量産型なのはの一ヶ月   作:シャケ@シャム猫亭

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お気に入り小説リストを見て、「なんだっけ、この小説」と思ったそこの君。
安心してください、私もです。

というわけで、一言あらすじ。
一話:俺はコピーなのは
二話:フェイトが二浪したらしい
三話:ぴっちりスーツってえっちい
四話:風邪引いた
五話:炉心逃亡中



カウントスタート

「なぁるほどねぇ……随分とまあ外道な方法じゃん」

 

 地上本部の特設トレーニングルームで訓練を行っていた彼の元へ連絡を寄越したのは、地上本部トップの右腕だった。もっとも、彼の所属する部隊への指揮権を持つ者は数える程しかいないため、そう珍しいことではない。

 珍しいとするなら、連絡が来たことそのものだ。

 

「んで、俺は何すればいいわけ? その研究所でも潰すん?」

『いいえ、逃げた炉心の捕獲です。研究所については、他の隊員に任せます』

「ういうい、りょーかい」

『不満ですか?』

「まっさかー。研究所に回されなくて良かったと思ってるよ。どう考えたって、こっちの方が楽しそうじゃん?」

 

 研究員なんて非戦闘員、研究所のセキュリティも所詮機械。彼には心が躍るような戦いができるとは到底思えなかった。

 送られてきた資料によれば、捕縛対象はエースオブエースのクローンだという。劣化クローンのため魔力量は少ないらしいが、それでもあのエースオブエースのクローンなのだ。

 本局であった戦技披露会、高町なのは一等空尉と八神シグナム二等空尉が繰り広げた文字通り血戦を見てから彼は、彼女らと戦いたくて戦いたくて仕方が無かった。それこそ、彼女らと戦うために犯罪者になることを考えるほどに。

 今回の任務はその片鱗でも味わえそうなのだ。逃す手はない。

 自然と彼の口角は上がった。

 

「いつも通り、任務に支障が出ない範囲なら…………いいんだな?」

『……いいでしょう。ですが、機動六課ができたせいで、その支障が出ない範囲が狭まってます。見誤らないように』

「わかってますって。それで、ターゲットは何処に居るわけ?」

『地下道を使われたせいで割り出しに時間かかりましたが、44地区とみて間違いないでしょう』

「そりゃなんとまあ、捻りのないというか、オーソドックスというか、素人臭いというか」

 

 確かに、44地区は反社会的組織が幅を効かせているため、管理局の手が伸びにくい。

 だがそれは、あくまで一般職員の話で。彼のように裏の人間からしてみれば、逆に何でもアリで動きやすい。

 

『定時連絡は入れるように』

「はいはい」

 

 ひらひらと画面の向こうに手を振って、彼は通信を切った。そしてすぐに別のウィンドウを浮かばせ、受け取った資料を映す。

 そこには、捕獲対象のこれまでの行動が順に載っていった。中でも彼が注目したのは、ネットへのアクセス記録。

 

「お仲間さんに連絡取ろうとしたわけね。でも、襲撃されて失敗」

 

 送ろうとしたメールの宛先はわからない。アクセス遮断のために店ごとブレーカーを落としたのは失策だった。 

 だが、アクセス遮断という判断は間違ってない。

 

「相手は素人。失敗しても、もう一回チャレンジ」

 

 つまり、見張るべきは44地区のネットと、そのアクセスポイント。

 

「取り敢えずデバイスIPはわかったから、アクセス権限ロックしておこ。それから、44地区で有線接続出来そうな場所をリストアップ…………多いな。これ全部にマーカー仕掛けるの面倒────いやいや、これもお楽しみのため。久しぶりにガンバルゾー」

 

 網は張られた。

 後は食い破られるか、絡め取られるか。

 二つに一つ。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

「……というわけで、後期型の8機は全て順調に調整が進んでいます」

 

 シャキリシャキリと音を立ててウーノが持つハサミが、椅子に座るスカリエッティの髪を梳いていく。ぱらぱらと落ちる髪は彼に掛けられたケープに受け止められ、あるいは床に落ちて白い金属タイルに紫の模様を作った。

 そんな彼らの横に立ち、クアットロは口頭で妹達の調整状況の報告をしていた。

 

「最終制作機の3機、君のプランだった余分な成分の排除はうまくいってるかい?」

「まあまあですね。7番のセッテは傑作の部類ですが、オットーとディードは少々余分な感情が多いです」

 

 もっとも、それもセインやウェンディに比べれば十分に純粋なのだが。だが、クアットロにとって最高傑作といえるのはドゥーエだ。強くて冷静で姉妹に優しく、反面、味方以外は等しく残酷。ドゥーエと比べると、どうしてもまだまだ調整不足の感が否めない。

 

「そうかな? 私はセインやウェンディもまた素晴らしい成功作品だと思っているよ」

 

 一方、スカリエッティの考えはクアットロとは違う。

 

「生きているからこそのゆらぎとでも言おうか。ただの機械では到底出せない輝きを持っているよ」

 

 感情を持つからこそ生まれる強さというものもあるし、セインのディープダイバーのように作ろうと思っても作れないISが発現することもある。だからこそ、()()としての生命は素晴らしい。

 

「お疲れ様でした」

「ああ、ありがとうウーノ。お陰でさっぱりしたよ」

 

 ウーノにケープを外して貰うと、スカリエッティは立ち上がって髪を撫でた。伸びて乱雑になっていた髪は綺麗に首筋あたりで揃えられており、頭が軽くなったことでどこか開放感を感じる。

 

「何はともあれ、準備は整った。後は四日後までに出来る事をして少しでも成功率を上げるだけだ。この世に100%なんてものは無いからね」

 

 そしてその出来る事の中に1つ、スカリエッティには気になることがあった。

 

「新たに見つかったFの遺産について、何か分かったかい?」

 

 その問いにクアットロは残念そうに首を横に降る。表面的な情報は管理局のデータベースの奥にあったので抜き出せたが、実験の詳細なデータは無かった。

 

「分かったのは精々、クローン元がエースオブエースってことと、記憶の転写で思いのままの人格を形成出来るってこと。魔力波長を7割までオリジナルと同じにできたことぐらいです」

「彼らにとっては記憶転写だけでなく、人格形成までできるようになったのは前進だろうね」

 

 しかし、スカリエッティとしては、魔力波長をオリジナルに近づけられた事の方が興味を引かれる。

 スカリエッティがプロジェクトFの基盤技術を作ったときは、魔力波長を近づける方法について何も分かっていなかった。

 それが、久しぶりに蓋を開けてみれば、Fの技術で実際に作り出された素体が三人も。しかも一人は、当時足がかりもなかった魔力波長操作まで出来ているというのだ。

 興味を惹かれないはずがない。

 

「とはいえ、いくら興味を惹かれるからといって、それで計画を疎かにしてはいけないからね。余力があれば確保、くらいにしておこう」

「わかりましたー。それでは私は妹たちの調整に戻りますね」

「ああ、報告ご苦労さま」

 

 ふんふーんと鼻歌を歌いながら足取り軽く戻るクアットロを、スカリエッティとウーノは見送る。

 祭りの日は近い。

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

「お世話になりました」

「なんだい、もう行くのかい? もう一日居たって構いやしないよ」

 

 俺は玄関先でシロさんに頭を下げる。

 あれからもう一眠りして朝になり、まだ少しだるさはあるけれど十分に身体は回復した。

 

「いえ、これ以上ご迷惑をかけるわけには。それに、やらなきゃいけないことがありますから」

 

 第一に、ここを出ていくこと。

 いつ追手がここを嗅ぎつけるかも分からないのだ。恩人に迷惑をかけたくない。

 第二に、フェイトちゃんに連絡を付けること。

 最大の味方にして最高戦力である彼女に保護して貰う。それこそが俺たちの勝利条件。

 

「そうかい、なら仕方がないね。それじゃ、今度は行き倒れないよう気をつけるんだよ」

「はい、ありがとうございました」

 

 もう一度シロさんに頭を下げて、俺はシロさんの家を出た。

 帽子は下水道で落としたから、今はジャージにメガネ、ツインテールは止めてポニーテールだ。

 

「クレス、ネットにアクセスできそうな所は分かってる?」

『もちろんです。逆探知に備えて逃走経路も押さえてあります』

「流石、相棒。頼りになる」

 

 示されたネットカフェは同じ44地区でも、現在地からだいぶ離れた所にあった。

 逃走に失敗した際、戦闘になってもシロさんを巻き込まないようにだろう。

 俺は道すがら、クレスと今回の作戦を相談する。

 

『前回ネットにアクセスしたときは、襲撃まで十五分ありました』

「今回も同じだけの猶予があると考えるのは楽観が過ぎるか」

 

 一度使った手なのだ、ネットは常に監視はされていると考えるべきだろう。

 

「アクセスした瞬間に居場所が割れるとすると、追手が来るまで五分……いや、三分以内に来るとみて動こう」

 

 クレスを接続して、メールを送って、店を出る。この間を三分以内にしなければならない。

 

「お会計は、釣りはいらねえぜってやればスルーできるとして。クレス、メール送るのに何分いる?」

『あの動画だけなら三秒です。実験データを付けるなら要相談ですが』

 

 クレスに示された逃走経路をもう一度確認する。

 

「店を出て、裏手に周り、マンホールから地下へ……地下好きだね」

『追手は最短距離、つまり飛んでくるであろうことを考えれば必然的にそうなります』

「逃げた先で鉢合わせは勘弁して欲しいから、仕方がないけどさ」

 

 逃走経路に異論はない。

 しかし、地下へ潜るまでにかかる時間を考えると、実験データを送るのは厳しい。

 

「前と同じく動画だけにしよう。それだけでもフェイトちゃんなら動いてくれる」

『了解しました』

 

 決めるべきことは、大体決めた。

 後は、この作戦における最大の不確定要素が、どう転ぶかだ。

 

「フェイトちゃんが来るまで、どのくらいかかるかな?」

『何とも言えません』

 

 運良くクラナガンに居れば、超特急で飛んでくるだろう。

 だが、執務官というのは多忙な職だ。ミッドチルダに居れば御の字、他の次元世界に居る可能性の方がずっと高い。

 

「連絡見てからすぐに次元航行船に乗り込んだとしても………やっぱり一日は見ておかないと」

 

 一日逃げ切れるだろうか。

 いいや、逃げ切らなくてはならない。

 

『幸い、バルディッシュは優秀です。メールが届いたらすぐに主に報告するでしょう』

「埋もれないってわかってるだけでも安心だよ」

 

 贅沢言うなら万全な状態で挑みたかった。もう一日、ベッドで寝ていたかった。

 だが今、時間は俺たちの敵だ。追手との距離が、その一日でどれだけ詰められるかわかったものじゃない。

 

『着きました、マスター。このビルの二階です』

 

 店に入る前に、先に店の裏に回る。裏手は狭い路地になっており、確かにマンホールがあった。

 試しに開けてみようと、ガス抜き用の穴に指を引っ掛け────

 

「ふっ! ぐぬぬぬぬぬっ…………はぁっ、ダメだ。重くて持ち上がんない」 

『当たり前です。下から押し開けるのとは違いますから』

「なあクレス。ここが開かなかったら、逃走ルート変更じゃない?」

『チェーンバインドで釣り上げましょう』

「………おお、そっか!」

 

 早速クレスを振り、手のひらサイズの魔法陣から魔法の鎖を一本出す。鎖を先ほど指を掛けていたガス抜き用の穴に引っ掛け、巻き取るように鎖を魔法陣に引き戻すと、合わせてマンホールも持ち上がった。

 人の来ない道のようだし、このまま半開きにしておこう。少しでも時間短縮になればいい。

 ルートの確認を終えると、ついに店に入った。

 カウンターには暇そうにしている店員が一人。身分証の確認はなかった。

 店員は番号札だけを渡すと、空いてるとこを好きに使うよう言い、ネットサーフィンに戻ってしまう。

 前回ネットカフェに入るのにした、『あの、ごめんなさい……学生証忘れちゃったみたいです……』みたいな可哀想な子供の演技はなんだったのか。

 相手の良心に付け込むのは心が痛かったが、何もないのもそれはそれで張り合いがない。

 

『回を追うごとに上手くなってましたよ』

「何の自慢にもならないよ」

 

 店の中はいくつもの個室に分かれており、そのほとんどが空席だった。奥の方の部屋がいくつか使われていたが、元々出口に近い手前を選ぶつもりだったので問題ない。

 部屋の扉は開けっ放しでいいだろう。すぐに出れるように。

 デスクトップ型の端末から伸びる有線を手に、クレスを待機状態からアクセルモードにする。

 

「準備はいい?」

『いつでも』

「……よし」

 

 深呼吸を一つ。

 

「プラグイン! クレスEXE、トラ、トランスミッ───あれ、うまく入らない……」

『グダグダですね』

「あ、入った」

『有線接続確認。メールを送し──マスター! 作戦変更です、そこの端末からメールを送って下さい!』

「っ! わかった!」

 

 失敗した理由を聞く暇はない。

 クレスに言われるまま宛先のアドレスを打ち込み、件名と本文は最低限に。

 それでも送信まで三十秒かかった。追手が来るまで、残り二分半。

 

「よし送れた。クレス、脱出だ!」

 

 

 

 

 

「させると思う?」

 

 

 

 

 

 その言葉が脳に届く前に、身体が動いた。

 アクセルモードのクレスを握り締め、振り向きざまに全力で障壁を張る。

 気が付けば目の前数センチの所に、槍型デバイスの穂先があった。

 

「ヒュー、良い反応速度じゃん」

 

 目元をバイザーで覆った襲撃者は口笛を吹きながら、アームドデバイスを押し込む。

 

「お褒めに預かり、光栄だ、よ!」

 

 物理攻撃に強いはずのプロテクションが激しく明滅し、じわじわと穂先が身に迫る。負けじと強く押し返したが、それが悪手だった。

 不意に槍が引かれ、競り合ってた力が急に無くなったせいで上体が流れる。

 

「しまっ──」

「あらよっと!」

『マスター!!』

 

 襲撃者の回し蹴りが胸に突き刺さった。軽い身体は易々と吹き飛び、個室の壁を二枚三枚と破ってようやく止まる。

 

「んー、この感触。ギリでバリアジャケット展開されたか」

「ゴホッ! ナイ、スだ、クレス」

 

 壁に手をついて、胸の痛みを堪えながら立ち上がる。

 

「よしよし、防御力も及第点。さあ、時間いっぱい楽しもうぜ?」

 

 アームドデバイスをくるくると回しながら、襲撃者は笑った。

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

To.「フェイト・T・ハラオウン」

From. 「gsineih65ajhbk.jshnin784」

件名.「SOS」

本文.「44地区        量産型なのは」

 

 短いメールだった。

 だが、それで十分だった。

 

「バルディッシュ!!」

『Yes, sir. SHIN Sonic Form』

 

 湾岸地区より上がった稲妻は、クラナガンの空を切り裂いて進む。

 

 




あけましておめでとうございます。

おい、誰だ、私に石を投げたの。
私に石を投げれるのは、一年以上更新が空いた作品がない作者だけ……痛い痛い! そりゃ一年以上放置してない作者なんていっぱいいるよね!
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