ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 めっちゃ遅れた。もういやだ
 王国編とか銘打った割に王国蚊帳の外だと気づいた今日この頃。


和解失敗

◆◇◆

 

 心の中に強く太く打ち込まれた、想い出と言う名の巨大な支柱。

 それはとてもとてもちっぽけな鈴木悟――モモンガ――アインズの人生全てとも思えた大きな存在。だから支えていたはずの屋根や壁がなくなろうとも、柱はずっと野ざらしに変わらぬ姿で屹立していた。

 

 否、変わらないと妄信していただけだったのかもしれない。

 木柱が腐るように、石柱がひび割れるように、鉄柱ですら錆びるように、どんな輝かしい記憶でも時が隔てれば掠れていくものである。

 アインズはずっとこれまで、自分の認識から目を逸らしつつ「いつかきっと」などと心の片隅で浮かべては、誤魔化し続けていただけだったのだ。

 

 最近ようやく自覚が追いついてきたところだ。

 そして皮肉にもデミウルゴスの決意の言葉が、支柱の亀裂にとどめの一撃を叩き込んだ。

 

「来るかもわからない希望を悠久に抱え続けるエデン(楽園)など、地獄にも劣る。

 居なくなった方々はさて置いて、今は目の前の存在のために私は戦いましょう。マタタビ様、あなたと同じ決心です」

 

 

 

 

 部下がこっそり本心を晒したのを覗き見る上司と言うのは、特に最悪な部類であると思う。

 少なくともやられら方は溜まったもんじゃないだろう。意図してではなく結果的にそうなってしまったに過ぎないが、それでも側耳を立てたのはアインズの意志。言い訳するつもりは毛頭ない。

 

「マタタビ……さんと、特に騙し撃ったようになってしまったデミウルゴスには済まないと思ってる。弁解の余地も無い」

 

「アインズ様が弁解などとんでもございません。どころか言い訳のしようがないのは私の方にございます

 ただ今の発言は偽りようもない我が本心。悔いはありませんが、御心に反するのであれば反逆者として厳重な処罰を受ける覚悟もできております」

 

 アインズとしては仲間が居なくなったことを、NPCには無理して受け止めてもらわなくても構わないと思っていた。

 ところが仲間の一人の死去を知らされ、それでもデミウルゴスは記憶の改変を断固として拒むつもりだと言った。

 

 心配なような、寂しいような、でもどこか嬉しいような名状しがたい気持ちだ。強いて言うなら親心か。血縁もへったくれもないのだが。

 

「そうか、デミウルゴスの気持ちはよく分かった。最早それについてで私が文句を言うつもりはない

 また話し合わなくてはならないだろうが、今は後だ。仲間たちのことも含めて後日話そう」

 

「……寛大な御心に、深い感謝を申し上げます」

 

「私としても、謝りたいのはこっちのうほうですよ」

 

 複雑な顔で手を振るマタタビ。

 もっとも彼女は、NPCにいきなり本当のことを話すのは危なすぎるというアインズの意図に反することを踏まえた上で真実を語り、途中で割り込んだアインズに気付いたうえでデミウルゴスの本音を引き出したわけだが。

 

 この報連相出来ないニンゲンが果たして反省してるのか、少し怪しい。

 

「どうせアインズ様に相談したって、真実伏せるの一点張りで変わりやしないでしょう? こうして本人たちの意志を試してみない限りにはね」

 

「それはそうだが……まったく勝手な話だな」

 

 確かにマタタビの言う通り、マタタビがデミウルゴスに全てを話したからこそデミウルゴスの意志を確かめることが出来た。アインズの意志が一人よがりに過ぎなかったと明かされた。

 ただそれは結果論。それも危うい綱渡りの末に導き出された結果ではないかとも思う。

 

 アインズの価値観とは大きくズレるマタタビのやり方に、例のごとく嫌悪感が湧いてくる。

 だが何を言ってもアインズとマタタビのスタンスは水と油。昔から今までそうだった。

 せめてこれからは歩み寄る努力だけは続けていきたいのだが……

 

「とりあえずデミウルゴス、俺は彼女と二人だけで話をしたい。席を外してくれ」

 

「……その方が良さそうですね。承知しました、失礼します」

 

 デミウルゴスを退室させて、マタタビと真正面から向かい合った。

 

 

 

 

 アインズがツアーから事情を聞いているのを、やはりマタタビは察知しているようだった。

 もっとも、彼女からすれば話が早くて助かるどころか、誰にも知られたくはなかったのだろう。

 事情を知って若落ち着いた様子のアインズに対し、マタタビからの表情はやはり複雑だ。

 

「色々話すことはありますけれど、まずはやっぱりごめんなさいですね。

 事情が事情だっただけにアインズ様には話せませんでしたが、アルベドさんあたりに話しておくべきだったです」

 

「……」

 

 アインズとしては素直に「はいそうですね」と首肯しかねる反省である。

 考えうるに、彼女の今回の直接的な失敗原因はゲヘナ計画とツアーの訪問の時刻が重なってしまったことと言える。アルベドに相談してれば確かに、ツアーが乱入してくるような大事件そのものは避けられただろう。

 

 だがもし仮にそれで失敗事態を避けられたとしたら、マタタビと たっち・みー にまつわる真相をアインズは結局知らず仕舞いになる可能性が高い。

 結局色々あったあげくに、肝心なところ(秘密主義)は碌に反省してないことがよくわかった。実に腹立たしい。

 だがそれも仕方の無いことだ。生身で彼女と話してみて、嫌と言うほど実感した。

 

「分かり合うなんてのは傲慢なのですよ。互いに腹の底が見えたところで、妥協し合えないことがわかるだけ

 アインズ様からすれば事の真相を知って今更、その記憶を捨てようとは思えないでしょう。でも私は、マサヨシのことであなたを揺るがす真似はしたくなかった。隠そうとしたこと自体には、後悔なんてできない」

 

 先ほどデミウルゴスは、アインズが一人で抱え込んで悩むくらいなら知っていたいと言っていた。マタタビに隠し事をされたアインズにはその気持ちが痛いほどわかったが、どうしようもなく秘め事を抱え続けなければいけない苦悩もやはりよく知っている。アインズもまたNPCに自分の胸襟を開ききっていないのだから当然だ。

 

 だがその理屈だけでは一点だけ、矛盾が生じる。

 

「のようだな。だが、デミウルゴスにだけは話したのはどう説明をつける? 俺だって、ナザリックの皆に事の真相を知られるのはマズいと思ってたのだが」

 

「それはさっき言った通りです。デミウルゴスさんは他のギルドメンバーがもう帰ってこないことに勘付いてました

 だったらば今、作戦主任として真相を知るのは間違っていない。あの方の知る権利を尊重したまでで、アインズ様が文句を言うことじゃない

 どうぞ今後は存分にその件についてで彼と話し合ってくださいよ」

 

「その理屈だと、元々わかっている俺自身にも知る権利が生じるんだが、違うのか」

 

「権利を踏みにじってでも、守らなきゃいけないことがあるんですよ

 あなたがもしマサヨシが死んだなんて知ったら、星に願いを(ウィッシュ・ポン・ア・スター)世界級(ワールド)アイテムでも使って無理矢理蘇生させることでしょう。そしたら私は戦争覚悟でも止めなくちゃいけなくなる。

 理由は、わかるかな?」

 

「……!」

 

 何故と理由を問い返そうとしたのを、アインズは顎を食い絞って咄嗟に堪えた。

 その愚問、すなわち無理解こそがマタタビとの戦争の引き金になると理解したからだ。

 

「本当に、不幸中の幸いです。アインズ様がちゃんと、マサヨシとトウコの蘇生が何を意味するのか分かってくれて本当に助かりました」

 

「ああだが確かに、それは、最悪かもしれない」

 

 彼女が思い浮かべる一つの最悪が、アインズの脳裏にも巡ってきた。

 それはある意味マタタビとの敵対以上に厄介で誰にとっても残酷とも言える可能性だった。

 

 一見、支配者の再臨を望むNPCにとってもかつての仲間との再会ほど嬉しいことは無い。そして、娘を探す半ばで心折れたマタタビの両親。そんな彼らが時を経てマタタビと再会するのは、それだけなら一見美談にしか思えない。

 たしかに感動の再開であることは違いないが、同じくらいの残酷さもそこには隠されていたのだ。

 

「私の両親は、どうしようもない私のことを、どうしようもないくらい愛してくれているんです。眩しすぎて目を逸らしたくなるくらいに」

 

 マタタビは目元を手で隠しながら苦笑を浮かべ、吐き捨てるように言った。

 

「そんな、娘の私を探して異世界にまで迷い込むような両親が、元の世界に残した私の妹のことを忘れられるわけがない。

 だから二人の人生が報われることは、これから二度とあり得ないのですよ」

 

「そうか」

 

 時を経た故人の意思などわかるわけがないにもかかわらず、マタタビは強く断言する。そこには親への堅い信頼があると共に、裏切った自分の罪過を強く刻みつける行為にも思えた。

 

「そんな二人をもしナザリックに呼び戻しでもしてしまえば――アインズ様には言いづらかったけど――」

「――NPCや俺のことなど、きっと歯牙にもかけないことでしょうね。そうなれば誰も彼も幸せにならない。

 これが、マタタビさんが一番避けたかったことなんでしょう? ……だったらそもそも、一切合切全てを話してほしかった」

 

 もっと早くに全てを話してくれたなら、アインズはマタタビの思惑に共感することが出来ただろう。

 彼女はきっと、誰よりもアインズやNPC達の現状を俯瞰して理解できてる見地にあり、ナザリック全体を広い視野で冷静に見渡せている。

 だからアインズ以上にNPCの心情に寄り添ってデミウルゴスから本音を引き出すことが出来たし、今みたいに両親の存在がナザリックにとって救いにならないのもすぐに察知できた。

 

 そんな彼女がずっと、アインズとの視点の共有を拒み続けていたのはということは、

 

「さすがに俺も遺族の許可を取らないほどのロクデナシじゃなかったのに」

 

 デミウルゴスやアルベドには辛うじて話せても、アインズだけには話したくなかった。

 つまり彼女の認識は、NPCなら丸め込める自信があるがアインズには話が通用しないということ。

 アインズ自身が碌に信頼されていなかったことを意味している。

 

「私が想定した一番最悪のパターンはね、マサヨシからつれなくされたアインズ様が「クソガー!」って逆上して私の両親をぶっ殺しちゃうこと。

 そしたらNPCとの関係にも亀裂が巡り、私もあなたを憎まざる得なくなって見事にナザリックは崩壊したことでしょう」

 

「……今の発言で、マタタビさんが俺のことをどう思っていたのかよくわかったよ」

  

 想像の斜め上すら超える最低最悪の妄想だった。

 しかしマタタビのことを完璧に失望しきれないのが、かえって恐ろしい。なにせアインズの中には確かにかつての仲間への負の感情が存在し、なおかつそれから目を逸らす欺瞞性すら持ち合わせていたからだ。

 

 だがマタタビが誰よりも、アインズの負の側面を信じているのは皮肉以外の何物でもなかった。

 よりにもよって、アインズの気づきのきっかけとなった彼女自身が。

 

「馬鹿にしているんだな」

 

「ええ。正直言って、馬鹿だとは思ってましたよ。

 誇大な過去の妄執と欺瞞にとりつかれた友情お化け。それが私のアインズ・ウール・ゴウンに対する元々の人物評価でした」

 

「ああこの際否定はしないよ。百歩譲って、俺がかつての仲間に敵意を向ける可能性があったことは認めよう」

 

 言い方は酷い。しかし事実が羅列されただけな気もして、客観性と生々しさがアインズの胸を貫いた。そうだとも、と心の中の自分がマタタビの辛辣な評価を受け入れた。

 

 アインズがユグドラシルとかつての仲間に心が離れられないのは、自分にはそれ(・・)しか無かったからだ。もしそれ(・・)の価値をかつての仲間に否定されれば、積み重なった友情は憎悪へ変わることだろう。

 癇癪によって一線が崩壊すれば、自分が何をするかわからない。

 だが一点だけ、どうしても認められない部分があった。

 

「だがあなたの両親を殺すなんてのは、わかっていたら絶対しない」

 

 アインズの言葉があまりにも意外だったマタタビは、怯えるように身をすくませ身を引いた。

 安心させるために当たり前なことを言ったのに意味が分からない。

 

「この際だ、百歩譲って好意自体は謹んで受け取りましょう。でも、そこまで私が依怙贔屓される謂れがわからないんだけど」

 

 まだそんなところで躓いてるのかと思ったが、仕方がない。受け取ってくれただけでも進歩がある。

 とはいえ口にするのも照れ臭くてどうしたものかと迷ったが、結局身の丈をそのまま言葉に吐き出した。

 

「簡単なことだ。気まぐれかなのかもしれないが、マタタビさんはナザリックに身を寄せていて、時々話に付き合ってくれる。

 俺にとってはそれだけで、とてもありがたいことなんだ」

 

 事実、NPCと主従の壁が立ちはだかるアインズにとって、気兼ねなく対等に話してくれる人物と言うだけで大いに救われた。

 口が悪く、性格の反りが合わず、トラブルメーカーであることを加味しても、ギリギリおつりが出なくはない。

 

 ギリギリ……ギリギリ……

 

 マタタビは右手の甲で額を押さえながら絞り出すように零した。

 

「……気の毒な御身分です」

 

 言うと思ったし、自分でも内心同意したが格好がつかないので口には出さなかった。

 もし最終日の日に、他のだれかが一緒に転移してきたとしても絶対にマタタビよりはまだしも仲良くできる自信がある。そんなifは考えても仕方がないが。

 

「最終日一人きりだったところに突然話しかけられて、一緒に異世界に転移して、自分やナザリックのことを思い遣ってくれるのがわかった異性ですよ?

 童貞として惚れてないのが不思議なくらいです。きっとマタタビさんの性格の悪さが幸いしたんでしょうね」

 

「おぉすごい。一見ツンデレな告白紛いにも聞き取れるのに、アインズ様に言われると全く心が靡かねぇです」

 

 正直自分でも言ってみてすごくゾワッとしたところである。

 ガサツな彼女以外なら、冗談でも誰にも言うことはありえまい。

 

「ところで今のセリフ、胸に手を当てて心の中で復唱してごらんなさい? 何か肝心なことを忘れてますよ」

 

 最終日一人きりだったところに突然話しかけられて、一緒に異世界に転移して、自分やナザリックのことを思い遣ってくれるのがわかった異性。

 

 はて一体何のことだろう。特に何も思い浮かばない。

 そんなアインズに「……ったくこのポン骨野郎が」と軽く罵倒をけしかけるマタタビだが、頭を振って溜飲する。

 

「まぁ今はいいですよ。アインズ様なりの友情は、しかとこの胸に受け取りました。

 ……私としても似たようなもんです。旅は道連れ世は情け、命を救われた御恩とか色々愛着もありますし、当分の間は気にかけてやりましょう。

 精々私の起こすトラブルには気を付けることですよ」

 

「自分で気をつけろ、そこは」

 

 特にアインズへの秘密主義をどうにかしてもらいたい。

 だがマタタビはその点にあまり反省を見せてる様子はなかった。

 

「あーはいはい。ではそのために改めて誓ってくださいよ

 アインズ様、あなたは何があっても私の両親を復活させようとしないでね」

 

 よくもまぁ平然としていられるものである。今日一番衝撃を受けたのは彼女自身であるはずなのに。

 やっぱりこの人とは分かり合えないと、アインズは心の底から深く確信した。

 

「ああよくわかった。絶対に、誰が何を言おうと、マタタビさんのご両親を復活させたりはしない」

 

 

 

 

 デミウルゴスを呼び戻し、マタタビと3人でゲヘナ作戦のミーティングを軽く行ってからその場はいったん解散させた。

 

 それから拠点の屋敷の一人部屋を借り、防御魔法を張り巡らせ人払いを済ませてから、執務机にこしかけ直前のミーティングの内容をメモに書き連ねていった。

 

 変更としては、王城で予定されてた決戦のマッチメイクがモモンVSヤルダバオトの一騎打ちだったのが、モモンVSアルデバランとツアーVSヤルダバオトとなったことである。

 安全面では戦闘経験のあるマタタビがツアーの相手をするのが一番良かったが、マタタビがぼろを出す危険性を考慮してデミウルゴスが担当することになった。

 

 それから、配下のメイド悪魔や下級悪魔と、他の冒険者とのマッチメイクや戦力配分には既に手をまわしてあるとのこと。今モモンとして化けているパンドラズ・アクターが陣頭配置の指揮を出して組合の方に調整を働いたらしい。

 

 ツアー、および彼と旧知の中であるらしいイビルアイ、とマタタビが報告したリグリットという女性についての素性捜査は、作戦が落ち着いてから行う予定だ。十三英雄時代だけでなく、六大神時代までさかのぼる生き証人の存在との遭遇は騒動がもたらした数少ない副産物だ。

 

 今後の予定は目まぐるしいが、メモ書きする時間も多くは取れない。

 手首を動かし片手間に、今日知りえた数々の衝撃的事実を反芻した。

 

 たっち・みー は竹を割ったような性格の人格者であり、皆を引っ張って突き進んでいくリーダー気質で、仲間内の誰からも慕われていた。

 ユグドラシルでは最強格のプレイヤーでありながら、リアルでも美人の奥さんと娘が居る富裕層の超絶勝ち組。ウルベルトとの仲の悪さと特撮ヒーロー趣味への傾倒ぶりを除いて、およそ非の打ち所のない完璧超人。

 

 そんな彼が、卑屈で姑息で皆の足を引っ張りまくり、周囲と衝突ばかり起こしていた問題児、ユグドラシル屈指の害悪プレイヤーのリアル職業フリーターで、なぜかウルベルトとウマが合う、およそ褒めるべきところが何も無いマタタビの父親。

 

 ありえないという、その一言に尽きる

 どういう遺伝子の受け継ぎ方をしたらアレからコレがうまれるのだろう。なんて口に出したら、やっぱりたっち・みー は怒るのだろうか。たっち・みー は怒ると怖いがマタタビはそうでもない。

 共通点と言えば精々剣がメインウェポンなのと、意外と頑固でヒトの話を聞かないことくらいか。

 

 思えばマタタビは特に たっち・みー と衝突していたような。当時の たっち・みー はひたすら大人の対応をしていたが、思えばアレが娘の反抗期と言う奴なのだろうか。彼女の性格からしてちょっとあり得るような気もしてくる。確か たっち・みー のほうから一方的に構っていたような覚えもあった。ビルド選択しかり、高級メイド服しかり、ペロロンチーノの外装演出然り、考えてみれば たっち・みー と関連したもめ事が半分近くを占めていたはずだ。

 ひょっとして たっち・みー が居なければクラン時代のマタタビは案外もうちょっとだけ大人しかったのではないか。

 

 要らぬ妄想がぷかぷかと浮上する。こりゃ彼女も隠したがるわけだと納得した。

 まあ、そもそもクランを発起させたのは たっち・みー だし、父親だと気付いた後もしばらく彼女はクランから離れなかったのだ。考えても仕方がない事だろう。

 どの道アインズが嫌いなマタタビの性格の部分とは、あまり関係の無いところでもある。

 

 それに、彼女の親がギルドメンバーの誰であろうと、最早アインズにとっては大した意味を持たなかった。

 生き返らせたところで(・・・・・・・・・・)仲間だったのはかつてのことであり、ユグドラシルの思い出は互いにとってどうしようもなく過去のものだ。

 

 今後も(・・・)仲良くできるに越したことは無いが、ダメならダメで諦められる程度の分別はあった。ただし彼女さえ幸せであればだが。

 

「ダメそうならば、やはり殺すしかないか」

 

 万が一にも二度目の無理心中でもしようものなら、殺してでも止めるしかない。だが戦争は勘弁だ。

 失敗した際は記憶を消すためにマタタビを取り押さえなければならないだろう。〈記憶操作(コントロールアムネジア)〉の練習もしなくてはならないし、何より取り押さえる手間が面倒すぎる。

 

「何か方法は……あぁそう言えば」

 

 最悪な閃きが悪魔のささやきの如くアインズの理性に語り掛けた。メモに走らせていたペン先を止めて、虚空を見つめた。

 仲間にやっていいことでは無いが、そもそも記憶を弄ることを考えた時点でモラルなんて気にしても仕方がなかった。 彼女の人格の尊厳さえ守れていればいい気がする。

 彼女は仲間ではないのだから。少なくとも彼女は、そう思ってるはずだ。

 

 自分の中の一線が、ぷつんと切れた音がした。

 

 切れたと同時に、メッセージの魔法を発動させて所定の相手に心を繋げた。

 

 

「パンドラズ・アクター、単刀直入に聞こう。マタタビに精神支配をかけたのはお前か?」

 

 パンドラズ・アクターがマタタビに精神支配をかけた事実が分かったのは、言うまでも無くツアーの言及によってである。

 どういう原理で見分けてるのかは知らないが、先日の暴走時から今現在にかけてまでマタタビの精神支配は継続されたままらしい。

 

 だとすれば状況的に犯人はパンドラズ・アクター意外に考えられない。もっともアインズ自身が作り出したはずのパンドラズ・アクターが創造主の意に背くと言うのはそれはそれで驚きである。

 

『――』

 

 しかし相手はあっさり肯定した。

 冷や水を浴びせられたような動揺が垣間見えながらも、同時に深い諦観と堅い覚悟が伝わった。

 彼はあらゆる処罰を受け入れる旨を申し出たが、アインズは一蹴した。

 

「くどい。お前は俺が間違ってると思ったから、自らの考えでやったんだろう? ならば部下の想いを御しきれなかった俺の落ち度だ。

 第一にお前のやったことは間違っていなかったし、俺は甘かったのだ。あんな女を……仲間になっても悪くはないなどと思っていたかつての俺が忌々しい」

 

 マタタビが目指したシナリオは、アインズが彼女の秘密を何も知らないままで安穏と過ごすことだった。

 NPCまで巻き込んだくせに、アインズにだけは悲しい全てを遠ざけるような真似をする。

 澄ました顔の裏側で背負った十字架に押し潰されそうになりながらも、マタタビはアインズに慈悲を零した。

 

 腹が立つ。

 反吐が出る。

 

 その優しさは侮辱であり、不信頼の証明でしかない。

 互いの荷を背負い合うのが仲間なら、彼女がやっているのはただの泥棒だ。

 

 ならばアインズだって、彼女から奪いとっても文句あるまい。そもそも仲間でないなら話し合いの余地も無いのだから。 

 

 マタタビがアインズから真実を奪おうとしたならば、アインズは彼女の罪を奪う。

 知れれば彼女は抵抗するだろう。

 アインズだって、もはや手段は選ばない。シューティングスターだろうが世界級アイテムだろうが何だって使ってやる。

 

『――?』

 

 

「何をするつもりかだって? 決まっているだろう。元の世界に残されたというマタタビさんの妹をこの世界に引きずり込んで、その上で後顧の憂い無く彼女の両親を復活させるのだ。もちろん精神支配だって利用させてもらう」

 

 

 




普通に和解する話にしようと思ったんです。

ところがこのSSではオリ主を自由に動かすために、アインズ様を蚊帳の外におかざるえませんでした。
そんな露骨なストーリー上のご都合にとうとうアインズ様がブチギれて、見事にプロットを壊されてしまいました。
更新遅れたのも自業自得です。行き当たりばったりで前途多難すぎる

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