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では第31話、張り切って行きましょう。
「トーヤ、起きるニャ!」
早朝、ハンターの宿舎の一室に何度目とも分からないヨンの声が響き渡った。刀夜は不機嫌そうに体を起こすとまたベッドに横になった。
「ん……あ?なんだヨン、こんな朝早くに。俺はまだ眠いんだ……。次大声出したら剥製に……」
「今日が護衛依頼初日だニャ〜!」
「っ!!」
ヨンのその言葉に、刀夜の先程までのダラっとした動きが俊敏なものに変わる。刀夜は自らが被っていた掛け布団を放り投げ、急いで準備を始めた。
「アホ猫、なぜもっと早くに起こさない」
「だからさっきから起こしてたニャ!起きなかったのはトーヤニャ!」
「この部屋に紫色のアイルーの剥製が1つ出来るな」
「理不尽すぎるニャ!」
刀夜は依頼に関しては完璧主義である。クエストリタイアやクエスト失敗は許せない質で、遅刻もその部類に入る。そのため現在、刀夜を支配していたのは焦り以外の何者でもなかった。
刀夜は必要なアイテムを荷物にまとめ、防具であるジャギィシリーズで身を包む。
(そろそろジャギィシリーズの防具だけでは心許ないかもな……)
ゲームにおいて、ジャギィシリーズのスキルは攻撃力UP【小】、まんぷく、気絶半減の3つでこれらのスキルは初心者の内は非常に重宝される。しかし、それはあくまで序盤だけで、ジャギィシリーズの防御力はそれほど高くなく、いずれは倉庫でホコリをかぶることになる防具なのだ。加えて刀夜はゲームでは発動していたジャギィシリーズのスキルを未だ実感出来てはいない。攻撃力UP【小】は黛の元々の攻撃力が高すぎて比較のしようがなく、まんぷくは携帯食料を食べるほど狩場に長居したこともなく、気絶半減に関しては、そもそも気絶するような強力な攻撃を受けたことがないからだ。
これらの理由から刀夜は、ゲームでは防具を装備することで発生していたスキルの存在を疑問に思い、先日武具屋のアイアンの元を訪れた。その時の内容を刀夜は思い返す。
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「防具を装備することで得られる防御力以外の恩恵だって?」
「あぁ、少し気になってな」
「おいおい、そんなことも知らず防具を装備してたのか?折角の業物が泣いてるぜ」
「ならやはり、スキルが発動するのか?」
「あったり前だ、ちゃんと知ってるじゃねぇか。ちなみにそのジャギィシリーズのスキルは……」
「攻撃力UP【小】、まんぷく、気絶半減……か?」
「そこまで分かってて何故聞いたんだ……まあ、その通りだ。ハンターにとって有用なスキルが3つも付いてくるんだ、便利な防具だろ?」
「……あぁ、重宝している……」
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(今はまだスキルの有用性を実感出来てはいないが、強力な防具になれば……)
「トーヤ!何ぼーっとしているニャ!早くするニャ!」
「あぁ……ってさっきからうるさいぞアホ猫」
「ニャ〜!さっきからなんで僕が怒られてるニャ!」
思考を打ち切られた刀夜は、理不尽な苛立ちをぶつけるとヨンは自らの頭部をわしゃわしゃとする。
そんなこんなしている内に、護衛依頼の準備が完了した。
「さて、行くか。ヨン、早く行くぞ」
「なんか釈然としないニャ……」
こうして2人は早足で宿舎を後にした。
「おうおう、どんなメンバーが護衛仲間かと思いきや、
「ちっ、ゲダンのパーティーが一緒かよ……」
「よせ。言わせておけばいいんだ」
「そうだよ、それにプロントここ最近むしゃくしゃしっ放しだよ?少し落ち着いて」
現在、リエル王都宮殿前には護衛依頼を受注したエルザのパーティーとゲダンのパーティーが集まっていた。
ゲダンが、やってきたエルザのパーティーに挑発的に話すと、プロントが苛立った様子で舌打ちし、眉間に皺を寄せてゲダンを睨みつける。それをなだめるように、ローウェンとルーナが割って入った。
「あぁ、悪いなルーナ……。こいつといい、あのキリサメトーヤといい、最近ちょっと気分が優れねぇことが多いみてぇだ……」
ルーナの指摘にプロントが少し気分を落ち着かせる。
「“荒くれもの”、その辺にしておけ。あまり侮辱するようであれば私も黙ってはいない」
「おぉ、それは失敬失敬。侮辱に聞こえたなら謝るぜ」
威嚇の意味も含めたエルザの言葉にゲダンがおどけたように話す。その様子も腹立たしいものではあったが、エルザは無視して話題を変える。
「それにしても、今ここにいる護衛受注者は私達のパーティーと、“荒くれもの”のパーティーの7人か……。あと1人、ソロのハンターがいるはずだが……」
すると突如宮殿の門が開き、宮殿の中から大きな竜車が3台ほど縦並びで出てきた。すると竜車はエルザたちの前で止まり、一番前の竜車から銀色のプレートに身をまとった軍の兵士らしき人々、そして最後に一風変わった、黄土色の重厚な装甲に身を包んだハンターらしき人物が現れる。その肩には特徴的なねじれた角が顕になっており、ここにあらんと主張するばかりに天を向いている。またその背中には、肩からむき出しとなっているねじれた角を、荒削りにしたような大剣が装備されている。
(あれは……っ!)
エルザたちはその人物の風貌に驚きつつ、各々が装備していた武器を自らの脇に置き、片膝をついた。
「おはようございます、ハンターの皆々様。少し早いですが出発前の紹介とさせていただきます。頭をお上げください」
その言葉と同時に、ハンターは被っていたヘルムを脱ぎ、7人は直立する。
「この度はリエル国第2王女、シーナ=リエル様の護衛依頼を受注していただきありがとうございました。私、シーナ様の付き人をしておりますヴァイス=シュバイツと申します。そしてこちらに控えておりますのは私の指揮する、シーナ様の近衛兵共でございます」
そう話すハンターらしき人物、ヴァイスの口調は外装とは異なり、穏やかなものである。
ヴァイスが自己紹介する中、直立するプロントが隣のルーナに小さく話しかける。
「おいおいマジかよ……ありゃ“堕ちた剣雄”じゃねぇか」
「しっ、プロント、今はやめて。私もびっくりしたけど……」
「相変わらずお硬ぇことで……」
プロントがいつもの調子を戻しつつルーナにちょっかいを出す。
(あの堅固なディアブロスシリーズと背中の大剣、クオーラルホーン……本物のヴァイス=シュバイツなのか……。噂通り、本当に王家に仕えていたとは……)
ヴァイスの姿を見て、エルザはそんな風に思考を巡らせる。
それとは別に、ヴァイスはエルザたちを一人一人見るが、人数が1人足りていないことに気づいた。
「最後にシーナ様のご挨拶を……と言いたいところですが、お1人この場にいらっしゃらないようですね」
その表情は怒り、というよりもどこか困惑しているようである。ヴァイスは自分の近くにいた近衛兵に耳打ちし、近衛兵はシーナがいると思われる竜者に、何かを伝えに行く。
そこにゲダンが痺れを切らしたのか、苛立ち気味に口を開いた。
「あぁ〜!そんな奴は放っておいて、このメンバーでとっとと行こうぜ!ソロのやつなんてどうせ大したことないだろ」
「兄貴、違ぇねぇ」
「ギャハハハ!そうそう、ソロってことは役立たずのグズだろうな!」
「まあ、そう焦らず……。まだ集合時間にはなっておりませんので」
「おいおい、王宮の人間が随分と寛容じゃねぇか……」
ヴァイスの姿勢にゲダンは疑問の姿勢を示す。ゲダンが疑問に思ったのも無理はない。何せ今回の依頼はリエル国王族の護衛である。王族が現れたのにも関わらず、受注者が姿を見せないというのはありえない話であった。
そして役立たず、とは言わないまでもエルザ達も同意見であった。
(あいつらの言うことも一理ある……。どこに王族の依頼に遅れそうになるハンターがいるんだ。それに最近、ハンターは特別な事情がない限り、パーティーを組んで依頼をこなすことが多い。特にこのような重要な依頼においてはソロで受注することはあまり考えられない。ただ1人を除いては……)
「“豪炎”殿、そう怖い顔をなさらないでください」
「あ、いや、申し訳ございません。少し考え事をしておりました……。それと私のことはエルザとお呼びください。二つ名で呼ばれることはあまり好きではないので……」
「なるほど、分かりました。ではエルザ殿、貴殿は今しがた、何故王族がたった1人のハンターのために時間を割いているのか?そう考えておりましたな?」
「……」
ヴァイスの指摘にエルザは口を閉ざす。
「沈黙は肯定と受け取ります。まあ、王族がそのように思われているのも……」
「っ!いえ!決してそういう意味では!」
エルザが慌てて訂正する。場合によっては不敬罪とも取られかねない言動だからだ。
「いえいえ、そのようなイメージがあるのも仕方の無いことです。これもリエル家が成してきた事、それ故の意見なのですから」
「……」
またもエルザは口を閉ざす。ヴァイスはそれを見て咎めるでもなく、柔らかな笑みを浮かべた。
「そうは言っても、エルザ殿の考えも分かります。確かにただのソロハンターなら、こう待つこともありませんでした」
「それはどういう……」
「来ましたな」
ヴァイスは続くエルザの言葉を切り、視線をエルザから外した。ヴァイスの言葉で7人のハンター全員が後ろを振り向いた。そこに居たのは……。
「ふぅ、ギリギリ間に合ったな」
「はぁはぁ……ギリギリすぎるニャ!次からもっと早く起きるニャ!」
刀夜とヨンが肩で息をしながら、3台の竜者が待機する集合場所に到着した。
「まさかトーヤがこのクエストを第1王女の指名依頼で受注していたとは……驚かしてくれる」
竜者の中でそう話すのは、ウラガンキンの防具、ガンキンシリーズを身にまとい、下位武器のハンマーの中では強力な攻撃力を誇るグレンナックルを装備したローウェンだ。
現在、3つの竜者はネーヴェ国へ向かうべく、セントラル草原を走っていた。1つ目の竜者にはヴァイス含めた王宮の近衛兵が、2つ目の竜者にはシーナとその侍女たちが、そして3つ目の竜者に刀夜含めた8人のハンターが乗車している。
3つ目の竜者にいる刀夜現在は窓枠に肘を起き、静かに仮眠を取っていた。ヨンも隣でぐっすりと眠っている。窓の外では草原の草を食べるアプトノスの群れがいた。
「それだけじゃない。第2王女様のあの様子……トーヤと一体何があったんだ……」
ローウェンの言葉に刀夜は反応を示さない。
エルザたちは出発前の、シーナの挨拶のシーンを思い出す。
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「来ましたな……って、おいおい、まさかあいつが護衛依頼の受注者か?!」
「そのまさかでございます。それに、トーヤ殿はこの依頼におけるフローラ様の指名依頼者でございます」
「はぁぁぁ?!」
ヴァイスの暴露に、ゲダンは信じられない、といったように唖然とした表情になる。
「どういうことだよ……あいつが第1王女の指名したハンターなんて」
「相変わらずヨンちゃん可愛い……って、ちょっと、プロント落ち着いて」
刀夜の登場に敵意を露わにするプロントを、ヨンを見て自分の世界に入りかけたルーナがなだめる。
「しかし、まさかトーヤが護衛のメンバーとは……」
「あぁ、私も驚いている。が、ようやく彼の実力を見れる機会が訪れたな」
「お、そうか、そいつは楽しみだな……」
ローウェンとエルザの視線の先には、見知ったように刀夜に話しかけるヴァイスの姿が映っていた。
ヴァイスは少し刀夜と話すと、近衛兵にシーナのいる竜者へ伝令に向かわせた。
「では、出発前の挨拶をシーナ様にしていただきます。シーナ様、どうぞ」
ヴァイスのその声で竜者の扉が開かれる。すると竜者からは、動きやすい軽装備に身を包んだシーナが現れた。
ハンター達が片膝をつこうとするも、シーナによって止められる。
「皆様、どうぞそのままでお願いします。私がリエル国第2王女のシーナ=リエルです。この度は私のためにこのような依頼を受注して下さり、本当にありがとうございます。全員が無事に、今回の長旅を終えることを願います」
シーナはそう言うと一礼し、相変わらずの無表情である刀夜に視線を合わせる。
「トーヤ様も、不甲斐なく思いますがこの度もお願いします」
「は?!」
驚きの声を思わずあげたのはゲダンだ。刀夜以外の他のハンター達も驚きで唖然としている。
シーナは一言そう述べるとそのまま竜者に戻って行った。
「なんでノンハント、お前みたいなやつが王女と知り合いみたいになってんだ、クソが……」
「何か問題でもあるのか」
「ノンハント、ちと調子に乗りすぎだよなぁ。やっぱり1度痛い目見とくべきだ」
ゲダンが刀夜に足を進めようとする。しかし、そこにヴァイスが割って入った。
「揉め事はよろしくありません。それと、今から出発するのでハンターの皆様はあの3番目の竜者にお乗り下さい」
ゲダンは不服そうに、舌打ちしながら乱暴に竜者の中に入っていく。それに続いてエルザ達、そして最後に刀夜が入り竜者が出発した。
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「いずれにせよ、この依頼はいい機会だな……」
ローウェンはそう小さく呟いた。
そんな中、エルザが機嫌の悪いプロントに小声で話しかける。
「プロント、お前がトーヤのことを認めていないのは分かった。だが、嫌でもこの依頼で彼の実力が判明するだろう。そこで……もし、その彼の実力が本物であったら、彼に謝罪するんだ」
「あぁリーダー、謝罪でも何でもしてやるよ……」
そこからは竜者の中に静かな時間が流れる。時折ゲダンがパーティーメンバーに苛立ったように呟いたり、ルーナがヨンの寝ている姿を見て悶えていたりはしたが、その他は特にモンスターが襲ってくるでもなく、順調な時間が過ぎ去っていった。
しかし、その平和な時間は唐突に終わりを告げる。
バサッ……バサッ……。
(……ん?何か来るか……?)
仮眠を取っていた刀夜が意識を覚醒させる。ほんの僅かではあるが、翼が羽ばたく音が聞こえたのだ。
そしてその音を察知したのは刀夜だけではなかった。
「みんな起きろ……。何か近くにいやがる」
「兄貴……何かいますぜ」
危険察知能力の長けたプロント、そしてゲダンのパーティーの1人もモンスターの接近に気がついたようだ。
第3竜者内のハンター達は各々戦闘の準備をする。
「おいアホ猫、お前も起きろ」
「んニャ?!」
刀夜がヨンの頭部に強烈なチョップを加える。ヨンは体と毛並みをビクッとさせて飛び起きた。
「あー、ヨンちゃんに抱きつきたい……」
「ルーナ、ほんとアイルー好きなのな……」
自分の頭部を優しく摩るヨンにルーナも反応する。プロントもやれやれといった様子だ。
「トーヤ、もう少し優しく起こしてくれニャ……」
「知るか……近くに何かいるぞ」
「お、戦闘かニャ……」
恨み言を呟くヨンであったが、刀夜の言葉に真剣な表情を浮かべる。
そんな中、竜者が突然停止した。
「みんな、出るぞ……」
エルザの言葉でハンター各々が竜者の外に出る。第1竜者からもヴァイスが出てきていた。
「ハンターの皆様、この度最初の大型モンスターでございます」
「音の正体はあいつか……また厄介な」
皆の視線の先には、鮮やかなボディをした鳥竜種、“彩鳥”クルペッコが映っている。
「クルペッコなんざぁ、楽勝だ。俺が相手してやる」
「待て“荒くれもの”。クルペッコの様子がおかしい」
そう言ってゲダンが皆の前から1歩踏み出そうとするとエルザがストップをかける。
「あぁ?おいおい、“豪炎”のエルザがクルペッコ相手に尻込みしてんのか?」
「ゲダン、うちのリーダーの言葉は素直に聞いとくべきだぜ。死にたくなけりゃあな」
プロントはそう言うと、強引にゲダンに自分のライトボウガンのスコープを覗かせる。
「っ!!」
(あのクルペッコ、目が充血しているのか……?それにあの体……)
「怒り状態にあの返り血……どうやら、他の人物と戦闘した跡のようですね」
返り血によりところどころ赤色に染まった、息を荒らげたクルペッコが上空から降り立った。
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