この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。
少々最近忙しく、割と久々の更新になりました。申し訳ありません。
それでは第24話、張り切っていきましょう。
刀夜は現在セントラル草原にて、四輪の荷車を引っ張りながら、とあるモンスターを探索していた。その身には、薄紫色のジャギィシリーズが装備されている。
なかなか目的のモンスターを見つけられず、刀夜はいらいらし始めていた。
「……他の依頼を受ければ良かったな。だが、折角の新しい防具だ。大型モンスターの討伐依頼を受けたくなるのはMHプレイヤーの性だろう…」
何故このような現状に至ったのか、ここまでの経緯を説明すると次のようになる。
昨日のエルザ達との対面は事無く終わり、ジャギィシリーズを受け取るために、刀夜は今朝、武具屋のアイアンの元へ向かった。早い時間帯に受け取りに行ったにも関わらず、防具はすでに完成していた。「優秀なんだな」とアイアンに褒め言葉のつもりで投げかけると、「上には上がいる」とさらりと受け流された。
そうして防具を受け取ると、刀夜は早速クエストを受注するためにギルドへと向かった。ギルドカウンターには担当のアイシャがいた。今日は出勤していたようだった。
アイシャが刀夜に紹介したクエストは、アイテムの採取依頼や小型モンスター討伐依頼がほとんどであった。その中に青い紙の依頼、いわゆるキークエストである青依頼が3枚ほどあったが、大型モンスターの討伐依頼は2枚だけであった。1枚はクルペッコの討伐である。
刀夜は防具を新しく変えたばかりで、大型モンスターと戦うことでその性能を把握しておきたかった。そこでクルペッコをもう1度討伐してもよかったのだが、同じ依頼を2回受けるのはあまり気乗りしなかった。そういう訳でもう一つの大型モンスター討伐の青依頼をアイシャに渡した。受け取った時、アイシャは一瞬顔をしかめたが、以前アリアノーラに言われたことを思い出し、「お帰りお待ちしてまーす!」と元気に刀夜を送り出した。
そうして無事に依頼を受け、現状に至るわけであるが…。
「見つからない…。というか、セントラル草原が広過ぎる…。この荷車の持ち運びも疲れてきたな…」
目的のモンスターを探索し始め、2時間が過ぎようとしていた。刀夜にとってゲームで経験したことのないフィールドのため、どこにどのモンスターが生息しているのか全く見当もつかなかった。
刀夜が運ぶ荷車には、なにやら大きな樽2つと小さい樽が1つ入っている。
「そう言えば…奴は川辺で魚を取っていることが多いと聞いたことがあるな…。闇雲に探しても埒が明かない、川辺で探すとするか」
そう言って刀夜は作戦を変える。
そうして探すことおよそ10分、刀夜の考えが見事に的中し、目的のモンスターを発見する。それと同時に、静かに荷車を岩陰に隠す。
「……見つけたぞ、アオアシラ…」
アオアシラ、ギルドでは別名「青熊獣」とも呼ばれている。その名の通り、青い毛皮を身にまとった、熊によく似たモンスターである。温暖湿潤な地域の山や森林に生息しており、下半身や腹は柔らかい毛皮で覆われていて、頭や背中は堅い甲殻で守られている。
食欲旺盛な性格で、ゲームではしばしば川辺で魚を捕食している所が目撃されている。刀夜はそれを思い出し、川辺を散策したのであった。
視線の先のアオアシラは現在食事中のようだ。
前脚に生えた大きな鋭い爪に、時々太陽の光が当たってキラキラと反射し、腕の甲殻から生えた鋭い突起物から、川の水が滴り落ちている。
魚を食べようと開けた口には、何本もの鋭い牙が生えていた。
「食事中とは、都合が良い。いつも通り、奇襲をかけるか…」
どこからどう見ても凶暴そうなモンスターであったが、ここでも刀夜は平常運転である。初めてのアオアシラとの遭遇にも、全く動じてはいなかった。
そうして、アオアシラの側面から後方に移動しようとした瞬間である。ギロっとアオアシラの目が動き、四足歩行で周囲を警戒し始めたのだ。
刀夜は小さく舌打ちする。
「ちっ…野生の勘というやつか…。ただの脳筋モンスターと思っていたんだがな…。まあいい、作戦変更だ」
刀夜は、周囲を警戒するアオアシラの後方に回り込むのを諦め、堂々と前方から突っ込む。
アオアシラは、目の前から自分のテリトリーに入ってきた標的を見て、後ろ足だけで立ち上がり、刀夜を威嚇するように唸り声を上げる。すると目の前の敵が急に立ち止まり、
「こういうモンスターにはやはり、まず閃光玉を投げるのが定石だろう?」
そう、刀夜が投げたのは自らが調合して作った閃光玉だった。モガの村でこういった狩猟に役立つアイテムは一通り作成しており、ようやくそのアイテムを使う時がきたのだ。
アオアシラは視界がいきなり真っ白に染まったことで混乱する。刀夜はそんなアオアシラの後方に回り込み、黛に手をかける。
「まずは一撃。さて、いつまで耐えられるかな…?」
「ブシュ」っとアオアシラに一撃を加えると、鮮血が吹き出す。アオアシラは何も見えていない。正体不明の一撃に更に混乱し、前脚をただただ振り回す。
だが、それが刀夜に当たることは無かった。その動きに合わせ、刀夜は後方に回り込んでいたからだ。
「閃光玉で視界を潰されたモンスターは近接型の攻撃を主に使う。普通ならそこで接近戦はナンセンスなところだが…生憎お前らの動きは何百回とも見てきたんでな」
アオアシラの動きに合わせ、攻撃を加えていく。刀夜の動きには全く無駄がなかった。攻撃を加えアオアシラの攻撃を回避する。一見単純に聞こえる作業だが、命のやり取りをしているにも関わらず、ここまで冷静に行動できるのは、刀夜がモンスターの動きを熟知し、それに対応できるという確信が持てているからであった。
「そろそろ視力が回復してきたか…」
時間にしておよそ数十秒、アオアシラは閃光玉の光をまともに受けたが、視力はすでに回復し始めていた。
だが、刀夜にとってその数十秒という時間は、十分すぎる時間であった。
黛の刀身が薄く発光し始める。
「さて、ペースを上げていこうか」
刀夜はアオアシラに対して微かに笑みを浮かべる。そんな刀夜の様子に腹が立ったのか、アオアシラは白い息を吐き、唸り声を上げ始める。怒り状態だ。
アオアシラは二足歩行のまま一歩後退し、両前脚を振り上げてバタバタし始める。
「連続引っ掻きか…」
そう、これはアオアシラの攻撃の一つ、連続引っ掻きの予備動作である。刀夜は黛を背中に一旦直し、アオアシラの攻撃に備える。すると次の瞬間、刀夜を狙って右前脚が振り下ろされる。
しかし、その動きはゲームで何百回と見てきたものである。刀夜は落ち着いて、右方向へ回避する。
「あと3回…」
刀夜がそう呟くと同時に、アオアシラが今度は左前脚を振り下ろしてくる。これも刀夜は無駄のない動きで左方向へと回避する。
「あと2回」
またまたアオアシラは右前脚で刀夜に攻撃を加えようとする。だが、同じ要領で刀夜が回避したことで、アオアシラの右前脚が空を切る。
「ラスト…」
刀夜はそう呟き、左方向へと回避する。耳元ではアオアシラの左前脚が通り過ぎる音がした。そこで、アオアシラの連続引っ掻きは一通り終わったようだ。刀夜は回避後アオアシラの後方に回り込み、黛に手をかける。
「さて、今度はこっちの番だな。いつまでもつかな…?」
そう言うと、刀夜はアオアシラの尻を目掛けて、薄く発光する黛で抜刀気刃斬りを繰り出す。アオアシラの尻は肉質が柔らかく、このモンスターの弱点なのだ。加えて、黛は斬れ味白の武器である。その刃がスっと入っていく。
アオアシラはあまりの痛みに悲鳴を上げる。だが、当然刀夜の攻撃がそこで終わるはずもなく、更なる追撃がアオアシラに浴びせられる。気刃斬りの連続攻撃だ。
「アオアシラの尻の肉質は柔らかく、斬撃属性共通の弱点だ…。まんま、頭隠して尻隠さずだな」
刀夜がフィニッシュの気刃大回転斬りを繰り出そうとするのと同時に、アオアシラが反時計回りに、右前脚を振り上げながら凄まじいスピードで刀夜の向きに振り返ろうとする。
「回転引っ掻きか…。気刃斬りの最中であれば厄介ではあったが…フィニッシュだ」
そう呟くと刀夜はアオアシラの動きに合わせ、反時計回りに気刃大回転斬りを繰り出して立ち回る。
アオアシラの回転引っ掻きは不発に終わり、加えて刀夜の強烈な一撃を受けた。その威力に耐えきれず、アオアシラは地面に倒れ込む。
「倒れ込んだら、絶好の的だろう?」
そこで、勝敗は決した。
刀夜はアオアシラに対して気刃斬りのラッシュをかける。それと同時に、黛の刀身の色がどんどん変化していく。
アオアシラが立ち上がって距離を取ろうとしても、刀夜はそれを許さない。鬼神のごとく追い打ちをかけ、アオアシラに逃げ出すことも許さなかった。
刀夜のされるがままに体力を削られていくアオアシラは、とうとう瀕死状態まで追い込まれる。
だか、何故かそこで刀夜は手を緩めた。そこでアオアシラは刀夜に背を向け、足を引きずりながら逃げていく。
刀夜は追撃を加えず、代わりに赤いボールのようなものをアオアシラに投げつけた。アオアシラはそれを意にも介さず、息を荒らげながら刀夜の視界から消えていった。
「さて、アオアシラはもうそろそろ討伐できるだろうが…強敵とやりあう前に、アイテムの使い方を覚えておかないとな…。お?アオアシラが逃げた方向から何か匂いがするな…。なるほど、匂いでモンスターの位置が判断できるわけか」
刀夜がアオアシラに投げつけたものはペイントボールであった。ペイントボールはモンスターの位置を知るためにしばしば使用される。しかし、ゲームでペイントボールを使用すると地図上にモンスターの位置が表れたが、この世界ではどのようにモンスターの位置を把握できるのか、刀夜は知らなかった。そのため、この機会に試しておきたかったのだ。
それともう一つ、刀夜がアオアシラを逃がしたのには訳があった。
「やつは恐らく、自分の巣で睡眠状態になるだろう。大タル爆弾の威力、試しておかないとな…」
刀夜は不敵に微笑み、予め岩陰に隠しておいた荷車を引っ張って、アオアシラに当てたペイントボールの匂いを頼りに歩き始めた。
--ペイントボールの匂いを辿って歩くことおよそ10分、アオアシラは割と近場にいた。刀夜の視線の先には、いびきをかいて寝ている青い熊がいた。
「さて、とうとうこいつを使う時が来たか…。誤爆するとさすがに無傷ではすまないだろうな…」
刀夜は荷車から大きい樽を2つ、慎重に運び出してアオアシラの目の前に置く。
「こんなもの、無防備で喰らえば一溜りもないだろうな…。だからといってこいつに同情する訳でもないが…」
そう言って刀夜は最後に、荷車から黄色い小さな樽を取り出す。
「こいつを置く場所には気を使うな…。ある程度、大タル爆弾から離れたところに置かないと、まず初めに小タル爆弾の当たり判定が入ってしまうかもしれないしな」
ゲームでは、睡眠状態のモンスターに爆弾を使うと、初撃のみその威力が3倍に跳ね上がるというものがあった(武器攻撃は2倍)。そのため、小タル爆弾で大タル爆弾を爆発させる際、小タル爆弾をモンスターの近くに置くとあまり威力が上乗せされないのだ。
刀夜はゲームでの知識を使い、アオアシラとある程度距離をおいて小タル爆弾を置いた。
「さて、あとは点火するだけだ。確か、付属のマッチみたいなもので導火線に火を付けるんだったな…」
刀夜は小タル爆弾の導火線に火を付けると、走ってアオアシラの後方に回り込む。爆弾がある位置と対角の場所に着くと同時に、小さな爆発音が聞こえる。
そして、その直後。セントラル草原に「ドカァァァァアン」と轟音が鳴り響く。爆発の熱風が刀夜にも微かに届いてきた。
「おぉ、こりゃまた凄まじいな…」
アオアシラは大タル爆弾の爆発と同時に、目を覚ますが小さな呻き声を上げ、再び地面に倒れると、ピクリとも動かなくなった。
「かなり体力を削っていたみたいだな。追撃は必要ないか…。それにしても、大タル爆弾でこの威力だ、大タル爆弾Gはもっと期待できそうだ」
刀夜はそう言うと、微かに笑みを浮かべ大タル爆弾によって顔が焼けたアオアシラを見つつ、剥ぎ取りをし始めるのであった。
--アオアシラ討伐を終え、刀夜は依頼完了の報告をするためギルドへと向かった。ギルドの中に入ると、いつもは丸テーブルでガヤガヤとしている風景が飛び込んでくるのだが、今回は何故か、たくさんの人がクエスト掲示板の前にたむろしていた。
刀夜は特にそれに対して気にもせず、いつも通りアイシャがいるカウンターへと歩を進める。アイシャのカウンターの横では、アリアノーラが作業をしている。
「アオアシラ、討伐してきた」
刀夜はそう言うとアオアシラから剥ぎ取った、青熊獣の毛を渡す。
「な、なんとまあ…。アオアシラも1日で討伐ですか…。トーヤさんなら大丈夫とは思っていましたが…。まあ、お疲れ様でした!こちらクエスト報酬になりまーす!」
刀夜が報酬を受け取ったところで、アリアノーラがアイシャのカウンターに歩み寄ってくる。
「トーヤさん、少々お時間…よろしいでしょうか?」
なにやら神妙な顔つきでアリアノーラが刀夜に話しかける。
「アリア、そんな怖い顔して、どうしたの?」
「少し、トーヤさんに用があるの。急用でね」
刀夜は嫌な予感がした。
「お誘いのところ申し訳ないが、俺は帰る」
そこで、刀夜は出口へと向かおうとするが、次のアリアノーラの言葉で踏み出そうとした足を止める。
「……ギルドマスターの部屋にて、グライスさん…。そして、シーナ様の使者がお待ちです」
その言葉を聞き、刀夜は大きくため息をついたのであった。
如何でしたでしょうか?
やはり、モンスターの狩猟場面が書いていて楽しいです。
では、また次話出会いましょう。