八雪短編集   作:(ひなあられ)

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十五夜の夜。

 

 

今日、10月4日。十五夜の日である。

今年の中秋の名月は満月ではない。そんなことはしばしば起こるのだ。しかし、満月前後はとても明るく見ごたえがある。家の庭にでて家族と一緒に月見したり、または1人で月見をしたり、カップル同士で月見をしながらイチャイチャしたり…まぁそれはいい。

そんな事より、主役の月の姿が見えないのだ。十五夜だというのに空が曇っているのだ。ただ今にも雨が泣き出しそうな空模様ではなく、薄い雲が絨毯のように広がっているだけでその奥からは星の小さい淡い光が覗かれていた。

すると、隣を一緒に歩いていた彼女が口を開く。

 

「もう二十一時過ぎたわね…」

「ん?あ、そうだな…」

 

腕に巻かれた腕時計を見てみると、時計の針はいかにも面白くなさそうに二十一時三十分を指していた。

 

「月…見えるかしらね。」

「んー…ま、このままだと一向に月の姿は見れないだろうな。」

「そうよね…」

 

彼女はふーっと残念そうに小さくため息を吐く。確かにこの日に月が見られないというのは少し残念と思ってしまう。

 

「ありがとう…今日は楽しかったわ」

「そうか。そう言ってもらえると嬉しいな。」

「でも、月が見れなかったのは少し残念ね。あなたの運が悪いせいだからかしら…」

「あの…さりげなく俺を罵倒するのはやめてくれませんか?」

 

ふふっ…と悪戯が成功したときの子供のように微笑む彼女を見て、ついはぁーっと額に手を当てながらため息を吐いてしまった。

 

「ま、小町と両親はお前が来てくれて喜んでたから。良かったんじゃねーの?知らんけど…」

「ええ、ものすごく歓迎されたわ。というか、あなたの家族とても仲良いわよね。」

「そうか?毎年やってることだからな…月見。今年は月が見えなくて残念だったけどな。」

 

俺の家では毎年恒例である月見。毎年恒例というか小さい頃の小町が親父に月見やりたい!って言ったのが始まりらしい。俺の場合、「みたらし団子でも食っとけ!」と言われ終わったが…美味しかったな。あの時のみたらし団子。

 

「来年はできるといいわね…」

「あぁ、まったくだ。」

 

そう言葉を返すと彼女は空を仰いでいた。その時、髪の毛がはらりはらりと素顔に乱れる。その姿を見て俺はぼーっとしてしまう。いや、ぼーっとしたというより見惚れていたというほうがわかりやすくて正しい表現だろう。何秒経っただろうか、そのまま固まっていた俺ははっとし首を横に振る。こんな表情を彼女に見られたくないと感じたからか、俺も彼女と同じように天を見上げる。

 

「あ、半分、月見えてきたわよ」

「お、本当だ。」

 

まだ完璧に姿をだしていない月を見て勝手に俺と重ねてしまう。

俺だってまだ隠しているものはあるし、きっと彼女も未だに心の中に隠しているものがきっとあるだろう。実際、俺も先程彼女に自分の表情を見られたくなくて、自分の心の中を見られたくなくて誤魔化し隠した。

だけどそれは悪いことだとは一切思っていない。嘘をついてもいいように。隠したいことを隠しても決してそれが悪いことにはならないのだ。

 

「んじゃ、私ここだから。」

「ん、あ、あぁ…」

 

そう言って彼女は右手を自分の胸元にまで持っていき小さく手を振った。

そのとき、俺は隠していたものをさらけ出したい…とそう思った。今隠しているこのものを、この気持ちを、彼女に見てほしいと…そう感じた。

でも、その気持ちをどうさらけ出したらいいか分からない。だから、俺は彼女の耳に届けばなぁと、彼女の心に届けばなぁと、こう言葉を呟いた。

 

「月、綺麗だな。」

「………えっ」

 

そう伝えて月を見ると月の周りにあった薄い雲が晴れて満月に近い月が見えた。その月は明瞭な光をきっぱりと地上に送っていた。

 

「あ、あなたそれは一体どういう意味で言ったのかしら?」

「…さぁな。それはお前が考えろ。」

「……バカ。ボケナス。八幡。」

「だからそれ、八幡は悪口じゃねーだろって。」

 

そして、彼女はまたふふっ…と微笑み、耳にかかった髪をかきあげた。そのとき街灯の光か、はたまた月の明かりか。どれかは分からないが、彼女の髪は鳥の濡れ羽色のようにつやつやと輝いて見えた。

この想いは伝わったのだろうか。いや、伝わっていて欲しい。だからあんな言葉を呟いたのだ。

 

「ふぅ…それじゃ、俺は帰るから。おやすみ。」

「ええ。気をつけて帰って。おやすみなさい。」

 

そして俺は彼女に背を向け自宅の方への道を歩く。

また、隠したいものができてしまった…。この恥ずかしいような気詰まりのような思いを心の中に隠した。

少し気を落ち着かせて天を見上げると、そこにあったはずの月の姿が少しずつ少しずつと薄い雲のカーテンの中に消えていく。まるで俺の気持ちを隠すと同じように。月も俺の行動と重ねていた。

あとは小町にこれから帰るというメールをうち送信した。それからすぐに小町からの返信で『了解であります( ̄^ ̄ゞあ、あとアイス買ってきて〜小町の分も〜お願いね!』と内容でついふっと笑ってしまった。

 

「了解っ…と。」

 

そうメールをうってまた小町に返信をする。スマホをポケットの中にしまい天を見上げてみる。今日は空ばっか見ている気がする。ま、十五夜だからな。空や月を見るのは当然だ。

もうそこには月の姿がなく、完全に雲の中に消えていて、あとは月の淡い光が白く輝いて見えた………。

 

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