異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
11. 練習
時は体育祭実行委員が決まった日(6.兆し)まで遡る…。
朝の6時。目覚ましの音で、あたし、沢渡ひなの一日は始まる。でも正直、今日は始まってほしくなかった。いつもなら彼と登校することを心の底から楽しみにしているのに、今日は彼に会うのが怖い。
そう思いながらも顔を洗ってシャワーを浴び、髪を乾かし、ご飯を食べて歯を磨き、制服に着替えて家を出た。彼とはいつもマンションの一階のロビーで待ち合わせているから、今日もそこで待つことにした。でも、彼は来るだろうか。あたしが会うのを怖がっているように、彼も私に会うのは気まずいかもしれない。
「あー眠い…」
エレベーターの方から聞こえた声にあたしの心臓は跳ね上がる。彼だ。
「お、おはよう…」
勇気を振り絞りあいさつする。
あたしがいたことに驚いたのか、普段あまり感情を表さない彼が珍しく驚いた表情をしていた。
「おはよ」
そう言って彼、望月武哉君はロビーから出ていく。
あたしは急いで彼の後を追った。
望月君と初めて会ったのは入学式の日。欠席した彼の様子を見てくるように担任の藤堂先生に言われたのがきっかけだった。彼はなんと入学式を忘れていたらしく、あたしは大笑いしてしまった。そして、中雲区に引っ越してきたばかりで周辺の地理が解らない彼と一緒に登校することになった。
当然周囲の人たちにあらぬ噂や冷やかしをうけて、あたしはものすごく恥ずかしかった。でも、望月君は全く動じていなかった。それを見て、あたしは彼に興味を持った。
そして、マンションの部屋が隣という理由であたしたちは下校も一緒だった。
友人の高松瑠璃ちゃんとお喋りしたことや、図書館で見つけた本のことを話をしたり、一緒にスーパーで買い物して荷物を持ってもらったりもした。望月君は笑いこそしなかったが、あたしが話しやすいように相槌を打ってくれた。あたしはいつしかそんな彼に好意を抱いていた。
でも、こないだの土曜日。彼が友人の赤坂しおりちゃんと飲食店にいるのを見てしまった。それが、あたしが彼に会うのが怖いと思った理由だった。
そう思いながら歩いていると、望月君が口を開いた。
「土曜のことだが、俺としおりはお前の思っているような関係じゃない。席は外していたが亜季斗もいたしな」
それは土曜のことの説明だった。あたしは安堵した。良かった。
でも、なぜかあたしの心は完全に晴れてはいなかった。
そして、その日の一時間目、クラスでの話し合いの結果、あたしと望月君は体育祭実行委員会に所属することになった。
その日の3時間目は体育だった。
「あー、今日から体育祭のための練習を始める。最初に説明しておくが、体育祭では全校で優秀な成績を収めた者には学校側の判断で特別点が与えられる。また、体育祭はクラス対抗で行われる。上位三つのクラスの中から優秀な成績を収めた者を一人ずつ選び、その生徒にも特別点が与えられる。というわけでしっかり練習して臨んでくれ。以上!」
体育の武藤先生の説明の後、練習が始まった。
練習と言っても、実行委員会が始まっていない今の状況では種目は決まっていない。
なので、今日はおおまかな体力測定をすることになっている。
「次の組、準備しろー」
まずは百メートル走。体育祭では定番の競技。
笛が鳴り、あたしたちの組がスタートした。
自慢ではないが、あたしは成績が良いほうだ。主要五科目はどれも面白いので、勉強は苦じゃないし、美術や音楽も練習すれば成果が出るから成績評価は高かった。
ただ、体育は別だった。生まれつき運動音痴なあたしは、どれだけ練習しても成果が出ない。だから体育は苦手意識が強かった。
息を切らしながら、あたしはゴールした。タイムは19秒46。かなり遅いほうだ。
次の組を見てみると、瑠璃ちゃんの姿があった。瑠璃ちゃんは小学校のときから陸上をやっているため、凄く足が速い。あたしとは雲泥の差だ。
しばらくして、ゴールした瑠璃ちゃんがこっちへ歩いてきた。
「お疲れ、瑠璃ちゃん。やっぱり速いね!」
「いやーでも自己ベスト更新はできなかったよ。残念残念♪」
走り終わった後でこんなに元気に喋れるのは、やっぱり凄いと思う。
あたしたちはグラウンドの端のベンチに座った。ふと、長距離走の練習をしている男子のほうを見ると、走っている望月君の姿があった。見たところ、彼は速くも遅くもない。平均的な走りだと思う。平均でもあたしよりずっと上なんだよなあ…。
「ひなってば、そんなにもっちーを見つめちゃって、相変わらず妬けちゃうなあ♪」
「るるる瑠璃ちゃん!?ち、違うよ?別に望月君を見てたわけじゃなくて…」
長い付き合いの瑠璃ちゃんにはあたしの気持ちは筒抜けで、昔からこんな風にからかわれていた。でも、不思議とあたしは嫌じゃなかった。
「動揺しちゃって、可愛いなあ♪」
「も、もう!からかわないでよ!」
ところが瑠璃ちゃんは急に真剣な表情になった。
「土曜日のこと、どうだった?」
あたしはまた、モヤっとするのを感じた。でも、相談に乗ってくれた瑠璃ちゃんには事実を伝えるべきだと思い、
「あたしの勘違いだったみたい」
と答えた。瑠璃ちゃんは一瞬間を開けた後、
「そう。ならよかったじゃん♪」
と言ってくれた。
「次―、女子は握力測定だぞー。並べー。」
「行こっか、瑠璃ちゃん」
体力測定の結果は散々だった。もう少し頑張ろう…。
数日後。今日は五時間目に体育がある。お昼ご飯の後に体育なんて地獄だなあ…。
一時間目は藤堂先生の現代国語。藤堂先生って凄くいい加減に見えるけど授業は凄く分かりやすいんだよなあ。そういうところがあってなのか、藤堂先生は女子に人気がある。
「えー、つまりこの文章では主人公の葛藤が強く強調されており…って望月ィ!寝てんじゃねえぞコノヤロー!」
「ん…ああ、すみません。ちょっとごんぎつねの世界に行ってました」
「感動的な夢だなァおい!」
別に現国だけじゃなく、望月君は授業中ぼーっとしたり寝てたりすることが多い。それを見ながら授業を受けるのがあたしの楽しみでもある。ただ、藤堂先生の授業は寝ていると必殺のサンダルが飛んでくることがあるともっぱらの噂で寝る人は望月君しかいない。
本当に肝が据わってるなあ…。
「キャー!また藤堂先生と望月君の熱い絡みが!やっぱり『たけ×ゆた』は至高ね!」
近くの子がそんなことを言っていた。確かに絡んでるけど、タケユタって何だろう?
「んじゃ、今日の授業はここまで。しっかり復習しとけよ~。あと、こないだの小テストの順位をクラスごとに掲示板に貼っておいた。つっても名前が出てるのは上位10人だけだけどな。」
「起立。礼」
授業が終わると瑠璃ちゃんが私の方に来た。
「ひな!テストの結果見に行こう!」
藤堂先生の授業は早めに終わることが多いので、時間はかなりある。あたしは見に行くことにした。
「やっぱりひなが一位かー!あたしは六位だったよー。って、ひな?どしたの?」
あたしが驚いたのは二位の欄だった。
二位 望月武哉 92点
「武哉あああああ!どういうことだ!なぜ授業で寝てばかりいるお前がこんなに高得点なのだあああああ!」
大きな声の主は城之内亜季斗君。うちのクラスの委員長で望月君とはマンガやアニメの趣味が合うらしく。仲が良い。
「いや、うるせえから。あと、肩ゆすんな。いい加減にしろ」
仲…良いよね?
「別に…小説を読むことが多いから国語は比較的得意ってだけだ。」
それにしたって授業を聞いていないと解けないような問題も何個かあったはず。望月君って頭いいのかな? でも、こないだの数学の小テストの掲示には名前が無かったような…。
本人の言うように国語が得意ってだけなのかな? 今度、塾に誘ってみようかな?
そんなことを考えていたら休み時間も残り少なくなっていた。
「そろそろ戻ろうか」
「そうだね」
掲示板から立ち去るとき、掲示板を凝視している人がいるのが目に入った。
確かD組の渋谷さんと泉君だっけ。何をそんなに見ているんだろう?
そして五時間目。今日の体育は男女混合二人三脚の練習だ。まだ種目は決定していないけど、この競技はなぜか毎年行われるらしい。
更衣室から出てグラウンドへ向かおうとすると、ちょうど望月君も更衣室から出てくるところだった。中では池内君が大きな声でなにか喋っているようだった。
「望月君!」
「ひなか。どうかしたか?」
望月君は相変わらず表情一つ変えずにこちらを向いた。
「グラウンドまで一緒にいこ。」
「わかった」
更衣室からグラウンドまでは少し遠い。なのであたしは望月君に話しかけることにした。
「体育祭の練習、本格的になってきたね。望月君は運動好き?」
「別に、普通だ。特に身体能力が高いわけじゃないからな。そういうひなは運動に苦手意識があるみたいだな」
その言葉にあたしはおどろいた。
「な、なんでわかったの!?」
「強いて言うなら表情だな。練習が本格的になってきたって言ったとき、嫌そうな顔してたからな」
「嘘!そんなに顔に出てた?」
「…さあな」
望月君は答えたくなさそうだった。なにか変なこと言ったかな?
グラウンドに武藤先生の姿はなく、なぜか藤堂先生がいた。
「あー、体育の武藤先生がぎっくり腰になったため、不本意ながら今日の練習は俺が監督する。まあ適当にやっといてくれ」
武藤先生大丈夫かな? と思っているのはあたしだけのようで他の人たちはすでに準備運動を始めていた。
まずはペアを組むことになった。
「「「「「さささ沢渡さん!俺と組んでください!!」」」」」
なぜかあたしの周りに男子が押し寄せてきた。ど、どうしよう。
「あんたたち、やめなさいよ。ひなが困ってんじゃん」
しおりちゃんが助け舟を出してくれた。
「なんだよ赤坂!邪魔すんなよ!」
「そもそも男子の人数のほうが多いんだから男子同士で組みなさいよ。それともひなじゃないと駄目な理由でもあるの?」
「う……」
男子たちは言葉に詰まり、去っていった。
「ありがとうしおりちゃん」
「別にいいよ。あ、でもこれだとひな余っちゃうね。私はもう決まってるし…」
ペア決めで余ることって本当にあるんだ…。
それよりもどうしようかな。このままやらないわけにもいかないし。
「あ!望月!あんたも余ってるなら、ひなと組みなさいよ!」
「ふぇ!?」
しおりちゃんの予想外の発言に変な声が出てしまった。
「いやいやいやいや!いいよ!あたし足引っ張っちゃうし!」
「別に構わないぞ。どのみち組む相手いないし、やらないってわけにもいかないだろ」
望月君と二人三脚!?足を結ぶの!?ドどどどっどどどどうしよう!過去最高に緊張する!
「じゃあ決まりね!二人とも頑張ってねー」
しおりちゃんはそう言うと去っていってしまった。
「じゃあ足結ぶぞ」
「う…うん…」
望月君冷静すぎ! あたしはもうすでに走り終わったくらい疲弊してるよ!
「よし、結べた。じゃあ歩いてみるか」
肩を組む。ち、近い!望月君から洗剤のいいにおいがする…。
ってことはあたしのにおいも向こうに伝わってるってことだよね!?スプレーしといてよかった…。
「左足から出してくれ。いくぞ?」
「うん…」
「いち、に。いち、に…」
なんとか歩けるけど、これ走っても大丈夫かな?
「次、沢渡と望月のペア走れー」
藤堂先生は本当にめんどくさそうだ。
笛が鳴ってスタートした。
な、なんとか走れてる! やった!なるほど、こうやって走るんだ…。
隣を見ると望月君と目があった。それに驚いたせいかあたしはバランスを崩した。やばい、転ぶ!
…と思った。完全に転ぶと思っていたのに、あたしたちは走り続けていた。なんで? 望月君が何かしたようには見えなかったけど・・・
ゴールした後、足のひもをほどいているとき、藤堂先生がこちらを、というよりは望月君のほうを見ていた。なんだろう?
そうして、体育祭の準備をしながら日々は過ぎていく。
次回予告
武哉「体育祭準備編は終わったと言ったな。あれは嘘だ。」
ひな「嘘予告なんて、世界の破壊者しかやらないと思ってたのに…。しかもなんであたし目線なの?」
武哉「作者いわくリフレッシュらしい。しばらく主役は任せたぞ、ひな」
ひな「理由が適当すぎるよ…。でもわかったよ。あたし頑張る!」
武哉「次回『依頼(舞台裏)』」
ひな「お楽しみに」