「よし。美人のかーちゃん迎えに行くか!八乃」
「うん!いくいく!」
比企谷八幡、二十八歳。
総武高校卒業後、千葉の大学に入学し、二十歳に結婚。子供にも恵まれ、幸せなひとときを過ごしている。そして見事に高校時代からの夢であった専業主夫になり、家事全般を妻が仕事をしているうちにこなしている。妻はだいたい夜の8時ぐらいに最寄り駅に着く。それを毎日のように娘である八乃と迎えに行っているのだ。
因みにこの可愛い娘は六歳。小学一年生だ。本当に俺の子か?と思うぐらい可愛い。多分この可愛いさは妻からの遺伝なのだろう…。
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妻を迎えに行く準備を整え、最寄り駅である海浜幕張駅に向かっている。
勿論、娘である八乃と手を繋いで。この状況を傍から見たら通報されそうで怖いが一応証拠である俺特有のアホ毛が娘に遺伝しているのでなんとか大丈夫だろう。多分。きっと……大丈夫だよね?
「パパ〜?」
「ん?どうした八乃?」
「パパとママの、なれそめっていつー?」
「突然だし、どこで覚えたんだその言葉。」
「宿題でだされたんだー!」
「…それ出したのってなに先生だ?」
「小町せんせいだよ!!」
そう。妹である小町は大学を卒業した後立派な教師になっていたのである。どうやら総武高校に入ったあと持った夢らしく…多分、あの人の影響だろうが…。本当早く誰かもらってあげて…生徒に先越されちゃったんだから…。
てか、おい。アイツ。何うちの娘に聞いてんだよ。というか、そんなこと小学一年生の宿題に出すんじゃねぇよ…。しかも知ってるだろ小町なら。
「その宿題…ママと会ってからでいい?」
「うん。いいよ!」
「よし。いい子だ」
俺は八乃の頭をくしゃくしゃと撫でる。へへへっと照れたように笑う少女の姿は妻によく似た笑顔だ。
「あ、それともう一つ宿題があった!」
「もう一つ?」
「うん!あのね、パパはママのどんなところが好きになったのかをきくっていう宿題もあった!」
「……マジで?」
「うん!」
何そのめちゃくちゃ恥ずかしい宿題。というか、学力のほうの宿題出して欲しいんですけど。この宿題、子供たちの宿題じゃなくてお父さん方の宿題になっているのは気のせいですか。そうですか。
でも、可愛い娘のため宿題を未提出にさせる訳にはいかない。それにいまこの場に本人いないから話しやすい。
「あー…そうだな…。美人…なところかな」
「えーそれだけ?」
「あぁ。それだけだよ」
つまんないなーと呟く八乃。そんなとこも妻に似ている。はっきりとつまらないものはつまらないって言うとこ…とかな。
それに、あまり難しいこと言っても分かんないだろうし、覚えづらいだろうし。
「パパは顔だけでえらぶんだねー」
「いや、違うからね?」
「もういいもーん。ママに言いつけちゃおー」
「それはやめてください…」
「いーやーだー!ぜーったい言っちゃうもーんだ!」
頬を膨らまし、まるで拗ねているかのような態度をとる八乃。何この生き物。可愛すぎだろ。てか、俺さっきから可愛いしか言ってない気がする…。
すると、八乃はある方向に指を指し大声で叫んだ。
「あ!ママだ!」
なんやかんやで駅前に着き、八乃はすぐ妻を見つけ、たたたーと駆けていき妻に抱きついた。大丈夫かな…お父さん離れしてないかな…。
「おかえりー!ママ!」
「ただいま八乃。」
妻は八乃を抱き返してそのまま抱っこをした。すると、八乃は妻の耳元でコソコソと話す。ちょ、八乃。まさかあのこと話したんじゃ…。
八乃は話し終えたらしくニコニコしながら俺のほうを見る。妻のほうは…ニコニコしながらこっちを見ている。両方いい笑顔してんなぁ…。あ、怖い。嫌だ…まだ俺死にたくない。
「ただいま…八幡」
「お、おかえり…お疲れ様」
だめだ…!顔を直視できない…。目合わせた瞬間に石にされる…!ここは早いとこ話を切り替えて速やかに帰ろう。
「よ、よーし。帰るかー」
「帰ろーー!」
八乃はそう言いながら妻から離れ、俺と妻と八乃で手を繋ぐ。よしいいぞ。流石は八乃。ここで空気を読んでくれる!愛してるぞ!八乃!
「…ねぇ、八幡?」
「は、はいっ!何でしょうか?」
「家ついたら…覚えときなさい?」
「……はい。」
ダメでした。テヘペロっ!…うぅ…帰りたくない…でも帰りたい…。何だこの複雑な気持ちは。
と、八乃がこの沈黙を蹴散らすかのように話をはじめた。
「あ、パパー聞いてもいいんだよね!」
「ん?…あ、アレか。いいぞ」
「…?」
「ママとパパのなれそめっていつなのー?ママ!」
「!?…あなた、変なこと教えた?」
「いや、小町だ。これは小町が悪い」
「学校の宿題なんだー!で、おしえてよ!」
潤んだ瞳がゆっくりと上げられ、真摯な眼差しが妻に向けられた。こんなことをされると妻はたいへん弱くすぐデレる。そこんとこ昔から変わっていない。
「そうね…高校生のときパパがママに一目惚れしてものすごくアプローチされたの。本当にしつこい程ね。」
「いや、違うだろ。捏造するんじゃ」
「なにかしら?」
「何でもありません。」
「へぇーそうなんだ!デレデレなんだね!パパは!」
「ええ。そうよ…パパはママにデレデレだったわ。」
「ん…まぁ、そうゆうことだ。パパとママの馴れ初めってやつは。」
「うん!これで宿題提出できるね!」
まずこれを宿題として出した小町に今度会ったら制裁を食らわしてやろう。
てか、捏造しすぎだろ。もう敢えて言わないけど。
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そうこうしているうちに家に着く。八乃は一目散に家の中に駆け込んだ。
「俺らも入るか。」
「待ちなさい。」
「…んだよ」
「私を選んだのは…顔だったの?」
「やっばそれか…。アレだよ。ちょっと恥ずかしかったんでな、言わなかっただけだ。それに顔だけで好きになってたらこんな生活おくれてないだろ。」
「ふふっ…素直じゃないわね」
「うるせぇ。ほれ入るぞ。せっかく作った飯が冷めちまう。」
そして妻は家の中に入る。
ふと家の門に付けられた気の表札に書かれた名前に目が入る。
比企谷八幡
比企谷雪乃
この表札もいつまでも貼り続けられるように。
そう願いながら…。
いつまでもこの生活が続くもんだと…。
そう思いながら。
俺は静かに家の中に入り、ドアを閉じた。