言ってる事は血を残す義務をしようとしてるだけに
描くのって難しいです
一誠とアーシアが悪魔となってから年月の経過は早いもので一ヶ月が経過したが、日をおう毎にリアスからは元気がなくなり朱乃を初めとした眷属たちは自分に出来ることを行っていた。
ようやく空が青み出す時間帯の街を一誠は半ば強引にも狛に引き連れられる形でマラソンを行っている。
「最近部長の元気ないよな」
「……そうだな」
「幾ら俺の神器は自力が重要だからって急に特訓はさせられるし、朱乃さんもどこかイラついているけどさ……何かあったんじゃないのか?」
一誠の問い掛けに狛はこの一ヶ月強引な特訓に文句一つなく付き合い続けた一誠に対して言ってもよいかと考える……同じ眷属として信頼しているが伝えた場合一誠が何をしでかすか分からない。
少なくとも最悪とよべることにはならないだろうが、それでも悪魔の階級というものに疎いことに加えて内容が内容なだけに伝えてしまえばやる気に影響が出るかも知れないと狛は事を伏せてきた。
「……兵藤、純粋な悪魔の大半が大戦で戦死して数が減ったのは知ってるな?」
「その数を補う為に俺たちみたいな兵士を作ってるんだよな、でもそれが部長の元気とかとどう関係してるんだよ」
「魔界そのものが純血悪魔を増やすために婚約や結婚を急いでいるんだ、小競り合いによって純血悪魔が死んでお家断絶という話まであるくらいだ……んでリアス部長の婚約話が結婚になったんだ」
「はっ? 部長が結婚!?!?」
突然の結婚という話題に一誠は驚きのあまり周囲の鳥が飛び立ってしまうほどの大声をあげてしまい慌てて狛に口を塞がれると周囲の住人が起きだす前にその場から全力で逃げ出す。
悪魔の力を全力で使った脚力で十分ほど駆け抜けた二人はペースを元に戻すと再びゆっくりとマラソンを再開するが、興奮している一誠は狛に対して質問を怒涛の勢いで投げかけていく。
「本当ならリアス部長が大学を卒業するまでは待つという約束だったんだが、どうも小競り合いによる事件などがグレモリー家の旦那様を刺激してしまったみたいでな。形だけでも結婚し万が一に備えたいという考えが暴走してしまっているようだ」
「でも部長は嫌なんだろ? なら」
「“グレモリー家の”跡取りはリアス部長しかいない……リアス部長に何かあった場合にそなえて婿養子を迎え入れ、何かあったとしたら別の家に婿養子に嫁がれたリアス部長の兄上の子供を養子に迎え入れる」
「なんだよそれ、それじゃあ部長は単なる予備とか家の為の保険みたいな扱いじゃないか!?」
「……それが今の冥界の貴族階級なんだ、ましてや悪魔は出生率が凄まじく悪いからな。旦那様も娘に欲望を押し付ける形になっても家庭と子供を持って家を守って欲しいと考えているんだ」
「それでも、部長があんな悲しそうな顔してて家庭なんて……悪魔の貴族事情とかよく判らないけどよ! 家族ってのはもっと笑顔があって喧嘩していくもんだろ、そうじゃないと生まれてきた子供がかわいそうだろ」
その言葉に狛は自然と笑いがこぼれてしまう。
親に捨てられてしまった狛だが一誠の言っている家族の姿については少しは理解できる身だ、その姿が貴族社会から見ればおかしなものでも一誠の優しさというものが端的に現れている。
どうしようもないスケベだがリアスのように相手に対する慈愛を持っておりその優しさからくる意思の強さがアーシアを救ってみせ、最強の一角とされる力を発言させたと考えればやはりリアスの見る眼は間違っていない。
「やっぱり兵藤はいい奴だよ」
「でも部長の結婚話を破談させるにはどうすりゃあいいんだ?」
「そこはサーゼクス様、リアス部長の兄上よりちょっとした策を授けられているさ。レーティングゲームに持ち込んでこっちが勝てばいい」
「チェスに見立てた勝負で?」
「レーティングゲームは娯楽の一面以外にもお家騒動に用いられる事が多い」
「つまり俺たちがレーティングゲームに勝って部長が相手に結婚を待つか、破談にしてまうってことか!?」
話の要領を得た一誠は自分の左手をマジマジと眺め、何かを決意するとマラソンのペースをあげていくその背中を見ながら狛は一歩後ろからついていく。
『部長のおっぱいは譲らない』といったスケベ心満開な言葉を気合入れに使っている事は無視して狛は更にペースをあげていく一誠についていく、予定の距離を走り終えると一誠は自宅でアーシアと母親の手料理を食べる為に帰る。
狛はそのままもう少しだけ走るとリアスから用意されているマンションの自室に戻ると制服を着込み授業に必要な道具を納めたカバンを担いで朝の日常に向かう、ただしそのカバンの中にサーゼクスから渡された様々な書類の束があるのは仲間たちにも内緒のことであった。
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一誠とアーシアが授業を終えたその日の部室は物々しい雰囲気であった。
リアスは苛立ち、朱乃は笑顔だがそれも何処か硬く、小猫はいつものように何か食べ物をつまんでおらず、木場は椅子に腰掛けたまま精神統一をしている。
狛は銀色の髪とメイド服が特徴的な女性と何やら込み入った話をしており部室に二人が入ってきた事によって話を中断するが、また後ほど詳しく話しをする約束をしているのが一誠には聞こえた。
「えっと部長、こちらの方は?」
「はじめまして、グレモリー家に仕えるものでグレイフィアと申します。以後お見知りおきを」
「リアス部長の兄上の
メイド服を纏っているだけでなく名乗りも簡素であったため本当にただのグレモリー家から派遣されたメイドとしか思っていなかった一誠は、グレイフィアの持つ刃物のような雰囲気と大人の色気に鼻のしたを伸ばしかけるも狛の一言でこれを正した。
かなり強めの警告が気に食わなかったのかグレイフィアは狛を睨みつけるが狛本人は何処吹く風とばかりに顔を逸らすと何も言わずリアスの傍に控える。
いつもと違う雰囲気にアーシアは困惑してしまっており、一誠もどうすれば良いのか判らない、小猫と木場が助け舟とばかりに二人に椅子に腰掛けるように呼びかけるがそれも意味を無くす。
悪魔の仕事用に作られた魔法陣が独りでに強く輝きだす。
しかしその紋章はグレモリー家の紋章とは異なる紋章を描き出していた。
魔方陣から炎が噴出すがその炎は腕の一振りによって消し去られる。
リアスの顔は苛立ちに満ち溢れ、朱乃ですらその顔から笑顔がなくなり、木場と狛は光に対して鞘から抜いてこそないが各々の得物に手をかけている。
臨戦態勢と言わんばかりの一同を見た一誠はアーシアを庇うように光から離れ、そこから姿を現す一人の二十代前半のホストというのが似合いそうな男が狛から聞いたリアスの婚約者であることを悟った。
「愛しのリアス、迎えにきたぜ」
「帰ってライザー、私は結婚しないと言わなかったかしら?」
リアスの間髪入れない返答など聞こえていないとばかりにライザーと呼ばれた男……リアスの婚約者であるライザー・フェニックスはリアスの腕を強引に手にとるがそれも強引に振り払われる。
そしてリアスとライザーの間に敵対者に対する笑顔を浮かべた朱乃とクトネシリカの柄を逆手で握った狛が耳と尻尾を出した状態で割り込む。
木場と小猫も距離こそとっているが何かあれば動ける姿勢をとっているにも関わらずライザーは小さく肩を上下させると勝手知りたるとばかりに部室の椅子に腰掛ける、それは座ったとしても現状を捌けるという力に対する信頼があるからこその行動だ。
身体からは僅かだが熱気が放たれており部室の温度は敵対姿勢を見せているグレモリー一団の冷たさとライザーの放つ熱気が拮抗しているような状態であり、一誠とアーシアはなんとも言いがたい居心地の悪さに更に困惑してしまう。
「これは君のワガママが通るような事じゃないのは知ってるだろ、ここのところ増えだした小競り合いでお家断絶や嫡子を失った家は少なくはない、俺たちはただでさえ少なくなってしまった七十二柱の名を背負ったものとしての責務がある。君の結婚に対する考えは悪魔貴族としての責務に対して逃げているだけだ、人間社会だろうと悪魔だろうとお家の為に血を流すのは間違っているのか?」
「私は婿養子も迎え入れるつもりだし結婚に対する考えだって判っている、でも次期当主として……いずれ母となる身として生涯と家を託せる相手は自分の眼で決めるわ。数の少ない純血悪魔であり古い格式あるからこそ私は自分の中にある血を任せられる相手を選びたいの、そもそも大学卒業まで結婚の話は待つという約束を破ったのはそちら側でなくて?」
「それについてはお父上も納得されているからこその早まったんじゃないか、気に食わないが転生悪魔が顔を利かせだし小競り合いで失われていく現状はそれだけの状態を作り出しているんだよリアス」
話は平行線を辿っている。
だが話が長引けば長引くほどにライザーの身体から発せられる熱気が強まっていく、それはライザーの機嫌が悪化していることを端的に表していることを意味していた。
「リアス、俺もフェニックスの名前を背負っている男としてこれ泥を塗られるのは耐え難いんだよ、ただでさえ地上は穢れているというのに一端の兵士気取りで立ちふさがってる犬っころは特に酷く臭う! 出来損ないや腐ったものよりも遥かに苛立つ宿敵の匂いと同胞の血が入り混じった胸糞悪い臭いが特に鼻につくんだよぉ!!」
ライザーの身体から炎が噴出す、それは鳥の翼を形作りその名前に偽りのないフェニックスとしての姿と上級悪魔としての強大な力を部室内に広め一同が一触即発の姿勢となってしまう。
自分の兵士を馬鹿にされたばかりか実力行使に躍り出ようとしているライザーに対してリアスの怒りは凄まじく既に身体から赤い魔力が噴出しておりいつでも全力の一撃を放てる状態となっていた。
「皆様おちついてください、これ以上はサーゼクス様の名誉を守る為に私も黙ってはいられなくなります」
グレイフィアからライザーの熱気やリアスの魔力など取る足らない、比べることすらおこがましいと思えるような強大な力と共に放たれた一言に二人は放ちかけた力を納めて今一度席に腰掛ける。
その様子を見た一誠は改めて悪魔における最強という言葉の大きさを身を持って思い知らされた……それは本能が有無を言わせずひれ伏すことを選び取るような圧倒的なそれ、父親や母親のような逆らいがたいものと相対するようなものだった。
そしてグレイフィアがゲームの進行役となることを条件に両者の間でレーティングゲームよる解決が承諾される。
「ところでリアス、君の手駒はたったそれだけか?」
「だとしたら?」
「おいおい冗談はよしてくれ? 君の下僕じゃ『雷の巫女』くらいしか俺のかわいい下僕に対抗できないんじゃないかな」
ライザーが指を鳴らすと再び魔方陣が輝きだし十五人もの女性・少女が姿を現す、それはチェスで用いることの出来る最大の数であること、リアスの7人に対して単純な戦力差が二倍であることを意味していた。
そして一誠は目の前のライザーがハーレムを実現していることに対して感動の涙が流れ出し流石のライザーも突然の号泣に顔を引くつかせながらリアスに理由を尋ね、ハーレムを夢見ている事に対してのものと聞き見下すような笑顔を浮かべる。
それどころか一誠に見せ付けるように下僕の一人と熱烈なキスをし始め、その様子にリアスは冷めた視線を送るなどグレモリー一団はライザーの行動を少なくともいい方向には捉えていない。
「部長と結婚するのにそうやって下僕といちゃついてるんじゃあ! 部長は振り向いてくれねぇよ焼き鳥野郎! ハーレムと一個人の愛情とはまったくの別物だっての判ってるのかよ!」
ライザーの行為が少なくともリアスには好意的に捉えられていないと言いたいであろう一誠の言葉に他ならぬリアス達が驚かれ、アーシアにいたっては熱がないか調べだそうとする始末にまで発展する。
誇り高いフェニックスであることを焼き鳥とまで侮辱されたライザーであったが自分を完全に無視して熱だ、風邪だ、天変地異の前触れだ、と騒いでいる姿に怒気が失せてしまう。
ライザーの眷属たちも慌てて風邪薬の在り処を探し、体温計や氷の支度を進め魔方陣の描かれたカーペットで一人の人間を簀巻きにしている風景に対して何を言えば良いのか判らず困惑するしかない。
「……リアス、君や君の下僕たちはレーティングゲームは初陣だろう」
「あっ! えぇそうよ」
「対するこちらは百戦錬磨だ初陣相手に準備期間も与えず勝ったところで功績にもならない、それにいざとなって初陣だからと難癖つけられるのも癪だ。会場の準備も兼ねて十日後というのはどうだろう?」
「……ハンデのつもりかしら?」
「理由はさっき言った通りだ、それに感情だけで勝てるほどゲームは甘くない。本当に勝ちたいと思っているからこそ相手の温情に縋るべきだろう? こっちとしては十日の間に結婚式のことを考えておきたい」
自分が負けるなど微塵も思っていない百戦錬磨を自称出来るだけの経験と実績をつんだからこそ持つ重い言葉がリアスにのしかかかる、レーティングゲームに関してはライザーが何歩も先を行く先輩なのだから当然といえば当然である。
「それとそこで簀巻きにされる奴!」
「なんだ!」
「デカイ口を叩いたからにはやってみせろ、お前の一撃はリアスの一撃になるんだ」
敵に塩を送るような行為だが少なくともそこにはリアスを想ってのものがあることは一誠には理解できた、無論それ以上に負けなどありえないという自信から来るものがあるのも理解できた。
簀巻きにされカッコのつかない状態であるが自分の立ち振る舞いや活躍はそのままリアスの評価に繋がってしまう、無様であればあるほどにリアスの眼が節穴だと、先見の才のない無能者という烙印を押されてしまう。
簀巻きにされ額に氷嚢を押し当てられたなんとも情けない格好ながら一誠は左手を強く握り締め決意を固めていく、少なくともレイナーレの時よりは一ヶ月の特訓によって強くなっているはずなのだ。
『もうなくさない』
今はなき初恋相手との約束を胸に一誠は自分の拳からリアスを守りぬくことを誓い……
「……部長、これ解いてください」
とりあえず簀巻きにされた状態からの脱出から始めることにした。
木場が慌てて保健室から体温計を借り出し体温を測り安全と健康が確認されたうえで解放されるのだが一誠が解放されるまでとても時間を要した。
またその騒動の間にグレイフィアと狛は静かに部屋から退出し、リアスたちには聞こえない小さな声で密談をしている。
「やはり臭いますか」
「……失礼ながら消しきれない部分はありますね」
「姫島さんのように上手く混ざれば良かったんですが、どうも神様の血潮というのは俺を生きたいようにしてくれないようです」
「ですがその力が使えれば少なくともゲームは有利に進むでしょう、無論負荷について考えながら二倍以上の戦力差を埋めるのは至難の業でしょうが……サーゼクス様はなんとか出来るとお考えのようです」
「きっとどうにかするのは俺ではなく兵藤でしょうね。赤龍帝以上に面白い奴ですよ」
狛の体内に流れる八百万の血潮は強く強く脈打っておりそれは一度死んだ身でありながら悪魔の力が上書きしきれないほどに強いもので、完全な転生悪魔とは呼べない不完全な代物となった。
それが原因となって反発する二つの血が拒絶反応を起こし臭いとなって現れてしまっているのだ……狼にとって臭いは武器である以上に天敵として存在する、狩りで位置がバレてしまっては元も子もない。
神器では臭いだけでなく姿まで隠してしまう、洗剤や芳香剤でごまかしているがそれもまた狼として在り得ない姿である、狛はそうした意味でも出来損ないかつ不完全で歪な存在なのだ。
上級悪魔であればあるほどにその臭いに対する鼻が利き、そして嫌悪感を露にするのはもはや本能の部分にある相容れないものへの敵対心そのものといっても良い部分であったがそれでもグレモリー家は狛を受け入れた。
「サーゼクス様からの資料もあります、あとは俺たち次第です」
「ではリアス様の幸せの為に尽力してください……あとあの子やサーゼクス様に頼まれたからと言ってあまりポトチやぽちぽち焼きをあげないでください」
「……尽力します」
グレイフィアからの冷たい視線に対して狛は冷や汗を噴出しながら答える。
魔王とその部下にして妻の命令の板ばさみになりながらも狛もまた対決に向けて準備を始める。
会話だけで一話飛んでしまった
修行……とばすかな