ようやくボルボロス戦です。新たな展開もあるのでお楽しみを。
それでは第27話、張り切って行きましょう。
「本当に大丈夫ニャのか?」
「……急にどうした。竜車の送迎のしすぎで疲れたか?」
「ニャニャ、これくらいへっちゃらニャ。それよりも、ご主人はまだハンターランク2と聞いたのニャ」
現在刀夜はギルドの竜車でボルボロスの捕獲のためセントラル草原に向かっており、竜車を運搬するアイルーと話していた。話す、と言っても刀夜はいつも通りの最低限の受け答えしかしていなかったが。
「ランク2でボルボロスの捕獲に挑むやつなんて前代未聞なのニャ。お供も連れてないのに本当によく受けようと思ったのニャ」
人事のように話すアイルーにあまり構っていなかった刀夜であったが、“お供”という言葉は刀夜の興味を少し引いた。
「お供アイルーが存在するのか?それにしては誰もお供を引き連れていなかったが」
刀夜の言葉にアイルーは悩んだような声を上げる。
「ニャ〜。そうかご主人まだランク2だもんニャ。知らないのも無理ニャいニャ。簡単に言うと、ギルドにお供申請をしてアイルーに認められたハンターだけお供をつれることが出来るのニャ。まあ僕達アイルーも1匹1匹、ハンターに求める実力が高いから中々お供を連れているハンターはいないのニャ」
「そうか……。だが、それにしてもお供を連れているハンターは1人も見たことがないが」
「そりゃそうニャ。ハンターが依頼を受注してギルドがお供を派遣するからニャ。ただ、お供が望めばハンターと共に生活できるニャ。まあギルドの生活が快適すぎて、そんなことするやつは中々いないけどニャ〜」
「なるほどな」と刀夜は小さく呟く。アイルー達は意外とドライな性格のようだ。とは言ったものの、刀夜はお供をあまり引き連れたいとは思わなかった。刀夜は個人での狩りを楽しみたいのだ。
そんな話をしていると竜車が止まった。どうやら狩場のキャンプに到着したようだ。
「さて、着いたニャ。まあ程々に頑張るニャ、無理と思ったらすぐにクエストリタイアするニャ。あまり死に急ぎ過ぎないようにニャ」
刀夜はその言葉に何も反応を見せず、竜車を降りる。そして青の支給品ボックスから必要なアイテムを取り、ボルボロスの捕獲へと向かった。
セントラル草原は西部と東部で若干環境が違う。西部は緑に恵まれており、比較的性格が穏やかなモンスターが多い。対して東部は砂漠とは言わないまでも、地球で言うところのサバナ気候に似ている。乾燥し、昼と夜の寒暖差が大きいため生物があまり存在しないことから、モンスターの生存競争が激しく気性の荒いモンスターが多い。ボルボロスはそんな東部に生息するモンスターである。僅かな降水量によりできた泥の地帯を縄張りとし、冠状の頭殻が特徴的なモンスターだ。全身は泥を纏った堅い甲殻で何重にも覆われており、やわなものであれば容易く斬撃を弾く。
刀夜はボルボロスの特性を思い出しつつ、それが出現しそうなポイントを探索する。クーラードリンクを飲むことで冷却効果を得ていたが、照りつける太陽の暑さが尋常ではないことが分かる。
「ちっ、こんなにも暑いのか……。やはり実際に体験してみないと分からないもんだな。クーラードリンクが切れる前にさっさと終わらせよう」
軽く愚痴をこぼしつつ探索を続ける刀夜であったが、何かを発見する。刀夜の視線の先には1匹の、紫色のアイルーの姿が映っていた。
(野生のメラルー、いやアイルーか……?体表が紫のアイルーなんているのか?それに、1匹しかいないのか……?)
アイルーは大人しく臆病な気性であるが、非常に仲間思いのモンスターである。常に群生しており、外敵から仲間に攻撃が加わると危険を顧みずそれに攻撃する。しかし、刀夜は1匹で生活する、それも紫色のアイルーなどは聞いたことなかった。そのため視界の先の紫アイルーが異質な存在に映った。関心事が多くない刀夜であったが、この時ばかりは何故かその存在が気になった。
(少し、話しかけてみるか……)
刀夜は紫アイルーに向かって歩を進める。紫アイルーはどこか虚無感に包まれたように孤独にポツンと立っており、その様子が更に刀夜の興味を引いた。刀夜は紫アイルーに話しかける。
「おい、そこに突っ立って何をしている?仲間はどうした?」
素っ気なく刀夜が問いかけると、紫アイルーは刀夜の方に振り返りもせず、小さな声でポツリと呟くように答えた。
「仲間?そんなのはもういないニャ……。もう生きる意味もないニャ……」
(生きる意味もない、か……)
刀夜は何故このアイルーに興味が引かれたのか察した。紫アイルーの様子に昔の自分を重ね合わせていたのだ。刀夜も前世ではずっと1人、なんの目的も無く、ただ生きるという行為をしていただけであった。1人という孤独感、そしてすべてを悟ったような虚無感、それらはすべて嫌という程刀夜が味わってきたものだった。
刀夜は知っている。それらを振り払い、吹っ切れるためには何かしらの生きる目的が必要だということを。刀夜の場合はモンスターハンターというゲームだった。文面だけ見るとちっぽけなものかもしれないが、画面の中の壮大な仮想世界が刀夜の心の隙間を埋めてくれていた。なんでもいいのだ、何か夢中になれるものがあればそれが生きる目的になる。そして、その目的が奪われることで生きる意味も失うということも刀夜は分かっていた。
「お前は何を奪われた?」
刀夜は静かに問いかける。紫アイルーの体がピクリとする。そしてこちらに振り返り、その口が開かれる。
「その格好、ただのハンターが何を言うニャ……。知ったような口をきくニャ!!」
紫アイルーが刀夜の問に激昴する。刀夜は口を開かない様子だが、紫アイルーはなお怒声を響かせる。
「お前に何が分かるのニャ!何を奪われた?そうやって同情してくる奴が1番ムカつくニャ!!早く僕の視界から消えて呑気にモンスターでも狩ってろニャ!!」
そう言って紫アイルーは立ち去ろうとする。そんなアイルーに向け、刀夜は小さく呟いた。
「同情とは違うな」
紫アイルーの足が止まる。刀夜は構わず続ける。
「同情は上辺だけの思いやり、いや憐れみだ。同情は相手の境遇に陥ったことのないやつがする、言わば偽善のようなものだな。俺のはそれとは違う」
「じゃあ、何だって言うニャ!」
紫アイルーは振り返り、大声で叫んだ。それとは対照的に静かな口調で刀夜は話す。
「俺のは共感だ。俺はお前と似たような感情を持ったことがある。だから、お前の気持ち、重みを持ってやれると言っているんだ。正直俺は他人なんてどうでもいい。だが、何故か俺はこのままお前を放ってはおけない」
それを言い終えると刀夜の瞳には、ポカンとした紫アイルーの姿が映っていた。
刀夜自身、このアイルーのことを放っておけない理由には気づいてはいない。ただ言葉通り、何故か放っておけなかったのだ。
しかし、紫アイルーは首を左右に振ると、また声を荒らげる。
「お前がいたところで、僕のこれはどうにもならないニャ!お前は黄色プレートのひよっこハンター、そんな奴にあの化け物はどうしようもできないニャ!それに小柄なお前が強大なあれを倒す?冗談はやめてくれニャ!」
その時、大きな地響きが2人の側に近づいてきた。地響きの方向に振り向くと、刀夜は口角を上げ不気味な笑みを浮かべ、紫アイルーはどこか諦めたような表情を浮かべた。二人の視線の先には、こちらに向かって突進してきているボルボロスの姿が見えた。
「丁度いいニャ……。これですべておしまいニャ」
ボルボロスの突進を避けようとせず、命を絶とうとしている紫アイルー、その様子を見た刀夜は1発蹴りを入れた。
「ニャふっ……!」
「何勝手に死のうとしてるんだ、アホ猫が」
そうして刀夜も間一髪のところでボルボロスの突進を回避する。ボルボロスが通り過ぎ、近くにあった蟻塚に真正面から突っ込んでいった。その衝撃は凄まじく、ボルボロスが気絶状態となる。
「何するニャ!」
刀夜の蹴りを喰らって吹っ飛ばされた紫アイルーが立ち上がり、文句を口にする。
「だから、そう死に急ぐなアホ猫。体の大きさに比例して脳みそも小さいんだな」
「な……この僕を侮辱しているのかニャ!!それに、アホはお前だニャ!お前みたいなやつがボルボロスに勝てる訳がないニャ!僕は放っておいて、さっさと逃げれば「もし俺が……」何ニャ?」
紫アイルーに口を挟むように、刀夜は言葉を発した。
「もし俺が、こいつを狩猟できれば、お前は俺についてこい」
「……ニャハハハハ!」
刀夜の言葉に紫アイルーが大笑いし始める。
「お前がこの、ボルボロスを倒すニャ?そんなの無理に決まっているニャ!アホはどっちの……ニャニャ……」
その瞬間、紫アイルーは全身にこれまで味わったことのないような悪寒を感じた。刀夜から強烈な殺気が放たれたのだ。
「黙って見てろ」
刀夜は一言そう言うと、背中に滞納していた黛を抜く。丁度ボルボロスも気絶状態から回復したようだ。緊張状態が走る中々、紫アイルーは刀夜の出で立ちを凝視していた。
(あ、あの武器はなんだニャ……。それにあいつ、まるで人が変わったようニャ……)
ゴクリ、と紫アイルーが生唾を飲み込む。そして刀夜が走り出した。
「さて、ボルボロス。命の取り合いを始めようか」
まずは刀夜の一太刀、踏み込み斬りがボルボロスの横っ腹に命中する。続けて突き、斬り上げとコンボを決めた。ボルボロスは自分の懐に入ってきた刀夜を振り払おうと、巨体を一回転させる。刀夜は後方に回避……するのではなく、ボルボロスの後ろ足に飛び込んだ。
「あ、危ないニャ……!」
自らダメージを追うような行為に紫アイルーは思わず叫ぶ。しかし、刀夜はダメージを受けるどころか、ボルボロスの動きに合わせ更に懐に入り込むことで攻撃から逃れていた。黛の刀身が柔らかい肉質のボルボロスの腹部を抉る。
(そろそろか……)
黛の刀身が薄く発光し始める。
「う、嘘ニャ……。もう錬気が溜まったのかニャ……」
紫アイルーが驚きで目をぱちくりさせる。そう、刀夜の錬気を溜まるスピードは尋常ではないのだ。通常、太刀は錬気が溜まるまでゲージが減少し続ける。そのため、通常太刀使いのハンターはモンスターの攻撃に警戒するあまり、攻撃を当てる間隔がどうしても開いてしまい、錬気が中々溜まらないのだ。しかし、刀夜はモンスターの攻撃所作、ダメージ範囲などを熟知している。これにより距離を取る場面も攻撃に転ずることが出来るのだ。
「気刃斬り……っ!」
刀夜が気刃斬りを繰り出そうと瞬間、ボルボロスが体を振り始めた。
「泥振りまきニャ!」
ボルボロスが纏っていた泥の塊が刀夜に降りかかる。
「くっ……!」
ボルボロスの泥は粘り気が強く、当たってしまうと中々抜け出せなくなってしまう。泥自体のダメージは少ないが、行動が遅くなり致命的な隙が出来てしまうのだ。刀夜は気刃斬りの構えをやめ、泥に当たらないよう回避に徹する。
刀夜がボルボロスから距離を取ると、ボルボロスは突進の予備動作をし始めた。
「さすがにずっと攻撃出来るわけもないか……」
刀夜はボルボロスの突進進路から逃れるため、緊急回避を行う。その直後、ボルボロスの巨体が刀夜の体スレスレの所を駆け抜けて行った。
「あいつ、予知能力でもあるのかニャ……。全くランク2の動きじゃないニャ……」
紫アイルーはボルボロスと刀夜の攻防を呆然と眺めるばかりである。
「さて、次はこっちの番だな」
刀夜はそう言うと、気刃斬りをボルボロスの腹部ではなく、冠状の頭殻にぶつける。通常ならこの部位に斬撃はタブーであるが、黛の斬れ味段階は白。斬撃は弾かれることなくボルボロスに襲いかかった。そして気刃大回転斬りを繰り出し、ボルボロスを怯ませることに成功する。
「あ、あのボルボロスの頭殻に斬撃が通ったニャ?!半端ない斬れ味ニャ……」
紫アイルーは刀夜の動き、そして黛の威力に魅了され始めていた。いや、既にこの時魅了されていた。
刀夜がそのまま気刃大回転斬りを3度、ボルボロスの頭殻に加えると頭殻が破壊された。斬撃によるボルボロスの頭部部位破壊、ランク2のハンター、いや剣士のハンターができる所業ではない。
(こ、こいつの実力の底が知れないニャ……。こいつなら、もしかすれば……)
そうしてそのまま刀夜の猛攻が続き、ボルボロスはついに足を引きずり始める。
「そろそろか……」
刀夜は黛を背中に直すと、あらかじめ用意していたシビレ罠を地面に設置する。そしてボルボロスが見事罠にハマった。
「これで……依頼完了っ!」
シビレ罠にハマり身動きが取れないボルボロスに、刀夜は捕獲用麻酔玉を投げつけた。すると先程まで罠から逃げようともがいていたボルボロスの動きが止まり、寝息をたて始めた。
「少し疲れたが、まだまだ詰まる訳ないよな」
こうして刀夜は、ボルボロスの捕獲をクリアした。
「ん?あのアホ猫はどこに行った?」
捕獲を終え、刀夜は辺りを見回す。すると刀夜の後ろに紫アイルーが立っていた。
「お前、いや……えっと……」
「刀夜だ」
「と、トーヤ!ごめんなさいニャ……。正直トーヤの実力がこれ程とは思ってもいなかったニャ……」
「まあ、まだランク2だしな。で、どうする?俺について来るのか?」
刀夜は素直に謝罪する紫アイルーに問いかける。紫アイルーはどもりながらもゆっくりと答え始めた。
「と、トーヤの実力はすごいことは分かったニャ……。でも、本当に僕と一緒にあいつを狩ってくれるのかニャ……?」
刀夜は静かに紫アイルーの言葉を聞いている。紫アイルーは続ける。
「僕の仲間がリオレウス希少種、それも今までのような通常個体ではなく、本当にでかいやつに殺されたニャ……。僕はあいつを倒したい、でも1人では決して無理ニャ……。でも、あいつは本当に許せないニャ」
「それで?」
「と、トーヤは僕と一緒に狩ってくれるのかニャ……?り、リオレウス希少種、それも普通の個体じゃないニャ……。そんな化け物を相手にしてくれるのかニャ……?」
刀夜は沈黙を保ったままである。そんな刀夜の様子を見て、紫アイルーは諦めたような表情をする。
「やっぱりそうだよニャ……。そんな化け物の相手なんて誰も……「いいなそれ」え……?」
紫アイルーはキョトンとする。
「リオレウス希少種、それも恐らく上位種か……。そんなやつが存在するのか」
「あ、あのトーヤ……?」
刀夜は口角をつりあげ、殺気を纏っている。予想と違う刀夜の反応に紫アイルーは困惑する。
「おい、アホ猫。お前、名前は?」
「え、えっとヨンだニャ……」
「ヨン、俺がお前の復讐の手伝いをしてやる。俺がお前の共感者だ。今日からお前は俺のお供としてついてこい」
「え……相手はリオレウス希少種だニャ?」
「それ、最高だろ。強いモンスターを狩れるんだ、これ程楽しいことはない」
そうして刀夜は歩き出した。
「おい、ヨン。行くぞ。お供のくせに手を焼かすな」
ヨンは呆然と立ち尽くしていたが、刀夜の言葉でハッとする。
「は、はいニャ!お供ヨン、今日から頑張るニャ!」
そう答えるヨンの表情は満面の笑みであった。その笑顔は砂原を照らす太陽にも負けないほど輝いていた。
いかがでしたでしょうか?
刀夜お供ができました。
それではまた次話出会いましょう。