異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

30 / 37
30. 片恋

 

 

 

―視点B――

 

 

昔からずっと一緒だった。昔から彼は変わらない。まっすぐで前向きで、ちょっと暑苦しくて。それでもみんなをひっぱっていく、私の憧れだった。彼の教えてくれたアニメや小説は私の大切な思い出で、彼と一緒に語ったりすることが私の大切な時間だった。

でも、彼は多分、私のような特別な感情じゃないのだろう。彼の優しさはみんなへのもので、私一人が特別な訳じゃない。

そう知ってしまってから、彼に素直な気持ちや言葉をぶつける機会が減った。それでも彼は昔から変わらない態度で私と接してくれる。一人で焦って、一人で悩んで、私って本当にバカなんだなってつくづく思う。でも、仕方ないじゃないか、好きなんだから。だから、今年の夏は頑張るんだって、そう決めてた。

 

 

 

 

 

「決めてたんだけどなああああ……」

 

プールサイドで私、赤坂しおりは座りながらため息をつく。

 

「大体あーちゃんが悪いのよ。ひなにばっかり鼻の下伸ばして……」

 

私だってその気になればひなくらいのポテンシャルが……無いか。

とにもかくにも私はふてくされている。なぜあーちゃんは私を見てくれないのだろうか。いや、厳密に言えば見てくれてはいるんだけど、扱いとしては望月と一緒だ。なんと腹立たしい。

 

「はいはい、悪かったな」

 

急に話しかけられびっくりする。上を見上げるとそこには見慣れた無愛想な顔が。

 

「なによ、私何もしゃべってないわよ。ましてや望月の事なんて」

「いや、明らかに俺の方を呪いがかった目で見てただろ」

 

う。この望月武哉という男は見て聞こえてるんじゃないかってくらい他人の感情に敏感だ。前にあーちゃんの事を好きだと見抜かれた時は本当にびっくりした。でもそれは私の接し方が、望月くらいの奴じゃないと見抜けないくらいにひねくれているということだ。

 

「だいたいあんたがさっさと感想言わないから委員長がひなに見とれてたんじゃない」

「ひどいこじつけだなおい……」

「さっさと感想言えば良かったのに、瑠璃には言ってたじゃない」

「あれは、生存本能だ」

 

何を言っているんだこいつは。まあこいつがおかしいのは今に始まったことじゃないけど。

 

「じゃあ、なんで?」

 

すると望月は空を仰ぎ、頭をかきながら喋る。

 

「なんというか、何も言葉が浮かばなくてな」

 

そういった望月の表情はなんだかいつもと違う。少し、ほんの少しだけど気恥かしそうな表情。へえ。なるほどね。

 

「なんだよ」

「別に~?」

 

本当にバカなんだから。

 

「まあ、私のサポートよろしく頼むわよ」

「……やっぱり覚えてますよね」

 

当たり前だ。

しかしなんだか望月の足元がふらついているような。

 

「あんた具合でも悪いの?」

「いや、実は朝料理に失敗してな。なにも食えてないんだ」

 

へえ、こいつ料理するんだ。まあ両親は海外に出張中で一人暮らしなんだし当然といったら当然か。

 

「確か向こうで軽食販売してたわよ」

「みたいだな。後で買ってくる」

「倒れたりしないでよ?」

 

なんてやり取りをしていると、プールの方から声がする。

 

「おーい、もっちー!しおりん!そんなところで何してんのさ!こっちで遊ぼうよ!」

 

瑠璃がお呼びのようだ。まあ、私も瑠璃よりは大きい……かな。

 

「いきましょ」

「だな」

「案外楽しんでんじゃないの?」

「かもな」

 

 

とりあえず、今できるのはこの時間を楽しむことよね。

 

 

***

 

しばらく遊んでいて、ふと気づいたら望月の姿が無い。

 

「あれ、望月君いないね?」

 

どうやらひなも気付いたようだ。当たりを見渡しても望月の姿はない。

 

「ああ、そういえばさっき後で食べ物買いに行く、みたいな事言ってたから売店いったのかも」

「それじゃあ、もっちーが戻ってくるまでこの辺でまってたほうがいいね。人も多いし」

「そうだな、全く仕方ない奴だ!」

 

というわけで近くのベンチに座る。ひなと瑠璃はお花を摘みに行ってしまったので、あーちゃんと二人になる。

 

「……」

「……」

 

あ、あれ?なんでなにも言葉が出てこないんだろ。いつもなら適当にアニメの話でもするのに。頑張るなんて決心したせいで過剰に意識しちゃってるのかも。な、なにか話題は……。

 

「そ、そうだ、あーちゃん」

「む?なんだしおり」

「私の水着、どうかな……?」

 

な、なんだかすごく大胆な質問しちゃったああああ!どうしよ、絶対ヘンな奴だと思われた!

 

「いや!ち、ちがくて!」

「ん?違うのか?」

「いや、ちがわなくて!」

 

もう支離滅裂だ。何をやっているんだ私は。

 

「そうだな……。かなり機動性重視で遊びやすそうだな!今日は遊びつくそうというしおりの決心がみえるな!」

「そ、そう……」

 

期待してたのと全然違う……。誰よ、幼馴染属性最高とか言ってたキモオタは。

 

「そういえばだな、このあいだ面白いスレを見つけてな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――視点C―――

 

 

「いやー楽しいねひなー」

「そうだねえ、でもこの分だと明日は筋肉痛だよ……」

 

お手洗いから戻る間、瑠璃ちゃんと何気ない会話をする。

 

「お、おいあの子可愛くね?」

「声かけちゃおっかなー」

「辞めとけって、絶対彼氏いるって」

 

 

通り過ぎた大学生らしき男子の集団がそんなことを言っていた。

 

「そうそう、ひなにはもっちーがいるもんね♪」

「も、もう瑠璃ちゃん!こんなところで言わないでよ!」

「あはは、ごめんって」

 

だいたい瑠璃ちゃんが望月君が来るって3カ月くらい前から言ってくれれば、ちゃんと準備したのに……。最近運動不足で体重増えてたし、ああもう。

それに望月君も、せっかく流行の水着着てきたのに何も言ってくれないし。あんなにじっと見てたくせに……。でもあたし別に望月君の彼女じゃないし、普通の反応なのかなあ。

 

「ひなったら、そんなに不機嫌な顔しないの」

「ふぇ!?べ、別にそんな顔して無いよ!」

「大方もっちーが水着にコメントしてくれなかったからでしょ?」

「ふみゅう……」

 

やっぱり瑠璃ちゃんに嘘は通用しないなあ。仕方ない。正直に言ってしまおう。

 

「そうだよ!なにか一言くらい言ってくれても良いじゃん!ガン見してたくせに!これじゃあ見られ損だよ!」

「ひ、ひなー。落ち着いてー。煽ってごめんよー」

 

はっ。ついつい大声出しちゃった。

 

「ごめんね、瑠璃ちゃん」

「いや、いいんだけどさ」

 

 

はあ、この夏休みでもう少し望月君と距離を縮めたいんだけどなあ。今日が終わったら、後は夏期講習くらいしかないよ……。夏期講習でどうしろってのさ。

 

「そういえばさ、今度の花火大会、予定開いてる?」

「え?花火大会?」

「そ、花火大会。4日間あるからそのうちのどこかにみんなで行きたいなって」

「そうだね!行きたい!」

 

 

そっか、花火大会があった!浴衣着たりいろいろおしゃれできるよね。でも、望月君は来てくれるだろうか。「いや、人ごみとかだるいしパスだわ」とか言いそうだなあ。

 

 

「大丈夫。もっちーも来るって絶対!」

「そ、そうかな?」

「そうだよ」

「うん、そうだね。楽しみだなあ」

「じゃあもっちーはひなが誘っといてね」

「うんうん……え?」

 

今あたしに誘えって言った?むむむ無理無理!なんかすごく恥ずかしいし!断られたら超ショックだし!

 

 

「よろしくねー」

「そ、そんなあ」

 

 

 

うう、頑張ろう……。

 

「おうおう可愛いじゃないのおねーちゃん達ぃ!」

 

急に大きな声がしたのでびっくりした。前を見ると筋骨隆々でスキンヘッドの30代くらいのおじさんが立っていた。

 

「さ、行こうひな。みんな待ってるし」

「え?う、うん」

 

どうやら瑠璃ちゃんは完全にスル―するつもりらしい。まあ、なんだか怖いしそれが一番いいかな。瑠璃ちゃんに手を引かれ、別の道から戻ろうとするが、おじさんはしつこくついてくる。

 

「ねえねえ、遊ぼうよー。なんでも買ってあげるからさあ」

「あの、本当に辞めてください」

 

瑠璃ちゃんがすごく冷たい声で拒否する。ものすごく怖い。

 

 

「そんな照れないでさあ」

 

そう言っておじさんは瑠璃ちゃんの腕をつかむ。

 

「ちょっと、本当に辞めてください。あなたみたいな筋肉だるま禿に興味とかないんで」

 

筋肉だるま禿って……。たしかに変なだけどそんなこと言ったら怒るんじゃ……。

 

「な、なんだとこのガキ!ちょっとかわいいからって調子のりやがって!」

 

そう言っておじさんはこぶしを振り上げる。

 

「瑠璃ちゃん!」

 

思わず目をつぶった。

数秒立ったけど、誰の声も聞こえない。勇気を出して目を開けてみると、おじさんのこぶしは他の手で止められている。

 

「困りますよおじさん。ここはみんなのための市民プールっすよ?女の子ナンパしてあまつさえ暴力とかシャレになんないですよ」

 

こぶしを止めているのは、さっき城之内君を助けていた監視員のお兄さんだった。背丈は望月君と同じくらいで、体も細いのにその手はしっかりおじさんを止めている。

 

「なんだてめえ、俺はこの女どもに用があんだよ。引っこんでろ!」

「困るなあ。俺もここであんたを見逃すと最悪バイト代ひかれかねないんすよね」

「知るかああああ!」

 

おじさんが瑠璃ちゃんを掴んでいたほうの手を離し監視員さんに殴りかかる。

が、監視員さんはそれを綺麗に受け流し、そのままおじさんを投げ飛ばす。

ドスっという音とともにおじさんは地面にたたきつけられる。だ、大丈夫かな。

 

「ご心配なく。怪我はしないように投げたからね」

 

あたしの心中を察したのか監視員さんはさわやかに笑いながらそう言う。

数秒しておじさんが立ち上がる。

 

「いてて……て、てめえ。今のは暴力行為だろうが、お前の上司よんでこいや……」

 

さっきより怒ってる……。自分から殴りかかったくせに。

 

「やだなあ。女の子ナンパして暴力振るってそれをひょろい監視員にとめられてそれを告げ口っすか?いい大人が情けない。言っときますけどあなたが悪いのは周りの方々が証明してくれると思いますよ。ねえ?」

 

そう言って監視員さんは近くで見ていた女性集団に問いかける。

 

「そ、そうよ!あんたが先に手を出したんじゃない!」

「正当防衛よ正当防衛!」

「こんなの相手しないといけないなんてお兄さん大変ね」

「よ、よければ連絡先を……」

 

最後の一人は全く関係ないこと言っていた気がするけど、彼女たちは監視員さんの正当性を主張する。す、すごい、これがイケメンの力なんだ……。もしかしたらそれを見越して彼女たちにふったのだろうか。

 

「だそうですよおじさん?」

「くそ!こ、今回は無かったことにしてやる!」

 

そういっておじさんは去っていく。

はあ、良かった~本当に怖かったよ。

 

「瑠璃ちゃん、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ」

 

監視員さんがこちらへくる。瑠璃ちゃんの腕をつかみ真剣に見る。

 

「ふう、怪我はしてないみたいだね。駄目だよお嬢さん、反撃もできないのにあんなの挑発したら。監視員もそんなに数いないから次はだれも助けに来ないかもしれないよ?」

「そうだよ瑠璃ちゃん。本当に心配したんだから」

「ごめんなさい……」

 

珍しく瑠璃ちゃんが沈んでいる。おじさんが怖かったのもあるけど、知らない人に迷惑かけちゃったのを反省しているみたい。

 

「ま、気をつけてね」

 

そう言って監視員さんは去っていく。

 

「とんでもない目にあったね……」

「うん。ごめんねひな。あの監視員さんにも迷惑かけちゃったね」

「もういいよ。それよりしおりちゃんたちのところに戻ろうよ」

 

でも、あの監視員さん……。気のせいかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

――視点B―――

 

「ただいまー」

 

ひなたちが戻ってきた。良かった。このままだとまたおかしなこと言いそうだったし。

なんか瑠璃の表情が暗い気もするけど。

「どうしたの」と声をかけようとしたら、瑠璃はそれを遮るように口を開いた。

 

「もっちー戻ってきてないみたいだね」

「そうなのだよ、まったく、なにをしているんだあいつは?迷子か?」

「あはは……望月君ならありえるかも」

 

あのバカ、こんなに人の多いところで迷子とか、探す方の身にもなりなさいよ。でも、仮に売店にたどりつけてないならあの状態だと倒れかねないわね。

 

「仕方ない。手分けしてさがしましょ」

「そうだね。あ、でもそれだとあたしたちもはぐれちゃうんじゃない?」

「仕方ない。ならば30分くらい探して、再びここで合流しよう。あそこに大きな時計もあるしな!」

 

あーちゃん、流石こういうことは手際がいいなあ。

 

 

 

 

 

あーちゃんの言うとおりに四人で手分けしてプールサイドを探索することにした。私は望月が後で行くと言っていた売店の方を探すことにした。

それにしても当たり前だけど夏休みのプールって人が多いなあ。しかもカップルが多い。

リア充爆発すればいいのに。

 

「はあ、もう空回りしてばっか……」

 

思えば私はなんであーちゃんが好きなんだろう。幼馴染だから?でも、昔から仲いい人なんてたくさんいるし。今だって、仲のいい人は結構いる。その中で私があーちゃんを特別に好きな理由。あ、だめだこれ、永遠に考え続けるやつだ。やめやめ。

 

「あ」

 

なんて思ってたら望月を見つけた、売店の方にいるけど……あのハゲおやじ誰だろ?

てか、なんか怒鳴ってる?望月絡まれてんの?ちょっと、本当に何やってんのよあいつは。

近くまで走る。

 

 

「おい兄ちゃんよお、わざとぶつかったよなあ?なあおい?」

「いや、ぶつかったのはすみませんが、わざとじゃないっすよ。わざとぶつかって俺に得がありますか」

「いや、絶対わざとだ!なぜならお前の顔から反省が見られないからだ!」

「昔から無表情って言われるんすよね」

 

ああ、本当に絡まれてんじゃん。それなのになんであんな落ち着いて返答してんのよ。悟りでも開いてんの?

 

「ちょっと望月、なにしてんのよ」

「しおりか。いやあ腹へって売店行こうと思ったら人ごみに流されて遠回りした挙句売店も大行列でふらふら歩いてたらこの人にぶつかっちゃってな」

 

分かりやすいご説明ありがとうございました。

じゃなくて!どうすんのよこの状況。

 

「なんだねーちゃん。こいつの彼女か?」

「いえそれは絶対にないです」

「ひでえな」

「とりあえず、その、そいつも謝ってるので許してもらえないでしょうか」

 

そういって私も頭を下げる。こういうときはさっさと謝った方が何かと楽だ。

が、ハゲおやじは全く聞き入れずわめきたてる。

 

「ごめんですんだら警察いらないんだよ!それに俺は今いらいらしてんだ!」

 

何よこいつ。ぶつかって怪我したわけでもないくせに。ちょっといらつく。

そこでとどめておけばいいものを私はつい口に出してしまった。

 

「なんですかそれ、あんたが今いらいらしているかどうかなんて関係ないじゃないですか。少しは考えてください。髪と一緒に脳みそも無くなったんですか」

 

しまった。ついついそんなことを。望月の方を見ると「何言ってんだおまえ」と口パクで伝えてくる。

 

「この……どいつもこいつも髪の事言いやがって!これはスキンヘッドなんだよ!もうキレたぜ!このアマ!」

 

最初からキレてたじゃん。というまもなくハゲはこぶしを振り上げる。やば、殴られる!

思わず目を閉じる。

 

……?あれ?

目を開けてみる。

 

「困るなあおじさん。さっき注意したばかりでしょうが。もうこのままおまわりさんよびますからね」

 

はげのこぶしを止めているのはさっきあーちゃんを助けていた監視員だった。

そのまハゲは他の監視員に拘束され、連れて行かれた。

 

「やれやれ、今日のお客さんは気が強いのばっかりだね全く」

 

監視員は私を見てそう言う。

 

「その、本当にすみません!それとありがとうございました!ほら望月、あんたもお礼言いなさいよ!」

「いや、お前が無駄に煽ったからややこしくなったんだろ」

「いいから頭下げる!」

 

望月の頭を無理やり下げる。

 

「いてえ……。はいはいわかったよ。ありがとうございました」

 

望月が首をさすりながら顔を上げる。

 

「いや、そんなにお礼言わなくてもいいですよ……ってあれ?武哉?」

「ん?……ああ、なんだカイか」

 

え?どういうこと?なんで二人とも互いの名前を知ってるの?そしてなんでそんなに親しげなの?

 

「ちょっと望月、どういうことよ?」

「ああすまん。こいつは伊野ヶ浜夏衣(いのがはまかい)。俺の友人だ」

 

伊野ヶ浜と言われた彼は「どうも」といった感じでお辞儀してくる。

 

 

「望月の……友達いいいい!?」

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。