異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
翌日、ひなは欠席した。どうやら風邪を引いてしまったようだ。当然だが、会議も欠席である。委員長と副委員長が欠席ということで今日の会議は中止になった。
なので、俺は真っすぐ帰宅することにした。はずだった……。
「望月。話がある」
玄関で木崎先生に呼び止められてしまった。
「何ですか。俺、今日は見たいテレビがあるんですけど」
「そんなものは後で動画サイトで見ろ。いいからついてこい」
抵抗もむなしく俺は従うことになってしまった。
連れてこられたのは屋上だった。この学校の屋上は日当たりが悪く昼休みにいちゃつくカップルも一人飯のぼっちも寄り付かないらしい。(亜季斗談)
「何の用ですか?」
「藤堂からお前の噂は聞いているぞ」
おい、会話しろよ。なんだこいつデュエリストかよ。話って? ああ!
「ロクな噂じゃなさそうですね。どんなこと言ってました?」
「かなり有能だと言っていたぞ」
なんじゃそりゃ。
「俺は平凡な生徒ですし、藤堂先生の前でも特に変わったことはしてないですよ?」
「あいついわく、教師の勘。らしい」
何だそれ、あの先生の勘なんて胡散くさすぎるだろ。教室で官能小説読む先生だぞ…
「私は藤堂と長い付き合いだが、あいつの勘が外れたことは無い」
さいで。もう面倒だからそういうことにしておこう。
「本題に移ろう、お前も既に気づいているのだろう?」
「先生が美人だってことですか」
「言い忘れていたが私はこれでも空手の有段者だ」
怖っ! 脅し方露骨すぎるだろ!
「……実行委員の仕事が露骨に偏っている。しかも作為的に」
「その通りだ。流石、良い目をしているな」
「まさか、俺にそれを何とかしろって言うんじゃないでしょうね?」
「よく分かってるじゃないか」
おいおいマジかよ。真剣と書いてマジかよ。いや、それはガチだな。
「俺にメリットがありませんね。言っておきますが、俺は特別点やそれ関連のものには興味ありませんよ」
すると木崎先生は笑みを浮かべ、
「メリットは無い。だがこのままでは沢渡ひなは壊れるぞ。それはお前にとってデメリットではないのか?」
と言い放った。
俺は返答に詰まる。
「言い忘れていたが私はこれでも柔道の有段者だ」
追い打ち怖すぎだろ
「……わかりましたよ。あまり期待はしないでくださいね」
そう答えるしかないだろう。最悪、この場で技をかけられる可能性もあったし。
「ところで先生」
「なんだ?」
「今の光景、全部あの監視カメラに映ってるんじゃないですか?」
俺は屋上のドアの上を指さす。そこには監視カメラがあった。
「残念だが、その監視カメラは作動していない。人員不足で管理する者がいないのでな」
ちくせう……。
「じゃあ、カメラが壊れてたりするわけではないんですね?」
「そうだな。もっとも、無駄に高性能でお前には操作できんだろうがな」
さっき俺の事、有能とか言ってなかった?
「じゃあ用が終わったなら帰りますよ」
「それにしてもお前は変わっているな。普通なら特別点を要求されても文句は言えないほどの依頼なのだがな」
だから会話しろって…
「会議中にニヤニヤしながら官能小説を読んでる人ほど変わってませんよ。俺は」
そう言って俺は屋上を後にした。
そして数日後、ひなは学校に来た。風邪は完治していないようだが、会議にも参加している。だが、明らかにおかしい。きちんと割り振った仕事は遅れているし、何より、士気が下がっている。井川が発言したりすることでなんとか保たれている、といったところだろうか。
「はあ…だるい…」
そう言いながら、俺は目の前に積まれた資料の内容をパソコンに打ち込んでいる。コンピューター室はエアコンも付いており、かなり良い環境ではある。
だが、環境が良いのと仕事の量は無関係だ。何故、俺がこんなに仕事しているかと言うと、俺とひなが同じクラスで仲が良いという建前で、ひなに流れてくるはずの仕事を押し付けられているからだ。だが、別に俺は仕事ができるわけでもパソコンが得意なわけでもない。そのため、まだ全体の半分も終わっていなかった。
「あれ、望月じゃん」
名前を呼ばれたので振り向くと、そこには分厚い本を持ったしおりがいた。
「何してんの?こんな時間まで」
「実行委員の仕事だ。お前は?」
「まあ…勉強」
そのための本ってわけね。何の本かは知らんけど。
「さいで。……くそ、このファイル開かねえな…」
何をやっても開かない。これは詰んだか? まだ半分もやってないんだけどな…。
「どれ?見せてみなさいよ」
そういってしおりは俺を押しのけパソコンを触りだした。
「あーこれね。これはこうしてっと……はい、開いたわよ」
画面を見るとファイルの中身が表示されていた。なにこれ怖い。
「すげえなしおり。お前パソコン得意なのか?」
「まあ一応ね。今日もその勉強に来たわけだし」
そう言って俺に本の表紙を見せる。『プログラミング応用論 テンペスト攻撃について』と書かれていた。なるほど、解らん。
「ひょっとしてハッキングとかもできちゃうのか?」
冗談半分で聞いてみるとしおりは真面目な顔で、
「ある程度ならね」
と言ってきた。すごいな、異世界の進学校……。
「それ、手伝おうか?」
しおりは俺の前の資料を指さした。
「いや、でもお前勉強しに来たんだろ?悪いよ」
「別にいいって。見た感じ、捗ってないみたいだし」
そこを突かれると痛いな…俺は素直に助けてもらうことにした。
速い。それにしても速い。何が速いってしおりの作業が。
もう半分も終わっている。もう、こいつが実行委員で良くね?
「てか、上級生は何してんのよ。こういうときこそ腕の見せ所なんじゃないの?」
作業をしながらしおりは問いかけてきた。
「上級生は動かないだろうな」
「どういうこと?」
しおりは作業を止め、俺の方を向いた。
「考えられる理由は二つ。一つは上級生も一年生の実力を測っている可能性。もう一つは発言力の無い上級生が集められている可能性。どちらかだろう」
「一つ目は分かるけど、もう一つはどういうこと?」
しおりは首をかしげる。
「体育祭実行委員は例年、一年生の実力を測るために開かれる。つまり裏を返せば二、三年生の実力を測る場ではないってことだ」
しおりはまだ分からないようなので説明を続ける。
「つまり、上級生の委員はクラスでも成績の低い2名が選ばれるってことだ」
実際、上級生たちの働きはとても進学校のエリートのものには見えないし、彼らからは負の感情が読み取れた。
「あんた本当に鋭いわね…本当に何者よ…」
しおりは目を丸くしている。
「話は変わるが、亜季斗って他のクラスでも有名だったりするか?」
「何よ、突然。まあ委員長は有名だと思う。良くも悪くも。クラスで目立つ人は大体、外でも目立ってるかな。」
「そうか……おっと喋りすぎたな」
作業再開。
30分後。作業は全て終わった。
「おお…すげえ…」
「大げさね、私にかかればこんなものよ」
しおりは得意気だ。そりゃあもう凄い働きだったからな。
「じゃあ私は行くね。そろそろバイトだから」
そういってしおりは荷物を片付ける。
「なあ」
「何?」
「何で手伝ってくれたんだ?」
そう聞くとしおりは笑顔で、
「友達だからに決まってるじゃん」
と言った。その言葉に迷いは無かった。
「また力を借りるかもしれん。そのときはよろしく頼む」
「はいはい。」
しおりはそう言ってバイトへ向かった。
9.5 ――だからこそ、望月武哉は考える――
「ピースは揃ったな」
帰り道、そう言いながら俺は考えていた。
今持っているピースを繋ぎ合わせれば、体育祭実行委員を成功に導ける。
木崎先生からの依頼の解決も、俺の目標の達成も、ひなの救済もすべて片付くだろう。
だが、俺の中には一つの不安があった。
『また、失うんじゃないだろうか』
俺の行動によって救われる者は多いだろう。だが俺はまた、全てを失ってしまうのではないだろうか。あのときのように。
俺の動く理由はなんだ?
瑠璃は言った。ひなのために動くのは『友達だから』だと。
しおりは同じ理由で俺を助けてくれた。
木崎先生は、ひなが壊れるのは俺にとってデメリットではないかと言った。
では、俺は。
俺はどうするべきだ?
俺はどうしたい?
考えたのち、俺はある人物に電話をかけた。
次回予告
武哉「体育祭準備編もそろそろ終わりか―」
瑠璃「木崎先生の依頼とか、ひなの誤解とか何も解決してないように見えるけど、きっともっちーがなんとかするんだろうね♪」
武哉「それは解らんが、作者は準備編の後に本番編を予定しているらしいぞ」
瑠璃「体育祭引っ張るねー。もうネタ切れなのかな?」
武哉「作者の中では文化祭とかクリスマスも考えてるみたいだけどな」
瑠璃「それまで続くといいけどね」
武哉「次回『解決』」
瑠璃「お楽しみに♪」