ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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うえーん、デミウルゴスがかってにうごいてぼくのプロットこわしやがったー
(更新遅れてごめんなさい)



悪魔のキューピット的苦悩

 

 

 隠し娼館の制圧、及びその後の現場処理は意外なほどにアッサリと終了した。かかった時間は10分ほど。

 昨夜セバスを発見した段階で場所はとっくに割れていたので、まずはその施設構造を盗賊のスキルを使って丸裸にした。

 

 外目の分にはボロい掘立小屋なくせして、どうやら地下施設が本業らしい。王国でもリョナ系パブは違法だからこういった構造になっているのだろう。

 これだけ大規模なものを作り上げたとなると不動産の動きが怪しくなるし建築組合も一枚噛んでる可能性が高い。

 同じ地下でも、アインズ様含めナザリックの連中にとっちゃ一笑にも値しないだろうが、せめて私くらいは褒めて遣わす。

 

 いや潰しますけど。

 

 攻め手は地下施設なら必ずあるはずの排気管。

 ナザリックの場合は謎のマジカルパワーで勝手に空気清浄されるわけだが、幸いこの世界での換気設備は普通に現実的なものだった。

 

 室外の排気管から、レベル30以下まで有効の催眠ガスを放り込む。

 やがて〈気配感知〉で全員の行動が止められているのを確認したら影分身を15体ほど送り込み、あらゆる物資や人間を〈異開門(ゲート)〉のスクロールを使って事前に王都内に購入していた屋敷へ運び込んだ。

 空になった施設には何の証拠も残さぬよう、魔術師組合でダース買いした〈清潔〉のスクロールを使用。

 残されたのは元が娼館だったとすら思うまいただのデッカい空きテナントである。

 表向きに刑事告発できない八本指相手にはこのくらいが丁度良いだろう。

 

 屋敷にはおなじみの傭兵NPC、半蔵くんを残して〈異開門(ゲート)〉をとじる。

 カーペットすらはぎ取ったむき出しの石畳に靴底を鳴らしてスキップし、唯一残した照明設備の魔鉱石を天井に見上げて思わず口元を吊り上げた。

 

「ま、こんなもんでしょ。あはは」

 

 我ながら惚れ惚れする完璧な手腕。これなら たっち の野郎――もといセバスさんも私のことを見直してくれるに違いない。

 あのムカつく面の彼からちょっと申し訳なさそうな視線を頂ければこちとらお腹いっぱいだ。見下し気味に「どういたしまして」と言ってやれればより最高。

 

 ちょうど今頃他の影分身がセバス達を説得させてるところだから、そろそろいい返事がいただけると思いきや……

 

「!ッ~~~」

 

 なぜか突然、顔中が火のように熱くなる感覚に襲われる。

 遅れて脳の海馬に情報が刷り込まれ、ようやく状況を理解した。

 

 影分身の情報統合はいまだ慣れない。

 

 

……えぇ、説得失敗とかマジか

 

 

 

 

 何とも言えない不完全燃焼感と不毛感に胸中を支配されながら、幽鬼のごとく足取りですごすごと宿屋へ引き返した。

 宿屋で高級似非フレンチもどきの夕食を頂いた後で自室で晩酌という名のヤケ酒にしゃれこもうとしていたその時、突然脳内に声が響いた。

 

『夜分遅くに失礼、マタタビ君。君もよく知ってるであろう娼館の件で話があるんだ。今夜会えるかい?』

「で、デミウルゴスさんっ!?」

 

 

 

 

 待ち合わせ場所は宿屋にあったバーコーナー。

 

 デミウルゴスさんの見た目で大丈夫なのか? と思っていたのだが半信半疑言われた通り来てみると、カウンターに待ち受けていたのは人間姿にデフォルメされた彼の姿だった。

 

 どこぞの豪商のように見える上等な服装やら一体どういう種なのかと思っていると、彼の隣にいた金髪ぼんきゅっぼん美女の姿を捉えて納得した。

 配下のサキュバスさんを呼んで幻術を使わせているみたいだ。

 

「へぇずいぶんとまぁ、粋な装いをなさりますね!」

「やぁマタタビくん、久しぶりだね。君のドレスも似合っているよ」

「……あー、うんどうも」

 

 そう言って優しげな顔で微笑みかけるデミウルゴスさん。宝石ではない人間化した瞳も同様に柔らかい表情を見せていて、セバスさんやたっちとは別ベクトルの男性的色香を醸し出していた。男にかける言葉じゃないかもしれないが、なんというかエロい。

 ちなみに私が今着ているのは、潜入捜査用に購入した王都随一のブランドものだという黒いドレス。

 多分今の私の見た目も彼には負けず劣らずなのだろうが、ゲームアバターとしての仮初の姿を褒められても正直反応に困る。

 ただでさえ今の彼は眼に毒だというのに。

 

 店主に適当な酒を頼み腰かけてから〈(カーム)〉のスキルで防音(or盗聴対策)を済ませて、再び話しはじめた。

 

「悪いね、ありがとう。

 丁度私の方も王都にいたし、ここにいるはずの君と会うためにわざわざナザリックにもどるのも馬鹿らしいからね。

 このとおり、横の彼女の幻術でカモフラージュしてもらってるというわけさ」

 

 ここでようやく後ろのサキュバスさんが私の方へ一瞥し、無言で軽く礼をする。

 彼女は確か、かつてデミウルゴスさんとナザリックのバーで相席したときに、たまに連れてくる魔将の一人だったはずだ。

 

 意外と寡黙な方で、特に私とデミウルゴスさんが話をするときには空気のようになってしまう。

 己がその場において無価値であると自覚しているらしく、当のデミウルゴスさんもそんな彼女が眼中にない。自然と私も彼女を無視せざるを得なくなる。

 ナザリックのバーではいつものことだ。

 

 

 だからついついいつもの流れで頼んだお酒に口を付けようとしたところ、ハッと思い出し慌ててグラスをテーブルに立て戻した。

 

 それを見てデミウルゴスさんがクスッと噴き出す。

 

「いや別に構わないよ。何も私は君を叱りに来たわけじゃないからね」

「えっ、そうなの? てっきり娼館を勝手に潰したことで怒りに来たかと思ってたけど……」

 

 うっかり謎の歓迎ムードで忘れそうになってしまったが、彼は娼館の話があると言って私のことを呼んだのだ。「セバスの件」とか、その「ペットの件」とかではなく、はっきりと「娼館」と言及したのだから私の暗躍がバレているのは間違いない。

 

 組織においてこういった独断専行は許され難い。さっきのセバスさんが良い例だが、彼も危うくソリュシャンさんにアインズ様へ告発されかけたのだ。

 ともなれば、そんな彼の有り様を助長するような真似を働いた私の方へも処罰が及んでしかるべきだろう。

 そう覚悟していたのだが……

 

「先に言っておくが今回の件、自己申告を行ったセバスは不問とされたそうだよ」

「……へぇー、デミウルゴスさんは不服そうだね」

「本音を言えばその通りだが、これは他ならぬアインズ様の決定だ。

 それに私の彼に対する感情には私怨が混じる。この場ではやはり不問にするのが最も合理的だろうね」

 

 どうやら自覚はあるようだ。

 しかしやっぱりそれって製作者であるたっちとウルベルトの関係性が反映されてるんじゃなかろうか。

 そう思うと二人を引き裂いた元凶である私として心が痛む。

 

「もっとも彼は栄えあるナザリックの家令(ハウススチュワード)だ。

 上に立つものとして、失態を招いたことへの筋を通す必要はある。軽い禊のようなものは行われたよ」

「そりゃまたどんな」

「確かツアレ、と言ったか。彼の失態の象徴であるあのニンゲンを自らの手で殺害するよう命じ、それを遂行できるか試すものだ」

「不問ってことは合格したんだよね?」

「当然さ」

 

 妙に強いトーンで応じるデミウルゴスさん。無意識だろうが、迂遠で遠回りながらも強固な信頼感が感じ取れた。

 指摘したらきっと眉を顰めるだろうけど。

 

「本当に殺してはいないがね。彼女の近親者にアインズ様と縁があったらしい。実に運のいいことだよ」

「さいですか、ふーん」

 

 全てバレたのだからてっきり殺されるものかと思っていたが、おっしゃる通り本当に悪運のいいこと。

 もっともこれまでの境遇だけに、総合的にみれば全然不幸な女だが。

 

 一つの納得を済ませてから、私はグラスに再び手をかけちびりちびりと口元へ麦酒を注ぐ。

 コク深い苦みと柔い泡沫の触感を舌に転がせ、食道に滞留したアルコール臭い一息をふっと零した。

 

「つまり主犯のセバスさんが不問になった手前、いろいろ勝手にやったとはいえ私の方を摘発するわけにもいかないと」

 

 結局、私が何かしなくても事態はたいして変わらなかったらしい。我ながらとんだ道化を演じたもんだ。

 徒労感に気が重くなり、酒が入ったのも相まって瞼が下へと引っ張られる。

 

「少し違う」

「違うの?」

「今回の件において君は、独断専行しようとしていたセバスを説得させたという扱いになっている。

 もっと言えば娼館を壊滅させたことは普通に功績だ」

「……えぇ」

 

 なんというバカみたいな好意的解釈だろう。実際やりたかったのは説得ではなく後押しだったというのに。

 ところがホッとするべきか残念がるべきか、目の前の友人もどきはマタタビのことを見誤らなかった。まるでかつての彼を思わせるように。

 

「もっとも君の本意については私にも推測がついてるさ。端的に言えばいわゆる同類哀れみという奴だろう?」

 

 マタタビがあえて濁していた自覚を、デミウルゴスは最も的確で辛辣な言葉で掬い上げた。

 同類哀れみ

 何と何が、なんてのは言うまでもない。

 

「無論、君とセバスがだ。指摘されるのは至極不服だろうがね」

 

 自覚はあるし不服だ。

 

 しかし、心中を底まで見透かされて良い気がしないのはまさか私だけではあるまい。

 分かったうえでそれでも彼は、他人の心の玄関口へと躊躇なく踏み入っていく。拒絶されようとも必要なことだと分かっているから。

 彼のそんなところが私は嫌いになり切れない。

 

「今回の失態を招いた根幹であるセバスの性質、弱者への甘さと困難を一人で抱え込みたがる独善性。

 それと同じものをマタタビ君も持っているはずだ」

「…………」

 

 図星もいいところだった。

 私は甘い。敵であったはずのニグンに縋られて、情報持たせて祖国へ帰してあげちゃうくらいには。

 そして様々な重大な秘匿を独り善がりで抱え込んでしまう身勝手さなんか、下手したらセバスのソレより悪質だ。

 

 言い当てられたまらず返答できず、無言でうつむき目を細める。

 ぶっきらぼうな無言の肯定を読み取ったデミウルゴスは淡々と話を続けた。

 

「共感と同情、今回における君の動機の主たる部分がこれだ。反して君のセバスに対する言動が攻撃的だったのは同族嫌悪があったからだろう。

 加えて恐らく、君のたっち・みー様へのコンプレックスもあったのではないかね? 後者については事情を図りかねるので追及はしないが」

 

 私の複雑で醜悪な乙女心が悪魔的知性によってすらすら紐解かれ、白日のもとへさらされていった。

 

「もっといえばセバスの失態を最初から眺めていたのも、あのツアレという女に――」

「……わかったから、もういいです降参します。やめてください」

 

 私はたまらず白旗を上げて恥ずかしげにうつむいた。

 デミウルゴスさんはして悪戯な笑みを浮かべ丸眼鏡を持ち上げる。

 それは在りし日のウルベルトと私のやり取りそのものであったが、あまりに二人を重ねすぎるのは間違いだ。

 ウルベルトにはなくて、デミウルゴスさんが持っているはずのもの。それが見るからに欠落していていたので不可解に思い、私は訊ねた。

 

「ねぇ、なんで本当のことを知っているのに、デミウルゴスさんは私のことを怒らないの?」

 

 もしこのことをウルベルトが知ったとしても精々『可愛いもんだ』とか何とか言って笑って済ましてしまうであろうことは容易に想像がつく。

 だが忠誠心の塊であるデミウルゴスさんなら、私の行為に嫌悪を示さないはずがない。

 

 そんな疑念に帰ってきたのは私にとって最低ともいえる回答だった。

 

「君の不問を決定したのも、他ならぬアインズ様だからだよ」

「それだとまるで、私の心の奥底をあの方にも覗かれてしまったみたいな言い方だけど?」

「何を言ってるんだい? 私程度が気付いたことに、あの方が考えが及ばないなんてわけがないじゃないか」

 そこでようやく不可解そうに眉を顰めるデミウルゴス。

 賢いくせに信仰心だけはバカみたいな盲目さだ。

 

「ソリャソーダネ」

 

 良かった。多分絶対、鈍いアイツは私の真意に気付いちゃいない。

 仮に気付けるくらい彼が鋭かったとしたならば、私たちの関係性はもっと別の形になっていただろう。

 

 でも今回の件について言えば、事の本質に大差はない。だって

 

「君が不問とされた、もっと言えば赦された理由は、君自身が一番よくわかっているはずだよ。それは」

「アインズ様にとって私が特別だから、でしょ?」

 

 他人に言われるくらいならと、先んじて彼のセリフを投げやりに奪い取った。

 認めるわけにはいかない事実だ。

 だから私は、続けざまにデミウルゴスへ真実を語った。

 

「でもねデミウルゴスさん。私には本来『特別』になんてなる資格ないんです。

 偶々タイミング悪くアインズ様の傷心に居合わせてしまったに過ぎなくて、でも実際はこの世界で最も相応しくないのが他ならぬ私。

 だってモモンガさんは本当は、私のことが死ぬほど嫌いなんだから」

 

「……先日アインズ様に命を救われた者の言葉が、よりにもよってそれですか?」

 

◆◇◆

 

「そうですが何か、無いよね?」

 

 デミウルゴスが苛立ちのあまり強くぶつけてしまった言葉に、マタタビはさも何ともないように応対した。

 一周回って呆気にとられ、デミウルゴスをしてつい諦観のこもった呟きを零してしまう。

 

「ええまったく、かける言葉がありませんよ。本当に困ったお方だ」

 

 他人の弱みを鋭く時に悪辣に見破るマタタビが、まさかアインズ様から本当に(・・・)悪しからず思われていることを気付けないわけがない。

 彼女は気付いてなお、それをかたくなに認めようとしていないのだ。

 

 なるほど、アインズ様すら彼女相手にてこずった理由が非常によく理解できた。  

 ここまで観察した結論を言えば、マタタビとは自己嫌悪とコンプレックスの権化のような人物である。

 精神の内に根強く取りついた卑屈さが他者からのあらゆる肯定を弾いてしまうのだ。 

 

 その自己否定の要因の一つは対人コミュニケーションの不協和。思わず出てしまう攻撃性や配慮に欠けた言動にある。

 おそらくそれによってもたらされた旧クラン:ナインズ・オウン・ゴールでの悪影響が、今なおずっとマタタビの中で尾を引いているのではないだろうか。

 もしくはアインズ様やデミウルゴスも知りえない何かがあるのかもしれない。

 

 なんにしてもそのあたりを解消しなければ、アインズ様との今後の関係改善は困難であろう。

 

 資質だけで言えばアインズ様の正妻筆頭であるというのに、その道のりは万里のごとく遥か険しい。ナザリックの将来を思えばこそ、デミウルゴスとしてはマタタビの立場が落ち着いてくれなければ困るのだ。

 

 ならば手をこまねいて待っているわけにはいかない。徐々にでもマタタビをナザリックの中へと馴染ませる必要がある。

 一足飛びに事実を認めさせる試みは一先ず諦める他ないだろう。

 

「この話はとりあえず置いておこう。折角の酒場で平行線をひた走り続けるものではないからね」

「そですね。つっても話はこれくらいじゃないの?」

 

 事前に準備していたプランBだ。

 

「いやもう一つ話があるんだ。覚えているかい? アインズ様から命ぜられた任務の一つである『魔王計画』のことを」

 

 こめかみに指を当てうろ覚えを思い出すようにマタタビは答える。

 

「えーと確か、どこかの国に80レベルくらいのモンスターを送り込んで暴れさせその国家の防衛力を計測するとともに、水面下に潜んでいるプレイヤーを炙り出すってヤツでしたっけ?」

「概要はそんなところだ。それを近日この王都で計画しているんだが、マタタビ君の力を借りようと思っていてね」

「私を? いや悪いことは言わないから辞めときなさいな。

 自分で言うのもアレですけど、きっと碌なことにならないと思うぜ?」

 

 帰ってきたのは想定通りの返答だ。

 デミウルゴスとて不確定要素の塊であるマタタビを計画に組み込むリスクは重々承知している。しかし高いからこそ挑戦しなくてはいけない理由がある。

 結局彼女自身の集団行動へのコンプレックスは、なんらかの成功体験を積み重ねて解消する他ないからだ。

 

 それは単に彼女とナザリックとの関係性を強く結びつけるだけではなく、彼女自身が持つ高い能力をナザリックにとって有益に活用するためにも必要なことである。

 

「謙遜することはないだろう。八本指の隠し娼館への対処は実に素晴らしい手際だった」

 

 実はマタタビの暗躍にデミウルゴスが気付けた理由というのが、今回のために王国に張り巡らせていた情報網にある。

 

 部下から隠し娼館がもぬけの殻になっていると報告を受け自ら現場に出向き、あまりの痕跡の無さから〈清潔〉の魔法が行使されたのではないかと予想した。

 なので魔術師組合での売り上げ記録を覗き、〈清潔〉のスクロールを大量購入した人物がマタタビであることから、ようやく特定に至ったわけであった。

 

 特定が遅れた決め手は何といっても、施設制圧と後処理にかかった時間があまりにも短すぎることだった。

 デミウルゴスの推測が正しければ10分もかかっていない計算になるはずである。

 

 そしてそんな彼女の優秀さが人格的問題で役立たずに陥る様は、デミウルゴスとしてもあまりにも見ていられなかった。

 

「もちろん君が不安に思う気持ちもよくわかるが、そのあたりは私の方でしっかりフォローを入れるつもりだよ」

「うーんでもなぁ、いろいろ申し訳ねぇですし……」

 

 無論、全霊を尽くした補助役になることだろう。

 そんな予想図を思い浮かべたマタタビも気乗りしなさそうな暗い顔をする。

 だからここでもう一押しだ。

 

「ところでマタタビ君、娼館から移送した物資やニンゲン共は今どうなっているんだい?」

 

「え? あぁ、王都の中古物件でテキトーな倉庫を購入して全部突っ込みましたよ。物資の方はとても現場で整理できる量じゃなかったので、倉庫の方で影分身たちに整理させました。

 人間については負傷者も多いしその他色々厄介だったので、時間停止の結界に放り込んで凍結封印させてます。こっちの方はちょっと処理に困ってて……」

 

 なるほど手際は優れているがやはり甘い。詰めも人格も。

 デミウルゴスからしてみれば、取るに足らないニンゲンに慈悲を与える思考はさっぱり理解が及ばない。娼館の経営者を生け捕るならまだしも使い道があるが、何の価値も無くおそらく本人すら生を望むまい被害者女性達をあえて生かしてどうするつもりなのか。

 

 もっともマタタビに付け入るスキとなった彼女達は今のデミウルゴスにとって有益と言えた。

 

「物資の方と八本指の従業員については私が引き取ろう。

 そして女性たちの方だったら、今ちょうど適任の引き取り手がいるんだ」

「誰です?」

「セバスだよ」

「うげぇ」

 

 その名を出した途端にしかめっ面で嫌悪を示すマタタビ。

 デミウルゴスの考えを察したためであろう。

 

「見ただろう? あのツアレという女の、セバスに対する異常と言える依存具合を。苦境的人生経験を味わったものが人格者に救済されると自然ああなる。

 実はかねてよりNPCによる生殖実験を予定していたんだが、彼女のおかげでその手間も省けそうだと安心したところだったんだ。

 しかし欲を言えば、モルモットは多いに越したことはない」

「けっ、確かにこの上ない適任ですね。でも……」

 

 マタタビがセバスを直接頼れるわけがないのだ。

 

「だから交換条件だよマタタビ君。君がゲヘナに参加してくれるなら、女性たちの引き取りを私の方(・・・)からセバスに頼んであげよう。

 逆に君が断るというのなら、女性たちはアインズ様から直接嘆願して私が引き取ることにする。今ちょうど新設した牧場(・・・・・・)で人手が足りなくてね」

 

 退路をふさがれた子猫は虚勢で悪魔を睨みつけ、やがてうなだれるように負けを惜しんだ。

 

「……いいよわかった。どうなっても知らないからね?」




 このSSのゲヘナはかなりマイルドな内容にアレンジする予定です。そもそもの目的が原作と微妙に異なりますので色々とご注意を。






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