半人半ゾンビは数の暴力を繰り出した!ヴィランは死ぬ!   作:なのはな寮長

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ただいまです。


第7話 私ってば障害物競走に向いてないと心底思う

 

「スタ──────ト!!」

 

 開いたゲートの上部に点灯していた緑色のランプが全て消えると同時に、ミッドナイトが合図を出した事で11クラスの全員が狭いゲートへと突入した。

 

「さて、やってやる──ぞぉおおぉおおぉッ!!?ちょっ……待ておいっ!!始まったばっかなのに人の波に流されボボボボボッ!!!」

 

 しかしゲートはその11クラス全員がお世辞にもスムーズに通れるような広さは無く、そうして出来上がるのは数秒前まであくびをしそうなほど呑気な顔で「……お腹空いた」などと考えていた阿保すら二重の意味で目が醒める激しい人の濁流だった。

 

「ぷっはっ!!いや待って足が地面に付いてる感覚無いんだけどっ!?凄い浮遊感あるっ!!」

 

 菌華はバタバタと半パニック状態で手足を動かすも踏み慣れている確かな大地の感触は無く、空を蹴ることに終始。しかし周りがほぼ浮いている彼女を挟みながら前に進むので自身の足で進む手間は省けている様だった。

 

 そうして波に流されていると、前方から菌華の耳に「何だ凍った!!」や「寒みー!!」など、4月には聞きそうにない季節外れな言葉が聞こえてきた。

 それに対して首を傾げていると、急に肌寒くなってきて菌華も思わず肩を抱える。更にはゲートの出口から周辺、そして少しゲート内の壁まで氷がへばり付いているのを目撃して彼女は叫んだ。

 

「寒ぅっ!!?本当に凍ってるし!?いっ、今4月だよね!?まさかこれが障害物……ってあ、さてはあの赤白イケメンの仕業だな?」

 

 ひらけた場所に出た事で挟んでいた人達がいなくなり、やっと地を踏めると思っていたのに、凍結しているおかげでバランスとりながらおっかなびっくり前へ滑るのが精一杯な状況になっていた。

 転ばないように細心の注意を払いながらつるつると進んでいると、足が地面ごと凍って見事に立ち止まっている人達を発見し、通りすがりに御愁傷様ですと心の中で合掌しながらあの氷について菌華は推理を始める。

 

 まずはこの競争の目玉である障害物の線も考えたがゲートから出て即罠は流石に違うと思い、可能性から外す。その流石も雄英なら平気でやりかねないが話せば切りがなくなるのでやめておいた。

 そして二つ目にして最後の可能性はクラスメイトである轟焦凍の個性によるもの。というか今のところそれしか彼女の思考の中に無いので、菌華はこれを轟の仕業と思うことにした。

 

「いやぁ……人の波で溺れたお陰で私は後ろに留まってたから氷結に足を取られなかったってわけか……。てか何してもいいとは言ってもこんな事するかなふつー。この世界のイケメンは容赦が無いのか……」

 

 もみくちゃにされてようやく目が覚めたかと思えば、この期に及んでまだふざけた事を呟きながら滑っている菌華。

 そんな彼女に同じように滑りながら話しかける者がいた。

 

「わっ、ととっ!あっ……き、菌華ちゃんっ!」

「うわっと……!おっ、緑谷くんっ。1人?」

「あ、いや──」

「よォ骸牙!オイラもいるぜ!」

「……峰田くんもか……」

 

 菌華に話しかけたのは、地味な雰囲気なのに緑髪とかいうトンデモない色のヘアーをしているけど超が10個付くほど良い人、と菌華に勝手に評価されている緑谷出久。そして彼と共にいたのが、なぜこいつが除籍にならないのかと何度も菌華を悩ませたセクハラグレープこと峰田実だった。

 緑谷の時は仲のいい知り合いを見つけてぱっ、と笑顔になったのだが、峰田を視認した瞬間にテンションが露骨に下がっている。

 

「あっ骸牙今スッゲーテンション下がったな!!」

「ウン……まぁ……」

「チクショー否定しねぇしよォ!!緑谷っ!!何でお前だけっ!!!」

「えっ……えぇ〜……!!それは僕に言われても困るよ峰田くん……!!!」

 

 日頃の行いで既に差が付いている事実を気付いてないのか認めたくないのか、自分の登場をあからさまに良く思っていない菌華を見て半狂乱と呼ぶに相応しい様子で叫びながら緑谷に八つ当たりする峰田。それに対して緑谷はなんともやりづらそうに返事をする。

 とうとう峰田は自身の個性である毛髪をもぎ取り、両手に持つとこう叫んだ。

 

「もういい!!オイラはあの先頭のイケメン追い越して一位になってやるんだからなぁ〜ッ!!!」

 

 その髪を凍り付いた前方の地面に投げつけると、峰田はそれらをトランポリンがわりに跳ねながら轟に立ち向かっていった。

 

「………何だっけああいうの。無謀って奴だっけ?冷凍グレープ出来上がってない事祈っとこうよ」

「祈らなくても大丈夫だよ!!……多分」

 

 緑谷にすら多分と言われるほどの轟と峰田の力の差。同じクラスという事もあってそれを知っている彼らからすれば無謀と言われても仕方ない。

 そんなことを話していると噂をすればと言えばいいのか2人の背中が見えてくる。

 

「くらえ、オイラの必殺……GRAPE──」

 

 それは丁度峰田が跳びながら轟に向かって毛髪を投げようとしている時だった。しっかり構え、技の名前を叫ばんと腕を振りかぶろうとしたその時。

 WHAM!!そんな擬音と共に鋼鉄の腕が空中で回避行動に移れない峰田にクリーンヒットした。

 側転の様に回りながら勢いを付けて面白いくらい転がっていく峰田。女子の日頃の恨みが放たれたのかもしれない。

 

「峰田くん!!」

『ターゲット……大量!』

「入試の仮装(ヴィラン)……!!?」

 

 雄英を受ける際に相対したロボット。通称仮装(ヴィラン)による赤いレンズを光らせての登場に少なからず驚く緑谷。

 そんな緑谷以外にも訳がわからないと言った様子の生徒達は多く、彼らのために実況であるプレゼント・マイクから解説が入ってきた。

 

『ッさぁ、いきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門!ロボ・インフェルノォ!!』

 

 これこそ雄英のお得意である受難や壁という物なのだろうが、今実際に壁の様に並べられているどでかいロボット共を最初の関門に配置するのは流石にどうなのだろうか。クリアチェックのされていないorした奴が上手すぎるパターンである。

 当然こんなの前にすれば口からとりあえずPuls ultraの前に愚痴だって漏れる。

 

「入試ん時の0P(ヴィラン)じゃねえか!!!」

「マジか!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多すぎて通れねえ!!」

「いッやいやいやナイナイナイ……こんなん障害物でも手始めでも第一関門でもないよ!!ただのロボインフェルノだよ!!!」

 

 この状況、ヒーロー科もそれ以外の科もパニックにならないのはむしろ少数だ。逃げる気なんて全員誰にもさらさらないがその上慌てるなというのは少し酷である。

 そして少数の中でも更に頭がクールで手段も持っている者は当然、パニクる他を置いて行く。

 

 それを実践する様に今もなお先頭にいる轟がしゃがみ込んでヒタリと地面に触れると、彼の周りを強力な冷気が渦巻いて立っている地面すら氷結させていった。

 そんなあからさまに何かをする前の構え(・・)を取ってる轟にもプログラムが残念なのか、巨大な鉄塊は躊躇など微塵も感じられない様子で襲い掛かっていく。

 

「おいおいあれ大丈夫……!?潰されたりしな………い……よね……」

 

 それに対して構えたまま大きなアクションを起こさない轟に菌華は少なからず不安を覚えると、少し慌てた様子で彼の元へ向かおうとする。

 が、しかし。菌華が口にしていた言葉を言い切る前に轟が手を振り上げ、荒ぶるロボットを一瞬で凍結させた。

 

「……は、え……?」

 

 脅威がそのまま動き出したかのようなあれを即冷凍し、余裕で突破していく轟に菌華は開いた口が塞がらない。

 そんな後続を置いて轟は凍らせたロボの隙間から先へ進んでいった。

 

「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」

 

 そんな時1人の生徒が凍結したロボの隙間を指差して叫んだ。その言葉に皆も隙間を注目し、中でも勢いのある男子生徒2名は後先考えずにそこへ向けて走り出していた。

 

「やめとけ、不安定な体勢ん時に凍らしたから………倒れるぞ」

「うッ……おおぉおおおぉっ……!!!?」

 

 確かになんでもありとは聞いた。妨害だってなんだって、普通の体育祭じゃないことは菌華も重々承知していた。

 ……だがこれは無いだろう。おかしいだろう。あんなのが重力に従って倒れて来たら人なんて簡単に死ぬだろう。そんな考えが頭の中を駆け巡り、まともなコメントの一つも出ない。

 実況が何か言っているのが聞こえなくも無いが、驚きとロボが倒れた際の轟音で聞き取れなかった。

 

「お、おい!誰か下敷きになったぞ!!」

「死んだんじゃねえか!?死ぬのかこの体育祭!!?」

 

 そうだ。そういえば生徒が2人、隙間に猛進して行って見事にロボと地面に挟まれてたんだった。しかもそのうちの1人はおそらく顔見知りだ、と菌華は正気に戻り、冷静に考え無くともやばい事態にどう反応して何をすればいいのかと頭を悩ませる。

 すると、暫定で2人の血を吸ってると思われるロボットの残骸の一部が盛り上がり……。

 

「死ぬかぁーっ!!!」

『1ーA切島潰されてたァーッ!!!」

 

 そこから菌華の顔見知りの方、ツンツン赤髪の不良っぽい感じとは裏腹に緑谷に比肩する良い漢の切島鋭児郎が咆哮と共に飛び出して来た。彼の個性、硬化なら確かに死ぬ心配は無いだろう。

 五体満足な切島を見て菌華はほっ、と一安心する。しかし実況がウキウキしている理由がわからない。

 

「轟のヤロウ!ワザと倒れるタイミングで!!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」

「……A組のヤロウは本当嫌な奴ばかりだな……!!」

 

 彼から突っ込んだ事もあり多少は自業自得とはいえ、ここで罵倒の一つも出ないあたりが彼の人間性を明らかにしている。

 と、そんな聖人切島の隣から声が聞こえると、ベゴバコッ……とその装甲が彼の時と同じ様に盛り上がってくる。

 

「俺じゃなかったら死んでたぞ!!」

「B組の奴!!」

『B組鉄哲も潰されてたー!!ウケる!!』

 

 今度飛び出して来たのは、両親が5徹し酒入れた状態で考えたんじゃ無いかと思うほどのキラキラならぬテツテツネームなB組の生徒、鉄哲徹鐵だった。

 名前の通り個性は全身が鋼鉄と同様の性質を持つ、と言ったものだ。これならば切島の様に潰されても大丈夫である。

 しかし切島は個性が地味な事を気にしている上に隣のクラスの生徒と個性が被っているという事実に涙目になりながら走り出す。

 それとやはり実況が不謹慎な気がする菌華であった。

 

「とりあえず俺らは一時協力して道拓くぞ!!」

「……っ!!ふんぬっ!!!」

 

 硬化男子2人に呆気を取られ、再びぼぅっとしていた菌華だったが他クラスの生徒の言葉に自分も両頬を掛け声とともに勢い良く叩いて気合いを入れ直し、目つきを改めて目の前の中型ロボットを睨め付ける。

 

「……ッし、気合い十分っ!!オラ、鉄屑にしてやるから来なよっ……!!」

 

 バチバチの闘志が宿った瞳を向けつつ、菌華は右手からウイルスを放出し、その纏まりのない黒いモヤを操ってスカルミリオーネ……略称カルミの刺々しい黒槍を形成する。

 そして柄をしっかり握り締め、持ち上げて槍を肩にかけながら菌華はロボットを挑発した。

 

『コノッ……クソ人類ッ……!!!ブッ殺──』

「せねェよ!!!」

 感情を持ってるのではないかと思うほど良く喋るこのロボット達には挑発も効いたのか、怒っている様な機械音声を発しながら菌華を殴り飛ばさんと鉄の腕を振り上げるがその前に槍が振り下ろされ、硬そうな見た目をしている癖に抵抗も無くばっさりと袈裟(けさ)斬りにされた。

 

『ギ……ガ……!!』

「なんだよ脆いな。これならそんなに警戒しなくても良さそう……ねッ!!!」

 

 勢いよく振りかぶり過ぎて少し地面に埋まった槍を抜くと、次は前方にいるロボットに向けて再度勢い付けて振り下ろした。

 

『テメェの方こそスクラップにしてヤン──グゴッ!!ギッ……!!!』

 

 今度は人で言う頭部らしき部位をそれが身体にめり込むほど強烈にブッ叩く。すると、ベゴンッ!!という勢い通りの鈍い衝撃音や鉄の軋む音、火花が散る音など見なくても良くない事が起こっているのを容易に想像出来る不協和音ばかりが奏でられる。

 

「あ〜……良く聞こえなかったなぁ。もう一度言えやスクラップ──」

「菌華ちゃんそれヒーローとしても女子としてもアウトぉ!!!」

 

 不協和音と共にバグった音声を吐きながら地面に倒れたロボをガッ、と踏み付け、不良以外がしない様な勝利宣言を堂々と行う菌華の背後から、誰かと違って模範的女子らしき声をかけられた。

 

「ん、麗日ちゃん。梅雨ちゃんと芦戸ちゃんも。どしたの」

「菌華ちゃんの方がどうしたん!?」

「ロボ相手とはいえダーティー過ぎるわ」

「元ヤンか!元ヤンなのか!!」

 

 どうしたはこちらのセリフだと方言交じりで言うのが麗日お茶子。相手が人ではないといえ流石にヒーロー的ではなさ過ぎるんじゃないかと言うのが蛙吹梅雨。全力で元ヤンを疑ってくるのが芦戸三奈だ。

 三人共菌華と同じ1年A組の生徒である。それぞれ言う内容は違えど道を踏み外した者を正す様な目で菌華を見つめていた。

 

「いやどうしたって……男子女子関係なくテンションとアドレナリンぶち上がったらみんなこうなる──」

「爆豪ちゃんみたいだったわ」

「これからは八百万さんみたいに生きようと思うよ」

 

 即堕ちだった。

 別段、ヤンキー的な態度を気に入ってたり意志があったりするわけじゃない上に、自分の大ッッキライなタイプである爆豪と似ているなんて言われたら彼女的にはたまったものではなかった。

 

「(流石梅雨ちゃん……!!)」

「(一瞬で骸牙なだめちゃった……!!)」

 

 菌華が折れるのが速かったと言うのもあるが、蛙吹が両親の都合で弟妹の面倒を見ていたからそこら辺の扱いには長けていたというのもこの即堕ちの理由だろう。

 ちなみに、菌華が肉体的には蛙吹と同年代で精神年齢に至っては上であるはずなのに小学生と同じ扱いを受けたという事には誰も触れてはいけない。

 

「さて、落ち着いたところで行きましょうか。道も拓けているわ」

「そ〜ねっ……道中そいつら倒しつつ行こうか」

 

 丁度前の方で八百万がチョロいと言いながら0Pを大砲で倒しているのを見て蛙吹は前へ進む事を提案するが、タイミングを合わせたかの様に前方から様々なタイプのロボットが向かって来ていた。それを見て4人ともしっかりと構える。

 

『ターゲット……4人!!』

「そりゃまだいるよねっ……!」

「菌華ちゃん、進みつつ蹴散らす様にお願いね」

「わ〜かってるってばもうっ……!!」

「そんな拗ねないでよ骸牙ーっ!競争してるとはいえ私ら一緒に行きたいんだってっ!」

 

 女子トークをしながらも、浮かす、強靭な舌で打ち付ける、溶かす、槍で斬り潰すなど、1人を除いて自分の得意とする攻撃を繰り出し、向かって来たロボを行動不能にしつつ先へと進む4人。

 菌華も言われた通りに振り返る火の粉を払うだけで自ら火に飛び込む様な真似はしていない。蛙吹の説得がしっかり効いているようだ。

 

「それなら、うん……そ〜ね……」

 

 しかし不意打ち気味に一緒に行きたい、だなんて言われると菌華も少し照れたのか、走りながら真横に目を逸らす。自分としてもせっかくなら知らないクラスの生徒よりも友達と一緒の方が楽しいし、先ほど3人の方から来てくれて素直に嬉しいとすら思う。

 が、いざそれを言葉にして本人達に伝えようとすると気恥ずかしさから、スムーズに3人に伝える事が出来なかった。

 

「……照れたな〜っ」

「はっ!!?!?照れてないよ!?何言ってんの芦戸ちゃんったら!!!本当に!!本当だから!!!」

 

 そんな芦戸の軽いノリで放った4文字にすら過剰に反応し、否定する菌華。必死に否定する様のせいで逆に怪しく……というかほぼもう自白してるようなものだった。

 

「菌華ちゃん、嘘付くの苦手なんやね……」

「良いことだと思うわ。ケロ」

 

 からかう芦戸、自ら死に向かう菌華、それをめちゃくちゃ温かい目で見守る麗日と蛙吹。よくもまぁ走りながらあんな茶番が出来るなとある種尊敬する後続の生徒達。なんとも混沌とした状況が出来上がっていた。

 

「別にっ!?さっき話しかけてくれて嬉しかったな〜とか!!競争中であれだけどおしゃべり楽しいな〜とか思ってないから本当もうマジマジのマジ!!!」

「ゾンビが墓穴掘っとる!!」

 

 ロボ地帯を抜け、神社にありそうなかなり長めの階段を登りながらも茶番は未だ続いていた。

 最早聞いてすらいない情報を率先して喋る菌華に麗日が思わず吹き出してしまう。それを見た菌華は顔を赤くしながら更に拗ねてしまい、3人から顔を完全に背けてしまった。

 

「あっ、そっぽ向いちゃった……」

「悪かったよ骸牙〜っ!ちょっとこう……からかいたくなったというか……それにバカ正直なとこはからかってるんじゃなくて褒めてんだよっ?」

「……〜〜っ!!!」

 

 麗日と蛙吹はともかく、反省の意図が感じられない芦戸の言葉には耳を貸さずにひたすら背を向け続ける菌華。

 

「ほ、ほら確かに本当に隠したい事がある時はすぐバレたりするだろうけどさっ……!!」

「三奈ちゃん。それは追い討ちよ」

「……あっ、頂上っ!」

 

 フォローに見せかけて更に滅多打ちにする芦戸を流石にやめてあげてと蛙吹が制していると、麗日がいつのまにかすぐそこにあった頂上を指差した。

 

「はっ……はぁっ……いやぁきつかったぁ……!!」

「これ自体が障害物みたい……!!」

「あ、骸牙。もう話してくれんのっ?」

「流石にからかわれただけでいつまでも拗ねてるほど子供じゃないからね!大人ですから!!」

 

 上まで登ると息を切らしながら菌華がやっと口を開いた。芦戸的にはもう少し口をきいてくれないものだと思っていたので意外そうに質問するが、自分を大人と称する菌華は流石にあの様な理由で拗ね続けるほど子供じゃないと返した。大人ならそもそも拗ねすらしないのだが。

 そんなやりとりの途中でまたマイクからの実況が入ってきた。

 

『オイオイ第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!ザ・フォ────ル!!!』

 

 そう、今菌華達が立っている地面の先には広さも深さも想像付かない大穴が空いているのだ。と言ってもただ向こう岸とこちらで断絶されているわけではなく、大小無数の柱の様な足場が大穴から無数に生えており、それらが頑丈そうなロープで繋がれている。要はこのロープを掴んで進むなり立って渡るなり飛び越えて行くなりしろと言うことだ。

 

 しかし、底が見えないほどデカい大穴をクッションがあるかどうかも定かでは無いのに渡らせようとするのは、つくづく雄英の狂気の片鱗を見ているような気がしてならない。落ちれば(命が)アウトという事だろうか?と菌華は首を傾げた。

 

「大げさな綱渡りね」

 

 4人の中で最初に飛び出したのは蛙吹だった。個性も綱渡りには適しているものだし、彼女の胆力を考えればこの中で一番に行くのも頷ける。

 

「じゃあ私も行くかなっと………いやこっわ……!!」

 

 続いて菌華もロープの前でしゃがみ込んで掴んでぶら下がるが、まだ進んでもないのに一気に血の気が引いていくのがわかった。下が見えない体勢な分恐怖心はそこまで煽られないものの、それでも怖いし本能的に命の危機を感じる。

 

「くそ……こんなもん用意しやがって……!!考えたやつ絶対馬鹿だろ……!!!」

 

 それでも進むしかない。近道どころか遠回りだってない。この道しかないのだ。

 腹をくくって設計者の意図通りにロープを這いずって菌華は進んでいった。

 

 

 

 

 

────────────

 

 

 

 

 

 

「はぁっ……はぁ〜っ……!!!ざ、ざまぁみろ……!!渡りきってやったわ……!!!」

 

 結局あの後落ちたりトラブルがあったり、なんて事はなく安全堅実にロープを渡り続け、なんとか向こう岸に辿り着いた。

 

「実況によると確かこの先に……!!」

 

 三人娘達とも離れ、今現在自分の順位がどのくらいなのかも分からないまま走る菌華。

 しかし、先頭が最終関門に突入した事でその内容を大まかにだが聞いている。その内容とは……。

 

「おっ、見えて来た──」

「うぉおおおぉッ!!?」

「ぎゃああぁああぁッ!!」

「いやぁあぁあああッ!!!」

 

 地雷原だった。威力はもちろん抑えてあり、ピンク色の爆風も相まってちょっとしたジョークグッズの様な印象を受けるが、こと「競争」においては侮れない障害物に変わる。

 

 ここまでで蓄積された疲労、上位何名が通過するか不明なことから来る焦燥感、それらが注視すれば分かるような地雷をも踏ませる要因となる。

 加えて踏めばそこから体勢を崩し、別の地雷を踏んでもみくちゃにされるというケースも十分にありえるのだ。したがって皆速度よりも慎重に進む事に重きを置く関門と言えるだろう。

 

 ちなみに今までの障害物の中で地雷原という一番危険なフレーズを持っているにも関わらず、今までで一番安全と言うのはやはりおかしいと思う菌華だった。

 

「阿鼻叫喚だなおい……!!いやしかし、冷静と慎重の申し子と呼ばれたこの私にかかれば地雷原など恐るるに足らん……!!!」

 

 言うまでもないと思うが呼ばれたというか自分で呼んでいるだけである。だが実際に菌華はゾーンに入っていると言っても過言ではないほど集中していた。それこそこんな地雷原程度なら物ともしないほどに。

 何か妨害などをされなければこのまま20位以内は固いだろう。そう、妨害などされなければ……。

 

「さぁやってや──」

 

 先ほどとはまた違う、落ち着いた気合いを十分入れなおし、いざ行かんと右足を前に出した瞬間……見てしまった。

 隣で大きめの鉄板……見た目からしてロボ・インフェルノにいた巨大なロボの装甲を持ちながら地面に向かって飛び込もうとする緑谷出久を。

 何を……と菌華は考えた。あの目は何か策略がある目だ。ちら、と落下地点に視線を落とす。

 

「(野郎……)」

 

 そこにはある物が大量に置かれていた。それを見て菌華は心の中であれだけ信頼していた緑谷を野郎呼ばわりしてしまう。

 この流れからしておわかり頂けただろうが、そのある物とは地雷だ。緑谷の意図は分かる。それらを鉄板で一気に作動させて推進力にして飛ぶつもりだろう。向きや角度も彼の学力なら容易だ。しかし待て。ちょっとと言わずかなり待て。緑谷が飛ぶのはいい、大いに構わない。しかしだ。

 

 隣にいる私はどうなるんだ(・・・・・・・・・・・・)

 

「こッッの(ねじ)れ緑髪────」

 

 その思考が完了すると同時に一瞬を限界まで引き延ばされたシンキングタイムが終了する。

 それの同時に腕を交差させて防御を固めながらせめてもの罵倒を繰り出すが……。

 次の瞬間、言葉を発するために開けていた口が一瞬で乾くほどの爆風と耳を塞ぎたくなる轟音が菌華や周辺の人間を襲った。

 

「かっ……はっ……!!!」

 

 音などに対する覚悟は決めていた。しかし、所詮山積みにしてもジョークグッズと彼女は心のどこかで舐めていたのだ。そこを圧倒的な衝撃に付け込まれた。

 音や爆風などの衝撃は直接的なダメージではなくとも強烈であれば人の意識を刈り取る。菌華はまさにその状況に追い込まれようとしていた。

 他の生徒は偶然緑谷から離れていたおかげでそこまでのショックは無かったが、菌華もまた偶然緑谷の真隣にいたのだ。

 頭がくらくらし、耳の奥でキーン……と音が鳴り続けている。このままでは本当にまずい。

 

「(くそっ……やるな緑谷くん……!!!妨害あり……だもんな。今回は君の勝ちだわ……抜かれんなよ…………)」

 

 そんな状態で考えていたのは、他でもない緑谷の事だった。彼には菌華を巻き込もうと言う意思が無かったのはわかっている。自分が前に進む事だけ考えていた。

 純粋な勝ちへの思い。それを持った者になら抜かされ、例え予選を通過出来なくとも良い……。

 

 

 

 

「(なんて言うわけねェだろッッ!!!!)」

 

 

 

 

 わけがない!!!

 理由がなんであれ。菌華の中で偶然故意わざとうっかりなぞどうでも良い。自分をこうした結果は変わらない。

 絶対この借りを返させると言う確固たる意志により、持ち直した菌華は冷静も慎重もかなぐり捨てて地雷を踏むの前提で走り出す。

 

「くッそ……!!頭くらくらしてる間に大分抜かれたなぁ……!!!ほんッとやってんなマジ……!!!」

 

 先ほど近くにいた生徒たちも気付けば遠くを走っている。それが更に彼女の怒りを煮えたぎらせ、地面も地雷も砕く勢いで走る。いくら踏んでもよろけなければ関係無い。そんな気概でひたすら走る。緑谷が一位でゴールしたと実況から聞けば、それも怒りに変え、怒りを力に変えて走りまくった。

 

「(今近くにいるのは……青山くん!!前に人の話聞かなそうなおっぱいでかい機械まみれの人、漫画の吹き出しみたいな顔してる人……人かあれ!!?とにかくこれ以上ッ……抜かれてたまるかぁあぁああぁッ!!!!)」

 

 体力は正直ここで使い切ってもいい。それを第一に考えて走っていた。

 この種目ではそこまで個性を使用していない。ロボットの時にカルミの槍。後は綱渡りの時に身体能力をタイラントと同じにして攻略したのみで、かなり節約出来ている。ここから先では体力じゃなく個性で勝負。その考えのおかげで気持ちも身体も軽くなり、安心して鬼気迫る勢いで進む事が出来ている。

 

「あとッ……少しィ!!!!」

「行かせ……ないよっ☆」

「はぁッ!?青山くんッ!!?」

 

 地雷原を抜け、もう一踏ん張りでスタジアム……そんな時に後ろからへそから出るネビルレーザーの勢いで空を飛ぶ青山に並ばれ、そして抜かされた。

 

「うぉおおおおぉッ!!?くッそ負けるかぁああぁあッ……!!!!」

「グッバイ☆……うッ……!!!」

 

 レーザーと単純な足。そろそろ限界が近づいて来た菌華の足と違って、基本は勢いが一定のレーザー。どちらに軍配があがるかなんて言うまでもない。

 ただしそれはずっと一定だったら、の話。あと数メートルで青山がゲートをくぐる。そんな時、ネビルレーザーの射出限界がやって来た。

 腹を抑えながら地面に落下する青山を置いて……抜いた。

 

「いィいぃいいぃよしッ!!これで私のッ……勝ちぃいいいいぃいぃッ!!!!」

 

 それを見た菌華はガッツポーズは心の中で済ませたが、その喜びを声にしっかりと出す。そして、勢い良くゲートに向かって飛び込んだ。

 

「いよっしゃあぁあぁぼぼごごぼべぼっ!!!」

 

 テンションは雲をつくほど上がり、アドレナリンはノンストップで出続けているせいか、正常な判断がつかない菌華はプールに飛び込むようにゴールをした。しかし当然下は水ではなく地面。

 勢いもめちゃくちゃに付いていた事もあって、顔面から地面と接触後、全力で転がり回っていった。

 

「さて……ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!」

 

 女子どころか男子でもしないようなとんでもないゴールを決めたゾンビを無視し、ミッドナイトが進行をする。

 

 張り出された順位には

 

 1位 A組 緑谷出久

 2位 A組 轟 焦凍

 3位 A組 爆豪勝己

 …………………

 …………………

 …………………

 42位 A組 骸牙菌華

 

 最後の最後で怒りと根性によって最下位に滑り込んだのだ。

 

 

 




小さい文字とか多機能フォームで打ちたいけど調べてもわからないので誰か教えて下さいませんか……?
あ、それと1〜6話を修正しています。若気の至りで書いた物なので見られると恥ずかしくて私が死にます。間違っても見ないでください。お互いのために。
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