A.あれ出るって言えるのかなーまあ秘密 byむちむちぷりりん
回想が馬鹿長いです。ご注意ください。
※以下回想
◆◇◆
長女の
離婚した後時間がかかってどうにか妻には許しを得たが、独り立ちした
しかし数奇な運命の下【ユグドラシル】にて父と娘は再開を果たした。
悲しいことに
父に似て、言っても聞かない頑固者。帰ってくるよう催促しても、彼女はいつも口癖のように「まともな妹か弟でも育ててやがれ」と言っては、両親夫婦の安寧を望んでいた。
しかし彼女の赦しがあったおかげで妻との関係は良好となり、妹の
とある騒動により
長女の反省もあって、妹の
ならば【ユグドラシル】に費やしていた時間を当てる他にない。今後はゲームにかまけていた時間を削って、父として娘と向き合っていかなければならなかった。それは妻にも、そして姉の
【ユグドラシル】を引退するときキャラクターデータだけでなくゲーム仲間との連絡先も消去したのはそのためである。
ゲーム仲間に、そしてもちろん桜に対しての心残りは語るまでも無い。少しでも繋がりが残されていたら、せっかく引退しても堪え切れずにすぐに再開してしまうだろうという懸念は半ば確信に等しかった。
それでも娘と二度と会えなくなる決断をとったのは、他ならぬ桜自身の切なる願いによってであった。
『マサヨシあんた、またそーやって奥さんと娘さん泣かせる気ですか? いい加減懲りろよ、私に』
まだ見ぬ妹への健やかに育って欲しいという希望。もしくは自身が二度と家庭崩壊の引き金になりたくないという臆病心。
感情の形は何であれ、それが彼女の優しさには違いない。
家出娘が両親一家の幸せを望むなどあまりに親不孝で矛盾した願いだったが、最早それを咎める資格を
せめて娘の望むがままに身を引くことしか彼女のためにしてやれることはなかった。
『本当にすまなかった。せめて息災無事であることを祈らせてくれ』
『マサヨシこそもう家に変な女を入り込ませるんじゃないですよ。母さんが可哀そうです』
少々歪ながらも、こうして一つの父と娘の物語は終幕を迎えた。
かに思えたがそうでもなかった。
佐々木正義は未練がましい男である。
【ユグドラシル】のまとめサイトにてマタタビが『屋台崩し』の忌み名でギルド荒らしをしている評判から、遠目に息災を見守るくらいには。
そして【ユグドラシル】最終日に突如気が向いて、妻と共に新キャラを作ってログインを試みるくらいには。
ナザリックに侵入してるだろうとアタリを付けたまでは良かった。しかし、いくらサービス終了間際で敵MOBが活動してないと言えど、転移もできないレベル1アバターではナザリックのあるヘルヘイムの「グレンデラ沼地」の奥地までの移動は不可能であった。
夫婦は案の定の失敗に互いを慰め合ったものの、笑い合ってサービス終了の時間を迎えることができた。
ところが日付が変わった次の瞬間――
◆◇◆
ゲヘナ作戦開始当日の朝
アゼリシア山脈最高峰:スモッソルブ・リーチェ
マタタビの影分身は、マジックアイテムで召喚したマンモス君の背に乗って雪山の峰を進んでいく。彼女は黒いコートを身に纏って赤毛の耳当てに白い羽毛のついたフードを上から被っていた。
影分身の姿は発動時に本体が装備していた神器クラスの服装そのまま。再現できる装備の魔力情報は最大でも20レベル相当に制限されているが、氷点下17度程度の環境であれば順応するには十分だ。
マンモスに若干の方向指示を出しつつも、轡の上でぬくぬくと丸まっていた影分身は暇だった。
この世界に転移してからの数少ない娯楽の一つである書物でも読んでみようと試みはしたが、風が強くてページが吹き飛びやってられない。それに書物に霜がついてしまっては溜まったもんじゃない。
もっとちゃんとした防風や耐雪のアイテムを持ってくればよかったかと後悔もしたが、本体にしてみれば吹けば飛ぶような影分身に持たせるのもいかがなものかという葛藤もあった。
一応荒事になった時のために例のごとく傭兵NPCのハンゾウ君をつけてはいる。けれど25レベル程度の能力しか持たない影分身としての弱者の意識は根深かった。
ある意味それはこの世界の住人の立場に隣接できる極めて貴重な経験と言えるだろう。もしくは元の世界で弱い人間だった夏梅桜の立場に近寄ることにもなるかもしれない。とはいえ歓迎できることではない。
時々誰かから忘れられそうになるが、マタタビはケット・シーという異形種だ。
なまじ人の姿に化けられるから尚の事。人と人外の行ったり来たりに、若干の生きづらさをおぼえる自分は確かに居た。所詮は小さい悩みだが。
目の前の、アゼリシア山脈の雄大さに比べれば全く大したことは無い。
しかしどうして大きく高く隆起した岩山に雪が被っただけの光景に、こうまで心を奪われるのだろう。
真白い山肌の上をゆらゆら這っては漂う靄も空気中の水分が冷気で凝固しただけで、やたら遠くの景色が見渡せるのも高所でなおかつ空気が澄んでいるから当たり前。
当然ユグドラシルでのヴァーチャルリアリティとも違うし、実体はあっても人工物だからか転移後のナザリックにおける6階層の森林や5階層の氷結地獄で感じた体感とも全然違う。
何者かの意図にかかわらず自然に形成されたという事実が神秘性を脚色しているだけなのか。それとも大自然の意志とやらを、ケット・シーである私のやたら鋭敏な感覚が無意識に受け取っているのか。元々私は心霊とか森の精とかは信じないタチだったのだが、剣と魔法の世界に流れ着いて今更、冗談で思いついた大自然の意志とやらも馬鹿には出来なかった。
もっともソレが私たちに悪意でも向けてこない限りには、ただ目の前の雪景色がきれいだなと思えたらそれでいいのかもしれないが。
かくしてとりとめのない思考を浮かべては掻き消し時間を空費していたが、そろそろ目的地である山頂が近くなった。
嫌でも現実逃避から引き戻される羽目になる。回れ右して帰っていいような気もしたが、道幅が狭くてマンモス君は旋回できない。
いっそ分身を解除したくなったけど、そもそも分身がここに来たのは本体が行くの嫌がったから。どうせ逃げても哀れな分身が贄に出されることだろう。せいぜい本体には、分身解除の時に嫌な気分になってもらおう。
とうとう山頂へと辿り着くと、そにには一人の老婆が待ち受けていた。細身の老躯ながらに杖も持たず、佇まいも歴戦の強者と言った風貌だ。
紫の刺繍が縫い付けられたおしゃれな黒いローブ。その下の顔は年齢相応な深みを感じさせる一方で、気安くも豪快そうな親しみやすい雰囲気も纏っている。
老婆はマンモスに乗った私の方を見上げてにっこりと笑ってみせた。
「よく来たねぇお嬢ちゃん。待ちかねたよ」
「てっきりあの鎧のツアーが出てくると思ってたのですが。時間指定も無かったのにおばあちゃんどのくらい待ってたの?」
「気にせんでいいさね。たまたまあたしが会いに言ったら、ツアーがちょっとだけここを空けるっていうから留守番を任されただけさ
元々あたしもあんたには興味があったしね。なぁサクラちゃん」
見た目通りに、やたら力強い元気な声だ。
私はマンモスの上から飛び降りてザクリと雪山に足を埋めた。
「そういうあなたはひょっとして、死霊使いのリグリット・ベルスー・カウラウさんじゃあないですか?」
「アタシのこと知ってたのかい」
「お互い様でしょ。それにおばあちゃんは有名人ですし」
この方もやはり私のことを知ってるようです。
以前ツアーと遭遇した時に十三英雄「白銀」を名乗っていたので、後日それ関連の英雄譚を読破して予習はとっくに終わってます。
服装とか容姿とかからの当てずっぽうでしけど、どうやらビンゴだった模様。
「なかなか悪くは無い響きだね、そのおばあちゃんっていうの。まるで孫でもできたようだよ」
「一人身なんでしょう? 雰囲気で分かりますよ」
「ハハッ、言いおるわい。でもサクラちゃんも気をつけな。女の方が強いと男は靡いてくれないもんだ。その点そこのソイツは惜しかった」
私の軽口を年の功であっさり流したリグリット婆が、横眼と親指を向けた先にあったのは二つの墓石だった。
左右それぞれの台座には宝石を散りばめてあしらった魔法の杖と、鞘に納められた金色の宝剣が奉納されている。
分身がコピーした〈地味子の眼鏡〉は魔力の大半が消失していたが、何とも都合の良いことに文字読解の魔力情報だけは微かに残されていた。
墓石に横書きで書かれていた文字が翻訳されて、脳に情報として刷り込まれていく。
最初から予想はしていたが、それでも外れてほしかった可能性だった。
私の嫌な予感は凄く当たってしまうので、ナザリックの連中には言わないでおいた。
裏切るようで悪かったが、それでも間違いではなかった。間違ってたほうがマシだった。
ササキ トウコ ササキ マサヨシ
桜の両親の名前。同姓同名別人だなんて逃避できるほどの余白も無い。
最悪だ。糞オブ糞だ。
「……ツアーが私にブチ切れてたし、どうせこんなこったろうと思っていたよ」
知ったか振ったようにして虚勢でも張らないとどうにかなってしまいそうだ。
セリフの割に、こみ上げる吐き気を抑え込むのに精一杯。両手で顔を押さえ思わず雪面に膝まづいててうずくまった。
私のあずかり知らぬところで、あずかり知らぬ妹とでもむつまじく幸せに家族してればよかったものを。
それなのに、いったいどうしてこうなった。
間違いだらけの人生で、私はまた何を間違えたと言うのだろうか。
「顔を上げな、サクラちゃん。酷な運命ではあるが、サクラちゃんにはすべてを知る義務がある。
もっともマサヨシは嬢ちゃんに真相を知られることを望まなかったがね。遺言は破棄したが所詮死人に口なしさ」
知られたくないか。所詮親子で考えてることはいっしょか。
甘ったるい……マサヨシらしい。あなたの仲間だ。あなたの
「ついてきな」
リグリットの靴先が地面に出っ張った石を踏みつけると、地面に埋もれてガチャリと音がした。
隠し扉だ。何かのからくりで岩肌が持ち上がって、下に続く大きな階段が口を開いた。
リグリットに続いて私もそれを降りる。
マンモス君とハンゾウ君は寒天の中で悪いが留守番をしてもらった。
天井で等間隔に鎖で吊るされた蒼い結晶の儚い輝きが、暗い通路を仄かに照らす。
階段を一段一段と降りていくにつれ、血が上って蒸気した脳漿の温度もゆっくりと冷やされていくようだった。
長い階段を下り40分ほどかかって最下層へとたどり着く。既に思考は凍え切った諦観に支配されていた。
大きな両扉の前に立って見上げると自動扉なのか勝手に開いて出迎えられた。
扉の先は通路までとはまるで別世界のようだった。
それは荘厳な雰囲気を一帯に纏った青白く輝く大聖堂。空間は半球状に直径200メートルの広大な間隔を開いた。
純白の大理石が六角に切り出され立ち並び、紺碧の壁面には無数にして多彩なる宝石が散りばめられて星空の如く輝いている。天井には壮大な壁画。多種多様なる姿の者達、ドラゴン・獣人・悪魔・天使・ゴブリン・トロール・鳥人・ドワーフ・エルフ・人魚・アンデッド・スライム・巨人・ゴーレム・人間その他有象無象などが団結して邪悪な有象無象と戦いを繰り広げるという迫力の一枚絵。
絵の中心には階段にあったのと同じ、しかしサイズは10メートルほどの桁違いに巨大な結晶が埋め込まれて聖堂を照らしていた。
そしてその直下、円形の台座の上に尻尾をくねらせ佇むのは巨大なドラゴン。
ここがボス部屋だとしたらボスは間違いなくこいつだろう。とっさに連想したのはナザリック10階層にて至高の金杖を掴んで玉座に腰かけるアインズ様だ。
鎧越しで感じた時とはわけが違う威圧感。もちろん今の自分が分身だから過剰にビビってると言うのもあるだろう。けれど相性的に考えても、本体がこれに勝てる可能性は極めて低い。
タイマンで勝てる可能性があるのは、そこそれ鱗越しにも超火力でゴリ押しできるウルベルトかトップクラスの能力水準と超人的な戦闘センスを持つ全盛期たっち・みー くらいではないかと思う。
「やぁ、随分来るのが遅かったじゃないか。しかもよこしてきたのが分身とはね」
身が竦んで半歩下がった私を尻目に、まるで安心させるように慣れた調子でリグリットが笑う
「よしてやんな、ビビってんじゃないかこの子。あたしにはそんなに悪い子には思えないんだが」
「本人の善し悪しにかかわらず危険人物ではあるよ」
暫定敵ながら、なんてわかりみが深すぎる一言。
「まぁ大目に見えあげるよ。なにせ君は待ちかねた客だからね。それじゃ話をとっとと終わらせようか」
※以下回想
◆◇◆
世界の頂点。
極めて退屈ではあるものの、その場所の居心地は決して悪いものでは無い。
ツアーがその座を手にしたのは400年と少し前のことである。
八欲王のプレイヤーたちが同士討ちにより全滅後、残された従属神は当時世界最強の竜王であったツアーに一つの交渉を持ち掛けた。
ギルド武器を預かって守り抜いてほしい。そうしてくれればこれ以上この世界を侵すことはない無く、天空都市に残された財宝も好きなだけ持ち出してくれて構わない。
生まれ持った力のままに孤高に生きる竜王種にとっては世界の平穏など些末なことだ。
しかし八欲王の財物と究極の至宝であるギルド武器を手に出来ると言われては、竜種の本能が断ることを許さない。
当時のツアーが彼らの願いを聞き入れたのは、あくまで俗的な欲望に心動かされたからに過ぎなかった。
そして八欲王の従属神はギルド武器と共に、それを守り抜くための堅牢なる防衛力を伴った絢爛な大聖堂の住処を与えた。
それから時は流れ200年後。やはり退屈ではあるものの、至高の財宝たちを囲んで寝過ごすだけの日々はある種満たされていた。
下界では従属神が暴走した魔神とやらが世を滅ぼす勢いで荒れ狂っているようだったが、ツアーにはやはりどこ吹く風。
ツアーの住処にも財宝の噂に時折迷い込む馬鹿者どもが現れたが、ブレスの一息でその全てを灰塵とさせ外の吹雪の中に混ぜるだけ。
しかしある日、一人の男がツアーの元を訪れることによって世界の在り方が大きく変わる。
そいつはツアーの持つ財宝や住処をも意に介さず、ただ真っ直ぐにツアー自身を見据えていた。
「世界最強の竜王よ。その力、魔神の悪逆に曝された弱き者達のために振るってはくれないだろうか?」
男がツアーに求めたのは財宝ではなく、ツアーの力そのもの。
男もそこそこ戦士としての力を修めているものの、ツアーからすれば吹けば飛ぶようなか弱い男。力の差は歴然であると言うのに男は一切竦むことは無かった。故に男はこの地に訪れた者達の中でも最上の馬鹿だった。
財宝を奪いに来るなら追い返さなければならないが、ツアー自身を奪えるものはこの世に居ない。
無益な殺生は血飛沫で住処を穢すだけだったので、ツアーは僅かな鼻息を吹いて男を壁際へと吹き飛ばした。
体中を叩きつけられた男は全身に打撲痕をつくり床へと沈みこむ。
死んではいないが瀕死の男をそのまま放置と言うのは気分が悪い。なので魔力で駆動鎧を動かして外の寒天に放りだした。
男が凍死するのは時間の問題と思われたが、しかしその寸前で何かの通りすがりが回収したようだった。
その時は、どの道生死どちらに転ぼうが再びツアーの前に姿をあらわすことはあるまいと思っていた。
ところが男は懲りずに翌日もやってきた。
「話を聞いてくれ!」
話を聞かずに鼻息で吹き飛ばした。
今度は外で待っていた何者かが回収したようだった。
「頼む!」
次の日も来た。吹き飛ばした。
「世界の危機なんだ!」
吹き飛ばした。
「キミにしか出来ないことだ!」
吹き飛ばす。
「」
吹き飛ばす。
こうしてツアーには、何度も何度も性懲りもなくやってくる男を鼻息で吹き飛ばすという謎の日課が出来た。
鬱陶しくはあったが所詮来るのは日に一度。退屈を紛らわせるには適度な加虐趣味であると思った。
それを一か月ほど続けたところ、興味深い変化が現れた。
ツアーはいつものように問答無用で鼻息を吹きかけた。最初は死なない程度にと手心を加えていた鼻息だが、日々耐え凌いで命を繋ぐ男の姿に興が乗って今では若干の火炎すら混ぜている。今日も同じように吹き飛ばせるだろうと思いきや、なんと男はその日とうとう両足で大地を踏みしめて耐えきってしまった。
「ほぅ」
面白いことがあるものだ。幾度も生死の境を行き来した結果、ツアーの鼻息を持ちこたえられるまでに身体能力が向上したようだった。
最初は半死半生であったのに僅かひと月でこうも成長するものか。竜種とて成長の上限は底知れないが、変化が目に見えるようになるには10年の歳月が要るというのに。
「名はなんというんだい、ニンゲン」
「
その日、男は初めてツアーの口を割らせることに成功した。
◆
「六大神のNPC……じゃなかった従属神が暴徒と化している。彼らを鎮めるには世界中の全種族が団結して戦わなけらばならないんだ
何より世界最強種である竜王の力は欠かせないだろう。どうか協力してはくれないか?」
話を聞くに、ササキ マサヨシと名乗った男は下界で行われている魔神戦争とやらの代表戦士の一人なのだという。
悪化している戦況を打開するために伝説で知れていたツアーの元へ訊ねてきたらしい。
もちろんツアーには知ったこっちゃあない。
「他所を当たってほしいね。所在は知らないがニンゲンに所縁のある
「力ある竜王には皆、
だから私を生かして返してくれたキミが、一番話を聞いてくれる可能性が高かったんだ。そして現に今、こうしてキミとの対話が成立した」
なるほど二度も死に目に遭えばツアー相手に希望を見出せるのも納得――出来るわけがない。
それでどうして諦めるという選択肢に至らないのかツアーには理解できなかった。
「僕も君を生かして返す気なんてさらさら無かったんだけどね。そこまでの強さがあれば僻地で隠れて生き残れるものを、キミは戦闘狂か何かかい?」
「誰かが困っていたら助けるのは当たり前。せっかく生まれ変わったんだ。それなら自分の信条に正直に生きていたい」
もはや狂人の戯言である。
それはそれとして、自身が他の竜王よりも手ぬるかったという事実がツアーの自尊心を微妙に傷つけた。
少なくとも男が他の竜王よりもツアーのことを侮ってると言えるのは確かである。
思えば一か月も生かし続けたのは温情あって余りあり過ぎる。竜王にはふさわしくないだろう。
ツアーは腕を振り上げ男の頭上の寸前で爪を止めた。
「ポリシー通りに死ねるなら本望だよね。それと死体は灰にして吹雪に混ぜてしまうから、現世を心配することもなくなるよ」
「キミたち竜王は本当に可哀そうな存在だよ」
「どうしてそこで同情の言葉が出てくるんだい?」
男は、マサヨシはツアーを見つめてあろうことか哀れんだ。死への恐怖より先にそれが出るのモノなのか。
「この聖堂に勝る芸術はないのかもしれない。ここに置かれた財物こそ至高のものなのかもしれない。
キミはそれを抱えたまま世界の頂点に一人きりで永遠に生きていくことになるんだ。それがどれだけ哀しいことかわかるかい?」
わからない。
一人きりを寂しいと思える感性なんて、竜種には生まれつき持ち合わせていない。本来それが必要なのは力なき弱者だけである。
「残念だ。君こそが世界を救うもっとも偉大な竜王であると信じていたのだがね。結局他の竜王たちと同じく力があるだけのくだらない存在だったんだね」
「……今なんて言った?」
◆
演技では無かっただろう。その時のマサヨシは心の底からツアーを救世主だと信じていた。
しかし煽り文句と受け取ったツアーは逆切れして下界に駆動鎧を送り込み、結果魔神戦争で大戦果をあげることになった。
そこで英雄として下々の者に崇拝される気分の良さが癖になり、以降度々力を振るい続けることとなる。
やがて時間がかかってリーダーであるマサヨシや戦友たちとも気心が知れるようになり、ツアーに生まれて始めての仲間が出来た。
その後しばらくしてリーダーと彼の妻だった神官のトウコが ぷれいやー だった知れるようになる。
弱い ぷれいやー がいるとは知らなかったが、二人の底なしの成長の所以が知れて納得した。
「この世界は美しいが、それを蹂躙するプレイヤー達には同族として反吐が出る。元の世界のように大地や空が穢されてしまうようなことがあってはならない」
世界が美しいなどと、これまで聖堂に閉じこもっていた時には一度も思わなった。
しかし駆動鎧を介して世界を見聞することによって、ツアーの価値観は変わっていった。力なきものと見下していた下界の者達も、それぞれの特徴が現れ出た興味深い文化や歴史を持っている。ドワーフの製鉄技術然り、人間やエルフの駆使する位階魔法の多様さ然り、クアゴアの採掘能力然り、スライムが衛生問題の解決に一役買っていたりなどほかにも様々。
魔神戦争が終わったら一致団結していた各種族は再び敵対することだろうが、それは凄く惜しいことに思えた。
リーダーに「王様をやってみたいかも」と言ったところ、元の世界とやらの革新的政治知識を嬉しそうに伝授してくれた。民主主義とか選挙とか学校とか社会保障とか株とか色々。全てを覚えきれはしなかったが、現在のアークランド評議国が多種族国家として成功したのはリーダーの知識があってこそであった。
話を戻し、各隠しが時価色々あって、れいどぼす の一種とかであった神龍を滅ぼしようやく終結した。
しかし悲劇が起きたのは、終戦打ち上げの夜の宴が終わってすぐのことだった。
そもそも二人が魔神戦争に参戦した理由の3つあった。
1つがプレイヤーとして同族が招いた災厄にけじめをつけること。
2つめが次女のツバキが残された元の世界に帰る手立てを見つけること。
3つめがもしかしたらこの世界に来ているかもしれない長女のサクラを探すこと。
娘の自慢話については、トウコやリーダーから旅の道中で散々聞かされたものだった。八欲王たちに匹敵する能力値を誇り、リーダー並みの神かがり的な剣技と多様な戦闘スタイルを駆使し厄介なマジックアイテムを山のように持っているという冗談みたいな話だ。
一つ目の目的はこうして達成できたものの、手掛かりのほうは戦争の旅路で世界中を巡っても一切見つからず、そのことで業を煮やしたトウコがとうとうリーダーと言い争いを始めてしまった。
酒に酔っていた二人の口論はやがて、トウコから魔法を繰り出したことにより刃傷沙汰に発展。
翌朝仲間たちが駆けつけると、トウコの亡骸にリーダーの剣が突き刺さっていて横たわっていた。呆然自失としながら側にいたリーダーは、起きたことを仲間たちに全てを語ったのちに遺言をいくつか残して自殺。
当然仲間たちは二人に蘇生魔法をかけたものの死者の魂が蘇生を拒否して失敗。
二人の墓は大陸中を見渡せるスモッソルブ・リーチェ山の頂に作られた。
※回想終わり
◆◇◆
「ものの見事に一家バラバラになっちゃったじゃん」
ハハッと力なく息を零して床にへたり込んだマタタビを、ツアーは細めた視線で見下ろした
彼女がショックを受けたのは言うまでも無いことだが、リーダーはそれを望んではいなかった。しかし無謀な遺言だ。
胸の内にわだかまりを秘めたままで何も知らずにのうのうと生きていく彼女を見守ってやる義理など、ツアーをにもありはしない。
本音を言えば憎しみもある。もっとも彼女が諸悪の根源であるなどと責任転嫁がしたいわけでもなかった。
「月並みな言葉だが、間違ってもキミだけのせいではないよ。これは捻じれた因果が招いたつまらない悲劇だ」
「それが私に先日殺意を差し向けてきた奴の言葉ですか? 誰が悪いかなんて、初めからわかっていたでしょう
私がもっとマシな性格をしてればこんなことにはならずに済んだ」
「それだけじゃない。キミが二人と生きていけなかったのはそう至った因果があってこそであり、次女ツバキと別たれ二人がこの世界に迷い込んだのはただの偶然。二人が殺し合うのを気付けなかった僕らにももちろん落ち度はあった」
「なにそれ。わざわざ傷のなめ合いをさせるために私にこのこと教えたの? まぁあなたたちにはその資格はあるけどさ」
リグリットがおどけるように両手の平を肩の高さで上に向けた。
「少し違うさね。あたしたちは、サクラちゃんのために世界を巡った二人の旅路が、サクラちゃんの心に何かを残してほしかっただけなのさ。それがたとえ心の傷であろうとも」
ツアーも同じ気持ちである。だがそれは死者の願いを踏みにじるだけの、浅慮で下らぬ自己満足に過ぎないのかもしれなかった。
「いやいやその心意気はありがたく受け取ります。知らないままの自分を想像するとゾッとするくらいですから
でも結局アレだよね、どうせ喧嘩別れをせずとも二人が老衰して死んじゃえばそんなに変わらないのかな」
プレイヤーがこの世界に来るのは100年周期。人間種の寿命では追いかけようもないだろう。それを見越した結果言い争ってあの惨状に至ったのかもしれない。
もちろん人間種でも永遠の生命を得られる手段は存在するが、希望を手に出来るかわからないまま悠久を過ごすというのも精神的に現実的じゃない。200年後にマタタビが姿をあらわしたのも奇跡のような話であった。
「僕が聞く筋ではないだろうが、気持ちの方は大丈夫かい?」
「さーね、ちょっと斜め上過ぎる話で頭の方が追いついてかないのですよ
それにこんな爆弾事実があったときたら、いろいろ身辺整理が忙しくて落ち込んでる場合でもないからさ」
そう言いながら自嘲気味に顔に手を当てる彼女の顔は、いっぱいいっぱいに追い詰められてるようだった。
「今度は墓前のお供え物でも持ってまた来るさね。あたしもツアーも暇だから話し相手くらいにはなってやる」
「ありがとうおばあちゃん、ツアーも」
「気にしなくていい」
結果的に傷のなめ合いの様になってしまったが、リーダーたちの話がひと段落してツアーは少し安堵した。なにせファーストコンタクトが最悪だったものだから。
そこでふと思い出してツアーは訊ねた。
「ところでマタタビ、スレイン法国の国宝による精神支配の方はどうやって解決したんだい?
というか分身体だから判別がわからないが、本当に今の君は無事なのかい?」
「あーそれはですね、実は私には――」
「む?」
ところが彼女が事情を語ろうとしたその時、ツアーの竜種としての感知能力に強大な気配が引っかかった。
今回の場所は、かつての戦友であったキーノが住まうリ・エスティーゼ王国の首都。
これまた類稀なるほど邪悪な意志だ。
「邪悪なプレイヤーが王国の王都で暴れているようだ。どうやら100年の揺り返しでこの地に訪れたのはキミだけではないようだね」
「え……わかるんだ。ちなみに鎧でも動かすの?」
「いや今回は無暗にちょっかいを出したりしない。君も知っての通りあの鎧は耐久性にこそ優れるがそれだけだ。
僕はここから動けないし、情報をじっくり集め他の竜王たちと掛け合ってこれからの対策を練る。仕方がないが、王国の人間たちを今救うことはできない」
するとホッと胸をなでおろした彼女は何気なく零した。
「そっか。まぁそれでいいんでしょうね。
「……今なんて言った?」
「え?」
デミウルゴス「つまりどういうことだってばよ!?」
マタタビ「こういうことだってばね」
たっち・みー=マタタビの父=十三英雄のリーダー=ツアーの友達=マタタビの母と心中
ツアーがゲヘナで暴れたデミウルゴスを感知
↓
横に居たマタタビが余計なことを吹き込んだせいで、ツアーが王都近辺に忍ばせていた駆動鎧を投入
↓
分身解除してそのこと知ったマタタビが、ギリギリのギリで飛び込んでデミウルゴスを守った
デミウルゴス「」
マタタビ「アインズ様がツアーから直接に事情を聴くのも時間の問題かと思われます。あんな接触の仕方したんだし」
デミウルゴス「」
マタタビ「……SUN値落ちしちゃってる。その、ほんとにごめんなさい」