アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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残念ながら、エロる触手はございません。


戦えよ強欲

 帰刃の副産物である煙が晴れると、ミッチェルはアーロニーロを睨みつけて立っていた。

 帰刃したミッチェルの姿は殆ど変わりが無かった。しかし、印象はかなり変わった。

 短いながらクルクルと渦を巻いていたくせ毛が真っ直ぐと伸び、右耳を覆っていた仮面の名残りはウサギの耳を連想させる形に変化していた。

 その二つよりも目を引く変化は足にあった。帰刃する前にはない物が装着されているのだ。鎧の一部に見える防具が、膝下からつま先までガッチリと覆っている。

 

「弾けなさい!」

 

 まだアーロニーロと距離があるのに蹴りが出される。一見意味の無い行動だが、アーロニーロは蹴りの直線上から飛び退く。

 アーロニーロが飛び退いたそこを、見えない何かが炸裂する。

 

「不可視の攻撃か!」

 

 これは厄介だと、アーロニーロは嗤う。

 不可視には二タイプある。元々不可視の物を使うのと、能力によって隠す二つだ。

 アーロニーロは、ミッチェルの攻撃を前者だと直ぐに判断する。帰刃は千差万別で、名前から能力を判断するのは難しい。しかし、その姿から物理型か能力型かは大体判る。

 経験則であるが、見た目からして攻撃的であれば物理型で、姿から何をしてくるか判らないと能力型の割合が高かった。

 

 足の鎧など蹴りをしますと言わんばかりに主張しており、事実として蹴りをしてきた。ただ、意外と数が少ない純粋な物理型ではなく能力持ちで何かを炸裂させてきたのだが。

 

 炸裂した何かを具体的に考えれば、真っ先に思い付くのは霊圧だ。自身の霊圧を他の物に変換するのは珍しい能力ではない。アーロニーロが喰らって手に入れた、爆発性の粘液を出す『爆液(プロピオ)』もまたその類の能力になる。

 

「だから、遅いって言ってるでしょ!!」

 

 再び、ミッチェルは響転によって自分の間合いにアーロニーロを収める。最初の焼き直しのような光景であった。ミッチェルが蹴り、アーロニーロが受けるというのが。

 しかし、先程と違ってミッチェルが何もない空中に立っており、狙っているのは頭部であった。

 いくら超速再生があろうとも、明確な弱点が頭部だというのは虚だろうとも破面だろうとも変わりは無い。その誰にでも弱点である場所を、ミッチェルは蹴り砕こうとした。

 

 仮面ごとアーロニーロの頭部を蹴り砕こうとしたその瞬間、アーロニーロの仮面の穴から剣が生えた。

 

「ッ!」

 

 慌てて蹴りを逸らして剣を避け、ミッチェルは安全圏である空中高くに逃げる。

 

「!」

 

 虚圏で空中に立った。その行動に今度はアーロニーロは息を呑んだ。

 空中に立つのは特別珍しい事ではない。空気中に漂う霊子を固める事によって足場とする能力は、死神の基本能力の一つであり、破面も有している能力でもある。得手不得手こそあるが、死神か破面であれば誰でもできることである。

 ただし、現世ではとの制約が付けばの話だ。

 

 理由は定かではないが、現世と勝手が違って尸魂界と虚圏では霊子を足場にする事が出来ない。だから、ミッチェルが空中に立ったのを見てアーロニーロは息を呑んだのだ。

 

「遅インジャナカッタノ?」

 

 その動揺を隠しながら、挑発をした。空中に行かれれば手出しが難しく、近付いて貰わねば都合が悪いからだ。

 嘲笑う声音は、ミッチェルの神経を逆撫でするのに十分であった。

 

「遅いから、アンタの攻撃は失敗したんでしょ!」

 

 物理的にも心情的にも見下しながらミッチェルは続ける。

 

「考えが見え透いてんのよ。カウンターのつもりだったんでしょうけど、ご生憎様。そんな速さじゃ絶対に当たらない」

 

 自分は速い。その事実をアーロニーロと自分自身に突き付けて、負けは無いと言い聞かせる。

 

(あの剣は厄介だけど、あたしの優位は揺るがない)

 

 自然と、ミッチェルは『剣装霊圧』を警戒していた。ミッチェルの鋼皮の硬度は低い。それは防御力が低いということで、その代わりに“刃”最速という速さがあるのだ。

 帰刃した事で全体的に能力は上昇したが、帰刃前に易々と鋼皮を貫いた『剣装霊圧』を完全に防ぐことまでは出来そうにも無い。

 故に腰が引けてしまう。足はミッチェルにとって生命線。移動と攻撃の両方に必要不可欠な為に、動けなくなる事は攻撃できなくなる事と同義になる。

 足を守る方法が無い訳ではないが、それでも一撃で決めなければならないアーロニーロは警戒しなければならなかった。

 

(さて、どうしたものか…)

 

 相手が帰刃したのだから、自分もという訳にはアーロニーロはいかなかった。

 アーロニーロの帰刃の『喰虚』は限りなく虚の姿に戻る。触手を束ねたようなタコのようなあの姿だ。

 的がデカくなるという欠点こそ存在するが、帰刃すれば能力の同時使用可能個数―――現在は二つ―――の制限が取り払われて全ての能力を同時に使用できるようになる。これによってアーロニーロは、帰刃によって数倍に跳ね上がるという戦闘能力は数倍では済まない。下手をすれば帰刃前の数十倍にまで跳ね上がる。

 ただし、日光が当たっていると能力は使えずにそこまでの効果は見込めない。

 

 そして今戦っている場所は虚夜宮の天蓋の下。帰刃したら能力が全て使えなくなってしまうのだ。

 帰刃するなら、ミッチェルを叩き潰せる状況でなければ逆に自分の首を絞める結果になってしまう。

 

「仕方が無い。大剣(ボウルディグラン)

 

「なァ…!」

 

 それは灰色の巨大な剣であった。さっきまで精々刃渡り30cmくらいであったのに、一瞬で巨大化したのだ。『剣装霊圧』は自身の霊圧を剣状に集束させる能力。だから剣はアーロニーロの霊圧色である灰色になり、その大きさと形状は使用者たるアーロニーロの思うがまま。

 空中に逃げられるのなら、そこに届く得物があれば良い。それがアーロニーロの答えであった。

 

 自身に届きうる牙、それを見てミッチェルは笑った。

 

これは(・・・)脆いわね!」

 

 アーロニーロの『大剣』をミッチェルが轟音を立てながら蹴り付ける。アーロニーロが避けた謎の炸裂が今度は『大剣』を炸裂させる。アーロニーロが振動を手元に感じた時には、『大剣』は半ばから折れていた。

 

「チェ…ヤッパリカ」

 

 つまらなそうにアーロニーロは折れた『大剣』の先を見る。『剣装霊圧』の硬度と切れ味は霊圧に依存するのだが、集束の度合でも変化する。形状が大きければ大きいほど霊圧の集束が緩く、小さければ逆に固くなるといった具合だ。

 奇しくも、これは死神の斬魄刀と同様の性質でもある。もしかすれば、『剣装霊圧』自体が破面もどきにとっての斬魄刀だったのかもしれない。

 アーロニーロの『大剣』はその名の通りに大きかった。その集束の度合は緩く、結果としてウドの大木を振り回したにすぎない。

 

 アーロニーロが出来損ない同然の『大剣』を無防備に見つめていたその隙を逃すまいと、ミッチェルは響転をする。縦に一回転して更に勢いをつけて威力を上げ、アーロニーロに避けられない速さへも押し上げられる。

 

「貰ったァ!!」

 

 頭蓋を蹴り砕かんとする。しかし、今度は交差したアーロニーロの腕が蹴りを受ける。

 

「ぐゥゥ…」

 

 右腕の腕の骨が折れ、アーロニーロの体を通った衝撃が僅かに足を沈めて砂を打ち上げる。

 

「もう忘れた? 二段攻撃よ!」

 

 拳を握った状態で親指を下に向ける。意味は地獄に堕ちろ。死んだら本当に地獄に堕ちるのが半分以上確定しているアーロニーロにとっては、冗談にならないサインである。

 

 ソレはともかく、今度は零距離での炸裂。避けられる筈の無いその攻撃を、アーロニーロはそのまま受けるしかない。

 

「流石に、今のだけじゃ死なないようね」

 

 ミッチェルの視線の先、炸裂によって巻き上げられた砂が完全に落ちたそこにアーロニーロは満身創痍で膝を突いていた。

 

「あんた…ナニよその腕……」

 

 炸裂をモロに受けた右腕は吹き飛んで、肘より先は酷い状態であった。しかし、ミッチェルの言ったのはそちらではない。炸裂に耐え切れなかった袖と手袋が引き千切れた事によって、その姿を現した左腕だ。

 前腕の途中までは人間と同じモノ。その先から触手となっており、『口』が付いていた。

 

 その『口』を持つアーロニーロや食事に使うのを見ているハリベル達からすれば今更だが、他の破面達からすれば異様であった。破面の成体になり損ねて、虚と人間の中間のような異形な者達は数多くいるが、左手の代わりに『口』と触手は殊更異彩を放っていた。なまじ、目に見える部分が人間と同様であるのが更に際立たせていた。

 

「僕等ハ、“刃”ノ中デ一番虚二近イ」

 

「この腕は斬魄刀でもあってな」

 

「ダイブ判リ易イダロウ?」

 

 そう言って、アーロニーロは体の傷を気遣う素振りを一切見せずに左腕を突き出す。

 

「つまり、あんたは出来損ないってことじゃない」

 

 治らない傷を見て、ミッチェルは笑った。そして、気付いた。

 

(なんで、傷が治ってないの?)

 

 先程「再生能力なら、“刃”一」と自慢したのと裏腹に、アーロニーロの傷は一向に超速再生の兆しを見せないのに引っ掛かりを覚えた。

 

 露出を零にする事で、日の下でも能力をアーロニーロは使えるようにしていたのだが、袖と手袋が吹き飛んだことで露出してしまった。今のアーロニーロには、破面としての基礎能力と『認識同期』ぐらいしか使える能力が無い。

 

「なんにしても、あんたはもう終わりよ!」

 

 なぜ超速再生しないのかミッチェルは気になったが、自分に不利になる事ではないとして意識から外して自分から開けておいた距離を詰める。

 

「虚閃」

 

 『口』を下に向けて、アーロニーロは脆弱な虚閃を撃つ。威力など大してなかったが、砂を巻き上げるには十分であった。

 

「今更目暗まし? そんな小細工、効かないわよ!!」

 

 距離を詰め切る前に足を振り、先に炸裂を先行させて砂埃を払わせる。そこに、アーロニーロの姿は既になかった。

 

(何処に逃げた!? 隠れられる場所なんてどこにも無い筈…)

 

縛道の(バクドウノ)六十三(ロクジュウサン) 鎖条鎖縛(サジョウサバク)

 

 微かに聞こえた声に反応に反応してミッチェルは跳び上がったが、それは既に遅かった。二重螺旋を描くように、二本の光の鎖(・・・・・・)がミッチェルを拘束する。

 いきなりの拘束でミッチェルはふらつき、砂の地面へと落ちる。

 

 そんなミッチェルを待ち構えた手と触手が砂の中から出たかと思えば、足を掴んで砂の中に引き摺り込む。

 入れ替わるように、傷が完治したアーロニーロが砂の中より飛び出して、『口』を先程ミッチェルを引き摺り込んだ場所に向ける。

 

「虚閃」

 

 放たれた虚閃は着弾し、派手に爆発する。だが、その爆発はこれまで出されたどの虚閃よりも派手であった。

 その理由は、アーロニーロが砂にある仕掛けを施しておいたからだ。

 

 虚閃による目暗ましは、虚時代に培った能力というより特技である『砂潜り』―――砂中から奇襲する為に身に付けた特技―――によって隠れる為の時間稼ぎ。

 砂に潜った後は、超速再生で傷を治してから使用能力を超速再生から『爆液』に切り替えて爆発性の粘液を出来るだけ生成した。

 そして、二つある頭でそれぞれ「縛道の六十三 鎖条鎖縛」を詠唱破棄で発動し、『爆液』を生成した場所に引き摺り込んで虚閃を放ったのだ。

 

 その結果、見事に砂の地面にクレーターを作る爆発が起きたのだ。

 

(やはり、威力は低いな…)

 

 クレーターの中心にはしっかりと原型を残したミッチェルが仰向けで倒れており、急いで生成した為に量が少なかったとはいえ『爆液』の威力の低さを物語っていた。

 

(尤も、すぐには動けない威力ではあったようだがな)

 

 嗤うと、アーロニーロは最後の札を切った。

 

「喰い尽くせ、『喰虚(グロトネリア)』」

 

 アーロニーロから噴出する霊圧がアーロニーロを隠し、その変貌の様子を誰の目にも触れさせなくする。

 霊圧の噴出が終わり、その中から現した姿は醜悪の一言に尽きるモノであった。

 

 骨を持たないタコのような触手。

 触手の間にある人なら一飲みできる臼歯の並んだ口。

 口の上にある目にも見える謎の穴。

 小山のような巨体から、不自然に生えるアーロニーロの帰刃前となんら変わらない上半身。

 その下には、これまでアーロニーロの餌食となった者達の苦しみに満ちた顔が現れては、儚い泡のように弾けて消えていく。

 

 その醜悪な巨体は、空中で解放したので落下する。その先は、ミッチェルが倒れているクレーターの中心だ。

 

「はははははははは!!!」

 

 高笑いをしながら、アーロニーロは落下に合わせて二本の触手を振り下ろす。その先端はミッチェルの足を的確に捉えている。そうなれば、起きる必然は……

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ア゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」

 

 砂と触手に挟まれて、ミッチェルの脚は中身を均一に広げて表面積を増大させる。一度に両足をすり潰されたその痛みは、切り傷の何十倍もの痛みをミッチェルに与える。それだけで、ミッチェルは気絶してしまいそうであったが、なんとか意識は繋ぎ止められた。

 どの道外されるとはいえ、元第3刃。それで意識を断絶させられる実力ではない。

 

 そうであっても、最早ミッチェルにできる事など一つも残されていない。

 

「モウ少シ、抵抗シテモイインダヨ?」

 

 嗤う、アーロニーロは嗤う。触手の一つで動けないミッチェルに巻き付けるように持ち上げる。

 

「レディの…扱い…な…てないのよ…このタコ」

 

 これが最後だと、ミッチェルは悪態をついた。

 

(火事場の馬鹿力を期待していたんだがな)

 

 命の危機に瀕した時、火事場の馬鹿力として霊圧が跳ね上がる場合があるのでアーロニーロには最後に挑発したのだ。

 

「さあ、俺達の糧になってもらうぞ」

 

「ミッチェル・ミラルール」

 

 触手がミッチェルを締め上げ、暴れるのを抑え込んであっさりと命を摘み取った。そのまま、左手の『口』で死んだミッチェルを飲み込んだ。

 その光景を見て、大半の破面は唖然とした。同族喰いは虚の頃ならよくやった事であるが、破面化してからはやった者はほとんどいない。死神の要素を組み込んだことで、忌避感を持ったのがほとんどだ。

 

 今日というこの日、破面達は思い出した。虚の頃に抱いていた恐怖を、喰われるという恐怖を……

 恐怖を感じなかった者や霊圧知覚に秀でたものは、アーロニーロの変化に気付き、その能力に当たりを付けるのに十分であった。

 

「さて、決着はついた」

 

 静かに、恐怖の次に染み渡らせるように藍染が口を開く。

 

「それでは、新たな第3刃を紹介しよう」

 

 藍染の言葉に合わせて進み出たのは、またしても女破面であった。

 

「リネ・ホーネンス 司る死は、魅惑」

 

 足元近くまで伸ばされた三つ編みにされた深緑の髪。

 男を魅惑するプックリと膨れた唇に、右目に掛けられたモノクルに酷似した形状の仮面の名残りが目を引く女性的な顔。

 アオザイ―――チャイナドレスにズボンを履いたような服―――が強調するボディラインはボンッ、キュッ、ボンという男の欲望を体現したかのようなわがままボディ。

 腰には、鍔が絡み合う蔦を模したレイピアが斬魄刀として下げられていた。

 

 そんな彼女が、新たな第3刃であった。




ミッチェル・ミラルール
第一期刃の第3刃。霊子を足付近限定で圧縮させる能力を持っており、普段はそれを爆弾代わりにした炸裂する蹴りを主体とした戦闘を行う。
圧縮した霊子は虚圏や尸魂界でも足場にでき、相手が飛べなければ一方的な戦闘が可能。ただし、ミッチェルの射撃は虚閃か虚弾しかないので、それで倒せる相手は普通に戦っても殺戮可能という爆弾代わり以外では微妙だったりする。

『喰虚』のルール
喰虚は日の光が当たっていると使えない。
なんでもいいので、日光さえ遮れればどこでも使える。
何かを生み出す能力を使っても、霊的もしくは物理的に繋がっていなければ日光に当たっても消滅はしない

同時詠唱
一度に二つ以上の鬼道を使うアーロニーロ専用技
二つある頭でそれぞれ鬼道を発動させるので、アーロニーロ以外には不可能

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