アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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貰いて

「済まないアーロニーロ。お前が今日にも帰ってくると藍染様から聞いて、これから世話になるだろうから部屋の片付けをしていたのだが……」

 

 お仕置きをした後できたハリベルが部屋の惨状を見て、本当に済まなそうに頭を下げる。

 

「こいつらに手伝わせた時点で失敗だ。雑用にやらせればいいだろうが」

 

 のびている三体の頭を小突きながら、文句を垂れるアーロニーロにハリベルは険しい顔をする。

 

「それでは意味が無い。本当なら、私自らやりたかったのだが……」

 

ヤリタカッタ(・・・・・・)?」

 

「三人にやらせてもらえなくてな。それで仕方なく、藍染様の所にお前が帰って来てないか確認に行っていた。入れ違いになってしまったようだ」

 

 部屋の整理など雑用のやる仕事。そんな事を自分たちのリーダーたるハリベルにやらせるなど、三体には許容ができなかったのだ。なので、自分達が部屋の整理をするからと、自分達では面会すら恐ろしい藍染の所にアーロニーロが帰って来たかどうかを聞きに行ったらどうかと提案したのだ。

 なのだが、人型が住むのを前提に設計された部屋の整理は、獣型である三体には荷が重すぎたのだ。

 

「まあいい。最悪、家具類は新しいのに換えさせればいい。それより、こいつらの部屋はどこだ?俺達は、自分の部屋に邪魔になる奴を置いておくつもりない」

 

「それなら、扉から出て左手側の隣の部屋がこの三人の部屋だ。私の部屋は、反対側の隣の部屋になる」

 

(両隣かよ……)

 

 護衛対象から離れずにいれるのは命令上は喜ばしい事だ。しかし、その護衛対象の三体の方は騒がしいが仲が良いという、はたから見てれば喧嘩もコミニケーションという部類であった。

 偶に見る程度なら、相変わらず仲が良いとしか思わないだろうが、アーロニーロは騒がしいのがあまり好きではない。

 

(ハリベルがとっとと第3十刃(トレス・エスパーダ)になれば、おさらばになるんだろうがな)

 

 多少の原作知識からアーロニーロは、ハリベルがまだ結成もされていない“十刃(エスパーダ)”の一員になるのは判っている。それでも、それがどれだけ後であるかなどまったくもって不明であるので、気の長い話になってしまうのだが……

 

――――――

 

「よく来てくれたね、アーロニーロ」

 

 護衛任務から早数か月、アーロニーロは藍染に呼び出されていた。何度か外に出たが、何も問題は起こしてはいない。ならば新たなる命令であろうと当たりをつけていた。

 テーブルが用意されており、そこには何かが白い布で隠されて置かれている。

 

「さて、君はよく命令をこなしてくれている。今回の呼び出しは特別に、恩賞を与えようと思ってね。

 メタスタシア。『霊体融合』能力を持ち、現在は志波(しば)海燕(かいえん)という名の死神と一体化したまま死んでいる(・・・・・)

 

 藍染が手を上げて、傍らに佇む東仙に合図を送る。東仙は藍染の言葉に合わせて白い布を取り払って中身を晒す。

 横たえられた死神とも虚とも言える存在にして、逆にどちらとも言えない物体。それが現状の死体である物体である。

 

 特別、そこだけを聞けば心地好い。だが、藍染の思惑はそこにない。

 死神の虚化、もしくは虚の死神化のどちらとも取れる実験体たるメタスタシアを再利用した実験だ。でなければ、わざわざ貴重なサンプルであるソレを引っ張り出してなどこない。

 

 アーロニーロはまだ破面もどき。そこに死神と霊体融合したメタスタシアを『喰虚』にて取り込む。

 メタスタシアの『霊体融合』は、正確には内側から喰らうのに近い。一時的には融合した相手と同じ容姿で同じ能力を使えるのだが、最終的には相手を構成していた霊子を食い尽くして元の姿に戻ってしまう。

 相手の霊体の内側に潜り、内側から喰らうのは現存する生物の生態であれば寄生捕食に近い。違いは一旦は自分を霊子レベルで分解し、完全に混ざり合ったと言っても過言ではない融合状態になるぐらいである。

 

 そして、藍染の都合の良い事に、メタスタシアは海燕と融合した初期段階で死んだのだ。死神の霊体に、虚の霊体が完全に混じり合った状態でだ。

 ある意味では、死神と虚の壁を完全に取り払った状態である。このサンプルから、藍染は多くの事を学び、破面への先駆けともなった。

 

「ソレデハ」

 

 アーロニーロは喰らう。メタスタシアであり志波海燕であるその物体を。

 虚を喰らった時とはまた違う力の漲り方にアーロニーロはほくそ笑む。これで、欲しい物への足掛かりは手に入ったのだ。

 ソレを確認すべく、左手の手袋を外して『口』に右手を入れる。触手ではない固い感覚を得て、ゆっくりと引き抜く。

 アーロニーロが自身の体より引き抜いた物は、死神の斬魄刀であった。

 

「ほぉ…」

 

 アーロニーロが斬魄刀を手にしたのを見て、藍染は笑みを深くした。

 メタスタシアの能力は『霊体融合』ともう一つ、『斬魄刀消滅』がある。『斬魄刀消滅』は、一日に一度だけ仮面から生えている触手に最初に触れた死神の斬魄刀を消滅させるという能力。

 

 死神にとっては脅威極まりない能力であるが、その本質は『霊体融合』と根本を同じとしたものである。確かに、この能力を行使された死神にとって斬魄刀は消滅する。だが、メタスタシアにとってはそうではない。斬魄刀は形こそ失いはしたが無に帰すのではなく、自身が取り込むのだ。

 斬魄刀を霊子レベルで分解し、それを取り込むのがこの能力の全貌である。

 

 これは、虚が死神の代名詞たる斬魄刀を取り込むことで死神の力を得るかどうかの実験の為に付与された能力であった。

 結果は『霊体融合』も『斬魄刀消滅』のどちらも失敗であった。『霊体融合』は結局は虚に戻り、『斬魄刀消滅』は取り込みはできたが、肝心の能力を使えなかったのだ。

 メタスタシアが死んだ事と、想定以下の結果しか出せなかったので、斬魄刀は虚の死神化には不要であろうと予測を立たせてこの実験は終わりを告げたのであった。

 

「水天逆巻け『捩花』」

 

 始解。死神の斬魄刀の二段階ある内の一段階目の解放をしたことで、藍染の中で失敗作であったメタスタシアの価値が僅かながらに上がる。

 

「破道の三十一 赤火砲(しゃっかほう)

 

 続けて左手に現れた球状の炎を見て、僅かながらに藍染は驚愕した。そしてすぐに、その驚愕は問題無いモノとして片づけられた。

 志波海燕は護廷十三隊の十三番隊の副隊長を務めた男であり、斬魄刀を主に使う死神であったが、鬼道も達人とまでは行かなくとも実戦で十分に通用するまでに使える万能型であった。

 その男の斬魄刀を体から抜き、完全にメタスタシアの能力を我が物としているアーロニーロが鬼道を使えてもなんら不思議はない。

 

「それでは最後に、その仮面をとってくれるかなアーロニーロ」

 

「はい、藍染様」

 

 八つの小さな穴が開いた縦長の仮面を外したそこには、カプセル状の容器内に浮かぶ二つの頭ではなく、海燕の顔があった。

 

「元の顔に戻るのも、またこの顔になるのも自由自在」

 

 説明しながら、アーロニーロは二つの顔を入れ替える。人の皮を被ったり、それを逆に呑み込んでいくその光景は、見ていて気持ちの良いモノではないかったが、藍染はピクリとも表情を変えない。

 メタスタシアは、今のアーロニーロのように自在に姿は変えられなかった。『喰虚』を介して発動するが故に付いた能力であろう。

 

 既にアーロニーロの実験体としての価値は計り知れない。破面もどきであり、死神と虚の融合体。これであとは滅却師(クインシー)も混ぜれば、混沌極まりない存在の誕生である。

 だが、そんな事をしなくともアーロニーロは解剖する価値が生まれた。死神と虚の双方をその身に留めて安定している。崩玉による破面化も影響しているであろうが、破面化もしくは虚化の先である相反する二つの存在の完全なる融合にアーロニーロは最も近い存在に成っている。

 

 しかし、今のアーロニーロの霊子がどの様に結合しているのかといった知的好奇心が刺激される一方で、どこか藍染の心は冷めていた。

 現状では確かにアーロニーロは完全なる融合に最も近い。破面すらの藍染にとっては最終形への通過点でしかないのを鑑みれば、これ以上は望めないサンプルなのも間違いない。

 

 だが、アーロニーロは変化しただけで進化はしていない。虚から破面へ進化すると個体差はあるものの爆発的に能力を増す。その点、アーロニーロの『喰虚』は死体を喰うだけで能力を増しはするが、進化と比べるまでもなく劣っている。

 他者の魂魄をそのまま内包し、自らの力とするその能力は素晴らしく思えた。だが、思う止まりで、藍染が心から欲する物ではない。高みへと臨む物ではない。

 

 藍染が求める物は、上位存在への進化。あくまで目的達成の為の手段ではあるが、全力で追い求めなければ至れないモノでもある。

 進化ではなく変化であるが、足掛かりにはなるだろうと藍染はアーロニーロを下がらせた後で、精密に調べられる機械の準備をするのであった。

 

――――――

 

「なんつーか、暇だな」

 

 鹿型のアジューカスもとい、エミルー・アパッチは他の仲間と共同ではあるが与えられた部屋でボソリと呟いた。

 

「だったら寝てりゃあいいだろう」

 

 ため息をつきながら、今度は獅子型のアジューカスもとい、フランチェスカ・ミラ・ローズはめんどくさそうにアパッチの発言に答える。こちらも、やる気が感じられない。

 

「寝るか食うの二択しか考えられないなんて、二人とも自堕落で豚か牛の虚になってしまいそうですわね」

 

 そんな二人を見かねてか、蛇型のアジューカスもといシィアン・スンスンが二人に向けて毒を吐く。しかし、スンスンも二人同様にやる気が感じられない。

 

「…いや、私ら同じ生活スタイルだよな?誰かが成りはじめたら、全員が成りはじめているじゃないか?」

 

「…アパッチ、怖い事言うんじゃないよ」

 

 弛緩してだらけ切った状態でなければ食って掛かったであろうが、それをするやる気もなくしたアパッチは思った事をそのまま口にし、ミラ・ローズも似たように反応した。

 他にやる事も無いので、アパッチとミラ・ローズは本気でスンスンが言った通りになったらどうかを考えてしまった。いくらありえない事でも、考えてしまえるのだから暇とは恐ろしい。

 

 三人がこうなってしまったのは生活のマンネリ化が原因であった。

 虚夜宮は天蓋が完成して完成率が既に五割を超えた。もう半分できたのか、まだ半分しかできていないのかは意見が別れるところであろう。

 そんな訳で仕事として三人も虚夜宮の建築工事に駆り出された。当初は暇な時間は強くなれるように修行をしていたが、ある時から全く以て力が身に付くのを感じなくなってしまったのだ。

 

 限界。そんな言葉が三人の頭を掠めたのは当然の結果であった。

 ハリベルに助けられ、その考えに賛同してアジューカスであるのにも関わらず、必要以上に虚を喰わなかったツケがここにきて出てきたのだ。

 例えそれが、遅いか速いかの差でなかったとしても、日常を変わり映えの無いモノにする一因には十分であった。

 尤も、一番のマンネリ化の原因は獣型のアジューカスであるので、建築工事では荷物運びしかできないからであろうが……

 

「まったく、本当に豚になっても知りませんわよ」

 

 スンスンだけはこの空気から逃げようと、廊下に続く扉に這い寄る。ちょうどその時、扉がノックされた。

 

「私だ、今は暇か?」

 

 聞こえた声でノックしたのが敬愛するハリベルだと判れば、丁度良いとスンスンはそのまま扉を開けた。そして、ハリベルの隣にいたアーロニーロを見てあからさまに嫌な顔をする。

 スンスンからすれば、アーロニーロは忌まわしい敵以外の何物でもない。護衛任務があるとか言っていたが、ハリベルに付きまとっているのだから一応は恩人であろうとも敵でいいのだ。

 

「虚夜宮の外に出るぞ」

 

 その敵の言葉で、やる気なくグッタリとしていた二人と一緒に怪訝そうに睨みつけるのであった。




『霊体融合』『斬魄刀消滅』
独自です。あまりハッキリと明言されていない能力なので、幾つか加えられています。
『霊体融合』はメタスタシアが使った場合だと顔が変わったりと結構変化がありましたので、海燕の姿でいられるのはそこで止まっている尚且つ、『喰虚』による能力の発現による影響だと考えました。
『斬魄刀消滅』はあくまでも死神と斬魄刀は運命共同体ではなく、死神が死んだりしても斬魄刀までも消滅したりしません。ですが、アーロニーロが捩花を使うのには捩花を取り込んでおかなければ不自然なので、『斬魄刀消滅』は実は『斬魄刀吸収』だったとしました。
原作での日光に当たったら捩花は消えており、その後で自分の体から捩花を取り出したりしているので、あながち間違いではないと思います。

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