ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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ham actress

【至高の41人レビュー byマタタビ】

No.5:アインズ・ウール・ゴウン

 

 こいつ絶対頭おかしいよ!

『補足』

 多少バイアスがあるとはいえ、知恵者のデミウルゴスや心情を丸覗き出来るアルベドすらも欺く技量は、もはや才能だけでは説明がつくものではない。周囲がもたらす期待感への異様なまでの執着が為せる業、とでも言うべきだろうか。

 マタタビには決して持ちえないモノであり尊敬の念も抱いているが、本人の有り様はちょっと救いようがない。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 何て無駄な時間だったろう。

 迂遠な旅路を経てようやく王都へたどり着いたナーベラル・ガンマは、ウンザリとした心地で守衛門を見上げた。

 

 わざわざ冒険者組合のツテを利用して用意させた弱小魔法詠唱者二人組の〈浮遊板(フローティング・ボード)〉と〈飛行(フライ)〉による空の旅。

 使い手が十数程度のレベルしかないこともあり、それはもはやナーベラルからすれば亀のような速度である。結局朝一でエ・ランテルを発ってから王都につくまで一時間もかかってしまった。

 

 そもそもナーベラルが転移の魔法を使えば一瞬で済むことなのだが、そうしないのは長距離転移魔法の最低が第5位階からだったから。

 何とも馬鹿らしいことに、第5位階はこの世界において逸脱者と恐れられる領域にあるらしい。突出し過ぎる能力を持つことを知られれば無用に警戒を煽ることになる、とは他ならぬアインズ様の言葉である。

 

 とはいえ自身はまだしも至高の存在であるアインズ様の時間を潰させた無能さは万死に値するだろう。

 万回殺してやるほどナーベラルも暇ではないので、下等な魔法詠唱者については軽く睨みつける程度で済ませてよしにする。

 

「……ご苦労様」

 

 社交辞令としての最低限の労いも忘れない。少し前の自分なら罵声でも浴びせてやったかもしれないが、それは従者として主人の品格を貶めることに等しい。

 多少は成長出来た実感があるがそれでも自分はまだまだだと思う。

 

「早朝に呼びつけて申し訳ない。だがおかげで単純な〈飛行(フライ)〉の運用とも違うなかなか趣のある旅であった

 帰りがけに魔術組合長とザナックさんにもよろしく頼む。しばらくは王都に滞在するつもりだがそう長くはならないだろう」

 

 僅かな労いを絞り出すのがやっとなナーベラルには、下等生物に対するアインズ様の寛大な対応はとても真似できたものではない。

 支配者としての存在感を抑え、まるで同等な人間のようにしか見えない完璧な擬態だ。演技力においても流石は至高の存在である。

 

 気をよくした二人組が〈飛行(フライ)〉で折り返して帰っていくのを少しだけ振り返る。

 やがてアインズ様と共に、守衛に組合長から預かった通行手形を差し出して門を通過し街中へと躍り出た。

 

 比較的見知ったエ・ランテルと比べるとやや古臭い様式の街並みだが腐っても王都という肩書である。

 朝一から多くの馬車や人々が行き交い石畳の無いむき出しの地面に埃を巻き上げている。

 

 これから各々の仕事や用事に精を出そうとしている者たちだが、ひとたびアインズ様とナーベラルの姿を見かけると、我を忘れたように手足を止めて一斉に視線を向けた。

 それはアダマンタイト製の全身鎧への驚嘆かもしれないし、尋常ならざる美貌への瞠目でもあるだろう。あるいは『漆黒』の名を聞き及んでいる者も中にはいるだろうか。ただその中に至高の存在への畏敬が無いことに苛立ちを感じる自分がいる。

 しかしかつては煩わしくて堪らなかった衆目も無関心を割り切ればなんでもない。もはや慣れ切った光景だった。

 

 路傍の砂利のごとき観衆を関さず、主人に追順して目的地に向けただ歩く。

 そんな中ふと思い立って話しかけようとするが、寸出のところでモモン様と声かけしそうになるのを舌を噛んで堪えた。

 

「ところでモモンさん。以前より常々思っておりましたが、どうしてモモンさんはそれほどまでに卓越した演技力をお持ちなのでしょうか?」

 

「え、演技力!? ロールプレイのことを既に……」

 

「? 申し訳ございません。無知な(わたくし)にはろーるぷれい、とは何のことか心当たりがありません

 ただ先ほどの人間たちへの御対応が実に見事でいらっしゃったものですので、如何様にすれば(わたくし)もそのようできるのだろうかと思いまして」

 

 すると会話に妙な間が生じた。

 ひょっとして、たかが造物に過ぎぬナーベラル程度が御方の御業を真似するなどおこがましいということだろうか?

 ならば直ちに撤回しようと思ったが、間も無くアインズ様は安堵を孕んだ朗らかな声で返した。

 

「……なるほど。ヒトとの対話のやり方について悩んでいるのだな?

 だがナーベよ。突き詰めて言えば、お前に必要なのは演技力というより演じる意識だと私は思うぞ」

「意識、でしょうか?」

「そうだ。そもそもお前の礼儀正しさは私もよく分かっている。例えば私や守護者たちのような本当に敬意を向けるべき相手なら、お前もそれに相応しい対応が取れるだろう。

 ただ逆に蔑視しているニンゲンには本心のまま辛辣になってしまうというだけだ。ナーベは正直過ぎるのだろうな」

 

 その金言に目から鱗が落ちる心地を憶えると同時に、主人がナーベラルのことを日ごろから良く見ていてくださったことを実感させた。

 (から)い指摘を受けたのだと分かっていても、その事実を前にして天に昇るような幸福感が沸きあがるのをナーベラルは抑えきれなかった。もし自身に尻尾があったらぶんぶん振れてることだろう。そんな心境だ。

 だからこそすぐに夢見心地な感情を振り払い、改めて主人の言葉に全神経を集中させる。

 

「無論、お前が改善に取り組んでいることも知っている。

 結局そうやって少しずつ本心を隠す意識に慣れていく他ないだろう。演じる技量についてはその先の話だ」

「尊き御言葉、我が魂に深く刻み込ませていただきます」

 

 歩きながら跪くことは出来ないので、アインズ様の背面に向け胸に手を当て敬礼をする。

 

 アインズ様は口をとんがらせながら軽く零した。

 

「まったく、ありふれた精神論だのに大袈裟だな。

 ただナーベのことを色々言えたのは、お前によく似た正直者を知っていたからだ。お前ほど真面目でも礼儀正しくも無い奴だが。

 ……時々羨ましいよ」

「さ、左様でございましたか」

 

 何か重要なことを言われた気がしたが、不意打ち気味に真面目などとの身に余る御評価を頂いたことによってナーベラルの思考は真っ白になった。

 

 改めて、シモベの中でも最もアインズ様と接する時間が長い自分は、一体なんて幸せなのだろうと思う。

 アルベド様に嫉妬されるのは仕方ないことではあるが、仮に譲れたとしても決してそうすることはないだろう。

 

 しかしふと最近、アルベド様からの小うるさい『花嫁計画』の密命がすっかり途絶えていることを思い出し、ナーベラルは首を傾げた。

 

◆◇◆

 

ゲヘナにおけるマタタビの仕事の一つは、御目付け役であるパンドラズ・アクターと襲撃予定である八本指の拠点の事前調査をすることだった。

 

 各場所の施設構造から、そこには誰が居てどのくらいの戦力や警備があるのか。機密書類の複写や奪う価値のある貴重なアイテムについてのリストアップや査定など。やってることはまるで引っ越し回収の段取り組みのようで、やっぱりなんだか異世界っていう感じがしない。

 もっともいくら守護者みたいな過剰戦力を整えて来ようと、これほどの規模の施設の物品回収をぶっつけ本番で行おうとすれば必ずタイムロスが生まれるだろう。

 引っ越しを一瞬で片づける魔法でもない限り、ファンタジーと現実の折り合いをつける役割は必要なのだ。

 

 深夜0時から調査を開始して全8個所の調査を終えたのが朝7時くらい。リアルでも夜勤には慣れていたし夜行性のケット・シーにとってはなんでもない。

 とはいえ面倒さは強いが。

 

「ぶっちゃけ私が全部襲撃と回収をしてしまえば半分の時間で終わるんだけど」

「たしかに大変不服ではありますが、マタタビ様の手法が優れていることは認めざるをえません。

 物品回収の際に施設全体を覆いつくす範囲で〈保存〉の魔法をかけることによって、回収する物品を気兼ねなく乱雑に放り投げられますし施設そのものを傷つけずに済み、作業効率が飛躍的に上昇させられる。

 ただその手腕の使いどころについては熟慮された方がよろしいでしょう。

 娼館が神隠しのごとくもぬけの殻になった怪事件を処理しなければならないデミウルゴス殿の苦労は計り知れません」

「……それは本当にごめんなさい」

「言う相手が間違っておられます」

「ですね、今度言ってきます」

 

 そこからパンドラズ・アクターと共に拠点にしていた宿屋へと戻って、今は防諜対策を揃えたリビングにて襲撃計画書を編集中。

 一方私の方は暇なのでパンドラズ・アクターが各施設ごとに査定した物品価格を計算機片手に集計中だ。

 

「ねぇアクターさん、調査はとっくに終わったんだからいい加減私の恰好のままでいるの止めてくれないですか?

 キモイんですけど」

「いつ何時誰かがこの場を覗き見ないとも限りません。人間国家に滞在する限り、この姿を取るのが最も合理的だと判断ただけのことです

 至高の御方ならともかく、マタタビ様からの命令を受け入れる義務はありませんので」

 

 こいつは今、よりにもよって私の姿をコピーしながら計画書を執筆中なのだ。だから傍から見たらちょうど双子がテーブルを囲んでいるようで、実に奇妙な作業風景である。

 自分の姿を見ること自体は影分身を多用していてむしろ慣れているが、同じ容姿でも中の人が違えばずいぶん印象が異なるようだ。いつもよく見る影分身の私がやかましい小娘ならば、アクターさんは淡々とした無表情系美少女である。

 

 しかし、調査の時だったなら能力的に一番向いているマタタビに変身するのはまだわかる。同じ盗賊職の弐式炎雷でも良くねとか思わなくはなかったけれど。

 でも情報対策を済ませた部屋でまで続けているとなると、どう考えても嫌がらせ以外の理由が思い浮かばない。というかコイツのイライラが私の方へとむけられてるのは感知したところ間違いないから絶対そうだ。

 とはいえ正直わからなくもないが。

 

「ま、わざわざ私の為なんかに来てもらっちゃったのは申し訳なく思ってますよ」

「それも多分にありますが

 ただ一言忠告させてもらえばマタタビ様、デミウルゴス殿にはお気をつけられた方がよろしいと思いますよ」

「ん?」

 少し意外な名前が出てきて、おやと思う。

 アクターさんは紙上に走らせる羽ペンをピタリと止めてうつむいたまま細々と口を開いた。

 

「あれも存外欲求に忠実な男です。彼はあなたを相応しい(・・・・)と判断しただけに過ぎず、あなたに対する一個人的好意はそこまででもありません」

「知ってますそんくらい」

「やはり〈読心感知〉ですか。こうしてあなたの姿に変身してみると非常に厄介な能力だと実感できますね。術者本人にとってもですが」

「わかります?」

 

 感情を読み取るこの能力の不便さにまさかの共感者が現れた。

 

 能力自体をoffにできないので、ひとたび町中に繰り出せば町中目につく人々の感情がドカッと心の中に入り込んでくる。

 その暴力的な情報量、もし人間だった時にこれが発動していたなら精神がやられていたのは間違いない。異形種ケット・シーの精神構造により死ぬほどつらいというわけではないが、それでもやっぱり負荷は感じる。

 そしてそれ以上に自分に向けられる感情をダイレクトに受け入れるというのが普通につらい。蔑視とか憎悪とかならまだマシで、この間王都へ繰り出したときなんかエロい視線で視姦されてナニコレどこのエロ同人な具合になった。あんのエロ貴族マジで去勢しろ。クライムさんはEDじゃないかと心配だけど。

 

「ただ別にデミウルゴスさんに関して言えば感知するまでもなくわかり切っていましたよ。

 あの人私のことを気にかけていたのは違いないけど、私自身の意思についてはホントにどうでもよさそうでしたから」

 

 主に、何度も嫁にはならんと否定してるのに全く気にかけてくれないところとか。

 中途半端に似ているだけに、ウルベルトとの違いはむしろくっきり分かった。

 

「でしょうね。私情が欠けている統括殿とは違い、彼は忠義を尽くす存在を絶やさぬよう奔走しているだけなのですから」

「気に食わないんですね?」

「ええ。個人的な問題にはなりますが、彼とは最初に会った際の第一印象があまり良くなかったもので。

 事情が事情とは言え、あの態度をとって今更手の平を返す厚かましさは少々目に余ります」

 

 何があったというのやら、相当お気に召さないようで。

 二人の製作者であるウルベルトとモモンガさんが仲が悪かったようには全く思えない。

 だというのにNPC同士でこうしたギスギスが生まれるというのは非常に興味深いことである。

 ただそのギスギスの元凶が私にあるのだとしたら笑い事では済まないけれど。

 

 というそんな独白が耳に入っていたかの如くアクターさんは答えた。

 

「いえ全くマタタビ様がお気になさるべきことではありません。下手なご心配なさらぬようにお願いします」

「……さいですか」

 

 なるほど多分これが読まれる(・・・・)という感じなのだろうか。やられてあまり良い気はしない。

 

「正直私としてはデミウルゴス殿や統括殿の思惑には気乗りがしません。

 ただ今回の作戦は許容できる範囲です。マタタビ様にとって必要なことでしょうし、なによりアインズ様も納得しておられますから」

 

 アインズ様の云々という最近非常に聞きなれたフレーズで言い締めて、アクターさんは再び羊皮紙に筆を走らせ始めた。

 

「へぇしかし、デミウルゴスさんを私情と断じた手前、そんな親切な忠告を私にしてくれるあなたは一体何様のつもりですか?」

 

「私はアインズ様の御心に沿う者に他なりません。ただ敢えていま現在の私情を述べるとするならば、あなたのことは苦手です」

 

 アインズ様の御心、か。それが一番わからないんだが、少なくともコイツに聞くのは色々と間違いだろうなと、私は思った。

 聞くのが怖い、という気持ちの方が大きいけれど。

 

 だって愛されてたら怖いじゃん。

 

 だから私はアクターさんの慇懃な本音を快く聞き入れ、心の底から笑顔を浮かべて答えた。

 

「そりゃどうもありがとうございます。

 あといい加減姿を戻せ、殴ru……あれ」

 

 私は冗談で拳を模ったが、間も無く指先が痺れて一人でに掌が開かれる。

 目の前の黒髪の少女はそれを、酷く凍えた眼差しで眺めていた。

 

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