異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
井川たちと別れ、水着を家に置いてから、ひなの通う塾に向かう。今日は塾は無いが、ひなは自習しているそうだ。何とも勤勉なことで。
というわけで、塾まで行けば、あとはひなが取り次いでくれることになっている。
俺たちのマンションから塾までは歩いて10分。距離的にはそう遠くは無いが、いかんせん暑さが重苦だ。そんなこんなで、塾の前にやってきた。
「思ったより大きいな」
てっきり2階建てくらいかと思っていたが、現実はその倍、4階建てである。しかも奥行きもある。夏期講習の料金を見た時はびっくりしたが、なるほどこのでかさなら十分割に合うだろう。ちなみに資金がどこから出ているかというと、ティアが生活用に用意した口座に振り込まれていた。あの駄女神が逐一見ているのか、それとも必要になったら振り込まれるのかは知らんが、まあ使えるものは何でも使ってしまおう。
自動ドアを開け、建物に入ると涼しい風が心地よい。これはクーラーの分で相当金使ってるんだろうな。
「さてと」
ひなが取り次いでくれるのはいいが、見渡す限り一階にひなはいない。とりあえずLINEを送ってみる。……が、返信は無い。自習に勤しんでいるようだ。
となると、自習室に向かった方がいいな。どこかに案内板は無いだろうか。と思ってうろうろしていると、周りの様子がおかしい。それもそうか、見知らぬ人間が何も言わずにうろうろしているわけだし、多少警戒されてもおかしくない。仕方ない、その辺の人に話しかけて、怪しい人間じゃないと証明しよう。
「あのー、すみません」
「……」
近くの椅子に腰かけていた女子に話しかけてみたが、まさかのスルー。なにこれ、そんなに警戒されてんの?ああでも、近くにいたからって女子に話しかけたのが駄目だったかな。
だが、もう他の人に聞くのも面倒だ。もう一回聞いて駄目だったら、不審がられても歩き回ろう。
「あのーすみません」
「……え?私?」
まさかの最初の問いかけの対象が自分だと思っていなかったパターンだった。俺、そんなに会話下手か?まあ、上手いとは思わないけど。
「……何?」
「ああ、すみません。自習室の場所を教えてほしいんですけど」
「自習室ね。わかった。私もそろそろ行こうと思ってたから、連れて行ってあげる」
なんだかすごく上からな感じだが、お願いしているのはこっちだし、文句は言えないな。
エレベーターに乗り、彼女は3階のボタンを押す。
3階に到着すると、そこにはいくつか教室があった。一番奥の教室のプレートに自習室と書いてある。
「ここが自習室。……そういえば、あなた見かけない顔ね。ここには何の用で?」
「沢渡ひなに用があって来たんですが」
すると彼女は俺から数歩離れ、というか引き、蔑んだ目で俺を見てきた。
「なにあなた。ひょっとしてストーカー?沢渡さんはあなたみたいなボンクラには興味無いとおもうけど」
初対面のあいてにそんなにぼろくそに言えるなんて、尊敬しちゃうなー(棒)
「いや、ストーカーじゃなくて。ひなの友人の望月って言います」
「本当に?」
いや、俺どんだけ不審なんだよ。泣いちゃうよ?名誉棄損だよ?
どうしようかと思っていると、自習室の扉が開く。
「あ、望月君!遅いから探しに行こうかと思ってたところだったよ」
「ああ、心配掛けて悪いな」
なんとかひなに会うことができた。危うくストーカーとして通報されるところだったな。
「なんだ、本当に知り合いだったの」
このアマ、何でまだ俺に警戒と敵意を向けていやがる。
「あ、遠野さん、こんにちは」
「……ええ、こんにちは」
どうやらこの遠野とかいう奴はひなの知り合いだったらしい。それなら俺が来るって話はしなかったのか?しないだろうな。
「望月君を連れてきてくれたんだね、ありがとー」
「あやうく通報されるところだったけどな」
ひなは頭上に?を浮かべているが、まあいいや。誰にだって間違うことくらいあるさ。ちゃんと謝ってくれればそれで解決だ。
「それじゃあ、沢渡さん。また今度」
と思ったが遠野は謝罪どころが俺に対し何も言わずに去っていった。性格悪いうえに無愛想とはどこか親近感を……憶えたくない。
***
ひなと一緒に書類を提出し、俺は帰ろうとしたが、ひなが休憩するそうなのでお礼ということでコーヒーを奢ってやることにした。
「えーと、これか」
自販機でひなの好きなコーヒー(ブラック)と自分のコーヒー(微糖)を買ってひなのいるロビーに向かう。ひなはというと参考書を読んでいるようだ。休憩とは一体。
後ろから近づきひなの頬にコーヒー缶を当てる。
「ふぇ!?な、なに?」
はい、『ふぇ』頂きました。
「なんだ、望月君かー。びっくりさせないでよ」
「ああ、すまんすまん。それより、休憩するんじゃなかったのか?参考書とは一端お別れしようぜ」
ひなにコーヒーを渡し、隣に座る。
「前にも似たようなやり取りしたよね」
「そうだったか?」
「ほら、体育祭の準備の時。コンピューター室で」
そういえばそんなこともあったな。あの時は結局あんまり力になれなかったんだっけか、しおりがいなかったらいろんな意味で体育祭は詰んでたな。そりゃあキーホルダーの一つや二つですむ話でもないわな。
「さっきの遠野ってやつは、別のクラスのやつか?」
「ううん。遠野さんは別の学校の人だよ。その学校では学年一位なの」
それは凄い。ひょっとしてこの塾は相当レベルが高いんじゃなかろうか。俺、ついていけるかな……。
「でも、遠野さんってどことなく望月君に似てるような気がするんだよね」
え、なにそれ。性格が悪くて無愛想ってこと?
「なんだかすごく落ち着いてて、大人びてる所がね」
よかった。違った。まあ、俺に関しては元が大学生だからな。多少はそう見えるのかもしれない。
「そういえば、週末はプールだったな」
何の気なしにそんな事を言ってみたところ、ひなはものすごく驚いていた。
「ふぇ!?ぷ、プール!?望月君も来るの?」
「あ、ああ。瑠璃に誘われたんだけど……聞いてなかったのか?」
ひなは首を大きく縦に振る。
「ど、どうしよう。それならもう少し準備したかったのに……」
準備とは何か知らないが、聞かなかったことにしたほうがよさそうだな。
「さて、用も済んだし俺は帰るよ」
「え、あ、うん。わかった。じゃあ、その、また土曜日……」
ひなは小さく手を振る。一応それに応じておく。
さて、帰るか。
高松瑠璃 (たかまつ るり)
1年B組 部活動 陸上部 誕生日 3月1日
学力 A 知性 A 判断力 A- 身体能力 B 協調性 B-
ひなの昔からの友人で、陸上部の眼鏡っ子。武哉とはまた違った鋭い洞察力をもつが、そもそも彼と違って問題に巻き込まれないので武哉以外にはその実力を認知されていない。かなり破天荒な性格だが、ひなに関する話になると真剣そのもの。人にあだ名をつけて呼ぶことが多い。実は結構男子から人気があるが、本人は全く気にしていない模様。