アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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屈辱

 斬魄刀に頭部を貫かれて死亡。原作においての自身の死に方を『捩花』におっかぶせる事となったアーロニーロは複雑な心境であった。

 実際に『捩花』は死んだわけではないが、それでも己が運命を暗示しているように思えてならない。自分の方が主体とはいえ、『捩花』とは運命共同体なのだから……

 

「ッチ、手間掛けさせやがって……」

 

 先程までの戦いの残滓は霊圧の欠片と、自分の血で汚れた服だけ。他にはアーロニーロの霊圧の残りが少ない事だろう。帰刃に虚閃と七〇番台の双蓮蒼火墜での掃射、更には『王虚の閃光』とバカスカと使ったのだから当然だが、9割方は吹き飛んでいる。

 今のアーロニーロは、下手すれば葬討部隊隊員にすら負けてしまう。そんな弱い状態など喰ってくれと言っているも同然。

 静かに、網を広げるように『反膜の糸』を展開する。あらゆる物質と繋がり、霊力や情報を共有するという特性を使えばそこら中から霊力、ひいては霊子を掻き集められる。霊子濃度の濃い虚圏ならば尚更だ。

 時間が掛かるのと―――手に入れた能力にもれなく付随される―――日光に当たると特性が失われるとの欠点があるが、今なら特に気にするものではない。

 

(問題はこれからか)

 

 『捩花』を屈服させると同時に、卍解の名と大まかな能力が解った。威力も範囲も卍解に相応しい物で、分かり易い弱点はアーロニーロも見破った水と同質といったところであった。

 アーロニーロとしては黒崎一護の卍解である天鎖斬月のような刀そのもので、相性が皆無といったものが望ましかった。尤も、『捩花』が流水系の斬魄刀であるのと、卍解の傾向が始解を強化したものであるので大して期待はしていなかったが。

 

 相変わらず日光の中では殺戮能力は下がるが、護廷十三隊隊長になるのにほぼ必須の卍解をした。その事実は非常に大きい。何せ十刃の上に立つ三人により近付いたのだ。

 霊圧からして厳しいが、卍解の相性が良い東仙なら殺せる目は十分にある。しかし、逆に言えば相性が良くない他二人にはまず負けるということでもある。他にも、理不尽じみた老いの能力を持つバラガンにも勝てない。後の十刃なら、最終的に殺せるだけの力はある。

 

 そこまで考え、アーロニーロは首を振った。万能とは言い難いが応用の効く卍解は手に入れこそしたが、使いこなすのには十年という―――卍解が習得可能な者なら、相応に長寿故に長いか短いか判断に困る―――時間が必要とされている。

 強大であるが扱いが難しいというのを、端的に判断するのにはこれだけでも判るというものだ。事実、その卍解そのものである筈の『捩花』も、卍解の全てで1つの渦を作り出す以外では、総量を扱えていなかった。

 自分はそこから幾つも後ろからのスタートとなるので、卍解を使えば勝てるなんて言い切れる程度の者など十刃には居ない。だが、アーロニーロなら卍解に回す霊圧を別の能力に回した方が良いであろう。なにせ、卍解よりも使い慣れているのがほとんどであるし、状況によっては卍解に退けを取らない能力もある。両方とも他人から奪った能力というのが締まらない話になってしまうのだが。

 

 兎も角、アーロニーロは更に力を得た。未だにバケモノと思える実力者がいるので生き残るには十分ではないが、幸いにも時間はまだある筈である。

 霊力が五割程回復したアーロニーロは、虚夜宮に帰るべく歩き出すのであった。

 

――――――

 

 突然だが、葬討部隊は忙しい。破面の中で―――実質一人なのだが―――組織だって行動するのは葬討部隊くらいなもので、その他の面々はかなり自由にしている。

 その自由で何をするかといえば、大半の破面は喧嘩に使う。アイツが気に入らない。ガンを飛ばした。嘗めた態度を取った。そんなヤンキーレベルのイチャモンでもって、殺し合いに発展する。

 弱いとの自覚のある破面は身を隠すようにしながら生きて行くが、十刃未満並の破面以上の実力を持つ連中は所構わずにおっぱじめる。

 しかし、そんな喧嘩でも虚夜宮では別に悪ではなく、建前では自己鍛錬として割って入ったりしないとの暗黙の了解が既に出来上がっている。

 

 ここまでは葬討部隊にとっては直接は関係無い。葬討部隊の処罰対象は従属官でない彼らのような破面だが、処罰条件は裏切り行為が主たるものなので喧嘩の仲裁は仕事ではない。

 問題は喧嘩の際に周りを全く気にしないせず、平気で建築物を破壊するということである。

 

 これもアーロニーロからすれば葬討部隊にはなんら関係のない事であった。あくまで建築物が壊れたのは不慮の事故であり、裏切り行為ではない。

 しかし、建築物を破壊されれば直すのに労力が必要となる。労力自体は大した問題ではないのだが、そういった風紀や規律が乱れるのを死神の一人である東仙は良しとしなかった。

 

 されども、いくら東仙が警告しようともちょっとした抑止力にしかならなかった。東仙は護廷十三隊隊長の座に着ける実力者ではあるが、血の気の多い破面を完全に抑え込むのには足りなかった。

 言葉だけで駄目ならば実力行使となるのだが、東仙の身体一つだけで到底広い虚夜宮をカバーする事は出来ない。だったら信頼が置け、尚且つ広域カバーをできる人物に声を掛ければ良いとしてアーロニーロに話が来たのだ。

 

 そんな話が来たのはアーロニーロからすれば意外であった。東仙との顔合わせなど藍染から命令を受ける時ぐらいなもので、個人的に話しをするといった交友など一切無かった。それでも信頼が置けるとの判断が下されたのは、アーロニーロがこれまで命令を忠実に遂行し続けたからだ。

 組織に属していれば当然の事なのだが、破面はその当然が普通ではない。だから、元第4十刃のヴァスティダに容赦無く斬りかかったりといった、職務に忠実な行動などを東仙は特に評価していた。

 

 頼まれた仕事をアーロニーロは断りたかったが、真面目な東仙を納得させられる言い訳(りゆう)を考えられなかったので仕方なく受けたのだ。

 

 基本的に働くのは隊員だけなので、取り分けアーロニーロが忙しくなる事は無かった。尤も、アーロニーロが治安維持をし始めたと聞いた多くの破面は自重をしたのが大きい。

 なにせアーロニーロの悪名は、虚夜宮内にザエルアポロに次ぐモノとして轟いていたからだ。平気で同族を人目を憚らずに喰ったり、時系列ではそれよりも前の事だがバラガンの部下も平気で喰うという暴挙までやっている。事実かの判断のしようの無い噂の中には、突然行方不明になった破面はアーロニーロに踊り食いにされたといった喰われる関係が多かった。

 なのだが、アーロニーロは実際は破面はほとんど食べていない。霊圧も能力も虚よりもずっと良いのが、ほとんどの破面が帰刃しないと能力が使えない者が多いからだ。これが意外とアーロニーロには重要だ。

 

 今の所戦う場所は虚夜宮内だけで、そのほとんどは日光があるときている。そんな状況で表面積が増える帰刃をすれば、それだけ日光に当たる危険が増す。しかも帰刃したことで消耗が激しくなるのに、大なり小なり消耗をする能力を使う為となれば馬鹿馬鹿しい。ならば、虚から能力を手に入れて帰刃の部分をなくした方が効率は良い。

 破面を喰う時は、それだけ有用な能力を持っているか、十刃のように他よりもずば抜けた実力を持っているかのどちらかの場合だけにしている。下手に喰い過ぎて、藍染から禁止令を出されないようにとの配慮でもある。

 

 ソレは兎も角、葬討部隊による治安維持活動は概ね成功であった。建築物を壊せばすぐさま飛んでくると判れば、それだけは回避するようにしたのだ。

 だがしかし、逆にあえて建築物を壊そうとする面倒な輩もいた。

 

「飽きないようだな、ノイトラ・ジルガ……」

 

 その面倒な輩によって大穴を開けられた壁を見て、アーロニーロは肩を竦めた。

 ノイトラ・ジルガは細身で吊り細目の眼帯をした男なのだが、破壊活動は今回が初めてではなかった。

 

「今日は時間が掛かったじゃねえか。よぉッ!!」

 

 槍の穂先を虚圏の月のような形状に変えた特徴的な斬魄刀を横に薙ぎ払って、ノイトラは嗤う。

 刃が三日月の内側にしかないので、突きをしなければまず斬撃を出せない謎形状の斬魄刀の横振りをアーロニーロは上に跳んで避けて『剣装霊圧』を握り締める。

 

「オラオラどうしたァ!? 今日は随分と逃げ腰じゃねえか!」

 

 空中に逃げたアーロニーロに追撃として、槍投げの要領で斬魄刀を投擲する。武器を手放す愚行に思えるが、ノイトラの斬魄刀の石突き部分には鎖がついており、そこさえ手元にあるのならばいつでも引いて戻せるのだ。

 アーロニーロもそこは何度も戦って了承している。斬魄刀を避け、鎖の部分を掴んで自分の方へと思いっきり引く。

 

「ッチ」

 

 舌打ちをし、ノイトラは鎖を左手に持ち替えて自分から跳ぶ。右手は何時でも突きを繰り出せるようにと、指を真っ直ぐに伸ばす。

 あともう少し互いの間合いに入るというところで、ノイトラが舌先から虚閃を放つ。

 

「ハァ…」

 

 めんどくさそうにため息をついて鎖から手を放す。このまま空中戦を続けるのも面倒なので、アーロニーロはそのまま地面へと降りる。

 虚閃を避けられ、空中に置いてけぼりにされたノイトラは斬魄刀を一旦手元に引き寄せ、ソレを地面に向けて投げてその勢いを利用して降りるという存外器用な真似をして地面に降りた。

 

「度重ナル建造物ノ破壊。流石二ソロソロ僕モ対応ヲ考エルヨ?」

 

「そりゃあ楽しみだ、第9十刃様よぉ」

 

 ()れるもんなら()ってみろとの態度に、アーロニーロは再度溜息をつく。言葉で素直に従うなどしないと幾度もの邂逅でわかっていたが、いくらなんでも嘗められ過ぎではなかろうか。

 

「嘗めるなよ…」

 

 いつも冷静なアーロニーロが珍しく怒気を露わにした。『捩花』との戦いで触れたくない部分が指先を掠め、全力を出して疲れたのにノイトラが懲りずに喧嘩を売って来た。流石のアーロニーロも、今日はうんざりしていた。

 本気を感じ取ったノイトラは口元を吊り上げて笑った。

 

「ッハ、ようやくやる気かよ!」

 

 幾度もの積み重ねた挑発がようやく実を結んでノイトラは嗤う。何度もアーロニーロとは戦っているのだが、これまで一度も命の危機と感じなかった。こちらが喧嘩を売っているのに、丁度良い練習相手のように軽く扱われていた。

 ノイトラは強くなりたいとと少なからず思ってはいたが、最終的には強さなどどうでもよかった。

 

 戦いの中で生き、戦いの中で死ぬ。

 

 ノイトラにとっての強さなど、そうなるための手段でしかなかった。だからこそ、そこに妥協はノイトラ自身が許さない。

 自分を殺す者が現れるのなら、ソイツは最強でなければならない。ソイツの最強を証明する為に、自分は最強でなければならない。

 いつか自分を殺すソイツが最強である保証など何処にも無いが、ノイトラにとってそう思えて逝けるのかが問題だ。結局のところ自己満足でしかないが、虚という存在に救いを見いだせないノイトラは其処に全てを注ぐのに疑問は無い。

 

 そして、アーロニーロは取りあえず一対一で戦える十刃として目をつけただけだ。自分がどれだけ強くなればいいのかを決める指針を見つける為に利用しているのだ。

 ただ漠然と自分より強いというのだけでは駄目なのだ。アーロニーロには力を測る定規として、示させなければ意味が無い。

 下から数えた方が早かろうと、十刃の力を知れる機会なのだ。

 

単純に力押しで来るか、それとも技巧を凝らして翻弄しにくるか。どう攻められようとも斬り捨てる心算でノイトラは構える。

 

「絶望ッテノヲ味ワウトイイヨ」

 

 来る。その直感は正しく、アーロニーロが真正面より細身の黒い剣を片手に響転でもって距離を詰めるのが目で追えた。

 

(黒い剣?)

 

 いつの間にか灰色から黒になり普段よりも細身となった『剣装霊圧』に引っ掛かりを憶えたが、ノイトラはそのまま斬りかかる。

 剣と斬魄刀がぶつかり、火花を散らす。その後は距離を空かせるために手刀による刺突で攻めたてる。

 これまでの大まかな流れであり、この瞬間も繰り返されるとノイトラは思い込んでいた。

 

「…嘘…だろ…」

 

 黒い刀身は空を斬る様に、抵抗らしい抵抗を受けずにノイトラの斬魄刀を切り裂いた。余程霊圧が離れていなければ起きない一方的な斬魄刀の破壊。それを目にして、ノイトラの思考は一瞬だけ麻痺した。

 時間さえ掛ければ勝手に治るが、斬魄刀の破損など滅多にある事ではない。そんな珍しい事を見ればそんな事もあるのかと軽く流したであろう。ソレが起こったのが自分の斬魄刀でなく、しかも斬られるという斬る側の斬魄刀にとって屈辱的なものでなければ……

 

 だがしかし、ノイトラの身体は本能で動いた。長い棒となってしまった斬魄刀を手放して、右手で手刀による刺突で仮面の下にあるであろう喉元を狙う。

 斬魄刀を潰せば手刀が来ると判っていたアーロニーロは、左手で手首を掴んで逸らさせる。そのまま体をノイトラに沿う形で回転して、勢いを乗せた肘鉄を側頭部に叩き込む。

 

 人体の弱点である頭部に強烈な打撃を加えられて、鋼皮の硬度に自信のあるノイトラもたたらを踏む。

 その好機を逃さず、アーロニーロは前宙からの踵落としでまたも頭部に打撃を加える。2度も連続で頭部を揺さぶられて、流石のノイトラも意志に反して足が震えてまともに立つことができなかった。

 だが、その震えに恐怖は微塵も入っていない。恐怖や怯えといった精神的な震えではなく、あくまでも脳を揺さぶられた事による生理的反応でしかなかった。

 

(ッチ……)

 

 無傷な自分とフラフラになっても立っているノイトラを比べて、アーロニーロのは心の中だけで舌打ちをした。この構図は、まるで弱い者いじめをしているようではないかと……

 ただ不機嫌なだけでなく、『捩花』と殺し合いで少なからず昂っていたアーロニーロは急速に冷めていくのを感じた。それが正しい姿だというのに、どうにももどかしい。

 

 元よりアーロニーロにとっての強さは生き残る為の物。今のノイトラなど、他の破面より頭1つ飛び抜けているだけの破面。特異な能力がある訳でないのに、今喰ってしまうのは惜しい部類になる。

 喧嘩を売られるのは不愉快ではあるが、今すぐ殺したくなるものではない。今すぐ殺す理由もなく、むしろ損するだけとの答えはアーロニーロの中で出た。

 

「これに懲りたら、無意味な破壊活動はやめるんだな」

 

 今回も見逃してやる。そう言ったも同然の言葉はノイトラの逆鱗に触れた。

 

「ふざけてんじゃねえぞ!アーロニーロ・アルルエリ!!

 何時もそうやって澄ましやがって!!情けでも掛けてるつもりか!!」

 

 嗤った。ノイトラが怒号をぶつけたというのに、それがどうしたと言わんばかりにアーロニーロが嗤った。

 

「掛ケテルツモリ? 掛ケテヤッテルンダヨ。数ヲ減ラスト、新シイノヲ連レテ来ナイトイケナイカラネ」

 

 破面の数を減らすと面倒だから殺さないとの理由は、ノイトラの怒りに新しい燃料を注ぎ込む。

 

「嘗めてんじゃねえぞ…殺すより新しいのを連れて来るのが面倒だと……」

 

 ぶつぶつと言われた事を反芻し、煮え滾る怒りは更に熱を増していく。それに伴って、ノイトラの霊圧までも高まる。無意識に、ノイトラはアーロニーロを殺せるまで高めようとする。

 

「くそがああああああああああああ!!!」

 

 全霊を掛けた虚閃がノイトラの舌先より放たれる。十刃に匹敵する虚閃を前に、またアーロニーロは嗤う。

 

「虚閃」

 

 後出しで明らかに溜めの足りない虚閃では押し負けるのは目に見えていた。小さい虚閃と衝突してノイトラの虚閃が弾ける。その威力は十刃にも傷を付けられる威力。下から数えた方が早いアーロニーロなら、手傷では済まないだろうとノイトラは笑う。

 

「な……」

 

 その笑みは、すぐに凍り付いた。煙が晴れたその場所には、虚閃を撃たれる前となんら変わらない無傷のアーロニーロが立っていたからだ。

 

「ソンナニ驚イテ、虚閃二ツイテゴ教授ガ必要カイ?」

 

 なんてことは無い。虚閃は霊圧の塊なのだから、同じ霊圧で防げない道理など何処にも無い。感情が剥き出しで虚閃の構成が甘くて爆散しやすいのを見破って、直接当たる前に弾けさせたのなら尚更だ。

 

「残念だったな」

 

 アーロニーロの弱者を嘲笑う言葉は、ノイトラを屈辱の海に突き落としたのだった。


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