異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
サッポロファクトリーは札幌市中央区にある複合商業施設で、大きな敷地内に一条館、フロンティア館、道路を挟んで2条館、アトリウム、3条館、レンガ館、西館がある。俺も何回か足を運んだことはあったが、この世界で訪れたことは無かった。
日曜日、時刻は11時20分。俺は約束の場所、レンガ館の敷地にある大きな煙突のある建物に向かっていた。
10分前だし、相手はまだ来てないだろうな。はい、到着っと。
「遅かったわね」
あれれ―、おっかしいぞー? 余裕を持ってきたはずなのに、既に待ち合わせ場所には彼女の姿が。
「お前が早いの間違いじゃないのか?渋谷」
「遅れたら何されるか分からないからよ」
待ち合わせ相手、渋谷ミサはニコリともしない。ものすごく嫌そうな表情で俺を見ている。
何故、渋谷が来たかというと、話は昨日の夜まで遡る。
しおりから体育祭の時にハッキングした泉の携帯のデータから、渋谷の電話番号を送ってもらい、その番号に掛ける。
『もしもし』
「よう、久しぶりだな」
『……誰?』
そういえば俺の携帯から渋谷に連絡するのは初めてだったな。
「俺だ、望月だ」
『……は?ちょっと、なんで私の携帯番号知ってるの?ストーカー?』
「渋谷、明日午後11時半にサッポロファクトリーに来い。」
『いや、意味分からないんだけど…』
「ああすまん。『psかあにばる』ってイベントに一緒に参加してほしいんだ」
『そういうことじゃ無くて、てか行かないわよ。テスト勉強するんだから』
学年2位でもやはりテスト勉強は必要なんだな。しかし、断られたか。まあ、当然だよな。じゃあ、今からあなたを脅迫します。
「断ってもいいが、それなら監視カメラの映像を拡散するぞ」
『はあ!?あの映像は泉の前で消したでしょ!?体育祭が終わったら消すって約束したのはあんたじゃない!』
「俺は、パソコンのデータを消すとは言ったが、原本を消すとは言って無いぞ」
『……清々しいほどの屁理屈。でも、確かに……』
「さあどうする? A、ファクトリーに来る。 B,断って映像を拡散される。賢いお前なら、どっちが賢明か分かるよな?」
という訳で、俺は渋谷の脅迫に成功した。
「何ぼーっとしてんのよ、まだイベントまで時間あるけど、どうすんの?」
「ああ、すまん。私服のお前が新鮮だったんでな」
もちろんそんなことは思って無い。むしろ、言った後で渋谷の私服に眼をむけた。
ゆるっとしたデニムに、ゆるっとしたシャツをフロントだけインしている。客観的に分析してみたが、これがオシャレなのかは俺には分からない。
「じろじろ見ないで、ストーカー」
冤罪だが、そう言われても仕方ないな。普通、ハッキングしたデータから電話番号を漁られたなんて思わないだろうし。
「ちょっと、なんか言いなさいよ。帰るわよ?」
「とりあえず、昼飯だな。イベントは12時過ぎからスタートだし、ゆっくり食えそうだ」
そういうわけで、フロンティア館のフードコートへ向かった。適当にケンタッキーでチキンを買い、席に着く。
「お前は何にすんの?」
「こんなところでしかもあんたなんかと食事する気になんてならないわ」
さいで。映像を隠し持っていたことを相当恨まれてるみたいだな。まあ、向こうが食べなくてもいいと言っているし、お茶で水分は補給してるみたいだしいいか。
「体育祭」
「ん?」
二つ目のチキンに手を伸ばしたとき、渋谷が急に話しかけてきた。
「あんたが足速いとは思って無かった」
二人三脚のことか。この分だと大分噂になってるんだろうな。
「あれはちょっとした裏技だ。俺の実力じゃない」
「そのちょっとした裏技が、あんたの実力なんじゃないの?」
しまった。チキンが美味すぎてついいらんことを言ってしまった。
「それに、特別点まで獲得してるし。興味無かったんじゃないの?」
「学校側の判断なんだから、俺の意思は関係ないだろ。チキンをゆっくり味わいたいからその話は後にしてくれ」
『後』なんてのは訪れないだろうがな。
その後、チキンを食べ終わり会場へ向かうことになった。
会場入り口には列が二つできていた。左の列はかなり混んでおり、右の列は比較的空いている。俺は渋谷を連れ、右の列に並んだ
「ねえ、なんで列が二つあるの?」
「見てわかると思うが、左は一人、同性のペア、もしくは3人以上の団体用だ」
と、事前にプリントアウトした資料には書いてある。
「え?じゃあこの列って……」
「カップル用だ」
渋谷の表情が変化する。例えるならさっきまでは昆虫を潰してしまった時のような不快な顔、今は、ハ虫類を念入りに調理されて食卓に出された時のような不快な顔だ。どっちも体験したことはないが、多分そんな感じだ。
「帰っていい?」
「カメラ」
「ぐっ……。わざわざこっちに並んだ理由は?」
脅しの力ってすげー。ちょっと楽しいなこれ。
「男女のペアで入場した場合、会場限定のスペシャルアイテムが貰える。そのためだ」
「なるほど……。それなら沢渡ひなとくればよかったじゃない。それともあいつへのプレゼントとか?」
「ひなは今日、用事があるって言っててな。てか、どうしてあいつにプレゼントするって選択肢が出てくるんだ」
「だって、あんたら付き合ってるんでしょ?」
え、今なんて?
いや、決してどこぞの難聴主人公のように聞こえなかった訳ではなく、聞こえた上での疑問だ。
「誰から聞いたが知らんが俺とひなは付き合って無いぞ」
「いや、だって図書館で二人で勉強してたじゃない。体育祭の時、お弁当を食べさせてもらってたって噂もあるし」
やっぱり図書館で感じたのはこいつの視線だったか。てか、体育祭では弁当を分けてもらっただけで食べさせてもらったりはしてないんだが…。
「それ、ひょっとして……」
「ええ。一年生の間では有名よ」
まじかよ。これはほっとくと学校中に広がりそうだな。誰だよ。そんな噂流したやつ。
「あのな。本当に俺たちは付き合っていない。だれか告白の現場でも見たのか?本人から聞いたのか?不確定な情報に踊らされるとロクなことにならないぞ」
以上。元大学生のありがたいお言葉でした。
「その顔だと本当に違うみたいね…。勝手な憶測で言って悪かったわね。でも、それだと体育祭の時あんたが私の邪魔をした理由が分からないんだけど?」
「それは……」
それは、なんだ? あの時は『友達だから』という理由で動いていた。だが、ひなの前ではそう言えなかったのは事実だ。だからといってひなに恋愛的感情を抱いているのかといえば、それも違う。と思う。そもそも俺が他人にそんな感情を抱く訳がない。深く関われば関わるほど、いつか、失う時の痛みは計り知れないのだから。
「それはともかく、渋谷もそういう話が好きなんだな」
女子ってのはそういう物なのだろう。渋谷も例外では無いってことだな。
「うっさいわね。ほら、列進むよ」
次回予告
武哉「次回予告の時間だ、今回のゲストは……」
渋谷「どうも」
武哉「にしてもまさかここで渋谷の再登場とはな」
渋谷「ほんとにね。自分で言うのもあれだけど完全に使い捨てキャラだと思ってたわ」
武哉「作者の友人が渋谷推しらしいぞ」
渋谷「そんな理由で本編書いて大丈夫なの?」
武哉「まあ、出番がある以上は何らかの意味があるだろう」
渋谷「ならいいけど……。これを読んでる人たちには推しキャラとかいるのかしらね……」
武哉「それじゃあ、次回、『充実』」
渋谷「お楽しみに」