異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

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37. 夏休み終幕

迷子になったしおりが亜季斗とともに戻ってきたことで事態は落ち着き、俺たちはいまだに打ちあがる花火を見ていた。しおりに夏衣はどうしたと聞いたところ、変えてきた答えは「知らない」とのことだったのでラインを送ってみると『急用で帰る』とのことだったのでみんなにはそのとおり伝えておいた。

 

「いやー綺麗だねー。たーまやー♪」

「うん、すごく綺麗。ね?あーちゃん」

「え?お、おうそうだな!」

 

いつの間にかしおりの亜季斗の呼び方が変わっているが、それはつまり二人の仲が修正され、かつ前進した証だろう。本当に螺旋丸習得しちゃったわ。そんな彼らをよそに俺はその場を離れる。

 

 

 

 

そしてやってきたのは今日の待ち合わせ場所だった会場入り口。目的の人物はすぐに見つかった。

 

「よ、面倒な役を任せて悪かったな」

 

「まったくだよ。まさかあんなガチ勝負を挑まれるとは思ってなかったよ」

「そのしゃべり方ももう必要ないぞ」

「そうかい?それじゃあ……ふー。本当に疲れたのう。望月君も人が悪いのじゃ。相手が経験者なら教えてくれてもよかろうに」

 

 

そう答えるのは人深くキャップをかぶり、腹をさする伊野が浜夏衣……に扮した井川真愛だった。

 

 

結論から言うと俺が狸小路で知り合った友人、伊野が浜夏衣なんて人物は最初から存在しない。すべては朝飯前で男装をこなす何でも屋、井川の演じた架空の人物でしかなかった。スポーツ用品店で井川の男装の話を聞いた後、連絡を取り合い、今日までの計画を考えていた。

井川が男装し、しおりと出会い、しおりが亜季斗から夏衣に気持ちを揺らし始め警戒を解き、俺の調べた穴場スポットで二人きりになり襲われ、亜季斗がそこに助けに入ることまですべて俺の思惑通りだった。まあ、亜季斗が井川に一発叩き込んだのは想定外ではあったが。

しおりが轢かれそうになった時も、さっきまで迷子になっていたときも俺は井川と連絡をとり、常に状況を把握していた。亜季斗が穴場の方へ向かったのも俺が促した。じゃなきゃあんなに都合よくことが進むわけがない。

後はしおりが伊野ヶ浜に完全に堕ちてしまうか問題だった訳だが16年越しの初恋がそう簡単に消えてなくなるわけがない。そう確信をもったのは俺が赤坂しおりという人間を理解し始めた証拠だろう。

そしてこのまま井川がラインのアカウントを消し、遠方に引っ越したことにしておけば伊野が浜夏衣の痕跡は完全に消え去る。なにせ架空の人物だからな。

 

「それにしても望月君とはつくづく縁があるのう。まさかうちのお客様になってくれるとは」

「そこに何でも屋がいたからな」

「登山家みたいな言い方じゃな。あ、報酬のほうは忘れておらぬよな?」

 

わかりきってはいたが何でも屋を動かすには報酬が必要だった。はたしてミサや泉はどんな報酬を払ったのやら。

 

「わかってるよ。今度お前の実家に遊びに行けばいいんだろ?本当にそんなことでよかったのか?」

「ああ、それだけでよいぞ」

「絶対何かあるだろ」

「そんなことは……おっと望月君には嘘は効かなかったの」

 

自分で嘘って言っちゃってるけど、まあいいか。どうせろくなことじゃない。それにもう約束してしまったことだ。その時がくるまでになんとかしよう。

 

「それで?なぜ望月君はそんなに人助けに勤しむんじゃ?」

「別に勤しんでるわけじゃない。ひなの時も今回もいつのまにかやらざるを得ない状況に追い込まれていただけだ」

「責任に追われていたと?」

「まあ、そんな感じだ」

 

それだけでは無いのは確かだが、主たる要因はそこにある。誰かに頼まれたから、誰かがやらないと困る人がいるから。それが俺の動く要因なのだ。それにひなに自分を重ねていたなんてことをを井川に話してなんになるんだ。

 

 

「今回も体育祭のときも、結果として物事は良いほうに進んでいるのは一目瞭然じゃが、結果として君は周囲の人間を騙しているのではないかの?」

「褒められたやり方じゃないのは重々承知している。でも、だからといって俺には他に取れる手がなかったのも事実だ」

 

井川はそれを聞いてクスリともせずに

 

「望月君は面白い人じゃがうちは嫌いなタイプじゃな」

 

と言い放った。面白いのに嫌いとは、よくわからないことを言う奴だ。

 

 

 

 

「それじゃあ、俺はそろそろ戻る。もし怪我でもしてたら……俺を恨まないでくれよな?」

「心配せずとも仕事の中での怪我なら文句は言わんよ」

 

その社蓄精神に敬礼。いや、会社勤めではないだろうけどさ。

 

駅の方へ歩いて行く井川が見えなくなったところで、俺は再び歩き出す。そろそろ戻らないと俺まで迷子扱いになる。入口を通り過ぎると、そこにはひなが立っていた。

 

「あ、いたいた。望月君何してたの?探したんだからねー」

「悪い、ちょっと電話してた」

「そっか。じゃあみんな待ってるしいこ?」

 

そう言ってひなは左手を差し出してくる。

 

「そうだな。戻るか」

 

俺はその手を掴む。いつか、ひなの想いにしっかり答えを出せるように、俺自身が変わっていかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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