量産型なのはの一ヶ月   作:シャケ@シャム猫亭

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いつも量産型なのはの一ヶ月をご利用頂きありがとうございます。
今回のアップデートの内容をご案内いたします。

■対応内容
・新規ストーリー(第八話)の追加
・第二話の戦闘シーンを微修正。
・第七話にてクレスが自己修復モードに入った描写の追加。
・誤字の修正

今後とも量産型なのはの一ヶ月をご愛顧くださいますよう、よろしくお願いします。


行き着く先は鍋の中

It contact about thirty(接敵まで、あと三十秒です) seconds』

 

 複数のビルから黒煙が立ち昇り、まだ遠くて詳細は分からないが、明らかに戦闘が行われている。はやてからの情報によれば、付近の避難誘導と通行規制は既に行われているらしい。

 つまり、やるべきことは二つ。

 捕縛と保護だ。

 バルディッシュを握る手に力が入り、グローブが擦れて音が鳴る。

 

Caution(警告)

「っ!!」

 

 バルディッシュの警告と同時にフェイトも感じた。

 高ランク魔導師が発する膨大な魔力の高まりと、それに対抗するように周囲の魔力を根こそぎ奪い去る集束魔法の発動。

 間違いない、目標の二人だ。どっちが保護対象かは考えるまでもない。

 すぐに魔導師の場所を特定し、飛ぶ方向を最短になるよう変更する。

 

「見えた!」

 

 遠く、ビルが倒壊した瓦礫の上に男が立っている。

 それを認めた瞬間、二つの魔法が激突した。

 見覚えのある桜色の奔流と、男が投じた何かがせめぎ合う。余波の暴風が辺り一帯に吹き荒れて、窓ガラスのように弱い物は砕け散り、木々は大きくしなった。

 だがそれも長くは続かない。込めた魔力の差か、気合の差か。

 じわりじわりと集束魔法が相手を押し込み、ついには弾き飛ばした。

 せき止められていた奔流は一気に解き放たれ、一瞬にして男を飲み込み、それでも止まらずに雲を穿つ。

 そこでようやく魔力が尽きたのか、集束魔法は段々と細くなり、程なくして消えた。

 射線上には何も残ってはいない。

 

「……え?」

 

 何も、残っていない?

 

「バルディッシュ、今の魔法はっ!?」

That was non-lethal (非殺傷の魔法です) magic』

 

 非殺傷設定なら生物への物理的ダメージは無い。例え建物全てが消え去ろうとも、生物はそこに残るはずだ。

 なら、あの男は何処に?

 

「っいけない!」

 

 遠くに見えるあの子は、バリアジャケットを解いている。

 勝利を確信してしまったが故の油断。

 フェイトは雷光を走らせながら、全力で飛ぶ。

 ふと、あの子が顔を上げて、そして確かに目が合った。その目には驚きと懐かしさと、そして安堵が浮かんでいる。

 フェイトの中で警鐘が一際大きく鳴り、

 

 まるでコマ落ちでもしたかのように、突然、あの子の背後に男が現れた。

 

 記憶から叩き起されたのは十年前の冬。

 自分の無力さに唇を噛んだあの日。

 だからあの子は違うと知っていても、フェイトの口からはその名が出てしまった。

 

「なのはあああっっっ────!!!」  

 

 背中から鳩尾までを貫手で貫通させた腕は赤く、赤く染まっている。

 それをあの子は不思議そうに見つめ、何か得心がいったのか、ふっと笑った。

 足元には見る見る血だまりが広がり、比例してあの子の力が抜けていく。

 

「バルディッシュ!!」

『Yes, sir』

 

 すでにトップスピードだったフェイトが、さらに加速する。

 身が軋むほどの負荷がかかるが、そんなものはどうでもいい。あの子の元に一秒でも早くたどり着けるのなら。

 だが、そんなフェイトを男はあざ笑う。

 二人の足元には転移魔法陣が浮かび、男はひらひらと手を振りながら、フェイトに向かって口を動かした。

 

 見 送 り 、 ご 苦 労 様。

 

「あああああああっっっ!!」

 

 あの子がフェイトに向かって手を伸ばす。

 頭の片隅で間に合わないとわかっていながら、それでもフェイトは、その手を掴もうと手を伸ばした。

 二つの手の間にある絶望的な距離は、伸ばした腕の分だけ縮まり、それだけだった。

 二人は光に包まれて消えた。後に残されたのは、激しい戦闘を物語る街並みと、赤い赤い血だまり。

 すぐさまフェイトはロングアーチとの回線を開く。

 

「はやてっ! 転移先の割り出し、早くッ!!」

『今やらせてるッ…………あかん、ピンポイントでジャミングされとる!』

 

 フェイトは男が立っていた辺りに目を向けた。

 黒い、小さな機械が落ちている。執務官としてよく見かける、アンダーグラウンドで出回っている携帯性のジャミング装置だ。

 飛んでいた勢いのまま、フェイトはそれを踏み砕く。

 

『ジャミング解除! けど……ダメや、魔力の痕跡が散ってしもうた。ロストや』

「そん、な……」

 

 がくりとフェイトの膝が折れる。

 間に合わなかった、守れなかった。その事実がフェイトに重くのしかかる。

 俯き、まるで縋るかのようにバルディッシュを握るフェイトであったが、一方のバルディッシュは冷静だった。

 戦闘痕や周囲に散った魔力のデータを黙々と収集しているなか、道の片隅で光るそれ(・・)を見つける。

 

Master, I found a clue(マスター、手がかりが見つかりました)

「っ!」

 

 その言葉に、すぐさまフェイトは顔を上げる。

 バルディッシュが示した場所へかけて行き、落ちていた赤い宝石のペンダントを拾い上げた。

 

「レイジング、ハート?」

 

 いいや、そんなはずはない。レイジングハートは今も昔も変わらず、親友の首に掛かっているのだから。

 ならばこれは何だ? レイジングハートと瓜二つのデバイス、その使い手は誰だ?

 

Scan complete.(スキャン完了。) This device is Self-repairing(致命的な損壊により、) mode due to fatal damage(自己修復モードになっています)

「……シャーリー、デバイスルーム空けておいて。至急直して貰いたいデバイスがあるの」

『了解しました。ルームで待ってますね』

「うん、お願い」

 

 大丈夫、まだ繋がっている。

 きっと手は届く。

 手の内に入れた赤いデバイスを、フェイトはそっと握り締めた。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

まずは(・・・)、ご苦労と言っておきましょう』

「おう。楽しかったぜ」

 

 クラナガン郊外にある研究施設の一室にて。モニターの向こうでこめかみをひくつかせる上司に対し、男は笑顔で言い放った。

 彼のそばに、目標の少女の姿はない。

 彼が目標を連れて戻ってきた瞬間に、待機していた医療スタッフが少女を奪うようにして治療を行い、今は治療ポッドに放り込まれている。

 後一分でも遅れていたら任務失敗だった。

 

『アナタに依頼した時点で、目標を無傷で確保できるとは思っていませんでした』

「実際、遊ぶ許可を出したしねぇ」

『ですが、限度があります。内臓損傷、多量出血、魔力欠乏等々、炉心として調整できるまで回復するのに、一週間かかるそうです』

「ってことは、回復するのは陳述会の十二日で、試射会が十三日だから……ひゅう、デスマーチ確定じゃん」

 

 お疲れさん、と軽く口にする男に対し、オーリスはため息を吐く。

 この男はこういう奴なのだ。怒ったとしても、大して効きはしない。

 それに満点ではないとはいえ、向こうに確保されるという最悪の事態、証拠隠滅(・・・・)という任務失敗を回避したのだから、結果だけ見れば十分に良いと言える。

 

「しかし、よく一週間で治せるよな。結構、遠慮なくやったんだが?」

『クローニングの素体であることが功を奏したと聞いています。詳細は聞いていませんが、成長促進のホルモンなどを投与し、細胞分裂を早めることで自然治癒力を極限まで高めるとか』

「うっわ、えげつな。寿命削って治すってことじゃん。ただでさえ短命なのに、それじゃあ一年持たないんじゃねえの?」

『どのみち一週間後には炉心に調整しますから』

 

 そういえばそうだと、男は膝を打つ。

 少しばかりは残念だと思うが、一戦できて満足はした。戦いたい相手は他にもいるのだから、一人にこだわりはしない。

 

「それで、研究所潰しの方はどうなったん?」

『跡形もありませんよ。恐らく、レリックの暴走でしょう』

「ああ、そういうことになったのか」

『ええ、そういうことです』

 

 ロストロギアの密輸組織を追っていた局員が、そのアジトを特定。潜入を試みるも、ちょうど運悪く(・・・)ロストロギアが暴走。

 アジトごと吹き飛んだため、組織の構成員は死亡。局員も退避が間に合わず死亡。証拠は確保できず、捜査は打ち切り。

 きっと今頃、そんな報告書が回っていることだろう。

 人の口に戸が立てられないなら、口を減らせばいい。

 

「俺、アンタのそういう数字で切り捨てれる所、好きだわ」

『世辞として受け取っておきましょう』

 

 人を数字としか見ないことで批判されることがあるが、彼に言わせれば、人を数字で見れない上司は無能だ。必要な所に十分なリソースを分けれないし、損切りもできない。

 この業界、代わりはいるのだと尻尾を切れなければ、すぐにお縄である。

 その点この上司は優秀だ。私情を持っていてもそれを挟まないし、尻尾は素早く切れて、すぐに生やせる。

 まったく、勿体無い(・・・・)ことだ。

 

『それと、今回の件でアナタは重要参考人にされました』

「顔見られちゃったしねぇ」

『ほとぼり冷めるまでは管理外世界に潜伏してもらいます。しばらくは仕事も回しません。給料は出しますので、休暇とでも思ってください』

「アイアイサー」

 

 出立は公開意見陳述会の後。今は陳述会に向けて港の警備が厳しいため、少々リスクが高い。

 長い潜伏になるだろうし、暇つぶしの道具が欲しいところだから、よい準備期間と言える。

 

『さて、今回の報酬の話ですが』

「あ、それ。今回は現物支給がいいんだけど」

『物によります』

「最近、いい魔力増強薬(ブースター)が出来たらしいじゃん。それ一本譲ってよ」

『耳が早いですね。ですがあれはまだ副作用が強く、使い物になりません』

「でも抜群に効くんだろ?」

『……分かりました、手配しましょう』

「あ、濃度十倍でよろしく!」

『…………』

 

 一体何に使うというのか。オーリスは問いただそうとも思ったが、止めた。

 この男が考える使い道など、戦い以外にない。

 

『使用後は報告するように』

「はいはい、データ欲しいもんね」

『では、次の連絡までその施設で待機していなさい』

 

 その言葉を最後に、オーリスからの通信が切れる。

 部屋で一人になった男は、しばらくは我慢していたが、やがて堪えきれずに吹き出した。

 楽しそうな笑い声が廊下の方まで響き、通りがかったスタッフが怪訝そうに眉をひそめる。

 

「あーもう、ホント勿体無いなぁ」

 

 良い上司だ。自分のことをよく理解しており、好みの仕事を振ってくれる。

 待遇も良いし、報酬もきっちり出してくれる。

 間違いなく、今までで一番に良い職場だった。

 

「でも、ダメだ」

 

 嵐が来る。公開陳述会を機に、この船は沈み始める。

 理由なんかわからない。男の勘がダメと告げている。

 勘が悪い奴はこの業界で生き残れないし、勘を信じれない奴も生き残れない。

 いつもならすぐにでも高飛びを決めるところだが、そうはできない理由が出来た。

 いいや、欲が出来たと言った方が正しいだろう。

 

「ああ、くそ。激ってしょうがねえ」

 

 あの砲撃が瞼に焼きついて離れない。

 非殺傷だというのに命の危険すら感じた。

 あれだけの集束魔法を撃ちながら、あの少女は劣化(デッド)なのだ。

 魔力が少ない分を並列処理で補い、遜色ない戦いを見せてくれたが、それだって魔力が少ないせいでそうした戦法を取らざるを得なかったとも言える。

 本物(オリジナル)は十全な魔力を持つ上、経験値も間違いなく上。

 

「たどり着いてくれよ?」

 

 そのために見逃したんだ。

 そのために砕けたなんて報告したんだ。

 この機会を逃したら、きっと死合(しあ)えない。教導隊に戻って、最前線に出てこない。

 

「万全の準備しなきゃな」

 

 デバイスの改造、高町なのはの戦闘データの解析、自身のコンディション調整。

 やることはいっぱいある。

 男は手始めに、贔屓にしているデバイスマイスターに連絡を取るのであった。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

「シャーリー、どんな感じ?」

「ひどい、の一言ですね」

 

 人払いをしたデバイスルームにて、フェイトとシャーリーはデバイスの調整機のモニターを眺める。

 フェイトから渡されたデバイスをさっと診断したシャーリーだったが、先の一言に尽きた。

 

「破損の原因は過負荷(オーバーロード)みたいですが、その量が尋常じゃないです」

 

 どうやったらこんな状態になるのだろうか。高町隊長が一般局員用のデバイスに全力で魔力を注げば、あるいはなるかもしれない。

 

「でも、何よりもひどいのは、このデバイスの設計思想です」

 

 このデバイスがレイジングハートをモデルとしているのは、一見すればすぐにわかる。

 レイジングハートは高級な部品を多数使っているので、安価に組むために代替部品を用いるのも理解出来るし、そのせいで性能が落ちるのも許容できる。

 

「けど、あまりに機能が少なすぎです。通信機能すらないなんて、ストレージデバイスにすら劣ってます」

 

 こんなことはデバイスマイスターとして到底看過できない。

 デバイスはただの武器ではない。相棒なのだ。

 

「データの抜き出しは出来そう?」

「出来ないことはないですが、しっかり暗号化されてるので手間ですね。それよりも、この子が目覚めてから渡してくれるよう頼んだ方が早そうです」

「そう……修理にはどのくらいかかりそう?」

「とりあえず起動して、お話出来る程度なら二日くらいですね」

 

 このデバイスの存在と、フェイトが実際にあの子を目撃したことでクローンの存在が確定した。

 全容が分かるのは明後日。そこでなのはに、この件を伝えよう。

 

「シャーリー、この件は許可を出すまでマル秘で進めて」

「了解しました」

 

 間違いなく大きな案件だ。

 掴んだ尻尾を切られないよう慎重に、かつ迅速に事を進める必要がある。

 それに、仮に本局へ報告した場合、機動六課の活動にも影響が出る。分隊長のクローンなんてネタは、六課を目障りに思っている人たちにとって格好の的だ。時空管理局が一枚岩でないことを、フェイトは十分に理解している。

 

「それにしても、この子、レイジングハートにそっくりですね」

「うん、並べたら見分けつかないかも」

「ああいえ、そういう見た目のことではなくてですね」

 

 見てくださいとシャーリーがモニターに映したのは、デバイスの行動履歴。

 過負荷のリミッターを自ら解除し、立ち上がる数百のエラーを無視して主の思いに応えている。

 

「こういう無茶するところです」

「……ふふっ、ホントだね」

「きっとクローンちゃんも、なのはさんそっくりですよ」

「無茶するところは似てて欲しくないなぁ」

 

 少しの間二人は、クローンがどんな子かを想像して。

 そして小さく笑いあった。

 

「それじゃあ、よろしくね」

「はい。バッチリ直して……ううん、アップグレードしておきます!」

「か、改造は程々にね」

 

 一応は釘を刺してから、フェイトはシャーリーを残して部隊長室へと向かう。

 はやてに報告して、明後日は隊長陣の予定を空けておいて貰わなければ。

 

 明後日、なのははどう思うだろうか。

 フェイトにはそれが少し、気がかりだった。

 

 

 

 

 

 




デバイスの英語マジつらい。TOEICサニーゴの私が書いたから文法間違ってるよ。

話が牛歩、はよ進めやと私も思う。

コミケ落ちました。二連続です。
GWが三度目の正直となることを祈ります。

タイトル、鍋じゃなくて繭だろって思った人は出来る人。

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