更新めちゃ遅れてごめんなさい
ところで今回は原作の宝物殿シーンに沿った進み方になりますが、アインズ様のストレス状況と付き添い人物の変更によって、分岐が生じます。
第5階層 氷結地獄(アインズ)
「この鎧は一体何だ?」
情報魔法の表示画面に映し出されたのは、闇に閉ざされた平原に佇む少女の姿だ。
精緻な刺繍の施されたメイド服により華やかに着飾られているものの、手元に握られている血塗れた日本刀の存在とはアンバランスだ。
夜陰に溶けてしまいそうな艶やかな黒髪は月光を反射して鋭い輝きを放っており、対象的に肌は白く際立ち病的なように映えている。
焦点のあっていない瞳は朦朧としていているようで、均整の取れた清楚な顔立ちは待機中の自動人形を彷彿とさせる寒々しい印象を与えた。
そんな彼女の足元にガラクタのように打ち捨てられていたのは、龍をデフォルメされた白金色の全身鎧の残骸だった。
「それ」は天を仰ぎながら大の字で大地に伏せており、腹部から首の根元にかけて大きな亀裂が走っている。
もし中に入っていた人物がいればただ事ではすまなかったであろう損傷だが、その鎧には一滴の血もついていなかった。
「ゴーレムの類か ?あるいはゴースト系のモンスターが乗り移っていたのだろうか」
放たれた疑問符に対し、ニグレドは首を横に振る。
デミウルゴスはクイッとメガネの付け根を持ち上げて自分の意見を述べた。
「情報が少ない故考察は困難ですが、恐らくこの世界固有の存在ではないかと思われます
あの二人にとどめを刺す寸前にマタタビが察知した者であるとすれば、合点が行きます」
「ふむ、たしかに辻褄は通る。あるいは例のシャルティアと対決した世界級ホルダーの集団が追撃してきたのかもしれんが」
「その可能性も十分検討できます。どちらにせよ警戒対象が増えるということに変わりありません」
例の集団の力量は実際かなり未知数だ。彼女に奪われたのとは別の世界級を保持している可能性もあり、プレイヤーギルド組織を敵に回したとなれば、メンバーのいない今のナザリックでは分が悪い。こういう時こそマタタビが頼りになるはずなのだが、無いものは強請りようがなかった。
彼女をどうするか
考えても仕方のないことは先送りにするしかない。それにも限度があるのはわかっているが、今回の場合、どんな結論を取るにせよ今やることは変わりない。
だったらその間くらいは、猶予を持っても良いだろう。
――執行猶予、そんな言葉がアインズの脳裏から連想されたが、頭の端っこに追いやって見ないふりをした。
「その通りだな。これで一先ずの方針は決まった。
ニグレドは引き続き魔法による監視を継続してくれ、と言ってもMPの問題もあるからな。
しばらくしたら偵察部隊を用意させて、監視をそちらに引き継がせる。その間は頼むぞ」
「承知しましたアインズ様。御身の御心のままに」
「そして偵察隊の準備だが、その前にプレアデスのシズ・デルタとユリ・アルファを呼んでくれ
先に宝物殿に行かなくてはならない」
◆
ナザリック地下大墳墓 宝物殿
この際なのでと、アインズはデミウルゴスに転移の指輪を渡したところ、彼はそれはそれは大喜びし、若干涙目にすらなっていたので、アインズは内心やや引いた。
その後ユリ・アルファとシズ・デルタを連れてきて宝物殿に転移する為、アインズの手を二人に取らせたのだが、横で見ていたデミウルゴスのジト目が、アインズには妙に印象に残った。
そんな一幕を経て宝物殿へと転移する。
転移して間もなく視界いっぱいに広がる財宝の山が現れる。
アインズはこの世界に来る前の、一人でギルド維持費を稼いでいた時のことをに思い出した。
当時は稼いだ金貨を還元するために宝物殿へもよく訪れていていたので、金貨の山々も割りと見慣れた風景ではあったのだが、電子情報でない物体として存在しているそれらを見て得も言えぬ感銘がもたらされた。
目の前の光景から無意識的に息を呑んだデミウルゴスとユリ・アルファの様子に、多少シンパシーを覚えつつも優越感を覚える。
自動人形のシズ・デルタだけは、種族的特性のために窺い知れないが
本来ギルド維持費もここの財物を使っておけば良かったのだから、かつてはアインズが外貨を稼ぎに行っていたのも所詮自己満足でしかなかっただろう。
だが今こうして彼らに胸を張れたのだから、無駄ではなかったのだなと、報われたように思えた。
「行くぞ」
アインズは感傷を振り切り〈全体飛行〉の魔法を一団にかけて移動する。
黄金の山脈の更に上へと浮かび上がって、すると再び背後の二人が息を呑む音が聞こえた。多分、壁際に陳列されている宝物の数に圧倒されているのだろう。
やがて武器庫の入り口が見えてくる。扉というより丸く切り取られた黒い壁みたいに見える場所だ。
この扉は、ギミック担当タブラ・スマラグディナの凝り性が所以して、わざわざ暗証パスワード式にされている。
「シズは確か、ナザリックに仕掛けてあるギミックについてを全知しているという設定だったな」
「…………はい。����様から、ナザリックに現存する暗号、罠、防衛システムについての全知識についてを与えられております。
……また、それらが新たに組み変わった場合にも、その変化を自動的に察知するように作られております」
「そうか。ならとりあえず、武器庫のパスワードロックを解除してもらえるか。少し面倒だ」
「…………承知しました。
……かくて汝、全世界の栄光を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう」
サラリと暗唱された解除コードに反応し、中心部分の一点へ闇が吸い込まれていき扉は開かれた。
実はパスワードを忘れた時用のヒントコードが存在したのだが、彼女には不要なようである。
「ご苦労、シズ」
一行はアインズに続いて武器庫の廊下へと足を踏み入れる。
広間の絢爛な宝の山とは打って変わって武器は整然と廊下の壁に飾られており、博物館じみた印象を受ける。
先程財物に反応しなかったシズも、多種多様なここの武器には興味を惹かれているらしかった。
「シズと、あとデミウルゴスにも後で頼みたいことがあるのだが、かまわないか?」
「我々は御方の忠実な下僕であります。何かありましたら、一言命じていただければよろしいかと」
同意するようにシズもコクリと頷いた。
「そうか……」
深読みに定評のあるデミウルゴスをしても、今のアインズの真意は掴むことは出来ないらしい。
(対等な立場として頼みたかったんだけどなぁ。やはり、そう簡単に上手くは行かないか……)
「ここでの用事が終わり次第また追って説明するが、二人にはナザリック第1から第3階層に仕掛けてある全トラップの配置換えを行ってほしいのだ」
「マタタビを警戒してのことですね? しかし、全てとなりますと時間もだいぶかかると思われますが」
「これはなるべく早急に取り掛かってもらいたいな。無論必要な物資や人員があれば手配する
期限はそうだな。丸一日くらいあれば可能だろう」
最終日に10階層へ侵入されたことを考えれば、マタタビが何らかの手段でナザリックのトラップ配置を知っていたのは間違いない。
であるならば、彼女がナザリックを襲う可能性がある以上、警備を固めてからでないと待機中の彼女に手を出せないのだ。
だがそれを知ってから知らぬか、デミウルゴスの見解は相変わらずアインズとはズレてしまっているらしかった。
「なるほど。ちょうどシャルティアの目撃情報が冒険者組合へ届く頃合いを見計らうとおつもりであられますか
表向きで冒険者モモンがその異変を解決し、一気に名声を得ると」
「……まぁあくまで予定に過ぎないから、打ち合わせで変更するかもしれんがな
っと、そろそろ霊廟……いや、宝物殿最深部と言ったほうがわかりやすいか」
ぼろが出ることを恐れたアインズは、若干無理矢理に話を切り替えた。
その誤魔化しが微妙に爆弾発言であることを今のアインズに気付けと言うのは、無理な話なのかもしれない。
薄暗い通路の先に見える広間は待合スペースのようになっていて、薄紫色のソファーが二脚向かって置かれている。
そのさらに奥の方に「霊廟」らしき、得も言えぬ厳かな気配をたたえる一本道が続いていた。
追順する3名の視線は一同にその方向へと向けられる。そして、浮かび上がった疑問もまた同様であった
「霊廟」が一体何の意味を持つのか。
口ぶりからしてアインズ自身も隠す気はなく、尋ねれば容易く答えられる。しかし彼らにとってそれも簡単ではない。
望まない真実に打ち当たるかもしれないという恐怖と、それでも知りたいとする心。
天秤の梁は、ギシギシと痛ましい軋みを上げながら平衡している。
「霊廟とは……一体」
それでもデミウルゴスは問いただすことを諦めきれなかった。知らねばならぬという強迫観念が、彼を後押ししたのだ。
物憂げな彼の様子を見て、アインズもようやく自身の失言に気が付いた。
てっきりアインズは、NPCがここの事をすでに知っているとばかり思っていたからだ。
「まぁ私が名付けた場所だから、知らないのも無理はないだろう。
断っておくが、別に彼らが死んだというわけではないぞ
ここには仲間たちから「預かった」装備品を飾っているに過ぎん」
「なるほど、納得いたしました。御方々程の霊廟ともなれば、建造する手間もかかりますし当然の配慮でしょう」
デミウルゴスたちの顔が、ほんのわずかに安堵を表現したのをアインズは見逃さなかった。
別にアインズは虚偽を述べているわけではない。でも、敢えて誤解を解こうとしないのなら、騙しているのと何も違わないだろう。
アインズの中にまた一つ、鉛のように重く冷たい何かが流れ込んでいった。それを誤魔化すように続けて述べる。
「まぁ、霊廟も未完成だからな」
現在霊廟に配置されている課金ゴーレムは37体。予定する数ではあと4体必要であり、未完成と言うのも嘘ではない。
ただし完成する日は絶対に訪れないであろうと思われた。
●
嫌な思慮を巡らせていたところで、件の通路から一人の異形が姿を現したことによりそれが打ち止められる。
それは初め、人型の頭部に紫色のタコを載せたブレインイーターの見た目をしていた。
顔面の半分に施されたラテン文字の刺繍や黒革の衣服。
見た目は、ギルドメンバーであったタブラ・スマラグディナそのものである。
驚愕したNPC達が何か言おうとする寸でのところで、「それ」はこちらを見定めたところでグニャリと全身を歪ませ変態していった。
その姿は、ユグドラシルにおいてドッペルゲンガーを示すものだ。
ブレインイーターと同じく人型であり軍服を纏っているのものの、指は細長い4本、何より頭部がのっぺりした卵頭なのが特徴的である。
一切の凹凸や模様がなく、辛うじて目口を表した黒丸があるのみである。
「ようこそおいでくださいました、モモンガ様」
宝物殿領域守護者:パンドラズ・アクターは、引き締まりながらも無駄のない丁寧な所作で敬礼をする。
その仕草自体には何ら不自然な点はない。アインズ自身、他のNPCから同じようなことを毎日されているので見慣れてすらいた。
だが、彼の落ち着きの払った礼に対して、アインズは違和感を禁じ得なかった。
アインズの記憶にあるパンドラズ・アクターの設定と、眼前の彼の様子には著しく乖離が起こっていたからだ。
(あれ? もっと”アクター”って感じにオーバーアクションを取るかと思って覚悟していたけど……イメージと違う)
そんなアインズの戸惑いを察してか、ハッと思い出したかのように仰々しく立ち振舞っては言った。
「おおぉぅ!失礼致しました。
何やらモモンガ様から緊迫した気配を感じとりました故、つい、あなた様より定められし作法をすっかり忘れてしまっておりました!
大変、申し訳ございません!」
――あぁ、と内心合点しつつも、改めて彼の黒歴史たる所以を目の当たりにしてアインズの精神は沈静化される。
「いや、控えてもらったほうが非常に助かる。
それと今私は自らをアインズ・ウール・ゴウンを名乗っている。呼ぶときはそうしてくれ」
「……承知しました」
心なしか不服そうに見えたが、気にしないように努めるアインズであった。
「しかし、モモンガ様改めアインズ様。貴方様ほどの方が余裕を失くされる事態とは、一体如何程のことなのでしょうか?」
(お前のせい……違うよな。そういうことではなくて)
黒歴史が自己主張を抑えたことからも伺えるとおり、今日のアインズがやけにピリ付いている。
自覚はあったものの、面と向かって言われて落胆しないと言われれば嘘になる。
しかしてその事情を逐一彼に伝えるのも、なんだかんだ面倒だ。
どう説明してやるかと悩んだところで、とある事実を思い出し「もしや」と思って尋ねてみる。
「パンドラズ・アクター。おまえは『マタタビ』を知っているか?」
「えーとそれは、猫ちゃんをフラフラにさせるアレではなくて……あの方のことにございましょうか」
どうやら知っているらしい
再び体全体を歪ませて粘土工作でもするかのように変態していって、やがてそれは渦中の人物であるマタタビを象っていった。
パンドラズ・アクターはドッペルゲンガーとしては最高位の能力を保持しており、変身できる対象者のストック数は45にも上る。
そのうちの41はAOGギルドメンバーのものなのだが、残り4つの枠の一つを占めていたのがマタタビだったのである。
そこから連想して「パンドラズ・アクターなら彼女について知っているのでは?」と思いアインズは尋ねた訳だった。
しかし当然といえば当然、付き添いの3名は、マタタビを模したパンドラズ・アクターを目の当たりにして露骨な敵意の視線を浴びせかける。
戦闘態勢になる程ではないが、ユリとデミウルゴスはサッと素早くアインズの前側に庇うように立ち入った。
アインズは内心「はぁ」と溜息を零す。だがそれも仕方のないことと言えよう。
元からNPCにとってマタタビの存在はうさん臭かった上に、離反して階層守護者2名を敗走させたという事実は非常に大きいことなのだ。
ここでアインズは、骨の手をシズの前に覆うようにかざし苛立った声で止めに入った。
「やめないか3人共。これはコピーなのだぞ」
この状況で気が立ってしまうのはアインズ自身も非常に共感出来るところではあったが、だからと言って無駄に険悪ムードを生み出すことはないだろう。
各々はハッと我に返って謝罪を述べた。
「申し訳ございませんアインズ様」
「先程軽率な言動を慎むよう注意されたばかりだというのに、大変失礼致しました」
「……申し訳、ございませんでした」
「まぁ私を守ろうとしての行動なのはわかるがな。以後気をつけてくれ」
強烈な殺意の奔流を浴びせられながらも、マタタビの見た目をした当のパンドラズ・アクターは飄々としていた。
マタタビの顔で、マタタビの声のままで「ふむふむ」と意味深に呟き顎に手を添える姿は、見ていてどことなくむず痒い。
「なるほど、そういう訳でしたか。よもやあの方がナザリックに反旗を翻すとは……」
「話が早くて助かるが、付け足せばこれは彼女の意思によるものではなく、洗脳効果を持ったワールドアイテムが原因だ
精神支配状態のまま術者側を殺害した為に待機状態で放置されている」
「おぉ……そうでありましたか。現在私が常在させている〈読心感知〉によるものですね?
ワールドアイテムで精神支配されてなお御されないとは流石という他……失礼、いささか不謹慎が過ぎました」
「彼女が完全支配されるより、余程マシなのは変わりないさ。
ふむ、パンドラズ・アクター。これから霊廟奥のワールドアイテムを取りに行くのだが、おまえと二人で少し話がしたい。付いてきてくれ」
●
霊廟
厳かに静まり返った一本道に、2名の足音だけがコツコツと響いている。
横並びに彼らをを睥睨する不気味なフォルムの化身ゴーレムを無視し、両者は淡々と進んでいく。
入口部分からいくらか距離を取ったところで、とうとうアインズが口を開く。
「ところで、いつまで彼女の姿を取っているんだ?」
パンドラズ・アクターは入口前で変身したときから姿を元に戻していなかった。
アインズとしては一緒に歩いていてこそばゆくなるし、その上付き添いの3人は露骨に気を害したというのに、むしろそれを煽っているようにも思えた
言われたパンドラは直ちに元の姿に戻り、こたえる。
「おっと失礼いたしました。少々、拗ねていたものでして」
「拗ねるとは、どういう?」
意外な返答にアインズは戸惑った。
目の前の間抜けな卵顔には、むしろそんな悪感情は無縁なように思えたからだ。
どちらかといえばマタタビがよくやりそうだ。だが何となく、今のアインズには心の中に引っかかる部分があった。
その違和感を根こそぎほじくり返すみたいに、パンドラは続けて言った。
「今回の事件は、いくらナザリックに牙を向いたといえど「マタタビ様」からすれば精神支配にされた故の不可抗力状態と言えます。
むしろそのようになられて尚、敵に抗い一矢報われたというのは流石という他ありません。
ところがです。マタタビ様の写し身に対し、先のお三方は敵意を向けられました。
ですから私には、わざわざ気を遣って元の姿に戻るのが馬鹿らしく思えたのです」
「……あぁ、そうだったか。どうやら全NPCの中でも彼女のことを知っているのはお前だけらしいから、彼らがああするのも当たり前なんだがな
どうか責めないでやってくれ」
「事情はよく理解しました。しかしアインズ様は相変わらず、慈悲深くあられるのですね」
「どうだかな……」
まるで見透かされたかのような言葉だった。
パンドラズ・アクターがこぼした本音とは、仕方がないと思いながらもあの時アインズが不満を指摘できなかったことでもある
だから彼の言い分を聞いたアインズの心は、遠慮して隠した自分の本心が掬いあげられた気がして、少し軽くなった。
おかげでようやく、面と向かって尋ねる覚悟が、アインズの中で固まった
そもそもこのことを聞くために二人になったのである。
しっとりと何処か遠慮がちだが、それでも鮮明な発音でアインズは尋ねた。
「なぁパンドラズ・アクター。お前はマタタビさんについて、どのように認知している?」
さっきデミウルゴスに質問をした時とは異なり、今の場合は自問に近い試みである。
今回の件を通してアインズは、自分の、彼女に対する心情というものがわからなくなってしまったのだ。
唯一残った同胞というだけで、それ以外には嫌悪の対象でしかないか
だとすれば、このふつふつと燻る正体不明な情動とは一体何なのか
たとえ魔法による蘇生が可能でも、これを気付かない限り、このままマタタビを殺してしまえば後悔するような気がしてならなかった。
そこでアインズは考えた。
パンドラズ・アクターの中でのマタタビの立ち位置を知れば、アインズのマタタビに対する心情を明確化できるのではないかと
NPCと造物主の間には精神性的なつながりがあることは既にわかっている。
我ながら妙案だなと思う反面、 言語化を他人任せにする自身の卑怯さに、アインズは自嘲気味な溜息をこぼした。
そんなアインズの葛藤を察してなのか、今の彼は人格設定文に反した神妙な面持ちである(少なくともアインズにはそう見えた)。
これが彼の素なのかは判然付かないが、少なくとも今から紡がれる言葉は、紛うことなき真実なのだろうと確信出来る。
今生味わったことがないほどの誠心誠意に圧倒されながらも、聞かねばならぬと自身を鼓舞してじっと言葉を待つ
気が遠くなるような一瞬を経てパンドラズ・アクターは答えた。
「私にとってマタタビ様とは、忠誠を尽くす存在ではありません。
そして正直に申し上げますと、かの御仁の名を耳にすると何故か癪に障ってしまうのです」
それこそ決して耳触りの良い言葉ではなかったが、受け取ったアインズはなんだか笑いたくなった。
自分が必死に秘蔵していた悪意がいとも簡単に証明されてしまったのが、可笑しくてたまらなくなったからである
続けて話そうとする彼と呼吸を合わせるように、聞く姿勢を立て直してアインズは臨んだ。
「ですが、ドッペルゲンガーとして生み出された私の使命は、モモンガ様の輝かしき思い出を永久に残すことです。
私の変身形態の一つに保存されたマタタビ様もまた、守るべき思い出の一つなのでございます。
故にマタタビ様は、私にとって他の御方々と同等に大切な存在なのであります」
晴れやかなる信仰告白を聞き届けると、彼の背後から曙光が立ち昇り、暗く濁った思考を強烈に照らし出した。
やがて奥底より一人の囚人が解き放たれる。囚人は、万年ぶりの娑婆に雄叫びを上げて歓喜した。
「はははは! はは!! あははは! はは!」
振り切られた情動は間もなく沈静化されるが、水面に浮上せんとする気泡の如きそれは、種族能力程度で止めれる道理もなかった。
気分が抑えられたのはしばらく経ってのことだった。ただし沈静化ではなく、あくまで自制のおかげであった。
「済まなかったな、パンドラズ・アクター。ようやく覚悟がついたよ」
「いいえ、私が御身にお役立ちできたのであれば、これに勝る喜びはございません。
ですが正直意外でした、まさか『そのような決心』をなさるとは」
どうやらNPCは、創造主の心を見透かすことができるらしい。ただ、逆もまた然りである。
主従関係は相変わらずだが、心が通じ合う感覚は悪くもなかった。
「久しぶりに飾らないで話せて良かったよ、パンドラズ・アクター
今度また何も無い時に、こうして二人で話せたらいいな」
「是非もありません。私を”アクター”として創造されたのは、モモンガ様の御心と近く在るためだったのですね」
「あっうん、もうそれでいいや」
「私が演技を取り去るのは、モモンガ様と『二人きりの時のみ』というわけですか。承知いたしました」
(いや……全然意味がわからないんですけどぉおお!?)
つまり平時では、他NPCに自分の黒歴史が晒され続けるということになるらしい。
心が通じ合うと言っても、行き違いが撲滅されるわけではないらしかった。
意味不明に嬉しそうなドッペルゲンガーを指摘してやる気力は、今のアインズにはどうしてもわかなかった。やはりちゃんと話さなくてはだめなようだ
モモンガ様とアインズ様の表記揺れは、半分くらい意図的なものです
アクターさんは、唯一アインズ様が素で会話相手できるらしいけど、黒歴史ポーズ引剥してこうなるのかは解らない
因みに パンドラさんの中での人物優先順位はこんな感じ
モモンガ様>>>他至高41≧マタタビ>>>その他NPC>>>>>>ナザリック外
どうして他至高とマタタビ風情が同格なのかというと
モモンガ様からの使命>>他至高 だからです
誤字脱字、気に食わぬところ、感想があったらどうぞお願いします
今回の表現は結構不安なので、遠慮せずお節介を焼いてくれるとうれしいです