ハイスクールD×D×D 出来損ないの犬物語   作:法螺貝

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レイナーレ
アンチヘイトの犠牲となってくれ
本当に描くのって難しい


赤龍帝の目覚め

 一誠は教会の聖堂まで逃げ延びていた。

 だがその足は地下から伝わる爆音と衝撃によって立ち止まり、抱き上げているアーシアの身体から伝わる冷たさに気づき慌てて長椅子に寝かせつける。

 死んでいるとは思えないとても穏やかな顔に一誠は信じないとばかりに震える手で触れ、改めて自分の目の前にあった命が物言わぬ肉の塊となったことを突きつけられ内側から怒りが膨れだす。

 

「あらあら残念ね? まぁ安心しなさい、この子の神器(セイグリッドギア)は私がしっかりと使ってあげるわ」

 

「……レイナーレ」

 

 全身に切り傷を負ったレイナーレは自分に怒りの形相をしている一誠を相手にしても余裕とばかりに長椅子に腰掛けている。

 両手から淡い光が放たれるとそれはレイナーレの身体に刻まれた傷をその痕すら残さず治療していく、一誠はアーシアからかつて悪魔すら癒す力を持っている話を聞いているからこそその光に対する怒りが更に膨れ上がる。

 アーシアの優しさと強さを表しているかのようなそれを『聖母の微笑(トワイライトヒーリング)』の光が目の前の外道によって使われていることが心底許せない。

 

 だがそれ以上に許せないのは。

 

 こんな相手に今も淡い恋と優しさに対する期待を捨てきれない自分自身であった。

 

 

【結局そうだ】

 

 

「本当に素晴らしい【力】よこれは、これさえあれば私の堕天使内での地位は約束されたようなもの。アザゼル様たちの【力】になれるの、癒しによって私は絶対的な【愛】を手に入れられるのよ!」

 

「違う! それはアーシアのだ! アーシアのあの優しさを表しているものだ、お前のような自分の為ならば一番欲しいものを平然と切り捨てられるような奴に微笑みがくだってたまるか!!」

 

「はっ? これは【誰でも癒せる力】なのよ? 人間なんて存在が持つには勿体ない代物を私が使ってあげるだけなのにどうしてそんなに怒っているのかしら……そもそもその子を迫害した原因はこの【力】なにね」

 

「……アーシアは後悔なんて、たとえ悪魔でもその【力】で救えたことを誇りにしてたんだよ。アーシアは宗教にある【隣人への愛】を貫いただけなんだ! もし狂ってるならそれは助けてくれなかった神様ってやつだ!」

 

 レイナーレと話せば話すほどに血流が力強く、身体を内側から焼き焦がさんばかりに熱く熱を帯びていく。

 目の前にいる堕天使は【愛】が欲しいのでなく【力】の対価として支払われる力に対する【愛のようなもの】が欲しいだけなのだと、アーシアのような本当の優しさから生まれるものを欲していないと。

 自分が守りたいと思った、思わせてくれたあの【愛】を求めていない……レイナーレが欲しいのは【見下す為の力】というものでしかないことを。

 

 

【力を求めて愛を否定する】

 

 

 左手に纏う篭手になけなしの魔力が流れ込む、機械的な音声ともに力が倍増されたことを告げられ一誠は拳を振るうがレイナーレは自慢の黒い翼を羽ばたかせその一撃を軽々とかわす。

 

 

「そうねぇ! もし神が【隣人への愛】を貫いてくださったのなら私の祈りにも答えてくれた! アザゼル様たちは私に答えてくれた、本当の【愛】を私に与えてくれたでしょうね! でもね……そんなものは無かったから今の私があるのよ!」

 

「寂しかったなら、悲しかったなら、辛かったなら……一言助けてって言えば良かったんだ! そうすれば俺だってアーシアだって、きっと何処かの誰かが答えて手を差し伸べてくれたんだ! 神様や力のある奴じゃなくても、手を差し伸べてくれた!」

 

「【力のない愛】がまさに今のあなたよ! 助けたいとか助けられるとかほざいておきながら目の前の少女一人助けられない、私への想いも貫けない吐き気のする絵空事に染まった存在なのよ! そんな奴に差し伸べられた手なんてね……救われるどころかもっと強い苦しみに陥るだけなのよ!」

 

 

 レイナーレの光の槍が一誠の両足を貫く、光の力が全身を内側から焼き焦がし耐え難い苦痛が駆け抜けるにも関わらず一誠はその槍を強引に引き抜く。

 風穴となった傷口から血が流れ出す、だが光による痛みと怒りによる熱さが意識を繋ぎとめていく……その間にも一誠の篭手からは力を倍化した機械的な音声が流れているがレイナーレは気にも留めない。

 

 

【救えないから守れないから】

 

 

「……アーシアは救ってくれなかった神様は駄目か、悪魔だから魔王様に祈るべきなのか? 頼みきいてくれますか?」

 

「光の痛みで壊れたのかしら? 直してあげても良いわよ私の慈悲というのでね」

 

 

【両立しなければならなのに出来ない】

 

 

「後は何も残らなくて良いから、こいつを……一発ぶん殴らせてください!!」

 

 

 それは強い想い、弱いからこそ生まれるどこまでもどこまでも強い想いが燃料とばかりに神器(セイグリッドギア)へと流れ込む。

 

 

【答えてやろう、その想いに】

 

 

 想いに答えるように篭手に変化が生まれる、手の甲を多い肘まであったそれは鋭い竜の爪を模したようなものによって一誠の手を完全に覆いつくし、特徴的な宝玉が一回りも二回りも大きくなる。

 宝玉に何かの紋章が描かれたかと思うと機械的な音声と共に貯めこまれた魔力が爆発し一誠の身体を駆け抜ける。

 一誠には自然とそれが何なのか理解できた、本能とも言えるがもっと異なる何かが親切にも教えてくれているような、そんな力が一誠の全身を駆け抜けていきレイナーレはそれに怯えた。

 

 その爆発的な高まりは上級悪魔も凌ぐほど。

 

 下級悪魔と、取るに足らない相手と見下していた相手の力が自分を軽々と凌駕している状況に対してレイナーレはある意味で冷静に、そして本能が訴えるままに逃走を選択した。

 今一度その背中の翼を羽ばたかせ逃げ出すレイナーレだったが、逃げ出すにはもはや手遅れの状態だった。

 

「逃がすかよ!」

 

 悪魔の羽を生やした一誠はレイナーレの予想を遥かに上回る速度で跳ぶとそのまま片腕をへし折らんばかりの握力で掴んでいた。

 そして一誠の眼は人間の目ではなく動物……トカゲや蛇が持つ特徴的な瞳孔に変化すると共に赤い紅い光が微かに灯り、人ではない何かの力が宿っていることを明確に示していた。

 

「わたしは! 私は至高のだ」

 

「吹っ飛べ! くそ天使ぃぃぃ!!」

 

 恐怖に歪むその顔に渾身の一撃が突き刺さった。

 断末魔と共に吹き飛ばされた細い身体はステンドグラスを突き破って教会の外へと放り出される。

 

 

「ざまぁみろ」

 

 

 やり遂げた事への安堵からか一気に力が抜ける一誠を何処からともなく現れた、正確に言えば物陰から一連の流れを鑑賞していた木場が肩を貸す。

 

「おせぇよイケメン王子」

 

「部長からよっぽどのことが無い限り手助け無用と言われててね、悪いけどずっと見守らせてもらってたんだよ。考えもなく撃ち込んでくれたから隠れるのには困らなかったし二人は二人の世界に突入してたし」

 

「部長が?」

 

「あなたなら勝てると信じていたからよ? それに私と朱乃もすることが思ったより早く片付いたから観戦させてもらってたけど、ふふ……やっぱりあなたを下僕にして正解だったわイッセー」

 

 いつのまにか聖堂に入ってきているリアスに驚くまもなく、小猫が外に吹き飛ばされたレイナーレを引きずって持ってくるとリアスの眼前に放り投げる姿に更に一誠は驚かされる。

 一誠の一撃がよほど堪えているのかまともな抵抗も見せないレイナーレをリアスは冷めた眼で見下す、以前はぐれ悪魔を討伐した時のような冷たく威圧感を感じさせるそれはリアスがこの場の支配者であることを示した。

 

「こんばんは堕天使レイナーレ、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期頭首でありこの子たちのキングよ」

 

「グレモリー家の娘か……だが今回の計画には私以外の堕天使も参加」

 

「残念だけど挨拶に来てくれたお友達は無礼が過ぎるから手打ちにされてもらったわ、ついでに言えば貴方達の上司から『そんな奴はいない、いたとしても堕天使を騙る不届き者だろうから気にしないくていい』とのわざわざお達しよ」

 

 その言葉が意味するものは他ならない、その為だけに全てを投げ打ったはずにも関わらず、結末はレイナーレへの死を意味するものだった。

 寵愛を得るどころか好き勝手動いたことによってより強い失意を買ったあげく悪魔とのいざこざを避けるために存在すら否定された……愛と間逆のものを手に入れた結末にもはや抵抗する気力すら根こそぎ奪われてしまった。

 落胆するレイナーレを横目にリアスは一誠の変化した篭手を見て、一誠が手に入れた力の正体に気づく。

 

「十三種類の神滅具(ロンギヌス)の一つ、神や魔王にも単身で匹敵した存在の力を宿し一時的には超えると謳われた龍の力【赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)】、イッセーのあの時の強さも納得ね」

 

「そんな……まさか……」

 

「十秒ごとに倍加していく所為で揮わないものだから慢心によって何とか勝利にこぎつけられたようなものだけれど、イッセーが兵士(ポーン)をあれだけ吸収した存在ってのもこれで納得出来たわ」

 

「これってそんなに凄いのか?」

 

「……レベル100・200・400・800と十秒ごとに倍加されてみろ、一分もすれば地力の六倍の力になる。これが千や万の単位だと洒落にならないだろう兵藤」

 

 狛の言葉に一誠は息を呑む、自分の地力が弱いからこんなものだが鍛え上げられたものであればあるほどに強大な存在となれる力が宿ったことに改めて一誠は左腕を見つめなおす。

 

 

「助けてイッセー君」

 

 

 声がしたと思い視線を向けた先にいるのは人間であった頃の一誠に接触して時の姿である夕麻の姿でレイナーレは一誠に救いを求める……一誠からプレゼントされたブレスレットを見せ救いを懇願する。

 堕天使の使命で仕方なかったと、本心では今でもあの時のままであると、だから助けて欲しいと嘆願する姿をリアスは哀れみ木場や小猫は心配そうに一誠を見つめ、狛はクトネシリカを構えた。

 

 

「……ごめん夕麻ちゃん、君の言うとおり今の俺じゃあ助けたってくる苦しめるだけだ」

 

「そんな! 私を見捨てるの!? 手を差し伸べてくれるって言ったじゃない!」

 

「こんな俺を好きなってくれてありがとう、こんな弱い俺で……ごめん」

 

 

『大好き“だった”』

 

 

 涙をこらえながらの言葉にレイナーレは自分から伸ばした手を戻していく、自分でもどうして涙が出るのか判らないほどにレイナーレの眼から涙が零れ落ち腕のブレスレットを見つめた。

 

 そこにあるのは後悔か、懺悔かなど本人にすら判らない。

 

 

(あんな馬鹿な笑顔に本気で応えればなんて、本当に焼きがまわったわ)

 

 

 馬鹿らしくスケベでも一途な男の【愛】なら最初から欲しいものは手に入っていた……選り好みしその為に力を求めた果ての馬鹿馬鹿しい結末をレイナーレは静かに受け入れることにした。

 だから指にはめ込んだ神器を取り出すと一誠に投げ渡す、淡い光に照らされても決して顔を見られないように下を向いたままに。

 

 

「せいぜいその弱い手を差し伸べて相手を苦しめなさい」

 

「約束するよ、俺は強くなって大切なものをもう無くさないって」

 

 

 一誠が背を向ける。

 

 

「……さぁやりなさい」

 

「……本当に馬鹿な人ね」

 

 

 リアスの魔力がレイナーレという堕天使を跡形もなく消し飛ばす、ブレスレットどころかその黒い羽すら一枚たりとも残っていない。

 

「部長……すみません、あんな事まで言った俺の為に」

 

「誰も責めないわ、それにまだ彼女には助かる見込みがあるわ。前代未聞だし彼女にとっては苦痛になるかも知れないけど、堕天使の置き土産のおかげで少しだけ見込みが残っているわ」

 

 リアスはスカートからチェスの駒である僧侶(ビショップ)を取り出す、一誠にそうしたように悪魔に転生させる形でアーシアを蘇生させようとしているのだ。

 

「悪魔すら癒す回復能力は魅力的だもの逃がしたくないわ、あの堕天使が最後に神器(セイクリッドギア)に彼女から抽出したであろう精気などが残っているからあとは彼女の生命力次第」

 

「大丈夫です、もし何かあってもアーシアを説得してみせます」

 

「それでこそ私の下僕よ。やはりあなたを引き込んで正解だったわ」

 

 リアスが駒を使うとアーシアの顔に精気が宿ったかのように赤みが戻っていき最後にはゆっくりと目を開き、蘇生に成功したことに喜びのあまり抱きつかれ驚いている。

 

 

 

「帰ろう、アーシア」

 

 

 この日グレモリー一団にシスターでありながら悪魔というなんとも異色な仲間が加わり、その日々はますます賑やかなものへとなっていく。

 

 

 

□□□□

 

 レイナーレの事件から数日後、狛はある人物の呼び出しによって大きな屋敷の一室へとやってきていた。

 室内には一つ一つが馬鹿げた値段がついているであろう調度品や家具の類が並び、出されている紅茶と茶請けのケーキもおそらく常人が聞けば泡が吹き出るような値段がついているだろう。

 

「いつもすまないな狛」

 

「サーゼクス様にそのようなお言葉を使わせたとあっては奥様から睨まれてしまいます、どうかおやめくださいませ」

 

「まったく君は固いな、今回は執務中の呼び出しではないんだ……楽にしてくれ」

 

 狛が現れた青年に頭を下げる、なぜなら目の前の青年こそリアスの実兄にして先の大戦で戦死した魔王ルシファーの名前を引き継いだ現魔界の頂点に君臨する魔王サーゼクス・ルシファーその人。

 普通ならば実妹の兵士といえど簡単に会えない人物が執務の合間にまで会いに来ている姿は他の悪魔が見れば驚きで固まってしまうだろう。

 

 

「それで、新しいリアスの下僕についてと近況について教えてもらえるかな?」

 

 

 何よりも妹の近況を確認するためだけに呼び寄せるなどと知れば、それこそ驚きのあまり何人の悪魔が倒れるだろうか判らない。

 主君の近況を報告するためとはいえ、魔王との謁見と報告というものは狛にとって心臓に悪いものでいつまでたっても慣れないものであった。

 

 

「……さてでは君に仕事を任せようか」

 

「仕事でしょうか?」

 

「言っておくがいつものような煎餅などの茶請けをこっそり仕入れるのではない。リアスの婚約者が動き出した、それに合わせて赤龍帝の少年を少しでも強くしろ」

 

 

 リアスの婚約者。

 サーゼクスからは不機嫌のオーラが魔力となって噴出しており狛はその威圧感から全身から脂汗が噴出してしまう。

 

「それと君の神器(セイグリッドギア)についてだが、名前さえ判ればこちらのものだ。情報が集まり次第手紙を送らせよう」

 

「……申し訳ございません」

 

「構わないさ、リアスの事や隠密調査と無理を言っているのはこちら側だ」

 

 何かが引き金となったかのように、あるいはドラゴンの力が引き寄せているのか厄介な騒動がゆっくりとリアス達に忍び寄る。

 

 不死鳥の炎が騒動の油に火を灯さんと羽ばたき始めていた。




描いていたらサーゼクスがシスコン気味に
どうしよう
そして一巻終了! 次はライザー編
気張っていきます
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