8月31日。
その日は頑張るやつらが最も多くなる日である。一つ例を挙げるならば、夏休みの宿題を終わらせるため徹夜までして奮闘するやつらが少なからずはいること。それでも終わらなかったら、「宿題やってきたけど、家に忘れましたー」って言う奴がクラスの中に1人以上は確実にいる。そいつらのことを人呼んで忘れん坊将軍という。みんな、ここテストに出るからな?つまり、何が言いたいのかと言うと…俺も頑張らければならない日があるのだ。それが今日、8月31日なのである。
何故、俺が頑張らければならないのか。
それは昨日雪ノ下から電話がきて、何事かと思いながら電話に出たら『明日の祭り、一緒に行きましょ。海浜幕張駅に18時に集合ね』と言われてそのまま電話を切られてしまった。せめて分かったとか言わせてくれよ…いくら彼氏になったからって扱い酷すぎません?いや、彼氏になる前から扱い酷かったわ。ま、そうゆうことなので男としてはこのデートは頑張らなければならないのである。
そして、現在の時刻、18時3分。俺は今、集合場所の海浜幕張駅にいる。しかし、肝心の雪ノ下が来ない。まさか時間を聞き間違えてた?ちょっと不安になったきた…と、下を見ながら考えていると…
「比企谷くん。」
そんな俺を呼ぶ声が、意識の外から聞こえて、顔をあげるとそこには浴衣姿の雪ノ下雪乃がいた。
「あの…待ったかしら?」
「……ん、あぁ、別にたいして待ってないぞ」
そんな姿に見惚れてしまっていた俺は少し返答が遅れてしまう。それにしても…こいつ浴衣似合い過ぎだろ。もう何着ても似合うんじゃないだろうか……それはないか。雪ノ下がスク水着てたら…いや、それはそれでとても良い。とてもエロいと思います。はい。
「あなた今、変なこと考えていなかった?」
「えっ?…いやそんなことない。断じてない。」
「考えてた。だって変な顔していたもの」
「変な顔って何だよ。てか、本当に何も考えてない。」
「訂正するわ。今もって現在進行形で変な顔だったわね。ごめんなさい」
そこ別に訂正しなくていいとこだぞ。あと謝るな。虚しくなるだろ。もう最近の雪ノ下、俺の扱い酷い…。そんなことを考えている俺を無視するかのように、それじゃ、行きましょうか、と言って雪ノ下からは歩きだした。遅れて俺も歩き出し、雪ノ下の歩幅に合わせて歩きはじめた。
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祭り会場の手前の信号に来たところで人でごった返していた。前後左右を見るだけで人、人、人、人で賑わっている。それに、ドンドンカッカッと祭囃子の音も心臓に響くかのように聞こえた。やはり祭りとなるとリア充やら家族連れが多く、あまり人混みが得意じゃない俺ら2人にとって初めてのデートスポットが祭りで良かったのか…とか思ってしまっていた。と、考えていると信号が赤から青に変わり一斉に信号待ちしていた人達が渡っていく。それに続くかのように俺らも渡った。
しかし、ここからはもっと人が多くなり進むのも辛くなりそうな程だったので俺は勇気を振り絞り雪ノ下の手を握ることにした。
「ひ、比企谷くん…?」
俺の行動に雪ノ下は驚いたような反応をした。そんなに意外だったか?俺が手を握るの…ま、確かに意外っちゃ意外か。ヘタレだもん。
「はぐれたら…困るだろ…。それとも、嫌だったりしたか?」
「いえ。別に…い、嫌じゃない…というか驚いたというか…少し、嬉しかっただけよ」
「…さいですか」
「えぇ。そうよ」
雪ノ下が応えた嬉しかったは俺の心に響き、俺の顔が熱くなっていくのを感じた。てか、ゆきのん可愛い。
「さて、何か食べたいものとかあるか?」
「いえ…食べたいものというよりもしたいことがあるわ」
「お?したいこととは?」
「金魚すくい…やってみたくて」
「金魚すくいか。意外だな」
「1度やってみたかったのよ。」
と言うので雪ノ下のリクエストに応えるため、金魚すくいをやっている屋台を探していると30mほど先にたこ焼きとわたあめに挟まれていたのを発見。小さい子供とその子の親と思われる2人が仲良く金魚すくいに没頭しているのが見えた。
「見つけたぞ。行くか」
そして、屋台につくと雪ノ下が財布からお金を出そうとしていたのでここは俺が払うから財布はだすなと伝え、渋々雪ノ下は財布をしまった。そのちょっとぶーくれた顔可愛いから。後でもう1回やって。
「おじさん、二人でやるから…ほい、600円」
「はいよ。お二人さんはカップルかい?」
その屋台のおじさんはポイを渡しながらニヤニヤしてそう質問してきた。
「え、まぁ。はい。カップルですね」
「ほうほういいねぇ!若い内は青春したほうが良いもんだよ!本当はポイ1人3枚なんだが…サービスでもう2枚追加してあげるよ!」
「あ、ありがとうございます」
と、ポイを受け取り俺と雪ノ下はそのポイで金魚すくいをはじめた。しかし、これがなかなか取れない。紙ポイなので水に触れてすくい上げた瞬間に破れてもしまうというのを繰り返しそんなこんなで雪ノ下0匹、俺2匹。
「くっ…比企谷くんに負けるなんて…一生の恥だわ」
ざまぁみろと言いたいところだが、そんなこといったら確実に殺される。主に精神が。
「…ほい。やるよ」
と、俺は金魚が2匹入った金魚袋を雪ノ下に渡そうとした。しかし、それを雪ノ下は受け取ろうとしない。
「これを取ったのはあなたでしょう。お金も払ったのはあなただし、私が受け取る必要はないと思うのだけれど…」
こんな些細なことでも雪ノ下は筋を通す。前回のパンさんのぬいぐるみの時もそうだった…。あの時から変わっちゃいない偏屈さ。
「いや、俺の家、水槽とかないし仮にあったとしてもこの金魚は飼い方が悪くて早く死ぬ事がありそうだからな。俺が飼うよりも雪ノ下が飼ったほうが適任だ。」
そう言うと、雪ノ下は俺が渡そうとしていた金魚袋を受け取った。
「そ、そう…」
これで良い。これで良いのだ。よし、俺の偏屈さに勝てる奴などおらん!!比企谷八幡大勝利!!…て、色んなアニメが混ざってしまった。いかんいかん。とかいろいろと考えていると雪ノ下が俺の服の袖を掴んできた…
「そ、その…あ、ありがとう…」
………可愛い。危うく声に出しそうになったのをのみこんで耐えた。何この可愛い生き物。戸塚とひけをとらないぞ。頬染めんな頬。
「お、おう…い、移動しようぜ」
「え、えぇ」
あ、これ俺も顔赤くなってんだろうなぁ…嫌だ恥ずかしい。八幡ちょっとお外走って来る!!……やめとこ。もうやめとこ。
そして俺と雪ノ下は食いもん買って食って、たまに休憩をはさんだりして小町に頼まれていた綿菓子や焼きそばなどを買ったりして、時間が刻々と過ぎていった。
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いまの時刻、21時07分。祭り会場から少し離れた公園のベンチにいる。この公園には俺と雪ノ下以外誰もいない。小町に頼まれた買い物をすませ祭り会場にいる間に人の群れに酔ってしまい、祭り会場にベンチはいくつもあったのだがずっとそこにいるのが段々と苦痛になってきたので祭り会場出て公園に来て今に至る。
「ここからでも聞こえるのね。祭りの音」
「あぁ。さほど離れてないしな」
21時をむかえても尚、リア充の騒ぎ声や祭囃子の音が聞こえてくる。てか、どんだけリア充のやつら元気あるんだよ。どこにそんな体力があるのかが知りたい。
「ねぇ比企谷くん。今日はとても楽しかったわ」
「…そうか。俺もだ」
雪ノ下は夜空を見上げながら言った。その言葉を聞いて俺は素直に嬉しかった。雪ノ下から楽しかったと言われて。でも、今日のデートは大成功と言っていいのだろうか。もっと彼氏らしいことが出来なかったのかと…。
「この金魚…何度見ても可愛いわね」
祭り会場のベンチで小休憩をとっているときも毎回のようにその金魚を見ていた。その水の中で踊っている金魚を見ているときの雪ノ下の表情はとても穏やかでその表情を見て毎回のように俺はドキッとして心を奪われていた。
「あぁ、確かにそうだな。」
しかし、俺はそれと同時に嫉妬という感情をいだいていた。金魚なんかに嫉妬するとは自分でも重症だなと思うのだがそれくらい雪ノ下を誰にも盗られたくないのだろう。
「なぁ、雪ノ下。」
何?比企が…と言ったところで俺は雪ノ下の唇にキスをした。誰にも奪われたくない存在、失いたくない存在。とても大切な存在。そんな存在、そんな人がきっと家族だったり親友だったり彼女、彼氏だったりするものなのだろう。何秒経っただろうか…俺は雪ノ下との顔の距離を離した。
「ひ、比企谷きゅん?あ、あなた急に…」
こんなに顔が近いとまたキスしたくなってくる。そんな欲望を抑え俺は雪ノ下の手を握る。
「雪ノ下。大好きだ」
こんな恥ずかしい台詞、まさか言う日がくるとは思っていなかったがせめてこうゆうことだけは本人の目の前で言わないといけないと感じた。だって、俺にとってこいつは彼女なんだから。
「えぇ…私もよ。比企谷くん。大好き」
頬を染め微笑みながら雪ノ下はそう言った。
そして、また俺と雪ノ下は愛を確かめあうように本日2回目のキスを交わした。
いずれはこいつも失う日が来るのにも関わらず、俺は柄にもなくこんな日々が永遠に続くように…と願ってしまっていた。