アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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選ばれ

 虚の一斉破面化。それは誰もが力を得る機会であり、今後の運命を決定付けられる重要な儀式であった。

 そしてそれは、既に破面化しているアーロニーロでも―――実験なのか―――例外ではなかった。

 アーロニーロの場合は再破面化ではあるが、やる事はほとんど破面化と変わりはない。

 

 しかし、今度の破面化はこれまでの破面化とはだいぶ違っていた。これまでの破面化であれば、いくら異形の体を持つ虚でも、その身から刀を作りだすという事はなかった。

 死神に合わせてその刀は斬魄刀とされたが、その中身はまったくもって違うモノである。破面の斬魄刀は、虚としての姿や攻撃能力たる力の核を刀に封印したものとなっている。

 人型になるのにはそこまでしなければならないのは、元が人であるといえ、大きく変質してしまったからであろう。

 

 しかし、アーロニーロはその再破面化を失敗した(・・・・)。完全に失敗した訳ではないが、表面上は前とは大差無かった。

 霊圧の濁りが取れ、関節の可動領域が人外から人のレベルになった。それでも顔と左手は変わらず、斬魄刀もアーロニーロから作りだされる事が無かった。

 

 しかし、アーロニーロは他の失敗作と違って帰刃(レスレクシオン)を可能としていた。斬魄刀として体から切り離されることは無かったが、左手は斬魄刀となんら遜色の無い働きが可能であった。

 更に、再破面化でアーロニーロが危惧していた破面化以降に得た能力の喪失も起きなかった。

 身体が若干だが人に近付き、霊圧が強くなって帰刃ができるようになった。再破面化でのアーロニーロの変化は纏めればそんなものであった。

 

――――――

 

「ではこれより、“(エスパーダ)”の発表をする」

 

 “刃”。それはバラガンが選び抜いた部下に対して贈った一種の称号であった。贈られた者の力をバラガンが認めたという証であり、バラガンの下での力関係に多大な影響を及ぼした。

 藍染はそれを元にして、十人の強者にかなりの支配力を与える事にした。虚夜宮内部の宮一つを“刃”の所有物とするのを許し、更には十一以下の数字を持つ者―――通称、『数字持ち(ヌメロス)』―――を正式に部下とする事すら許した。

 

 別に部下云々は禁止されてはいなかったが、普通は支配者からすれば自分以外の者を中心にして集うなど反乱の兆しになるのではないかと危惧する事態だ。ましてや、力によって支配しているのなら尚更である。

 だがしかし、それを許したとなれば反乱など起きないと見越しているか、起きようともどうとでもできる自信があってのものだ。

 

 懐が深いとも取れるが、そう受け取るのは藍染を盲信する中の極一部にすぎない。いくら尊敬や憧れがあっても、誰もが藍染の力に従うのが根底に鎮座しているのだ。

 

第1刃(プリメーラ・エスパーダ)、バラガン・ルイゼンバーン」

 

 名を呼ばれて、バラガンが無言で前に進み出る。その姿は髑髏大帝と言いたくなる骸骨から、老人のものと化していた。顔にある傷は歴戦の将軍を思わせ、仮面の名残りは王者の風格を損なっていないことを表すように王冠の形をしている。

 

 バラガンの名を知らぬ者などここにはおらず、栄えある第1刃の座に就くのは当然だと誰もが納得した。

 

「司る死は、傲慢」

 

 “刃”には藍染の戯れなのか、それぞれが相応しいであろう人が死に至る要因が称号のように贈られる事となっている。

 バラガンが受け取ったのは傲慢。それは、藍染に元来の座より引き摺り下ろされても態度を一切改めずにいることを指すのか。それとも、老い限定とはいえ時間と言う絶対なるモノを能力として使うことに対することなのか。

 藍染が戯れであろうとも与えた称号の意味は誰にも解らない。

 

 

第2刃(セグンダ・エスパーダ)、ザエルアポロ・グランツ」

 

 ピンク色の髪に、仮面の名残りが眼鏡に酷似した破面が前に進み出る。その雰囲気は知的なもので、強者が成る“刃”にはやや場違いなような気がしなくもない。

 しかし、多くの者は知っていた。バラガンの部下に、ザエルアポロというヴァストローデがいると……。

 一度戦いだせばバラガンでも止められず、敵は必ず塵芥にするという噂程度なら誰もが耳にした事がある有名な話である。他にも、殴り合いならバラガンより上であるとか、小指だけでアジューカス10体を塵芥にしたなどの真偽の怪しい話も囁かれている。

 

 噂の真偽はともかく、ヴァストローデであったという事実があれば、“刃”の第2の座に就くのに異議を申し立てる者などこの場にはいなかった。

 

「司る死は、怠惰」

 

 続けて告げられた司る死には、首を傾げる者と納得の顔をする者に綺麗に別れた。

 

 ザエルアポロ・グランツは戦わない。バラガンの部下であったのなら、これは知っている事であった。

 あまりにもザエルアポロが強すぎるせいで、本人がそうと望んでなくても敵を塵芥にしてしまう。そんな力とは裏腹に科学者であるザエルアポロは、実験体として敵を捕らえたがる為に必ず部下に戦わせた。

 

 戦う力はあっても戦わない。そうやってきた事と、戦いを求められる“刃”においてもそうであれば、それは間違い無く怠惰である。

 このくらいは、バラガンの部下であった大半の者には理解ができた。

 

第3刃(トレス・エスパーダ)、ミッチェル・ミラルール。司る死は、色欲」

 

「は~い!」

 

 無言で前に進み出た二人と違い、三人目は元気に返事をして進み出る。

 その声の主を見ると同時に、ほとんどの者がなんでこいつがと怒りにも似た感情を持った。

 

 第3刃ミッチェル・ミラルールが女破面であったからだ。くせ毛なのか短いのにクルクルと渦を巻いている白髪、破面の基本服装の上は半袖でへそ出し、下は袴ではなくヒラヒラのミニスカート。

 仮面の名残りは右耳を保護するように覆っている。そこから視線をズラせばパッチリと目は開いており、大きな瞳は鮮血のような紅い色をしており、目鼻立ちもすっきりとしていて女よりの中性的綺麗さを持っていた。

 

 女より男の方が強いというのは虚の中では常識である。数少ないヴァストローデでバラガンと対立していたハリベルのような存在は例外だ。

 仮に、選ばれたのがハリベルであったのなら、バラガンとザエルアポロと同様に皆が皆受け入れたであろう。

 

 “刃”入りが確実な有名どころなどバラガン、ザエルアポロ、ハリベルくらいである。「もしかしたら自分が選ばれるかもしれない」と淡いというのには薄すぎる希望を持っていたのもあって、無名の破面からの嫉妬や怒りはより強かった。

 

 しかし、そんな視線などミッチェルは意に介さずに前に進み出て、進行役である東仙も破面の様子など気にせずに己の今の仕事を淡々と進める。

 

 

第4刃(クアトロ・エスパーダ)、ヴァスティダ・ボママス。司る死は、暴食」

 

 次の破面はバラガンとザエルアポロに倣って無言で進み出る。

 大男と言われるような図体の大きさのヴァスティダであったが、バラガンのように鍛え抜かれた大きさではなく、人型の風船を膨らませたような大きさであった。そして、仮面のほとんどが残っており、その形状は亀のように見えなくも無く、顔は眉毛の少し上から上唇までしか露出していない。

 

 明らかに、前の三名と比べるとヴァスティダは虚に近かった。人型から大きく外れている訳ではないが、第4の数字で外れ始めたのなら下に行けば自分にも可能性があるのではないかとどの破面も錯覚する。

 

第8刃(オクターバ・エスパーダ)、ロエロハ・ハロエロ。司る死は、嫉妬」

 

 事前に、将来的には10体の破面を選出する“刃”だが、今回はその権力の象徴たる宮が7つまでしか完成してないとの理由で7体しか選出しないと通達されていたので数字が跳んだことには誰も何の反応も示さなかった。だが、前に進み出た破面を見て目を見開いた者は大勢いた。

 

 人型であるのはなんとか判る。ロエロハという破面について初見で判るのはそれだけであった。

 その姿は陽炎のように揺らめき、誰の目にもハッキリとその細部を見る事は出来ない。常に不安定に揺れるその姿は幻かナニカのように思えるが、肌で感じる霊圧から確かにそこに存在するのは確実。

 だというのに、そこにはロエロハという個人がいるようには感じられない。

 

 個性的な無個性とでも言い表そうか。誰とも間違えなさそうであるが、ほんの少しでも変われば誰かと勘違いしてしまいそうな存在感を、ロエロハは持っていた。

 

第9刃(ヌベーノ・エスパーダ)、アーロニーロ・アルルエリ。司る死は、強欲」

 

 呼ばれたアーロニーロも無言で前に出る。ヴァスティダとロエロハよりは人に近く見えるが、それは仮面と手袋があってのものだ。

 虚らしさを残す二人が続いた後とあって、肌を一切露出しない格好であるアーロニーロに好奇の視線が仮面に集中する。

 

 仮面がそのまま残っている破面など存在しない。それならば、アーロニーロが身に付けている仮面は自前の物ではなく、衣類の一つとして着けているのは誰の目にも明らか。

 ならばその仮面の下がどうなっているかを邪推するのも当然だ。ロエロハが霞を纏った人型とあって、それの一つ下のアーロニーロはもっと人から外れていると誰もが考える。

 

 しかし、その仮面を剥がして面を拝みたくとも、“刃”に選ばれてしまった以上は下手な事をすれば自分の首を絞める結果になる。どんな風貌であろうとも、“刃”に選ばれなかったその身では、邪推するのが限度であった。

 

第10刃(ディエス・エスパーダ)、ヤミー・リヤルゴ。司る死は、憤怒」

 

 前に進み出たのはヴァスティダのように大男であった。しかし、ヴァスティダと違ってその肉体は筋肉で覆われた鍛えられたものであった。

 他にも仮面の名残りが下顎が露出しているかのようにあり、頭には人間には見られない―――そこに何かを埋め込んでいるのではないかと思える―――突起がある。

 虚らしさはあると言えばあるが、ロエロハと比べると言うほどではないと片づけられる範囲にすぎない。数が下がればそれだけ人から離れる、という可能性を薄めるのには十分であった。

 

 自分が“刃”に入れるかどうかを気にしていた破面は途端に興味を無くす。最後の“刃”が呼ばれた以上、もう自分がこの場で呼ばれることが無くなったからだ。

 ともなれば、今この場でしておくのは“刃”の顔を憶えておくくらいだ。うっかり無礼な態度を取ってしまえば、その力で潰されるのは目に見えている。

 

 幸いにも破面は顔、仮面の名残り、体格、霊圧と見分ける要因はかなり多い。今の所は二つ以上の要因が重なる破面はおらず、その多種多様性は虚の頃より変わっていない。

 ここで、多くの破面がヤミーの頭に視線が注がれた。それは、“刃”の中でヤミーが一番特徴的な頭をしていたからだ。

 髪型で一番近いのはスキンヘッドであろう。しかし、もみあげから顎の仮面の名残りまで―――髭とも言えそうではあるが―――髪は生えており、後頭部にも500円玉くらいの円形から長髪が生えている。

 おそらくは生まれ持ってその髪型であろうが、どうしてそんな髪型なのかと疑問符を浮かべる。もみあげはいい、しかし後頭部の長髪はなんだ。無くてもさして変わりそうにない長髪を見て、ほとんどの破面がそう思ったのであった。




ミッチェル・ミラルール、ヴァスティダ・ボママス、ロエロハ・ハロエロ
オリ破面。第一期“刃”が7つの大罪ということで第一期とされている四人加えてオリ破面をいれました。
それぞれ解放もする予定。

バラガンが傲慢
独自。合う7つの大罪がこれ一択でした。嫉妬や暴食なんて柄ではありませんし、怠惰や色欲なんて以ての外。

ザエルアポロが怠惰
独自。3を女破面にしたく、それに色欲を当て嵌めて残ったのが怠惰だったからこうなった。
しかし、本文に書いてあるように自分で戦わないその姿勢を怠惰としました。原作設定ではなく小説設定ですが、ザエルアポロはそういうこともやってましたから。まあ、原作でも飽きたら従属官に戦わせるなどしてましたけど。

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