アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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『魅惑』

 リネが斬魄刀を抜く。

 リネの斬魄刀は鍔が絡み合う蔦を模したレイピア。その形状は折れやすさなどから真っ向からの斬り合いに不向きな武器だ。レイピアは刃が細く軽量なので片手で使うのが前提であり、開いている手にはパリーイング・ダガーやソードブレイカーといった防御用の短剣との併用が普通である。しかし、リネの斬魄刀を握らない手は開いたままである。

 

「ゆくぞ……」

 

 短く攻撃の宣言をしてリネは疾駆する。前任であったミッチェルがそうだったように、リネは速さを主軸に置いた戦闘スタイルの使い手である。レイピアという剣として体裁を最低限残したその形状は、斬ると突くができるだけの機能以外を削ぎ落としたようにすら見える。

 リネが斬魄刀を振るえば、その軌道は完全な線であって通り過ぎたそのままを切り裂く。

 

 ネリエルがソレを許す筈も無く、自分も斬魄刀を抜いて剣戟を受け止める。

 

(軽い…)

 

 その速さから勢いには十分に乗っていそうであったが、重圧としての力は非常に軽いものであった。もとよりレイピアであれば当然の話である。細身であるので、折る折られるとの事が戦いで普通だったのだから。

 ただし、それは人間が作った鉄の武器としての話である。己が虚としての力の核を封じた斬魄刀なら、その強度は所有者に依存する。

 そして、リネは十刃。その強度は簡単に折れるような物であるはずが無い。

 

 澄んだ金属音を響かせながら、リネの斬魄刀がネリエルの斬魄刀の刃の上を滑る。どちらも傷付かずいる事から、強度の上では拮抗しているのが見て判る。

 手元の方へと滑っているので、鍔によってその動きが時期に止められる。筈だった。滑っていた刃は跳ねて鍔を避け、ネリエルの指へと迫る。

 大きな痛手となる指の欠損をそのまま受け入れずに、ネリエル下がると同時に再び刃と刃をぶつけ合わせる。今度は手元に迫れないようにと弾き飛ばす。

 

「…っふ、私に挑戦するだけはあるようだな」

 

 的確な対処を鼻で笑う余裕な態度に、ネリエルは顔を顰める。

 

「良い事を教えてやろう。私の剣は重さだけ(・・・・)を捨てたモノだ」

 

 弾かれて横に移動させられた斬魄刀が、その場所より脳天を貫こうと切っ先が狙いを定めていた。

 ネリエルが反撃に移ろうとしたその矢先に、リネは再び攻撃の姿勢に移っていた。

 まだ退く猶予は残っていたが、ネリエルはそのまま攻めを続行する。脳天を狙っていることから次に来るのは刺突と判断し、それなら避けられると踏んだからだ。何より、退いたら攻めに転じられないとの予感があったからだ。

 

 ネリエルの予想通りに脳天を、一撃必殺を狙った刺突が迫る。頭を傾けてギリギリで避け、そのままリネの斬魄刀ごと斬り上げる。またもやリネの斬魄刀は弾かれるが、斬り上げは避けられてダメージを与えられない。そのまま、上段からの斬り下げに繋げられる。

 

 斬り払えばそこより攻撃をされ、受け止めれば手元を狙った攻撃をされる。どう動こうとも即座に攻撃に移るその柔軟さは、特筆すべきリネの腕であろう。

 何度避けようとも、何度交わそうとも次に攻撃が来るのは変わらない。細身の剣であるが故に攻撃に重さを持たせられない事実でもって、速さと切れ味でもって相手を切り裂くこの剣術へと至らせたのだ。

 

 再び切っ先が脳天を捉える。それを体全体を傾けて避けると、大きく踏み込んで右から左へと一閃させてリネの腹を掻っ捌こうとする。流石にコレを避けるのに距離が必要とし、リネは後ろに跳び退いて凶刃より逃れる。

 

「虚閃」

 

 追撃への牽制として、跳び退きながら左手より虚閃を放つ。虚閃は決定打にこそ欠けるが、同格のものであるのなら決して無視のできる威力ではない。追撃を封じ、体制を整える隙を作るには十分。

 そんな虚閃を見て、ネリエルの頬が緩む。大虚や破面ならまず使えるその技は、ネリエルに対して使う技としては悪手に他ならないからだ。

 虚閃の直撃コースにいるのにそのまま突撃を強行するネリエルを見て、尚も余裕そうな表情に陰がさす。

 

 迫りくるセロをネリエルは片手で受け止める。そのまま逸らすなり握り潰せばまだ普通であった。だが、ネリエルは口を大きく開いて虚閃を飲み込んだ。

 これにはリネの余裕が崩れて驚愕に染まる。虚閃は霊圧の塊で、飲み込むのは爆弾を飲み込むのとほぼ同義。ソレをやったということは、飲み込む事で使える能力以外は考えられない。

 

 ちゅるり、とゼリーのように飲み込んで一拍置かれる。

 

「があっ!!!!」

 

 大よそ女性が出しちゃいけないような声と共に、虚閃が今度は吐き出される。飲み込まれる前よりも明らかに速度が上がった虚閃がリネへと反逆する。

 態勢を整える為に虚閃を撃ったのだから、リネが虚閃をまともに迎撃できる筈もない。腕をクロスさせて防御姿勢を取るだけで精一杯であった。

 

「…妙な虚閃だ。確かに私自身の虚閃を返されたというのに、なぜお前の霊圧が混じっている」

 

 手負いになろうとも、リネは余裕の態度を取り繕った。返された虚閃が牽制として撃ったモノであったのがリネを救ったのだ。もし、倒すつもりの虚閃であったのなら、取り繕う事さえリネはできなかったであろう。

 

「『重奏虚閃(セロ・ドープル)』。相手の虚閃を吸収して、自分の虚閃を上乗せして撃ち返す私の固有技よ」

 

 存在と内容がばれた伏せ札は切り札足りえないとして、あっさりとネリエルは技を教える。

 

「そうか、なら使わないようにしよう」

 

 撃とうとも無駄と判れば、早々撃てなくなる。決め手に欠ける虚閃だが、撃たれれば面倒に変わりはない。『重奏虚閃』の真価は、相手が虚閃を撃ちにくくするところであろう。

 

「乱れよ、『淫羊華(テンダシィロル)』」

 

 長引かせるのは得策ではないとして、リネはついに斬魄刀の解号を口にした。リネの霊圧が視認できるまで一瞬だけ凝縮し、すぐさまそんな事など無かったように飛散する。

 

「この姿は、あまり好きではないのだがな」

 

 帰刃したリネの一言で例えるのなら、花に取り込まれた女であった。腕は手首を縛られて吊るされているように持ち上げられ、手は1つの大輪の花となって元の使い方はできなくなっている。髪は途中から茨となって、消失した服の代わりとなって上半身の要所要所を絡まりながらも隠している。下半身は植物の茎と変わりない物となって、自力での移動は不可能とまでなっていた。

 

「思うように動けないから、かしら?」

 

 虚の姿を色濃く表した帰刃状態を見れば、なんとなくだがその理由が判った。多くのアジューカスは動物型で、リネのような植物型は非常に珍しい。単純に植物の姿に進化するギリアンが少ないからとの理由もあるが、自力での移動ができないとなれば食うに困ることも多く、何より逃げるとの事ができないからだ。

 ただでさえ生存競争が激しい虚圏では、移動できないとのデメリットはあるだけで死活問題に直結する。それでもなお生き残って破面化できたのだから、リネの能力が高いと伺える。

 

「そんな事ではない。折角の妖艶な姿というのに、こんな手足では愛でることができん」

 

 思うように触れ合えないのが不満だと言うリネの顔はその感情に染まっており、本心からの言葉なのであろう。しかし、そんな事はネリエルには関係が無い。

 

「そんな心配をするのは今日までよ。あなたは私が倒すもの…」

 

「さて、刀剣解放をしなくてもよくなるのはどちらかな……」

 

 勝つのは自分だとの宣言に、リネはこれまで通りに余裕の態度で受け流す。

 

「判っているでしょうけど……今のあなたはただの的よ」

 

 響転からの死角からの斬撃。破面の常套手段である攻撃で、ネリエルはリネの首を狙う。流石の破面でも首を刎ねられれば死ぬ。どう見ても致命傷でも、元気そうに動き回れる奴もいるにはいるが、今は蛇足であろう。

 

(取った!!)

 

 リネは響転を目で負えていたが、対応までは追いつけていない。ネリエルの斬魄刀がリネの柔肌を無残に切り裂いて、その首を切り落とすのを確信していた。

 だがしかし、リネの振り向きざまの横顔を見た途端に、心臓が普段より大きく脈打って体の調子を狂わせる。そのままであれば首を刎ねていた斬魄刀の動きは鈍り、動き出した茨によって弾かれて攻撃は失敗に終わった。

 このまま接近戦を続けるには危険だとし、一旦ネリエルは下がる。

 

「見惚れたな、この私に」

 

「……ッ!!」

 

 突き付けられた事実にネリエルの衝撃は並の物ではなかった。同性に体が変調をきたすほどに見惚れる事などまずないと考えていたからだ。

 確かにリネは傾国の美女と言えるだけの美しさを持っている。しかし、性癖的にノーマルであるネリエルが見惚れるような事は無いはずであった。

 

「恥じる事はない。私のこんな姿を見れば、誰もがそうなるのだからな」

 

「そう、コレがあなたの能力。『魅惑』たる力ということ」

 

「まだそう考えられるとは、同性かつ同格にはやはり効き辛い(・・・・)な。尤も、私の『魅惑(ファスシナシオン)』からは逃れられまい」

 

 能力と判れば、体の変調にもネリエルは納得ができた。そして、リネの能力が途轍もなく恐ろしく感じた。一瞬だったとはいえ、見惚れた(・・・・)で効き辛いとなると、しっかりと効いた場合はどうなってしまうのかの想像がつかないからだ。

 

(長引かせるのは危険ね…)

 

 どんな攻撃にもある事だが、1回耐えられたと言ってその後も無限に耐えれるなんてまずない。しかも、リネの『魅惑』は特別な攻撃を必要としないようなので、今この瞬間にも『魅惑』に蝕まられている可能性が高かった。

 自然と、ネリエルは短期決戦をするしかないと考えた。その思考が、既にリネの術中に嵌っているいると考えもせずに……

 

「謳え、『羚騎士(ガミューサ)』」

 

 最大戦力でもってリネを倒すべく、ネリエルも帰刃する。現れたその姿は、人間の上半身と馬の首からしたを持つ半人半獣、ケンタウロスに酷似したモノであった。ネリエルは馬の部分が(カモシカ)となっているので、厳密にはケンタウロスに似たナニカとなる。ちなみに、カモシカはウシ科の動物である。どうりで胸が大きいわけである。

 手に握られていた斬魄刀は、ランスを2つ石打の部分でくっ付けた槍のような物へと変貌して握られている。馬の部分がカモシカでも、見るからに突撃力がありそうで、しかもランスとして扱えそうな武器まで握られていれば次に何が起きるかなど自明の理であった。

 

 チャージ。騎兵の突撃戦術であるそれは、馬の機動力によって人間だけでは出せない破壊力を生み出す。ランスによって一点に力を集中させれば、強固な鎧すらも貫ける。小回りが利かないが、それを補って有り余る機動力と破壊力を持つその戦術をリネへと向ける。

 

 先程は振り向きざまの横顔にドキリとしたが、真正面からならそんな事は起きはしない。

 

「…近づいたな」

 

 避けようの無い死が迫っているというのに、リネは優雅に微笑んだ。

 

「…ぁ」

 

 その微笑みで、ネリエルは一瞬だけ溶かされた。見ているだけ肌は上気し、心臓が痛いほどに脈打つ。不治の病とまで言われる恋煩いと同じ状態にまで、ネリエルは近付いて見ただけで陥ってしまった。自我が希薄になり、意識が朦朧とする。

 

「グ!」

 

 唇を噛み切って、意識をリネから無理矢理に逸らす。視線まで逸らして突撃を中止して、距離を取る。

 

「あぁ…どうして離れてしまうのだ。それでは愛でられないではないか」

 

 甘い囁きに足を止めそうになったが、そのままネリエルは先程と同じだけの距離を取った。そこなら、まだ安全圏と考えての距離だ。

 リネの方を一瞬だけ見れば、斬魄刀での一撃を防いだように茨が手の代わりと言わんばかりに展開されて待ち構えていた。もし、あのまま向かっていれば全身を茨に抱き締められてじっくりと絞殺されていたであろう。

 

(本当に…厄介ね)

 

 能力型は嵌め殺すのが普通となる。当然、嵌められないのなら逆に殺される事になるが、十刃の能力型がそんな簡単に嵌め損なうなどしない。

 物理型になるネリエルは、力技でもって相手の能力を破る必要がある。なのだが、近付いて顔を見ただけで戦闘不能になり掛けたのだ。もし接近戦を仕掛けるのなら、一回上手く行くか行かないかの非常に怪しい線である。

 

「どうした? 私はここにいるぞ。早くここまでくれば、たっぷりと愛でてやれるぞ」

 

 嫌に耳に残る声で、無意識に足が動きそうになる。新しく唇に傷を付けて、ネリエルは自分を繋ぎ止める。

 共に傷が少なく、帰刃こそしているがまだ霊圧の消耗は多くない。全体的に見ればこの戦いは始まったばかりのようなものである。

 だというのに、ネリエルは追い詰められていた。自分の突破力なら、嵌められる前にケリを付けられると踏んでいたのに、既に嵌められつつあった。

 

(これが、第3十刃の実力というわけ)

 

 一旦、目を瞑ってネリエルは気持ちを落ち着かせる。

 近付くのが無理なら、遠距離からの攻撃で仕留めるしかない。しかし、ネリエルの技の遠距離攻撃は虚閃と虚弾しかない。どちらも決定打に欠ける上に、破面の基本能力なのでリネも警戒しているであろう。

 ならば、今この瞬間に新しい技を編み出すしかない。

 

(思い出すのよ、私自身の能力を…)

 

 虚として身体による能力は突撃力。特殊能力としては、相手の虚閃を一旦吸収してから、自分の虚閃を上乗せして返す『重奏虚閃』。ネリエルの能力と言えるのはこの2つだけであった。

 

(いける、かしら…?)

 

 咄嗟の思い付きの技は、遠距離から仕留められる可能性があった。だが、失敗すれば今以上に悪い状況となってしまう。百かゼロ、もしくはマイナスにまで落ちる賭けとなる。

 

「それでも、やるしかないわね」

 

 決意を固め、ネリエルは再びリネに向かって、なるべくリネを見ないように突撃を開始する。

 それを見たリネは笑う。リネの『魅惑』は、花となった手から放出されている花粉による影響だ。風の有無で効果範囲が左右されるのが珠に傷だが、その効果は強力である。

 リネを見れば特殊性癖者でもなければ美しいと好意的に見る。花粉はその感情を爆発的に増大させ、リネに魅了させる。精神を花粉に侵されれば、最後にはリネを心酔してやまない状態になって、リネに従う人形のごとき存在へと変貌せしめる凶悪な能力だ。

 だから、花粉の濃度が濃く、リネがしっかりと見える近距離は効果が非常に高くなっている。近接殺しとも言える能力なのだ。

 

「『翠の(ランサドール・)―――」

 

 槍を腰に据えてチャージの構えをしたネリエルが、肩に担いでいるように見える槍投げの恰好に持ち方を変える。

 それを見て、リネは慌てて茨による防御姿勢へと移行する。受け止めるのは最初から無理とし、飛んでくるであろう槍を逸らせるようにと角錐のような形を取る。

 

「―――射槍(ヴァルデ)』」

 

 回転して軸を安定させて命中率と貫通力を増させ、『重奏虚閃』の応用で霊圧を込めてソレ自体が霊圧を発せるようにした。

 ネリエルの『重奏虚閃』は突き詰めれば霊圧の吸収と放出でしかない。吸収と吸収した物の放出こそ場所に制限が存在するが、自分の霊圧を放出するのは場所に制限はない。しかし、それは体が繋がっている部分との制限が存在する。そのせいで、体から離れた部分が独自に霊圧を発することはない。

 そんな当然な事を覆したのが『翠の射槍』である。霊圧の吸収と放出によって、ランスに疑似的に霊圧を発せるようにして、自分が直接扱うよりやや威力が下がる程度なのに射程を持たせた。突撃は槍投げの助走であるのと、ギリギリまで投げると悟らせない為。

 

 放たれたランスは綺麗に直線を描いて飛ぶ。リネの茨がそれを体に届かせまいと進路を阻むが、そんな防御は焼け石に水だと言わんばかりに力尽くで突破される。

 防御も食い破ったランスはそのままリネの左肩に食らい付き、破壊力をリネへと注ぎ込む。根を張って鎮座していたリネはその破壊力をそのまま受け、耐え切れずに根が千切れてランスごと近くの宮まで吹き飛ばされた。

 

「新しい十刃の誕生だ」

 

 藍染のその一言で、勝者は確定した。

 

「ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。君を新たなる第3十刃として認める。司る死の形は『情け』」

 

「ありがたきお言葉」

 

 恭しくネリエルが一礼すれば、藍染はリネの方に行っていいと許可を出す。ネリエルのランスは、リネと一緒に飛んで行ってしまったのだから。

 

――――――

 

「無様だな、リネ・ホーネンス」

 

 敗者は死でもって退場する。その暗黙の了解に近い摂理を果たさせる為に、アーロニーロはリネのすぐ傍に来ていた。ピカロは葬討部隊隊員に、お菓子と一緒に預けて来ている。

 

「やはり、お前か…」

 

 瀕死の体であっても、リネは余裕そうにアーロニーロに顔を向けた。だが、それがリネの限界でもあった。帰刃が勝手に解除されていて、治療を施さなければこのまま死んでしまうのが目に見えている。

 

「要件ハ解ッテイルダロウ?」

 

「ああ、そうだな。喰らいに来たのだろう」

 

 屍になれば、元十刃でもただの駒である破面に価値などない。価値を出せるのは、今の所は目の前のアーロニーロだけだとリネは理解していた。好意的に見れば、アーロニーロはこれ以上の生き恥を曝さない様にと介錯しにきただけだ。

 

「殺るのなら、すぐに殺れ。全身が痛くて、とてもではないが耐え難い」

 

「そうか」

 

 言い残すことあるなら、それくらいは聞いてやろうと思っていたアーロニーロだが、リネが急かすので『剣装霊圧』を振り上げる。そのまま、後ろを切った。

 

「何ノツモリダイ? 十刃同士ノ私闘ハ禁止サレテイルノ二」

 

 アーロニーロが斬ったのは、後ろから放たれた虚弾であった。

 

「なんのつもり? ソレはこちらの台詞よ。敗者の生殺与奪は勝者にある。リネ・ホーネンスを好きにして良いのは、私であってあなたではない」

 

「確かにそうだな。だが、どうせ殺すだろうに」

 

「悪いけど、私は仲間を殺すつもりは無いわ。あなたと違ってね(・・・・・・・・)

 

 アーロニーロへの嫌悪感を隠そうともしないネリエルは、アーロニーロを睨み付ける。

 

退()きなさい。彼女には、適切な治療が直ぐにでも必要なの」

 

「オオ、怖イ怖イ」

 

 どうせすぐに無駄になる。そう不吉な事を言って、アーロニーロは退いた。

 

「…ふぅ」

 

 アーロニーロの霊圧が遠ざかるのを確認して、ようやくネリエルは帰刃を解除した。相手は古参の破面。いくら序列が低かろうと油断のできる相手ではなかった。

 

「追い返すのではなく、協力させれば良かったものを」

 

 気を抜いたネリエルに口だけは元気なリネが不満げに言う。

 

「彼が素直に協力なんてしないと思うわよ。それに、あなたを運ぶ以外に何を協力させるというのよ」

 

「新参だから知らんか。アーロニーロは、家事から治療まで色んな事ができる。協力してくれるかは、どうなるかは判らんがな」

 

「……仲間をなんだと思っているのよ」

 

 確実に助けられるのに、そうしようとしなかったアーロニーロにネリエルはますます嫌悪感を積もらせるのだった。

 

 そのアーロニーロが戻った場所では、第7十刃ガンテンバイン・モスケーダとノイトラ・ジルガが座を賭けて戦っているところであった。


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