ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

78 / 86
先へ進めねぇ!!


エクレアの反逆

 

 玉座の間への侵入から死の8秒間を乗り越えて、目的物であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを手にしたマタタビは、甲高く声を挙げてギルド武器を床へと強く叩きつける。

 

 

「お静まりください!!」

 

 

 そしてカキンッという金属音に呼び止められた、この場にいる全ての者たち。

 NPCの皆様方もツアーもドラゴンゾンビも蒼薔薇も法国のお三方も等しく争いの手を止めて、マタタビ一人へと注目した。

 

 殺意、絶望、困惑、怒り。様々に織り交ざったNPC方からのネガティブな心情をスルーして、マタタビはその辺に落ちて気絶していたイワトビペンギンのエクレアさんを掴み上げる。……しかしメイド達ですら意識を保っていたのに弱すぎないかこのペンギン。

 

「むぎゅ!?」

 

 そしてアインズ様の特等席たる【諸王の玉座】に飛びずさり、玉座上にエクレアさんを放り投げてから、マタタビはひじ掛けの上に座り込む。

 なお座り心地は悪い。

 

 続いてマタタビは指を鳴らし、するとギルド武器を拿捕されて動くに動けないNPC皆様をしり目に、マタタビが口寄せで呼び寄せた評議国、法国、王国のエキストラ皆様も示し合わせて玉座前の階段へと整列した。

 

 ツアーやアンティリーネさんはまだしも他の連中はナザリックの兵力に比して見劣りするのだが、こういうのは雰囲気が大事だ。あのアインズ様だって何よりも雰囲気を大事にしていたから。

 

 ああ、しかし緊張するすごくおなか痛いトイレ行きたい。

 

 全NPCの集結を見るのはカルネ村からの凱旋以来。アインズ様がアインズ様として名前を変えられた時だけだったけど、よくこんな連中に囲まれながらあの小心者がああも堂々と支配者としての振舞いを崩さなかったものである。

 本当に常軌を逸している演技力だ。この世界に来なければ生涯日の目を見ることのなかった、異能とも言うべき資質だろう。

 

 マタタビは、この世界に来てからいつも遠目で眺めていたアインズ様の姿を思い起こし、武術の理をトレースするのと同じ意識で自分の意識に彼を重ねる。

 彼の足元にも及ばない猿真似だけど、それでもマタタビは分厚く温かいモノに覆われたように心強くなる。

 

 そして、声を挙げた。

 

「まずは、偉大なる玉座の間に騒音をもたらしたことをお詫び申し上げます。壁面などの破壊行為と、それからセバスさん、オーレオールさんとその配下2名、ペストーニャさんにも怪我を負わせてしまいました」

 

 多少の悪びれを込めた声でマタタビは陳謝した。もっともこれはあくまで建前上の謝辞であり、ようはマタタビがナザリックに対する純粋な敵対者ではないことを示すためのものに過ぎない。

 

 ケガを負わせたといっても精々顎狙いで脳震盪させたり四肢を切り取って無力化させた程度のものだ。能力の性質上この場から追放したヴィクティムにしたって、時間停止で固めてるだけで一切の危害は加えていない。

 マタタビがその気になればこの程度の被害では済まないことを、特に守護者の皆様方はご存じのはずである。

 

 マタタビとしても無暗に暴れまわって対話の余地を無くすのは望むところではなく、まずは皆様にそれを理解してもらわねばならなかった。

 そして周囲からあからさまな抗議の表れがないことを確認し、マタタビは深く安堵する。

 マタタビは続けた。

 

「こちらの要件を済ませる前に、シャルティアさん」

「何よ」

「怪我を負わせてしまった5名を治療してあげてください」

「……わかったわ」

 

 廓言葉が一切ないシリアスモードのシャルティアさん。

 マタタビを射殺さんばかりに鋭く睨みつけているものの、不肖不肖ながら要求を受け入れて手早く5名の傷を癒してみせた。

 

「…………さっさと話しを進めなさいよ」

 

 伸びた八重歯を唇に突き立て、血涙を流すように噛み締めるシャルティアさん。

 その暗い心情は察するに余りある。愚かな彼女はマタタビ一人を心底憎めば済むものを、それ以上に2度も同じ敵に出し抜かれてしまった自分自身を許せないでいるようだ。

 彼女のそういうストイックなところが、マタタビはあまり嫌いではない。

 

「もちろん、ありがとうございますシャルティアさん」

 

 負けた結果は結果だ。とはいえそれは、NPCの皆様方がマタタビ如きに劣るというワケででは決して無くて。

 あえて言うなら、彼ら彼女らが本当の意味で出し抜かれたのは、整列する現地世界住人の方々でもマタタビでも無くて、玉座の上で気絶しているイワトビペンギンさんなんだけども。

 

 マタタビが本題を切り出そうとした直後、タイミング悪く気を失っていた彼が目を覚ましてしまったのだ。

 

 

 

 

「ほぇ!? これはゆめですかっ! なにゆえ私が玉座の上に!? しかも一同が会するこの場において!」

 

 寝ぼけて手足をばたつかせているエクレアさんを宥めるように、マタタビはその愛くるしいペンギンの頭をなでた。……少々シズ・デルタさんの視線が怖い。

 

 

「夢は夢でも正夢ですよエクレアさん。こうして私がギルド武器を確保できたのは、エクレアさんがここで掃除大会を開いて、皆様の緊張を緩めてくださったおかげなのですから」

 

「クエェーーッ!?」

 

 マタタビが片手に持ったギルド武器を見せてやると、エクレアさんはペンギン声を出しての大驚愕。ガチで驚くとそうなるのねあなた。

 

 

 そしてようやくNPCの皆様方は彼の行動の意図を理解して、裏切り者へ向ける最上級の侮蔑と憎悪を煮え立てる。

 エクレアさんたまらずこれには鳥肌を立てます、鳥だけど。

 

「ひっ!?」

 

 彼らの怒りはごもっとも。とはいえ――

 

「騙されるほうが悪い。そのくらいのことは皆様だってわかっているでしょうけれど」

 

 そのようにマタタビが口にして窘めるまでもなく、NPC皆様方の感情は反省色に染まっていた。

 

 マタタビが彼らの立場でも、やはり怒りより先に自己嫌悪が来るだろう。

 なにせ普段からナザリックの簒奪を企て、それを公言していた雑魚ペンギンの口車にホイホイ乗っかり間抜けを踏むなど、死にたくなるに決まってる。

 

 それにエクレアさんの「ナザリックの簒奪を企てている」という設定は あんころもっちもち が与えたものであり、創造主を重んじるという価値観(・・・・・・・・・・・・・・)に則れば、彼の個性が責められる謂れはないのだから。

 

 しかしこの場においてたった一人だけ、その設定に真っ向から否定をぶつける者が居る。

 おかしいな話だが、それはエクレアさん本人(・・・・・・・・)なのである。

 

 レベル1バードマン世界最弱のエクレア・エクレール・エイクレアーが、曲がりなりにもナザリックを制圧した主犯格にして共犯者であるマタタビを責め立てるのである。

 

 

「なんてことをしてくれたんですかマタタビ君!! 折角!! ナザリックが総力を挙げて玉座の間を大掃除していたというのに!! 君は偉大なるナザリックに大穴を開け! 埃を飛ばし! 皆の努力を逆手にとって悪用しこのような大逆を働くとは!! ナザリック地下大墳墓:執事助手がエクレア・エクレール・エイクレア、断じて貴女を許しません!!」

 

 

 魚臭い唾液を飛ばし、エクレアさんはマタタビに激怒する。

 このとき、エクレアさんのつぶらな瞳は明らかに狂気色に染まっていた。いつぞやのアルベドさんと同じくらい、正気とはかけ離れていた。

 

 

「何を言ってるのですかエクレアさん。私があなたに掃除大会のことをお願いしたのは、他ならぬナザリック簒奪の野望を叶えるためだと、そうお伝えしたではありませんか。私はあなたに一言一句、嘘を申し上げたつもりはありませんがね?」

 

 マタタビとエクレアの問答に、静まっていた玉座の間が僅かに揺らぐ。

 参列している現地勢皆様は「いったい何の茶番を見せられてるんだ」という困惑模様。

 対照的にNPCの皆様からは、信じられない者を見るような、大きな動揺が広がり始めている。

 

 今エクレアさんの中で起きているのはとても小さな、しかし何よりも重要な奇跡なのである。

 

「エクレアさんは あんころもっちもち様からナザリック簒奪という、何よりも尊い使命を授かったではありませんか。私は、マタタビは、誰一人成し得なかったその無謀な野望を、こうして実現してみせたのですよ?」

 

 マタタビは腕をかざして、エクレアさんの視線を玉座の間全体へと向けさせる。

 手前に並んでいるのはこの世界の周辺国家である、スレイン法国、アークランド評議国、リ・エスティーゼ王国がそれぞれ誇る最高戦力。

 

 そんな彼らとマタタビの策略により、今こうして無力に立ち尽くすことしかできないでいる、NPCの皆様方。反対の手にかざすのは、勝利の証であるギルド武器。

 

「力を蓄え、情報を集め、手駒を呼び寄せ、戦略を練り、機会を伺い、不和を起こして、不意を衝いて。そして最後には他ならぬエクレアさんのお力添えをいただいて、こうしてあなたを玉座に据えることができたのです。であるにもかかわらず、一体何が不満だというのですか?」

 

 心の底からマタタビは、彼の答えが聞きたかった。

 きっとエクレアさんの言葉は期待通りに、マタタビが心底望むものに違いないであろうから。

 

 

「違うのです!! こんなの絶対違うのです!! きっと! たぶん! あんころもっちもち様はこんな形でのナザリック簒奪を望んでなんかいないのです! もっとこう! なんかこう! 掃除によって! ナザリックをピッカピカにしてみんなの尊敬を集めることで? 認められて! ほめそやされて! ちやほやされて!! そんな感じできっと! なんかこうナザリックの頂点へと昇り詰めるのです! それこそが我が創造主が望んだことなのですきっと! たぶん絶対!」

 

 

 血走った目。うわずったくちばしから零れ出たのは、まるで論理性のかけらもない、子供の妄言よりも遥かに劣るうわ言だった。

 

「なにを言ってるんですか」

 

「ぎゅむぅ!!?」

 

 これ以上唾を飛ばされるのが不快なので、マタタビはエクレアさんのくちばしをつまんで閉じて、そして腕を回して抱きしめる。

 なんて愛らしい奴だろう、シズ・デルタさんが可愛がるわけである。

 

 

「気づいてないなら教えてあげましょうエクレアさん。あなたはね、本当はナザリックの簒奪なんてやりたくないんですよ。だから「掃除こそがナザリック支配に連なる近道である」なんて屁理屈で自分を騙していたの。つまりあなたは創造主である あんころもっちもち様の命令を、絶対に叶わない手段を選ぶ(・・・・・・・・・・・・)ことで拒否してたってこと。アインズ様の宝物である、このナザリック地下大墳墓を守るためにね」

 

 エクレアさんは あんころもっちもち の指示を拒否している、口だけの反逆者だ。

 

 もっともこんな事実、マタタビだってかなり前からわかっていた。

 だってもし「ナザリックの簒奪」を本気で遂行しようとするなら、大声で周囲に喧伝すること自体が大間違い。

 本気でやるなら、いつぞやのアルベドさんや今のマタタビのように表には出さず、いざという時を待ち続けるものである。それはレベル100でもレベル1でも変わらない話だ。

 

 

「何をどう考えても、エクレアさんの言動からは野望を達成しようという気概がまるで感じられませんよね」

 

「嘘だ嘘だ違う違う違う!!」

 

「ちなみにどうやらアルベドさんも、最初っからそのことをわかってたみたいですよ? だからあの人は私をあなたに任せたの」

 

「なんですと!!」

 

 

 この世界への転移当初、アルベドさんが正体不明の不穏分子であるマタタビをエクレアさんの下に付けたのは、実は深い考えがあってのことだった。

 

 もし仮に(というか実際そうだったが)、マタタビがナザリックに仇成す存在だったとしたら、同じ魂胆であるらしいエクレアさんに共謀を持ち掛けるのは必然的行動と言える(実際そうした)。

 

 ところがいざマタタビ側から現実的な反逆計画を持ち掛ければ、反逆者(笑)でしかないエクレアさんは今のように拒絶して、結果マタタビの反逆の尻尾が出てしまうという訳である。

 

 不穏分子は手元で管理するほうが安全とはよく言ったもの。

 流石アルベドさん、略してさすアルと言ったところだろう。 

 

 

「私を放せ! 掃除もろくにできぬ薄汚い反逆者め! 放せ放せ放せ!!」

 

「いいですよもう。本当によくわかりましたから」

 

「ぎゃっ!? ぐぇ……すぴー  」

 

 これ以上彼を虐めると自我崩壊を起こしかねない。アインズ様みたいに〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉を使えれば融通が効くけどそれもないし。

 マタタビはパクパク煩わしいくちばしに睡眠薬を放り込み、エクレアさんを黙らせる。

 

「丁重にお返しします」

 

 それから影分身を作ってエクレアを持っていかせて、両手を伸ばすシズ・デルタさんは無自覚に彼を絞め殺すのでシカトして、創造主が同じであるペストーニャさんに差し出した。

 

「エクレアさんを責めないでくださいね? 私が一方的に利用しただけです」

 

「そんなことわかっています!! ……わん」

 

 ペストーニャさんはひったくるようにエクレアさんを抱え込み、そして大事な弟のように優しく強く抱きしめる。

 

 そんなメイド長の様子を、普段はエクレアを小ばかにする一般メイド達も思うところがあるように、じっとりとした眼差しで見守るのでした。

 

 

 

 

 エクレアさんが離れた玉座に、今度はマタタビが座り込む。

 少女用に造られてないので座高が合わず両足が浮き、大変座り心地が宜しくない。

 マタタビが座っていい場所でないことくらい嫌というほどわかっているが、だからこそ見せつけてやらねばならないのだ……のだ。

 

「仮にも私に勝った君が無様なところを見せないでくれ。ほらこれで足が届くだろう」

 

「……ごめんツアー」

 

 ツアーがどこからともなく取り出してくれたのは白金色の台座。多分始原の魔法(ワイルドマジック)由来のマジックアイテムだ。秘めたる魔法効果はわからないけど、とにかく台座のおかげで足が届いてありがたい。

 

「本当ダメだな私ってば」

 

 まったくもう、アインズ様みたく意地を張って見せようにもコレだからマタタビは締まらない。

 

 エクレアさん虐めてあんなに調子乗った小娘が、大事なところで怖気ずいて強張って、いったい何様のつもりだろう?

 

 本題もいい加減切り出さないと、時間だって無限じゃないのだ。

 

 

 

「さて余談を挟んでしまいましたが、実は全く無関係とも言えないのですよ」

 

 

 さっきは あんころもっちもち を拒絶したエクレアさんのお話。

 続いては、更に皆様にショッキングな最悪の話題。

 

 

「実はですね、実は……」

 

 

 

 喉元が強張り、舌が固まって動かない。

 

 だって今私は、アインズ様がこれまで積み重ねてきた偉大で美しい道筋を、肥溜めに叩き落とすような暴挙に及ぼうとしているから。

 

 ずっと、どれだけの迷惑をかけようが、この一線だけは超えないように線引きしていたのだ。

 

「実はですね、」

 

 

 それでも結局私は自制が利かない。

 身勝手に、自分で決めたルールでさえも突き破る。

 

 救いようのないロクデナシにも、救えるものがあるのなら、クズでよかった、かもしれない。

 

 

 

「デミウルゴスさんは気が付いていると思いますが、レメトトンのゴーレムが制御不能で外に出れないというのは、アインズ様の真っ赤なウソです」

 

 

 言った。

 

 「実際は、とある至高の御方がナザリックに反旗を翻したため、その脅威からNPCの皆様を守るために隔離していたというわけです」

 

 

 言ってしまった。

 もう本当に、後戻りすることはできないのだ。

 

 

 

 

「嘘だ! 嘘をつくな!!」

 

 誰だろう。誰かが叫んだ。

 男だろうか女だろうか。人型なのか異形なのか、一人なのか複数人か、半ば朦朧としているマタタビにはまるで判別つかない。

 

「嘘、嘘ね」

 

 そりゃ部外者で侵入者なマタタビがそんな戯言を叫んだところで、誰も信じはしないかね。アインズ様じゃあるまいし

 

 マタタビは、嘘をつく才能が欠片も無いのに。

 

「全部嘘だったらば……よかったのにね」

 

 

 無造作に、インベントリに手を伸ばし、取り出したのは一本のフラスコ。

 

 遠目に見ていたソリュシャン・イプシロンさんが叫び、一部一般メイドも反応する。

 

「それはヘロヘロ様の!?」

 

 

「……本気だねマタタビ」

 

 

 どす黒いその液体は、横のツアーにも馴染み深い最強酸『黒凝塊の酸(アシッド・オブ・ブラック・プディング)』。

 

 ブラックマーチことヘロヘロが誇る古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の武器破壊アイテムだ。

 

 マタタビはフラスコのキャップをキュポンと搾り取って、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンへと振りかけた。

 

 じゅうと焼け付く音に、白い煙が立ち上る。

 

 黄金に輝くスタッフは穢れた橙色に錆びついて、その耐久値を大幅に減少させた。

 

「やめろぉおおおおおおおお!!!」

 

 当然のように誰かが叫んで、そして今度は別のだれかが叫んだ誰かを取り押さえようとする。これ以上、不用意な言動でにマタタビを刺激するのはまずいと判断したのだろう。

 

 しかしギルド崩壊の寸前を目の当たりにして落ち着いていられるほど、彼らの人生経験は豊かではない。続くように誰かが騒ぎ、誰かが抑え、バケツの水面が揺れ動くようにまるで納まりが利かない。

 

「お静まりください!!」

 

 だからマタタビは、壊れかけのギルド武器をコツンと床に突きつけて、腹の底から叫ぶのだ。

 

 

「嘘じゃないから、聞いてください」

 

 

 信じてくれたかはわからない。それでもようやく一帯は静まりかえった。

 

 こんなことを打ち明けるのに比べたら、命がけでツアーやNPC達と刃を交えた時のほうがずっとずっと楽だった。

 アインズ様はこんな気持ちと、ずっと向き合い続けたのだろう。

 同じ調子でマタタビがやったら三日で胃がつぶれて死んでしまう。

 

 何度も何度も彼の偉大さを繰り返すように咀嚼して、それからマタタビは情けないため息をついた。

 本当に自分が情けなかった。

 

「本当に、本当です。至高の四十一人のとある誰かが、アインズ様とナザリックに反旗を翻したんです。今はすこし落ち着いてあのひとも休憩してるけど、アインズ様を狙う脅威は今も健在です。だから……だから」

 

「もう結構マタタビ君。否、マタタビ様。貴女様の言いたいことはよくわかりました」

 

「……デミウルゴスさん」

 

 マタタビの言葉をさえぎって手を挙げたのは、つんつん頭のデミウルゴスさんだった。それと、様呼びはうざいからやめて欲しい。

 

「あなた様は間違いなくナザリック地下大墳墓の敵対者です。しかし同時に、誰よりもアインズ様の味方なのでしょう」

 

「いや……あのね」

 

「貴女様がギルド武器を奪い取り、あまつさえこのように破壊をちらつかせてきたのは、ひとえにアインズ様を守るため。

 至高の御方同士の戦いにおいて、足元をすくませ参加することのできない我々シモベを脅迫し、アインズ様の味方として従わせるためなのでしょう」

 

「ちょっと……ねぇ」

 

「常々不用心で身勝手な輩だと偏見の目で見ていましたが、アインズ様一人を想う者としてマタタビ様の御心の深さに、このデミウルゴス感服しました」

 

「ちょっと……かなりちがうよ?」

 

「どうかマタタビ様、その痛ましい御心に更に鞭打つようで心苦しくありますが。どうかその反逆者たる至高の御方の、御名前を仰ってください。

 さすれば今すぐ、この場にいるその被造物を抹殺したうえで、アインズ様の前にはせ参じてみせましょう。ですから――」

 

「だからちがうって」

 

「ちが……!? 失礼早計でした」

 

「……うん」

 

 この人の早とちり癖まだ治ってないみたいだね。

 もっとも、こうして面と向かってすぐ否定すればなんてことないんだから、困らされているアインズ様も自業自得だ。

 

「ぶふっ!」

 

 ちょっと感慨深く思っていると、どこからか吹き出すような声が聞こえる。音源を見ると案の定白髪タキシードのエロジジイだ。

 

「……セバスさん空気読んでよ」

 

 

 

「ていや!!」

 

 マタタビが軽くたしなめると同時に、セバス・チャンの背後から誰かの木刀が振りかぶられて後頭部を強く叩かれる。とはいえ木刀、しかも殴ったやつが殴ったやつだから、かえって木刀のほうが折れてしまった。

 

 

「今のはセバス様が悪いです」

 

 反抗に及んだのはメイド見習いのツアレさん。

 彼女の渾身の一撃は物理的なダメージこそないものの、しかとセバスさんの心に響いたようである。

 

「……大変失礼しました、デミウルゴス様」

 

「ああうん、その……いいよ。そちらの御夫人も随分たくましくなったね」

 

「ええ……まぁ」

 

 まさかセバスさんに切り込むなんて、ツアレさんもいつぞや王国でボロ雑巾にされてたころから随分たくましくなったものだ。いったい誰の仕業だろう。

 

「……なんて言ってる間に随分しらけちゃったけど」

 

 ああくそ、進行がグダグダ。時間が無いのに、やっぱりマタタビはアインズ様のようにはうまくいかない。

 

 それでも言わなきゃ前に進まない。だからマタタビは言葉を紡ぐ。

 

 

「聞いてください」

 

 

 アインズ様を取り囲む、まるで誰かの悪意を感じさせるほど絡まった、勘違いと行き違い。

 それを一歩一歩と、拙い手でもほどいて進む。そうしなければ進めない。

 

 

 

「私の目的は、このギルド武器を破壊することです。

 ギルド武器を破壊することで、皆様の中の創造主への忠誠心を消し去って、アインズ様だけの味方になっていただきたいのですよ」

 

 

 

 

 

◆◇◆

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。