ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

51 / 86
自分の筆の遅さに泣けてくるこの頃です
他作品の挿絵とか別短編の執筆とか浮気しまくって遅くなりました言い訳はしません




探し物

【マタタビの至高の41人大百科】

 

No.10:やまいこ

 

 ほかの仲間からは脳筋と揶揄され顰蹙を買っている部分があるが、その体当たり的な戦闘スタイルを成立させている高度な判断力には目を見張るものがある。

 あくまで本人はサポートタイプのビルド編成だが、未知の能力を持つ敵に対しての即座的な対応力はモモンガをも凌ぐだろう。彼女の筋肉には脳細胞が宿っている。

 また、かの才女あけみを妹に持つことに苦悩してしかるべきなのに、その手の負の感情との向き合い方が非常に上手い。

 マタタビにとっては女性として憧れの存在であり、また旧クランメンバーの中では実父を除き最も影響を与えた人物。

 

◆◇◆

 

 

 ナザリック9階層における数ある無駄施設が一ヵ所、和風道場。

 ここはプレアデスのナーベラルさんがたまに来るくらいで、使ってる人はあんまりいないのだとか。

 

 だから私が暇なときには大体ここで、剣の素振りしたり影分身2体作って演習したり座禅とかしてるのだ。サボってたらすぐ鈍るもんだから。

 

 

 

 ここ造ったのは武人建御雷らしいけど、気のせいじゃなければ……私が昔やってた剣道ゲームの内装にそっくり。木造板張りに竹格子、ただ掛け軸だけは「アインズ様命」って書かれてる。誰がやったんだか知らんけど。

 

 

 ところで今日ここで訓練してるのは、私じゃなくて別の方。

 先日セバスさんが外で拾ってきたツアレさんという女性である。

 

 

 部屋に備え付けてたウェイト6キロの剣道着を全身に装備。格子面の隙間から「やー!やー!」元気に掛け声かけて、1.1キロの素振り用木刀を振るっています。

 

 ぜぇぜぇ息を切らしながらも、どうにか間もなく60回目の正面素振りが振り下ろされました。

 

「そこまで。休憩してください。20分後に今度は走り込みします」

 

「はぃ……」

 

「できればもちっと大きな声で」

 

「……はいっ!」

 

 

 促すと、面と胴の防具を丁寧に脱ぎ置いてからふらふら壁に寄りかかるツアレさん。ぐったり汗を垂らしながらしながら、ピッキーさんお手製スポドリ水筒をちびりちびりと口付けてます。

 

 仕草一つ一つに小動物っぽい愛嬌が滲みだしていて、見てるとついぞ守護りたくなる。あの野郎がほれ込んだのも合点が行くというもので、私が男だったらNTRしていたかもしれません。

 

 

 うぇーいセバスさん見てるー?(見てない)

 セバスさんがカルネ村で娼館被害者女性たちと生殖実験してる間に、ツアレさん硬い棒握りしめてハァハァ言ってるよぉ?(木刀)

 

 

 

 とまぁ冗談はさて置きましょう。

 どうしてこうなったかというと、そこそこ深いワケがあるのです。

 

 

 先日セバスさんに拾われたツアレさんは、諸々の事情で賜ったらしいアインズ様からの恩恵により、本人希望でセバスさんの下で一般メイド見習いとして働けるようになったそうな。

 

 コレ、NPCたる一般メイドに外部の異物を混ぜ込んでることを考えれば、アインズ様にとってどれだけ温情余りある措置かお判りでしょう。

 

 折角見つかったセバスさんの良い人ってのもあるだろうけど、彼女の妹さんとやらはどれだけの恩を売ったのやら気になること気になること。

 

 でも同じく一時期異物として入り込んでメイド見習いを体感した私からすれば、オイオイオイな話です。

 

 だって考えてみて欲しい。もしあなたの接客業未経験な隣人が、コネで7つ星帝国ホテルに就職できたとか言ってきたらどう思うか。

 何日続くかの心配をするのが人情というヤツだろう。

 

 そのくらい一般メイドはヤバいのです。多くのNPCと接してきた私がナザリックで一番スゴイNPCを挙げるとしたら彼女達になってしまうま。そのくらいにヤバいのです。

 

 

 自分がメイド見習いだった時は、私が多少育ちが良くて礼儀作法の下積みがあるし、レベルによる体力任せの労働が可能だからある程度は対応できていた部分がある。それでも何度くじけそうになったことか。

 

 彼女たちは、リアル世界におけるあらゆる分野のサービス業のノウハウを全乗せしたような能力を持つ、さながら奉仕の怪物だ。

 

 歩くという動作一つとってもまさに一級品。先出した片足への慎重な重心移動と、爪先からかかと順の着地により、一切の足音すら立つことは無い。膝の曲がらない足運びは上下への振動を限りなくゼロへと近づけ、左右の足は平行に一本線を進むように正確だ。

 

 一般メイドの先輩たちは、たとえ頭の上に水のコップを乗せていても一切の波紋すら立てずに歩くことが可能である。この御業に私は心の底から感動し、必ずや我が物にせんと何をおいてもまず先に歩行法の習得を優先させたぐらいだ。

 

 接客をさせればムラの無い対応で迅速に必要なオーダーを受注し、相手を立てながらも過度に盛り上げすぎない洗練されたトーク力はどんな朴念仁でもついぞ気を許してしまうだろう。鷹のような観察眼は客の状態を目ざとく見抜き、喉鳴りに耳を澄まして自然と飲み物を用意できるし、疲労を勘付けばさり気無く着席や休憩を促しにかかる。

 

 清掃能力はエクレアさんにこそ一枚劣るが、それでも高水準なことには変わりない。エクレアさんが特化型の精鋭戦士なら、一般メイドの皆様方は統率の優れた騎士団の如し。広大な洋室を見事なチームワークで磨き上げる様は圧巻だ。

 

 果たしてそんな彼女達に、ツアレさんはついて行くことが出来るのか。

 せっかく私がデミウルゴスさんと共に、娼館被害者女性達を囲う実験場もといハーレム屋敷をカルネ村に新築したのだ。

 セバスさんとのセッセと実験(意味深)に勤しめば、よいではないかよいではないかーと思ったのだが。

 

 

 

『私の幸せは、セバス様と一緒のところにあります。

 あの方の心と、同じ場所で息がしたいのです』

 

 思いの外頑固で肝が据わっているみたいだった。

 

 

 セバスさんはこれから外用が多くなり、ツアレさんに時間を使いにくい。そして今のままの彼女をメイド達の中に放り込むのは流石にマズい。例えていうなら保健所から引き取った病み上がりのチワワを警察犬の群れに放り込むようなもの。

 

 これでは余りにも見ていられない。だからセバスさんへの借りを返す意味を込めて、私が一旦身元を引き受けることにしたのだ。メイド見習いに成るのはまだ先のことだ。

 

 

「体力それなりについてきましたね」

 

「はい、昔、畑作をやっていた時みたいに戻ってきました」

 

 

 それでまず基礎体力作りのための鍛錬というわけ。性暴力に曝され続けて弱り切った体力を、メイドとして十五分に働けるぐらいまでもってくのが理想だ。一般メイド達って、ホムンクルスのクラスペナルティで大喰いなんだけど、代わりにガテン系の作業できるくらいの体力があるからね。

 

 

 どうして普通の筋トレじゃなくて剣術鍛錬なのかというと、運よくファイター系の戦闘職が獲得できれば色んな意味ですごく手っ取り早いから。この世界のステータスシステムってよくわからないけど、筋トレよりはレベルアップの方が多分効率的だろう。上手くいかずとも筋トレになってればそれでいい。

 

 

「ま、先は長いですけどね。メイド見習いになるためには、まず歩き方は大前提。農民上がりなら礼儀作法も苦労します。

 それに日本語が読めなきゃ指示書や帳簿一つ書けませんしね。鍛錬終わったらまた図書館で缶詰ですから覚悟してください」

 

「が、がんばります!」

 

「そこから更に一人前のメイドになるには、清掃技能、接客、話術、美的センス、ホスピタリティとか学ばなければいけないことは多岐にわたりますよ」

 

「……はい!」

 

「あーその前に仕事だけじゃなくて、NPCの皆様方との日常会話が出来るようナザリックの仕組みや序列も覚えてかなきゃね

 じゃなきゃそのうち不興を買って首チョンパ、もしくは死ねたら天国なくらいひどい目に遭いますから」

 

「……はぃ」

 

「ほらまた目線ズレてるし声が小さいです。万が一アインズ様相手にビビって視線逸らしたら、彼本人はともかく側近に不敬罪問われますから

 その際糾弾されるのは、貴女じゃなくて監督責任を持ってるセバスさんなんですよ?」

 

「ひぃ!? はいっ! 気を付けます!」

 

「……ここまで言っても折れないのかよ。あなた辛くないの?」

 

 

 この方ってば必要なこと叩き込む体で虐めてるのに、ビックリするほど芯が強い。

 可愛らしい見た目して随分しぶといなこの人。私としてはとっととハーレム屋敷に追いやって、セバスの子種と身分保障与えて終わりにしてもそれはそれで良かったのだけど。

 哀しいかな、このぶんだとあと数か月は確実に持ちそうだ。

 

 いやはや厄介。さっさと借りを返すつもりでいたが、楽な仕事じゃなさそうだこれは。

 

「どうして、どうして私が辛いなんて、マタタビさまがそんなことを思うのですか?」

 

「あん? どうしてってそりゃ私が――」

 

「マタタビさまは、私のことを殴りません。いつもおいしいご飯をもってきてくださって、一緒に食べてくださります。震えて床につく私を、眠るまでずっと傍で見守ってくださります。

 教えてもらうことは大変なモノばかりだけど、何度も丁寧に教えてくださります。私、こんなに優しくされたことなんて、セバス様に逢うまでありませんでした」

 

 心の底から不思議というふうに、ツアレさんは真っ直ぐ私の方を見て明瞭な声でそう言った。

 

「……っ」

 

 今度は危うく私のほうが視線を逸らして先細った声を漏らしそうになってしまった。だから負けじと首筋を強張らせ強く舌を噛んで盛大に堪えた。

 

「てめぇの卑しい生まれ育ちなんかと一緒にすんじゃねぇですよ……このニンゲン風情が」

 

 反射的に睨み返してこぼれ出た罵倒。

 突然の殺気に青ざめたツアレさんだが、彼女の言葉は私の心のすごく嫌なところを的確に突き刺していた。

 

「し、失礼しました!?」

 

 訳が分からないまま慌てて謝るツアレさんの姿に、私はますます苛立ちを重ねる。

 なんだか急にこの場から逃げ出したくなる自分が浮上した。

 

 すると渡りに船というヤツか、偶然ある人物の気配がこの道場に近づいてくるのを感じ取った。

 

 まもなく道場の戸をコンコンと響きよく叩く音が耳に入る。輪を掛けて委縮するツアレさんを尻目に、私は安堵のため息を零した。

 

 どうぞというと、ガラガラ横開きされた扉から、透きる眼鏡を掛けた凛とした出で立ちの黒髪団子メイドが入室してきた。

 

 戦闘メイドプレアデスが長女にして副リーダー、名前は確か――

 

「ユリ・アルファです。アインズ様の命により、マタタビ様の御迎えに上がりました」

 

「あらどうも。……えっと御部屋捜索の件でしたっけ?」

 

「はい、やまいこ様の御部屋へのご同行をお願いします」

 

「了解しました。そんじゃ……〈影分身の術〉。ツアレさんのことお願い」

 

 MPを少し削り、25レベル相当マタタビと瓜二つの分身体を召喚した。

 影分身は嘲るように目を細めて本体を睨んだ後、平然として了承した。

 

「良かったね。丁度良く用事が出来て」

 

「うるさい黙れ。ちゃんとやれよ私」

 

「ちゃんとやるよ私。ちゃんと、だよねあはは。じゃあ休憩もそろそろで、走り込みしよっかツアレさん」

 

「はいっ!!」

 

 影分身は便利なスキルだが、やたら反抗的なのが玉に瑕であまり使い勝手がよろしくない。

 私が私を嫌いなように、分身も私のことが嫌いだから。そして自身が泡沫存在であるのをいいことに本体に一切遠慮なく嫌味を投げかけてくる。

 自分が分身だったら同じようにしてるから、その気持ちはよくわかるんだけどね。

 

「……というわけでささッと行きましょアルファさん」

 

「承知しました」

 

 逃げるように退室する私と嫌味いっぱいな影分身を、胡乱なモノのようにユリ・アルファさんは見比べていた。

 

 

 

 虐待されて育った親が自分の子供にも虐待するなんて話はよく聞くだろう。

 逆もまた然り、しっかり愛情を注がれて育った子供は同じように子供を愛することが出来るらしい。

 

 つまり教育においてアウトプットとインプットはだいたいの場合イコールということ。たぶん やまいこさんがそんな風なこと言ってた気がする。

 

 私は9歳くらいの時に、自分の家庭からいたたまれなくて逃げ出した。

 けど、そこで育った私が虐めるつもりで対応したツアレさんはこれっぽちもへこたれてない。なんだかすごい劣等感。

 

 ツアレさんもそうだけど、NPCの皆様方やアインズ様とかからすれば私の境遇なんて全く嫌味みたいなものなんだろうな。

 

 うつらうつらとを考えて頭を重くしながら9階層の廊下を歩く私。

 そんな私の葛藤もつゆ知らず、横歩くアルファさんは純粋な称賛を向けてきたので私は痒くて仕方が無かった。

 

「感服しました。よもや武術指南という形式で諸々の基礎的な礼儀作法と体力づくりを一遍に行われるとは」

 

「そんな画期的な方法みたいに言わないでください。リアル世界ではありふれた方法ですし

 私に教えられることがそんくらいだっただけですって」

 

 結局私がやってることは、20~21世紀の教育で為されていたスポーツクラブとかとだいたい同じコンセプトだ。

 あれは長らく使い古されていた、体力、運動神経、社会性、礼儀作法、文化教育などなどを一括で学べる超便利システム。

 先人の知恵をそのまま流用したに過ぎないのです。

 

「ですが今のツアレには、最も必要で的確な対応であり治療(・・)です。

 性暴力被害によるPTSD克服としての武術習得なんて、きっと私には思いつきもしませんでした」

 

「ん? ん? 別に私そこまで考えてませんよ?」

 

 こらこらこら、変な勘違いするんじゃありませんよ。

 アインズ様の馬鹿と同じ轍なぞ踏んで溜まるか。こういうのは速攻で違うって言ってやらなきゃまずいのだ。

 

 私が小さい頃にやらされた鍛錬を体力づくりとしてそのまま流用してるだけなんですってホント。

 性暴力なんて私はされるほうじゃなくて寧ろする側の立ち位置に近いんだから……

 

 そんな感じで説得してなんとか納得していただきました。

 

「意外です。考えあってのことかと……

 てきとうな対応が結果的にベストマッチするなんてこともあるのですね」

 

 その言葉誰かさんに聞かせてあげたいよ全く。

 

「マタタビ様とツアレの様子を見て気になり、性暴力被害を受けた女性たちの精神療法を大図書館で私なりに調べてみたのです。

 調べた文献の中からなんでも中東という地域において、性暴力被害者女性を囲った空手道場が存在したそうですよ? てっきりマタタビ様の対応もそれに倣ったものだとばかり」

 

「……あー、言われて見れば。私やアルファさんには縁が無いけど、女性って普通に社会弱者なところあるし」

 

「相手より一段上の体力があって、その気になれば一発殴れるぞっていう心構えがあると全然違いますよね」

 

「超わかるー」

 

 そういえばすっかり忘れてたけど、リアルで独り立ちしてアーコロジーから飛び出た後私普通に野郎に襲われたことあったわ。

 この世界の王都のスラム並みに治安最悪だったもんな外周区。

 

 その時は持ち出した竹刀で溝内突いて金的蹴って逃げ過ごしたんだっけ。公安警察のマサヨシに居場所バレるとまずいから交番は頼れなかったし。

 懐かしいなーと思い耽った。

 

 

「しかし流石です。間違いなく現在の9階層の組織体系では、ツアレの教育は十全に行えなかったでしょう。

 アインズ様の命でメイド見習いの地位を与えることになる以上、我々ではどうしても彼女に早急な習熟を求めがちになってしまいます。

 マタタビ様の指摘が無ければ、間違いなく基礎体力をつけさせる前に歩行訓練をさせていました。そうすればメイド見習いとしての立ち位置は先んじて固められます。が、後々の教育で非効率な遅れをもたらしてしまっていたでしょう」

 

「それこそ仕方ありませんよ。根本的に人材が完成されてたナザリックには教育制度なんてこれまで不要だったんですから」

 

 考えるとすごいよねナザリック。100点満点の人材が元からあって、定年退職も何もなしに人員流動一切なしで半永久的に稼働できるんだから。

 上長としてこれほど楽なことは無いでしょう。

 

「ですが今後はそうはいきません。現状100点が満点であっても、いずれ120点や200点の結果が求められるようになります。それこそ主がコキュートス様がリザードマンへの統治能力を求めらたようにです」

 

 うんうん仕事ってそういうもんよね。逆に時々、機械化とか自動化でやること減って食い扶持減ったりもするわけだけど。

 

「じゃあその辺は勝手に頑張ってくださいな。なんならツアレさんの担当教育もいくらかやってみればいかがですか。

 アルファさんそういうのお得意でしょう?」

 

 得意というかやまいこ辺りの影響で大好物だと思うのだ。アルファさん色々親身に教えてくれるから、私の時もかなり世話になったし。

 むしろ日本語教えるとか小学校卒業してない私ではちょっと苦痛だ。

 

 ところがアルファさんは惜しむように断わりを入れた。

 

「ありがたい申し出ではありますが、時間的猶予がありませんゆえ、謹んで辞退させていただきます

 最近はペストーニャ様と共同で新任メイドのカリキュラム案やマニュアルを纏める作業が忙しいので」

 

「そりゃ残念です。けど万が一ツアレさんがメイド見習いになれたなら、その時は大切にしてやるといいですよ」

 

「無論です。もっともマタタビ様方のように上手くはいかないでしょうが……」

 

 少し困ったようにアルファさんは俯いた。

 

「と、言いますと?」

 

「ツアレの人見知り癖ですよ。お気づきになられてないかもしれないですが、セバス様マタタビ様の御二方とそれ以外の人物への対応はまるで違いますから」

 

「さいですかー。普段からかなり声出しさせてるんですけどね。……ったくあの女」

 

「マタタビ様?」

 

 ……ああいかんいかん、ついぞ力んで無駄な闘気を漏らしてしまった。

 いや別に人見知りするのは仕方が無いのよ? 私もそうだし。

 

「けどさぁ、私とセバスさんを同じくくりにするってどういうこっちゃふざけんじゃねぇ」

 

 彼女と初対面の時も、別に怖がられたりとか一切しなかったはずだ

 人見知るならちゃんと私も人見知れ。さもなきゃ全人類平等に愛しやがれくそったれ。

 

「怒る理由はそっちですか。性根がねじ曲がり過ぎて驚きで口が閉じませんよ」

 

「今度から命令して、人見知り直すまで3食全部メイド食堂で一般メイド達に囲まれながら寂しく一人飯させてやろうかしら」

 

「尚のこと悪化するかと。後生ですからどうか辞めてあげてくださいまし」

 

 

 なんて話しているうちに、目的地である やまいこの部屋の前に辿り着いた。

 

 アルファさんは、扉の前で息をついて、眼を閉じ深呼吸をする。

 それを横目に見た私は、やっぱり気にかかて問質した。 

 

「再三確認しますけど、ホントに平気? あなたがイヤとか言うんなら私は……」

 

少なくとも今は(・・・・・・・)、アインズ様の御心を信じ従います」

 

 そうしてユリさんが先行して、部屋の扉に手をかける。

 彼女のおぼつく心の灯を〈読心感知〉で見守りながら、私も続いて中に入った。

 

 

◆◇◆

 

 戦闘メイドプレアデス副リーダーにして、プレイアデス7姉妹の長女ユリ・アルファ。

 

 ゲヘナ作戦が完了してから数日後のこと。ユリはアインズ様から呼び出しを受け、そこで御方からひとつの要望(・・)了承(・・)した。いや、させられた(・・・・・)

 

 普段であれば絶対支配者たる至高の存在から要望を了承(・・・・・)などというのは、シモベにとって全くあり得ないことだ。

 

 シモベの存在意義は至高の存在の手足となり、身を粉として全霊を捧げること。御方の望みはシモベの如何など問われるまでもなく、世界に達成為されなければならない絶対律なのだから。

 

 だが今回に限っては事情が違った。

 なぜならそれは、至高の存在同士の間における問題。具体的に言えば、アインズ様とユリの創造者たるやまいこ様の話だから。

 

 それなら輪を掛けてユリの了承など挟まるわけが無い筈だったのだが、これまた海の如く深い深い事情があるのだ。

 

 

◇回想

 

 

 執務部屋で、普段より一層の気迫を纏って座していたアインズ様は、正面に立つユリに重々しく命じた。

 それはまさに神託以外の何物でもない、神聖なる儀式である。

 

「ユリ・アルファよ。まずここでの問答は至高の存在とマタタビさんを除き、必ずや不出とすることを誓え。――あるいは

 

 誓えないならそれでも良い。記憶を消して今すぐこれまで通り元の持ち場に戻って務めてもらう」

 

 シモベが主人の命を断ることなどあり得ない。そんなことは主人が一番よく知っている筈なのだ。

 

 それでもなお逃げ道が用意されている。

 ではこれは並大抵の命令ではないのだと、それだけでユリ・アルファは深く深く納得した。

 ならばユリが言うべき答えは、この世でたった一つだけだ。

 

「ハッ! 我が創造主たる やまいこ様の御名に誓って、永久に不出とすることを誓います!」

 

「では以後この誓いが破られた暁には、それを耳にした全ての者を処刑することとする」

 

「!」

 

 主人の言葉を聞いたユリ・アルファには欠片ほどの恐れも無い。だが重なってもたらされた大きな驚愕だけがあった。

 神の絶対の誓いに背いて死するのは当然である。しかし今まで慈悲深いアインズ様が、自らシモベへ死を命じるのはヴィクティム以来かつてないことであった。

 

「全ては御心のままに」

 

 重ねて言う。恐怖は無い。ただ驚愕があるだけだ。

 何故なら やまいこ様の御名でアインズ様に結んだ誓いは、今後絶対に破られることは無いのだから。絶対だ。

 

「では告げる。心せよ

 

 現在、お前の創造者たる やまいこさん とはとある事情(・・・・・)のせいで連絡が取れなくなってしまっている。

 そしてこの事情に関して、全てをユリに詳しく話すことは出来ない。まずここまではいいか」

 

「!……はい!」

 

 ユリの創造者たる至高の存在、やまいこ様との連絡の不通。

 うすらうすら、そういった事情であるのはわかってはいた。ただその事実がアインズ様の口から直接語られることは前代未聞のことである。

 

 なるほど厳戒の理由はそういうことか。もしかしたら迂闊にこの事実を知ったシモベが不用意な妄想と思想に至り、ナザリックに混乱をもたらす可能性もある。

 

 主人はそれを嫌って、もっと言うならナザリックのみなが不要に傷つくことを恐れて、らしからぬ問答をしているのだ。

 

 なんて、なんて、慈悲深いことだろう。

 

 一つの確信への悲しみと、それと共に湧き上がる忠愛の感動を目尻の中で懸命に抑え、ユリはアインズ様の御言葉を待った。

 

「しかし、とある事情で やまいこさん が持つ一つのアイテムがどうしても必要になった。

 

 この超々希少の課金アイテム流れ星の指環(シューティングスター)、これと全く同じものだ」

 

 アインズ様が人差し指にかけた指輪をユリに示して見せた。

 それはシルバーに青い宝石が三ツ星の様に埋め込まれたような、恐ろしく美しい指輪である。

 ユリは思わず息をのんだ。

 

「これはユグドラシルに於いて、最も高価な課金アイテムの一つ。

 超位魔法〈星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)〉を無条件で3回まで発動することができる。

 これを持つ者は、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンにおいても私と やまいこさん のたった二人だけだった。

 

 そして今、ある宿願のために二つの指環が必要なのだが、連絡の取れないやまいこさんには了承をとることが叶わない。

 

 そこでユリ・アルファ、お前には彼女の代理者として、彼女の指環を自室から探し出すことと、私が指輪を使うことの許しをもらいたい」

 

 なんてことだ。

 

 神の代理者……それはたかがユリ・アルファの身の程などではとてもとても、成しえるものでは無い。

 あまりにも不遜で恐れ多いことだ。 

 

「すまない、言い方を変えよう。では仮に(・・)これから私が、マタタビさんを遣わして、やまいこさんの部屋を物色させるとしよう。

 ユリはその時どう動くか。見過ごすか、抵抗するのか」

 

 先も挙げられた一つの名前を、ユリは強く意識した。マタタビ、一時期メイド見習いとして甲斐甲斐しく世話を焼いたことがあった謎の存在。

 だがその本質は、守護者最強のシャルティアと群体としての強さを誇るアウラを同時に相手取って、返り討ちにしてしまうほどの最凶の戦神。

 

 きっとユリ程度の存在など、紙吹雪よりも軽く吹き飛ばされてしまうことだろう。

 

 だがその(・・)質問ならば、ユリが答えることは決まっていた。更にその先はわからないにせよ。

 

「それは……できうる限りの抵抗をさせていただきます。事が終わるその時まで、何があろうとやまいこ様の部屋の前で立ち尽くします」

 

「そうか、ユリの考えはよくわかったとも」

 

 ユリの返答、そこからアインズ様が何を言おうとするのかはわからない。

 強硬するかもしれないし、何もしないのかもしれない。

 

「ではそれならば――」

 

 だがそれがどちらであろうと、ユリはそれを耳にするのが恐ろしかった。

 自分がアインズ様の意向を踏みつぶすのも、アインズ様がユリを踏み越えていくことも。

 

「ですがそれは!」

 

 だからユリ・アルファは、反射的に、思いがけず主人言葉を遮って声を挙げた。

 

「ですがそれは、やまいこ様にまつわる真相か、アインズ様の宿願の如何によるものです。

 それをお聞かせ願えれば、あるいは気が変わるかもしれません」

 

 わかっているのだ。

 

 シモベの存在意義は至高の存在の手足となり、身を粉として全霊を捧げること。御方の望みはシモベの如何など問われるまでもなく、世界に達成為されなければならない絶対律。

 やまいこ様ならともかく、そこにユリ・アルファ個人の意志は一切介在してはならない。

 

 それでもユリ・アルファは欲しかった。自分の中に、アインズ様と同じ目的を見る意思が。

 全てを知ったやまいこ様が心底納得してくれそうで、ユリも心から賛同するようなアインズ様の動機が欲しかった。それ以外はこれっぽっちも聞きたくなかった。

 

 だって恐ろしいではないか。

 

 わざわざ無駄に秘密を誓わせて回りくどく了承を求めてくれる、何よりも慈悲深くて義理堅い我が主人。それが、ユリ・アルファにとって絶対である創造主やまいこ様の御心と擦れ違うなんて、この世の何よりも恐ろしい悪夢である。

 

 そんなユリの嘆願を聞き届けた主人は、少し穏やかなようになって口を開いた。

 

「そうか……では、私の宿願について話そう。こちらならまだ話せるからな」

 

 どこか凄く乗り気でないようだった。

 それでもユリは、アインズ様の慈悲深い真の御心とたっち・みー様とマタタビ様にまつわる驚愕の悲劇を知ることになった。

 

 

 そしてユリ・アルファは思い知ったのだ。

 扇動したデミウルゴスも、それに乗ってしまった自分たちもなんて馬鹿だったろう。

 たかがこんな世界の征服など、御方の真なる御心に比べれば取るに足らぬくだらない話じゃないか、と。

 

 

 

◇回想ここまで

 

 マタタビという人物の出自はユリとしても色々と思うところがある。

 これまでの振る舞いとアインズ様からの扱いに大いに納得できはしたが、それはそれとして割り切れない。

 

 どうしてたっち・みー様という至上の方を親としながら、そこから望まれぬ家出と絶縁へと至るのか理解できない。ナザリックのシモベからすれば、それは自分の心臓を吐き出して投げ捨てるが如き暴挙だ。

 

 至高の存在に娘として心から愛され側にいることを求められる。自信が彼女と同じ立場を得られたらどれだけ幸せなことだろうか。それを切り捨てる彼女には妬み殺してやりたい許されざる仄暗い衝動すら湧く。

 

 しかし世界とは単純なものでは無い。少なくともマタタビという人物の精神世界が複雑怪奇であることは、一時期接したこともありユリも良くわかっている。

 

 自己の劣等性とたっち・みー様の超越性に折り合いがつかなくなり耐えきれずに逃げだしてしまったのだという彼女の事情を知ってしまえば、かの暴挙はユリの理解に納まってしまう。

 

 愛しい存在を傷つけてしまったり迷惑をかけてしまったりしたら、死んで詫びたい気持ちに駆られるのは自然なこと。

 

 死ぬわけにはいかないのなら、せめて玉体の前から姿を消そうとする判断をユリは一方的に咎める気にはなれない。

 旧クラン:ナインズ・オウン・ゴールの顛末においても、大体似たようなことが言えると思う。

 

 まぁなんにせよロクでもない人物なことは確実だ。しかしなればこそ、たっち・みー様の親としての失敗が明らかになってしまうのだから増々わからなくなってくる。

 

 別にそれで失望したりだとか忠誠心が揺らぐなんてことは全くない。ただ神の如く称える至高の御方々の中に、娘に家出されてしまう情けない親の姿があることがとても意外だった。

 

 

 それを鑑みれば猶の事、絶望的な悲劇を前に世界の間と法則の壁をものともせず、望む最良の結果へと手を伸ばそうとするアインズ様の姿がユリには恐ろしくも力強く映るのだが。

 

 

 

 ユリが傍で見守りながら、マタタビは小慣れた諸作でやまいこ様の室内を物色していた。

 それは盗賊特有の迅速さと一般メイド達がよくやる掃除作法を足して2で割るような動作。多分、盗賊職を持っている妹のソリュシャンでも同じようなことが出来るとは思う。

 

 彼女が至高の存在の親族だからか、それともいわゆるプロの御業だからか。創造主の部屋に手をつけているのにユリは意外なくらいにマタタビの行為に不快感や抵抗感を感じなかった。

 

 そうして淡々と棚や机などを漁るマタタビは、捜索開始からものの7分で目的の聖遺物を発見した。

 

「ありましたよ、シューティングスター」

 

 くるっとユリの方へと振り向いて、手の平にのせた三ツ星の指環を見せつけた。

 それは確かにアインズ様がユリに見せたモノとほぼ同じもの。ただし埋め込まれた3つの青い宝石のうち、一つだけが僅かに黒ずんでいる。

 

 アインズ様から聞かされた説明などを鑑みるに、3回までの限定効果が1個だけ消費された状態なのだろうか。

 

「みたいですね。私も一度同じもの略奪したことはあったけど、使いづらくてすぐ売却したから使用済み品を見るのは初めてです」

 

 マタタビは心底感心したという風に指輪を見つめる。

 便利どころでは済まされない超越的な権能を誇る指輪への、使いづらいという妙な評価にユリは首を傾げた。

 

「だって3回しか使えない超希少アイテムなんですよ?

 そりゃいざというときに使えれば便利かもしれないですけど、私ですら戦闘時にこれを使わされる状況に陥った時点でもったいなくて既に逃げてますもん。

 この世界ならともかく、ユグドラシルでは使いづらいにもほどがあります」

 

「そういうものでしょうか?」

 

 ユリの疑念は晴れなかった。

 コレをもったいなくて一回も使わず死蔵するなんて、正直言えば愚の骨頂としか思えない。

 

 たとえば一時的に探知能力を爆上げして不可知の敵へ対処したり、特定属性への完全耐性などを叶えてもらったりなど戦闘時の使い方なんてそれこそ夜空の星の如くありふれているはずだ。

 

 たしかに、無数の星の中から最良の一手を選ばなければいけないことを考えれば、決して安易に使えるものではないのだろうが。

 

「マトモな人は使えませんよこんなの。アルファさんを造った方が凄いのは、その辺の判断力ですからね」

 

 不意打ちのように紡がれた創造主への言及に、ユリの耳房が反射的に左右へ振れた。 

 たっち・みー様の娘として至高の41人を知る生き字引、そんな彼女の実感の伴った称賛が、やまいこ様へと手向けられる。

 

「うんざりするほどセーフティネット張り巡らせて慎重に絶対勝利を目指すのがアインズ様なら、大樹みたいな神経で自分の優れた判断力と勘を信じ豪快に立ち回るのがアルファさんの創造者です

 何方かからは脳筋だなんて揶揄されちゃいますが、臨戦時の思考速度は私が知る限り誰よりもあの方が速い。前衛職はコンマ単位の判断速度が命ですからね。心の底から憧れますよ」

 

「お聞かせくださったことに感謝を。かの御二方の両美点として記憶にとどめておきます」

 

 ユリは頭を下げて謝辞を述べる。

 メイド見習いの時も良く聞いたが、マタタビの至高の存在にまつわる話は徹底して体験と観察に基づいている。彼女の強さの秘訣もきっとその辺りのあるのだろう。

 雲の上の如き尊き存在を生々しく褒めたたえる彼女の語り口が、ユリには新鮮で好ましかった。

 

「そろそろ片付けて戻りましょうか」

「そうですね、では」

 

 ユリはアイテムボックスから、いつもリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを預かっている収納箱を取り出し箱を開けて差し向ける。

 マタタビはそっとその中にシューティングスターを納めて言った。

 

 

「大事にしてアインズ様に届けてください。どこかの金欠サラリーマンは自分の賞与全部突っ込んでまで手に入れた挙句、最後の時まで使い仕舞いだったくらいですから。アレは心底理解に苦しみますが」

 

 それを聞いてユリは、酷い話だなぁと思わず苦笑いを零した。

 

 

 










別作品の奴もそうだけど、作者の頭の中での一般メイドは、キャビンアテンダントとか職業清掃員とか帝国ホテルの従業員とか諸々のサービス業の技能をミックスした化け物です。情●大陸とかプ●フェッショナルとかに2~3回出演できそうな気がする。

ツアレの明日が心配なこの頃

◆補足


「そうか、ユリの考えはよくわかったとも」

 ユリの返答、そこからアインズ様が何を言おうとするのかはわからない。

 強硬するかもしれないし、何もしないのかもしれない。


「ではそれならば――『ユリの納得をもらえる方法を考えるとしよう』」



 どうしても方法が無かったらマタタビにこっそり指輪とらせに行く我儘ムーブです
 ちなみにオリ主の出自バラしたことは本人には言ってません。必要も意味も義理もそこまでないので
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。