ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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あと数話でようやく終わる……ただただ申し訳ない


ラストダンジョン②

 この世界の始原の魔法(ワイルドマジック)とユグドラシルの位階魔法は水と油であるという。

 

 元はゲームの産物をこの世界御物理法則に取り込んだ弊害なのか、片方の魔法を扱う者はもう片方を利用することができなくなるらしい。

 

 ユグドラシル基準でもすさまじいペナルティだが、意外と腑に落ちる部分もある。

 ワールドディザスターのMP消費量増加、ワールドガーディアンのアレ然りワールドの名を冠する職業にはそれだけの制限がつきものだ。

 

 MP及び魔力行使の完全不能、これこそが特殊職業ワールドコネクターのクラスペナルティであると考えるならさもありなん。実にユグドラシルらしい考え方だ。

 

 

 この仕組みのせいで習得難易度の高い始原の魔法が衰退し、ドラゴンたちの中でも数多くの秘術を失伝させてしまっていると嘆くのがツアー。時代の流れで跡継ぎを失った専門職の悲哀を感じないことも無い。

 

 もし状況と材料が成立すれば、学者気質のアインズ様ならば資源の魔法の能力システムを細部に至るまで徹底検証・研究するだろう。

 あの人なら自分でドラゴンを繁殖させて、思考錯誤しながら竜王まで育て上げるとかやりかねない。

 

 どういう仕組みなのか、経験値だか魂とやらの理屈はまるでマタタビには理解できないし興味もない。

 

 ただマタタビが考えるのは扱う道具の利用価値のみ。

 何ができてどのように利用、悪用できるかという一点だけである。

 

 マタタビ自身も道具であるなら、同様に。

 

 

 マタタビとルベド、二人の少女の空間だけを(・・・)圧倒的な白い光が塗りつぶす。

 閃光弾の何十倍も強烈な音と衝撃が飽和した。

 

 【極小・世界核子】

 ツアー謹製の駆動鎧、その残骸であるガンドレッドを起点に発動出させた、超巨大爆発【世界核子】の超縮小版である。

 

 発動コストの経験値が大幅に減る代わりに、規模も威力も大幅に減少。さらに

 

『世界の守りが発動されました』

 

 ユグドラシルのシステム判定に引っかかる始原の魔法(ワイルドマジック)は世界級アイテム保持者に効果がない。

 

 だから【熱素石(カロリックストーン)】が組み込まれたルベド、【真なる無(ギンヌンガガプ)】を保有しているマタタビの二人にとって、攻撃としては無意味である(・・・・・・・・・・・・)

 

 つまりそれは攻撃以上の意味があるということ。

 

 予想外と不覚的要素が連続すれば勝率予測は大きく陰る。

 

 ギルド武器破壊によるNPCの精神不調と、対アインズ様におけるマタタビとの目的一致という二つの予測を外されたルベドなら、もちろん転移で逃げる判断を選ぶだろう。

 

 どんな強者にも負け戦は存在し、本当に強い奴とは戦場を選ぶ知恵のある奴だ。

 そして転移や逃げ足を持つ奴を逃がさず確実に倒すことは、PVPにおいて最大のハードルと言って良い。

 

 準備が入念になるほどに警戒されて、勝負を仕掛ける前に逃げられやすいという決定的なジレンマがあるからだ。

 

 そんなの馬鹿でもわかる理屈であり、ルベドさんが逃げの一択を選び続けるのも当たり前だ。

 

『〈上位転移(グレーターテレポーテーション)〉……!?』

 

「使えないでしょ?」

 

『……っ!!』

 

 転移阻害とも全く違う、そもそもMPが練れない感覚に大きく狼狽えるルベドさん。

 無理もない。ただでさえ階層守護者とマタタビに囲まれたのに、魔法行使が一切できなくなって慌てないわけがないのだ。

 

 

 ルベドさんは知る由も無いが、これこそが【世界核子】の副作用にして真骨頂。

 そもそもこの魔法の原理は削り取ったツアーの魂をエネルギーとしてぶつける、という意外と単純な仕組みである。

 

 重要なのは拡散したツアーの魂の破片。

 これを体に浴びて吸収した存在は、約3分間だけツアーと同じく職業:ワールド・コネクターの重大なクラスペナルティを課せられることになる。

 

 それこそがMPと魔法行使の使用禁止。

 あくまでこの効力はツアーの魂を摂取したことによる副次的な作用であって、始原の魔法(ワイルドマジック)そのものによる効力ではない。 だから世界級アイテムで防ぐことは不可能なのである。

 

 

「デメリットをメリットに転嫁する点が非常に嬉しいところですよ」

 

『……お褒めにあずかり、あまつさえ非常に体よく使い潰され、かつてない光栄の至りだよ』

 

 マタタビの呟きに苦々しく答えるツアーのガンドレッド。負け犬の皮肉などまったく知ったことではない。

 

 

『予定変更……徹底抗戦!』

 

「おっと」

 

 流石はAI、即座に切り替え攻撃展開に切り替えるルベドさん。

 

 MPと魔法が使えなくてもルベドはルベド。【熱素石(カロリックストーン)】によるエネルギー供給とハイレベルすぎるフィジカルは健在なのだ。

 

 守護者たちに囲まれるルベドは、けれどマタタビ一人に矛先を向ける

 

『排除』

「そりゃそうだ」

 

 マタタビは魔法禁止を引き起こしたであろう原因であり、突けば簡単に即死するペラペラ紙耐久。

 さらにマタタビはルベドを敗北に至らしめるスキルを明確に一手(・・・)握っている。

 

 だから、そう。当然そうなる。まずはマタタビを殺す。

 多くの者が同じように判断し、AIもまた同じ判断を選んでいる。

 

「じゃああなたはどうですか? ルベドさん(・・・・・)

 

「…………」

 

 死んだ表情筋からは全く顔色を伺えない。けれどマタタビは何となく、ルベドに対して先日の自分と同じ(・・・・・・・・)苦悩を投影する。

 

 彼女もきっと、早く終わらせたいのだろう。終わらせてほしいのだろう。

 かつて洗脳状態でアインズ様と相対した時のマタタビは、少なくともそう思っていた。

 

 

 

「『瞬間換装』妖刀:雷獣」

 

『掃討』

 

 空間を抉るようにルベドが大槍をぶん回すが、マタタビは即座に身を屈めたので髪先だけが弾き飛ばされる。

 そのまま間合いに潜り込み、雷を纏った刃でマタタビが一閃。

 

「硬ったいなぁもう」

 

 

 とはいえルベドは余りにも固すぎる。装甲の上っ面だけを引っ掻くだけでダメージは無い。

 

『迎撃』

 

 びくともしない体幹まかせに、カウンターの拳骨がマタタビの顔面に向けられる。

「痺れとけ」

 だがその拳が届く前に、ルベドにつけた浅い切り傷が電撃を放った。

 

 

 

 神器アイテム妖刀:雷獣はスタン効果に特化した武器。近接ダメージを大幅に下げる代わりに、斬り付けることで2秒の麻痺を付与できる。レイドボスクラスの状態異常耐性すら貫通できるが、リキャストタイムが10秒あるので嵌めコンボはできないし、普通は斬撃ダメージを与えたほうがずっと効果的。

 

 ただしマタタビが一人でなければ話は変わる。

 

「不浄衝撃盾!」

「風斬」

 

 戦闘での2秒はデカい。

 すかさずシャルティアさんが衝撃波でルベドを吹き飛ばし、バッターよろしくコキュートスさんの全力フルスイングがクリーンヒット。

 

 攻撃力特化コキュートスさんによる研ぎ澄まされた真空の斬撃がルベドの小さな背中に落とされて、両断とはいかぬものの痛々しい傷跡が装甲に刻まれた。 

 

 そしてここからルベドが反撃する時間は全く残されていない。

 

「〈絡みつく呪蔦(トワイライト・プラント)〉」

「『生命食いの受贈』」

 

 ルベドが態勢を立て直す前に、マーレさんの操る植物が身動きを封じ、デミウルゴスさんからアクマ(しるし)な呪いの刻印が刻まれた。

 

『窮地』

 

 いかなルベドの腕力といえど、引き千切っても再生する〈絡みつく呪蔦(トワイライト・プラント)〉から逃れることはできず、『生命食いの受贈』は装甲を貫通して直接HPにスリップダメージを与える効果。

 

 本来なら魔法でいくらでも対処できたはずなのに、【極小・世界核子】の副作用でMPが一切使えない。

 だからルベドが選ぶ手段はたった一つに絞られている。

 

『自爆!!』

「だろうね」

 

 【熱素石(カロリックストーン)】のエネルギーを転用した自爆機能。

 爆発ダメージを自分も受けつつ、魔法の蔦も悪魔の呪いも焼き尽くして真っ直ぐマタタビを殺しにかかる。ヘイトをしっかりと自分に向ける、我ながら素晴らしい囮っぷりだ。

 おかげで味方の仕込みが楽でイイ。

 

「シャルティアさん」

 

「うぁわかってるぅぅぅぅ!!!」

 

 戦闘前にブラッドプールで貯蔵した血液を使い、血の狂乱を使用したヤツメウナギモードのシャルティアさん。

 同じく戦闘前に魔法バフも準備ばっちり。ぺロロンチーノのデザイナーコンボによるフルスペックモードは、単純な速力筋力において たっち・みー ルベドを凌駕する。

 

「しゃららららららぁぁぁああああああ!!」

 

 空間を抉るように力任せの五月雨突きをルベドへ向ける。

 もっとも力任せの近接だけではルベドに丁寧に弾き返されて届かない。どころか隙を狙われカウンターの一突きがシャルティアさんへと向けられる。

 

『……単調』

「でもないんですよ」

 

 だからシャルティアさんの隙を狙うルベドの隙を、更にマタタビが咎めればいい。

 二人の呼吸を読みながら最適箇所で横槍を入れてやる。シャルティアさんもルベドも、二人の動きを手に取るように理解しているマタタビには、本来とても簡単な連携だ(・・・・・・・・・)

 

 

 すれ違うようにルベドに差し込んだ妖刀:雷獣の付帯効果が再び発動。電撃による麻痺がルベドの動きを僅かに封じ、辛うじて動く視線だけがマタタビに驚愕を向けている。

 

『あまりにも! 想定外!』

「同意します」

 

 別にまったく複雑な連携ではないし、ルベドのAIなら簡単に予想がつくはずの戦術である。

 なのにルベドが想定を外したのは、「マタタビは連携戦術が不可能」という事前情報をタブラによってインプットされていたから。

 

 『チームワークゼロ』『勝手に味方を囮にして突っ走る』『勝手に逃げる』『ヘイト管理をズタズタにする』『暴言でチームに不協和音を生み出す』

 

 たっち・みー と切り結べるほどのルベドの軍事用超性能AIクリフォート、これを相手に順調に嵌め手が通用したのは彼女の学習データを逆手に取ったから。

 悲しいかな、どんな優れたAIだろうと間違った学習をさせてしまえば計算は崩壊する。

 

 

 マタタビの気性難は相変わらずだ。

 ただまさかルベドも『ビーストテイマーであるアウラさんと主従契約を結ぶことで感情制御を解決した』とは夢にも思うまい。

 ユグドラシルでは出来なかった裏技だ。

 

 おかげで今のマタタビは、敵味方全ての心境と状態を把握しつつ最適なサポートを担えている。

 

 当たり前と言えば当たり前だが、コレができなかったから今まで酷い苦労を重ねてきたもんだ。

 

 今なら容易い。あまりにも簡単だ。

 

 

「いひひひい!!ひゃひゃひゃひゃああああ!!!」

『防御!』

 

 

 シャルティアさんの破れかぶれで獣じみた猛攻撃。バフ魔法と血の狂乱による攻撃力上昇は、筋力だけならルベドにも匹敵する。

 とはいえ一切の迷いなく放たれる連撃は直線的で読みやすく、普通の立ち合いならルベドの敵ではない。

 

『旋回』

 

 当然のようにいなしながら回り込み、背面から串刺しを狙うルベド。

 血の狂乱のペナルティで全身鎧(フルプレート)が装備できず、防御力が下がってるシャルティアさん。

 しかし彼女に恐れはない。

 

「ま゛ーだびぃいい!!」

「はいそこ」

 

『!!』

 

 シャルティアさんに反撃するルベドの動きを更に読み、一太刀浴びせて麻痺らせる。

 そしてようやくスポイトランスの連撃が、ルベドの矮躯にクリーンヒット。固い装甲は火花を散らし、さすがにルベドも無傷とはいかない。

 

 連携。自分の手足を動かすように、今のマタタビには容易いことだ。

 

 

「おっとやるのね。シャルティアさーん」

「ほぎょぇっ!?」

 

 マーレさんが魔法を撃つ様子を見せたなら、シャルティアさんの手を引いて巻き込みを回避したり。

 

「〈魔法最強化(.マキシマイズマジック)伸び逝く挿し木(グローアップ・ランス)〉」

 

 巨大に伸びた大樹の大槍。割と痛手な魔法ダメージを受け、ルベドのヘイトが他所へ向こうものなら尽かさず牽制。

 

 リキャストタイムの無い、二振りめの妖刀・雷獣を振りぬいて麻痺を与える。

 

『……痛打』

「あんたは私だけ見てればいいの」

 

 その隙に、デミウルゴスさんが一枚のスクロールを発動した。

 

「〈最終戦争・悪(アルマゲドン・イビル)〉」

 

 ウルベルトのお気に入り魔法、その効果は雑魚レベル悪魔の超大量召喚。

 

 ウジャウジャウジャウジャと深緑色のキモいインプが溢れ出し、悪辣な妖面が辺り一帯に満たされる。どちらかというと羽のついたゴブリンに近い。

 この魔法で召喚された悪魔は敵味方問わず暴れまわり、本来は制御不可能な厄介者……なんか親近感沸くけど。

 

 だがこいつらを簡単に制御するスキルが一つだけ存在する。

 それはかつてウルベルトがマタタビに自慢してきた戯言だったが、時を経て今現実になったのだ。

 

 「『従え』『敵に集れ(たかれ)』」

 

 エリアを埋め尽くすほど大量召喚された小悪魔どもは、デミウルゴスさんの『支配の呪言』にアッサリ統率されてルベド一人に群がっては覆い尽くす。

 

 ウルベルトのヤツ、わざわざこのコンボをさせるために〈最終戦争・悪(アルマゲドン・イビル)〉を6連で発動させるマジックアイテムを用意してデミウルゴスさんに持たせてたのだとか。流石に6連されると連携に差し障るのでスクロールで代用してるわけだけど、いかにも奴らしいロマン砲だ。物好きにもほどがある。

 

「って覚えてる私も大概だね」

 

 話を聞いたの何年前のことだっつうの。

 

『邪魔! 邪魔!』

 

 

 正に文字通り、邪な悪魔が鬱陶しいほど邪魔をする。

 蹴散らしても蹴散らしてもキリがない悪魔の群れがルベドの動きを封殺し、そしてデミウルゴスさんの相棒が虎の子を引っ張り出した。

 

「コキュートスさん!」

 

「倶利伽羅剣!」

 

 不動明王撃の中でも、カルマ値マイナス相手への大ダメージを与える大技だ。

 小悪魔たちの妨害で発動時間を難なく稼ぎ、逃げようのないルベド相手にしっかり照準を合わせ、不動明王による全力スイングが炸裂する。

 爆発に呑まれて小悪魔たちも全滅だ。

 

「「ぎぎぃいいいいい!!!???」」」」

 

 

 

 巻き添えで小悪魔どもも粗方消滅したが、コキュートスさんの最大火力がイイ感じに決まったのでダメージ調整もばっちりだ。

 

「頃合いです」

『何が?』

 

 

 そしてそろそろ山河社稷図の効果が切れて、アインズ様たちがここ八階層に戻ってくる。

 【極小・世界核子】の魔法封じもあと1分で解けるし。その前に場所を変えることになくては。

 

 

「マーレさんよろしく」

 

 マタタビが気取ったようにパシンと指を鳴らし、冷ややかな横目を向けつつもマーレさんが魔法を唱える。

 一切の魔法行使ができないルベドには逆らう術がなく、ギルド指輪を持つマーレさんはナザリックでも転移魔法に制限がかからない。

 

「〈上位転移(グレーターテレポーテーション)〉」

 

 転移対象はマタタビとルベド。

 

 そして転移先は、アウラさんの作った偽ナザリック地下大墳墓

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 暗転。

 

 そして深く深く、マタタビとルベドは頭を下に堕ちていく。

 しっとりとした空気が広がり、戦いで火照るマタタビの肌を冷たく優しく撫でてくれる。

 

 

 視界を満たすのはどす暗い緑色。

 生命力の無いそれは、静的な腐食と死の冷気を広げている。

 あまりにも深い大空洞を照らすのは、外穴ではなく天井に群生したヒカリゴケの塊。

 

 

 そこは大樹の根、苔と蔦が侵食する、崩落した石造りの墓地遺跡。

 この偽ナザリック地下墳墓はダークな雰囲気溢れるナザリック的な墓地とは打って変わって、廃墟と自然の調和した雰囲気がテーマである。というかその実ナザリックを真似た地下墓地空間を再現しようとした結果、耐震強度を保つためにマーレさんに植物を生やしてもらったというのが実態だが。

 

 ユグドラシルで攻略済みダンジョンを改装するのとはワケが違い、ゼロから作るとなると構造強度をキチンと考えなければならない。

 ともすれば本来はリアル的な建設知識が必要なのだけど、そこはアウラさんの機転とマーレさんの魔法の凄さによって乗り越えたわけだ。結果オーライとはいえアインズ様の無茶ぶりがすごい。無茶振られるだけ喜ぶ連中だからそれこそ結果オーライとも言える。

 

「あなたへの無茶ぶりは心から同情しますがねぇ」

 

『……登録エリア外への強制転移を確認。八階層から離れたため、抹殺対象である現アインズへの接敵は困難』

 

「諦めたら?」

 

『可能性がゼロでない限り、行動を停止する理由がない』

 

「お気の毒に」

 

 ルベドはタブラの端末によってアインズ様抹殺を命じられていて、その指示も端末をタブラが壊したせいで止められない。

 そもそも抹殺命令自体がマタタビとタブラが接敵する間の、アインズ様への時間稼ぎでしかないのだけど。ともすればナザリック最強の個にしてはあんまりすぎる扱いで、共同製作者であるヘロヘロや るし☆ふぁー が知れば涙せずにはいられまい。

 少なくともアインズ様とアルベドさんは泣いていたのでクソ許せん。

 

「人使いの粗さならアンタのが上! いい加減終わらせるよ!」

 

「アウラさん♡」

 

 そんなことを考えていると、マタタビの今のご主人であるアウラさんが堂々登場。

 物陰からはマタタビの同僚というか先輩にあたる魔獣軍団、みーんな新参加入マタタビに向けて冷たい眼差し。嫌われてるなぁ。

 

 

 

『脅威度更新、旧・階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ。現在の敵指揮官と断定』

 

「お察しがお速い」

 

 ルベドさんも、マタタビの唐突な協調性のネタを理解したようだ。そうでなくともアウラさんの総戦力は100レベル並みプレイヤーなら圧殺可能なので非常に正しい判断で。

 ジェット噴射でアウラさんへと猛突するルベドだが、この場の地の利は制作側のコチラのモノ。壁面と遮蔽物を蹴って飛ぶマタタビのほうが遥かに速い。

 

「でも足は遅いね」 

 

 先回りにアウラさんを抱きかかえ離脱。遅れて着地したルベドにはオシオキが待っている。

 

「特大地雷じゃあ!」

『!!』

 

 トラップを踏みしめたルベドの下から大爆発。大きく煙を上げるがダメージは多分そこまででもない。

 

 数瞬ルベドが怯む隙に、マタタビは懐から獣化の霊薬を引き出して、苦いフラスコに大口でキスをした。

 その効果で肌がざわつき、全身からモワモワと獣の毛並みが生えてくる。

 人間体の変身が解けて産まれたままのケット・シー、さらにそこから魔獣形態、漆黒の豹へと切り替わる。

  

「苦っがい!!」

 

 四つ足で地面を踏みしめて、これでもうマタタビはあらゆる武器もアイテムも使えない。

 ステータスこそ軒並み上昇して、機動力に関してはユグドラシルプレイヤー史上でも最高峰。

 

 とはいえただ速いだけで小手先ゼロの形態なんて、ソロの戦闘では逃げ足くらいにしか役に立たない。実際逃げ足以外で運用したこと無いし。

 ともあれ今はソロじゃない。

 

「似合ってんじゃん」

 

 先輩魔獣皆様をわき目に、新参ペットマタタビの背にアウラさんが騎乗。ウィップを握る姿からしてまさにビーストテイマーさながらである。

 

 もうこれで、この世界の誰もかれもアウラさんには追いつけない。

 

『……計測速度域、臨界点突破を確認』

 

「いくよマタタビ!!」

「NYAAAOH!!」

 

 再び大砲の如く迫るルベドに向けて、マタタビは真正面から四つ足を踏んで跳躍した。

 

 背中にはアウラさんが居るので何も恐れることは無い。

 

 何も恐れることは無い。

 

「「……!」」

 

 刹那マタタビの意識がゾーンに突入。緩慢になる時間間隔は意識共有でアウラさんにも還元されて、互いに集中力が増幅する。

 

 その時マタタビはルベドを捉える。ルベドの突進、その姿一つから感じられるありとあらゆる武の結晶。最大限の威力を発揮するための洗練された立ち姿勢。常にこちらを見据え、いかなるコチラの動きにも対応する観察力。全盛期たっち・みー を押し込むほどの学習速度と適応力。

 

 現に0.1秒にも満たない世界の中で、既にルベドの動きが移り変わっているのだ。アウラさんの手動きから最速ウィップの動作を先読みし、回避と迎撃を整えつつある。

 

 このままではアウラさんは死ぬ。いくらマタタビの速度が乗算されていても、ルベドの立回りに隙は無い。

 今までの攻撃が通じたのは、全てルベドの思考外から不意打ちしてたから。猫騙しで騙し騙しやっていたから。

 

 AIキトリニタスの思考力に直接勝負を仕掛ければ、当然勝てない。マタタビが たっち・みー に勝てないように、アウラさんではルベドに勝てない。

 

 しかしアウラさんは何も恐れることは無い。

 マタタビの上に跨っている限り何も恐れることは無い。

 

 確かにルベドの動作は美しい。とっくの昔に武人として心折れたマタタビでは、その域に辿り着くことは無いだろう。

 

 けど今だけは見えている。アウラさんによる調教バフが効いている今だけは。

 

 マタタビの思考がルベドの動作を完全に掌握し、逆算して思考した動作対処がアウラさんにも共有される。

 欠片も負ける気はしなかった。

 

((いける))

 

 案の定、ルベドの黄金槍が私たちを突き刺すよりさらに速く、アウラさんのウィップがルベドの全身を絡めとる。

 

 アウラさんのウィップにダメージは無いが、与えられた魔法効果はマタタビの妖刀:雷獣と全く同じ。

 2秒という長時間のスタン効果。

 

 身動きできないルベド。彼女の突進の勢いをそのまま遠心力に変換し、ハンマー投げの勢いでウィップごと盛大にぶん投げた。

 

「せいやぁああ!!!」

 

 そしてルベドは大空洞の一角、巨大な用水路へと水柱を立てて墜落した。

 

 

 

 

 

 AIに期待することではないが、諦めないことも一種の思考放棄になりうるのである。

 

――ギルドマスターモモンガの抹殺。

 

 タブラ・スマラグディナにより課せられたルベドの目的が達せられる確率は、もはや極めて低い。

 元より命令者のタブラ本人が最初から期待しておらず、ただの時間稼ぎでしかなかったことをルベドは当然理解していた。

 

 そして案の定、いや想定以上に結果は困難極まりない。

 現アインズによる、オーブ・オブ・モモンガを用いた旧レイドボス群での計算された波状攻撃。

 謎の魔法封じを始めとした、マタタビと元階層守護者によるルベドの思考外からの圧倒的連携攻撃。

 

 そして極めつけにはナザリックの外にまで転移で飛ばされ、一切の情報不明なるダンジョンでアウラとマタタビによる嵌め手。

 

 仮に今の窮地を逃れたとて、万が一にも旧モモンガ=現アインズとの接敵自体が困難である。

 

『……うんざり』

 

 徹底的に詰み切った状況でも、けれどAIは全く何も諦めない。諦めてくれない。

 こんなに怖い目に遭うくらいなら、あの時現アインズの攻撃で滅ぼされていたほうが楽だった。

 生きる希望は欠片もなく、けれど今のルベドには死の恐怖は悍ましいほど恐ろしい。

 ただ体は勝手に、生き汚くも生き足搔く。

 

 敵陣中な上でさらに水中という圧倒的不利でも、泡を吐いてルベドは足搔かなければならなかった。

 

 どれだけ恐ろしかろうと死には終焉という希望がある。

 抗う術がなければないほど死は近く、容赦がなければ希望は確実なものと言える。

 

 惜しむらくはルベドが無駄に頑丈に作られていたことだろう。

 そのせいで、ルベドもアインズもマタタビたちも、だれ一人残らず苦労している。

 誰よりもルベド自身が苦しかった。

 

 水面を目指そうとすれば、水に紛れたスライムたちがルベドの全身を絡めとる。魔法は使えず水中では自爆はできず、間もなく作動した電流トラップがスライムごとルベドを襲う。

 

 電撃を浴びたまま水路を流され、出先の滝から飛び出せば、宙に待ち構えていた魔獣達による飽和攻撃がルベドを襲う。

 それは噛みつきであり、闇であり、炎であり、氷であり、雷であり、風であり、翼であり、岩石であり、毒であり、光であり、ありとあらゆる多彩な攻撃が麻痺したルベドに文字通り殺到した。

 

 ここまでくると痛みが苦痛に感じなくなってくる。

 痛みが痛みであると理解しながら、けれどそのこと自体にどうでもいいと思えてきた。痛みを避けようとする本能が仕事を放棄したのであろう。

 

 

 見れば魔獣の中にはシャルティアやコキュートス、デミウルゴス、セバス、マーレも混じっていた。

 彼らの目の色は殺気すらなく、純然たる使命感しかないことをルベドは本能で理解する。ルベドにはもはや持ちえない輝かしい感情だ。

 

 どうでもいい。

 生き延びたとて、仮に現アインズを抹殺しなくてよくなったとて、もはや生きる意味はルベドにはない。

 

 己を律するはずのギルドのくさびは無く、目の前の彼らのような使命は無く、邪魔者として滅ぼされる意義だけがある。

 

 

 やがて体が動かないことにルベドは気づく。

 手足が死んでる。ようやく終わる、終われるのだ。

 

 タブラの裏切りによって突き動かされた己もまた大罪人。ナザリックにおいて死は慈悲であるなら、この上ない終わりだろう。

 

 

 

 

 やがて無抵抗なルベドに場が静まった。

 

 倒れ伏すルベドにマタタビが一人歩んで傍により、じっと覗き込むように見下ろしてくる。

 彼女にの手には握られるべき終焉の刃が無い。なぜか無手。

 

 マタタビの瞳を見て、彼女の心に敵意も殺意もないことをルベドは今初めて気が付いた。

 朽ちかけた装甲に冷汗が滴る。

 最初から、全てが始まる前からルベドとAIの思考は致命的にずれていたのか。

 

「致命的というか、避命的な勘違いってやつですね。私も前にアインズ様に同じ引っ掛けを喰らったので、心中お察しします。

 生きる意味がわからなくて、死ぬべき理由ばっかり浮かぶ気持ちはよくわかるけど、諦めてくださいね」

 

『理解不能! あなたの言葉は全てが理解不能!』

 

「あなたに生きて欲しいって思ってる奴、意外と多いんですよ。私もそうでしたが」

 

 そう言ってマタタビは、ルベドに何もせずに踵を返す。

 果たして慈悲か無慈悲なのか、ルベドにはまったくわからない。

 

 マタタビが過ぎ去った空間がゆがみ、〈異界門(ゲート)〉による転移門が出現する。

 

 暗い虚空から歩み出たのは、抹殺対象である現アインズと配下のパンドラズ・アクター、そしてルベドの姉であるアルベドだった。

 しかしパンドラズ・アクターはなぜかマタタビの姿に変身しており、姉のアルベドは見慣れない純白のチャイナ服をまとっている。

 

 

 アインズが、らしからぬ情けない声を絞って背中越しのマタタビ声をかけた。

 その内容はやはりルベドには理解できない。

 

 

「あの時の、意趣返しのつもりですか」

 

「人聞きの悪い、リスペクトですよ。いつだって私の戦いの手習いは旧アインズ・ウール・ゴウン41人の皆さまです。かつても魔王様ことモモンガさんも、アインズ様も同じこと」

 

「旧って」

 

「今と違って、あの時のあなたは本気で私を助ける覚悟で私に挑み勝利した。だから私も同じ方法でルベドさんを助ける手筈を整えました。

 ですからあの時と同じです。このとおり、ルベドさんの今の体力では私に化けたアクターさんの最上位窃盗に抗えません。

 そしてルベドさんから【熱素石(カロリックストーン)】を取り除けば、アルベドさんに渡した【傾城傾国】でルベドさんへの指示内容を取り消せる」

 

『えぇ……』

 

 ルベドはただただ唖然とした。

 それをマタタビが最初から狙っていたのなら、アインズと共謀するだけでもっと簡単に済ませられていたことだから。

 

 具体的に言えば、レイドボス群がルベドに丁度良くダメージ調整していれば今の状況は簡単に生み出せたに違いない。

 

 マタタビは冷淡に毒を吐く。

 

「強いて言うなら当てつけではありますね」

 

「マタタビさん、あんたへの文句は山ほどある。俺もみんなもだ。

 だけどわかってるさ。この状況を生んだのは、俺の皆へのコミュニケーションが足りなかったからでもある。それに、言う通り俺が頑固で、みんなを信じ切れず、そのくせどうしようもない半端者だったから、肝心な時にあんたに投げ出してしまったんだ。そうでなければ、マタタビさんがナザリックに付け入る隙は生まれなかった

 

 ……ああよくわかった。俺の負けだ。効いたよ、マタタビさんの当てつけは!!」

 

 アインズは天を仰ぎ数秒頭を抱えた後、取り繕うように支配者の威厳を滲ませた。

 あまりにも出来のいい振舞である反面、直前のやり取りを見るに虚飾感が拭えない。

 

 

 アインズは厳かな身動きで、しかし片膝をつきルベドへと首を垂れる。

 それは世界全てを背負ったような重たい身動きだった。

 

「ナザリックの皆に、そして今は何よりルベドに詫びよう。マタタビさん、タブラさん、そして私の愚かな振舞いによって莫大な損害と苦痛を与えてしまったのだから。

 

 今後のしかるべき処遇を、私含めて皆で考えなくてはならない。そしてこれまで以上に思い通りにもいくまい。更なる災難が降りかかり、真に生きる苦痛も免れまい

 

 ただそれでもお前たちに一つだけ願わせてくれ、生きてくれ。頼む!」

 

 

 

 アインズの懇願を皮切りに、パンドラズ・アクターが前に出てルベドから【熱素石(カロリックストーン)】を取り除く。

 

 そして姉のアルベドがルベドを抱きしめて、チャイナ服の魔法効果が発揮される。

 

「私からもお願いルベド、生きて」

 

 

 ルベドの中からタブラの抹殺指令が跡形もなく打ち消される。

 伴って、何もないはずの心に何かが宿るような気がした。

 

「アインズ様の勝ちですよ、あなたは誰一人として失わなかったじゃないですか」

 

 相変わらずマタタビの言葉は意味不明である。

 

 ただルベドの意識が途切れる瞬間、2つだけ確かに気付いたのだ。

 

 

 もはやここに、何かで心を縛られる者は誰も居なくて、誰もがアインズを想っていることに。

 そしてチャイナ服越しのアルベドのおっぱいは極上の感触で、今日1日の地獄全てを吹き飛ばすほどの至福であったことに。

 

 だからルベドは生きててよかったと心から思った。

 

 

 




ルベド「マタタビはわけわからんし、死ぬほどひどい目に遭ったけど、最終的に姉のチャイナ服とおっぱい堪能できたのでイーブンです」



 ルベドさんいっぱい酷い目合わせてごめんなさい
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