  い、マス ー』

 

 

 

 煩い、五月蠅い、うるさいうるさい!!

 私に話しかけるな!

 違う違う違う!!

 俺は、俺は、私じゃない!!

 俺は、俺は俺はオレは私はおれはおれはおれはわたしは!

 

 

 

 ……………あれ?

 

 

 

 なまえ、なんだっけ?

 

 

 

『起きてください、マスター!!』

 

 

 

 

 

 目の前に、剣を振り上げた男が居た。

 

「っ!!」

 

 咄嗟に手に持っていた杖を構え、振り下ろされた剣を受け止めた。

 だが、男の腕力が強く、踏ん張りも効かせられなかった俺は、そのまま吹き飛ばされる。

 勢いが付いた体は地面に落ちると、そのままゴロゴロと転がり壁に背中からぶつかる。

 

「っがは!!」

 

 息が詰まるほどの衝撃と痛みが背中から伝わり、視界が涙でにじむ。

 

『大丈夫ですか、マスター!?』

 

 ああ、くそっ、何だってんだ!?

 大丈夫じゃねえよ、超痛え。

 口の中を切ったのか、血の味がする。

 だが、それよりも目の前の男だ。

 剣の切っ先は未だこちらを向いている。

 このままじゃ、殺される。

 

『立ってください、マスター!』

 

 分かってるよ、そんなこと。

 けど、だめだ。

 上手く呼吸出来ねえ、足が動かねえ。

 

『なら、私を構えて下さい』

 

 構える?

 私?

 ……………ああ、そうか。

 そうだね、そうだったね。

 歪んだ視界の中、俺は、私は、手に持った杖を、相棒を男に向けて。

 

『制御は私が行います。マスター、全力で行きましょう』

「うん………」

 

 体からあふれ出す熱い奔流が、相棒に伝わっていく。

 知らないけど、覚えている。

 そう、だから、呟くんだ。

 

 

 

 引き金を引いた。(トリガーワード)

 

 

 

「『ディバイン……バスター』」

 

 

 

 淡い桜色の奔流と共に、俺の、私の意識はゆっくりと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

『起きてください、マスター』

 

 ん………あと、五分………。

 

『ダメです、起きて下さい』

 

 いいじゃん…………どうせ、休みなんだし。

 

『休み? 何を言っているんですか、マスター。早くここから去らなくては、先ほどの刺客の増援が来てしまいます』

 

 ………しかく?

 ……四角……刺客…………っ!!

 

「そうだ、俺、襲われて!!」

 

 その言葉で俺は飛び起きた。

 慌てて辺りを見回せば、二十メートルほど離れたところに先ほどの男が転がっていた。

 

『マスター、すぐにここから離れましょう』

「っ、誰だ!?」

 

 機械を通したような女性の声がして、俺はもう一度辺りを見回すが、それらしき影は無い。

 

『私です、レイジングハートです』

「レイジング、ハート………まさか!?」

 

 胸元を見てみれば、首にかけられた皮紐の先に赤い結晶が付いたネックレス。

 結晶はまるで返事するかのように明滅する。

 レイジングハート。

 私の、相棒。

 

「あれ? わた、し………?」

『マスター、色々聞きたいことがあるとは思いますが、まずはここを離れましょう。あの男がいつ起きるかも分かりません』

「………わかった」

 

 疑問はいっぱいある。

 もう、わけがわからなくて、俺の頭の中はぐちゃぐちゃになってる。

 けど、さっきみたいに襲われるのはゴメンだ。

 私はレイジングハートの言葉に従い、その場から走り去った。

 

 

 

 

 十分ほどわき目も降らず走って、体力が尽きた。

 それからはレイジングハートの誘導に従い、一時間ほど歩いて移動する。

 着いたのは、小さな公園だった。

 真夜中なので人はいない。

 淡く光る街灯と、お手洗いに付けられた切れかけの電灯、そして中天で輝く二つの月が公園を照らしていた。

 ここまでくれば一先ず大丈夫だろうという言葉を聞いて、俺はベンチに座り込んだ。

 

『マスター、傷の具合はどうですか?』

「打ち身が少々と擦り傷が多数。けど、まあ、取り敢えずは大丈夫だ」

『ご無事で何よりです』

「………ああ」

 

 夜空を見上げれば、二つの月が目に映る。

 それを当たり前と感じる私がいて、俺はそれを否定する。

 けれど、私の心を否定しきれなくて、それでも認めたくない俺がいる。

 

「………なあ、レイジングハート。一番に、最初に教えてほしいことがあるんだ」

『何でしょうか』

「俺は、私は………」

 

 

 

 誰なんだ?

 

 

 

『………あなたは………あなたの体は「高町なのは」のクローンです』

「高町……なの、は………」

『そして、あなたの記憶は「平凡な青年」に「高町なのは」の記憶を混ぜたプログラムです』

「………は、はは…………うそ、だろ?」

『事実です』

 

 嘘だ。

 嘘だうそだウソダ!

 父さんが、母さんが、妹が、親友が、恋人が、同僚が、上司が。

 俺の記憶が、思い出が作り物だなんて、ウソダ!!

 

 本当だよ。

 私は本当だと知ってる。

 俺の記憶が作り物で、私の思い出が『私』のものじゃないって

 何よりも、誰よりも私が知っている。

 

「………胡蝶の夢、かよ」

『何でしょうか、それは?』

「………ある男が蝶になった夢を見て、自分は蝶になった夢を見ているのか、それとも蝶が人間になった夢を見てるのかわからなくなるって話さ」

『なるほど』

 

 この話の肝は、夢と現は共に真実で、受け入れ行動せよってことだ

 

「…………わかった。俺が私であることは一先置いておく。だから、順番に説明してくれ」

『了解しました』

 

 

 

 

 

 

 プロジェクトF。

 クローニングした素体に記憶を定着させることにより、従来の技術では考えられない程の知識や行動力を最初から与える事が出来る。

 その最大の目的は、元となった人物の肉体と記憶の複製。

 

『ですが、元となった人物の完全再現だけは叶わず、極限まで似てはいても「新たな人格と資質を備えた別人」となってしまうという所で研究は一度座礁しました』

「その辺の知識は、「私」の中にもあるな」

 

 その結果、生まれたのがフェイトだ。

 

『しかし、そこで研究は終わらず、「別人」ということを逆手に取ることになりました』

「………具体的には?」

『魔法の素質さえあれば「本人」である必要はない。いえ、むしろ「駒」にするなら本人じゃない方がいい。絶対服従の『人格』を植え付ける研究です』

「………それが、「俺」か?」

『いえ、正確には違います。マスターはその前段階、「プログラム記憶及び人格の拒絶反応確認試験体」です。実験の結果は、拒絶反応無くプログラムの記憶と人格は正しく継承されたことで成功となりました。そのため研究は次の段階に移行、絶対服従の「人格」を植え付ける段階へと進み、マスターは「処分」が決定しました』

 

 だが、ただ殺して処分するには金が勿体ないし、なによりも私の身体は魔力に満ち溢れている。

 

『そこで、その潤沢な魔力を動力源とする装置への永久接続が決まりました』

「つまり、電池……か」

『そうです。マスター以外の個体も同様の処理がなされています』

 

 有効利用ってやつなんだろう。

 だが、今回はそうはいかなかった。

 

『その輸送中の事でした。マスターの中の「高町なのは」が目を覚ましたのです』

 

 そう、本来あるはずのない「私」が目覚めたから。

 

『突然のことで混乱した「高町なのは」は魔力を暴走させ、輸送車を大破、私を持って逃走しました』

「………ちょっと待て、レイジングハート。お前はなんでそんな所にいたんだ? 本物の「高町なのは」のデバイスだろ」

『………私もまた、本物の「レイジングハート」ではありません。マスターの魔力運用テストのために作られた劣化コピーです』

 

 そのため、アクセルモードにしかなれないし、出力も50%ほどしかないらしい。

 

『話を続けます。私と共に逃走した「高町なのは」ですが、当然すぐに追手がかけられました。精神状態が不安定な「高町なのは」は追手に敗北、昏倒します。ですが、そこでもう一つの意識が目覚めました』

「つまり、土壇場で今度は俺が目覚めたんだな」

『後は、マスターもわかる通り、追手を撃退、再度逃走して此処に至るというわけです。ところでマスター、今は「どちら」ですか?』

「………ベースは「俺」だ。だが「私」の記憶も確かにあるし、大人の男から少女になったってのに身体に違和感がない。完全に混ざっちまった」

『そうですか……』

 

 そこでレイジングハートとの会話が一度途切れる。

 もう一度夜空を見上げれば、二つの月の位置が変わっていた。

 結構な時間話していたし、当たり前か。

 しかし、そうか。

 俺は作り物だったのか。

 

『マスター、落ち込むのも分かりますが、そろそろ移動しましょう。此処に留まり続けていれば、管理局員に追いつかれます』

「え、追手って管理局なの?」

『先ほど交戦した追手は管理局の制服でした。管理局全部とは言いませんがあれほどの実験を隠蔽出来るということは、間違いなく上層部が絡んでいます。迂闊に接触すれば、すぐにバレるでしょう』

「……了解、気を付ける」

 

 俺はベンチから離れ、公園を後にした。

 そうして歩き始めて数分のところで、重要なことを思いついた。

 

「なあ」

『なんでしょう?』

「俺に、名前を付けてくれないか? 「高町なのは」でもなく、平凡な青年としての「記憶のプログラム」でもない、「自分」の名前」

『………分かりました。そのかわり、お願いがあります』

「うん?」

『私の名前を付けてください。私は「レイジングハート」の劣化コピーですがレイジングハートではありません。私だけの名前を下さい』

「………もちろんだ、相棒」

 

 

 

 

 

 

 あれから俺たちは一日移動しっぱなしだった。

 管理局の追手なのだろうか、空を飛ぶ奴らを何人か見たが下水道を使ったりして何とかやり過ごすことができた。

 まあ、そのせいで身体に悪臭が染み付いて酷いことになっているんだがな。

 因みに今は朝方、あの公園を移動して約三十時間が経っている。

 

「クレス、いい加減腹が減って動けなくなりそうなんだが、お金とか持ってない?」

『残念ですがありません』

 

 そういえば、相棒の名前を決めたんだ。

 ビタークレス。

 普段はクレスって呼ぶことにした。

 不屈の心って花言葉を持つ花の英名だ。

 デッドコピーとはいえレイジングハートの姉妹機だし、繋がりはあってもいいんじゃないかって思って名付けた。

 クレスも気に入ってくれた。

 

「仕方がない、この辺に川とかないか?」

『二キロほど西に小川がありますが、どうするのですか?』

「水浴びと、魚釣り」

 

 正直、臭すぎてやってられない。

 俺の中の「私」が悲鳴をあげてる。

 

『水浴びは分かりますが、魚釣りには道具が必要ですよ』

「問題ない。クレスの魔法は非殺傷なんだろ。川にぶっぱなせば気絶した魚が浮いてくるはずだ」

『……………』

 

 あ、機嫌を悪くした。

 短い付き合いだが、クレスが人と同じように感情があるのはわかる。

 本来の使い方じゃないから不満なんだろう。

 

「我慢してくれ。ぶっちゃけ、もう腹が空きすぎて倒れそうなんだ」

『………今回だけです』

「さんきゅーな」

 

 

 

「ふいー、さっぱりした」

 

 小川についた俺は、そこから人の目に付きにくい場所まで川を遡った。

 そして、いい感じに人気がない橋の下に着くと、すぐさまバリアジャケットを解除して川に飛び込んだ。

 夏の強い日差しに反して冷たい川の水が心地よい。

 そういえば言ってなかったが、バリアジャケットを解除すればマッパになる。

 輸送されるときは生命維持装置みたいなポッドに入れられていて、服は着ていなかったらしい。

 私「高町なのは」が逃走の際にバリアジャケットを服替わりにしたとクレスが言っていた。

 

「クレス、魚取るよー」

『大変不本意ですが、了解しました』

 

 その言葉と共に、胸元で赤い宝石として輝いていた待機モードのビタークレスが、杖へと変化した。

 いわゆるアクセルモードというやつで、一番魔法の杖っぽいやつ。

 ついでに俺もバリアジャケットを着て、裸の少女(12)から魔法少女(12)へと変身する。

 

「クレス、生体反応をサーチして」

『了解………前方の岩陰に一匹います』

「それじゃ、攻撃して取ろうか。スターライトブレイカーでいい?」

『ダメです。魚を取るどころか大地を抉り取りますよ。そもそも、私が耐えられなくて壊れます』

「冗談だって。レストリストロックにするよ」

 

 魔法の練習は必要ない。

 だって「私」が覚えているから。

 俺は軽くクレスを振ってレストリストロックを岩陰に放った。

 

『目標、捉えました』

「おー、上手くいったな」

 

 バシャバシャと川を歩き岩陰に行けば、光の輪によって捕獲された魚が一匹。

 三十センチほどある大物だ。

 

「クレス、これ食えるやつ?」

『解析………毒はないので食べれます』

「味は?」

『知りません』

 

 …………まあ、そこは妥協するか。

 空腹は最大の調味料って言葉を信じよう。

 俺は川から上がると、魚にその辺で拾った石を擦りつけてウロコを剥がす。

 それから、割れたガラスを使って腹を割いて内臓を取り出し、川で洗って綺麗にしたあと棒に突き刺して火に焼べる。

 火は拾ったライターで起こした。

 やってて良かったボーイスカウト。

 ま、作り物の記憶だけどね。

 

『逞しいですね、マスター』

「こんな身体だけど、精神は男の「俺」がベースだからね………っと、焼けた焼けた」

 

 いただきます、と感謝の言葉を述べてから齧り付く。

 実に三十二時間ぶりの食事だ。

 目覚めてから何も食べてないってだけで、本当はもっと久しぶりかもしれないが。

 

「うん………」

『ご感想は?』

「マズイ」

 

 けど、腹が減ってるから食べるのは止まらない。

 舌は拒絶しているのに、胃が求めている。

 せめて塩があればもう少しマシだったかもしれない。

 

 

 

「さて、腹も一旦膨れたし、これからどうすっかね?」

『一番良いのは、信頼出来る者に保護を求めることでしょう。今のマスターには衣食住の全てがありません』

 

 そうなんだよなー。

 バリアジャケットを服代わりにしてるが、これ解除したら素っ裸だし。

 飯はここでマズイ魚を食ってることでもお察し。

 住居どころか戸籍すらない。

 

「信頼出来る人、か。真っ先に浮かぶのは「私」だよな」

『「高町なのは」は確かに信用出来ますし、間違いなく全力で保護してくれるでしょう』

 

 問題はどうやって接触するか、だ。

 それも、同じ管理局に追われているからには、直接接触は絶対だ。

 間に誰かを挟めば、情報が漏れて追手にバレる可能性がある。

 

「「高町なのは」の住居、あるいは職場は分かるか?」

『残念ながら、私がコピーされた時はミッドチルダに住居を構えておりません。職場は教導隊に勤めているらしいとのことまでは分かりますが、教導隊はその仕事柄部署を転々としますので、現在どこに居るかは不明です』

 

 クレスは、いつか研究施設から抜け出せたときの為に情報を集めていた。

 ネット環境への接続は許されず、ほとんどは研究者たちの雑談からの情報であったが、それでも無いよりはずっとマシであった。

 

「お前、いつコピーされたの?」

『新暦六十七年です。「高町なのは」が撃墜され瀕死になった際、レイジングハートもオーバーホールを受けました。その時、全データをコピーされ、それが「私」になりました』

 

 因みに、今は新暦七十五年の八月下旬だから、約八年前か。

 

「「私」の記憶も大体そのくらいまでだし、俺もその頃に得たデータから作られたのかもな」

『恐らくそうでしょう。身体の隅から隅まで検査していましたから』

「……っと、それは置いておこう。全データをコピーされたならメールアドレスとかはないのか?」

『ありません。メールや通話の記録は全て消去されています。それにあったとしても機能がありません』

 

 当たり前か。

 密告の危険性は取っ払っているよな。

 

「あー、もう。何をするにも情報が足りなすぎる。「私」の記憶だって八年前のものだし」

『ならば、まずは情報収集を致しましょう。どこかでネットにアクセスさえ出来れば、ここ八年で「高町なのは」が何をしていたのかも分かります』

「そうか、そうだよな。ナイスだ、クレス!」

 

 アクセスなんてネットカフェにでも入れば簡単に出来る。

 

「他に信頼出来ると言えば「フェイト=テスタロッサ」と「八神はやて」、「ヴォルケンリッター」に「ユーノ=スクライア」、「ハラオウン親子」くらいか。この辺の情報も出来るだけ引っ張ってこよう」

『その辺が妥当でしょう。運が良ければそれらのうち誰か一人でもアドレスが見つかるかもしれません。そうすれば後は自然と向こうで連絡を取り合うはずです』

「ああ、「私」たちの友情は厚いからな。多分、八年経っても変わってないだろ」

 

 やることは決まった。

 ネットカフェ代を拾うこと。

 それで呼び出しの連絡をして、保護してもらおう。

 カフェ代なんて大して高くないから、自販機の底でもあされば得られるだろう。

 

「そうと決まれば、早速自販機を探――」

『マスター、上です!!』

 

 その言葉に見上げれば、橋の上から飛び降りる形で男が迫ってくる。

 その手には両刃剣のデバイス。

 咄嗟にプロテクションを発動させて魔法障壁を張れば、数瞬後には剣戟がぶつかった。

 

「っち、防いだか」

 

 追撃されないよう、俺は素早くバックステップを踏んで追手の男から距離を取る。

 「私」は砲撃魔法使いだけあって中~遠距離が得意だが、反面、近距離が苦手だ。

 向こうもそれがわかっているのか、すぐにクロスレンジへと持っていこうと剣を構えて寄ってくる。

 だが、一つ向こうには誤算がある。

 

「クレス、お前、武器としての強度はどのくらいだ!」

『鉄パイプくらいはあります』

「オーケー、十分だ。先に謝っておく、乱暴に使うぞ」

 

 それは、「俺」が剣道をやっていたってことだ。

 

「オラっ!」

 

 剣を障壁で受け止めると、ビタークレスで突きを繰り出す。

 「俺」の腕前は一般人に毛が生えた程度のものだが、こちらからクロスレンジに踏み込んで来るのは予想外だったのか、突きは上手いこと鳩尾に入る。

 だが、痛みで怯んだのは一瞬のこと。

 子供の力では大したダメージになりもしない。

 しかし、「私」が欲しかったのは、まさにこの一瞬。

 

「レストリストロック!」

 

 直後には男の四肢に光の輪が現れ、拘束する。

 こうなれば、「私」の必勝パターンだ。

 俺のリンカーコアからビタークレスへと魔力が伝わる。

 こっちは必死なんだ、容赦はしない。

 俺は至近距離で魔砲を発動させる。

 

「ディバインバスター!!」

 

 オリジナルの「高町なのは」よりもほんの少しだけ淡い桜色の奔流が、追手を吹き飛ばした。

 

「ふう………非殺傷だから思いっきりぶっぱなせてイイな!」

『いい笑顔です、マスター』

「しかし、もう嗅ぎつけられたか。こりゃ、早く保護してもらわなきゃマズイ」

『そうですね、ここまで早く来るとは想定外です。一刻も早く移動しましょう』

「だな………っと、その前に」

 

 俺は倒れている追手の傍によると、その身体を弄る。

 

『何をしているんですか、マスター?』

「いや、財布ないかなーって………お、あったあった」

 

 尻のポケットに入っていたそれを抜き取って、中身を確認する。

 うん、紙幣と硬貨がそこそこ入ってる。

 これさえ頂ければ、こいつに用はない。

 

「じゃ、行こうか。金もあるし、さっきよりも楽に逃走出来る」

『鬼ですね』

「オリジナルは「魔王」なんて呼ばれてるんだろ? それに比べれば可愛いもんさ」

 

 ここから離れたらコンビニで飯を買おう。

 魚だけじゃ、やっぱり足りないからな。

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