八雪短編集   作:(ひなあられ)

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歌手の彼女とマネージャーの彼。

総武高校を卒業してから2年が経った今、俺は渋谷駅ハチ公口前のスクランブル交差点を歩いている。そんなとき、聞き慣れた歌声が大音量で聴こえた。このスクランブル交差点の正面に立地し壁面を利用して映像広告を放映する大型の街頭ビジョン。それに映し出されていたのは…『YUKINO』という文字とマイクを片手に歌っている雪ノ下雪乃の姿が映し出されていた。

そう。彼女、雪ノ下雪乃は歌手になっているのである。そんな中、俺はというと……

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます…。」

「えぇ。おはよう。マネジャーさん」

 

歌手である雪ノ下のマネジャーをしているのだ。

何故俺がマネジャーをしているのかというと、卒業式が終わった後、雪ノ下に呼び出しされて、雪ノ下が待つ場所に着いたら雪ノ下の姉である陽乃さんが出てきて拉致られた…このあとの展開は…長くなるからやめておこう。

 

「それでマネジャー。今日の予定は何かしら?」

「あ、あぁ。今日はな…まず10時からトーク番組の収録。それが終わった後昼休憩で、14時からはラジオ番組。その後また少し休憩が入って17時から歌番組の収録。20時から歌番組の生放送に出る…て感じだな。」

「そう。ありがとう」

 

歌手デビューしてから約2年しか経っていないのにも関わらずここまで上り詰めたのは流石と言うべきか。まさかお金の力使ってないよね?

 

「それともう一つ。ネクタイ曲がっているわよ」

「え?…あ…」

 

そう言うと雪ノ下は俺との距離を詰めネクタイを直してくれた。

 

「全く…私のマネジャーとしての自覚を持ってくれると嬉しいのだけれど。」

「わ、悪ぃ。すまん」

 

というやり取りをしているとドアを2回ほどコンコンと叩く音が聞こえた後、もうそろそろ準備のほうよろしくお願いしまーすというスタッフの声が聞こえ、雪ノ下は準備を始める。

 

「あ、あの…着替えるからこっちみ、見ないで欲しいのだけれど…」

「す、すまん!」

 

慌てて後ろを向く。そんな中で雪ノ下が着替える生々しい音が聞こえる。着替える姿が見えないのが余計に想像させ、自分の顔全体が熱くなっていくのがわかった。いかん。抑えるんだ比企谷八幡。

 

「……マネジャー。行くわよ」

「り、了解しました…」

 

顔が赤くなっていたのはどうやら俺だけじゃなかったようだ。嫌だそれ。チョー恥ずかしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌番組の収録も終わり、残すは生放送だけとなった。生放送だけとなったのだが雪ノ下にとって生放送は初めてであり、そのせいか緊張しているようで…。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫かと言われたら、大丈夫ではないわね。」

 

何度か雪ノ下が緊張する姿を見てきている。緊張すると言いながらその場をやってのけるのが雪ノ下。でも今回に限っては失敗は許されない生放送。俺も失敗したらどうしようと勝手に思っている。不安なのだ。失敗を許さない雪ノ下にとって。負けず嫌いな雪ノ下にとって、この生放送という勝負に負けてはならない。そんなことを考えていた俺は何を思ったのか優しく抱擁し雪ノ下の頭を撫でていた。

 

「ひ、比企谷くんっ!?」

「黙って大人しくしてください。あとこの場でその名前で呼ばないでください。」

 

ご、ごめんなさい…と応えた雪ノ下は俺の行動に応えるかのように頭を俺の胸にポンッと乗せ、左胸当たりの服をギュッと掴んできた。

 

「落ち着いたか?」

「えぇ。だいぶ…ありがとうマネジャー。あともうちょっと…このままでいさせて?」

 

微笑みながら言ったその言葉は俺の頭の中でグラスの中にずっと入っていた氷が溶けてカランッと乾いたような綺麗な音がした気がした。これは。この感情は、一体何なんだろうか。そんなことを考えていると雪ノ下はもう大丈夫よ。と言って俺から距離を置いた。

 

「それじゃ、行ってくるわね。」

「おう。頑張ってこい。YUKINO」

「ふふっ。えぇ…もちろんよ。八幡」

 

そんな表情で名前呼びはズルいだろ…。というか、名前で呼ばないでください。

 

 

 

とうとう生放送が始まり、俺は楽屋に置いてあるテレビの前でその模様を見ていた。

そして何人かの歌手やアイドルグループが歌っていく中、雪ノ下の出番がきた。

皆を魅了するその歌声は流石は雪ノ下…と言うべきか。

大舞台に立つそんな彼女の姿を見て俺は抱いちゃいけないような感情をそっと胸の内に隠した。

今はこの感情を隠さないといけないと思ったから。

 

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