ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 アインズ様の脳内ボイスを日野聡がコロコロ切り替えるイメージで読んでください。



いつのまにか、またその方々に匹敵する仲間が出来ていました

 

 

 

 全てが終わるはずだったのに、あにはからんや全ての始まりとなった場所でもある玉座の間。

 

 

 この世界に訪れてから様々な寄り道を経て、あるいはマタタビの作った直通トンネルを経て、アインズはここに戻ってきた。

 アインズがレメゲトンを使って隔てた筈の彼らへの道に、マタタビが別口を開けてしまったから。

 

  

 

 

 眼下に広がるのは、あの日に比べるとかなり手ひどく荒らされた玉座の風景。壇上の上に並べられた、朽ちて折れたスタッフ・オブ・アインズ・ウールゴウンの残骸。首謀者のマタタビと、それ以上に彼女の侵攻を招いてしまった不甲斐ない自分への怒りが募る。

 

 けれど今はそんなことがどうでもいいくらい、別のことに心が奪われていた。

 

 みんなが居てくれた。無事なまま残ってくれた。

 

 マタタビたちを収容するため動いている守護者達を除いた、残り全てのNPCたちと彼らに付随したシモベ。

 ギルド武器の破壊と共にナザリックという楔から解き放たれたはずの彼らが、自棄を起こさずに無事なままで整然と膝をついて待ってくれていた。

 

 アインズが戻って来るのをずっと待っていてくれてたのだ。

 嬉しくて嬉しくてしかたが無くて、アンデッドの精神安定化がなければ、乾いた骨から涙が滲んでいたかもしれない。

 

 一歩でもみんなと遠ざかるのが惜しくて、また一つの決意として(・・・・・・・・)アインズは、【諸王の玉座】には腰を掛けることをやめた。

 

 玉座の階段の一番高い淵でアインズは立ち、一世一代の覚悟で言い放った。

 

「面を上げよ」

 

 

 重苦しいくらいに伏せていた一同が、アインズの声に応え顔を挙げた。

 

 いつもなら、NPC達は一糸の乱れもなく整然と一斉に顔を挙げるところだ。

 

 けれど今日は明らかに違う。そもそも彼らはアインズが降り立ったことにすら気づいておらず、ほとんどが寝耳に水を撃たれるように、突然の呼びかけに動揺しているようだった。

 

 当然個々人の反応速度にはバラつきがあって、結果的にいつもとは見違えるような反応をアインズは感じ取る。

 

 どう見ても精彩を欠いている。それは精神的に追い詰められていたからか、ギルド武器破壊による忠誠意識への影響なのかはわからない。

 

 ただ乱れた多くの者たちが、驚きと共に自分たちの醜態を悔やんで、気にしてはいるようだった。けれどアインズは、今更そんなことに不快感を感じたりはしない。

 むしろ全く逆の心地が、アインズの肋骨の内側に広がっていた。

 

 

 

 綺麗だと、心から思ったのだ。

 

 アインズを見つめ返す皆々、だれ一人残らずその目には、小さな光が星々のように煌めいて、弱弱しいくも灯っている。

 

 あの日デミウルゴスと共に見上げた宝石箱のような夜空など、足元にも及ばないほど美しい。アインズは心からそう思った。

 

 そして彼の言葉を思い起こす。

 

 

(見ればわかるとは、そういうことか)

 

 

 

 アインズはマタタビのように、一目見ただけで相手の心を見透かすような洞察力は無い。

 

 いつも疑心暗鬼になりながら、相手が何を考えて求めているのか、暗闇に手をかけるように地道に探り続ける日々である。

 だけど今日この時だけは、曇りなく彼らの心が見えた気がした。

 

 重厚で喉が詰まるような空気。

 じっと自分を見つめる彼らの心が,、手に取るように伝わってくる。

 

 不安と恐怖。

 拠点の守護、ギルド武器を守れず存在意義を果たせなかった無力感と申し訳なさ。

 言い訳のできない無能を晒して相手の失望を招くことへの恐怖。

 ギルドが壊されてしまったことで欠落したアイデンティティ。

 それでもなお捨てられたくない、一緒に居て欲しい。そんな切実な想い。

 

 この時アインズは世界の誰よりも、きっとマタタビよりも彼らの心に近かった。

 

 

 一人一人を撫でるように見渡して、その中で一つだけあった異色な光とアインズの視線が交差する。

 

 セバスが外で拾ってマタタビが世話を焼いてた人間の女、ツアレニーニャという名の異邦人。

 一般メイドの最後尾列で並ぶ彼女は、アインズに何を見出されているかなど知りもしないだろう。別に知ってもらう必要もなかった。

 

 

 

「お前たちも知るように今日、様々な大事件の果てにスタッフ・オブ・アインズ・ウールゴウンは破壊され、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンは崩壊した。

 伴って数多くのことを話す必要がある。だがその前にまず、お前たちに感謝の言葉を贈りたい。よくぞ誰一人欠けることなく、この場に残ってくれた。

 各々どのような思惑であれ、今ここにお前たちが居てくれて……俺はとても嬉しい」

 

 不意に支配者としてのロールプレイが綻んで、アインズは自分で戸惑った。

 NPCの皆に向けて相応しい言葉を選ぶべきだったのに、「俺」だのと、「とても嬉しい」だのと。思いがけず口を衝いてしまった。

 

 そして彼らはというと、訳も分からず唖然としている。アインズが「嬉しい」と言って、どうしてそう思うのか彼らは理解できないらしい。

 祈る心地でアインズは言葉を紡ぐ。どうか正しく伝わるように、誤解や行き違いを生まないように。

 

「かつて、お前たちの呼ぶ至高の四十一人であるギルドメンバーとの思い出だけが、私にとっての全てだった。そこで友を知り仲間を知り、生きる意味をも見出すことができたから。

 故に私はただ一人になってもナザリック地下大墳墓を守り続けていたわけだ。マタタビが訪れるあの時までな」

 

「しかしこの世界に転移してお前たちと接するようになってから、私の心は少しずつ移ろっていた。

 最初はお前たちNPCのことを、かつての仲間との思い出の証として、いわば忘れ形見として庇護していたに過ぎなかったというのに。

 気づけばお前たちと過ごす喧しい日々も、俺にとってかけがえのない時間になってたんだ」

 

「だから私は、怖くなった。怖かったんだ。お前たちを失うことが怖かった。お前たちに見限られるのが怖かった。失望されるのが怖かった。

 ギルドメンバーだった仲間たちが去り、残されたのは私一人。同じことが繰り返されるのではないかと……俺は恐れたんだ。

 だから私はお前たちに正面から向き合うことを避けて、完全な支配者という仮面を被り心を閉ざすことにした」

 

 

「え……?」

 

 整列する一人、ルプスレギナが驚いて声を漏らすのを、アインズは咎めない。他の誰も咎めるどころか、共鳴するように波立っていた。

 

「もっとも転移して間もなくの頃は、初めて接するお前たちを警戒してのことだったんだがな。

 それが不要だと理解しても、やがて失望されるかもしれないという恐怖のために、期待に応えるように自分から演技をし続けた。

 そしてその末路が……あのザマだ」

 

 仲間たちとの友情の結晶の虚しい残骸、酸に融かされて朽ちたスタッフ・オブ・アインズ・ウールゴウンをアインズは指さした。

 

「先日のことだ。この世界に転移していたタブラさんが、私とマタタビを狙っていることに気が付いた。

 ナザリック地下大墳墓を揺るがす事態であり、もはや私個人の手に負える事件ではない。

 だというのに俺は、お前たちに完全な支配者を偽るために、アルベドとパンドラズ・アクターとマタタビを含めた4人だけで解決を図ろうと試みたのだ。……その結果は言うまでも無いだろう?」

 

 勝手に動いたマタタビとパンドラズ・アクターに裏切られ、土壇場でルベドを仕留め損ねたアインズの心の弱さを付け入られて、最終的にギルド:アインズ・ウール・ゴウンは崩壊。

 

 しかも巻き込むまいと遠ざけた筈のNPC達の尽力によってルベドの保護が完了され、殺すつもりだったタブラ・スマラグディナもなし崩し的に捕虜として確保したという、最悪で最高に円満な結末だ。

 

 謀反人の性格が悪すぎることは言うまでもなく、けどそれ以上に騙されたアインズはどうしようもなく間抜けなのである。

 

 全てを人知れず完璧に終えようとしたアインズへの、この上ない報いだった。

 

「見栄を張り、出来もしないことを無謀に挑んで、結局自分の失敗で全てを台無しにしてしまった。私は、――俺はそれだけの男だ」

 

 

「だから今更になって、お前たちを見てようやく理解できた。捨てられるのが怖かったのは俺だけじゃない。みんなも同じだったんだろう?(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 少し考えればわかることだった。アインズにとってNPCたちが唯一残された宝物であるように、NPCたちにとってもまたアインズがナザリックで最後に残った支配者だったわけだ。

 

 これまで彼らが懸命に仕えてくれた理由は、そしてギルド崩壊を経てもこの場にとどまってくれた理由とは、つまりそういうこと。

 

 

 あまりに馬鹿げた喜劇だった。

 マタタビに何度諭されても納得できず、アルベドが認めてくれても理解し切れず、こんな末路の末路になってアインズが自分で目の当たりにしてようやく実感できたこの現実。

 

 

 自分自身に精いっぱいで、大事な隣人達の心を知ろうともしなかった愚か者の、実にくだらない笑い話。

 

 

 

『いつの日か、またその方々に匹敵する仲間ができますよ。』

 

 

 

 ツアレによく似た、かの冒険者に言われた言葉をアインズはしみじみと反省する。彼女には申し訳ないことを言ってしまった。

 

『そんな日は訪れませんよ』

 

 いつの日か、どころの話ではなかった。もうとっくに出会っていたというのに、ただアインズが自分の心を押し固めていたというだけのことだった。

 

 

 アインズは改めて玉座を広く見渡した。

 喉骨が軋み、声が震える。だが最早どうしようもない。

 

 精神安定化はいよいよ使い物にならなくなったから。

 

(……ここでMP切れか)

 

 ただでさえルベドとの戦いでMPを使い過ぎて、動乱の一日で精神安定化を使用し続け、心を抑えるための残りMPはとっくに空っぽになっていたから。

 

 溢れ出す心の内が、醜いほどのドストレートに飛び出してしまうのだった。

 

「どうか俺の我儘を聞いてくれ! ナザリック地下大墳墓を守り切れなかったこんな情けない男だが! それでもお前たちの主人―――いや、同じ心を分かち合う仲間として! 俺のことを受け入れてほしい!」

 

 

 もっと言い方があるだろうに、取り繕うこともできないままアインズは叫んだ。

 やけくそ以外の何もにでもない。

 

 

 

「あああああああ! アインズさまあぁあああ!!!!!」

 

 

 

 赤髪の狼少女がぴょんとアインズの胸に飛びついて、それが契機に。

 彼女に続き、玉座の間に広がる多くのシモベ達も、涙と鼻水を垂らしながら一斉にアインズへとなだれ込んだ。

 MPゼロでレベル33相当の身体能力しかない今のアインズに抵抗する術はない。

 

 

 後で遅れてデミウルゴス、アルベド、アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティアも混ざって酷いことになった。

 

 けが人多数。幸い死傷者はでなかったものの、あとでまとめてセバスからとびっきり長い説教を、アインズ含めて聞かされる羽目になった。

 

 なんか懐かしいノリだな、とアインズは思った。

 

 




一番描きたかったところが書けてほっとしています。
この程度の分量ですが、自分はキャラの読み込みが雑なので、キャラ心情の解釈ピントが少しでもずれると文章が詰まってしまうのです。

更新速度の件も含めきっと大半の読者を振り落としてしまったでしょうが、それでもなおここまで読んでくださった皆様に心より感謝を申し上げます。

(最短で……)あと2話ほどエピローグをやって完結させ、残りおまけ日常回をちょこちょこっとやって完璧にお開きにしようと思います。
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