ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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遅れました。ツアー戦前半です。

オバロのガチバトルって、ロジカルがガチガチ過ぎてすごく書きづらいですね。原作者も他の二次作者もの方も凄いや。
こんな需要があるかもわからん捏造戦闘をあと同規模で4回もやらなくちゃいけません。

言うまでもありませんが、当SSのツアーのクラスも能力もすべてテキトーな捏造です。諸々のロジカルもガバガバなので許さないで下さい。0評価ください。




ツアー戦 上

 ユグドラシル最凶格の害悪と呼ばれた少女と、世界の守護を司る最強の竜王の頂上決戦。

 両者が戦闘態勢に入り、響き渡る咆哮と狂笑によりいよいよ戦いの火ぶたが切り落された。

 

 早速に離陸しようとする竜の羽ばたきよりもずっと早く、マタタビのスタートダッシュがツアーの懐へと潜り込む。 

 MPとHPを吸い込んだ妖刃が竜の腹の表皮を一閃。だが浅い。神器級防具と同等レベルの硬度を誇る竜麟は刃の深入りを許さずに、ささやかな擦り傷しか与えない。

 

「硬!」

 

 今の斬撃は、無効化されにくい無属性魔力を帯びた物理攻撃である。

 比較的柔らかい腹の鱗ですらこの防御力とは、正直想像以上だ。

 

 反撃とばかりにツアーは、白金色に光り輝く火炎吐息を周囲一帯へと巻き散らす。

 その吐息の見覚えのある光。ツアーの駆動鎧が放っていたエネルギー体と同質のものだろう。

 

 もちろん今本体から放たれた吐息は速度も威力も鎧が駆使していたものとは段違い。第十位階魔法クラスの攻撃力だ。

 

 そしてツアーが踊るように全身を乱回転させることにより、火炎は風圧を巻き込んで大竜巻へと昇華した。その破壊力は遥か上空の薄雲すら真っ青にかき消していく程だ。

 正に破壊の権化。火炎交じりに出鱈目に振り回される尻尾や竜爪が命中すれば、それだけで紙耐久なマタタビは死に至る。間違いない。

 

「――――!!」

 

 だからマタタビは五感と神経を集中させ、反射神経と意識のリソースを回避行動へと注ぎ込む。

 火炎と暴風の隙間という隙間へ潜り込み、極大の斬撃を放つ竜爪を刀を振るって受け流し、ドラゴンテールを大縄跳びのように飛び越える。そんな紙一重の回避を永遠の様な数十秒の中で繰り返す。

 竜の舞踏。大竜巻の流れに逆らうべからず。さもなくば肉塊になって死ね! 私!

 

 堅くて早くてひたすら強い。ドラゴンという圧倒的な種族ステータスの暴力を前に、マタタビはただ純粋な技量と反射神経だけで食い下がり続ける。

 何をやっているのだろう、こんな酷い綱渡り。時折触れ合うツアーの竜爪からそんな困惑をひしひしと感受する。マタタビ自身も同感だった。

 

「ヒヒッ!!」

 

 釣り上がる己の口角に困惑しながらも、マタタビは闘争の狂気に身を委ねた。この世界にて異形へ転生するより遥か以前から、この感情をよく知っていたからだ。

 圧倒的に不利な戦いへの挑戦。数の暴力や強大な個への単独挑戦、これだからソロプレイは辞められない。

 

 両者が全力運動を繰り返し、先に息が切れたのはツアーの方だった。火炎吐息を放ちながらの無酸素運動は、スタミナに大きな負荷を掛ける。

 コンマ0.1、少しでも酸素を蓄えようと呼吸するツアーをもちろんマタタビは見逃さない。

 

 鱗が硬くて切れないならば鱗の無い場所を攻撃するだけのこと。

 換気口のように大きく吸気するツアーの竜頭へ、マタタビは一目散に跳躍する。右側、深緑の竜眼へ目掛けて神速の突きを放つが、咄嗟に右腕を噛み砕かれて刀と共に喪失する。

 だが構わず、即座に懐から取り出したダガーを反対の眼に投げつけた。

 腕を犠牲に放ったダガーは見事に竜眼を捉えて潰し、彼の視界は鮮血に塗り潰された。

 

 直後、両者に遅れた痛みが襲い来る。

 

「いやぁあっぁぁああづ!!」

「GAAAAAAAAAAOOOOOH!!」

 

 右腕と左目。双方が失った器官の痛みに、マタタビもツアーもたまらず絶叫。

 痛みに喘ぎながらもマタタビは、撫でるようにツアーの鼻先へキックを掠らせる。

 

 この瞬間、マジックアイテムであった神器級パンプスがその吹き飛ばし(ノックバック)効果を発動。ツアーの巨体を後方へと吹き飛ばした。

 

 距離を稼いだ隙に、インベントリに手を伸ばし最上級回復ポーションを取り出して右肩に薬液をぶちまける。

 神の血とも呼ばれる強力な治癒効果が、片袖を失ったむき出しの右腕をそっくりそのまま再生させた。

 

「ハハ、ざま見ろ!」

 

 腕を切らせて目を潰し、そして自分の腕は再生させた。種族的な能力差をわずかだが覆し、相手に一撃入れてやったのだ。

 マタタビは勝ち誇ったようにツアーを嘲るが、首筋には嫌な冷や汗が垂れていた。

 

(……ダメかも)

 

 神器級アーティファクト地味子の眼鏡は、容赦なく圧倒的なツアーとマタタビとの能力差を突きつける。

 

 マタタビの斬撃を弾く強固な竜麟。そんな頑丈な表体から放たれる強烈な肉体攻撃の数々。腕一本と神器級の刀とダガーを使い捨てにして、ようやく片目を潰すのがやっとという立ち回りの隙の無さ。そしてレイドボスクラスの規格外なHP、耐久度ときたものだ。

 

 たった今ツアーの眼球を突き刺したダガーは、ヘルヘイムで採取できる希少な猛毒『サマエルの血』を塗り込んでいた逸品である。耐性による完全無効果は非常に難しく、摂取すればスタン効果と凶悪なスリップ(継続)ダメージ効果をもたらす筈なのだ。

 そんな頼もしいスタン効果はアンデッドか機械人形と見まがうほどの強大な耐性を前にあえなく無効化。スリップダメージも半減された上、そもそも基礎体力が高すぎるから大したダメージソースにならないという異常事態。

 しかもこいつにはまだ始原の魔法(ワイルドマジック)という鬼札すら隠されているというのにさ。

 

 吹き飛ばされた先でツアーはスムーズに立ち上がり、何でもないという風に首を振るって目に刺さったダガーを振り落とした。

 

「ああ効いた、効いたとも。これほどまでに己の命が脅かされる感覚は、それこそ四、五百年ぶりと言っていいね。

 この左目も、治癒の始原の魔法(ワイルドマジック)を駆使しても、猛毒のせいでまたすぐにダメになってしまう。解毒も当分できそうにない。困ったなぁ」

 

「じゃあもう右目も頂いてあげましょうか」

 

「それは困るなぁ。とても困る!」

 

 ツアーは意気揚々と羽ばたかせ、マタタビの刃が届かない遥か上空へと上昇する。

 

 竜のくせ少女相手で安全地帯へ逃げ腰を決めるツアーを忌々し気に睨みつける。だが意識はすぐに彼が立ち去った足元へと向けられた。

 マタタビの能力、敵意を読み取る『読心感知』は上空に陣取ったツアーと少し別の気配をその場所から感じ取ったからだ。

 

「来たれ我が傀儡、『請来』」

 

 現れたのは、上空の竜を模したであろう白金色の全身鎧(フルプレート)。青白い微光を宿す流麗な曲線は優雅な気品に満ちている。

 それは何度も見慣れたツアーの操る駆動鎧だ。マタタビは小さく舌打ちをした。

 

「動きながら使えるのかよ……」

 

 一対の竜と竜騎士、なかなか面倒な光景である。

 事実上2対1。想定はしていたが、やはり気が重い。あるいはもっと数が増える可能性も視野に入れて立ち回りを考える。

 

「スゥー」

 

 ツアーは早速上空から特大の火炎吐息を放つため、周囲一帯の空気を吸収する。

 

「ずるいなぁ」

 

 竜のブレスはMP消費が一切ないので無限撃ち可能、そしてかつ強力な遠距離攻撃である。その基礎威力は最大HP量に依存する。

 例えば万全のツアーなら、第十位階魔法に魔法最強化(マキシマイズマジック)の補正を乗せた程度。そこからHP90%なら九位階、80%なら八位階と言った具合に消耗度に応じて威力が下がるのだ。

 

 なのでブレスを最も効率的に扱うなら、今のツアーの戦術が最適解と言えるだろう。ひたすら頑丈な駆動鎧に前衛を任せ、安全地帯から本体が無限に遠距離攻撃を打ち続ける。こんな最悪チキン戦法をたかが小娘一匹に使うとは大人げ無い。この場合、本体の方が硬くて頑丈だからこそ質が悪いのだ。

 

 戦闘前の、楽し気な意気込みは一体どこに向かっていったのやら。マタタビはわずかに残念に思いながら、しかし己は闘気を絶やさず口角を吊り上げ続けた。

 

「アハハハ!!」

 

 

 猫と竜王。マトモにぶつかり合えば勝機はないというのに、それでも挑戦者たるマタタビの心には欠片ほどの曇りもない。

 マタタビの中の全ての動機(モチベーションが)が、ツアーに立ち向かうことを肯定するからだ。

 

 ツアーを打倒し私の野望(帰宅)の足掛かりを得ること。

 ツアーを服従させてナザリックに益をもたらすこと。

 ツアーと私の戦いをアインズ様に捧げること(能力情報の提供)

 ケット・シー(猫妖精)の肉体からもたらされた野性的な闘争本能。

 そして何より私自身が、この世界で最強と謡われる彼に挑みたい。

 

 自分の心の色んな部分が、まっすぐに目の前の戦いへと向かっていく高揚感は筆舌に尽くしがたい。

 あえて言うならカラダが軽い。ココロが踊って、天にも舞う心地だった。

 

 私にとって『戦い』とは対話を意味する言葉である。

 父と戯れた剣道にしろ、ユグドラシルにおけるPVPにしろ、ギルド拠点攻略にしろ、命を懸けた殺し合いにしろ、そして誇りを懸けた決闘にせよ、それは一切変わらない。

 相手が一体何を考えて、私のことをどう思っていて、何をしようとしているのか。何をされるのが嫌なのか。

 相手の心に寄り添って、心の中で融け合って一心同体のようにその深層心理を読み込んでいく。これが私の戦い方だ。今までもこれからも。

 

 ねぇツアー、一体あなたは今何を考えているのかしら?

 

◆◇◆

 

「ハハハハハハハハ!!」

 

 最早ツアーの左目は闇しか写さない。残された右目だけが、狂った笑い声をあげる少女の姿を捉えている。

 

(何だコイツなんだコイツなんだコイツ!?)

 

 スペックの上では、ツアーの方が圧倒的に上回っている。

 ただでさえ優れたドラゴンとしての身体能力を、始原の魔法(ワイルドマジック)によってさらに強化しているのだから当然だ。高められた防御力は、サクラ渾身の斬撃すらモノともしない。

 たとえ始原の魔法を(・・・・・・)封じられていても(・・・・・・・・)負けるはずが無いと、最初は思っていた。

 

 だが蓋を開ければ、ツアーは今しがた彼女との近接戦で後れを取った。サクラはまるで力など無意味だとでも言うように、ツアーの即死級攻撃全てを軽々と躱し切ってみせ、そしてツアーの左目を刈り取った。

 妖刀とダガーナイフという二振りの極大級の大業物と、己の右腕を平然と使い捨ててソレを成した少女サクラ。その狂気の極みともいえる闘争に、ツアーはただただ戦慄した。

 

 

 竜王としての矜持など知ったことか。ツアーがサクラと近接戦で渡り合うのは、毒蜂にハンマーで殴りかかる無謀に等しい。そうでなくても、何をするのかわからない彼女をツアーの間合いに入れたくない。

 

 だからツアーは前衛を遠隔操作の駆動鎧任せにし、遥か上空からブレスによる遠距離攻撃にだけ努めよう。一切の油断も妥協も、この戦いには許されない。なにせ世界の命運と、ツアーの誇りがかかってるから。

 

 闘気と共に腹いっぱいの大気を呑みこみ、胃の底にある焼却炉に取り込んで極大業火を喉の奥から吐き出した。

 

「GAAAAAAA!!!」

 

「広すぎない!?」

 

 シャワーのように広がりゆく炎の大雨は一面の火の海を作り上げ、間も無くサクラを捉えようと燃え広がった。

 当然サクラは韋駄天の逃げ足で範囲外へ走りこむが、それを駆動鎧が足止めにかかる。

 

 浮遊する無数の剣軍を掃射しながら握った黄金剣で切りかかる駆動鎧。そして天上からは業火の空爆。流石のサクラも同時挟撃には顔を顰める。

 

 しかしサクラはあざやかに身を捩って剣軍を躱し、駆動鎧のプレートに触れて咄嗟に忍術を発動させた。

 

「〈口寄せの術〉スフィンクス」

 

 独特な墨字の召喚陣が鎧の上に広がり、次の瞬間翼を生やした獅子が出現。鷲の翼と蛇頭の尾を持つスフィンクスと呼ばれるソレは、不意打ちざまに駆動鎧をタックルし、差し迫る業火の中へと吹き飛ばした。

 

「飛べ!」

 

 サクラがスフィンクスの尾を鷲掴みにすると同時に、鷲の翼が羽ばたいて火の海の上を飛翔。

 命からからがらスフィンクスの尾に垂れ下がっていたサクラは、すぐに態勢を整えスフィンクスの背の上に飛び乗った。そんな彼女の姿が、ツアーの知るとある旧友のシルエットと重なった。

 

(イジャニーヤを思い出すね)

 

 ツアーの知るかつての仲間の一人にも、サクラの様な忍術を扱う者がいた。

 今しがたサクラが使った〈口寄せの術〉は、厳密には召喚術ではなくビーストテイマーの魔獣使役に近いものだったはずだ。

 位階魔法の召喚術は魔力によって無から魔獣を創り出す能力。一方〈口寄せの術〉は己が契約した特定の魔獣を、その強さに比例した魔力を支払うことで呼び出すことができる術である。

 事前契約が必要な点、そして同一種の魔獣は1日一度しか呼べないという理由で使い勝手が悪いのだと、イジャニーヤは自嘲していたものだった。

 そんな彼の定番戦術と言えば――

 

(……ふむ)

 

 冷や汗と共に感傷を振り切り、ツアーは差し迫るサクラへと意識を戻す。

 

 スフィンクスに乗ってこちらへ飛翔するサクラを打ち落とすため、無数の小さな火炎弾を解き放った。

 炎というより光線に近いか。白金色に輝く流星群が、先の業火よりさらに広範囲で降り注いで大地に光の花畑を炸裂させる。

 

 彼女は空中戦が不得手なのだろう。スフィンクスの背の上で持ち前の機動力を発揮できないサクラは、襲い来る無数の光線に向かって刀を振るい、必死の形相で切り落とし続けている。

 

「『世界移動』」

「ああもうっ!」

 

 そこへ追撃。空間転移でサクラの背面を捕った駆動鎧が、再び剣群掃射と共に切りかかる。

 

 サクラは露骨に苛立ちながら足元のスフィンクスを蹴り上げて、ツアーとサクラとの射線を遮る。降り注ぐ光線の楯となった哀れなスフィンクスの影の中(・・・)でサクラは忍術を発動。

 

「〈影渡り〉」

 

 瞬間サクラは影の中へと溶けて消えて、居なくなった主人の代わりにスフィンクスが光と斬の挟撃を受けた。許容外のダメージによって〈口寄せの術〉が解除されて、スフィンクスも煙となって消失する。

 

 消えたサクラが現れたのは、案の定(・・・)ツアーの翼の影の中(・・・)。突如死角に出現した気配を、竜種の鋭敏な感覚で即座に察知。

 

 彼女の狙いは召喚獣を囮にして、忍術〈影渡り〉による影と影との空間転移で不意打ちに攻め込むこと。

 確かに有効な作戦だ。

 しかしそれはツアーの知るイジャニーヤのパターンと全く同じ手法であり、知ってれば当然通用するわけがない。

 

「甘いよ」

「くそが!」

 

 直ちにツアーは全身を旋回させながら白金の火炎を振りまいた。

 致命だけはギリギリ回避しながらも、空中での回避には限界がある。尻尾の一撃をどうにか刀で受けたサクラは、しかし威力を殺し切れずに大地に向かって突き落される。

 

「きゃうわあああ!!?」

 

 そして地に堕ちるサクラを狙い打つように、下からは駆動鎧が剣群を背負いながら差し迫る。ツアー本体も最大級のブレス攻撃を放つべく、猛烈に息を吸い込んだ。

 

 

 

 ツアーのブレスを防いでも、下からは駆動鎧の剣群。その剣群に対処しようとすれば上からツアーが焼き尽くす。

 空中では防ぎようも無い。これで終わりだ。

 

 

「GAAAAAAA!!!」

 

 灰も残さぬ最大級の白金の炎を眼下のサクラへ最大放出。同時に下からも剣群を全弾射出。

 

(焼死か串刺し、好きな方を選びたまえ)

 

「アハハハハハ!! あ"あ"あ"あ"あららららあああ!!」

 

 必殺の火と剣に飲まれる間際、何故かサクラは体を()の字に曲げて無意味に空中回転を繰り返す。

 

 それがネコひねりと呼ばれる特殊な回転方法であることをツアーは知らない。知っていても困惑するしかないだろうが。そんな思慮を浮かべる間も無く、サクラの敗北が決定する、

ーー筈だった。

 

(な!?)

 

 刹那、ツアーの視界が明転する。遥か下にサクラを待ち構えていたはずの駆動鎧が、ツアーの眼鼻の先へと現れた。

 あるいは逆か。ツアーがサクラの座標と入れ替わって、駆動鎧の目の前に現れたのだ。

 

 

 位置交換の空間転移。それはツアーの知る中で、高位の盾役戦士が味方への攻撃を受けるための技だったはずだ。

 その技を暗殺者であるサクラが? どんな手品だ。

 

(なるほどコイツか! 〈影渡り〉の時につけられたな!)

 

 ツアーの翼の付け根の部分に引っ掛けるようにして、紐付きの木造が括り付けられていたのを確認する。

 それは使い捨ての効力らしく、緑色に淡く光り間もなく空気に溶けて消えていった。

 

 一体どんな手品にせよ、最早ツアーも駆動鎧も攻撃動作は中断できないことは確かだった。

 

(まずい!) 

 

 だから互いに、ツアーの火炎を駆動鎧が、駆動鎧の剣群をツアーの腹が受け止め合う。

 実に間抜けな同士討ち(フレンドリファイア)の火柱が立ち昇った。

 

「……ガハッ!!」

 

 駆動鎧は光に飲まれ、喉から大量の空気を吐き出したツアーの腹部に無数の刃が突き立った。

 思わぬ攻撃にあてられて怯み、ツアーは駆動鎧に覆いかぶさるように大地の上に轟音を立てて墜落する。

 

 もちろん複数浮遊操作の剣群の威力は、ツアーへの有効打にはならない。同じように駆動鎧の魔法耐性はツアー自身のブレス攻撃と相性が良い。

 ツアーは当然、万が一の同士討ちも想定して戦い方を選んでいた。

 

 しかしそれでも、虚を突いたダメージというのは意識と状況判断の能力を著しく阻害する。

 

 だから、平時なら即座に予測できるはずの次の判断を、ツアーは一瞬遅らせてしまった。

 

 

(しまった!)

 

 遅い。即座に気付くべきだった。

 

 ツアーはサクラの座標と入れ替わって、駆動鎧の目の前に現れた。

 

 それならサクラは今どこにいる? 当然、ツアーが元座していた上空だ。

 

 直前サクラは無意味な高速空中回転を繰り返していた。

 

 この世界はマサヨシ達がいた世界と異なり、一切の空気抵抗が存在しない。

 

 もしサクラがツアーのいた遥か上空から、存分に重力加速を享受して自由落下すればどうなるか。

 

 

 浮かび上がる複数の条件。

 その答えを導き出した瞬間に、ツアーはわずかな抵抗として体を右方向へと捩る。

 

 果たしてその判断は正しかった。

 

 次の瞬間、天から雷の如き刃が超速回転と自由落下で威力を増して、ツアーの左翼を切り破ったのだ。

 もし瞬時に体を捩らなければ、サクラの刃はツアーの心臓に届いていただろう。

 

 ツアーの翼に大穴を開け、そのまま大地に転がり受け身を取ったサクラは忌々し気にツアーを睨み、よろけながら立ち上がった。

 

「なんで躱すの! しぶとい!」

 

 今の超速回転は彼女の平衡感覚に大きな反動を与えたようだ。

 しかしそれだけのデメリットを受け入れるだけの価値が、今の一撃にあったのだ。

 

「君が言うんじゃないよ! あだだだだだ翼が!」

 

 翼が焼けるように痛い。穴が開いてただでさえ飛行できなくなるほどの大けがなのに、目潰ししたのと同じ毒を刀に塗り込んでいたようだ。

 これじゃ上手く治癒も出来やしない。

 

「ああもう! なんでツアーってそんなに隙が無いの?

 同格との実戦経験が不足していて立ち回りが下手糞とか、そういうテンプレないのですか?」

 

「お生憎だね。他の竜王ならいざ知らず、私には八欲王との戦線と魔神戦争の経験がある。

 前者は特に、私も何度も死にかけたものだったよ」

 

 

「……そいつぁ互いにツイて無いですねぇ!」

 

 痛みをこらえながらツアーが振るう竜爪を、サクラはよろけながらも飛び越えて回避する。

 宙に浮いたサクラに、ツアーは白金の業火を吹きかけた。

 

「GA!」

 

「〈大瀑布の術〉」

 

 印を結び、サクラが発動させるのは水系の忍術。

 足元から半球状の巨大な水球を呼び寄せて火炎と相殺。水蒸気が巻き上がり、視界が真っ白に染まっていく。

 

(この程度の術に相殺されるとは……)

 

 やはりツアーの体力低下に合わせ、ブレスの威力も下がっている。

 位階魔法で言えば第6位階程度の威力しかないだろう。

 

(……忌々しい)

 

 数百年ぶりの感覚に眉間を寄せながら、ツアーは水蒸気に紛れるサクラの気配を竜としての鋭敏な感覚で追いかける。

 

 駆動鎧が狙いを定めて掃射した数十本の剣群を、霧の中でも相変わらずにサクラは全て紙一重で回避。そのままツアーの懐に潜り込むかと思いきや、突如踵を返してツアーから距離を取り始めた。

 

「ア、アクターさん! どうでしたか!」

 

(〈伝言(メッセージ)〉か)

 

 ツアーは即座に連絡効果の位階魔法を記憶から呼び起こす。

 ツアーが知る限り〈伝言(メッセージ)〉は、受信相手が拒否すれば無効となるはずだ。

 

 互いの誇りをかけたこの戦いに、サクラが無意味な雑談を持ち込むとは考えられない。

 つまり彼女はツアーとの戦闘に意味のある情報をやり取りしているということになる。

 

 その情報を探るべく、ツアーは後退したサクラを追撃せずに様子をうかがった。

 

「無かったですか……わかりました。では、はい。目星はついています」

 

(何だ、何の話だ。何が無かった?)

 

 するとサクラはまっすぐとツアーに視線を向けたまま、〈伝言(メッセージ)〉先の相手に宣言した。

 

「じゃ、勝ちますよ(・・・・・)。ありがとうね」

 

「君は……」

 

 この時ツアーはサクラの漏れ出た言葉から、その魂胆をあっさりと看破するに至った。

 

 なぜ彼女が自分に戦いを挑んだのか。

 何を狙っているのか。どうしてこんなところで戦っているのか。

 その全てが、一本の道筋に繋がった。

 

(なるほど、嵌められた(・・・・・))

 

 全てを理解したツアーは、彼の中でただでさえ高かったサクラへの警戒感を、より上の方へと押し上げる。

 

 するとそんなツアーの内心を察したのか、サクラは舌を出して悪戯気に微笑んだ。

 

「あ、わかっちゃいましたか?」

 

「馬鹿だね君は。〈伝言(メッセージ)〉の会話なんて、黙っていれば言いものを」

 

「……そうね、馬鹿だよ私は。昔から隠し事が苦手なの。だから凄いと思っているんだよ。アインズ様やツアーみたいに、何かを守るために己の心を蓋する奴がさ」

 

「何のことだか」

 

 ツアーがしらを切って、会話はそれきりとなった。

 

 

「〈影渡り〉」

 

 サクラが転移でツアーの腹の影に潜り込むと同時に、ツアーもまた転移で己の巨体を移動させる。

 

「『世界移動』」

  

 移動先は、再び遥か上空だ。今度はさっきのよりも高度で、平和の御旗領域内の天蓋すれすれである。

 

「また性懲りも無く空からブレスの引きうちですか? 飛べないくせに」

 

 サクラに翼を傷つけられたせいで今のツアーは羽ばたけない。それでも片穴空いた両翼を広げれば、かろうじて滑空することは出来る。

 

(やるしかないね)

 

 飛行能力は奪われた。近接戦は五分五分。そして負ければツアーは文字通り全てを失う。

 

 状況を冷静に分析し、ツアーは意を決して己の切り札を切ることにした。

 

 無意味(・・・)だが、この状況を確かに覆しうるツアー最大の切り札だ。

 

 

「『世界核子』」

 

 

 唱えた直後、魂を吸い取られる時特有の脱力感に見舞われる。

 脱力感は次第に熱気へと変わり、ツアーの表皮が眩しく光り輝いた。

 

「何を……いやこれやばっ!!」

 

 空気の揺らぎを、野性的本能が感じたのか。

 しかし既に、ツアーの切り札からサクラが逃れるすべはない。

 何せその効果範囲は平和の御旗の限定領域よりずっと広いのだから。仮に、御旗の領域限定が存在しなければ、この技は都市一つを丸ごと飲み込むことだろう。

 

 察したサクラは発動直前の残り時間に、防御の態勢を整える。

 

「『瞬間換装』メイド服は決戦兵器(メイド・オブ・ヘル・アルマゲドン)! 『瞬間換装』キトンシールド!

 〈要塞創造(クリエイトフォートレス)〉〈要塞創造(クリエイトフォートレス)〉〈要塞創造(クリエイトフォートレス)

 〈不動金剛盾の術〉!〈口寄せの術〉大福招き猫!」

 

 防御力の高い衣装と盾を取り出し、魔法スクロールで3本の巨大な塔城を生み出す。そして忍術で透明な虹色の壁と巨大な金色の招き猫像を立ち並べる。

 

 サクラはさらなる防御を構えようとするも、間もなくツアー最強の『始原の魔法』がその破壊力を遺憾なく発揮し、一瞬で全てを無為とした。

 

 

 起きたのは極大級の爆発だ。

 ツアーを中心として領域全体に満遍なく広がった極光と爆風。轟音と振動で大地を揺らし、その衝撃で木々は根こそぎ吹き飛び、地形すら変えてしまう。

 その威力は100レベル魔法詠唱者がはなつ超位魔法よりもはるかに上。そんな極大の爆撃を受ければ如何なる物体であろうとも原形をとどめることは困難。

 

 当然のようにサクラが展開したすべての防壁はあっさりと吹き飛ばされ、サクラと共にその膨大な輝きに飲み込まれた。

 




「ーー私が世界を守る。そう。私が世界を守るのだ」 ――原作14巻より

◇二つ名:白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)

◇ツァインドルクス=ヴァイシオン[異形種] Tsaindorcus=Vaision



◇役職
・複数あるため、特定はできず

◇住居
・複数あるため、特定はできず

◆趣味
・世界の観察

◇属性アライメント
・善~極善 [カルマ値:+250]

◇種族レベル

幼年(ドラゴリング)10.Lv
若年(ヤング)10.Lv
青年(アダルト)10.Lv
長老(エルダー)5.Lv
古老(エインシャント)7.Lv
長老(オールド)9.Lv

◇職業クラスレベル

・プリミティブキャスター :7LV
・ワールドコネクター:10LV
・オーバードドラゴン:15LV
・ソウル・アドラー:6LV
・ガーディアン:5LV
・アイリンク:4LV
・オンライン:2LV

◇[種族レベル]+[職業レベル]:計100レベル
・種族レベル:51
・職業レベル:49

◇能力表(最大値を100とした場合の割合)
・HP(ヒットポイント):117(限界突破)
・MP(マジックポイント):40
・物理攻撃:100
・物理防御:95
・素早さ:77
・魔法攻撃:120(限界突破)
・魔法防御:79
・総合耐性:81
・特殊:70

・合計値:779


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