あの口調がぁ……
普段は掛けていない眼鏡をかけ授業を除けば各地の昔話・民族伝承・童話・神話などを読むことに集中し、話しかけられればそれに答えて話を合わせていかにも人畜無害そうな青年を演じる。
放課後になればオカルト研究部員として活動し、悪魔の仕事は他の面々に比べれば目立った活躍もなく契約も平均的な数値を記録していくだけの特出したものを持たないのが狛の日常だ。
戦いになれば神器の力で姿を消し他の面々が作った隙をついて一撃を与え、それがなければ相手の攻撃に合わせて妨害を行うというアタッカーでなければサポーターとも言いがたい立ち回り。
そんな狛は学校帰り久々に一人で外出し最近流行の小説などの本を購入した帰り道で一誠を見つけるがその顔は目の前に広がる事態を目の当たりにして引きつった顔となり、慌てて兵藤の傍へと駆け寄る。
「……兵藤……お前なにやっている?」
「おっ二階堂か今会ったシスターのアーシアを教会に案内してるんだ」
「アーシアと申します、お世話になっています」
屈託の無い笑顔を向けるシスターに背を向けるように狛は一誠の肩に腕をまわしシスターのアーシア・アルジェントには聞こえない小さな声で慌てて警告する。
教会は敵対勢力の天使の縄張り、シスターを初めとした加護を受けた存在は天敵であるので迂闊に近寄るのは自殺行為そのものにして教会に踏み込もうものならば天使と悪魔の領土問題に発展しかねない。
一歩間違えば戦争の引き金になりかねない行為。
幾ら善意や知らなかったからとはいえ適当なところで切り上げるべきである。
「あの……どうしました?」
「あぁシスターさん! 俺たちこれから急な呼び出しで部活に出ないといけなくなったんでここらでお別れしていいかな!?」
「はい、もう教会の見える位置まで送っていただけましたから。もしまたお時間があったらぜひともお礼をさせてくださいね!」
アーシアは二人が自分の大敵である悪魔とは気づいていないのだろう、それは人を魅力する優しい雰囲気を纏った笑顔と言葉で立ち去っていく二人を見送る。
ふと一誠が振り返ると自分たちの姿が見えなくなるまでアーシアは手を振っており、天敵とは言えその優しさに心を締め付けられながらどこか強張った笑顔で一誠も手を振って答えた。
当然のことながらこの後の部活にて一誠はリアスからコッテリと絞られた。
知らなかったとはいえシスターに接触し教会まで送り届けようとしたのだ。
下手すればリアス・グレモリーの軍団員の一個人の責任では終われない、下手をすれば難癖をつけた天使や
もっと酷いものであれば一誠の命は光の槍によって消滅していたかも知れない、部下に対して慈悲深いリアスにとっても一誠の優しさの美徳を今回ばかりは許すわけにはいかなかった。
その叱りと怒りは鬼気迫るもので、そこにある心配の強さを感じ取っただけに一誠の落ち込みようは強いものだった。
「仕方ないよ一誠君、これも悪魔の勉強だと思って飽きらめることだよ」
「あの子、アーシアは本当に優しい子だったんだよ」
「それは知らなかったからこその優しさ、もし俺たちが悪魔って知っていたら問答無用で聖水を浴びせられて大火傷してただろうな」
「……種族って面倒だな」
悪魔となって日の浅い一誠にとってそうした人種とはまた違った超えられないであろう壁は理解しがたいものだが、純粋な悪魔であるリアス……何かしらの理由で種族というものに良い感情を抱いていないリアス一団にとってはむしろ気にしない一誠の姿はとても新鮮なあり方に見えた。
結局その日の一誠は夜中の仕事にも身が入らず、また契約を取り損ねてしまい翌日の仕事には狛がサポーターとして同行することになった。
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月も満月となり夜道も明るい真夜中の道を一誠と狛の二人は今回の契約相手となるであろう相手の家に向かって歩いていた。
正確に言えば一誠は自転車に乗っているが狛は自らの脚力だけでそれに随伴しており傍から見れば相当な陸上選手の夜中の特訓にも見て取れる光景である。
では何故こうして普通に移動しているのかといえば兵藤一誠の魔力が少なすぎる余り悪魔らしい登場方法である魔方陣からの登場が出来ないので、一誠は自転車で目的地に向かい狛は訓練になると思い走って向かっているからだ。
「しかし小猫ちゃんは人気だよなぁ、前もダブってたけどまただよ」
「……まぁ何かあるんだろうな」
「どうせ小猫ちゃんのロリロリな体系が目当てなんだろうに! もし小猫ちゃんに何かあったら俺がぶっ飛ばしてやる!」
「そういう言葉はもう少し自力をつけて強くなってから言わないと、塔城さんより弱いと説得力ないぞ」
刀のように鋭い言い返しと確信を突く一撃に思わず一誠はスピードを落としてしまうが、何か妄想したのかすぐに勢いを取り戻すと気合をいれた漕ぎ出しでスピードを取り戻し目的地に向かう。
「すみませーん! 呼び出された悪魔なんですけど……」
入り口から礼儀正しく進入する悪魔など前代未聞だろうが、一誠にとってはこの入り方が悪魔としての召還された場合なのだ。
本人も慣れたものとばかりにドアを叩くが反応はなく、ふとドアノブに手をかけると鍵は掛かっておらず二人はとりあえず依頼者の自宅にお邪魔することになるが狛の鼻が嗅ぎ慣れた匂いに感づき神器の刀を取り出し鞘から抜く。
慌てる一誠に対して小さな声で「血と死体の匂い」と告げると一誠も神器の篭手を装備してゆっくりと廊下を歩き靴下を濡らす湿った何かを踏んだことで確信し、決意を固めた矢先に惨たらしい人間の死体を見つける。
身体は逆さの十字架となるように両手足に太い釘が打ち込まれている。
全身を切り刻まれた身体からは内臓が零れ落ちてきている。
もはや猟奇殺人としか言いようのない姿に一誠は胃袋の中にあるものを全て吐き出し、それを気にすることもなく狛の鼻は憎たらしい存在の匂いとその気分の上機嫌さを物語る鼻歌を耳で捉えていた。
死体の貼り付けられた部屋のソファーにそれはいた。
「エクソシストとは言え猟奇的だな?」
「クソの悪魔と契約するクソなんだからこれくらいは良いじゃないか! てかクソの分際で説教しようなんざ虫唾がはしりますねえ? あっ俺の名前はフリード・セルゼン、とある悪魔祓いの組織に所属している末端でございます。まっそっちは名乗らなくてようござんす、これから殺される奴の名前なんて覚えるメモリは一メモリもないでござんすよ!」
「人間が人間を殺すのかよ! お前らが殺すのは悪魔だけじゃないのかよ!」
「あぁ!! 人間が人間殺すなんぞ珍しくないざんしょ? さっきも言ったけどクソの悪魔が説教なんざすんじゃないって言ったでしょうが!?」
フリードと名乗った青年は右手にハンドガンを左手に柄だけのものを取り出す、柄だけのそれはどこぞのロボットのサーベルと言うべきかあるいは星の戦士が持つサーベルのような光の刀身を作り出す。
それは悪魔にとって天敵以外の何物でもない天使などが持つ光の力、踏み込み斬りかかられるが狛は神器の刀に魔力を通わせある種の力場を纏わせ光の力と反発させつば競り合いによって動きを止める。
好機と見た一誠が狛の身体を盾に回り込み左腕が殴りかかろうとするがフリードは顔を狛に合わせたまま腕だけで素早く銃口を合わせ引き金を引く。
銃声はしない、エクソシスト特製の光の魔力を弾丸にしたその銃弾は音もなく一誠の左足のふとももを射抜き、一誠にとってはかつて自分を殺した光の痛みが傷口から全身を駆け抜け苦痛に顔を歪ませる。
「兵藤!」
「うひょう直撃ですか!? これはこれは雑魚ちゃんで俺は悲しい悲しい悲しくて泣いちゃうぞ!」
駆け抜ける激痛に一誠は動けない、狛はフリードとつば競り合いをしている状態に加えて一誠はフリードの向こう側で駆けつけるよりも早く引き金は引かれ銃弾はその身体を貫くだろう。
狛の神器でつば競り合いの状況下から姿を消すことで困惑させられるかも知れないがそれでも引き金を引くのに割り込むことは出来ない、加えて部屋の広さからも姿を消したとして出来ることがない。
不意打ちするにも距離を作れない、一誠が集中砲火を浴びることになる……一誠の現状でエクソシストとの一騎打ちは死に追い込むようなもの、隠れることが不利に働く現状に歯噛みする。
「やめてください!」
聞きなれた声、アーシアの叫びによって三人が静止する。
いち早く動き出した狛は身体の中にある力を高め人ではない証である耳と尻尾を出すとフリードの剣を打ち払い二の太刀で首を切り飛ばそうとするが射撃によって軌道を逸らされてしまう。
仕留められなかったことを舌打ちしながらそのまま脇を駆け抜けた狛は未だ動けそうにない一誠を庇うように前に立ち構えをとり、フリードはアーシアの隣に立ち銃口は二人に向ける。
アーシアは傍にある死体にもそうだが狛の耳や尻尾を見て人間ではない存在であることに驚いている……一誠はそんな表情を見て申し訳ないと言わんばかりに顔をそらしているがそれがアーシアの考えを肯定してしまっていた。
「イッセーさん……悪魔だったんですか?」
「……ごめんアーシア、ちょっと訳ありなんだ」
「なになに? 悪魔とシスターの禁じられた出会いって訳かな? でも残念無念、俺たちは相容れない存在! さっさとぶち殺して仕事終わらせましょうねぇ!」
狛が一誠を庇って動けないことを承知で一方的になぶれる未来に快感でも感じているのかフリードの顔は実に下種な笑顔を描き、狛は踏み込めるように構えを変え差し違えてでも一太刀を浴びせんとする。
だがそんな両者の間にアーシアが割って入る。
小さく弱い背中にも関わらずその姿は子を守る母親のような、決意を固めているからこそ見せる強い姿にフリードだけでなく狛も驚く。
「……フリード神父、お願いです! この人達を見逃してください!」
「「はぁ!?!?」」
シスターが悪魔を庇うなんて行為に思わずフリードと狛の驚きの行為が重なるが、一誠はどこか納得したかのようにそう言ってのけたアーシアの姿に微笑んでいる。
だが仮にも教会の一員でありエクソシストであるフリードは悪魔を庇い悪魔にも良き人がいると自分の考えを持って説き伏せようとするアーシアに対して今までにない怒りを見せた。
もっともそれは教会に習った悪魔を絶対悪と見る教えからくるものなのか、それとも単に自分の目の前の獲物を取られていることに対する戦闘狂としての本能から来るものなのかは判らない。
「悪魔にだって一誠さんのようないい人がいます!」
「あぁいるわけ無いでしょうが馬鹿ですか!? 言っとくけどあの頭のネジの緩んだ堕天使が大事にしろって言ってなかったら殺してますよ君!!」
その怒りは銃の十把でアーシアを殴り飛ばすという行為に派生した。
庇われたことへの感謝の念を持っていた一誠は容赦なくアーシアを殴り飛ばしたことへの怒りが全身を駆け抜ける光の痛みをねじ伏せ僅かな魔力を倍増した左腕の渾身の一撃をフリードへと放つ。
「そんな一撃が当たるとでも思ったですかばぁかぁぁぁ!」
狛が影となっていたはずの気づき辛い筈の一撃は歴戦のフリードの前には悲しくも空を切るだけに留まる。
フリードはカウンターとばかりに光剣を振りかざし、一誠の制服の襟を掴んで狛は距離を取ろうとする両者の間に入り込むようにグレモリー家の家紋が記された魔法陣が現れ眩い光を表す。
光が収まった先にいるのはリアスを初めとしたグレモリー一団全員であり、転移と同時に木場が踏み込み剣の突きを喉元目掛けて放つがフリードはこれすらも手馴れたように光剣で防いでみせる。
「おろおろ! 悪魔の団体さん登場ですかぁ!? 獲物が増えて俺としては嬉しい限りですねぇ、出来るならそこの雑魚ちゃんと色々と混じった臭いのする犬っころの死体を提供したかったですがねぇ!」
「私の部下を可愛がってくれたようね、あなたのような悪魔どころか普通の人間にも害悪になりかねない存在はここで消しておこうかしら?」
部下を傷つけられた怒りからか底冷えするような声と漏れ出す魔力に対してもフリードはまったくたじろぐどころかむしろ獲物が増えたことにたいして意気揚々それは嬉しそうに興奮していた。
木場と狛が剣を構え、小猫がソファーを持ち上げ投げる姿勢をとるが朱乃が感じ取った気配によって戦いは終わってしまう。
「部長、複数の堕天使が近づいています。このままだと」
「朱乃すぐに転移の準備をして、ここから離脱するわ」
「部長! あの子を、アーシアを!」
「転移出来るのは私の眷属だけ、あの子は諦めなさいイッセー」
再び魔方陣が姿を現し、その光が強まっていく。
手を伸ばす一誠に対してアーシアは変わらない優しい笑顔を向けていた、その姿に同じように庇われた狛は誰であろうと関係なく笑顔と優しさを示し、自分の中にある信念を貫いているその姿に心を痛める。
姿を消して奇襲する余裕があれば、もう少し部屋が広く姿を消せるだけのものがあれば、一誠や自分にフリードを退けるだけの力があれば目の前の優しく強い笑顔を守れたかも知れない。
「部長! アーシアを助けに行かせてください!」
「あの子は堕天使の下僕、私たちは悪魔……相容れない存在。それに彼女を救うために戦うのは堕天使という陣営と私たち悪魔という陣営の問題になるわ、それはもうイッセーだけの問題じゃなくなる」
部室に戻った一誠はあくまでもアーシア救出を叫んだ。
だがアーシアが堕天使たちの『はぐれエクソシスト』という組織の一員であることが判った以上それは陣営と組織同士の問題へと派生してしまう、そうなければ問題は一誠だけでなく全員に降りかかるのだ。
その現実に一誠はただ項垂れるしかなかった……堕天使を蹴散らす実力もなければその末端を自称するフリードにすら勝てない、そして巨大な組織と仲間の命という天秤が作り出す現実に一誠は立ち止まる。
答えを出せない拳は無力な自分を許せないとばかりに握り締められている。
誰にも聞こえないような小さな声で一誠は呟いた。
「……弱いなぁ」
耳で聞き取れたその言葉に狛は何も言えない、一誠のように必ず助けたいという意思を持っている訳ではない。
むしろリアスの連れ添った部下としてはリアスの意見に賛同している、たとえ助けたとしてもアーシアに拒絶されるかもしれない、助けたとしてアーシアを受け入れてくれる場所があるとも限らない。
でも同じ仲間である一誠の心構えを買いたい、同じように庇われた身としてアーシアが自分たちを拒絶するようなガチガチの信仰者ではなく柔軟で誠実な人柄であると思っているからこそ助けてやりたいと考えている。
“悪魔にも良い人はいる”
その言葉が狛の中に疼く。
だがそれを言葉にしない弱さを、立場の曖昧さを、仁義や恩義から逃げ出すのを責め立てるように疼きは残り続けた。
しかし事態は大きく動き出す。
今一度アーシアを助け出すという強い意志を固めた一誠の一言と共に。
色々とはしょってしまったが大丈夫だろうか……
一誠の視点を省くとレイナーレの出番がなくなる
どうにかしないといけないけどどうするべきか
下手に綺麗になぞると原作コピーになりかねませんし
難しいです