◆
幼少の鈴木悟が好きだったもののことを、今のアインズは思い出すことができない。
もっとも今は、思い出したところで味わう舌も、満たされる胃袋も失っているのだから何の意味もないだろう。
あるいはそれが報いだったのかもしれないと、アンデッドとして生まれ変わったアインズは今更ながらに思った。
好物が何だったかは記憶の彼方に掠れて消えていたが、その最後の思い出が辛く苦しい事実に塗りつぶされていることをアインズはしっかり覚えていた。
それは土曜日の午後8時ごろだったと記憶している。
狭いアパートの一室、その一角に設けられた子供用の勉強机。悟少年はいつものように、学校の授業の予習復習に取り組んでいた。ゲームもネットもSNSにも、悟少年は一切興味をひかれなかった。
そうしていたのは特段やりたい遊びが無かったからともいえるし、母の気を引きたいという幼い下心があったためでもあった。テストでいい点をとると、母は自分のことのように嬉しそうに悟のことをほめてくれる。悟もまた母の喜びが自分のことのように嬉しかった。
ご飯はいつも一人で、冷たい液体食糧ばかりであった。
もちろん親が薄情だからというわけでなく、時代柄食糧のバリエーションが無いし一緒に食べる時間が無いほど忙しいからなのだと悟少年は理解していた。悟の母はいつも悟より早く起きていたし、仕事にだって悟が寝てから帰ってくる。朝に優しくなでて起こしてくれるだけでも、悟少年の心は幸福に満たされていた。
その状況を傍から聞けば、健気な子供に見えるかもしれないだろう。
だがアインズは己の過去を蔑如している。誰よりも何よりも、悟少年の愚かさがアインズには親の仇のように憎かった。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
その日は珍しく、母が早めに帰ってきた。玄関からの声に、悟少年は心から喜んで反応した。
描きかけのノートを閉じて一目散にかけていくと、微笑んでビニール袋を手に下げた母がいた。
顔色はとても悪かったが、早めに帰れたことを喜んでいるようだった。
「いい子にしてた?」
「うん」
悟は笑顔で答えた。
「今日はねー、早く帰れたしおいしいの買ってきたよ。今すぐ作るから待っててね」
「やった」
母が料理をしてくれるのは何か月かぶりのことだったはずだ。
重ねて言うが、忙しかったから出来なかっただけで決して愛情が無かったというわけではない。二人がほとんど家に寄り付かず働き通しなのは、悟が小学校に通うための出鱈目な学費を支払うため。悟の将来を想っての為なのだ。
それをよく理解していたからこそ悟は、学校で友達もつくらず遊びにもかまけず、与えられた自由時間を学習の為だけに活用していた。我儘なんて、生まれてこの方唱えた覚えはまるでない。
「お母さんの料理は大好きだよ。すごくうれしい」
それでも母が自らの意思で手料理を振る舞ってくれるのなら、悟はそれを遠慮したくはなかった。出来物よりもずっと格段に美味しいから、というのはもちろんある。けれどそれだけではない。
悟は、自分が出来物の総菜を食べてる時の、母の申し訳なさそうな態度が嫌いだった。逆に自分に料理を振る舞う時の、嬉しそうな母の姿が好きなのだ。
だからこそ、悟にとって母の作る料理は何よりもご馳走であり、楽しみであった。
「悟はとってもいい子ねぇ」
なので悟は、顔色の悪い母へと向けた一抹の不安と遠慮を押し殺した。それがどれほど罪深い強欲なのか、知ろうともせず。
「宿題続けてるね」
言い訳をするように勉強机にかじりついた悟は、結局そのまま寝落ちした。
翌朝目が覚めると、台所には母の亡骸が横たわっていた。
幼少の鈴木悟が好きだったもののことを、今のアインズは思い出すことができない。
罪深く忌まわしい母の味も、死に顔に張り付いた優しい笑みも。
◆◇◆
「アルベド」
アインズに畳みかけるように無茶苦茶な自説を振りかざしたアルベドはしかし、突如糸が切れたように目を開けたまま気絶した。
「アルベド」
呼びかけても返事はない。そのまま彼女は体幹を崩して傾くように後ろへ倒れようとした。
――スーツ姿で台所に倒れる女性の影が、チラリとアインズの脳裏に過る。
もちろんその女性と今のアルベドは似ても似つかない別人だ。
けれど浮かび上がったイメージは、臆病なアインズに最悪の事態を想起させる。
慌てたアインズは、執務机を飛び超えて倒れこむアルベドを抱き留めた。そのままそっと彼女の頭の二本角の間に手を置いた。
そしてマタタビ対策として練習を積み重ねてきた〈
ユグドラシルというゲームの世界では、わずかなログやNPCとの行動記録を修正するためだけの魔法だったが、この世界では文字通り望むがままに記憶をいじることができる魔法になっている。消費MPは馬鹿にならないが、限界突破したMPを有するアインズならば、ある程度の記憶の変容は十分に可能だ。
彼女を悲しませる現実を彼女の中から取り除く。その場しのぎな姑息療法であることは自明である。アルベドの様な知恵者に真実を隠し続けられるわけがない。
それでも今はこの場を凌ぐべきだ。今気絶した彼女を放っておけば、永遠にその意識が失われてしまうような予感がアインズにはあった。
魔法が発動し、やがてアルベドの中の
NPCとして初めて生み出された瞬間。かつてのギルドメンバーたちの話姿を立ち尽くして傍観する日々。ギルドがモモンガだけになり、もたらされた膨大な空白。
最終日に【
『変わらないね、ナザリックもモモンガさんも。捨てられて尚墓守を続ける様は……実に哀れで見るに堪えない』
直後に現れたモモンガに『愛するように』命ぜられた感動の記憶。マタタビの乱入。
異世界への転移から始まった激動の日々。マタタビを手籠めにするための画策。カルネ村。絶対主のアインズ・ウール・ゴウンへの改名。世界征服計画の発起。
マタタビの反乱騒動。罪悪感の芽生え。カッツェ平野のパーミリオン。ゲヘナ計画。マタタビが因するツアーの乱入。たっち・みーの真実が発覚。伴った絶対主の乱心に激怒してしまった己の失態。直後に気付いたニグレドの謀反。絶対主とマタタビの仲立ち。
ルべドの自立起動の発覚。バーでデミウルゴスとコキュートスと共に飲み明かす。絶対主の真の姿に気付いてしまう。
そして最後に、無謀な計画を明かしたアインズへの激怒と、身を焼くような自己嫌悪。身を焦がすようなマタタビへの憧憬。
それら膨大な記憶の中から、色々想うところのあったアインズはたった今の直前のやり取りだけを打ち消した。
「……う、ぅん」
悪夢にまどろむような、不安げなうめき声が聞こえた。
彼女の意識レベルがわずかに回復したような気がしたのでアインズは安堵した。
胸の中から高熱の間欠泉が吹き上がるような、形容しがたい衝激が空洞の肋骨の中を満たすようだった。それはたちまち〈精神沈静化〉によって沈められるが、残り湯の様な感動がアインズの冷えた肝を温めた。
しかし、それも一先ずのことでしかない。
アルベドが知りえてしまった真実は、間違いの無いことなのだから。
アルベドの記憶を垣間見てアインズは理解してしまった。
誰より何よりアインズの幸福を願う彼らからすれば、自分たちのせいでアインズを不幸にしていた現実は、何より許しがたいことなのだ。
辛いなら言って欲しい。嫌なら声に出してほしい。無理だけはしないでほしい。でなければ、己が存在する意味が無いから。
絶対支配者を気取る滑稽なピエロの実態は、心底からアインズに尽くしてくれているNPC達にとって冒涜であり悪夢なのだ。
それがわからなかった、理解しようともしなかったアインズは、救いようがない外道であると言えるだろう。幼かった鈴木悟を一人残した、
「……馬鹿だ、俺は。本当に」
◆
アインズは、未だまどろむアルベドを挟み込むようにして、己の両腕を抱きしめた。
アインズの中の何かの本能的な部分が、全力でアルベドの身体を自分の中に押さえつける。
柔らかい肢体と、鼻腔をくすぐる甘いフェロモンによるものか、もっと別の理由なのか。優しく丁重に扱うべきことはわかっているのに、湧き上がる衝動が抑えられない。
だから当然のようにアルベドは目を覚ました。
前後の記憶を失った彼女からすれば、気付くと突然アインズの腕の中にいるわけで。彼女は動転しながら、麗しい黒髪に包まれた芸術品のように整った面立ちを朱色へと染め上げた。
「あ、アインズ様? これは、私は、い一体何が!?」
「…………」
アルベドからすれば意味不明過ぎるこの状況を、どうするべきかとアインズは悩む。
悩んだが、何よりも最初に彼女の中の致命的な勘違いを正さなければならないと思った。
NPCの存在がアインズを傷つけているという、ありえない勘違いを。
「突然こうなって、混乱しているのはよくわかる。だが今は落ち着いて、私の言葉を聞いてくれ」
「は、はい」
そして、告白しなければいけないのだ。かつて転移直後に6階層でアインズが尋ねたことと同じように。
自分がNPCを、いや、彼らのことをどう思っているのかを。
言わずじまいというのはまったく馬鹿らしいことなのだと、嫌というほどマタタビに思い知らされたから。
「嬉しかったんだ。ギルドメンバーが生み出したお前たちNPCが、私のことを慕ってくれていることが。
お前たちが喜んで仕える姿を見ていると、今までナザリック地下大墳墓を維持し続けてきたことに意味があったんだって、そう思えたから」
運が良かっただけのことだとは、もちろんわかっている。
アインズと言うナザリックに固執した割れ鍋を前に、たまたまシモベたちという都合の良い綴じ蓋が現れてくれたという、それだけのことなのだ。
でも、それなら猶の事、アインズは彼らとの出会いという幸運に感謝せずにはいられない。
「だから私は、お前たちの期待に応えられる主人になってやりたかった。そのために色々やったさ。
柄でもないのに尊大に振る舞ってみたり、馬鹿なのに頭が良い振りをしたり」
アインズはこの世界に来てからの日々を思い出す。
元サラリーマンでしかなかったアインズにとって、支配者の振る舞いなどまるで縁のないものだった。
だからすべて独学だ。自分の中の中二的センスなどからどうにかそれらしいモノを引き出して、鏡の前で何度も何度も練習して、それっぽいと思えたら独りでに喜んで。
「もちろん気苦労はあった。やたら過大に評価されたり、知らない間に世界征服をすることになっていたり。気軽に一人で外を歩くこともままならない。アンデッドのはずなのに、胃がギスギスするようだった。でも、お前たちに期待の眼差しを向けられると、ついつい意地を張りたくなって、癖が抜けなくなってしまって」
「……アインズ様」
「はは。全部知っていたマタタビさんには、何度も何度も馬鹿にされたし止めるように口を挟まれた。
でも出来なかった。だって、私は本当に嬉しいと思っていたからだ。この世界に来なければ絶対に味わえなかった、大切な宝物のような時間なんだ。
だから、そのためなら私は、いや俺は……」
アインズは言葉を切る。
アインズの眼窩の奥の炎が激しく燃え盛ったかのように、熱く痛かった。
「……」
しかしそれも一瞬のことで、すぐに冷めていく。まるで火が消えるかの如く。
アインズはその言葉を言おうか言うまいか迷う。
アインズの心の奥底にずっと敷かれていたある衝動。それを言葉で紡ごうとするほどに、自分が一体どれだけ救いようも無い阿呆だったかがわかってしまったから。
「俺という、弱くて平凡な存在が消えてしまってもいいと、そう思ったんだ」
これは、きっと希死念慮に近いのかもしれない。
アインズは、鈴木悟の忌まわしい記憶の扉に手を掛けて、押し込んで隠していた母親の死に顔を思い出した。
「ナザリック地下大墳墓が絶対支配者という仮面の裏から、幸せそうなお前たちを眺めているだけでもいいと……そんな考えで、これまでずっとお前たちのことを遠ざけていた」
アルベドの言う通り、確かにアインズはギルドメンバー達とのような対等に通じ合う関係を欲していて、シモベたちとの関係性に息苦しさを感じていた。
『皆さんきっと優しくしてくれますよ?』
だがその息苦しさはマタタビの言う通り、その気になればすぐにでも解決できたはずなのだ。
それでも彼女の助言を無視して彼らに心を閉ざし続けたのは、薄っぺらい自己犠牲という名の自己満足に酔いしれていたからだ。
孤独に震え泣き叫ぶ鈴木悟とモモンガの鼓動を踏み躙ることに、無意味な充足感を覚えてしまったから。
それが小卒資格を残して死んだ父と母への、罪滅ぼしのように思えてしまったから。
「だけど、それではダメなんだよな?」
アインズは強張っていた腕の力をゆっくりと緩めて、腕の中に閉じ込めていたアルベドを解放した。
「なのに俺は……ずっと無意味な意地を張って。それがどれだけお前たちを傷つけたことか」
視線を落とし、黄色く輝く縦割れしたアルベドの虹彩をじっと見つめた。赤く潤んだその瞳は、今のアインズをどのように映しているのだろう。わからない。わからなくて、とても怖い。
「ごめんな、アルベド」
◆
どうして自分が謝っているのか、アインズにもよくわからなかった。
自分はNPC達に救われているのだと、ただそれだけを述べればよかったのに。なのにいつの間にか愚痴のような懺悔の様なことになっている。
どうしたものか。どうしようもなかった。
アルベドは呂律の回らぬ幼子のように口元を震わせて、今にも何事かを叫ぼうとしていた。
「……どうした」
やはり 責してくるのだろうかと、アインズは心の中で身構えた。
こんなバカな演技をし続けて何になるのかと、言われてしまうのだろうな、と。しかし、
「無意味などではありません!」
それは悲鳴のような叫びだった。
「どうかお辞め下さい、ご自分を責められるのは」
「何を……」
アインズは困惑する。予想と全く逆の言葉が返されたから。
支配者として猫をかぶり皆の為と独り善がったアインズ・ウール・ゴウンという愚か者。それを彼女はさっきと同じように否定するものと思っていた。
「我々は御身に、アインズ・ウール・ゴウンを名乗られるあなた様の存在に、ずっと救われておりました。
その研ぎ澄まされた支配者としての在り方が、創造主を見失った我々シモベの心を満たしてくださったのです」
けれども今度の彼女は打って変わって、アインズ・ウール・ゴウンを肯定するのだ。
黒い髪を棚引かせて演者のように堂々と、己の仲間達のことを語り始めた。
「デミウルゴスは賢い男です。彼は創造主から見捨てられていたことを心魂で理解して、誰よりも深く絶望しておりました。
そんな彼に、アインズ様は誰よりも多くの仕事を与えてくださりましたよね。スクロールの素材採集、ゲヘナ計画、黙認された世界征服計画の主任など他にも山ほど。
今ではナザリックの全て者が彼の仕事量を羨望しているほどであります。
絶望の淵に手を掛けていた彼にとって、それがどれほどの救いであったことでしょう」
「シャルティアは純粋で愚直な子です。シモベの中では誰よりも強いのに、想定外が起こるとすぐに頭に血を登らせて、失敗を起こしてしまいます。
先日の精神支配の一件だって、元はと言えばシャルティアが漆黒聖典とマタタビに迂闊に手を出したことがきっかけでした。
であるというのにアインズ様はそんな彼女を一切責めず、赦し励ましてくださりました。だから彼女はそんな御身に応えるために、トラウマがあるはずのマタタビ相手に戦闘稽古を頼むほどに成長したのです」
「セバスは甘い男です。創造主に似たのでしょうか。成すべき大儀を持ちながら、ついぞ目先の善行に囚われて優先順位を見誤ってしまいます。
その甘さが招いた王国における失態を、アインズ様は許すだけに飽き足らず、ツアレをメイドとして9階層に属させてくださりました。本質的に『悪』であるナザリックにおいて、異端である彼の『善性』を認めてくださる御身のなんと慈悲深いことでしょう。
今思えば、御身が法国に狙われたカルネ村をお救いになられたのは、横にいたセバスの為なのではないですか?」
「コキュートスは外の仕事を強く羨望しておりました。そんな彼にアインズ様はリザードマン集落への侵攻と統治の任を与えてくださりました。
失敗も多くありましたが、武人気質の彼にとって同様の気質であるリザードマン達の統治任務は最も輝ける場所と言えます。
現在も日進月歩ながら、着々と将としての器を高めているところです」
「ナーベラルは――」
「アウラは――」
「マーレは――」
「ニューロニストは――」
「ピクセルは――」
「エクレアは――」
そのようにしてアルベドは、NPCがいかにアインズに救われてきたのかを、涙ながらに夢中になって語り続けた。
正直聞いてるだけで歯がゆくて、深読みで脚色された認識が非常にもどかしい。
けれど少なからずアインズ本人の思慮を酌んでいるから、否定しようにもしきれない。
聞いていると、まるで自分が上等な存在であるかのように思えてしまって、頭がおかしくなるようだった。
(なんなんだよ、一体……)
混乱と共に、腹が立つ。
否定されたかと思えば絶賛されて、まるで手の平で弄ばれているのかのような気分だ。
しかしアインズ・ウール・ゴウンを絶賛するアルベドの姿からは、嘘偽りを感じ取ることがかなわない。
先ほどアインズ・ウール・ゴウンを否定したのと同じくらい、純真な真心しか感じなかった。
アインズはそんなアルベドの心がわからなかった。ついさっき記憶を弄る直前までは、独りでに胃を痛めていたアインズのことを責め立てていたのに。
二つの姿を見比べたアインズからすれば、酷く矛盾していて理不尽極まりなかった。
(いや、そんなものか。俺だって)
鈴木悟は両親の死を悔いていた。
マタタビ……桜のように早くに自立していれば、過労死などすることはなかっただろう。
けれど父と母が命を賭して小学教育を与えたからこそ、悟はユグドラシル最終日まであの世界で生き抜くことができたのだ。
そうでなければ、今頃自分は考える力も無い部品としてゴミのように使い潰され死んでいただろう。セバスに拾われたあの女のように。
少なくとも、今の自分がここにあるのは父と母のおかげだった。
自分を想って誰かが苦しむのは嫌だ。けれど結局、自分は誰かの苦しみによって救われている。その現実は変えようがない。
アインズ・ウール・ゴウンに救われたというアルベドと、父と母の死を貪った鈴木悟の葛藤は全く同じものなのだ。
◆
アルベドの語りは長々く続いた。
シモベ一人一人とアインズとの関わり合いを事細かに話し続けたのだから当然だ。
むしろよくそこまで舌が回るものだと、呆れを通り越して感心する。たっち・みー に戦隊シリーズの知識を請うた時だって、ここまで長くはならなかった。
ここまでくるとアインズとしても聞き飽きてくるというか、お腹一杯でたくさんである。
さすがにアルベドも察したのか、途中で咳き込んで切り替えた。
「……最後は、私のことを。
私はアインズ様に救われました。
我が創造主タブラ・スマラグディナは、去り際に御身以外の至高の存在がナザリックを捨てたことを明らかにして消えていったのです」
それはアインズが覗いた記憶にも確かにあった。
『変わらないね、ナザリックもモモンガさんも。捨てられて尚墓守を続ける様は……実に哀れで見るに堪えない』
理不尽とは思えなかった。
タブラという常人からすればギルドを一人で維持し続けたアインズなんて気持ち悪く映っても仕方がないのだ。
アインズにとっては溜飲の下がる言葉だが、ナザリックに忠誠を誓う自由意志を持ったNPCにはとてもとても看過できる言葉ではなかっただろう。
「もしそのまま自分が放置されていれば、創造主に見捨てられたシモベとして絶望しながら生きる他がありませんでした。
ですがあの時御身が私に『愛するように』命じてくださったから……必要としてくださったから、世界に絶望することなく生きていけるのです。
そしてそれは、ナザリックに仕える皆も同じことがいえます。アインズ様がアインズ・ウール・ゴウンとして我々のもとに君臨してくださった。だから……」
「つまり、何が言いたい」
「……長々と纏まりのない話で誠に失礼しました。
我々はアインズ様に多くのモノをもらい過ぎました。だから……怖くなったのです。
こんなに沢山頂いているのに、我々はアインズ様に何も尽くせていないのではないかと。
ですが、よかったです。様々なすれ違い等があったにせよ、アインズ様が我々の忠義を心から喜んでくださったのだとわかって、よかったです。本当に、よかったです
生まれてきて、よかったです」
最後にそのように言い切ってから、アルベドは膝を落として崩れ落ちた。
どんな言葉を掛けるべきか、ほんの少しだけ考える。考えるが、それ以上にさっきから頭の中である一言が渦巻いていて、どうしようもなかった。
だからアインズは、脈絡も会話の流れも全部無視して、感情に流されるがまま崩れ落ちたアルベドを抱きしめて耳元に囁いた。
「アルベド、愛してる」