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それでは第28話、張り切って行きましょう。
「そうか……もうクエストをクリアしたか」
刀夜がボルボロスの捕獲を終えた日の夜、グライスはアリアノーラから依頼完了の報告を受けていた。
「あまり、驚かないのですね……」
「いや、内心は驚いている。が、彼なら充分ありえる話だと思っただけだ。ただ、少し困ったな……」
グライスが悩むような素振りを見せる。アリアノーラは本当に驚いているのかと疑問に感じつつも、意味ありげに呟くグライスに問いかける。
「何か、問題でも?フローラ様が依頼された無理難題を処理できたのですから良かったのでは?」
「あぁ、その点に関しては本当に良かったと思っている。問題は、彼の実力の底が全く見えないということだ」
「なるほど……」とアリアノーラは納得する。そう、グライスは今回の依頼を通して2つの目的があった。1つはリエル国の問題解決を進展させること、そしてもう1つが刀夜の実力を測ることである。前者のみが目的であれば良かったが、グライスの本当の狙いは後者であった。もし、刀夜が依頼を失敗すればそれはそれで、また手を打てばいい話であり、刀夜の実力も大体は推し量れる。しかし、グライスは刀夜がボルボロスの捕獲を完了してくる可能性も充分にあると思っていた。ただ、1日でクリアしてくるとは思ってもいなかったのだ。それに加え、グライスはもう1つ、刀夜の実力を測りかねている理由があった。
「まさか、お供アイルーまで連れ帰ってくるとはな。それもめったに要望のない、ハンターの付き人になることを望むとは……」
「そうですね……私も最初にあのアイルーを見た時は驚きました。なんと言ってもアイルーは本当に実力あるハンターにしか懐きませんから……」
『今日からこいつをお供として連れるから登録しといてくれ。名前はヨンだ』
『お願いするニャ!それと、生活も刀夜とするからよろしくニャ』
アリアノーラは刀夜が以来完了報告をするためにギルドに来たシーンを思い出す。
「ボルボロスの捕獲、ただでさえ驚いたのにお供まで……。もう驚かないようにしようって思ってたのになぁ……」
「おい、仕事中だぞ」
「あ、すいません……」
思わず、といった感じでプライベート口調が出たアリアノーラをグライスが注意する。
ちなみに刀夜が太刀によりボルボロスの頭部部位破壊を行ったことは報告されていない。捕獲したボルボロスを運搬したメンバーは、まさか斬撃により頭部を破壊したとは思わなかったのだ。そのため刀夜の武器がハンマーであると勘違いし、報告するまでもないと判断したためグライスの耳にその事実が伝わることはなかった。
「気持ちは分からんでもないがな。まあ、トーヤの実力に関していはいずれ嫌でも分かるようになる。なんせ新たなランク制度が施行されることが決まったからな」
その言葉にアリアノーラが反応する。
「つ、遂にですか……。内容は聞いていますが、リエル家のギルド潰し対策も目的に含まれているとは言え、ハンター達は納得するのでしょうか……」
「なーに、本物の実力があるやつは文句など言わないさ。その実力に見合ったランクを勝ち取るだろうな。それにこうでもしないと[凶暴種]、いや今の呼び名は[上位種]だったか、とやり合えるハンターが分からねぇ」
「[上位種]、ですか……。突如現れた、現存種よりも一回り体長が大きく、かつ強さも比べ物にならない個体……。一体どれほどのハンターが太刀打ち出来るでしょうか……」
様々なクエストに精通しているアリアノーラは[上位種]の強さが半端ではないことを充分に理解している。それゆえに今後の人材不足を懸念した。
「だから、それを見極めるためのランク制度でもあるんだ。いずれにせよ、俺たちはやれることをするだけだ。忙しくなるぞ、やることは山のようにある。アリア、お前も覚悟しておけよ」
「うっ、分かってますよグライスさん……」
不敵に微笑むグライスに、アリアノーラは今後のことを考えると苦笑いしかできない。
「まあまずは、依頼完了の件をフローラとシーナの嬢ちゃんに伝えないとな」
そう言ってグライスはアリアノーラに通達を命じるのであった。
「ヴァイスです」
夜がすっかり老けた中、リエル王都宮殿内の一室の扉をノックする音が小さく響いていた。一瞬間が空いて扉の奥から「どうぞ」という声が聞こえると、ヴァイスは扉の中へと入る。
「ふぁぁ……ヴァイス、こんな時間にどうしたのです?」
あくび混じりの声の主は、寝間着を着たシーナである。眠そうにしているシーナに申し訳ないと思いつつ、ヴァイスがシーナの部屋を訪れた理由を話す。
「お嬢様、先程ギルドからこのような文書が届きました。お嬢様が今一番知りたかった内容が書かれています」
「!?ヴァイス、それを貸してください!」
ヴァイスの言葉を聞いてシーナは眠気が一気に吹き飛んだ。シーナはヴァイスが持つ文書を受け取ると封を切り、記載された内容に目を通す。その目には段々と雫が浮かんできた。
「と、トーヤ様……よかったぁ……」
「えぇ、本当に良かったです……。それに、依頼の方もしっかりとクリアしてくれました」
ヴァイスはそう言うと満面の笑みを浮かべた。シーナもほっとした様子である。
「しかし、彼の実力は本当に凄まじいものだと再度実感する内容ですな。こんなにも早く、ボルボロスを捕獲するとは……それを見た時は本当に驚いたものです」
「ふふっ……さすがトーヤ様です。また御恩ができてしまいました」
感心するヴァイスと、何故か得意げに話すシーナである。二人は和やかムードに包まれていたが、ヴァイスは急に表情を暗くする。
「しかし、これでフローラ様が諦めるとは思えません……」
「そうですね……。説得も、これまで以上にまるで耳を貸していただけませんでした」
「これからが本当の勝負ですぞ、お嬢様」
「はい……」
シーナは小さく拳を固く握りしめていた。
「ほう……あの無理難題、ギルドはクリアしたか……」
現在ギルドから届いた文書に目を通しているのは、他でもないリエル国第一王女、フローラ=リエルである。フローラはリエル王都にある宮殿の自室にてその文書を読んでいた。その容姿は可愛い、というよりは美しいと形容するべきであろうか、その長い青の横髪が目を通す文書にサラサラと当たっている。まさに王女、というような厳格な雰囲気が彼女からは感じ取られ、現在はややつり目気味のくっきりとした青眼を細めていた。
「うちの愚妹が何かしたのか……ふん、まあいい。予定は少し狂ったが、このような場合の対処も“あれ”はしてたしな。しかし、それにしてもこいつが今回依頼をクリアしたやつか……」
フローラは文書に記載されていた、依頼達成者の欄に目を移す。
「キリサメトーヤ……ただで済むとは思うな。シーナもだ、妹であろうが、これはリエルの未来のため。どんな者であろうが邪魔するものは排除するまでだ」
そう言うとフローラは文書を破り捨て、自室を後にした。
「ここもずいぶん久々に来るな……。ヨン、大型モンスターを狩る準備はいいか?」
「はいニャ!トーヤとの連携もかなり取れるようになってきたし、早々殺られたりしないニャ!」
ボルボロスの捕獲から2週間、現在刀夜とヨンは久々にギルドを訪れていた。何故このような期間、ギルドを訪れていなかったかというと刀夜はあることを行っていたのだ。
「あれだけしごいたからな。出来てもらわないと困る」
「うっ……地味にプレッシャーをかけないで欲しいニャ……」
そう、刀夜はヨンを連れてセントラル草原にてヨンのトレーニングを行っていた。まあトレーニング、とは言ったものの実質はヨンとの連携の取り方、回復のタイミングなどの確認事項がほとんどであったが。ヨンは刀夜が思っていた以上に戦闘ができたのだ。しかし、連携や回復のタイミングなどはからっきしダメであった。これはヨンがハンターと組んだことがなかった、という理由もあるのだが、それ以上に刀夜の狩りが自由すぎることに原因があった。そのためヨンが刀夜の戦闘に合わせて連携を行うという訓練をしたのだが、これが中々上手くいかない。ヨンは刀夜に何度も怒られ涙目になりながらも、2週間という時間をかけてようやく形になってきたのであった。
「まあ合わなければ、またしごき直すだけだ。そう気を重くするな」
「それが気が重くなる理由ニャ……」
刀夜はヨンの小さな呟きを尻目に、ギルドの中に入る。ギルド内はかなり混雑しており、クエストを受けにカウンターに並んでいる者、武器を調整している者、丸テーブルで酒を飲んでいる者と様々である。
(さて、ヨンにとっては初めての大型モンスター狩猟だが……まあそこまで気にかけることもないだろう。適当に目に入ったクエストを受けるか)
この辺りは刀夜らしいと言えば刀夜らしいところである。そんな取り留めもないことを考える刀夜であったが、ある1人の男が声を上げる。
「お、兄貴!あれノンハントじゃないですか?!」
男の声により、様々なハンターの視線が刀夜に向けられる。周囲は「あれがノンハントか」、「くくっ、確かにゲダンの奴が言ってた通り弱そうな奴だ」とほとんどが刀夜を侮蔑するような言葉を口ずさむ。
(あ?なんだこいつら。まあこういう時は……無視だな)
関わっては面倒だと無視することにした刀夜とは裏腹に、横の紫の猫はビクッと反応してしまう。
「ニャニャ?!なんでみんなトーヤを見ているニャ?!」
(……はぁ、このアホ猫が。これは帰ったら“指導”が必要だな)
そんな意味を効かせ刀夜はヨンに殺気混じりの視線をぶつける。
「な……これはヤバイのニャ……」
ヨンが額から汗をダラダラと流す。そんなやり取りをしていた2人に、1人の大柄な男が歩み寄ってくる。その後ろで先程声を上げた男と、もう1人が大柄な男の脇を固めて歩いてきた。
「よぉノンハント、久しぶりだな」
刀夜は面倒なことになりそうだ、とため息をつく。
「なんだお前ら?一応確認だが、ノンハントってのは俺のことか?」
刀夜がぶっきらぼうに問いかけると、大柄な男の後ろの2人が声を出す。
「お前、兄貴に向かってよくそんな口がきけるな!」
「ギャハハハ!とんだ怖いもの知らずもいたもんだ!」
大柄の男は黙っておけ、という意味を込めたのだろうか、そんな2人を右手で制し、口を閉じさせる。そしてグイッと刀夜の前に詰め寄った。
「おいお前、ノンハント、“狩らざる者”の癖してこのゲダンにそんな口きくとはいい度胸してるじゃねぇか」
ゲダン、という大柄な男を見て刀夜は記憶を辿る。
(あー、こいつは確か、ボルボロスの依頼を受ける時にアイシャに絡んでた奴か)
刀夜はなぜ自分に絡んでくるのか不思議に思いつつ、1歩も引かない様子で口を開く。
「ノンハント、なぜ俺がそんな不本意なあだ名で呼ばれているかは知らんが俺は忙しいんだ。それに、俺のプレートを見てみろ」
そう言って刀夜がゲダンに自分のハンタープレートを見せようとするが、そこで刀夜は自分のプレートが黄色ではなく、星一つが描かれていることに気づく。
(ん??こんなプレートを俺は持ってたか……?)
全く見たことのない柄のプレートに刀夜は若干困惑する。そんな中、ゲダンを含めた3人が爆笑し始める。
「お前、それ星1プレートじゃねぇか!ギャハハハ!おいおい、あれだけ威勢良く吠えておきながら、やっぱりノンハントじゃねぇか、こりゃ傑作だ!」
ゲダンが大声でそう言うと、同じフロアのハンターの大半がまた大笑いし始める。刀夜は周りの様子を全く意に介さず、思考を巡らせる。
(出し間違いか……?いや、でも他にプレートなんて持ってないしな)
「ギャハハハ!……おいノンハント、また無視か?」
そんな刀夜の様子を見て気に食わなかったのか、にやけたゲダンが拳を刀夜のみぞおち目掛け振るってくる。しかし、その拳は刀夜に当たる前に阻まれる。
「トーヤに手を出すニャ!」
刀夜の前ではヨンがどんぐりスコップを手に、ゲダンの拳をガードしていた。ゲダンは自分の攻撃が防がれたことにイライラしたのか、若干声が荒くなる。
「あ?なんだこの猫は?」
そう言って今度は蹴りの動作をするゲダンに、刀夜とヨンは一旦距離を取る。
「お前、一体なんの真似だ?」
「なんだそのアイルーは?まあ、それはいい。いや、なんだ、お前のその態度のでかさは先輩として指導してやらねぇとと思ってな……」
拳をポキポキ鳴らし近づいてくるゲダンに、刀夜は抜刀斬りの構えをする。
(斬っとくか……?)
そうして抜刀斬りを繰り出そうとした時である
「そこまでだ!」
1人の女性の声が響いた。刀夜が振り返るとそこには、燃えるような赤髪をたなびかせた、エルザ=レッドローズとそのパーティーメンバーが立っていた。
少々胸糞回だったかもしれません。
次回で新たなランク制度の全貌解禁です。それではまた会いましょう。