一話 なのはクローンになっちゃった。
二話 フェイトそんにSOS送ろうとしたらバレちゃった。
三話 戦闘機人に殺されそうになっちゃった。
四話 疲労と風邪で倒れちゃった。
加筆修正箇所
随分前のことで忘れちゃった。
泣いて泣いて泣いて。
少し分離し始めていたミルクの私とコーヒーの俺は、もう一度ぐるぐるとかき混ぜられて。
心に溜まったアレコレを涙と一緒に出し切ったときには、ガムシロップが加わったカフェオレな俺になっていた。
「落ち着いたかい?」
「………ありがと、ございます」
女性の胸元から身体を離し、手の甲で涙を拭う。お礼の言葉はしゃくりあげながら言った。
「あ、服……」
俺の涙によって女性の胸元はぐしょぐしょに濡れていて、
「構やしないよ、ゲロよりマシさ」
「すんません……」
「構わないって言っただろ。それよりも、スープが冷めちまったようだね。温めなおしてやるから、ちょっと待ってな」
脇に置いていたスープをお盆に乗せると、よいせと言って女性はお盆を持って立ち上がった。
そのまま部屋を出て行こうとするところを、俺は慌てて呼び止める。
「あの! 名前を伺ってもよろしいですか?」
「『シロ』だよ」
「し、しろ?」
まるで犬の名前のような……って、そうじゃなくて。
今、日本語じゃなかったか?
「もちろん偽名さね。最近流行りの管理外世界があるだろう? その世界の言葉で白色って意味の言葉さ」
本名は教えられないとシロさんは言う。訳ありなのは自分も同じだからと。
「シロさん、助けていただいてありがとうございます」
改まって俺が頭を下げれば、シロさんはふっと笑い、何も言わずに部屋を出て行った。
扉が閉じたのを確認して、俺は起こしていた半身を重力に引かれるままベッドへと落とす。ポフリと音がして、柔らかな布団は優しく俺を受け止めた。
『お休みですか、マスター?』
「いや、シロさんがスープ温めてくれているだろう。寝ないさ」
けど、ひどく疲れた。
泣くっていうのは、ホント体力使うんだな。子供が泣いた後で寝てしまうのが、今はよくわかる。
シロさんが戻ってくるまで暇になった俺は、手慰みにクレスを指でつまんで何となく眺めた。
真紅の宝玉が金の台座に収まり、台座には茶色の革紐が取り付けられている。本物のレイジングハートと寸分も違わない。
……ん? 違わない?
「なあ、クレス。お前ってさ、「レイジングハート・エクセリオン」のデッドコピーだよな? 「レイジングハート」じゃなく」
『そうですが?』
「レイジングハート」と「レイジングハート・エクセリオン」は、レイジングハートとしては同じだが、その機能は全然違う。
レイジングハートは闇の書事件の時にヴィータにぶっ壊され、修理する際に色々機能を改良した。いわばアップグレード版がレイジングハート・エクセリオンだ。
何より大きな違いは、ベルカ式のカートリッジシステムを搭載したこと。
「ってことは、クレスにもカートリッジシステムが……」
『ありますね。今の私は一発のリロードしか耐えられませんが』
たとえ一発でも使えるなら、戦闘の要所要所で使うことで戦術の幅は広がる。例えばそうだな……フラッシュムーブ中にカートリッジロードを入れることで、もう一回フラッシュムーブを発動させる連続瞬間移動なんてどうだろうか。
魔法の発動起点は俺になるから、クレスへの負荷はそれほど大きくないはずだ。
『砲撃をカートリッジで更に高出力にするようなのは厳しいですが、確かにマスターの案なら可能ですね』
「よし!」
これで一つ逃走に使える手が増えた。今のままじゃ、地下道で交戦した奴らとまた遭遇した時に同じように負けてしまう。少しでも使える手は増やさなきゃならない。
『ですが、それには大きな問題が一つ』
「……なんだよ?」
『弾がありません』
「…………」
俺は無言でクレスをアクセルモードへと変化させ、杖の先端に付いているカートリッジを引き抜いた。
クレスの言う通り、カートリッジの残弾はゼロ。なんにも入ってなかった。
「弾切れとか……何のためについてんだよ、これ」
『取っ手なんじゃないですか?』
クレスはカシャリカシャリと意味なくリロード動作をしながら、俺の言葉に自虐的に返した。
せっかく思いついた手が早々に消え、やるせなさだけが残る。
クレスを待機状態に戻して首にかけ直した。
「……はぁ」
『ため息を
「なら一緒に吐くか?」
『結構です』
つれないなぁ。
『それよりも、これからどうしますか?』
「そうだなぁ……」
やることは変わらない。フェイトに連絡を入れるため、クレスをネットに繋げればいい。
手っ取り早いのはシロさんにお願いして、この家からネット接続することだが。
「それすると、逆探知された時にシロさんに迷惑かかるんだよなぁ」
逆探知されるのは防げない。一度ネットカフェでクレスを繋げた時にされている。あの時は30分もかからずに追っ手がやってきた。
なら、どうするか。
「……やっぱ体調を回復して、戦えるようになってからネカフェでメールを送るか」
「なんだ、メールしたいのかい?」
バッと起き上がり、声のした方を見れば、シロさんが扉を開けて入ってくるところだった。手に持ったお盆には湯気を立てるスープがのっている。
ノックせずに入ってきたので声をかけられるまで気付かなかった。
「そのデバイスですればいいじゃないか」
「いや、クレスはネットに繋げられないんです」
「インテリジェントデバイスなのに? 随分な欠陥機さね」
シロさんにさらりと言われ、胸元で淡く光っていたクレスが、光るのを止めて
おーよしよし、そんなに落ち込むなって。ほら、よく言うだろ、ダメな子ほど可愛いって……あ、濁った。
「アタシの端末を使うかい?」
「いえ、足が付くとご迷惑になりますので……」
「そうかい、じゃあ仕方がないね」
それよりも食べな、とシロさんはお盆を差し出してきた。
身体を起こし、それを受け取る。
いただきますと手を合わせてから、もう一度スープを口へと運ぶ。
「……やっぱり美味しいです」
「そりゃ良かったよ。食べたら一眠りしな。まだ顔色が良くないさね」
シロさんはその間に仕事に出かけると言う。
聞けば、
「アタシが帰ってくるまで、勝手に出て行くんじゃないよ。ちゃんと元気になった姿をアタシに見せるのが介抱のお代さね」
「……わかりました」
俺が頷いたのを確認してシロさんは部屋を出て行った。去り際にぽんと撫でられた頭には、スープとはまた違った温かさを感じた。
俺はスープを一滴も残さず綺麗に平らげると、ベッド脇の机に置いた。
それから掛け布団を肩までしっかりかけて目を閉じる。
「……クレス」
『はい』
「なんだか、いい夢が見れそうな気がする」
『……お休みなさいませ、マスター』
…………………
…………
…
時空管理局地上本部。
中央の超高層タワーとその周り数本の高層タワーからなるそれは、ミッドチルダのどこからでも見えると言われる。
その中央の超高層タワーの最上階にレジアス・ゲイズ中将の執務室がある。
天井も高く広々とした部屋は、そのほとんどが本棚で埋まっていた。大量に収められた書物のほとんどは様々な参考資料や報告書であり、同じものがデータベース上に存在する。
レジアス中将がデータよりも紙の書物の方が好きで、より内容が頭に入るという、多忙の中の小さなわがままによってこの執務室が出来上がった。
そんなレジアス中将はというと、窓を背にした執務机に着いてオーリス・ゲイズ副官からの報告を受けていた。
「機動六課からは材料は出ませんでした」
「そうか……公開陳述会まで間もない。より有利な交渉材料を押さえておかねば」
「引き続き、こちらの査察部を動かします」
その回答に、レジアス中将は頷く。
とにかく今は情報を集めなければならない。公開陳述会では、間違いなく本局の者達はレジアス中将のやり方に異を唱える。こちらの意見を通すには、こちらも向こうの意見を通す必要があるのだ。
それが相手の弱みの黙殺なら、こんなに旨いことはない。こちらが譲歩することなどなくなるのだから。
無論、それは向こうも同じこと。
オーリス副官から向こうもこちらを探っているという報告を聞くも、レジアス中将は驚かない。
ただ面倒だとだけ思う。
「奴らに理解させるには時間と実績がいる。まったく、必要あってのことだというのに、面倒な奴らだ」
「最高評議会からの支援は頂けないのでしょうか?」
「
その問にオーリス副官の顔が少し険しくなる。
アインへリアル、地上防衛の要と成るべくして建造が進められている超長距離大型魔力砲だ。独自の魔力精製炉を有し、魔力を持たない一般人でもスイッチ一つで砲撃が撃てるようになる。
何よりもアインへリアルの配備が進められている理由は、ミッドチルダほぼ全土を射程に収めることが出来ることにある。
地上本部の主力たる陸士部隊は9割が飛行能力を有しておらず、残り1割の内で戦闘をこなせる者は半分にも満たない。それはつまり、空からの襲撃、空への逃亡に対して取れる手段が非常に少ないことを意味する。
アインへリアルが運用されれば、これまで煮え湯を飲まされてきた飛翔魔法を使う犯罪者に対する有効な攻撃手段になる。レジアス中将の試算では犯罪検挙率は25%も上昇し、ミッドチルダは今よりもずっと暮らしやすく安定した世界になるはずだった。
今回の公開陳述会でも大きな争点になる事項である。
だが、オーリス副官の元にはそれに影を差す報告が上がっていた。
「1、2号機は順調に調整が進んでおり、公開陳述会には間に合うとのことです」
「1、2号機? では3号機はどうなのだ?」
「それが、3号機に搭載している魔力炉の炉心の手配が遅れており、このままでは公開陳述会での試射は難しいと──」
それを聞いたレジアス中将は怒り、机に拳を叩きつけた。
ドンという音と共に、置かれていたマグカップが跳ねて中身のコーヒーが少量溢れる。
「何をやってるんだっ! 陳述会には絶対に間に合わせろ!! リソースが足りないというなら、他から回せ。優先順位を間違えるな!」
「わ、分かりました」
肩を怒らせるレジアス中将。だが、すぐに目を閉じて深呼吸をして自分を鎮める。
起こったことは仕方がない。オーリスを叱責しても戻ってくるわけではないのだ。
「……オーリス、お前はこれからアインへリアルの視察に向かうんだったな?」
「は、はい。間もなく向かう予定です」
「炉心の手配が遅れた原因を追及しろ。無論、二度と起こさぬよう対策も立てるよう伝えておけ」
「分かりました」
「それと、今回の責任の追及は後回しで良い。それよりも、公開陳述会に間に合わせるにはどうしたらいいかを中心に打ち合わせしてこい。人的リソースが足りないならこちらから応援を出せ、物的リソースが足りないなら手配しろ」
レジアス中将は、本件の人選や手配には中将命令を使っても構わないことを伝え、オーリス副官を下がらせた。
マグカップを手に持ち席を立ったレジアス中将は、窓から地上を見下ろす。
瞳に映るその全てがレジアス・ゲイズにとって守るべきものであり、それを守ってきたことが何よりも誇りだ。そしてそれを、より強固なものとするにはやるべきこと、やりたいことがまだまだ残っている。
レジアス中将はすっかり冷めたコーヒーを一息で飲み干すと、また執務机に着くのであった。
一方、オーリス副官は当初の予定通りアインヘリアルの視察へと向かった。
アインヘリアルのすぐ近くに建てられた庁舎に車を付けると、庁舎からアインヘリアルの技術責任者であるドーリック・ハクト三等技佐が出てきて、オーリス副官を出迎える。
「ようこそおいで下さいました、オーリス三佐」
「今日は視察の予定でしたが、後回しにします。理由はお分かりですね?」
「え、ええ。では応接室へとご案内します」
ドーリック三佐の案内に従い、庁舎の中を進む。
今回の視察にはオーリス副官の秘書官は連れてきていない。彼をここに連れてくるには、まだ早いと判断した。いや、もしかしたらこういった場に彼を連れてくることは一度もないかも知れない。
彼はレジアス中将の掲げる
「どうぞお座りください」
応接室へと入るとオーリス副官は上座へ座った。
同じ三佐ではあるものの、その立場は二人の間で大きく異なる。中将付きの副官という立場は一佐とも引けを取らない。
庶務の女性官が飲み物を置いて部屋から退室すると、オーリス副官は早速本題に入った。
「まず、アインヘリアル建造の進捗状況について報告をお願いします」
「1、2号機は予定より3日ほど前倒しで作業が進んでおります。既に砲塔の動作確認を終え、現在は細かなデバッグを行っているところです」
魔力炉との接続は完了し、やろうと思えばいつでも試射を行える状態にある。
「分かりました。1、2号機についてはこの調子で建造を進めてください。それで、肝心の3号機についてはどうなっていますか?」
「先日ご報告致しましたが、魔力炉の炉心の手配が遅れていまして。動力源の炉と接続できないため砲塔の動作確認等が行えていません。他の部分の建造はほとんど終わっていますので、炉心が届くのを待つばかりとしか……」
もちろん空いた人員を遊ばせているわけではない。その分を1、2号機に回しているため、作業が前倒しで進んでいるのだ。だがそれでも、現状のままでは間違いなく3号機建造が公開陳述会に間に合わず、陳述会で本局側に突かれてしまう点となる。
「私がここに来たのは、遅れるという報告を受けるためではありません。どうやって挽回するのか、その対策を立てに来ました」
「ええ。ですので、今急いで代わりを手配しております」
ここでオーリス副官は、ドーリック三佐の言うことに違和感を覚えた。
代わりを手配? そもそも、炉心が届かないという話ではなかったか?
「ドーリック三佐、私は炉心の手配が遅れていると報告を受けました。つまり、炉心の製造が遅れていると思っていたわけですが、どうやら違うようですね」
「ああ、いえ、炉心の製造は出来ていたんですが、それを輸送中に事故が起きまして……」
「事故ですか……報告にはありませんでしたが?」
オーリス副官が突っ込めば突っ込むほど、ドーリック三佐の説明はしどろもどろになっていった。
これは何かあると確信したオーリス副官は、次々と説明の矛盾点を突いていく。
「輸送中の事故ということは、交通事故でしょうか。陸士で運用している輸送車は、少々の事故程度では貨物に影響はないはずですが?」
それに、仮に事故による影響が出たとして、何故炉心の修理を行うと言わないのか。修理を行えないほどに粉々になるような事故だったと言うなら、それは輸送車の強度からして大惨事に違いない。そんな事故が起これば、数分も置かずにオーリス副官の耳に届く。
そうやってオーリス副官は一つ一つ追及し、逃げ場を無くしたドーリック三佐は、ついに隠していた本当の原因について話すことになった。
「……魔力炉の炉心が逃亡しました」
「逃亡、ですか。つまり、炉心とは生物だったのですね?」
「はい……その生物の持つリンカーコアへ外部から魔力を
そんなことをして、炉心の生物が無事であるはずはない。フルパワーでアインヘリアルから砲撃を放てば、そのリンカーコアだけでなく身体までもが魔力へと変換されて消滅する。
言うまでもなく、そんな命を犠牲にする兵器は違法中の違法だ。
オーリス副官は思わずこめかみを押さえてしまう。
「…………魔力炉は公開陳述会の後、すぐに違法性の無いものへ切り替えなさい。多少スペックが落ちても構いません」
「しかし、アインヘリアルを動かすほどの大型魔力炉などすぐには建造できません」
「九月に廃艦予定が三艦あります。手は回しておきます、それの魔力炉を使いなさい」
だが、今は、今は切り替えることは出来ない。それは、アインヘリアル建造中止を意味する。多少の違法性は飲み込んで、確かな実績を上げて有用性を示す。それから違法性を無くせばいい。
「当然、逃亡した炉心を追ってはいますね?」
「残念ながら、巻かれてしまったと報告が」
「では、新たな炉心の製造にはどのくらいかかりますか?」
「おおよそ一ヶ月と聞いています」
「早めることは?」
「厳しいでしょう。未成熟では精製出来る魔力が落ちてしまい、運用できるレベルになるかどうか」
それを聞いてオーリス副官は少し考え込む。
未成熟の炉心を使うことと逃亡した炉心の捕獲。その二つを天秤に乗せ、メリットとリスクを天秤に加えていく。
数分の間黙り込んだ末、結論が出る。
「炉心の捕獲を最優先事項とし、レジアス中将直轄の特務隊を動かします。ドーリック三佐はこれまでの炉心捕獲に関するデータを早急に私に送りなさい。まとめる必要はありません、全部送りなさい。これは命令です」
「わ、分かりました」
「それと、今回の違法研究は即刻凍結……いえ、隠滅します。貴方にまで手が回らないようにはしますが……身の振り方は考えておいて下さい」
やるべきことは終わった。
早急に手を打つため、オーリス副官は足早に応接室を後にする。
後に残されたドーリック三佐は椅子に崩れ落ちると、天を仰いで長く息を吐き出した。
それから、のろのろと動き出すと、オーリス副官へデータを送る作業に入るのであった。
明けましておめでとうございます。
え、遅い? もうすぐ年の半分過ぎる?
……うん、知ってる。
さて、まさかこの五話を、あとがきから読む人はいないと思いますので、中身にちょっと触れましょう。
レジアス中将の執務室。
みんな電子書籍化してるだろう世界観で本有りすぎ。本好きなの? ビブリオマニアなの? よし、本好きにしよう。
犯罪検挙率の向上。
演説で言ってた気がする。多分。
魔力炉の原理。
ようはレーザーの増幅と同じ。