孤高剣士の歩む道   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
毎度ながら、こちらの小説を読んでいただきありがとうございます。

久しぶりの投稿です。大変長らくお待たせいたしまして申し訳ありません。
こんな駄文にお付き合い頂き、本当にありがとうございます。
申し訳ついでに、最近ウィズブラッドというオリジナル作品も投稿しておりますので、興味がある方はぜひぜひお読みください。

それでは久々の第32話、張り切っていきましょう。


第32話 交戦

「ちっ……前のやつがドジ踏んだみてぇだなぁおい」

 

「兄貴、あれに突っ込むのはまずいですぜ」

 

「あぁ、怒り状態は流石に笑えねぇ……」

 

ゲダンと、そのパーティーメンバー2人もクルペッコの状態を見て慎重になる。

そんな中、ガチャリ、と竜者の扉が開いた。

 

「ヴァイス、いかが致しました?」

 

出てきたのは軽装備に身を包んだシーナである。シーナの背中には片手剣が装備されていた。

 

「あれです、お嬢様」

 

ヴァイスはそう言って、クルペッコの方角に指を差す。

 

「クルペッコ、ですか……。実際に見たのは初めてです。大型モンスターとはあれほどのものなのですか……。迂回して進むことは出来るのですか?」

 

「残念ながら、移動中に発見される方が厄介です。ここは戦闘は避けられないかと……」

 

「そ、そうですか……」

 

実は、シーナが大型モンスターと対峙したのは今回で初めてである。彼女は眼前に映るクルペッコに不安と恐怖を覚える。

そんな彼女に気を利かせたのか、エルザが声をかける。

 

「シーナ様、安心してください。我々が対処いたしますので」

 

そう言うと、エルザは背中に装備している炎剣リオレウスに手をかける。

 

「なぁに、確かにクルペッコは厄介な相手だが、鳴き真似をさせなければ本体はどうってことない。ここは俺たちにおまかせを」

 

エルザに続き、ローウェン、プロント、ルーナも臨戦態勢だ。

 

「そ、そうですね、ここはお願いします」

 

(俺も殺り合いたかったが、出番はなさそうか……)

 

刀夜には目の前の大型モンスターを狩りたいという、純粋な狩猟衝動が湧き上がっていたがエルザ達が出るとのことで慎む。

 

「ヨン、見学の時間だ」

 

「あれ?トーヤなら自分が行くとか言いそうなのに、珍しいこともあるもんだニャ」

 

「うるさいアホ猫、俺も空気は読む」

 

「一体どの口が言うのニャ……」

 

そんな軽口を言い合っていると、ゲダンがトーヤの肩を横暴に掴んだ。

 

「……あ?なんだ?」

 

「ノンハントの癖して何が見学だ、調子に乗りすぎだ。ただのビビって戦えないチキンだろうが。王女の前じゃなきゃぶっ殺してるところだぜ?」

 

そう言って、ゲダンは肩を掴んだ右腕の力を徐々に強くしていく。しかし、そんな中刀夜はピクリともしない。

 

(あ……?余裕ぶっこいてんじゃねぇぞクソが!)

 

ゲダンはそんな刀夜の様子に怒りが最高点に達し、自らの装備する、荒れくれの大剣に手をかけようとする。

 

「お前こそ、シーナの前で良かったな」

 

しかし、そんなゲダンの行動は、刀夜が発した濃密な殺気によって押し込められる。

 

「お前が同じ依頼者でなきゃ、この辺りに血溜まりが出来たのにな」

 

「お、お前……」

 

「そこまでにしてください、御二方」

 

正に一触即発の雰囲気に、ヴァイスが釘を指した。

 

「トーヤ殿、その殺気は懐にお納めくだされ。貴方に非は無いが、それ(・・)は些か強力すぎます」

 

ヴァイスの指摘に刀夜は辺りを見回すと、全員冷や汗を浮かべていた。刀夜は殺気をゲダンにしか向けていないが、刀夜の雰囲気に周りは悪寒がしていたのだ。刀夜は先程までの殺気をすぐさま収めた。

 

「そしてゲダン殿、貴方は少しトーヤ殿に突っかかり過ぎでございます」

 

「……ちっ。だがあいつは……」

 

「それほどまでに刀夜殿が気に食わないのであれば、私に1つ提案がございます」

 

「提案……?」

 

ゲダンは怒りを落ち着け、ヴァイスの続く言葉を待つ。

 

「貴方はトーヤ殿にハンターとしての手腕がない、そう決めつけているように思えます。そうですね?」

 

「あぁ……弱いやつが調子に乗るのを見てると虫唾が走るんだよ……」

 

ギロり、とゲダンが刀夜を睨む。

 

「分かりました、では良い機会です」

 

そう言うとヴァイスは刀夜の方に振り返った。

 

「刀夜殿、あのクルペッコ、貴方1人で退けて頂けますか?」

 

「はぁ?!」

 

「いやいや、無理だろ流石に」

 

「ギャハハハ、無理無理違ぇねぇ」

 

ゲダンとその一行は出来るはずない、そう主張する一方でエルザのパーティーは違った反応を見せる。

 

「トーヤがクルペッコと戦闘か……」

 

「トーヤさんの狩猟、興味ありですね……」

 

エルザとルーナが呟く。

 

「プロント、これは良い機会じゃないか?彼の実力を見極めるための」

 

「……」

 

ローウェンが小声でプロントに話しかけるが、プロントは反応を示さない。だが、彼の瞳にははっきりと、霧雨刀夜の姿が映っている。

 

「え?!トーヤ様1人で戦うのですか?!それは、危険では……」

 

「お嬢様、これは必要なことかと思います。ハンターの皆々様には個々で依頼を受けてもらっているわけではありません。お互いがお互いの技量、性格、癖、そういったものを把握する必要があるかと思います。また、こんな所で刀夜殿の実力に気付かず仲違いするのであれば、1度こういう機会を設けるべきかと」

 

「そ、それはそうですが……」

 

シーナは刀夜の身を案じるが、ヴァイスの意見も最もなので中々踏ん切りがつかないでいた。

そして、当の刀夜はと言うと……。

 

「ほう……俺があのクルペッコを殺っていいのか?」

 

「トーヤ、顔が怖いニャ……。まあいつもの事だけど……ふぎゃ!」

 

刀夜は毎度の事ながら、一言多いヨンにきつい1発を彼の頭部にお見舞する。

 

「い、痛いニャ……」

 

「な、涙目のヨンちゃんも可愛い……」

 

瞳に大きな雫をたまらせた猫にゾッコンのルーナも通常運転である。

こうしてクルペッコを前に全く緊張感のない面々であるが、そこにプロントが苛立たしげに言葉を挟んだ。

 

「おい、お前本当に分かってんの?クルペッコ相手に1人で戦うんだぞ?もっと緊張感とか持ったらどうだ」

 

「まあ、クルペッコだしな」

 

刀夜の返答にプロントの苛立ちはさらに高まるが、王女の前ということもありぐっとこらえた。

 

「ちっ……そうかい、それじゃあせいぜい頑張るんだな……助けを求められても、知らねぇからな」

 

そう言うとプロントは刀夜から視線を逸らした。

 

「ほ、ほんとにお1人で戦うのですか?!ヴァイスやエルザさん達もいるのに……」

 

シーナが心配の声を上げるが、それをゲダンが不敵な笑みを浮かべつつ口を開く。

 

「まあまあ王女様、本人がやる気いっぱいなんだ。俺たちはここで見ておきましょうよ。もちろん、邪魔なんか野暮なことはせずにな……ククク……」

 

(せいぜいもって5分、お前はここでジ・エンドだ)

 

「さあさあ、クルペッコもお待ちかねだぞノンハント。早く行ってこいよ。腰抜けて体が動かないとかそういうオチじゃないだろうな」

 

「ギャハハハ!ビビりすぎだろ!」

 

「まあ、兄貴でもソロは苦戦する相手だ。そうなるのも仕方ねぇよなぁおい」

 

そうしてゲダン達が刀夜を侮辱するが刀夜はそれを無視し、無言でクルペッコの方へ歩を進める。

そんな刀夜を気遣ったのか、エルザが刀夜に声をかける。

 

「トーヤ、あいつらの言うことは無視していい。本当に危ない状況になれば我々で助けに入るから安心して……?!」

 

しかし、その言葉が最後まで続くことはなかった。

 

「と、トーヤ……?」

 

エルザは刀夜が纏うオーラの変化に気づき、戸惑いを見せる。

そんなエルザを意に介した様子もなく、刀夜は静かに歩み続ける。そうしてポツリと小さく、しかしはっきりと言葉を漏らした。

 

「狩猟の時間だ」

 

その言葉を機に、刀夜は全速力で走り始める。

 

「トーヤ様!!」

 

シーナが刀夜の名前を叫ぶが、その声は刀夜の存在に気づいたクルペッコの鳴き声により掻き消される。

クルペッコは素早く体を反転させ、刀夜の方に体を向ける。

 

「怒り状態だけあって動きが素早い、が……ふっ!」

 

刀夜はクルペッコの左前脚に飛び込み、その緑色の表皮に黛を振り下ろした。

 

「グギャァ?!」

 

「生憎と、何度も見てきた動きなんでな」

 

刀夜の抜刀斬りにより、クルペッコ戦の幕が開かれた。

 

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「な、なんだよあの動きは……」

 

戦闘開始からまもなくして、眼前に繰り広げられる光景に、思わずといった様子でプロントが言葉を漏らした。

ヨンを除く他の面々もプロントと同じく、 目を見開いて刀夜の戦闘を凝視している。

 

「ヴァイス、その……ハンターの方々は、皆トーヤ様のような感じなのでしょうか……?」

 

「いえ……決してそのようなことはありません。彼の動きは異常です……。私も驚いておりますが、これほどとは……」

 

シーナの質問は言葉足らずなものであったが、ヴァイスも彼女と同じ気持ちであった。

 

「す、すげぇ……っ!ぐふっ!」

 

刀夜の今しがた繰り出した気刃斬りを見て思わず感嘆したゲダンの子分であったが、その頬に強烈な痛みが走る。

 

「クソ野郎が!何言ってやがる!一体どういうカラクリだぁ?!ノンハントがあんな動き出来るわけねぇだろうがぁ!!」

 

「そ、そうですよね兄貴……」

 

「あぁ、そうに違ぇねぇ!そんなことがあってたまるか!」

 

子分2人がゲダンの意見に賛同したような態度をとる。

そんな3人をヴァイスはどこかかわいそうなものを見る目で見ていた。

 

(あの者達は愚かだ……。あの動きを見てもトーヤ殿を罵るとは……。それにしても……)

 

ヴァイスは視線を切り、刀夜の方向へと向ける。

 

(トーヤ殿の動きを見る限り、まだ全力ではないように見える……。まさか彼は、あの3人にも引けを取らない人材ではないのだろうか……)

 

ヴァイスは頭の中に、以前に1度だけ会ったことのある面々を思い浮かべた。

 

(彼ならもしや……)

 

そんな中、プロントはローウェンに対し言葉を投げかけていた。

 

「ローウェン、どう思う……?」

 

「……彼の洗練された動き、その技術はエルザにも匹敵、いやそれ以上かもしれん……」

 

「……」

 

ローウェンの回答にプロントはゴクリと唾を飲み込む。

一方そのエルザはというと、刀夜の戦闘を見てまた別の感想を抱いていた。

 

「エルザさん、トーヤさんの動き、凄いですね……」

 

「……ん、あ、あぁ……。そうだな、そうなんだが……」

 

エルザの釈然としない回答にルーナ、ローウェン、そしてプロントは首をかしげた。

 

「なにか引っかかっているようだな」

 

ローウェンの言葉に、エルザは少し考えたような素振りを見せ口を開く。

 

「あぁ。確かに、彼の動きは素晴らしいものだと思う。だが、あれほどの動きと技術を持ち合わせながら、なぜ今まで表舞台で注目されなかったのかと思ってな……」

 

「そ、それもそうですね……」

 

「それにだ」

 

エルザの瞳には、クルペッコの硬い火打石をものともしない黛が映っている。現在も黛は火打石に斬撃を通し、赤い鮮血を辺りに散りばめていた。

 

「トーヤのあの武器、やはり見たことがない。私も全ての武器を把握している訳では無いが、あれほどの斬れ味と攻撃力だ。世間で有名になっててもおかしくない程の業物なのに、何故誰も知らない」

 

エルザのその言葉に、他3人もハッとしたような表情を浮かべる。

 

「た、確かに……!以前尋ねた時もはぐらかされましたし、トーヤさんの武器について誰も知らなかったですよね……」

 

「え、みんな知らなかったのかよ……。てっきりリーダーは把握してるかと思ったわ……」

 

「まあ、プロントはボウガン以外興味ないもんね」

 

「うっせ」

 

ルーナの指摘にプロントは投げやりに返事する。

そして、プロントはヨンに視線を移す。

 

「お前は何かあの武器について聞かされたり……っておい……」

 

そんなヨンはというと、大きな欠伸をして今にも寝てしまいそうな様子であった。

 

「ん……なにか呼んだかニャ……」

 

「抱きしめても良いですか」

 

「ルーナ、ちょっと黙っててくれ。アイルー、お前は主人の戦闘に参加しなくていいのかよ。一応、あいつのお供だろ?」

 

ルーナはヨンのお眠な状態にご満悦の様子だ。

プロントはルーナを軽くあしらいヨンに問いかけると、ヨンはもう一度大きな欠伸をしてその瞳に大きな雫を貯めつつ答える。

 

「ふうぁ……、まあ今回はトーヤ1人でクルペッコを狩るって言ってたからいいのニャ。それに、クルペッコなんかにトーヤは遅れをとったりしないのニャ」

 

「そ、そんなもんなのか……。あ、それはそうと武器だ武器!あいつの武器について何か知っていることはないのか?」

 

「ん?あートーヤの武器については僕も知らないのニャ。あんまり他言したくなさそうな感じだったし、トーヤが自分から話してくれるのを待ってる感じだニャ。まあ色々トーヤについて気になるかもしれないけど、あまり追求はしない方がいいと思うニャ」

 

「そ、そうか……。あー!余計に気になるじゃん!」

 

ヨンでさえ知らないトーヤの素性、その秘密の核心に迫りたくなるプロントであったが、追求はなんとかこらえた。

 

「プロント、お前えらく彼に対して寛容になったな……」

 

刀夜に対しての態度がどこか軟化したプロントにローウェンがそう指摘すると、プロントは気恥ずかしそうに人差し指で頬をかいた。

 

「……あれだけの実力見せられたんだ。あいつはハンターとして強い。そこは認める……。今回は俺が悪かった……」

 

「え、あのプロントが反省してる?!あのプロントが?!」

 

「あー!ルーナうるせぇ!だが、あのツンって感じの態度は気に入らねぇ!今回は俺が悪かったが、そこは変わらねぇからな!」

 

「ふふっ……私としてもプロントが反省してくれて何よりだ、このまま毎回彼に突っかかるようなら困るからな」

 

「リーダーもかよ!」

 

そうして和やかな雰囲気になるエルザ一行に、ヴァイスが話しかける。

 

「皆々様、和やかな雰囲気に申し訳ありませんが、少し助太刀すべき時があるかもしれませんのでご準備を」

 

そんなヴァイスの申し出に、4人はすぐに真剣な表情になり一瞬考えたような間を置くが、瞬時にその理由を把握する。

 

「そういうことか……」

 

「クルペッコの鳴き真似、ですね……」

 

「はい、その通りでございます。もしクルペッコがその素振りを見せた時はすぐに駆けつけられるよう」

 

クルペッコの鳴き真似は、ハンターがクルペッコ戦で最も警戒する技である。それもそのはず、クルペッコは鳴き真似により他の強力な大型モンスターを呼び寄せ、場を混乱させるのだ。呼び寄せるモンスターは多種多様であるが、中にはリオレウスやリオレイア、そしてイビルジョーまで呼び寄せる場合があり、上級ハンターでさえ、それら別の大型モンスターによって命を落としてしまうことがある。

そんな厄介な鳴き真似であるが、それを防ぐには、鳴き真似の動作中にクルペッコの喉の真っ赤に膨らんだ鳴き袋に、一定ダメージを与える必要がある。しかし、この鳴き真似の動作は短時間で行われるため、その鳴き袋に一定ダメージを与えられないことの方が多いのだ。

そのためヴァイスはエルザ達に助太刀の準備をするよう呼びかけたのであるが、そこにヨンが言葉を挟んだ。

 

「んー、その必要はないんじゃないかニャー」

 

なんともやる気のない、間延びした猫声がヴァイス含めた5人の耳に入る。

 

「いやいや、あいつ1人で鳴き真似を防ぐことまで手が回るとは思えない……って言っている間に!」

 

クルペッコの方向に視線を向けると、まさに鳴き真似の予備動作を行っているところであった。

 

「厄介な!プロント、徹甲榴弾で狙って……っ?!」

 

エルザは迅速な対応でプロントに射撃を要求するが、目前の光景に唖然とする。

 

「はぁ……だから言ってるニャ。トーヤにとってクルペッコは役不足だニャ」

 

皆の視線の先には、鳴き真似をするはずのクルペッコの巨体が、地に倒れ込む姿が映っていた。

 

「まさか……予備動作の間に鳴き袋を攻撃するのではなく、本体自体に大ダメージを与えて怯ませたのか……」

 

「な、なんて奴だ……」

 

「トーヤ殿、想像の上のまた上を行きますな……」

 

皆が驚愕する中、ヨンは口を開く。

 

「本人の前では言わないけど、ハンターとしての技術、攻撃、回避、危険察知、それらどれをとってもトーヤは化け物だニャ」

 

そうして、刀夜は気刃斬りにより倒れ込んだクルペッコにさらなる追い打ちをかけ、ものの数十分でクルペッコの討伐を完了したのであった。

 




如何でしたでしょうか?
久しぶりの投稿で文章の表現が稚拙になっていないかが心配です……。

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