異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
7. 始動
数日後の放課後。今日から体育祭実行委員の活動が始まるので、俺は会議室に来ていた。中雲高校は一学年4から5クラス程度なので実行委員の総数は大体30人である。まだ会議は始まっていないので室内はざわついている。
「ねえ、望月君」
隣に座っていたひなが話しかけてくる。え、何だろう。こういう時に女子と会話すると大抵、一言二言で終わるのが目に見える……。
「どうして、その……委員を引き受けてくれたの?」
なるほど。すごく自然な質問だな。だが俺の目的を伝えると面倒なことになるのは火を見るよりファイアーなので、とりあえず誤魔化しておこう。
「委員の活動でも特別点が貰えるらしいからな。そのためだ」
まあ、これが一番自然な理由だろう。と思ったが、
「本当に?」
ひなは納得していない様子だった。
「あーその……」
俺がどうしようか迷っているとドアが開いた。入ってきたのは藤堂先生と変わらないくらいの年齢に見える女性だった。
「揃っているようだな。では実行委員会議を始める」
室内が一瞬で静かになった。いや、凍り付いたというべきか。そうさせるほどの圧力をその女性は放っていた。
「私は2年C組の担任の木崎恵里香だ。同時に、この体育祭実行委員の監督役を務める」
木崎先生はそう言うと室内を見回した。目が合ったような気がしたが、たぶん、気のせいだろう。
「が、私はあくまで監督役だ。実行委員長が決まった後は、その生徒の力量に任せる。それがこの体育祭実行委員会の方針だ。」
本当に実力至上主義だな……まあ俺は目的を果たせれば委員長なんてどうでもいいが。
「そしてこの体育祭は一年生にとっては初の大きな行事だ。例年、実力を測るため一年生に委員長、副委員長をやってもらっている。もちろん、特別点も与えられる。特に委員長は他の者より良い待遇になる」
一年生がざわつく。そりゃそうだ。
「では実行委員長をやりたい者はいるか?」
すると一人の女子が手を挙げた。見たことがないので他クラスのやつだな。
「発言を許可しよう」
木崎先生がそう言うとその女子は話し始めた。
「一年D組の井川です。立候補ではないんですが、私はやっぱり実行委員長をやるからには頭の回転もよく、人気のある人がいいと思います。なので、沢渡さんにお願いしたいです」
井川はそう言って席に座った。てか、立候補を募ってるのに推薦とかありなのか。だが、他に手を挙げようとするものはいない。
「沢渡、そう言われているがお前はどうだ?」
見かねた先生がひなに問う。ひなは一瞬、俺のほうを見てから、
「分かりました。やります」
と返事した。
「そ、それじゃあ副委員長を決めたいと思います。立候補はありますか?」
ひなを委員長に据え、会議が本格的にスタートした。木崎先生は宣言通り何も言わず、後ろのほうで笑みを浮かべながら本を読んでいた。ブックカバーがされているが、いやいや……まさかね?
さて、副委員長だったか? 委員長決めのことを考えると立候補は出ないだろうな……。
「僕やります」
と思っていた時期が(以下略)。井川の隣の男子が手を挙げた。おいおい、またそういうことなのか?
「ありがとう!えっと、組と名前をお願いします!」
「一年D組、泉 忠則です。D組では委員長を務めています」
泉と名乗った男子はすらすらと名乗った。見た感じひなを狙っていた池内達とは違う感じがするが……。
「おいおいマジかよ……泉って入学試験で渋谷と僅差で3位だったあの泉かよ……」
「一年トップの沢渡と3位の泉……秀才二人が重役とかもうこれやべえな」
俺の後ろに座っていたおそらく上級生と思われる男子が、そんなことを言っていた。泉にも、その言葉が聞こえたのか、3位と言う言葉にムッとしていた。……なるほど、エリート意識が強いタイプらしいな。
「それじゃあ、泉君に任せてもいいでしょうか?」
拍手が起こる。それはつまり承認ということだろう。
「それじゃあ、次の話に移ります。まずは……」
ひなの進行は見事だった。最初は戸惑っていたが、会議中盤からは迷いなくみんなをまとめていた。亜季斗と同じくらいひなのリーダーシップは自慢してもいいほどだろう。本人は自慢なんてしないだろうが。今日決まったこととしては、各学年の大まかな仕事割、スローガンと種目のアンケート制作が主だろうか。しかし、今日の事は俺にとっては誤算でもあった。ひなが委員長をやる以上、ヒラの委員の俺と関わる時間は減るだろう。そうなると俺の目的である誤解の完全解消は難しくなる。かといって副委員長なんてポストに就くほどの器量も俺には無い。まあ、なんとかするしかないな……。
翌日、五時間目の体育の前に更衣室で着替えていると、
「おーっす望月!」
と聞きなれない声がした。振り向くとそこには見覚えのある生徒が立っていた。確か……、
「山内……じゃなくて池内か。何か用か?」
普通に間違ってしまった。今まで話したこともないし、しょうがない。向こうは俺の名前を覚えてたけど。
「お前今間違えたたな!?全く失礼なやつだなー」
しかし池内は怒っているようには見えない。それどころがなぜかニヤニヤしている。
「昨日はどうだったんだよ?」
「どうって?」
「誤魔化すなよ~沢渡さんと委員会で仲睦まじくしてたって、A組のやつから聞いたぜ?」
何だそれ。昨日は会議中全く発言しなかったんだが。……ああ、会議前に話してたからかな。それにしても男子高校生ってその手の話題ホント好きだよなー。
「別に普通だ。仲睦まじくはしてないぞ」
「ヘー。てかさ、お前って沢渡さんの事どう思ってんだよ?」
気付くと池内の表情からはニヤニヤが消えていた。なるほどこれはつまり牽制か。友好的に接して話しやすくした後で俺の気持ちを確認ってわけか。
「普通に友達だな。それ以上でもそれ以下でもない」
まあ、正直に言っておこう。
「ホントか?」
池内は真顔で念を押してきた。
「ああ」
「ほっ。そうか!それはそれは!いやー変なこと聞いて悪かったな!お礼に何か情報やるよ。何か言ってみ?俺これでも情報通なんだぜ?」
それは知らなかった。というか池内を知らなかった。まあ適当になんか聞けば満足してくれるだろう。
「D組の井川って知ってるか?」
「え?誰それ?」
おい、情報通じゃねーのかよ。
「じゃあ泉って知ってるか?」
「ああ泉なら知ってるぜ! D組の委員長で入試成績3位のあのイケメンだろ?なんだよ、恋敵か?」
その情報全部知ってるんだけど……。
と思っていると思わぬほうから声がした。
「泉だろ?アイツ、うちの部でもうレギュラー取りやがってよ!ほんとムカつくぜ!」
声の主は委員決めの時に池内と一緒に発言していた……確か……野球部期待の新人とか言ってたな。
「マジかよ!なんだよ、頭も良くてイケメンでその上スポーツも出来るって!本当にむかつくな!」
池内は激しく怒りを募らせているようだった。
……文武両道とはすげーな泉。俺が実際に見た印象も、まさにエリートって感じだったし、ああいうやつがモテるんだろうなぁ。……ってかそんな奴なら真っ先に実行委員長に立候補しそうなものだが。まぁ、どうやらひなは同学年の界隈では成績優秀で有名らしいし、泉もひなの顔を立てたのかもしれんな。彼にも色々な事情があるのだろう。
「そろそろ体育始まるぞー」
そう呼ばれて俺は更衣室を出た。
次回予告
木崎「いよいよ始まった体育祭準備。はたして武哉は目的を達成できるのか?ひなは委員長をやり遂げられるのか?そんな中、とある出来ごとによって不穏な空気が流れ始める。
はたして体育祭はどうなるのだろうか。次回『異変』。お楽しみに」
武哉「さて、次回予告だな……ってあれ?なんでもう終わってんの?どういうことだよ!責任者出てこい!」
木崎「言い忘れていたが私はこうみえてもナレーション有段者だ」