アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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特別訓練

「特別訓練だぁ?」

 

 グリムジョーはいきなりアーロニーロが言った内容に怪訝な顔をして、不機嫌だというのを隠そうとしない。元より直情なグリムジョーだが、気に喰わないアーロニーロ相手に感情をぶつけるのなど気にも留めない。尤も、グリムジョーが感情をぶつけない相手など、片手の指の数で数えられるくらいに少ないのだが。

 

「ノイトラ・ジルガとは随分と仲が良い(・・・・)ようだからな」

 

 仲が良いと言われてグリムジョーは怪訝な顔をする。グリムジョーが強くなろうとしている理由の中に、アーロニーロを倒すというのが含まれているなど先刻承知の筈だ。そしてソレはノイトラとて同じだ。

 

「心配シナクテ良イヨ。消スツモリナラトック二ヤッテルカラ」

 

「…ッチ」

 

 いつでも殺せるとの宣言にグリムジョーは反論ができなかった。ノイトラと会わせられ、ライバル関係のようなものとなって確かに強くなった。

 そう、強くなった。ただそれだけだ。十刃に、アーロニーロに牙を届かせるのには、強くなったとしか言えないくらいしか鍛えても意味がない。次元が違うと言わしめるその実力差は、純然たる事実なのだから。

 

「それは私達も参加していいのか?」

 

 いつものように『迎撃の間』にて(たむろ)していたところで話しかけたので、一緒にいたシャウロンが横槍を入れた。彼等も鍛錬を欠かしていないのだが、強くなっているという実感が無い。

 そこに怪しさ満点の特別訓練ときたので、何か掴めないかと藁にも縋る思いで参加したいのだ。それにアーロニーロは是と返す。

 

「ソレ、あたし等も参加していいか?」

 

 どこから聞いていたのか、アパッチ達3人娘も『迎撃の間』に入ってきて参加を表明した。それもアーロニーロは是と返す。

 

「…だってよ、ハリベル様ー!」

 

「何?」

 

 してやったりとニンマリと笑って言ったアパッチの言葉をアーロニーロは思わず聞き返した。どういった意味で言ったなど聞き返すまでも無かったのだが、聞き返せずにはいられなかった。

 

「済まない。騙すような事をしてしまって……」

 

 申し訳なさそうに、3人娘の影より呼ばれたハリベルが姿を現した。つまり、アパッチの言ったあたし等は3人娘だけでなく、ハリベルも含めた4人だったということだ。

 

「まさか、やっぱり今の無しとか言ったりしないだろう?」

 

「御自分で言いましたよねぇ?いい、と」

 

 すかさずミラ・ローズとスンスンが「断るなよ」との念押しする。

 

「ヘェ、ソウ来ルカイ」

 

 プライドの高い他の十刃なら、こう言われてしまえばそのまま連れて行くしかない。自分で言った事を曲げるなど、虚言を吐いたのと同じになってしまうからだ。

 尤も、アーロニーロにはプライドなどという邪魔くさいものはほとんど無い。なので断るというのも選択に入る。

 

「ハリベル、付いて来るのは構わん。ただし、それなりに危険だから俺の傍を離れるなよ」

 

 てっきり「残れ」との返答が来ると思っていたハリベルは嬉しそうに頷く。逆に、3人娘は暗くなった。一応はハリベルが喜ぶので望んだ返答ではあるが、アーロニーロが傍に居るのは不快である。

 どっちに転ぼうが3人娘の心中は複雑なモノになるので難儀なモノであった。

 

――――――

 

「あー!アーロニーロだ!」「ッえ!?お菓子が来たの!?」「チョコある~?」「ヲカシ~」

「クッキーは?あるよね?」「マッカロ~ン」「パフェが食べたいよ~」「肉もいいよね」

「肉は今はいいよ」「あれ~?他にも誰かいるよ~?」「ほんとだ」「誰だろ?」

「もしかして、遊んでくれる人?」「それならいいな」「普段はできない遊びができるね!」

 

 

「俺の名前より先にお菓子が出た奴はちょっとソコに並べ」

 

 全てのピカロがワラワラとアーロニーロを中心に集まっているその光景に、初めてその場面を見たグリムジョー等にハリベル達は言葉を失った。

 ピカロは群体の破面で、それぞれが根底でこそ繋がっているいるが個性があって非常に気紛れというのは周知の事実だ。そのため、ピカロだけで破面が面白半分で何体も遊び壊されるとの事件が何度も起きている。その為、今は自らの宮の付近に―――数体の物理攻撃が効果の無い虚によって―――軟禁状態にされている。

 

 そんなピカロが無邪気に集まるのはよくある事。

 逆に綺麗に列を作って並ぶなど想像すらしなかった。しかも、気紛れなピカロが全員で集まっているのだ。いくら軟禁状態で一定範囲にいても、バラけて行動するのが多いから更に異常さが際立つ。

 その異常の理由は、アーロニーロが作ったお菓子を本人に了解なしに毒味として配ったからだ。

 藍染でもくれなかった甘い菓子類をくれるおじさんと認識し、下手すれば藍染よりも言う事を聞くようになっている。しっかりと調教もとい餌付けされた結果が異常となっているのだ。

 

「どういうつもりだぁ!アーロニーロ!!!」

 

 ほとんどが子供の姿―――逆に言えば、一部は異形―――のピカロに、スリットの無いチャイナ服みたいなのに仮面と袖が広くてなぞのフリフリ要素のある上着を着た(アーロニーロ)が葬討部隊隊員に持ってこさせたお菓子を配っている光景に待ったを掛ける者がいた。

 光景が犯罪的とか、可笑しな光景過ぎるという理由ではない。特別訓練としてきたのに、アーロニーロがピカロにお菓子を配っているのを見ているだけであるからだ。

 

「マッタク、セッカチダネ」

 

 いくらピカロが第2十刃(セグンダ・エスパーダ)でも、見てくれは子供である。なのでハリベル達は微笑ましく見ていたが、グリムジョー等は我慢ができないようであった。尚、『第9従属官』たる最初期組はお留守番として宮に残らせている。

 

「さあ、ピカロ。おやつを食べたら、今度は遊びの時間だ。

 遊び相手は俺とハリベル以外の大きいお友達だ。俺の前に連れて来るだけでいい。

 ソレができたら、新しいお菓子を配ろう」

 

 新しい遊び相手に新しいお菓子と聞いてピカロは色めきたつ。逆にグリムジョーは益々怒りを増幅させる。特別訓練と聞いていたのに、餓鬼のお守りをさせられそうになっているからだ。

 

「アア、ソウソウ。帰刃ト殺シハ無シダヨ。皆死ンジャウカラネ(・・・・・・・・・)

 

 火に油どころか爆発物を投入する発言に、グリムジョーは開始の合図と共にこちらを捕まえれるように近づいていた1人の頭蓋を踏み砕く。

 

「馬鹿にすんじゃねぇぞ!!十刃と言ってもこんな餓鬼に俺が殺されるだと!!!」

 

 数こそいるが、まだ十刃でないグリムジョーでも「こんなものか」と思う霊圧しか発していないピカロは雑魚にしか見えなかった。だから、容赦無くピカロに手を掛けた。たかが一匹潰した所で、大した事ないだろうと。

 

「ああ゛ん?」

 

 踏み砕いた足がナニカに押し返される感触に、グリムジョーは視線を落とした。そこには、物言わぬ骸となったピカロがいる筈であった。

 

「アハハッ!」

 

 だがしかし、ソコには血飛沫で汚れているが、グリムジョーに潰された頭が治っているピカロが笑っていた。

 

「ッ!?」

 

 あまりの不気味さに思わず飛びのいて、しっかりとピカロを観察する。血によって汚れているから、踏み砕いたのは事実と確認できるが、その再生力は不自然極まりなかった。超速再生でも、脳や内臓といった器官は再生できない事がある。特に、脳はどれだけ優れた超速再生でも再生は不可能とされている。

 だから、頭蓋を踏み砕いてピカロの一匹を殺したと思ったのだ。頭を潰せば、単細胞生物でもなければ死ぬのは虚でも同様である。

 その例外の1つが、ピカロという破面であったのだ。

 

「スイッチが入ったな」

 

「スイッチ?」

 

 いったい何のスイッチが入ったかとハリベルはアーロニーロに聞こうとしたが、すぐにその必要は無くなった。目の前で、ピカロが発する霊圧が先ほどよりも強くなったからだ。

 ピカロは子供故に、あまり考えて学ぶといった事はしない。それでも、ピカロは霊圧を抑えるという事を自然と学び、お粗末なレベルだが自分のモノにしていた。その理由は簡単だ。遊ぶ為だ。

 

 何度か他の虚や破面と遊ぶ内に、普段よりも相手が捕まえやすい上に長く遊べる条件を見つけた。それが霊圧を抑えた状態であったという話だ。それからピカロは普段は霊圧を抑えるようになり、ソレが解放される

時とは霊圧を抑えるとの事も考えられなくなった時となる。

 

「アンナノデモ第2十刃。十刃二入レナイ奴ハ、敵二スラナラナイヨ」

 

 嗤い、アーロニーロは遊びの開始を宣言した。

 

――――――

 

 アーロニーロの開始の合図を待たずに、追われる者にされた者達は響転でもってその場を離れた。アーロニーロは遊びと言いい、ピカロに殺しは無しと言いつけていたが命が懸かっているのは明白であった。

 仮に殺されなかったとしても、十刃としての迫力の欠けるピカロだが、大人になるにつれて失う無邪気さを持っている。捕まえれば逃げられないようにと足をもがれて不思議ではない。

 

 逃げ続けるにしろ、隠れるにしろ一旦距離を取って考える時間が必要であった。しかし、1人だけその場に残っていた者がいた。

 

「ハ、ハハハ」

 

 ディ・ロイ・リンカーであった。別に勝つ自信があって残ったのではない。響転が下半身が蛇だからか、それとも単純に実行できる能力が無いからか、1人だけ取り残される格好になっただけである。

 

「やってやろうじゃねえかーーーー!!!」

 

 破れかぶれでピカロに先制攻撃をするのだった。

 

――――――

 

 哀れな獲物となった者達が狩られている時間。アーロニーロとハリベルは、テーブルとイスを並べて優雅に紅茶を飲んでいた。

 

(大丈夫だろうか……)

 

 ハリベルは心配そうに顔を曇らせて、最初に脱落して古雑巾のように捨て置かれているディ・ロイを見る。

 小さめの打撲痕が露出している肌に幾つも見え、砂を全身に浴びて薄汚れている。状況だけ見るなら、袋叩きにされた後である。と言うより、ピカロにそんなつもりは無かっただろうが、実際に袋叩きにされていた。

 無数の子供に無邪気に「やれ~!」との掛け声と共に殴られるのは、不吉な打撃音さえなければ可愛げのあるものだった。その後で、この前アーロニーロにやって貰ったという、相手を掴んだその場でグルグルと回る「大車輪」と名付けられた技を数人で協力してやられていた。最後にはそのままアーロニーロの前に投げ出されて今に至る。

 

「心配しなくとも、死にはしないだろう。斬魄刀を抜きさえしなかったからな」

 

 ディ・ロイを袋叩きにしたピカロの中には、破面なら必ず持っている凶器たる斬魄刀を抜いた者はいなかった。素手で簡単に他人を殺せるのが破面なので微妙になるが、明確に殺す意思はないとの現われと言われればそう思わずにはいられない。

 

「また、嫌われるぞ」

 

 死なぬようにとの配慮が見て取れる。だからと言って、無邪気に凄惨な結果を出すピカロに追いかけられるのは許容できる内容ではない。

 

「マダ嫌ワレル余地ガアルナラネ」

 

 特別訓練と言っておいて、死を感じさせる追いかけっこをやらされる。何かのイジメにすら思える所業だが、ハリベルはそれは仕方の無い事と考えていた。

 

「……はぁ、言うほど皆が皆お前を嫌っていない」

 

 手段がどうあれ、アーロニーロは確かに為になることをしている。嫌われようとも、誤解されようともだ。

 それが、ハリベルには悲しいことであった。解り合おうとせず、ただただ力を与える存在としての立ち方をアーロニーロは頑なに変えなかった。グリムジョー等を連れ帰った時には、解り合えそうな相手なのかと思った。3人へと同じ対応だったので、そんなことは無かったのだが。

 

「それに、少なくとも私はお前を好ましく思っている」

 

 そう言いながら、ハリベルはアーロニーロの右手に指を絡ませる。手袋越しでも、アーロニーロの体温は感じられ、血の通った生き物だと意識させる。

 

(この手を、私を助けるための犠牲にさせてしまった……)

 

 今触っている右手は、ハリベルが知っているだけで2度失われた物。

 1度目は、まだ十刃が“刃”とされていた時にミッチェルの攻撃を受けて肘より先を吹き飛ばされた時。

 2度目は、アヨンと名付けられた3人娘の片腕より生まれたバケモノから、ハリベルを無傷で助ける為に文字通り切り捨てられた時。

 超速再生によって永遠の喪失にこそなっていないが、傷付いた事実には変わりが無い。

 

 だから、ハリベルは手袋に隠れている手が傷だらけなのを幻視してしまう。手だけではない。全身を塗り潰すように傷があると思えて仕方が無い。

 アーロニーロが強いのは知っている。それでも、ハリベルは心配が勝る。肉体的に強かろうとも、その精神まで強いとは限らないからだ。

 

「独りは、寂しくないのか?」

 

 胸の内を明かさず、ただ己の一面だけしか見せないその姿勢。理解させるつもりはなく、誰にでも必ず一歩引いているのでは、孤独なのと何の変わりがあろうか。

 

「下らん。寂しいかなど、何の意味も無い。

 感情などと言う本能に従えば、無駄にするだけだ。色々とな……」

 

 ハリベルの知らない過去の後悔。ソレを滲ませた言葉に、ハリベルは初めてアーロニーロの心に触れたと実感できた。

 やっと心に触れたという牛歩よりも遅い歩みだが、何も語らず踏み込むのを許さなかったのでかなりの進歩でもあった。

 

(ああ…やはり、心を許せる相手が欲しいのだな……)

 

 ようやく、ハリベルは安心した。もし、アーロニーロが自分を煩わしく思っているのなら、その内心を吐露するなどしなかったであろう。まだ受け入れられた訳ではないが、明確な拒絶もされなかった。

 

「アァァァァァロニィィィィィィロォォォォ!!!」

 

 より語ろうとすれば、怨嗟の声で叫びながら帰刃して―――髪が先端が膝の裏近くまで伸び、腕に鉤爪のように鋭利な刃物が生え、肩甲骨辺りから尻尾が生えてどことなく豹らしさがある―――グリムジョーが此方に向かって突っ込んできたのだ。

 

「思ッタヨリ早カッタネ」

 

 なんの惜しげもなく絡んでいた右手を離し、アーロニーロは『剣装霊圧』で応戦を開始した。

 少し遠くを見れば、響転で戦略的撤退した全員が揃って帰刃しており、アヨンも出されて全力でピカロの足止めをしていた。

 この遊びで勝つのは不可能。と言うより、勝ちの条件が決められていないので、最後はピカロに嬲られる結果が決まっているのは確定であった。

 

 ならばと、この特別訓練を決行したアーロニーロに一矢報いようと団結したのだ。全員で挑みたかったのだが、ピカロを足止めをしなければ囲まれて袋叩きにされるのは目に見ていた。

 だから、百以上いるピカロを足止めする為にグリムジョー以外はアーロニーロへの攻撃には参加できなかったのだ。

 

「残念だが、あまり時間を掛けるつもりはない」

 

 アーロニーロの宣言で葬討部隊隊員が斬魄刀を抜く。刃を向ける相手は当然グリムジョーである。

 

「てめぇ!!」

 

 決着はすぐについたのだった。


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