一応、他の童話でも作るつもりです。
昔々あるところに、やけに冷静な時雨ちゃんという可愛い艦娘がいたそうな。
あるとき時雨ちゃんは、提督に「森の奥に住む鳳翔さんが病気にかかってしまったようなので、お見舞いとしてボーキサイトを届けるように遠征任務を頼まれてくれないか」と言われた。鳳翔さんは鎮守府のみんなのおばあちゃんみたいな存在で、心配だったから、断る理由もなくボーキサイトをもって出発しようとした。すると提督は、「森の中には3人?3匹の狼っていうか獣みたいなのがいるから気を付けるように」と出かけようとしてドアノブに手をかけていた時雨ちゃんに、思い出したように焦りながら忠告した。はて?そんなこと聞いたことないなぁ。それに艦娘だからオオカミなんかに負けないだろう。と、思いながら再びドアノブに手をかけて出発した。
村を出て、森に入って少ししたところに綺麗なお花畑が広がっていた。時雨ちゃんは鳳翔さんに花束も届けようと思ってお花を摘み始めました。すると、後ろからごそごそと音がしたのです。驚いて振り返ると、そこには赤く染まった長身のなにかが、ボーキサイトを貪り食っているではありませんか!
「って、何やってるんですか、赤城さん!?」
「おいしそうな匂いがしたので、つい。テヘッ♪」
「テヘッ♪じゃないですよ!これ、提督に頼まれて病で寝込んでる鳳翔さんにとどけるものなんですよ!」
「な、なんと!?そ、それは申し訳ないことをしました。ちょ、ちょっと待っててね」
と言って、赤城さんは森の中へ。何をするのだろうと帰りを待っているとすぐに戻ってきて、「よかったらこれを」と大量のボーキサイトを持ってきたではありませんか。
「こ、こんなに大量に!ありがとう赤城さん!でも、なんでこんなにボーキがあるんだろう…」
「へ?」と、間抜けな声をあげる赤城さん。
「最近、提督がやけにボーキの帳尻が合わないってずっと嘆いていたけど、もしかして赤城さんかい?」
「そ、そ、そんなわけないですよ!しょ、証拠はあるんですか!」
「まぁいいよ。提督に一応伝えておくから」
「やめてくださいぃぃ!私が盗みましだぁ!だがら、提督にはいわないでぐだざいぃぃぃ!」
「そ、そんなことで泣かないで下さいよ!あと、多分もうばれてますよ。また赤城かって残念そうに言いながらボソッと減給ってつぶやいてましたから」
「えぇぇぇぇ!すぐに提督に白状して給料アップしてもらわないと♪」
はぁ。と、時雨ちゃんは絶対に叱られるであろう赤城さんをしり目にため息をついた。
まるで、獣みたいにボーキを食べてたなぁ、まさかあれが狼?と、思いながら再び森の中を進む。すると、奥の方から恨み妬みがこもった言葉にもならないようなうめき声がしました。不思議に思って声のする方に近づいてみると、はっきりと「恨めしい。妬ましい。恨めしい。妬ましい。合コンがなんだ。全然乗り気じゃないとか言っときながらなんで私よりも羽黒の方が男が寄ってくるのよ。前の時は私より断然女子力ない摩耶がなぜか人気だったし、不愛想な加賀もなぜかいろんな男から口説かれてたし、夜戦バカもなぜか合コンでうけいいし、青葉は最近新聞記者の男と付き合い始めたらしいし、那智に慰めてもらうのも癪だし、愛宕に至ってはあの2つの愛宕山でいろんな鎮守府の男に手を出してるらしいし、クソクソクソォォォ!なぜ!なぜなの!どうして!どうして私には彼氏ができない!もう、隼鷹と一緒に酒に溺れて何もかも忘れて次の日に二日酔いで吐きながら、2度と酒なんて飲まない!って誓う毎日はいやなのよぉぉ!誰かぁ!私を貰ってぇ!はぁ、彼氏が欲しい…。私に何がいけないの?重いところかな、それとも、ガサツなところかな、それとも…、ふふっ、ふはははははははははははははぁぁぁ!もう笑うしかないな!あいつら全員呪ってやるぅ!裏切者たちに不幸を!」
「ひっ」
思わず悲鳴を漏らしてしまう。
「誰!?」
本能的に危険だと察知してとっさに隠れる時雨ちゃん。さっきの獣とは大違いの恐怖、闇が深すぎる。これ以上関わっちゃだめだとばれないように逃げようとしたとき『パキッ』と、こういう場面でありがちな小枝を踏んで音が出るという状況に遭遇してしまった。まずい。そう思って折れた枝から顔を上げて前方に視線を移すと、
「コンナ森ノ中デ何ヲシテイルノカナァ?」
目の前には、足元がおぼつかないのかずっと不規則に左右に揺られている胴に、ゆっくりゆっくりこちらに伸びてくる腕、何かの液体でべとべとになった手から伸びる震える指先、そして、赤く充血した目を限界まで見開き、頬に黒く染まった涙をつたわせて、鼻を真っ赤にして、酒と嘔吐物の混ざった臭いを放つ口を歯をちらつかせながらニヤリとゆがませ、首を45度ほど横に傾けた怨霊、否、(男に)飢えた狼、足柄が立っていた。
「キャァァァ!」
「だ、大丈夫よ、取って近代化改修しようなんて思ってないから!」
近代化改修というガチのワードが出てきてより恐怖をおぼえる。
「第一、改修MAXだし。ハハッ」
乾いた笑みを浮かべながらそんなこと言われても恐怖にしかならない。
「あ、足柄さんっ。急いでるから!ま、またねっ」
走った。走って逃げた。どっちみち同じ鎮守府に所属している身だ。きっと、彼女たちはまた会うだろう。これは、その場しのぎでしかない。だけど、時雨ちゃんは脇目を振らずに走った。早くこの恐怖、この負の感情から逃げなくては。その一心で逃げた。その光景をずっと覗く、三人目の狼の存在には気付かずに…。
一心不乱に逃げていたら、いつの間にか鳳翔さんの家だ。なんでも、前線を退いてから、現役時代にためてきたお金で家を森の中に建てて、日々の任務に疲れた艦娘の憩いの場として居酒屋『鳳翔』を開店している。しかし、今は病気で休業中。裏口から提督に借りた鍵を使って入ろうとした。すると、なぜか鍵が開いているのだ。おかしいなと思いながら「おじゃましま~す。鳳翔さん、お見舞いに来ました」と言って家に入る。奥に入り、鳳翔さんの部屋をノックする。「時雨です。お見舞いに来ました」と部屋の中に言葉をかけると、「は、入っていいぞですよ」と鳳翔さんではない声がした。恐る恐る扉を開けると、そこには枕で顔を隠し、小さな布団に何とか収まろうとする何者かの姿があった。
「時雨たん、よく来てくれたね」
「鳳翔さん、鳳翔さん。どうしていつもと声が違うんだ?」
「それはね、風邪気味だからだよ」
「鳳翔さん、鳳翔さん。どうして身体が大きくなっているんだ?」
「それはね、時雨たんやほかの駆逐艦たちと思いっきり遊ぶためだよ」
「鳳翔さん、鳳翔さん。どうして腕にグローブみたいなのをつけてるんだ?」
「それはね、時雨たんをはじめとする駆逐艦たちを拳で守るためだよ」
「ふ~ん、で、隣の鎮守府の長門さんはここに何しに来たのかな?」
「それはね、可愛い可愛いと評判の時雨たんをまじかでみるためだよってバレてる!」
「いや、逆にバレてないと思ったのが不思議だよ…」
「仕方がない。ビッグ7の格を落とすわけにはいかないからな!君のことは監禁させていただくよっ」
なんと長門は艤装を展開し、時雨ちゃんに向けたではないですか。緊迫する空気の中、窓を割って演習用の砲弾が入ってきたではないですか。その砲弾は長門の横っ腹に直撃しました。長門は腹を押さえながら慌てふためきます。すると、割れた窓から陸奥さんが顔を出してこう言いました。
「もうっ!長門ったら何やってるのよ。駆逐艦を前にすると理性が飛んじゃうからうちの鎮守府には駆逐艦がいないのよ。ごめんなさいね、私の姉が迷惑かけて」
「い、いえ。間一髪でしたけど。それより鳳翔さんは」
すると、長門がクロゼットを開けた。そこにはロープでぐるぐる巻きにされて口を猿轡で固定された鳳翔さんが横たわっていた。
「大丈夫ですか、鳳翔さん!」
「はぁ、はぁ、私は大丈夫ですが、ここに襲撃者が!ってあれ?なんで、隣の鎮守府のビッグ7のお二人が?」
「すいませんでした、鳳翔さん。実はうちの長門が襲撃者で、ほら、長門も謝って!」
「すまなかった。どうも、駆逐艦のことになると理性が飛んでしまうようでな。本当に面目ない」
「ま、まぁ、けが人も出なかったしそれでいいじゃないですか」
「鳳翔さん、優しすぎですよ。長門さん、ここの家の修理費は長門さんもちで」
「し、時雨たんに頼まれては断れない。しかも、今回の件はすべて私が悪いのだしな…」
「長門さんも陸奥さんも、私の体調もこの家もなおったら是非居酒屋『鳳翔』に来てくださいね」
「な、なんと優しいんだ」
「本当に今回はすいませんでした。ほら長門、帰って説教だからね」
「で、では。失礼しました」
時雨ちゃんと鳳翔さんは、トボトボとどんどん背中が小さくなる長門を見送った。まぁ、自業自得としか言えないが。
その後、隣の鎮守府の提督が大量の紙幣を持って、現在鎮守府で寝泊まりしている鳳翔さんを訪ねた。数日後、居酒屋『鳳翔』は、前よりもいくらか大きく、その上設備もよくなって営業を再開した。そこは、前と同じように、とある空母が大食いをし、とある重巡が泣きながら愚痴をこぼして酒を飲み、他の艦娘達もがやがや楽しくやっている。そこには陸奥さんの姿もある。長門は外出禁止と金欠のため来れないらしい。時雨ちゃんは、ここが艦娘達の憩いの場だということを再確認し、鳳翔さんに『健康祈願』と書かれたお守りをわたすのであった。
めでたしめでたし